宇宙(そら)に掲ぐ旗の名は   作:c.m.

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表紙イラストが正直気に入らなかったので、描き直しました 
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75 勝利の後に再会を

 当たり前の話だが、警察組織は有能だ。

 膨大かつ優秀な人員ネットワークを駆使した捜査網。

 多額の予算を投じて科学鑑定を行う鑑識機関。

 創作物のように、名探偵の存在が無ければすぐに迷宮入りの憂き目に遭う無能を警察が晒すことなど──汚職が常態化している国でもなければ──それこそ万分の一の確率と言っていい。

 故に、ケイ・タキグチ殺害の嫌疑をイアン・グレーデンがかけられたのも、相応の理由有ってのことである。

 

「殺害現場の大気残留物から、微細なミノフスキー粒子が検出された。気象管理用データ収集網にも、貴官は頻繁にアクセスしていたな? 特務中佐殿?」

 

 無論、それだけで犯人とは断定できない。元よりコロニー内での局地・市街地戦の教官として親衛隊に招聘された以上、コロニーの疑似重力を始めとした気象予測の分析は必須事項と言っていい。

 ましてや一級ジオン十字勲章を受章した国家的英雄を拘束ともなれば、()()()()証拠でもない限り不可能だ。

 

「事件発生当時、貴官のMS(モビルスーツ)は稼働状態にあった。随分と入念に使用ログを削除したようだな。鑑識係も頭を掻き毟ったよ」

 

 だが、辛うじて弾道補正用ソフトウェアから、目標地点への()()記録を発掘することに成功した。

 

「最新兵装たるビーム・キャノンの出力を絞っての、一切の周辺被害を及ぼさぬ芸術的な精密砲撃……貴官と、貴官のゲルググ・キャノン以外には決して達成できなかっただろう芸当だ」

 

 軍事訓練領域は、安全面に配慮して相応のスペースが確保されている。慣熟運転を名目にMS(モビルスーツ)一機を動かしたところで、誰も騒音など気にも留めまい。

 

「ボタン一つでエンジンがかかる民間車輛とは訳が違う。ましてや最新MS(モビルスーツ)の、しかも派生機をこうまで見事に扱えるのは搭乗者と限られた人間だが……貴官以外の『限られた側』に嫌疑をかけるには、余りに無理があると思わないかね? 何しろ貴官には当日のアリバイなどないのだ」

 

 防衛師団のきな臭さもあって、二四時間即応態勢で臨めるよう可能な限り官舎で待機していたのが徒となった。親衛隊という身内を除けば、グレーデンの無実を証明できる第三者は存在しない。

 八方塞がりの状況下にあるグレーデンだが、彼が選んだのは『沈黙』だった。

 

「賢いな。確かに非正規任務に従事していた連邦工作員と異なり、貴官には弁護士を呼ぶ権利がある。親衛隊からは一級の顧問弁護士が遣されるだろう」

 

 雄弁は銀、沈黙は金だ。些細な情報一つでも、それが自らを縛り付ける鎖になることを軍機密に関わる将校の一人としてグレーデンも心得ていた。

 

「何、長く付き合うさ。我々としても祖国の英雄に対して手荒な真似をする気は毛頭ないし、軍人相手は連邦で嫌というほど慣れている」

 

 得意げに、雄弁に。自分達の勝利を確信しているかのように取り調べを行う刑事は、一切の申し開きも権利主張も行わず、貝のように口を閉じたままのグレーデンに口角を釣り上げた。

 

 ──まるで、そう。

 

“俺を拘束した時点で、勝ちだと言ってるようじゃないか”

 

 その予想はおそらく正しいのだろう。せめてもの抵抗の意思表示として、グレーデンは刑事を睨んでいた。

 

 

      ◇

 

 

 イアン・グレーデン特務中佐の拘束は、親衛隊の面子に泥どころかバケツ一杯の糞を浴びせてから足蹴にしたようなものだろう。

 当然だが親衛隊は上から下まで、皆グレーデンを疑っていない。警察側が開示した物的証拠の数々など、やろうと思えば幾らでも捏造できる。

 それを理解した上で、特に口角泡を弾けさせたのは最もグレーデンを信頼するロバート・ギリアム大佐だった。

 

「親衛隊長殿っ、何卒グレーデン特務中佐救出の許可を!」

 

