宇宙(そら)に掲ぐ旗の名は   作:c.m.

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 前回、キャスバル様が旧ダイクン派に対して
「戦時に身内争いなどしては、勝てる戦も勝てなくなると何故分からない!?」
とか散々ディスったけど
 あれ全部原作ジオンのザビ家に対する皮肉って言うか、ブーメランぶっ刺す為の発言って意味合いも有ったんたけど、誰もコメントしてなかったから、ここでブーメランだったって暴露するね。

(;'∀')
※ツッコミ待ちで待機してたのに、コメントがほぼ旧ダイクン派への罵詈雑言になってて、アッレー? ってなった作者の顔。

 それはそれとして、今話はようやくロボット物らしいバトル回です。
 政治劇が長すぎた……。そして作者はロボットバトルの書き方を忘れていた(おい)


77 白薔薇の戦鬼

 ズム・シティ全域に響くサイレンが、防衛師団員に対し非常呼集を報知すべく唸り出したのは夜も更けたころだった。

 シュレッサー直属の大隊でなく──シュレッサーの麾下大隊は既に運用開始している──何一つとして置かれた状況を知らぬ無垢な民兵止まりの師団員の中でも、辛うじて実戦に耐え得る即応可能な者たちを前に、野戦司令部に到着したロートレックが師団長として檄を飛ばした。

 

「総員、傾注!」

 

 ざ! と公国軍人らしい揃った足並みが響き、二の句を待つ。誰もが顎を上げ、視線が一身に向くのを確認してからロートレックは深く、雷鳴に似た重低音で告げた。

 

「皆、落ち着いて聞いてくれ。我らの総帥閣下が──暗殺された」

 

 無言の中にあっても、居並ぶ将兵の動揺は凄まじい。

 小刻みに体を震わせる者、激する者、嗚咽を噛み殺す者……反応こそ様々だったが、皆の心は同じ方向を向いていた。

 

 ──ザビ家に対する、絶対的忠誠という方向にだ。

 

「これより防衛師団は、戦時特別命令『ワルキューレ』を発動する。ミノフスキー粒子散布下では各々の隊が独自の判断で動くことを余儀なくされるが、諸君は必ずやり遂げることを確信している。

 各隊は速やかに行動を開始し、所定の区画を封鎖! 誰一人として首都から出すな! 必ずや、我らの手で報いを受けさせるのだ!」

 

 雄叫びの一つもなく、しかし殺意で瞳を滾らせながら、各隊が輸送トラックや装甲車に乗り込み、最高の士気を保って戦場に向かう。

 それを送り出すロートレックは、何処までも深いため息をこぼした。

 何も知らぬ者達を操り、死地に送り出す事に成功しながら……、成功の大満悦とは程遠い、暗いため息を。

 

 

     ◇

 

 

 ギレン・ザビ斃るる──秘匿通信で首都に駆け巡った急報に、総帥府は蜂の巣を突いたような騒ぎとなった。

 

「馬鹿な!?」「防衛師団決起は観兵式典の筈だ!」「護衛は何をしていた!?」「誰か総帥の安否を確認した者は!?」

 

 敵国の指導者を暗殺するというのは、素人であっても一度は思い浮かべる手段である反面、古今の戦争史において、敵国の構成員が実現させた例は極端に少ない。

 正史においてザビ家暗殺を達成したのは、身内である筈のキシリア・ザビがギレン・ザビを。

 公国軍人たるシャア・アズナブルこと、キャスバルがガルマとキシリアを謀殺し得たが、現実の歴史にあっても指導者が暗殺されるのは、敵でなく懐に入ることが可能な『身内』の手にかかって命を落とすケースが殆どだ。

 国家指導者が暗殺者の手にかかることは、ご都合主義がまかり通る創作物の特権とさえ言っていいし、だからこそ誰もが「そんなことが有り得るのか?」という疑心と「有り得てはならない」という希望的観測に縋っている。

 

 だが、たとえ真実がどうあろうともこれを好機と定めて動く相手は確かにいた。

 

