敵砲の至近弾の余波を受け、全身を泥と土埃で汚すジョーは、まるで土砂降りの空模様を見るようにげんなりと、しかし、精々が雨でずぶ濡れになることを心配するといった程度の心持ちで塹壕に座り込んだ。
どちらかと言えば、咥えた紙巻がお釈迦になるか、火が消えてしまう方が余程重要だと言わんばかりの胆力を、頼もし気に
「毎度毎度、小陣地に大袈裟な仕事だ」
「
うげぇ、と冗談めかして眉を顰め、自分は死んでも御免な職場だと渋面を作ったモローも、同じく座り込んで愛用のジッポーで火を灯した。
「どうです? キャプテンも一つ」
真鍮製のシガレットケースから差し出された兵隊煙草は、馴染み深い連邦でなくゼオンのそれだ。
「何処で手に入れたんだ?」
「捕虜と交換したんですよ。連邦一箱で、三箱くれました」
「味は期待できないな」
言いつつも有り難く一本受け取ったジョーは、葉の臭いを軽く嗅ぎ、そこから咥えて火を点けたが、癖の強さに思わず顔を顰めてしまった。
「臭いも味も、癖だらけどころか癖しかないぞ……、これ」
「そりゃあ曲者の煙草ですからなぁ」
北米が陥ちてからこちら、質が悪くなる一方だとヴァージニア葉でなくなった官給品の煙草に愚痴を零していたものだが、どうやら連邦産はまだマシな部類だったらしい。
それはそれとして、モローのジョークは旨くないが。
「煙草の作り方も知らんから、砲撃も雑なんですかね?」
「言うなよドク。何でもかんでも職人気質にやられた日には、本気で天気が拝めなくなる」
軽い愚痴と雑談、小休止もそこそこに。
折角作ってくれた土煙が晴れる前に、砲撃の間隔を縫って次のポイントに陣取ろう。
「しっかし、懲りんね連中も」
バンザイ突撃さながらに「ジーク・ゼオン!」の唱和が響く彼方に向けて、景気づけとばかりに吸い切った煙草を吐き捨てたジョーは、
対
「行くぞ諸君。いつも通りギロチンに首を突っ込んでの仕事だが、いつも通り勝って帰ろう」
◇
『行くぞ諸君。いつも通りギロチンに首を突っ込んでの仕事だが、いつも通り勝って帰ろう』
「……良いとこで終わったなぁ」
各隊のMS部隊長と中佐以上の将校を招集しての、キャリフォルニア・ベースでの定期会合に合わせ、一週間の特別休暇を与えられていたシローは、深々とソファに背中を預けた。
暗転と共にTO BE CONTINUED.の文字が出てくる黴の生えた演出だが、そうした古臭さも一〇年選手の連続ドラマだからこそできる重みと言える。
余程連邦嫌いの教育を受けている訳でもない限り、『キャプテン・ジョー』は男の子にとっての憧れだ。
火の消えた煙草の吐き捨て方を真似て、舐め終わったキャンディ・スティックの棒を道端に飛ばしたり──当然大人に見咎められた日には、皆拳骨と説教を味わった──玩具の鉄砲を抱えて兵隊ごっこをする時も、皆ジョーの真似をした。
どんなヒーロー番組よりも男の子を夢中にした番組で、公国軍内でも子供の頃から視聴していた将兵は多い。
今まさにため息を零したシローをはじめ、戦時下に突入するまでは、視聴を継続する将兵は多かった……そう、過去形だ。
シローのように、今も熱心に続きを待っている
昔のジョーは、決して自分達が正義だなんて言わなかったし、世界情勢を反映させたこともなかった。
今は地球の大地を駆け回るキャプテン・ジョーだが、彼は大佐だ。宇宙軍の
宇宙海賊や犯罪結社と戦い、人々の暮らしを陰ながら守ってきた
かつては特殊部隊で勲章を稼いだジョーは、ゼオンの野望を打ち砕くべく、降格も辞さず地上軍に転籍し、そこで快進撃を重ねるという路線変更は、当然視聴者を愕然とさせた。
