宇宙(そら)に掲ぐ旗の名は   作:c.m.

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 機動戦士Gundam GquuuuuuX 語りたいけど、地上波放送するまで語れないンゴ……。

※加筆したので改訂版とタイトルにつけました。
 具体的には、旧ダイクン派のクーデターの理由に、ラプラスの箱が加わっているという内容です。

※2025/1/30誤字修正。
 路徳さま、ご報告ありがとうございます!


71 宗教という麻薬〈改訂版〉

 やろうと思えばどのような環境にも設定できるコロニー内でも、四季というものは存在する。

 宇宙移民(スペースノイド)が地球環境を忘れぬようにする為の措置であると同時に、人というものの適応能力を損なわぬようにするためだ。

 

「今日は一段と冷えるわね」

 

 コートの襟を立たせるニアーライトの所作は、しかし場を和ませる為のものだとレオポルドも弁えている。

 確かに指先が()()()()ほどに冷えはしたが、頬が痛んだり髪が凍るほどでもないのだ。公安部に属する人間が、この程度の寒波に泣きを入れるなど有り得ぬことだった。

 ただ……慣れてきたつもりであっても、ニアーライトの所作にどのような表情を作るべきか、レオポルドは未だ定めかねていた。

 所作や口調こそ完全に女のそれであったニアーライトだが、生物学的には純然たる男だ。

 顔立ちにしたところで短い銀髪に切れ者らしい鋭い眼光と言う如何にもハードボイルドで通りそうな顔立ちだと言うのに、言動が外見を完全に裏切ってしまっていた。

 勿論それで周囲が実害を被ったことは一度としてないのだから、あくまでニアーライトの一個性として受け入れねばなるまいということは、レオポルドも重々承知するところではあったのだが。

 

「……で? 何処()()知ってる訳?」

 

 正確には、何処()()情報を得たのかと問いたいのだろう。肩を竦めつつ「ご推察の通りです」と打ち明ければ、軽い舌打ちが乾いた空気に響いた。

 

「完全にお上の争いね……保安隊時代に逆戻りじゃない」

 

 ジンバ・ラルとローデルシア一派が、連邦と密約を交わしてダイクンを暗殺し、遺児を拉致しようと画策していた事件は、この道のベテランであるニアーライトの記憶にも未だ新しい。

当時学徒であったレオポルドにとっても、動乱の記憶は焼き付いている。

 

「先輩は、その頃何を?」

「駆け出しの保安隊員よ。不謹慎かもしれないけど、あの頃は楽しかったわ」

 

 ちょっとした思い出話を開帳するのには良い機会だろう。

 先輩の昔話に付き合いなさいなと、用意していた缶コーヒーを渡して続ける。

 

「あたしね。今でこそエリートだけど、生まれ育ちはひっどいもんだったのよ」

 

 サイド国家としては先進国に位置するサイド3でも、上下格差は存在する。今でこそ裏通りを含めて大規模に()()され、セーフネットの確立によって貧富格差は改善されたが、ムンゾ時代ともなれば、相応の悲劇に見舞われる者は何処にでも居たものだ。

 

「それでも、この国は教育だけはしっかり受けさせてくれたわ」

 

 たとえそれが慢性的な人材不足という国家の窮状からくるものだったとしても、機会が与えられたことに変わりはない。

 

「あたしとあたしの同類にとって、間違いなく唯一のチャンスだった」

 

 自分が優秀だと、エリートだと証明さえできれば出自を覆せる。どれだけ生まれ育ちが悪かろうと、実力一つで全てを変えることが出来る。

 

「あたしみたいな奴ほど必死だった。誰かを蹴落として這い上がって、家柄を鼻にかける奴を追い抜いた時なんか、これ以上ないぐらい快感だった……ホント、()な男だったわ」

「それは……」

 

 正直に言って意外だった。レオポルドの知るニアーライトは時折皮肉こそ口にはしても、これ以上ないほど面倒見のいい捜査官として周囲に慕われ、尊敬される人柄だったから。

 

「ふふっ、でもね。そんなあたしを諭してくれた男性(ひと)が居たの」

 

 誰だと思う? と笑う仕草は恋する女性そのものだが、答え合わせをする前に、ニアーライトは続けた。

 

「その人は、本当にあたしのことを見てくれた。仕事ぶりだけじゃなくて、あたしっていう人間そのものをよ」

 

 防衛隊と二足の草鞋を履いて、誰が見たってパンクしそうな仕事を淡々とこなしてるように見せて、目元の隈だって凄いのに、全然疲れたように振舞うことはしなかった。

 