「急電! 防衛師団がワルキューレを発動! 総帥暗殺の下手人を捕らえるとの名目で、首都封鎖を実行しました!」

近衛騎士団(ロイヤル・ガード)も既に動いています! 現在、公王庁舎にて防衛師団と交戦! 公王陛下御自ら指揮を執っております!」

「セシリア妃殿下! ご指示を!」

「ぁ……」

 

 錯綜する情報の中、この混迷を御し切れる立場にあったセシリアは、しかし震える口元を抑えた。

 近衛騎士団(ロイヤル・ガード)が動き、デギン直々に指揮を執っているということ……それは、何よりも先んじて総帥としての権限が戦争遂行の為に移譲されたということを示している。

 総帥府でも、親衛隊でも、セシリアの元にでもなく、公王庁とデギン・ザビ公王の下に第一報が届けられたということは即ち、ギレン・ザビは本当に──

 

「あ、っ──……嗚呼」

 

 ぷつ、と。糸が切れるようにセシリアが膝から崩れ落ちた。

 

「ギレン様……」

 

 総帥とも、殿下とも称さない。

 秘書官として、妃としてでなく、愛した男の名を漏らすのは、何処までも弱い、奪われた女だ。

 視線は彷徨い、声は張りを失い、若さに満ちた美貌にさえ、今は翳りが見えている。

 

「……セシリア様」

 

 震えは止まらず。

 動悸は治まらず。

 悲嘆の暴力によって公人の鎧をはぎ取られ、裸の無力な女となったセシリアの身をエリーゼは抱え、肩を貸す。

 最も敬してきた上官の瞳を横目見てから立たせると、そこからは同性の下士官に医務室まで運ばせたが、見送るまではしない。

『ワルキューレ』は内乱・国内暴動鎮圧を担う作戦であり、政治的中枢たる行政機関は言うに及ばず、決して敵の手に渡らぬよう、何よりも先んじて発電所や通信施設といった都市機能の頸動脈を抑えに来る。

 防衛師団がワルキューレを実行したとなれば、何としてでも可及的かつ速やかに排除に乗り出さねばならない。

 

「親衛隊は防衛師団の掃討を。総帥府は予定通り、全面的なバックアップを確約します」

 

 一介の特務大尉としては過ぎた発言だったが、誰も異を唱えることをしない。

 元より防衛師団が()()を起こす段に入れば、暴力装置たる親衛隊に総帥府が組み込まれることは既定路線だったのだ。

 出鼻を挫かれるどころか()()()()()を潰された形だが、一つの頭が潰されようと、他の頭が新しく生え、死に絶えるまで動くのが組織である。

 尤も、今回のギレン・ザビ暗殺に限らず、潰されてから生えた頭が以前より上等たり得る可能性というものは限りなく低いが、失われた頭を憂うのは全てを終えてからでいい。

 嘆き悲しむという()()など、潰された側に存在しないのだ。

 

「ミノフスキー粒子散布濃度は?」

「戦闘濃度です……ズム・シティ全域のインフラは完全に死にました」

 

 総帥府とて防衛師団と矛を交えるのであれば粒子散布を行った後、有線交信だけで動くのは織り込み済みだったので構わない。しかし、屋内だというのに嫌に冷える。

 

「零下五〇……いえ、六〇に届く勢いです……っ」

「気象管理局が乗っ取られましたか……他は?」

「法務省、財務省、宇宙港との通信途絶。占拠されたと見るべきです」

 

 占拠された行政区は、奇襲による各個撃破を受けたと見て間違いない。

 何しろ防衛師団反乱に備えて配置されていた部隊は、すべからく市街地戦を想定していたのだ。

 鼻水どころか兵器・小火器類の潤滑油さえ凍る極寒地獄では、満足に戦う事すらままならなかっただろう。おまけに宇宙港をも抑えられたということは、退路さえ断たれたことを意味している。

 

“敵ながら天晴ですね、シュレッサー閣下”

 

 流石はセシリアがかつて師事しただけのことはある。おかげで総帥府に詰めた人員は中世紀の連絡将校宜しく、足で情報をやり取りするしかなくなってしまった訳だが、加えるにこの寒波だ。

