最上川万能説さま、ご報告ありがとうございます!
「これより模擬戦闘の講評に移る。所属の別、階級の上下に憚ることなく、忌憚なく発言するように」
キマイラを中心としたペズンの面々を流し見ながら告げたイワンの許しに頷きつつ、全員が正面のスクリーンに視線を向けた。
既にして模擬戦闘訓練は終了し、全員着席していたものの、ジョニーを含めたキマイラ隊の全員が
未だ周囲の大人たちの影すら踏めぬ子供であることは重々自覚していたものの、だからこそその背に喰らいつきたい一心で、この場にいるのだから。
「今回、ジャコビアス・ノード中尉の立ち回りは実に見事だった。同方向からの中距離射手に合わせての狙撃は、私も誤認
しかけた、というだけで騙せた訳ではない。しかし、確認までに要した数秒の時間は狙撃位置の変更に始まり、包囲輪を築いてイワンを仕留めるキマイラ隊の陣形形成に掛ける時間を確保したと言う意味において、正しく勲一等と賞すべき手柄であったことに疑義を挟む余地はなかった。
“とはいえ、公国最高峰の狙撃手が初弾を見切られ続けてるって事実は重いでしょうけどね”
必中の念や殺意といったものを込めれば込めるほど、ニュータイプという奴は敏感にそれを察知してしまう。機械が
並の相手どころか、エースでさえ初見では為す術なく屍を晒すであろうに、その悉くを回避されるか、或いは無力化されることで潰されて続けたジャコビアスとしては、どのような賛辞を呈されたところで無意味だろう。
それこそ、自分自身の手で屠ってこそと──それはジャコビアスだけでなくこの場に集う全員の欲求であることは間違いないが、今回は皆の空気が高揚しているのがイングリッドにも無言の内に伝わってきていた。
実際の訓練で各々が目視していた
開始から二分でキマイラが二機撃墜。しかし友軍の撃墜を無駄死ににさせず、布石として有効活用すべく飽和攻撃の有効射程圏まで包囲環の縮小に成功。
四分でイワン機の
擦過すら十分な余裕をもって回避を選んできたこれまでの模擬戦闘と異なり、有効打でさえなければ良いと突貫してきたイワン機に対し、刹那の動揺さえ見せずキマイラは粛々と射殺すべく動くことを止めなかった。
元よりキマイラの全員が欲していたのは合格でなく勝利であり、自らの手で引導を渡してくれると全員が心に決めていた。
長官なら長官らしく泰然と構え、後方の椅子を尻で磨いていれば良い。
艶やかな金モールの御仕着せに相応しくなるよう、負けて引っ込んでしまえという不敬を隠しもせず張られた弾幕と砲火の爆風は、竜巻の中に身を投じるかのような心地であっただろうに、イワン機はそれを避けながら、包囲環を崩して半数以上をその手にかけ──開始から一三分、遂にその時がやってきた。
両脚部への被弾が三……この有効打を以て機動力を削がれ、ジョニーを含む生き残りが飽和攻撃を完遂したことで、遂にイワン機を討ち取ったのだ。
「脱帽だ。キマイラ隊諸君に心より敬意を表し、次回から私は高機動型を使用する。
──次は私が勝つ。必ずだ」
「……っ!」
歓喜、興奮、熱意……総身が粟立ち、脳を突き抜けるような電流が全員に走る。誰の目にも、「やっとだ」という想いが炎となって宿っていた。
何の手も加えられていない量産機ではない。専用機には遠くとも自分達と同じ機体で挑んでやるという言葉に込められた意味は、何処までも深く重いものだ。
子守のように面倒を見るのでなく、赤子の手を捻るように淡々と処理するのでもない。正真正銘の、自分を脅かす
キマイラが一方的に向けるものだった皮膚を喰い破り、骨を砕かんとする視線を、あのイワン・ヨークが自分達に叩きつけているのだという事実。
手も足も出ることなく弄ばれ続けた怪物からの挑戦状……それは最早、肉体的快楽にも等しいものだった。
“ただ……ねぇ……”
後学の為、イングリッドらと同席していたマレットの殺意にも似た敵意を真横で感じ続けるのは流石に堪えた。
これだから、ニュータイプという奴は生き辛いのだ。分かり合えると言えば聞こえは良いが、感じ取れる範囲であれば殺意だの敵意だのと言うものを否が応でも拾ってしまうし、それをシャットアウトすることさえできないのだから。