“嫌味なタカ派の提督は、敗責と共に汚名を負ったレビル将軍。犯罪結社に取って代わった悪役が、あからさまにジオンを意識した勢力と来たら、そりゃあファンは離れるよな”
悲しいかな、ここまで悪趣味な政治扇動を行われては、シローのように純粋な娯楽目的でジョーの活躍を見届ける者は、
何であれば
自陣営の正義を主張し、英雄的勝利と勇ましさを喧伝するばかりがプロパガンダ作品ではない。
連邦地上軍に転籍したジョーは、そこで泥と硝煙に塗れる死地とは別の『流儀』を、古参下士官たるモロー軍曹から学んでいく。
雑なレーションを美味くする方法。他部隊との揉め事の仲裁に、部隊間の連携と交渉術……。
大規模な志願兵募集を行わざるを得なくなった連邦にとって、軍隊生活の
“ただ、流石にこの前の奴はやり過ぎだって思ったけどな”
敵対勢力たるゼオンにも、名前付きの登場人物が出てくるが、分けても露悪的な描かれ方をしていたのが、突撃機動軍長官のイワンをモデルにした、ラデク将軍だ。
均整の取れた肉体美と、
間の悪いことに、それがガルシアを含む将官・佐官にも席を置かれての視聴会での回であったから、シローを初め、全員がどっと背中を汗で濡らした。
幾ら将兵から慕われる温厚な北米司令官閣下とて、自分達の長官がここまで虚仮されたとあっては、口角泡を飛ばして激怒するだろうと恐々としたものだが、現実にはそうならなかった。
イワンならぬ、ラデク将軍を目にしたガルシアの実際の反応はと言えばだ。
「……こんな可愛げのある上官だったら、俺は責任の重さで肩こりに悩まされる日は無かったろうになぁ」
憤然とした態度の一つも見せず、心から本音をぶちまけたかのような溜め息とジョークは、凍り付いた空気を完全に溶かし切ったばかりか、爆笑の渦を呼んだ。
隣に腰かけていたガルマですら、このジョークには眉間に寄せた皴を消して口元を抑えたほどである。
しかし、流石に冗談で済むのは一度が限度だと皆弁えている。
視聴会を終えて席を立ったガルシアは『次からは個々人で鑑賞するように』と釘を刺し、自分のディスクも個別に用意して貰うよう従兵に伝えてから執務室に戻ったので、ガルシアとガルマが去った後の妙な静けさを未だにシローは覚えていたし、皆心から「自分達のトップがロメオ将軍で良かった」と胸を撫で下ろした。
ただ、シローの与り知らぬ残念な現実を語るなら──イワンと同じぐらい仕事ができるだけの、手柄を横取りされた何某かが居ることが前提だが──ガルシアは本気でイワンがラデク将軍ぐらい無能であって欲しかったし、そうすれば自分は北米で豪遊できた筈だったのにと嘆いていた。
加え、ディスクを用意させたのも自分が楽しみたいからだ。
それというのも、キャプテン・ジョーに登場したラデク将軍は無能だったが、明らかにガルシアをモデルにしたガメル将軍は、ジョーすら尊敬すべき勇将として持ち上げており、「生まれ変わるなら彼のような男でありたい」と漏らすほど優遇されていたからだ。
都市攻撃を避けつつ短期間の内に北米全土を手中に収め、しかして支配下に置いた後も現地民に配慮を欠かすことなく穏健な統治を行っていることが、連邦をしても『一定の配慮』を示さねばならなかったということだろう。
(そしてその皺寄せは、連邦から無能と見做されているイワンに行った)
蛇足だが、地球から資源という資源を吸い上げているマ・クベの扱いは、有能だが冷笑的かつ計算高い軍官僚で「これはもう本人ではないか」とガルシアが漏らして笑いを誘った。