 両の手で執務机を揺らさんばかりの勢いで叩き、デラーズに対し直談判まで行うのは、平素の冷静さを完全に欠いた姿であったものの、デラーズはそれを咎める真似はせず、場を沈めるようにゆっくりと腰を上げて目線を合わせる。

 

「貴公は自らが口にしておることの意味を、誰より理解しておる筈だ」

 

 階級の上では同等であろうと、親衛隊の長たるデラーズと一隊員たるギリアムには明確な上下が存在する。しかし、階級を笠にして頭ごなしに抑えるのでなく、諭すようにデラーズは続けた。

 

「彼奴らはグレーデン特務中佐の身柄を拘束する事で、我らの軽挙妄動を期待しておるのだ」

 

 見え透いた手には乗るな。たとえ拘束されたのが国家の英雄だろうと、自分達は常に公人としての取捨選択を求められるのだから。

 

「グレーデン特務中佐とて軍服を纏い、総帥閣下への忠と志を同じくして、親衛隊に加わったのだ。我らが囚われの特務中佐に対し報いるには、総帥閣下と祖国への献身を果たしてこそであろう。

 虜囚となった同志を案ずる貴官の気持ちは、良く分かる。仮に虜囚として堕ちのが、我が同志たるヨーク長官であったならば、儂とて同じく激したであろうからな」

 

 但し、もし拘束されたのがイワンであったならば、彼は間違いなく自らの安否より組織に重きを置いただろう。

 舵取りを間違えるな。私人としての道徳や友情でなく、公人として勝利の道を進めとデラーズに訴えたことは疑い得ない。

 

「ギリアムよ、広くものを見よ。心を凪として、今一度大局を見据えるのだ」

「……はっ」

 

 その敬礼は、決して納得ずくのものではなかっただろう。

 私人としての自分を強引に抑え、公人としての己を立たせて身を引いたに過ぎないのだろう。

 心から背を預けるに足る同志が虜囚となったのだ。その痛み、その苦しみは総帥の赤子を預かるデラーズとしても痛いほどに分かる。

 分かるからこそ、心を鬼にして正論を語った。どれだけ相手の心には決して響かず、納得してくれない事を理解していても、それが親衛隊長としての勤めと理解し、自戒せねばならない立場にあったからだ。

 

“若いな。ギリアム”

 

 その若さこそ、己の胸を熱く打たせるものであったが、同時に若さ故の過ちであることも心得ていたが故に。

 

 

     ◇

 

 

「入れ」

 

 退室したギリアムと入れ替わる形で、執務室の戸が開く。玲瓏な流し目と白く端正な面差しは、第三種戦闘服のマントと相まって、中世紀の貴族を彷彿とさせた将校が近く寄った。

 

「本国は風雲急を告げているようですね」

 

 女神さえ見惚れる美丈夫……エリック・マンスフィールドに、しかし焦りの色はない。それは水面下の事態や先の騒ぎを知らないからでも、陰謀に無関心だからでもなかった。

 

「ヨーク長官が遣したか」

 

 折角親衛隊の最高戦力たるエリックを護衛として侍らせたというのに、建前であった筈の『親衛隊とのパイプ』として利用されては、ため息の一つも零れようというものだ。

 

“だが、我が同志は常に正しい”

 

 グレーデンという持ち駒を失ってから、間髪入れずフィーリウス・ストリームと、ストリーム家家中の軍人二名を寄こしてきたのだ。

 背後に控えたフィーリウスは一言も発しはしなかったが、置かれた立場というものをこれ以上ないほど弁えてか、エリックが視線を寄こすと同時にデラーズに敬礼した。

 

「成程、出来ておる」

 

 フィーリウスを若輩と侮る真似はしない。相応に研ぎ澄まされた佇まいは、一目立ち会えば十二分に伝わった。

 

「フィーリウス少尉にはガルバルディを。フィーリウス家家中たるガイウス、バネッサ両曹長にはドワッジを用意しました」

 

 殺人的なGから事実上の強化人間専用機となっているガルバルディはともかくとして、ドムの最新改良機たるMS-09G〈ドワッジ〉は主戦場たる欧州でさえ奪い合いとなっている機体だ。

 イワンにかかれば鶴の一声で片付くとはいえ、敢えて本国に回して見せたこと自体が、イワンがどれだけ事態を重く見ているか嫌でも分かった。

 

「……無礼を承知で問うが、貴官が告げ口したのではないのだな?」

 