“いやホント、なんで
間違いなく肌で感じるどころか、大音量で剥き出しの敵意を浴び続けているだろうに、淡々と模擬戦闘後の講評を続けていられる肝の太さには関心すら覚える。
敵意自体はキマイラ隊で慣れたものだとしても、ここまで露骨に矢印が飛んでいては、多少は表情に変化があっても良いだろうに、あろうことか完全に無視を決め込んでいやがるのだ。肝が
「ストリーム少尉。貴官は我々の模擬戦をどう見た?」
「長官はキマイラ隊を常に試しておられるように感じました。その上で戦場での殺害優先度とは別に、敢えてミスのあった隊員から撃墜していたと自信を持って言えます」
“うわ。本当に容赦なくぶっちゃけたわね、このお坊ちゃん”
フィーリウス・ストリーム……少尉の階級こそいただいているものの、その背格好はユーマと大差ない。中性的な愛らしい童顔や艶やかな黒髪が、異性のみならず同性さえ振り向かせるような魅力に満ちた美少年であったが、固い口調や引き締まった目元が、可憐さより凛々しさを強調している。
歯に衣着せぬ物言いはある意味年相応と言えばそうだが、駄目な奴から先に墜とされたのだと堂々と主張できる胆力は、事実であっても中々口に出来ないものだ。
「初観戦で、そこに気付けたのは流石だな」
そう口を開いたのは、イワンでなくジョニーである。敢えて注目を買って出たのは、そうすることで苛立ちの表情を隠し切れていなかったトーマス・クルツ中尉から周囲の目を逸らす意味合いがあったことと、何より事実を事実として隊長自らが認め、受け止めねばならないと判断したからだ。
「クルツ中尉達が血気に逸ったのは、俺の指揮の拙さが一因でもある」
部隊という群れを統率する以上、個々人の動き方や性質は十全に把握して然るべきであるし、そこを踏まえて配置と攻撃指示を送ることも全体を把握する隊長の勤めである。
その点を踏まえるなら、血気盛んな隊員の動き方というものを予測できていながら、敢えて「痛い目を見て覚えておけ」と見逃したのは、間違いなくジョニーの過失であった。
模擬戦だから、訓練だからというのは言い訳にもならない。これが実戦であれば、貴重なエースが早々に戦死していたのだから。
「……ジョニーよぉ、そいつはクセェだろ? 俺だってヘマした自覚はあるんだ。ああ糞、そこの坊ちゃん少尉の言う通りだよ。俺のミスで包囲環が一旦崩れたし、それでサカイ大尉も深手を負って、大尉の撃墜にも繋がった」
自分だけの死ならば幾らでも流してやるところだが、それで友軍を巻き込んだことは、我の強いトーマスとしても受け止めねばならないものだった。
仮にそれを認めねば、イワンから徹底的に絞られるだろうことが予想できていたからだとしても、自分自身で認められない程阿呆ではないのだ。
「ではクルツ中尉、貴官はどう立ち回るべきだったかね?」
「弾幕を張るタイミングを僚機と合わせつつ、ポジションを変更……小官が被弾する三秒前にはそれを完了させた上で、他の支援機と合わせて小官のザク・キャノンのキャノン砲で長官のセンサーと視覚を潰すべきでした」
「満点だ。そうさせぬよう、次回は中尉の動きを特に注視しておくぞ」
ち。言うんじゃなかったと舌打つトーマスだが、本気ではないことは好戦的な目元と、何より口にしたイワンの口元が喜色に弧を描いていたことからも明らかだ。
満点と言うのは、本当にそうされれば自分が危うかったという掛け値なしの評価であり、だからこそどちらも互角の鍔迫り合いを心から望んで止まない。
次はもっと上手くやれると意気込むトーマスの熱意をイワンは上官として嬉しく思うし、易々とは越えられたくないという男らしいプライドもあるからこそ、そうした表情をイワンは見せていた。
──その成長を嬉しく思うと。
心からのそれは、部下を、兵を消耗品としては決して見ない、敬されるべき上官としての本心だった。
◇
「どうかね? 我らが長官の姿は」
「戦勝祝賀会の時とは別人です」
だろうね、と。戸惑いを隠せぬフィーリウスに微笑むのは、エリック・マンスフィールド特務中佐である。
エリックもまたフィーリウスやジョニーに負け劣らぬ麗貌であったが、色香の薫るとでも言うべきなのだろうか? 先に挙げたどちらともタイプの異なる、軍装より礼服が似合うタイプの美男であった。