 下手な格好で屋外に出た日には、指先から壊死しかねない。

 

「冬季戦装備の備蓄は?」

「親衛隊の員数分は確保しておりますが、最優先は突撃機動軍ですので……」

 

 それはそうだろう。冬季だからと言って戦争が小康状態に陥るような事態は、西暦まで遡っても遥か過去だ。

 連邦地上軍がいつ攻勢に動くか未知数であった以上、遥か後方の本国まで余剰を確保する余裕はなかったのだ。

 八方塞がりに等しい窮地。憔悴と不安の二重奏に、司令部は汗を滲ませるばかりだった。

 相手の指揮中枢を暴力によって叩き潰すのではなく、機能不全に陥らせることによって、破壊と同様の成果を得る防衛師団の狡知は、総帥府の首元を恐怖で絞っていた。

 あらゆることを為し得る実務の館だった筈の総帥府が、陸の孤島と化すなど悪夢にも等しいが、それを打ち破るように防寒装備一式に身を包んだ将官が、悠然と司令部へと入り込んだ。

 デスクワークがたたって腹回りこそ嵩んだものの、尚武の気質は衰えておらず、恰幅の良い身体は未だ前線でも十二分に動けるだろう。

 狼狽を窘めるような昂然とした歩みの音は、耳にした全員の時間を動かした。

 

「手を焼かされておるようですな」

 

 作戦群長──ランバ・ラル。

 総帥府内で待機していた彼が、如何にして親衛隊内でしか入手できない筈の冬季戦装備を確保し得たか。その解答は間を置かず、背後に控える兵・下士官が運搬した物資によって明らかとなった。

 

「ヨーク長官からの土産です。各々、存分に勤めを果たされますようにと」

 

 

     ◇

 

 

 フィーリウス・ストリームに託されたイワンからの冬季戦装備というカードは、秘密裡にストリーム家に搬入された上で、いざという時の切り時を待っていた訳だが、さしものフィーリウスもここまで防衛師団の動きが早いとは思わなかった。

 

“自分達の本国到着が遅れていたら”

 

 或いはフィーリウス家に働きかけた上での、ランバ・ラルとの調整が遅れていたら。

 一歩遅れた先の()()()()を挙げれば切りがないが、フィーリウスとしても本当に肝を冷やした。

 

『ですが、その甲斐がございましたな』

 

 家中として侍る二人組の片割れ……ガイウスのドワッジがフィーリウスの搭乗するガルバルディの肩に手をかけつつ労う。

 気安く接しているのではなく、ミノフスキー粒子影響下においての数少ない交信手段である『接触回線』を用いる為だが「……君とバネッサの働きもあっての結果だ」と、返したフィーリウスの反応は鈍い。

 心ここにあらずという訳ではなく、さりとて実戦の緊張からでもない。

 

“僕にも、将来これだけのことが出来るようになるだろうか?”

 

 遥かな高みから全てを睥睨するように、敵の思惑を完璧に見抜き、その上で対抗策を講じて見せる手腕……。

 陰謀の臭気に対する鋭敏な嗅覚と対処能力というものは、枢要なる地位に就く将にとって必要不可欠な技能だが、これほどまで完璧に手を打ってしまえるのは、味方ながらに背筋が凍る。

 

“……だからこその怪物か”

 

 敵でなく()()からの畏怖となれば、それ相応の理由が宿る。

 ペズンに居た時も何度となくイワンの戦略眼の鋭さを痛感したものだが、自分達以上に防衛師団の驚愕は著しいものだったに違いない。

 師団内で第一線を張れるのは、シュレッサー麾下の大隊のみ。連邦から派遣された工作員や特殊部隊は相応の数に上るが、それとて寒冷地と化したズム・シティで親衛隊と総帥府の動きが鈍る事が前提だった筈なのだ。

 

“実際、序盤は完璧に防衛師団と連邦のペースだった”

 

