話数的には結構な量が書けているのですが、陰謀劇という展開の都合上、前後関係を見直しながらの執筆となってしまいますので、今後も時間がかかりそうです(土下座)
親衛隊の拘置所には監視も盗聴機も存在するが、悪用される事だけはない。
少なくとも、レオポルドが収容されたのはそういう場所だ。
「レオポルド・フィーゼラー捜査官ですな」
年齢は四十路辺りだろう。如何にも下士官上がりの屈強な特務少尉が慇懃に訊ねるのに合わせてレオポルドが首肯すると、そのまま黒塗りの
行き先は親衛隊本部──その執務室である。
◇
“おかっかない顔の筈なんだが……人を寄せ付ける風格がある”
というのが通された執務室で、エギーユ・デラーズを間近に見たレオポルドの第一印象だった。
謹厳の二文字を体現した風貌にもかかわらず、何故か寄って話したくなるような、思わず身を任せたくなるような、そんな安心感を感じさせてしまうのである。
「楽にしてくれ」
脇に設置された応接用の席に着くよう勧められた後の第一声がそれであったが、余程の胆力でなければ無理な話だろう。しかし、その胆力を備えていたレオポルドは出されたコーヒーを堪能しつつ本題を待った。
──度胸は十分。
雄弁に語った瞳を敢えて気付かぬ体でやり過ごしたが、そこも見抜かれていただろう。深みを帯びたデラーズの微笑は、明らかに相手を吟味する人間特有のそれである。
「率直に問うが、ランス・ガーフィールド中佐をどのように見た?」
先の上司殺害の現場に居合わせた件などどうでもいいと言わんばかり、デラーズは本題に深く、そしてレオポルドの心中に鋭く切り込んだ。
「……結論を下すには至りません」
何しろ顔を合わせたのは一度きりで、それ以来何の接触もないのだ。
間を置かずして親衛隊・防衛師団双方から正式に公安の介入を許されたことから多忙を極めていたのもあるが、手渡された資料についても、そこまで有用活用できていなかった。しかしだ。
「防衛師団についてはお答えすることが出来ます。彼らは余りに静か過ぎる」
ほう、とデラーズの瞳に感心の輝きが宿った。無言で背後に控える特務少尉も関心に肩を揺らしているのを感じつつ、レオポルドは続けた。
「以前から親衛隊のガサ入れがあったために慣れがあったにせよ、公安の介入にも彼らは淀みなく対応して見せていました……そして、それは親衛隊にも当て嵌まります」
たとえ潔白な組織であろうと、
それを組織としての清廉さ、風通しの良さと捉えることもできるが、それにも増して、というのがレオポルドの本音だった。
だから、最も穏当な仮説を立てるなら次のようになる。
「……ビリー・モーガン課長とバリー・エドモンド部長が、信用の置けない人種であったことは明白でした」
彼らのような存在を取り除くために、防衛師団と親衛隊は結託して一芝居打ったのではないか?
「防衛師団と親衛隊は、対立構造を装っていたに過ぎなかった。
親衛隊が防衛師団と公安の介入を許したのは建前で、今回の件を利用し、公安そのものにメスを入れて『癌細胞』を除いたというのなら分かり易い」
しかしだ。だとすれば公安捜査官であるレオポルド個人を招いた理由は何か?
信用の置けない組織の中で、使える人間を引き抜きにかかりたいのか?
それなら特務少尉を通じて名刺の一つでも渡せば済む話で、デラーズの手を煩わせるにしても、電話一本かけるだけで十分過ぎる。
敢えてレオポルドを最も情報漏洩の危険のない場所に引き摺りこんだ、その真意は何処にあるのかが重要だった。
“何より、エリーゼが観閲式典をタイムリミットに定めていたこともある”
公安内部を徹底的に洗って片付くのであれば、敢えて口にする意味もなかった筈だし、レオポルド自身この一件で全てが片付くとは思っていない。
「私だけがここに呼ばれた理由は……あくまで想像の域ですが、ニアーライト捜査官が別系統からの指令を受けているからでしょう?」
拘置所に放り込まれた時は親衛隊情報部という線も考えたが、この場に不在ならサスロ機関で決まりだろう。
「それらを踏まえた上で、ランス教官をどのように感じたかを私に訊ねた貴方の思惑は明白だ」
親衛隊は防衛師団を仮想敵と見做し、その背後に連邦が潜んでいると確信している。同時に、今回の一件でレオポルドを始めとした公安内でも信用の置ける人間だけを個別に当たり、持ち駒に加えることで戦力を充足させたいのだろうと。
そこまで語ったレオポルドの耳に、ゆったりとした拍手が短く響いた。
「推理小説の主人公に出会った気分だよ。確かに我々にとって、防衛師団は厄介な連中だった。面子を抜きに潰してやりたいと思った事は一度や二度ではない」
「ですが、それをしなかった。彼らを潰しても、連邦を潰せる訳ではないから。……私がお招きに与ったことを、貴方方の慈悲と受け取るべきでしょうか?」
たとえ防衛師団が不倶戴天の敵に与したとて、元は同じ公国国民……。
いずれ司法の場で死の裁きが下るのだとしても、一方的な流血による決着でなく、然るべき法手続きを踏んだ上で決着を着けたいという意思表示と見て良いのか?
