宇宙(そら)に掲ぐ旗の名は   作:c.m.

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84 荒野に雷鳴は消えて

 荒野の迅雷、ヴィッシュ・ドナヒュー中尉の置かれていた状況を語るなら、決して己の不運や不幸を嘆くようなものではなかったことは確かである。

 戦線は遅滞戦闘を貫徹し得るだけの防備を固め、ドナヒュー自身はエースとして陸戦用ゲルググを受領したばかりでなく、直掩機にさえ部隊連携を維持すべく、ドナヒューと同様に陸戦型ゲルググが配備される厚遇ぶりであった。

 

 こうした格別の高配にも拘わらず、ドナヒューが未だ中尉の階級にとどまっているのは、何も上官がダイクン派であったことから来た冷遇故でなく、教官職として部隊間連携を叩き込む立場を堅持したために過ぎない。

 教官という代え難い立場にありながら、防衛戦を担うなど非常識極まるが、退路を断たれている以上、戦力足り得る人間が退避など論外であるし、何より、祖国の趨勢が決まる天王山にあって後方に身を置くなど、ドナヒューの矜持が許さなかった。

 

“特に、まだ青い奴らが身を削りながら耐えているとあってはな!”

 

 ドナヒューから学び、北米から欧州に赴く者達は、揃いの具足を楽しむかのように、乗機の盾や肩に風神雷神のエンブレムを描く。

 それはドナヒューが与えた訳ではなく、『卒業生』達から提案され、当人の意思とは無関係に『伝統化』したものに過ぎなかったが、見送るドナヒュー自身、面映ゆさの中に誇らしさを覚えたのも事実である。

 しかし、この防衛戦にあって風神雷神のエンブレムが描かれているのは、直掩機のゲルググを除けば二個小隊(六機)にとどまる。

 ドナヒューと直掩の二機を含めれば、中隊規模は確保できているが、一抹の不安は拭えない。ドナヒューが心中で述べた通り、北米で戦う多くは、まだベテランとは言い難い者達だ。

 

“かといって、これでも多い方だ。贅沢は言えないな”

 

 元より防衛戦となれば、遅滞戦術を遂行して、宇宙(そら)に逃げる手筈だったのだから当然である。

 今すべきは無い物ねだりでなく、工夫を凝らして損耗を減らし、欧州からの増援が到着するまで持ち堪えることだ。

 

「皆、よく戦ってくれている」

 

 血気盛んとは言い難い、ナイーブな思いがドナヒューから漏れたが、吐露したのは賞賛交じりの本音だった。

 火の絨毯を敷き詰めたような連邦軍の空爆を阻むべく、航空機のみならず防空隊も高射砲をばら撒き続け、施設と陣地……何よりも宇宙と異なり、重力の鎖に繋ぎ留められたMS(モビルスーツ)を守るべく努めてくれている。

 

 過去の戦史がそうであるように、後世に北米攻防戦を綴るであろう分厚い書物の中では、死に物狂いの彼らの努力は、ほんの数行の、或いは一言で片づけられてしまう程度のものでしかないのだろう。

 しかし、『陣地防衛に徹す』という戦史の、紙文の一言にどれほどの人命が擲たれ、祖国と愛する者の未来を懸けて戦う将兵が居るのかをドナヒューは知っている。

 

 本来、後世に伝えるべきは指導者の偉業や将軍の名言でなく、彼らのような名もなき人々の勇気なのだ。

 後世の人間は、彼らがどのサイドの出身なのか知らない。

 何バンチに生まれ、どのような家族を持ち、誰を愛し、誰を憎み、誰を想い死んでいくのかを知ることはない。

 後世の劇作家や大衆は、『歴史を作る人々』の枠に彼らを入れてはくれないだろう。

 

 今、未来を本当の意味で作ってくれている彼らの犠牲も、後世の人々は俯瞰図と数字の羅列でしか捉えてはくれないのだろう。

 戦死者も、戦車や高射砲といった兵器の損耗も、書物の中では○○人、○○台といった数字でしかない。突破された陣地も、簡易な図面と矢印で示されるだけで終わってしまう。

 

 だが、そこには確かに彼らが命を懸けた結果の、凄惨な光景があったのだ。

 