公国軍のプロパガンダは貴顕たる出自も兼ね、ジョニーを絶えず貴公子と持て囃しているものの、顔の造形で言えば、むしろエリックの方が貴公子の評には相応しいだろう。
「戦勝祝賀会の時の長官は、触れれば破裂しそうなほどに張り詰めていた……だが、今は違う」
原因は言うまでもなく、
名家たるストリーム家の嫡男として一週間戦争の戦勝祝賀会に招かれた際にも、貴族としてイワンと顔を繋いではいたが、こうして再会すると、祝賀会で会ったのは影武者だったのではないかと疑いたくなった程だ。
「だが、牙が丸くなった訳ではない。むしろ逆だ」
「戦時故に気を抜くことは決してないが、それでも長官の心には僅かながらの隙間が出来た。焦燥、不安……そうしたものに揺さぶられても破裂しない、心に必要なゆとりがね」
「キマイラ隊との模擬戦闘の立ち回りからも、それは重々承知しています」
だからこそ声に、思わず握り締めた操縦桿に、知らず熱が入ってしまう。
「うん。君の期待も、興奮も手に取るように分かるよ」
ストリーム家の嫡男として、栄えある『総帥の子供』の筆頭としてだけではない。
一人のパイロットとして、男としてフィーリウスはここにやって来た。
認められた才に驕ることなく精進し、研鑽を重ね、ペズンの一員として実験機さえ与えられた。その栄誉、その期待に応える為に全霊を尽くさんと意気込んだ両手に、そっとエリックが手を添えて囁く。
「力を抜くんだ。君と、君のギャンなら満足してくれるだろう──長官の試験専用機、アクト・ザクの相手としてね」
◇
『良い腕だ』
「……っ、光栄、ですっ!」
ミノフスキー粒子が散布されていない戦闘訓練下である以上、離れていても通信は問題ないが、たとえ粒子散布化であっても問題なくモニターにイワンの顔が映し出されていただろう──何しろ今、彼我の距離はゼロに等しいのだから。
“近接戦闘特化型のギャン相手に白兵戦の、それも短期決戦なんて……!”
第二期主力MS開発計画に則り用意された、対MS戦闘を主軸に開発された白兵戦闘試作機たるYMS-15〈ギャン〉の運動性能に対し、イワンの駆るMS-11〈アクト・ザク〉は稼働摩擦面の摩擦抵抗を磁気コーティングによって軽減させるマグネット・コーティングや従来のMSと異なるフィールド・モーターの採用など、駆動速度の向上を主として最新技術を惜しみなく注ぎ込んでいるものの、その動作は決して安定しているとは言い難い。
何しろ今日という日までアクト・ザクのテスト・パイロットとして運転していたのは、他ならぬフィーリウスなのだ。
アクト・ザクの悍馬ぶりも、その不安定さも性能以上に十分に把握できている。間違ってもギャン相手に白兵戦などできる域には達していない、完成には程遠い機体の筈なのに。
“
刃圏にありながら躱される。ギャンの刺突も、斬撃の網も、全てが華麗とさえ評すべき動きですり抜けてしまうか、或いは自機の訓練用ロッドを、アクト・ザクのロッドが弾いてしまう。さながらフェンシングにも似た攻防は、当事者でなければフィーリウスとて感嘆の吐息を漏らしただろうが、こうまで容易くあしらわれてプライドが傷つかない筈がない。
“キマイラが躍起になる筈だ。倒したいと、打ち負かしたいと急く筈だ”
もうフィーリウスは、トーマスのミスを下には見れない。仮に自分があの戦いの参加していれば、あれ以上のミスを犯し、仲間に看過できない被害をもたらしただろう。
この相手に、高みから見下ろす怪物に一矢報いたいと思わずして、どうして公国軍人を名乗れよう?
“せめて、盾が使えたなら”
左手にはミサイルを搭載した円形のシールドも保持していたが、こちらは間合いに踏み込む以前に肘関節をアクト・ザクの四連装マシンガンに破壊されており、自動的に手放す羽目になってしまった。
勿論、今回の模擬戦闘が白兵戦を主として行うのは互いに織り込み済みだったことではあるものの、可能な限り実戦面でのデータを取ることも目的であったため、敢えて盾を潰すという行為もイワンにとっては必要だった。
“こちらは、そうさせない為に牽制目的のミサイルを放っていたというのに!”