ランス・ガーフィールドという恩師が脳裏に過りながらの問いに対し、デラーズは静かに頷いた。
「左様。組織として、公人としての対立があったことは否定せん。さりとて防衛師団もまた、我々と轡を並べ、共に大義の道を歩んできた筈なのだ」
防衛師団を不義不忠の徒と見做し、反国家分子の烙印を押して切り捨てるのは容易い。しかし、それをしてしまえるほど浅い付き合いではないのだ。
「このデラーズ自らが招いたことを、信用の担保としてはくれまいか?」
それは思慮深く寛大で、何よりも人情味に満ちた説得だった。
デラーズの言う通り、仮に他の幕僚達が雁首揃えて同じようにレオポルドを説得しても、レオポルドの疑心を拭う事は出来なかっただろう。
如何に忠誠無比の親衛隊とて、連邦の手が入りこんでいない保証はない。切り落とすには惜しい腕の一本にさえ、連邦の毒が回っている可能性はゼロでないのだ。
親衛隊長たるデラーズが直々に招いてこそ、レオポルドは胸襟を開いて推理を開陳できたし、この人ならばと背を任せることも吝かでないと思う事が出来るようになっていた。
──だが、寸での所で『性急に結論に飛びついてはならない』というニアーライトからの鉄則を思い出し、踏みとどまった。何処まで行こうと、公安とは他所の腹を探って動く職分なのだから。
「はい……と、頷くべきなのでしょう。しかし、私は公安捜査官として中立でなくてはなりません」
善悪好悪を問わず、如何な組織にも肩入れしない。
今のレオポルドにとって追い求めるべきは、立ち向かうべきは『真実』だ。
連邦という悪の根を断つことは、公安捜査官として為した成果によってもたらされる副次的なものでしかないのだという突き放した主張。
たかが一捜査官が親衛隊長に対して行うには、余りに非礼であるということは、レオポルド自身自覚している。
だからこそどのような叱責も、激昂も覚悟して身構えていたが、脳裏に描いていた数秒後の未来とは真逆に、デラーズは呵々大笑してみせた。
「見たか特務少尉! この儂を前に、これほどの啖呵を切ってくれおったぞ! 良かろう! 己の職責と正義を縁に動くというのであれば、我らも心からその背を押せるというものだ!」
励むが良い。進むが良い。若人の歩みと青さに感極まりつつ肩に手を置くデラーズの瞳には、信念を貫く男に対する激励が込められていた。
厳しくも男らしい笑みに、芯から心を焦がされる。感情が爆発し、その振動から感極まって震えそうになっていく衝撃を全身に感じてしまいそうになったが、レオポルドはそれら全ての精神的興奮を何とか押し込んだ。
“……厄介極まりない”
権謀術数を弄するより、人を人と思わず手足の如く操るよりも、こうした人間こそ真に恐ろしいとレオポルドは感じてしまう。
強要された訳でもなく死地に飛び込むことを厭わず、死の瞬間まで自分自身を納得させてしまえるだけの支配力……。
歴史上の名だたる独裁者が見せてきたカリスマと、
「微力を尽くします」
強張った身体を悟られぬよう短い意思表明を口にすると、デラーズは満足げに特務少尉を通じて便宜を図る事を確約してくれた。
親衛隊内でも佐官以上の人間だけが使用できるIDカードと、少佐相当官の地位まで付けて。
「期待しておるぞ」
背を押す言葉は厳かだったが、体が弾け飛びそうなほど力強い活力を与えて来る。だからこそレオポルドは、一刻も早くここから出たかった。
気持ちを落ち着かせる為にも、無性に煙草が吸いたかったのだ。
◇
刺激臭を放つ青白い煙が、煙草の先端から揺れて流れる。
ニコチンとタールが全身に回るのを感じつつ、レオポルドは与えられたIDカードを武器に、親衛隊が
“グレーだな”
親衛隊が防衛師団を黒と断定しているなら、相応の物的証拠があって然るべきだが、蓋を開けて見ればこのザマだ。だが……。
“色の濃さが全く変わってないってのが、どうもな……”
成程、親衛隊が防衛師団を睨むのも頷ける。
情報然り手順然り、白寄りのグレーか、黒寄りのグレーかはその都度替わりそうなものだというのに、狙ったかのように防衛師団は『匂わせる』程度の位置に止まりながら、その都度潔白を示してきていた。
「向いた矛先を逸らす手管を心得ているな」