 MS(モビルスーツ)を除き、組織も装備も人員も、全てが機能不全に陥った。

 旧ダイクン派……いや、連邦に組した以上、今やクーデター派と称すべき一派は行政区を悉く掌握し、各個撃破を成功させた筈だというのに、圧倒的優勢は畳みかける様な反撃で覆りつつある。

 

 ──今、正に。無数の屍の上に立つガルバルディがそれを証明している。

 

『早速、次がおいでなすった!』

 

 舌なめずりつつガイウスがドワッジのホバーを駆動させる。

 防衛師団が駆る機体はザクⅡと言えど、高機動型と現行最新の改修が為されたFZ型だ。

 如何に陸戦型ゲルググと並び、陸戦最新機種として特化されたドワッジを駆使していると言っても、決して油断していい相手ではないが……。

 

『温いんだよ』

 

 氷上を舞うスケーターを思わせる、ドワッジのホバー移動。

 FZ型のマシンガンを回避しつつ、首都機能を無為に破壊せぬよう用意されたドワッジの白兵装備たるシールド・ランスが深々とFZ型のコクピットを貫いた。

 飛沫くオイルの量は凄まじく、血の赤色は見えなかったが、決して中は覗くべきでないだろう。

 元は同胞だった相手を手にかけてしまったのだという感傷はガイウスには無縁だったが、たとえ彼以外でも斯様な時間の無駄遣いは出来なかったことだろう。何しろ敵は一人でなく複数で、特に敵MSの量が多い。

 シールド・ランスを引き抜くタイムラグを逃さず、後続のFZ型二機が仕掛けにかかるが、それこそガイウスの狙いであり、意図しての釣り出しだった。

 同じジオン機として火器管制システムが共通している事を武器に、破壊したFZ型のサブマシンガンを鹵獲。

 FZ型二機に牽制射を加えながら、意図して発射間隔に間隙を作ってやれば……。

 

『お見事』

 

 掃射の()()()を潜り、バネッサとフィーリウスがたちどころに二機を屠る。

 防衛師団も相応の手練れだが、多少腕に覚えがある程度ではキマイラという『本物』に揉まれたフィーリウス然り、家中として侍る以前は一週間戦争で戦功を重ねたガイウスらの敵ではない。

 フィーリウスが仕留めたFZ型も中々だったが、モニターからの視覚情報に頼り過ぎていたのが動きで分かる。

 宇宙港を傷つけぬよう、懐に飛び込んでから出力を絞ったビーム・サーベルが正確にコクピットを穿ち、床に沈めるまでの時間は交戦から六秒。

 余りに鮮やかな手際だが、これは決闘でなく実戦である以上、本当に重要なのはここからだ。

 

“宇宙港さえ取り戻せば、連邦からの増援ないし、撤退を余儀なくされた防衛師団は袋の鼠だ”

 

 クーデター派は逃げ道を塞いだつもりだったかもしれないが、状況さえ覆れば連中の退路そのものを断てる。

 整然たる隊伍を保ちつつ、フィーリウスは勝利の鍵を握っているのが自分達なのだと気を引き締め直す。

 防衛師団にとっても宇宙港は生命線だ。師団のMS(モビルスーツ)隊も、当然ここに集中している。何より……。

 

『ほう。君達が一番乗りか』

 

 発せられる音声と共に、純白の機体が前に出る。

 

『ヴァイス・ローゼ! 大隊旗機自らお出ましか!』

『フィーリウス様! ここは我らが!』

 

 ガイウスもバネッサも、最高戦力に最高戦力をぶつける気はない。

 防衛師団の腕はここまでで十二分に理解できた。まかり間違っても自分達の主君が有象無象相手に戦死することは無いだろうが、この相手ばかりは別だ。

 

 アンリ・シュレッサー直轄、首都防衛MS大隊の長、ランス・ガーフィールド。

 

 地球侵攻の列に加わったなら確実にジオン十字勲章を賜り、英傑の一人に数えられたであろう戦鬼の一人だからこそ──

 

『──確実に死んで貰うッ!』『ここで散れ白薔薇ァ!!』

 

 大音声と共に躍りかかるのは、フィーリウスでなく自分達に意識を向けさせるためだろう。それを理解しつつも、ガーフィールドは敢えて後方のフィーリウスではなく、眼前に迫る二機のドワッジを相手取る事を選択した。