「誰にだって、どんな時だって、その人は自分を頼って欲しいって顔してたわ。自分がいるから大丈夫だって背中で語って、本当に皆の為に働く人だった」

 

 そんな男を、けれどニアーライトは心の奥底で馬鹿にしていた。

 自分のキャリアを重ねるのは分かる。

 周囲から尊敬されようとするのも分かる。

 だが、抱える必要のないものまで抱えて、手を貸す必要なんて見出せないような人間にまで、手を差し伸べるなんてどうかしているとしか思えない。

 

「黙って自分の仕事だけこなしてたら、結果なんて幾らでも付いてくるのに、何で余計なことまでするのか、あの時のあたしには分からなかったわ」

 

 勿論、今は違う。どれだけ労が多く、功の少ない仕事であったとしても、それが無為でないことをニアーライトは弁えている。助け合い、支え合うことの意味と尊さを理解できている。

 だが、当時はそうではなかった。

 

「ミスも失敗もそいつのせいで、くたばるのは自業自得。だからあたしはヘマなんかしないって誓ってた……でもね、それじゃあ駄目だったのよ」

 

 どれだけ優秀であったとしても、どれだけの努力を重ねていたとしても、人生の何処かで、必ずと言って良いほど窮地に陥ってしまう時が来る。

 その時に手を差し伸べてくれる誰かが居るかどうかは、運の一言に尽きるだろうが、少なくとも確率を上げることは出来るのだと、全身に鉛玉が埋まりかけた日に助けてくれた相手は、ニアーライトに諭してくれた。

 

「そん時のあたしは酷かったわ。『自分が優秀だから、代えが利かない人材だから助けてくれたに違いない』って、そんな風に思ってた……だけど、その人はあたし以外も数えきれないほど助けてくれた」

 

 ニアーライトが特別だったからではない。エリートだからなどと言う理由ではない。

 かといって、誰でも良かった訳でもなかった筈だ。この手の仕事は何時だって、命の選択を迫られる。助けられる命とそうでない命の天秤をかけて、動くことを求められてしまう仕事なのだから。

 

「……だから聞いたわ。なんで助けてくれたの? そしたらその男性(ひと)は言ったの。『貴官には誠実であることの重みを知って欲しかったのだ』って」

 

 そうすれば、ニアーライトは変わることができるから。

 もっと広い視野で、世界を見ることができるから。

 自分が去る時にも、次に託すことができる人間になれるから。

 

「あたし達の仕事は、あたし達だけじゃ片付けられない。終わりがない仕事だからこそ、一人でも多く託せる人間を残さなきゃいけない」

 

 だからこそニアーライトはかつての教訓を、この新米捜査官(レオポルド)に伝えている。

 

「状況に流されて大きな事件に係わっちゃったけど、貴方はまだ、色んなことを覚えて学んでいく立場の人間よ」

 

 ましてや今回の仕事はきな臭く、何処に落とし穴があるか全く読めない。

 新米が踏み込む域を明らかに逸脱した案件だ。

 

「防衛師団と親衛隊の確執だの、縄張り争いだののお上の思惑は一旦置いきなさい。あたし達の仕事は連邦を追うことであって、内輪揉めに加担することじゃないんだから」

 

 刑事ドラマの主人公を気取った日には、決して碌な目に遭わないだろう。 

 この手の暗闘は常に敵味方が入り乱れ、錯綜する情報は常に嘘と真実が綯い交ぜになっている。正しい答えの全てを選び、神の視点から全体を見渡すことは、決して適わない。

 だからこそ、ニアーライトは釘を刺す。

 やれることをやるべきだと。

 自分の手足で稼いだ情報を、常に客観的に精査し続けろと。

 

“あたしの時みたいに、絶対に正しいって確信できる道筋に手を引いてくれる人は、もう本国に居ないもの”

 

 保安隊時代には、そんな人物が一人だけ居た。惑わず乱れず、透徹した視点と貫徹した意志によって悪意と陰謀を粉砕した男性(ひと)

 当時は怪物などと畏れられず、人民の盾という温かな称号と、純粋な崇敬を民衆から勝ち得ていた副隊長は、もうズム・シティ(ここ)に居なくて──

 

“──だからあたしが、やれる限り貴方を護って上げるわ”

 

 あの男性(ひと)のように、完璧とは行かないだろう。

 何もかもが手探りで、迷うことも、惑うことも多いだろう。

 

 もしかしたら、突然離れ離れになってしまうかもしれない。

 公安捜査官としてでなく、()()()()の役割を果たす日は、何時だって唐突にやって来るから。

 