「だからこそ、我々も手を拱いていました」
自由に使って欲しいとレオポルドに付けられた特務少尉が、相槌を打ちながら口を開く。
打てば響くような手際の良さは助かるし、腕っぷし一つとっても心強いのだが、昨日の今日までニアーライトの尻に付いて回っていただけに、自分の下に誰かが居るという状況には慣れていなかった。
“憲兵時代にしたって、殆ど事務屋だったしなぁ……”
だが、慣れるより先に受け入れて行くしかないだろう。頼れる先輩もいない以上、ここからは本当に頭が頼りだ。
「ダメ元で聞くんだが……防衛師団の秘匿通信は傍受できるか?」
出来れば苦労しません、と特務少尉の顔に出ていた。
情報を制する者は戦いを制する。
元より情報というものに対して、徹底して重きを置いてきたジオン公国の暗号強度は折り紙付きだが、そこにトレノフ・Y・ミノフスキーと共に科学者の双璧として並び立つ、フラナガン・ロムの介入があったことによって、防諜面は一層悪辣さを増した。
正規の手順を踏まねば、解析に入った相手のコンピュータや傍受装置を自動的に逆探知・破壊する上、暗号パターンはコンマ一秒ごとに自動変化する究極の迷宮だ。
この暗号装置をフラナガンは『機械に絶対は存在しない』という皮肉から〈エニグマ〉などと名付けたが、第二次大戦において早々に連合軍に解読された同名の暗号装置と異なり、向こう五〇年は解き明かすことは出来まいと解析班からも太鼓判を押されている。
防衛師団の内情を探るべく、親衛隊はフラナガン自身にも一時的な解除を要請したが、返ったのは「絶対こそ存在せずとも、意図して穴のある代物を作った覚えございません」というむべもない内容だった。
「そんな代物を用意した結果、万が一私が捕虜になり、拷問を受けて白状した日にはどうなるか、一度でも考えなかったのですか?」
などと重ねて苦言を呈されは、親衛隊としても「知恵のない要求を致しました」と謝罪するより他になかったものである。
言い換えれば、公国側の動きについては万が一にも連邦に
「足で稼ぐ、しかないかぁ……」
結局のところ、
というより、これで知られていた場合、デラーズと特務少尉ぐらいしか容疑者が居なくなってしまう。
「
口で応えるまでもなく、特務少尉は自信満々に胸を張っていた。
◇
「先の事件は災難だったな。くたびれているところを見るに、親衛隊から『歓迎』でもされたか?」
「ええ、まぁ……盛大に」
歓迎の意味が字句通りであった事は口にせず、レオポルドは「概ねその通りです」と、ガーフィールドの誤解を解くことをしなかった。
嫌疑のかかった防衛師団の士官と言えど、恩師相手にも情報を渡そうとしないのだから中々の面の皮の厚さである。
「
「ははっ。痛めつけてからの懐柔とは、なんとも古典的だな。いつの時代でも、官憲のやり方という奴は変わらないらしい」
「……それ、公安の俺に対する皮肉でもありますよね?」
防衛師団のオフィスに通され、席に座った矢先にこれだ。いや、肩の力を抜けるという意味では、親衛隊より居心地のいい場所であることは確かだが。
「慌ただしい理由は、年末の観閲式典ですか?」
「ザビ家だけでなくキャスバル様も参列されるとあってはな。皆鼻息荒く意気込んでいるよ」
防衛師団は式典警護を担当するが、仕事には要人のボディガードも含まれる。当然、キャスバルの側に侍る栄誉も与えられた者もいた。
「つまり……連邦にとっては公国首脳部を一網打尽にする絶好の機会と」
「だからこそ我々がいる。邪魔立てする者は一人として生かしておかんよ」
剣呑な物言いで、瞳にも鋭い輝きが宿っている。この言葉が正しい愛国心と職責からくる発露なら言う事はないのだが、レオポルドは微かな危うさを感じてしまった。
「頼もしい限りです」
とはいえ、それを表に出す訳には行かない。あくまで平静なまま柔和な笑みで以て、教官を讃えるに留めた。
「その割には、物憂げだな」
ここは軍隊の世界だ。竹を割ったように話せと勧めるガーフィールドに対し、レオポルドは言葉に甘える。
「率直に申し上げますと、
これは親衛隊に肩入れするのでなく、公安捜査官としての率直な意見だ。
「整い過ぎる程に整った書類。潔白を証明するにあたっての回避のし