 ガイウスが後方の援護射撃で足を止めさせてからの、白兵戦に持ち込んだバネッサの突撃槍(ランス・チャージ)。これ以上なくセオリーに徹した堅実な戦法であり、何より射線の正確さと弾幕の厚さもまた一級だ。

 足止めなどと言わず、ガイウス一人でも十二分に首級を獲るに値する動きである。この、二刀流の戦鬼相手でなければ、だが。

 

『良き従士達だ。殺すには惜しい』

『……っ!?』

 

 サッカーボールを蹴るように、既に息絶えたFZ型の胴が勢いよく蹴り出される。それでバネッサの突撃が止まる訳ではないが、ガイウスの弾幕に関しては身を隠す盾としてこれ以上ない程機能した。

 一秒か二秒、数十トンもの超硬スチール合金の塊でさえ、即座に体勢を立て直して移動した火線を阻む時間としては限度だっただろうが、それで十分。

 甲冑の隙間を縫い、骨肉を断つが如く横薙ぎに振るったガーフィールドのヒート・サーベルがバネッサ機の膝から下を一閃。

 慣性に従ってバランスを崩したバネッサのドワッジが遥か彼方へと転がるのを見向きもせず、ガーフィールドの専用機〈MS-07B3〉グフ・カスタム(ヴァイス・ローゼ)が火線の先に立つガイウスへと跳躍する。

 

“間合いを詰めるにゃ良い動きだったが、そりゃ悪手だぜ!”

 

 バネッサが転がったのは敢えてであり、背後を確認しなかったのはガーフィールドの落ち度である。シールドを前面に出して受け身を取り、前転の要領で機体を転がしてから、無防備となったヴァイス・ローゼの背部に投げ槍の要領で投擲された巨槍が迫る。

 

“バネッサを舐めたなぁ白薔薇……!!”

 

 ヴァイス・ローゼの右のヒート・サーベルが、防御姿勢を取ったガイウス機の盾に深々と切り込まれるのをガイウスは見て取った。盾がバターの様に断ち切られるまで数秒足らず。

 しかしてその数秒。跳躍から全体重を乗せての一撃と言えども、数秒の時間を要するなら、それは紛れもなく『硬直』であり隙なのだ。

 

“勝った!”

 

 ガイウス、バネッサの両名とも、勝利の瞬間を幻視した。

 何処までも皮肉な事に、槍の名を冠したファーストネームの持ち主が、騎士の槍で背中を貫かれ、無残に散る未来が確定したと疑わなかった。

 

 だが、それを。その未来が覆されると確信した者が二人いた。

 

『並の専用機(エース)相手なら、成功しただろう』

 

 全身の姿勢制御バーニアを駆動させ、斬り付けながら宙を回転。ガイウス機の盾を腕ごと持って行きながら、さながらワイヤーアクションの如く回転しつつ背後の槍まで左の炎刀で断ち割って見せたヴァイス・ローゼの動きは、血肉の通った人間以上の、銀幕のアクション・スターを思わせる動きだったし、直接目の当たりにしたガイウスとバネッサでさえ、目の前の光景は信じ難かった。

 これが、こんな動きが疑似重力下の、数十トンもの重量を誇るMS(モビルスーツ)に成し得る動きか?

 たとえ互いに示し合わせた、曲芸飛行やサーカスの類でも不可能と思えるような、実戦の中でさえ思わず口を開けてしまいそうになる絶技は、しかし次の瞬間には自分達に死を与える死神の鎌に他ならない。

 片腕を捥ぎ取ったガイウスを屠るべく追撃を掛けようとした刹那、確実に殺めることが出来ただろうその瞬間に、ガーフィールドはヒート・サーベルの軌道を変えた。

 ガーフィールド以外に、この二人が敗れると予見してしまった少年、ガイウスを救うべく猪突したフィーリウス・ストリームへとだ。

 

「させないッ!!」

『それがガルバルディか』

 