 本国情勢は、一切イワンに漏らすなとギレン直々に箝口令を敷かれている。万が一にでも本国でのテロ騒ぎや暗殺に巻き込まれては堪らならなかったし、だからこそペズンに押し込んだのだ。

 にも拘わらず、エリックに代わる最高の手駒として招聘したグレーデンが浚われたタイミングで、ペズンからの増援となれば勘繰って当然だ。

 エリックとて逆の立場なら、出来過ぎだと訝しんだことだろうが……。

 

「そうであったなら、私としてもヨーク長官を怪物などと畏れず済むのですがね」

「だろうな。許せ」

 

 時として歴史は、小説家がコピーを躊躇うような偉才を世に解き放つ。

 イワン・ヨークもその一人だと思えば「不思議ではない」と飲み下せることも有るだろう。

 勿論、イワン本人は本国の内情を完璧に予見している訳ではない。

 前世で知り得た知識から可能な限り戦力を捻出したに過ぎないのだが、親衛隊にとってはこれ以上ないほど有難いのは確かである。あるのだが……。

 

“先を読まれ過ぎるのも困りものだ”

 

 手を打つのが余りに早過ぎる。下手に準備万端だと思われては、連邦が亀の如く首を引っ込めて、タイミングをずらしかねない。

 

“……この際、ギリアム大佐を動かすか”

 

 やりたい手ではなかったが、こちらが一手も仕損じないままでは駆け引きが成立しなくなる。加え、リターン以上にリスクを覚悟しなければ、根幹から崩れかねないのもまた事実。

 

「ヨーク長官には礼を言ってくれ。……それと、次は違う人員を寄越すようにとも」

 

 柄にもなく心労からの吐息を吐き出したデラーズに、エリックも心中を察して敬礼した。

 

 

     ◇

 

 

「親衛隊長に伝えずに宜しかったのですか?」

 

 イワンが親衛隊の為に用意したのは、フィーリウス達やMS(モビルスーツ)だけではないということを。

 

「手札は然るべき時に開陳するものだ」

 

 全容こそ掴めずとも、親衛隊には独自の思惑があるぐらいエリックを遣ったイワンも心得ている。真に必要とされるのであれば手を貸すが、そうでなければたとえ莫逆の友(デラーズ)であっても手札を伏せるのがイワンという男だった。

 

「そして、その手札の切り時は君に一任されている」

 

 フィーリウス家を動かし、備えたものを使うこと。慎重を期しつつタイミングを計るのは至難の業だが、イワンとしては「将来然るべき立場に就くのだ。それぐらいは任せても良いだろう」とのことだった。

 

“万が一失敗したとしても、リカバリーは効くとのことだったが……そこまでは言わずとも良いだろう”

 

 士官とは部下の命と責任を両肩に負うものだ。今はまだ名ばかり少尉のフィーリウスもいずれは正しくその位置に就く以上、経験を積ませるのは間違っていない。

 

「私はペズンに戻る。再会は──終戦を迎えてからになるだろう」

 

 驚きはない。ペズンから本国に戻るまでの目まぐるしい動きは経験の浅いフィーリウスからも明らかで、だからこそ弱気な姿など見せまいとエリックに毅然とした態度を取った。

 不安は、ある。これまでの様に堂々たるエース達が背を押し、肩を貸してくれることも、見守られながら歩むこともできない。

 だが、一人立ちをするとはそういうことなのだ。背後に控えるガイウスとバネッサは無論家中として補佐してくれることだろうが、それでも先頭を歩むのは他ならぬフィーリウス自身なのだから。

 

「特務中佐殿の武運長久をお祈りします」

 

 だから、別れ際に少しの背伸びを。

 培った日々を無為にせず、努力を糧として胸を張れば、エリックはこれまでのような静かな微笑でなく、口元を真一文字に引き締めてから、踵を鳴らし答礼した。

 

「勝利の後に会おう。フィーリウス・ストリーム少尉」

 

 再会の日まで、壮健ならんことを。

 軍人らしい厳かなしきたりこそフィーリウスが認められたという何よりの証だったが、感極まっていたのはエリックもまた同じだった。

 

“──君は、もう大人になったのだな”

 

 それが誇らしく、同時に寂しさも覚えた。

 エリック・マンスフィールドは誰より優秀であり、あらゆる壁を易々と乗り越えて今日まで来たが、それ故に孤高でもあった。

 とはいえ、その半生が不幸であった訳でもない。学徒であった頃には友誼を育む同輩は多く居た。軍に属してからも部下や上官に恵まれ、志高く歩を進めることにはこれ以上ない充足感を得ていた。

 孤高であれど孤独ではなく、秀でていても疎まれることは決してなかったエリックは、その麗貌も相まって余人には全てを得ているように見えただろう。

 

 だが、そんなエリックにも一つだけ欲してやまないものがあった。

 

“君を、家族のように見ていたと言えば、笑うだろうか?”