 それでもニアーライトは、自分を変えてくれた男性(ひと)に応えたいと想い続けている。助けてくれた恩人個人に対して報いるのでなく、恩人が示してくれた道を歩み、後輩達に肩を貸すことで、初めて返すことの出来る恩義なのだと信じているから。

 

「あたし達の相手は連邦よ。一筋縄じゃ決して行かない」

 

 苦難と混迷の真っ只中にある時代。歴史の当事者として動くことの感動は、その中に生きる人にとってはロマンチズムを感じる暇などない程に、自分達の人生を揺さぶってくる。

 

「生き残ったら奢って上げるわ。先ずは足で稼ぐわよ」

 

 昔ながらのやり方にレオポルドは思わず笑うが、ニアーライトが先導して背中を見せる前に、一つだけ問うておきたいことがあった。

 

「それで、その素敵な男性は誰なんですか?」

「秘密。全部片付いたら、その時は飲みながら教えてあげるわ」

 

 悪戯っぽく笑いつつ、弾む声で返してから今度こそ背を向ける。しかし、レオポルドの見えないところで作るニアーライトの表情には微かな心細さがあった。

 

“あたしにも出来るわよね? ヨーク長官”

 

 心中で呟く不安が、想う相手に届かない事は分かっている。

 それでも問うて、微かに上を見上げたのは今も宇宙(そら)で戦う男に向けての決意表明だ。

 

 何時だって、焦がれた男は前に進んでいたんだから。自分にとっての理想の男は、どんな時だって不安な顔一つしなかったんだから。

 

“あたしも、頑張るわ”

 

 この、可愛い後輩の為に。

 

 

     ◇

 

 

『ここからは化かし合いですね』

 

 何故ランス・ガーフィールドを動かして公安を巻き込み、徒に衆目を集める真似をしたのかとシュレッサーに問う真似は、通信相手である連邦軍からの連絡員もする気はない。

 公安にせよ公国軍にせよ、内部協力者は一定数存在する。

 そうした現地協力者の動きを取り易くする上でも、或いは逆にお上の対立構造を煽ることで公国側の動きを阻害する上でも、必要な措置だったということは重々承知していたからだ。

 

「『暗闘はそちらの十八番でしょう? ああいえ、ダイクン死亡からの流れを嘲っているのではありません』」

 

 あれはザビ家に隙が無かったのもあるが、何よりジンバ達の無能ぶりも酷かった。政治的関与のなかったシュレッサーをして、「あれはないだろう」と息を溢したのは一度や二度ではなかったものだ。

 

『……。確かにジンバ元首相や、ローデルシアの一件は我々にとっても痛恨事でした。当時の情報部は全て窓際に追いやられましたが、今は相応の者たちを揃えていると自負しております』

 

 何も知らぬ者がこの会話を耳にしていたなら、シュレッサーに対して疑念の声を上げただろう。

 ダイクン派の復権と、それを目標としてのジオン公国内でのクーデター……連邦に与する動機としては筋が通っているものの、本当に不倶戴天の敵と組むだけの理由になり得るのか?

 

 ダイクンを殺したのは、ザビ家だということを心から信じ切っているのか?

 地球連邦こそを、ダイクン暗殺の首謀者だと疑った日はなかったのか?

 

 そのような疑念を一度として浮かべぬまま連邦と握手を交わし、売国奴と詰られて然るべき行為に手を染めることを、本当によしとするのか?

 全ては旧ダイクン派の欺瞞工作に過ぎず、連邦工作員を一網打尽にする腹積もりではないのか? と。

 だが、連絡員も、その背後で備えるECOASやティターンズも弁えていた──旧ダイクン派(こいつら)は狂っているのだと。

 

旧ダイクン派(こいつら)の本質は軍人でなく、生粋の修道騎士だ”

 

 国家理性でも政治理念でもなく、己が教義に殉じる狂信者の集団。

 地球連邦との戦いを聖戦と銘打ち、今日まで戦い続けてきたものの、旧ダイクン派にとって聖戦の源泉にあるのは祖国愛や国民の庇護でもなく、苛烈な信仰心から来たものだ。

 

“全ての人類が進化することで、新たなステージを目指すこと……。

 ダイクンという教祖が掲げた未来が絶たれようとするなら死に物狂いで足掻きはするが、言い換えればジオン主義(ジオニズム)とそれに奉じる敬虔な信者さえ残るなら、後のことは()()()()()()のだろうよ”

 