あろうことか、その全てを
それも、脅威だと感じたからでなく、アクト・ザクとその武装で、どの程度できるのかという確認のためだけに!
“……遊ばれている……いや、試している”
フィーリウスを、ではない。アクト・ザクと、ギャンをだ。
大多数のパイロットが運用するMSが、ロボットとしてのぎこちなさを消し切れない中、甲冑を纏う人間のように、否、それ以上の機敏さで以て攻勢に出るギャンの駆動系もさるものながら、ここまで滑らかな動作を可能にしたのは、姿勢制御を始めとした駆動ソフトウェアのスクリプトを書き込み、機体にマッチングさせたシステム・エンジニア──メイ・カーウィンの非凡さにあると言っていい。
“僕が、もっと強ければ……これが、マンスフィールド特務中佐なら”
もっと、このギャンを使いこなせただろう。アクト・ザクを駆るイワンの背筋に汗を掻かせることさえできた筈なのだ。
『焦り過ぎだ』
しかし、そうした焦燥を読み取ってか、仕切り直しだと言わんばかりにアクト・ザクの前蹴りがギャンの胸部に完璧に入った。
「ぐっ」
衝撃と共に、肺腑から息と一緒に苦悶の声が漏れたものの、痛みは左程でもない。
訓練なのだから当然だが、明らかに手を抜いていた。実戦を想定して蹴り抜いたなら、間違いなく安全装置が作動してコクピットの破壊判定が宣告され、機体機能が停止していた筈なのだ。
「僕は、貴方の敵になり得ませんか……?」
だから。思わず口にすべきでない私語が出た。彼我の実力差は決定的で、経験一つとってもイワンが抜きん出ている。決して並び立てるような相手でないことは、他ならぬフィーリウス自身が一番理解している筈だと言うのに……。
『なれるとも』
今はまだ幼くとも、いずれなれる。必ず自分を脅かす男になれるという激励は、決して慰めからではなかった。
『構え給え──特務中佐に近付く為に』
敬する
「はいッ」
同じ動作の刀礼。しかし、機体性能の差であろうか。ギャンの動きは滑らかで、アクト・ザクのそれはやや腕が流れていた。
わざとではあるまい。どれだけイワンが強かろうと、機体そのものが示す限界は必ず存在するのだから。
“今はまだ、長官に勝てなくても。エリック様の背を、見ることしかできない子供でも”
いつか必ず、追い抜いて見せる。ペズンに集う全てのパイロットと同じく、フィーリウスもまたイワンにその思いを叩きつけた。
『ほう』
放たれた一閃。閃光を思わせる刺突もそうだが、何よりそこから次の動作が良い。必殺の意気込みを持って放ちつつも、冷静にアクト・ザクにとっての最適な回避運動を読んだ上で、それを潰すよう二手三手と斬撃を放って来る。
虚実入り混じる斬撃は、アクト・ザクを周到に詰みまで持って行く為の布石だ。回避に徹し続ければ逃げられる範囲は狭まり、やがて止めの一突きが
軽く、払うような小さな動き。アクト・ザクの手にしたロッドの先端が描いた小さな弧。それがギャンのロッドを巻き込み、掬い、しかし次の瞬間には手首ごと持って行った。いや、正確には持っていくのが分かったというだけ。
ビームや放熱刀身の類でなく、センサーが組み込まれた唯の棒に過ぎない以上、警告音と共に動作の停止を告げられたに過ぎない。
しかし、それだけで十分だった。
「──参りました」
静かに発したフィーリウスの投了は、しかし清々しいものだった。
◇
「感想は?」
「……自分の弱点が
だが、イワンはその弱点を突くことを決してしなかった。フィーリウスという体の完成していない十代の少年に合わせ、ギャンとアクト・ザクの双方を短期決戦で締め括ったのだ。
「私から見ても、仕切り直しからの動きは見事だった」
ギャンは完成して間もない。事前に機体性能を完璧に反映されたシミュレータでの訓練は行っていたし、慣熟飛行にも日数を割きはしたが、アクト・ザクと比すれば雲泥の差であったのは当然だ。
「カーウィン技術中佐も、満足の行くデータが取れたと笑っていたしね」
「技術中佐の浮かれようが想像できますね」
天才少女が満面の笑顔でデータを解析している姿が脳裏に浮かび、思わず苦笑したが、エリックは「君にとっても他人ごとではないよ?」と返す。