 

 エリック・マンスフィールドは両親を知らない。各サイドの優秀な孤児たちが『総帥の子供』として公国に迎えられる前身として、サイド3の施設で幼少期を過ごしたエリックには、家族に対する憧れがあった。

 エリックとて、親兄弟を持っているからと言って、全てが幸福な家庭を築ける訳でない事は重々承知している。

 幼少期を過ごした施設でも虐待を受けて保護された子供達は多かったし、そんな大人にはなるまいと、悲劇を耳にするたびに己を戒めてきた。

 ましてや今のエリックは親衛隊の特務中佐で、ジオン十字勲章を佩する身だ。産児制限の設けられた公国であっても、国は二つ返事で自分の子を持つことを許してくれるだろう。

 だが、人並み以上の責任感を有するが故に、家庭を持つという究極の『贅沢』はどれだけ早くとも戦後を迎えてからになるだろうとも諦めていた。

 パイロットというものは特に死亡率の高い位置にあり、ましてやエリックは専用機を有するエースとして誰より果敢に戦うことを求められる立場にある。

 望めば得られる地位にあるからと言って、無責任に妻を娶り、子をもうけて間もなく自分が死ねばどうなるのか?

 

 親を知らぬが故、家族に対して憧れたエリック自身が、自らの妻子に同じ『飢え』を覚えさせるなど、どうしてもできないことで、だからこそフィーリウスを任された時は、柄にもなく喜んだ。

 自分の手で学ばせ、自分の手で育むこと。軍人として、教官としての立場から求められるものであっても、そこに個人としての情を加えることを許されたエリックは熱を入れて励んできた。

 

 エリックが理想として描く、我が子の模範足り得る父のように振る舞った。

 エリックが居て欲しいと思った兄弟のように、年の離れた弟を接するように、思いやりと信頼を以て寄り添った。

 常に冷静沈着で、どんな事態にも動じず対処してきたエリック・マンスフィールドが、少しでもフィーリウスに良いところを見せてやりたいと意気込んで、イワンとの模擬戦ではアクト・ザクの弱点を突きながら、これ以上ない程熱く挑んで食い下がって見せていた。

 

“思い返せば大人気のないことだったと思う”

 

 軍人としての職分からでも、自己の向上からでもない。

 青い少年が、好いた女の子に気を引こうとして意気込むような真似を、あろうことか佐官が軍務にかこつけてやったのだ。

 

“それでも、そんな私が格納庫(ハンガー)に戻った時、君は真っ先に駆けつけてくれたな”

 

 テクニックやタイミングなど、専門的なことを口にしていても、その時のフィーリウスの瞳はキラキラとしていて、そんな姿に、エリックも胸が熱くなって──。

 

「──フィーリウス」

 

 きっと、未練を残したくないからだろう。

 止せば良いのに。

 答礼の後に踵を返せばいいのに、別れ際にもう一声かけたくなった。

 少尉として、軍人としてのフィーリウスに対してでなく。

 上官として、教師としての自分でなく。

 あくまでも、エリック・マンスフィールド一個人としての言葉を伝えたくて、思わず口から出てしまう。

 

「君と共に過ごした時間は、命じられたが為のものだけではなかった」

 

 湧き上がる想いは、胸を満たした思い出は、決して義務感から来るものではない。

 

「私は君を、家族のように想っている。これは私の、偽らざる本心だ」

「ありがとうございます──僕にとっても、貴方を兄のように慕っていました」

 

 だから、エリックと同じ言葉になるが、フィーリウスもまた伝えたい。

 自分もまた、貴方を兄とも父とも思っていたと。心から慕い、敬しているという告白を孕ませながら、言の葉を舌に乗せる。

 上官に、恩師に対する敬慕以上の、親愛の念に溢れる言葉を。

 

「勝利の後に、お会いしましょう」

 