 宗教の為なら国家という枠や国民さえ、自らの手で劫火に打ち捨てて()()()()死ぬことが出来る。

 ジオン主義(ジオニズム)という宗教の原理主義者にとってみれば、人類がニュータイプに至ろうとしてくれるのならば、どれだけ国家が衰退しようとも……たとえジオンという国家そのものが崩壊したとしても容易に受け入れてしまえる人種。

 それこそが狂信者という連中であり、宗教という阿片に狂った愚者の果てなのだ。

 

“そして、シュレッサーを筆頭とした旧ダイクン派という修道騎士にとって、国家や国民()()のものが教義(ジオニズム)の上に来ることは決してない”

 

 だから連絡員からの応えにも「大変結構」とシュレッサーは満足げに頷いて見せている。

 国家の浮沈など、まるで些事と言わんばかり。

 連邦と手を結んだ先の未来に、どのような結末が待ち受けているかは容易に想像がつくだろうに、シュレッサーの声音には公国の全てを一顧だにしない冷淡さが滲み出ていた。

 

“ゴップ閣下ではないが……それこそがジオンという『宗教国家』にとっての最大の弱点だったな”

 

 政治家としてはともかく思想家として、教祖としては間違いなく偉人であったジオン・ズム・ダイクンの威光に当てられてしまった哀れな信者と、信者達を危険視しつつも確保(プール)せざるを得なかったジオン首脳部という宗教国家の歪さが、連邦が付け入る隙となって表れた。

 

“そこに駄目押しとばかり『箱』の真実など渡されては、こいつらが飛び付かぬ方が嘘だろうよ”

 

『箱』の真実(なかみ)を知ってしまえば、「たったそれだけの……?」と思うやもしれない。

現にゴップも『箱』の価値を最大限悪用すべく旧ダイクン派に対しての釣り餌に用い、ダイクン派に情報を渡しはしたが、開戦前ならいざ知らず、連邦とジオンの一大戦争が勃発した今となっては、然程の価値もない代物だ。……だが、それでも。

 

“我々にとっては価値の薄れた代物でも、こいつらにとっては全く違う”

 

 ジオン・ズム・ダイクンとジオン主義(ジオニズム)……教祖と聖典が掲げた祈りと結びつける、特級の()()

『箱』に込められた善意の祈りは、託された願いは今となっては完全に毒と化しているし、だからこそザビ家は『箱』そのものを得ていても、未だ開示していない。

 

“しかし、旧ダイクン派(こいつら)はそれを解き放つ”

 

 時も場所も考えず、キャスバルという後継者が解き放てば再び信仰は蘇り、世界が動くと信じている。

ニュータイプという新人類の存在を、未来を現実のものとしたい旧ダイクン派は、ザビ家を殺してでも奪いたくて仕方ない筈だし、そう考えてリークしたゴップの読みは正しかった。

 現にこうして連邦と旧ダイクン派は手を取り合い、ザビ家の牙城を崩しにかかっているのだから。

 

“こんな狂信者共を生んだ宗教という猛毒には辟易するが……挙国一致の手段として、ダイクンのカリスマとジオン主義(ジオニズム)が、欠かさざるべきものだったのは確かだ”

 

 良くも悪くも、それなくしてジオン公国は成立しなかった。

 そうでなければ敢えてダイクンの名を国家や首都に掲げずとも、ザビ家王朝の正統性を主張する為に『ギレン公国』だの『ザビ公国』だのと名乗ってしまえば、余程分かり易かった筈だ。

 

“だが、現首脳部はそれを出来なかった”

 

 ジオン主義(ジオニズム)の影響力は計り知れず、ダイクンの存命時、そのカリスマに魂を灼かれた者たちは後を絶たなかった。

 そうした人間の熱意と狂奔あってこそ、彼らは建国という一大事業を短期間で成し得ることが出来たし、ジオンの名以外が国家を冠することは認められなかったのだ。

 

 宗教によって、彼らは克己心と自尊心を勝ち得、隷属の鎖を断ち切った。

 宗教によって、彼らは夢を夢で終わらせず、動き続けることが出来た。

 宗教によって、彼らは独立という幻想を現実に塗り替えた。

 

 現実の苦さを、立ち向かうべき強敵を、その後に待ち受ける困難を、宗教という阿片を鼻一杯に吸い込むことで、国民を麻痺させたからこそ今がある。

 

“どれだけダイクンが政治家として愚かだったとしても、国民を破滅に突き落とす三流以下の指導者だったとしても、全てを弁えた上で、ザビ家は死後もダイクンを利用するしかなかった”

 

 だからこそ、ザビ家はジオン主義(ジオニズム)を形骸化させる手段として、貴族趣味に興じたのだ。

 