 初めて見たよ、という呟きは驚きより好奇の色を孕んでいた。

 高熱化されたヒート・サーベルと質量を伴わない筈のビーム・サーベルが衝突し、鍔迫り合いが発生したが、そちらに関しても両者ともに驚きはしない。

 高熱に伴ってプラズマ化した刃の磁場と、ビーム・サーベルの刀身を形成する力場(Ⅰ・フィールド)が反発し合うことで生じるこの現象については、既に公国軍内では常識と言って良い情報だった。

 だからこそ、ここから始まるのは剣劇の応酬であり死の舞踏だ。

 踏み込み、いなし、躱し、捌く。共に命を奪うべく刃を交える度に、火花のように散ったガルバルディのビーム・サーベルの粒子飛沫が干渉した建造物やアスファルトをたちまちの内に溶解させる。

 刃の攻防は一進一退と思える巧みさだ。未だ互いに余力も残し、忠実な愛機も酷使に耐え得る万全の状態を維持していたが、しかし勝利の天秤は傾きつつあった。

 フィーリウス・ストリームにではなく、ランス・ガーフィールドにだ。

 

“グフ・カスタムで、こんな動きが!?”

 

 こと戦場において、接敵しての白兵戦などというものは、如何に有視界戦闘であっても市街地やジャングルといった環境以外では稀である。

 有史以来、人はより遠くから、一方的に相手を屠ることの優位性を理解してきた。剣には槍を、槍には弓を、弓より遠くに達する銃や砲を発明してきたし、原始の時代からして人間は投石(スローイング)という武器を最大限に活用してきた生物なのだ

 決して反撃を受けぬ『距離』の概念に忠実であったからこそ、戦史の中でもその進化と発展に従順だった。

 フィーリウスがペズンで搭乗したギャン然り、近接戦闘を主体としたグフや、その発展形たるグフ・カスタムは、確かに有視界戦闘によって戦闘距離の短縮に伴うMS対MSを想定したものではある。

 現に今も、市街地戦においてフィーリウスとランスフィールドは剣を交えている。

 しかしだ。グフもグフ・カスタムも、MS黎明期の中で発生し得る状況を見越しての『試験機』として、データ収集を主目的に開発された少数生産型に過ぎない。

 グフ・シリーズの総生産数は派生機を含めて二〇機も満たず、第一線を張る欧州では整備性の観点からも正式配備に至らなかった。

 戦線の安定した北米で実験を繰り返すばかりの、試験運用機に過ぎなかった機体なのだ。

 防衛大隊の大隊長機としてランス・ガーフィールドの元に来たのも、市街地戦を想定しての受領というより、前線からの払い下げであることや、その外観が大隊機として映えたといった俗な理由からである。

 だからこそ、そんな機体だからこそ、フィーリウスには衝撃だった。

 殺人的なGから強化体専用機として位置づけられたガルバルディは、無論のこと軍用機としてあらゆる距離に対応しているが、グフ・シリーズやギャンから収集されたデータを基に設計された、近接戦闘の最新機種でもある。

 圧倒的な性能差。耐G適性を有するフィーリウスをして全身にかかる負荷は並大抵のものでなく、当然ガルバルディの機動は並の現行機では追いつけない。

 

“だというのに……っ”

 

 あろうことかガーフィールドは、ヴァイス・ローゼはガルバルディの猛攻をものともしない。

 さながらブレードの付いた独楽のように双剣を手に回転し、目にも止まらぬ速度で以て、フィーリウスを追い込みにかかっている。

 

『ガイウス! そこから狙えるか!?』

『駄目だ! こっちも見えてやがる!』

 

 糞っ、とバネッサは舌打った。ただフィーリウスを追い込むばかりではない。残る左腕で鹵獲した銃を手に、援護の火線を張る機会を窺っていたガイウス機の奇襲を理解した上で位置を調整し、フィーリウスを壁とするように立ち回っていた。