そのマ・クベもジョーは将兵が視聴する上での認可を得るために、仕事の合間に視聴させられたが──当然他にすべき仕事は山積しているので『ながら観』だが──「イワンを無能と侮ってくれるならやり易い」と、全く意に介しはしなかったという。
とはいえ、こうまで長官を虚仮にされて視聴を推奨するのは難しく、今後は公国産の連続戦争ドラマである『宇宙の荒鷲』をなるべく扱うよう『奨励』された。
“荒鷲のハインリヒ少尉も悪くないし、クオリティもそっちが上を行ってるのは認めるけど、やっぱりジョーだよなぁ”
公国がメガホンを取った『宇宙の荒鷲』は、プロパガンダ作品であると同時に娯楽性を持ち合わせ、『教材』としても利用できるという、明確にジョーへの対抗馬として意識された作品だ。
祖国愛と勤勉さが取り柄の主人公、ハインリヒ少尉は絵に描いたような新品少尉だが、その実、総帥府とサスロ機関から密命を受けて活躍するスパイでもあった。
ジョーのように軍隊生活にまつわる悲喜交々に悪戦苦闘する姿を健気に描きつつも、同時に鋭い洞察力と機転によって、陰ながら師団規模の部隊すら救って見せる。
そしてそれは、地球侵攻に携わる将兵にとっても『教訓話』としても機能していた。
たとえば、ある回のハインリヒは港町に勤務中、クリーニング屋の若い女性とロマンスを体験した。
突撃機動軍の荒くれ水兵達にとっても、マドンナに等しいクリーニング屋の娘を口説いたことで雰囲気は最悪になったが、終盤ではこの娘が、連邦のレジスタンスであったこと。
突撃機動軍の潜水艦が、何時出港するのかを正確に連邦軍に密告していたことが判明し、これには真実を知った水兵や潜水艦の艦長達さえ驚きを露わにした。
『あの娘っ子の正体を、どうやって見抜いたんだ?』
『それについては、彼女がどうやって貴方方の出港日を正確に把握できたのかも合わせてお答えしましょう』
推理小説の名探偵のように、ハインリヒは説明した。
水兵達は入出港する度に、揃って若くて気立てのいい娘に会いたくて、彼女が勤めているクリーニング屋にベッドカバーを持ち込んだ。
持ち込む日と受け取る日を把握している彼女にしてみれば、どれだけ水兵の口が固くとも、情報は連邦に筒抜けだ。
『あの娘さん以外にもクリーニング屋はいましたが、毎回決まって通っているのはあそこだけでしたからね』
勿論娘は無実で、店主や他の作業員が密告している可能性はあったが、それでも娘に自分が接近して店内の人間を把握できれば容疑者は割り出せる。
得意げに……というより、叱責されるだろう水兵達を案じて気の毒そうな表情を浮かべるハインリヒに、理解ある公国士官は「落ち度と言うには酷なことだな」と嘆息して、その回は終わった。
成程、確かに出来のいいストーリーであり教訓だ。シローとて教材として、侵攻軍の立場として視聴を勧めるなら、宇宙の荒鷲を選択するだろう。
しかし、シローの内心が示した通り、本音のところはジョーを推しているし、シロー以外の男達も、プロパガンダ的な部分を除けばジョーが好みだと答えた筈だ。
ハインリヒ少尉は若く、ハンサム
婦人武官の受けを狙っていたからだろう。古き良きスパイ作品特有の、甘いマスクに上品な物腰とクールさは、総帥府の求めるエリート像にも合致するが、それ以上に狙いが露骨だった。
先に語ったレジスタンスのように、女性とロマンスを繰り広げることはあっても短く終わるし、カメラのアングルや姿勢も軍人というより、色気のあるモデルを映す撮り方だ。