“どれだけ豪奢な服を纏い、王と貴族を僭称しようが、連邦(われわれ)の目線では着飾った奴隷に過ぎず、滑稽の一語に尽きるが……全ては『必要だから』せざるを得なかったことなのだろうな”

 

 自分達は敬虔なジオン主義者(ジオニスト)であることを装いつつも、同時にジオン主義(ジオニズム)という麻薬を国民の身体から取り除くために、心の奥底では自分達が棄民であり、奴隷なのだという事実を弁えながら、国を挙げての『ごっこ遊び』に勤しんだ。

 現に貴族趣味が蔓延したことで、ダイクンの宗教は形骸化しつつあった事実を鑑みるならば、それは間違いなく巧妙かつ正答と称していいやり方ではあったのだ。

 

“だが、時間はジオンを待ってくれない。ジオンは最悪のタイミングで戦わざるを得なかった”

 

 ダイクンに魅せられてしまった世代が、今の公国軍を差配する地位に就く全盛期になっている。

 旧ダイクン派が佐官・将官として、或いは官吏として一席を設けられている現状にあって、連邦との対決を強いられてしまった。

 

“ジオンの真っ当な首脳部は頭を抱えたことだろうよ。

 旧ダイクン派という爆弾を内側に抱え、同時にその爆弾を国家の中枢に置かねばならない時期での独立戦争だ”

 

 そこを弁えていたからこそ、旧ダイクン派という爆弾が起爆せぬよう厚遇し続けたが、生憎と連中は恩を仇で返す手合いだった。

 

 ……というより、現実の苦さを飲み下せない人種だったのだろう。

 

 自分達の信仰が薄れることも。

 民草が宗教から離れていくことも。

 何より人は豊かになれば、宗教を必要としなくなるのだという『現実』を、ダイクン派は受け止めきれなかった。

 

“現実でなく、夢の中でしか生きられない人種であり、だからこそ過去の栄光と熱狂を取り戻さんと腐心した。

 ……連邦に対する利敵行為さえ、かつての信仰を取り戻すための対価として、当然の如く受け入れる始末だった”

 

 地球から宇宙(そら)に連邦工作員を上げてくれたグラナダ基地司令官のノルド・ランゲル少将をはじめ、旧ダイクン派の要人は連邦にとってこれ以上ないほど有難い存在だったし、だからこそ連邦工作員は今日まで命脈を保つことができていた。

 

“そして、ようやく連邦(われわれ)の好機が来た”

 

 絶好の潮目とは、正しく今を言う。

 シュレッサーを筆頭としたダイクン派の動きは、連邦を嵌めるための陽動にしては余りに深入りし過ぎている。ここまでの動きからしてもそれは有り得ないと確信できた。

 ダイクン派はクーデターを本気で成功させるか、或いは道半ばで息絶えるとしても、自らを中心に可能な限りの無理心中を図る気で居やがるのだ。

 ジオン公国成立以前、アフリカや中東でこの手の連中は数多く見てきたが、だからこそダイクン派の目に宿る狂気の輝きに偽りはないとはっきり分かる。

 

“ああ、叶えてやろうとも。お前たちの望むがまま、純粋な祈りのまま、現世を地獄に変えてやろう”

 

 古今、宗教とは混迷と衰退の中にあってこそ、最も力を強くする。

 救いを確約する宗教とは、苦しむ人間が多数の世界である程に社会的影響力を強めるもので、言い換えれば敬虔な信徒の総数は、現世の苦境と正比例してしまうものなのだ。

 すなわち、宗教とは救いの神とは現世が地獄であってこそ、最も輝きを放ち、多くの民に望まれるものである以上……

 

“地獄こそが、狂信者にとっての楽園(パライゾ)なのだろう?”

 

 お望み通り、宗教以外何一つ残らない苦界の中に、全ての宇宙移民(スペースノイド)をぶち込んでやる。

 

“未来永劫、統一国家は君臨し続ける。それ以外の国家など、存在()()という過去(じじつ)だけが残ればいい”

 

 ──歴史を動かす『国』は、世界に一つで十分だ。

 




 おう、喜べよイワン君。正真正銘、君に矢印が向いた恋愛思考のサブ・ヒロインやぞ(なお相手は強面のオカマである)
 ニアーライトさんは読者様の案でポップしたから唐突感あるし、何なら保安隊時代にチラ出し描写加えてもええんやけど、現時点じゃ生き残れるか作者ですら不明やし……まま、えやろ(手抜きを公言する作者の屑)

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