 IF(たられば)の話をすべきではないが、もしも正史と同じ状況にあったなら、ガイウスとバネッサだけで勝負はついただろう。

 運悪くフィーリウスと戦うことになったとしても、ペズンで正史以上の経験を積み、研鑽を重ねたフィーリウスであったなら、勝利することも十分に適っただろう。

 だが、今の。このランス・ガーフィールドには正史と異なる点がある。

 本来戦傷によって失われた筈だった片腕……隻腕というMSパイロットにとってのこの上ないハンディキャップとなり得た筈の弱点が、地球侵攻に加わらなかったためにそのまま残ってしまっていることだ。

 尤も、たとえ片腕を失う事態に見舞われたとしても、この世界の再生医療はガーフィールドに再び片腕を授けたであろうから、いずれにせよ五体満足であったことに変わるまい。

 

 そう、最早結果は覆らないが、イワン・ヨークは読み違えた。

 イワンは「これで十分だ」とランス・ガーフィールドを侮った。

 

 正史において、隻腕でガルバルディを相手取った稀代の戦鬼に対し、二機のドワッジを追加した程度で片付くなどと言う『油断』を見せるべきではなかった。

 真に勝利を欲するならば、例え周囲に反対されようともエリック・マンスフィールドを本国に残すべきだったのだ。

 だからこそ、その愚かなツケは、実力を読み違えたという痛手は、戦場に立つフィーリウスが一身に背負う羽目になる。

 準備万端だと。確実に勝てるだけの戦力を与えてくれたにも拘わらずと……読み違えた長官(バカ)ではなく、自分の未熟さ故に追い込まれているのだと誤認したまま健気に奮戦を続け、徐々に防戦へと追い込まれていく。

 薄皮を一枚ずつ剥くように。

 ヤスリで削り落としていくように。

 じわじわと、着々と。しかして反撃のタイミングや攻守を逆転させ得る隙や間隙など微塵も存在しない、明確な実力差によって生じた、詰将棋めいた攻防戦。

 絶望の黒い染みが、心を蚕食するのを感じていたフィーリウスは、予定調和の如く重心を崩された。

 無念さに歯噛みする。迎える死そのもの以上に、エリックとの約束を果たせなくなることの自責に心が潰されそうになるフィーリウスに、ガーフィールドは手向けを贈る。

 

『悲嘆することはない。私が相対した強者の中でも、君は三指に入る戦士()()()

 

 その過去形を真実とするように、灼熱の刃がガルバルディに迫った。

 




 イワン君、まさかまさかの「戦力調整ミス」とかいうクソガバをやらかしてしまった模様。

イワン「だってそんなに強いとは思わないじゃん!? バネッサちゃんだって、原作で『ドワッジなら勝てた』って言ってたじゃん! 僕悪くないもん! 僕悪くないもん……!」

※なおガーフィールドが隻腕で三〇分以上ガルバルディ相手に戦って、最後の最後で敗北したのも、フィーリウス君に勝ちを譲っただけのバケモンであることを失念していた模様。

 取り敢えずフィーリウス君は、この長官(バカ)の背中を蹴っていい。

※ちなみにガーフィールドさんが三指に入るって言った人物の残り二人は、本国勤務経験のあるエリックとギリアムです。
 もしイワン君が直々にガーフィールドの相手するか、模擬戦を直接見てたらフィーリウス君じゃ勝てねーのは理解できてたと思います。
 エリックは、フィーリウス君とガーフィールドのバトルを予想してなかったのかって?
 流石にフィーリウス君じゃなくて、ギリアムが相手して勝つだろって思ってたんじゃないっすかね? 親衛隊にしたって、ガーフィールド相手に下手な奴ぶつけたらまずいのは理解してた筈ですし。

 なお一般親衛隊員は、イワン君が送り付けて来た虎の子&ドワッジ二機を過大評価しまくった模様。
 うん、まあ、従者も一週間戦争で活躍した猛者だし、キマイラ同様ペズン送りになった天才少年パイロットが最新鋭機引っ提げてきた訳だから、そりゃあ親衛隊の評価も已む無しっていうか、全部イワン君が悪い。

親衛隊「長官が寄越してきた虎の子や! 勝つる、これは勝つる!!」

※なお長官は盛大にガバった模様。あのさぁ……。
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