後方勤務のオペレーターをはじめ、婦人武官や軍属が挙ってハインリヒのポートレートを持ち歩き、『教材』の名目で視聴したハインリヒの活躍に姦しく盛り上がり続ける。
その上、野戦郵便の配達員も本国のハインリヒ宛のファンレターが家族宛ての手紙より多い現実に頭を痛めている様まで見てしまったシローにしてみれば、これで前線の男がハインリヒに夢中になれる訳がないだろうという話だ。
“やっぱり男ならジョーだな、うん”
何処まで行っても、ハインリヒはシローの中で軍人でなく俳優だ。
糊の利いたシャツに、汗染みどころか
傷口に巻いた包帯が火薬で黒ずみ、緊張で吹き出す脂ぎった汗と荒い息遣いを感じさせてこそ、軍人
ただ、そのようにジョーを持ち上げつつも、自分が思ったほどジョーに夢中でないという心境の変化に、シローは気付きつつあった。
以前なら、前線ですら手が空けば携帯テレビで流し観ていた──ラジオですらコクピットへの持ち込みは軍機違反で咎められるので、当然違反だ──ジョーが、心を占めていない。
その事実を自覚したが、そうなった理由は探るまでもなかった。
「馬鹿だな、俺は」
寝ても覚めても思い出すのは、祝賀会で踊ったアイナ・サハリンの微笑みで、この感情が初恋なのだろうという自覚もあった。
しかし、相手はお姫様も同然の身分である。
二級ジオン十字勲章を下賜された時点で、公国国籍が与えられていたが*1、対してシローは所詮平民。
グレーデン特務中佐の後釜として、現時点での北米最強などと軍事公報で持て囃されようが、サハリン家の家格には釣り合わない。
もし、そんなシローがアイナと結ばれたいなどというなら方法は限られる。
途方もない金銭をつぎ込んで、爵位を買うこと。もう一つは……。
“一級ジオン十字勲章を、掴むしかないよな”
最も現実的な手段であり、シローが採れる選択肢も他にない。
一級ジオン十字勲章受章者が得られるのは、爵位の中でも最下級たる騎士候。土地は得られず、一代限りで名誉だけの叙爵だが、ことジオン公国において、武官・文官が
不名誉除隊や公職追放といった憂き目に遭わない限り、退役・退職後の地位に応じた騎士勲章受章は確定し、叙勲後は公王家の催す式典に参加を許される。
並居る高位顕職さえ押し退けて英雄として讃えられ、栄華を極める貴顕の世界ですら、陶然としたため息と共に一目置かれる存在だ。
金では買えぬ名誉だからこそ、皆の目を奪い尊敬される英雄として胸を張れる。二〇代で少佐というエリート街道に乗った実績も含め、家督を継がぬ入り婿という立場での求婚とあらば、サハリン家が応じる可能性は十二分にあった。
何より、グレーデンの見立てもそうだが、シロー自身皮算用でも傲慢でもなく、一級ジオン十字勲章を掴もうと思えば掴めることは理解できていた。
攻勢に出るにせよ、防衛戦を行うにせよ、機会にさえ恵まれれば戦果は見込める。特殊部隊に転籍して激戦地に赴けば、ふた月とかけず一級を首に下げることも能うだろう。しかしだ。
“それこそ、馬鹿げた考えってやつだ”
ガルシア・ロメオ北米総司令官からかけられる期待。
イアン・グレーデン特務中佐から託された大隊。
固く結びついた部下との絆。
それらを顧みることなく、己が栄達の為に戦果を求め、活躍しようなどと、考えるだけであっても許されないことだ。
“俺がここまで来たのは、俺だけの力じゃない。アイナと踊れたのだって、ロメオ閣下の口利きあってのものだ”
支え合いながらの道を忘れ、恩を忘れ、我欲に心揺れかけたことを恥じる。シローが
──悪が戦争に勝ってはならない。
理想に燃え、青春を捧げ、心に誓った青臭い理想……けれど、同期の皆は誰もそれを笑わなかった。