観閲式典では敢えて外側の警護役を担っているが、言い換えれば完全武装で式典参加者を包囲出来る立ち位置にある。
「仮に防衛師団が地球連邦と結託すれば、一時的にでも首都を抑え込むことすら可能になるのです」
そう、だからこそ。
「何故、警護役を固辞しなかったのですか?」
それだけで防衛師団の心証は変わった筈だ。敢えてかかわらず、やり過ごすことが出来たなら潔白の証明とまでは行かずとも、親衛隊の態度を軟化させるぐらいは出来ただろうに。
「それこそが真に潔白を証明する手段たり得るからだよ、フィーゼラー捜査官」
レオポルドの提案したやり方ならば、相応に心証を回復させることも能うだろう。しかし、それでは根本的解決になり得ない。
「我々とて、置かれた立場を正しく理解している。そして……それこそが我々の狙いであり、連邦に対する罠だとしたら?」
防衛師団を利用し、嵌めようとした連邦を逆に嵌める。観閲式典に参加する重鎮たちを狙い、暗殺ないしは恫喝を企て、戦争の趨勢を変えんとする連邦工作員を一網打尽にし得る、起死回生の一手を防衛師団は打つ。
「勿論、貴官に語ったのはこちらの思惑の一つだ。何であればこの情報を親衛隊にリークしても構わんぞ?」
多少動きは前後するが、防衛師団が潜伏する連邦工作員を潰すのは『決定事項』だ。
「犠牲者をゼロには出来んだろうが……それでも我々は我々の正しさを、然るべき場で主張する。
この情報を胸の内に仕舞うもよし。
信用のおける人間に語るもよし。
やり方は任せるが、私から伝えられるのはここまでだ。
そして、ここからは私的な発言であり依頼になるが……我々としても厄介な相手がいる。ああ、親衛隊ではないぞ? あの連中は分かり易いからな。これまで通り、対処はどうとでもなる」
だが、こいつは別だと書類をテーブルに投げた。そして、そこには見知った以上の顔がある。
「サスロ機関所属の情報将校、ニアーライト少佐。彼は
「……。確かですか?」
半信半疑どころではない。そんなことがあって堪るかという視線の訴えに対し、逆にガーフィールドは意外そうな顔をした。
「お前ほどの男が、その可能性を一考しなかったのか?」
確かにそうだ。デラーズと対面した際、ニアーライトの所属が親衛隊かサスロ機関かの二択を考えたが、切れ者である筈のレオポルドが連邦との二重スパイという線を、たとえ可能性が極めて低くとも選択肢に入れていなかったのはどうかしている。
ましてや公安というものは、内部の不穏分子を洗うのが専門だ。
同僚と言えども全幅の信頼を置かず、一定の線引きを心掛けねばならない立場であろうに、ニアーライトを特別扱いしてしまっていた。
「余程良い先輩だったのだろうな。或いはそれも演技でなく、本心からのものだったのやもしれん。しかし、事実だ」
私情を交えるな。心証で判断を鈍らせるな。
必要なのは客観的な事実と抑えるべき証拠だけで、読むよう促された資料にはニアーライトの動向が事細かに記されていた。
「証拠は抑えている。必要なら回すが?」
「スパイが証拠を?」
俄かには信じ難い話である。そも、スパイというのは怪しまれた時点で終わりであり、引き際を弁えてこその職業だ。ニアーライトが情報将校なら、尚のことその点は抜かりない筈だが……。
「尤もな疑問だが、人間に完璧はない。消毒*1が不徹底になることも、一度ぐらいは有ろうさ……二度も三度もあれば罠だろうがな」
そして、その一度が命取りになるのがこの稼業で、だからこそ防衛師団は独力で動いた。
「我々が観閲式典で敢えて
これまでの要人暗殺とて、より深く懐に潜れる人間の情報なくして達成できないことはお前も理解できているだろう?」
心当たりがないとは言えない。ケイ・タキグチ参謀顧問の殺害現場で見せた、ニアーライトの表情は平素と違った。
ばかりか、それ以前の現場でもニアーライトを思わせる『匂い』もあったのだ。
「……俺は、頭を使うのはともかく、体を動かすのはからきしですよ?」
使うなら他を当たって欲しい。そう暗に拒んだレオポルドに、ガーフィールドは頭を振った。
「バックアップはしてやる。が、我々としてもこの情報ばかりはあちこちに吹聴したくない」