 今度こそ本当にお別れだ。けれど、この別れは悲しい別れではない。

 お互いが為すべきことを成し、それぞれの戦いに赴くための、責任ある別れだ。

 

「ああ……。約束するとも」

 

 思い残すことが、なくなったとしても。

 未練など欠片もなく死地に赴くのだとしても。

 

「私は決して、嘘吐きにはならないよ」

「僕もです」

 

 決して君の、貴方の過去(おもいで)にならないと。必ず生きて再会しようと、晴れやかな笑顔で別れを告げた。

 

 

     ◇

 

 

 レオポルド・フィーゼラーには、二つの道が用意されていた。

 

 親衛隊指揮下に入り、防衛師団の陰謀を阻止すべく動くのか。

 防衛師団バックアップの元、ニアーライト逮捕に向けて動くのか。

 

 しかし、その二つは今や過去形である。

 

“糞……結局流されるままか”

 

 ニアーライトの言う通りだった。自分達は物語の主人公たり得ない。世界は一個人の事情など斟酌せず、強引に動かし押し流す。

 防衛師団と親衛隊は、あろうことか奇妙な共闘を演じることとなった。

 

 イアン・グレーデン特務中佐救出という、奇妙な共闘をだ。

 

「ギリアム大佐、少し宜しいですか?」

「言いたいことは承知している」

 

 防衛師団は、間違いなく親衛隊を背中から撃つ。グレーデンとて、どさくさに紛れ始末しにかかるだろう。脱獄という行為それ自体がグレーデン殺害の為の言い訳になる事は百も承知だ。

 

「だがな、フィーゼラー捜査官。我々が動かずとも、防衛師団は特務中佐救出を意図的に失敗し、殺めるだろう」

 

 だから、罠でも乗るしかない。死中に活を求めるなどというのは安易な言葉だが、それでもやらねば、為さねばならない時がある。

 

「……私情と笑い、蔑んでくれて良い。英雄の救出という建前は有れど、本音は友の為の私事だ」

 

 デラーズから許可をもぎ取りはしたが、それとてあくまで防衛師団の蛮行を白日の下に晒す為であって、グレーデン救出は副次的なものに過ぎない。

 いや……大局を見据えて判断するなら、敢えて『英雄を手にかけた』という結果を防衛師団がもたらしてくれる方が都合が良い筈で、デラーズもそれとなく戦力の縮小を提言して来たほどだ。

 

“だが、それを認められなかった”

 

 嗚呼、何という青さだろうか。総帥閣下に対する忠こそを絶対として、身命を捧げるとさえ宣誓した親衛隊の、ましてや大佐ともあろう地位に就いた将校が総帥の為でなく、同じ新鋭隊員の為に虎穴に飛び込むというのだ。

 しかし、レオポルドはそれを笑わない。笑っていい筈が無かった。

 

「……少し、安心しています。貴方方は、大義の為なら何でもできる組織だと思っていましたから」

 

 全ての親衛隊員がそうである訳ではないだろう。組織としての思惑も当然あるのだろう。それでも、こうまで『熱い』男が居るという事実には、レオポルドも思わず相好を崩してしまった。

 

「親衛隊を首になったら、警官に推薦しますよ? 『熱い』人は刑事に向いてますから」

「前向きに検討する。しかし、良いのか?」

 

 レオポルドが荒事に向いていない事は、事前に資料を確認してギリアムも知っていた。防衛師団との顔繫ぎとして十二分に責を果たした以上、後方で待機しても問題なかったというのに、敢えて行動を共にすると言って来た。

 

「このままじゃ、何も出来ずに終わりそうですからね」

 

 状況という風に吹かれて舞う木の葉のままだとしても、せめて己の目で確かめたい。追い求める真実の影の一つも踏めないまま、終わってしまうことだけは御免だった。

 

「公安を首になったら、親衛隊に来るといい。私の首の皮が繋がったら、その時は直々に推薦する」

「前向きに検討させていただきます」

 

 互いに笑いつつ、弾倉を確認した拳銃をホルスターにしまい、目出し帽(バラクラバ)を被って短機関銃を首から下げる。

 作戦開始まで、あと二時間。

 防衛師団と親衛隊の全面衝突まで、残り■時間。

 




 読者様がフィーリウス君ちゃんのヒロイン化を希望していた場合、フィーリウス君ちゃんの女装イベントを追加してから、ここで告白タイムでフィニッシュでした(性癖暴露)
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