暁の蜂起の折にはガルマ直々に「心は同じだ」と肩を叩かれた。
イワンからも「貴官の決断に感謝している」と、在学中に握手さえ求められた。
心が熱くなるかつての日々。新品少尉として士官服に袖を通し、卒業してからアイナと出会うまで、片時も忘れまいとした信念が、一夜一曲の時間で乱れかけたことを自戒しながら立ち上がる。
“区切りをつけなくちゃな”
英雄になれば、勲功を得れば、そんな性根で戦争をやって良い筈もなければ、手柄を土産に求婚しようなどと考えることも浅はかだ。
“今の俺の気持ちを、そのまま伝えれば良い”
振られるかもしれない。貴顕の身である以上、婚約者がいても当然の相手だ。けれど、たとえそうだとしても、それが逡巡する理由にはならない。
祝賀会の時と同じく第三種戦闘服を纏うが、勲章の類は佩さない。
地位でなく、名声でなく、一人の男として伝えたい想いがあるからこそ、ここは決して譲れなかったから──。
◇
『隊長……っ』
「『よくやった! 後退しつつ食い止めるぞ!』」
接触回線で限界を告げてきた副官に対し、もう十分だと声を張りながら、一機たりとも損耗を出すまいと
安定した戦線、安定した統治。それを突き崩す連邦地上軍の大攻勢を阻むべく最前線に立つのは、ホワイト・グレーとブルー・グレーを専用機体色として塗装された、シローの愛機たる陸戦用ゲルググだが、旗色は悪い。
どうしてこうなった、とは思わない。
地球連邦の国力・軍事力は過小評価できるものでなく、ジオン公国の技術的優位を覆すだけの準備を整えれば、攻勢に動くのは突撃機動軍も織り込み済みであったし、何よりも地球連邦にとって、公国軍以上に時間は敵だった。
“人口そのものは宇宙の方が圧倒的で、年単位の養成を必要とする筈だった
数の差は埋まりつつあった。戦略兵器たるアプサラスさえ完成し、量産体制を整えればジャブローは苦も無く陥ちる筈で、遅くともひと月以内には、公国軍の全兵力を結集しての、大規模攻勢に動く筈だったが、さしもの連邦もそれを座視する気はなかったという事だろう。
アプサラス計画がどれだけ極秘裏のものだったとしても、情報というものは抜かれるものだ。一週間戦争のように、ミノフスキー粒子と
何しろ、公国軍にしてみても、連邦のMS開発計画を察知し、対
“そりゃあ動揺するよなァ!! お前らが隠してきた
地球連邦製量産型
ジオン訛りの発音であれば、
“九〇ミリの実体弾でも、
一週間戦争でルナツーを奪取された以上、貯蔵量には限界があったのだろう。或いはエース機には盾のみならず、装甲全体にルナ・チタニウムが回されている可能性があるが、それでもやることは変わらない。
実体弾を装備したMSに、移動射撃による牽制射を続けさせる。
足を止めさせるか、そうでなくとも動きを鈍らせたところでゲルググのビーム兵器ないしは、ドムのビーム・バズーカで潰す。
それが、GMとの戦いを想定し、突撃機動軍が確立させた
同数ならば苦も無く潰せる。
倍であっても最小限の被害で勝てる。
三倍で来られたとしても、戦線を維持しつつ敵を撤退に追い込めるだけの自信があった。
“だが、この数じゃあな……っ”
口にできない弱音を心の奥底で吐き捨てる。シローのように、ジャブローの防波堤として機能してきた虎の子のMS増強大隊でさえゲルググ、ドワッジが行き渡っている訳でなく、半数はドムどまり。
各戦線の最前線に立つ部隊はともかく、後方に下がるにつれて、高機動型ザクⅡの割合が増えていく一方で、それはつまり、シロー達が抜かれれば、撃ち漏らした連邦が奥に進めば進むほど、連邦は楽ができてしまうが、それには相応の理由があった。