先に伝えた観閲式典での警護と異なり、こちらは防衛師団の今後を左右する最重要機密だ。たった一人、唯一尻尾を掴ませた相手を捕えるなら、本当の意味で信用が置ける手勢が必要だ。
「防衛師団とて全体が白ではない。黒に近いグレーであっても、敢えて悟られぬよう使っている者もいる」
「そこで俺ですか……初めからこの気でいましたね?」
レオポルドに顔を見せたのも、防衛師団と親衛隊の確執を語って見せたのも、要はニアーライトありきの話しだったのだろうと睨めば「正解だ」と悪びれもせず告白した。
「一二月三一日、その日が始まりにして終わりだ」
連邦には全てが順調だと思わせる。しかし、決して連邦の思い通りにさせる気はない。
「レオ。これは戦友としてのお前にしか問えんことだ──共に、連邦を潰す覚悟はあるか?」
「今の俺は捜査官です。憲兵どころか、軍人ですらない」
だが、これこそ公安の務めである。内部に巣食う不穏分子を逮捕し、祖国の秩序を保つ、自浄作用の働きこそを求められる役職だ。
「だから……それが真実であったならば、俺は動かざるを得ないのでしょうね」
「決まりだな」
納得が行くだけの情報は幾らでも用意してやる。
護衛も装備も、必要とあらば言えばいい。
「レオ。……言うまでもないが、踊らされるなよ?」
ここまで御膳立てをしておきながら、ガーフィールドは最後にそう口にした。それが善意からなのか、或いは計算してのものかすら、今のレオポルドには判断出来なかったが。
◇
「浮かぬ表情ですな」
「飛び切りの爆弾を押し付けられた気分だよ」
親衛隊本部でなく、秘密裏に確保したセーフルームの一つで特務少尉に愚痴を零す。
「気を悪くしちまうのを承知で言うんだが、俺は親衛隊も防衛師団も信用しきれねぇんだよなぁ……いや、偏に俺が何も出来てねぇのが原因なんだけど」
右も左も分かっていない疑心暗鬼になる状況下で、どいつもこいつも口当たりのいい言葉と
“挙句、俺自身はその正誤すら全く判断できる状況にはなってのに、防衛師団・親衛隊の双方から協力を要請されている”
現状を見直すごとに増す苛立ちを紛らわせるように、煙草を消費する速度が上がっていく。
公安捜査官というものは、他人流儀で情報を整理されることを最も腹立たしく感じる人種である。
そこについてはレオポルドも例外ではないからこそ、思考停止していずれかに肩入れすることなど論外だった。
“やっぱし、立て続けのテロ事件から見直すべきだな。こりゃ”
そもそもの起点はそこだ。防衛師団と親衛隊の対立が激化したのも、レオポルドが本格的に動くことになったのも、基をただせばそこに通じる。
「このセーフルームからでも、情報はアクセスできたよな?」
「こちらに」
専用のコードを手順通りに繋ぎ、二人以上が異なるパスワードを打ち込んでから使用権限が付与されたIDカードを通すという手間のかかる作業だったが、レオポルドのIDカードはそれこそ総帥府だろうが公安だろうが、階級に応じた内容までならアクセスできる。
そして、親衛隊が事件現場で調査した内容は一分の隙も無いものだった。
だからこそ、不可解なことがある。
「爆発物の残骸も付近の目撃者もなし? おいこれ、ちゃんと調査を……って、どうした?」
たとえ目の前で戦友が撃たれようと
「……最悪の事態が発生しました。下手をすれば、我々と防衛師団で戦争になります」
要領を得ぬ発言に、レオポルドが首を傾げつつ「落ち着け」と宥める。ここまで常に明瞭な答えを返してきたのだ。
平時と同じく情報を伝えてくれと頼むレオポルドに、特務少尉は震える唇で応えた。
「イアン・グレーデン特務中佐が……、拘束されました」
──ケイ・タキグチ名誉参謀顧問の、暗殺容疑で。
グレーデンさんは戦力増強枠かと思った? 残念! 囚われのヒロイン枠だよ!
※原作ギレン暗殺計画でのケイ・タキグチの暗殺方法がMSによる砲撃とかいう超大胆な手段だったから、最初っからキャノンタイプに乗ってるグレーデンさんに濡れ衣着せるのは割と初期から決めてました。
それはさておき、自分で作った暗号にエニグマとかいう、明らかに即バレ裏切りムーブ100%の名前を付けるフラナガン博士をフリーハンドにした、イワンとかいう無能長官がいるらしい。