「君の耐G適性はニュータイプのそれと遜色ないからね。ギャンのデータを基に、
「……耐G機能を有した、新型コクピットの完成に備えてですね」
正史における
それこそ、熟練者に限定する形で脱出機構を簡略化した、正史で正式採用された球体コクピットの採用を大真面目に議論している程度には開発が難航しているのだ。
それならばニュータイプやそれに近しい耐G適性持ちに限定する形で、
勿論優先すべきはザクⅡに代わる次期主力量産機であるのだが、そちらは既に目途がついており、ひと月もすればロールアウトまで漕ぎ着けられるというのだから、公国技術陣の英邁ぶりには頭が下がる思いだった。
“カーウィン技術中佐達にとっては、ギャンもアクト・ザクも本来の仕事の合間に行う趣味であり、余暇のようなものなのだろうな”
持てる技と才の全てを注ぎ込みながら、他者の想像の一歩も二歩も先を行く天才達……その恩恵を与かるフィーリウス然りキマイラ然り、特殊な立ち位置にあることは自覚しているものの、だからこそ彼女たちのように、齢に拘泥せず登用されたことはフィーリウスには喜ばしかった。
たとえそれが、人材不足に喘ぐ公国にとっての苦渋の選択に過ぎないのだと自覚していても、真に必要とされる時代を前に、指を咥えて見ていることしかできない現実を直視し続けなくてはならない方が、フィーリウスには耐え難いものであったから。
「良い子だ。そんな君だからこそ、教えがいも育てがいもあるものだ」
そっと。労うように髪を撫でてくれたエリックに、思わずフィーリウスの頬が羞恥で赤らむ。こんな風に、子供として扱われることに不満が無い訳ではない。
優しい言葉より、触れ合う温かさより、本当は隣に並び立ちたいと。同じ目線で戦場に赴きたいという気持ちがあるから。
一人の男として、自分の力を信じて欲しかったから。
“……なのに、こうされることを、受け入れてしまう自分自身が腹立たしい”
本当は……、分かっている。この気持ちも、思いも、全てがそう
“それでも、嬉しかった……この人が、僕を真っ直ぐに見つめてくれることが”
ストリーム家の跡継ぎだからではない。フィーリウスという一人の少年を見つめ、その努力を認め、誠実に将来を楽しんでくれること。
それは、邸の中で多くの者が自分に仕えることを当然の世界として見て来た少年にとって、何より特別で新鮮なことで──
『──君の才を伸ばしたい』
そう言って差し伸べてくれた手の温もりも、大きさも。その時に見せた年相応の自分の顔もすぐに思い出せてしまって、だからこそ一層気恥ずかしくなってしまう。
“それがどんなに、大人の打算に満ちたものだとしても……この向けられた微笑みの中の、ひと欠片でも本当の心があるのなら……”
求められる喜びを抑えることができず、自分はそれに、騙されても良いのだと思って……そんな裡をどこまで見透かしているのだろうか?
フィーリウスを微笑まし気に見つめる表情を崩さぬまま、エリックは敢えて
翻るマントは何処までも優雅に。何人が相手であったとしても決して動じぬというその姿勢こそ、フィーリウスが憧れた大人の姿そのものだった。
「君は長官を満足させてくれた。なら私は、長官に満足以上の
涼し気な顔が、柔らかな目元が戦士のそれへと静かに変わる。
キマイラが、マレットが、そしてフィーリウスがそうであったように、エリックもまた志高い公国の武人だという事なのだろう。
口にした苦戦など生温い──勝利の二文字以外、己を飾るに相応しい言葉は存在しないのだと、その両眼は鬼火のような、静かな火が灯っていた。
ギレン暗殺計画最終巻の女装フィーリウス君を見て、この男の娘をエリック様相手にメス堕ちさせてぇなぁ……! とか、腐ったことを何十回も考えてました(唐突な性癖暴露)
あ。流石に個人の性癖なので、この作品で本格的なBLをやったりはしませんのでご安心ください。
精々今話でやったぐらいのスキンシップが限度です。
(読者様が「もっとやれ」とか言わない限りは、ねw)
トーマス・クルツ中尉は媒体によって容姿や性格がかなり変わるキャラクターなのですが、本作では『虹霓のシン・マツナガ』と『ギレンの野望』を足した感じで書いてます。