言っては悪いが、北米という土地は戦線としては第二線……西暦時代からの超大国という政治的要衝であり、大規模な軍事工廠が至る所に設置されていたという軍事的アドバンテージこそあったものの、石油や鉱物資源の埋蔵量では欧州に劣る。
宇宙という、あらゆる物資に限界がある土地からやってきた、外征軍たる公国にしてみれば、北米は連邦に対しての心理的ダメージと、何よりも突撃機動軍が、『地球という環境に適応する』為の訓練場として、最も有効活用できる土地だったからこそ確保したに過ぎない。
温暖な気候、大規模災害はあれど対処可能な範疇で、外征によるストレスに陥った兵を慰撫できるだけの先進国特有の物的娯楽の充実に、敵地でありながら軍備を拡張・発展させ得るアナハイムの軍事工廠……。
あらゆる意味で、将兵を地球に『適応』させる上での理想的環境に他ならず、シローやフェアリー隊のように、第一線を維持する上で外せない熟練兵を除けば、大半はひと月ほどで欧州に転属してしまう。
要は、欧州という第一線に対する、ピストン役の土地なのだ。
“だからこそ、何が何でも食い止めなくちゃならないって訳じゃあなかった!”
既存戦力で防ぎきれないほどの、連邦地上軍の大攻勢が発生した場合、シロー達は後方に下がりつつ、宇宙に脱出。
北米を宇宙からのマスドライバーで蹂躙してから、北米方面軍は欧州に移送される筈だったし、欧州でも同様の事態が発生すれば、同じことをしただろう。
資源と土地は確かに魅力的だが、熟練兵はそれらに勝る。
戦略的価値の天秤を見誤ることなく、公国軍参謀本部と総帥府は各方面軍に的確な指示を下したことだろうに、どういう訳か、どちらも沈黙したままだ。
“本国が、ズム・シティが陥ちたってことはない筈だ……もしそうなら、ロメオ閣下が将兵を纏めて意見を募る”
『戦後』というものを常に頭に入れて、それを意識して行動しろと口を酸っぱくして言い続けた名将だ。
たとえ公国本国が陥とされたとしても、残存兵力を束ねて動けるよう先手を打ってくれる筈で、しかし、そのガルシア直々の命令はと言えば……。
『隊長! 狼煙は〈青〉です!』
「『ああ! 見えている!』」
戦線維持に固執せず、機動防御に徹して後退せよという大雑把な指示。しかし、陣地に拘泥して部下を死なせる愚を犯したくなかったシローにしてみれば、これ以上ないほどの朗報だ。
“何より、俺自身もまだ死ねない”
認識票と共に、首に下げられた懐中時計……懐古趣味の中に公国人特有の装飾過多が目立つそれは、最前線に発つシローに、アイナが『貸して』くれた物だ。
──ご無事のご帰還を信じております。どうか次は、貴方からダンスに誘って下さい──
あの瞳も、赤らんでいた頬も、自分の錯覚だとは思っていない。強く胸を張って、勢い良く頷いて、固く誓った想いを、窮地の中で雄々しく叫ぶ。
心に描いてきた英雄、キャプテン・ジョーよりも力強く。
「俺は生きるっ……生きて、アイナと添い遂げる─────…………!!」
シロー君とアイナさんのロマンスは、散々原作(08小隊)で皆観てるから、カットでおじゃる(無慈悲)
……ホントはキキをヒロインにしたかったけど、あの子原作で居るのはアジアだし、それにしたってあちこち逃げてきた結果で、元々何処にいたかも不明だったから登場させれんかったよorz
あ。キャプテン・ジョーとハインリヒは小説版の08小隊で出てきます。
(この作品だとかなりオリ設定ぶち込んでますが)