 阻止力を失った最前線の衝突部では、何十にも張られた鉄条網が戦車で踏み砕かれていた。

 殷々(いんいん)と轟く両軍の砲声は、遥か彼方の相手の鼓膜を騒音で乱すためでなく、人間を四散させ、兵器を破壊するためのものである。

 破れた鉄条網には、誰の物かも分からぬ吹っ飛んだ人間の手足が共に絡まっていた。

 非番の将兵が嗜好品を買いに集まり、苛立ちながら列に並びながらも、品を受け取った矢先には満面の笑顔で去って行く……そんな洒落た酒保があった一角は、堅牢だった筈の砦と共に、崩れたコンクリと折れた鉄骨の山になっていた。

 

 それでも公国軍将兵は、峻厳な精神と職業倫理で以て、死の恐怖に臆することなく連邦軍の猛攻を耐えている。

 勝敗の別、或いは指揮の成否に拘わらず、この光景を一度でも目にしたなら、彼らの死を無意味だと詰る者は出てこない筈だ。

 たとえそこに、どれだけの悪意があり、政治的な打算があり、誰かの死を望む憎悪があったとしても、同じだけの、必死になるだけの理由も確かにある。

 

 だからこそ、ヴィッシュ・ドナヒューは駆けるのだ。

 汚染された地球、乾いた荒野を、西部劇のガンマンが騎馬で駆けるように颯爽と。しかし、銀幕のヒーローとしてでなく、友軍の命を繋ぐために。

 

 そう──ドナヒューは銀幕のヒーローではないからこそ。

 

「……おいおい」

 

 その光景に、()()()()MS(モビルスーツ)に目を奪われたのも当然の話だったのだ。

 

 

     ◇

 

 

「良い軍だ」

 

 喜悦に口元を歪ませ、後方から戦場を俯瞰する連邦軍MSパイロット──ヤザン・ゲーブル少尉は、鋼鉄のようにしぶとい公国軍を、皮肉でなく本音で讃えた。

 

 他の連邦軍将兵がそうであるように、ジオンを宇宙人や棄民と蔑して下に見る真似はしない。

 そもそもにして、ヤザンが連邦軍に残ったのは連邦への忠誠心からではなかった。

 公国軍は、強い。勝ち馬に乗りたいのであれば、あちらに付いても良いと思う。自分の腕ならば、間違いなく徴用されるだろうと言う自信もあった。

 しかし、ヤザンはそうした計算でなく、強者との戦いを望んだがために連邦に残った。

 

 異常と思うか? そうだろう。しかし、この欲求をジオンの側で満たし切ることができるかと問われれば、可能性は低かっただろうとも思う。

 連邦の物量、技術成長速度は、真面目になれば精強な公国軍を追い込むことは確かにできる。

 今回の一大攻勢も、防衛側(ジオン)の立場で戦えたなら、さぞ心躍ったことだろう。

 だが、強敵との巡り合いという一点に注視するのであれば、連邦軍でこそ欲求を満たせるだろうことをヤザンは確信していた。

 

“目立ちたがりめ”

 

 WW1のエースパイロットが自機を塗装するといった自己主張を、公国軍は好んでやる。

 乗機を派手な色で塗り替え、或いは一部の連邦軍パイロットがやるように、独自のエンブレムを自機に描き加える彼らは、正しく戦場の華にして星だ。

 この手で挑み、墜とすこと。その昂ぶりは、ヤザンが軍に入った動機と直結していた。

 殺人欲求を満たす、という類とは異なる。かといって、獲物を追い立てたいという狩猟本能がない訳でもない。

 

 命の削り合いを、獣のように鋭敏かつ大胆な手際で。

 

 そこに加えて、次の狩りも楽しめるのならば言うことはない。殺し殺されである以上、いつかは死ぬやもしれない。

 胸の中心、はだけた軽装宇宙服(パイロットスーツ)から覗く亀の刺青(タトゥー)は、長寿をあやかったゲン担ぎだが、しかし、死に怯える性分でもなかった。戦い、戦い、戦い続け……しかし生き残り楽しみ続ける。

 

 万寿の果てまで生き永らえながら、スリルを謳歌する生き方は、未曽有の戦時でこそヤザン・ゲーブルを輝かせた。

 

 GMのような量産機とは格が違う。

 

 ジオン公国を下すべく、巻き返しを図った地球連邦の最新・最高のMS──アトラスガンダムを賜ったことこそ、好敵手と相まみえるべく、ヤザンが積み上げた努力の証であり、最前線を生き抜いた、勲章以上の武勲の証明。

 純粋な実力であれば、UNICUMにも伍するヤザンに、連邦軍が求めたのは、たった一つのシンプルな要求。

 

 ──『エース殺し』のヤザン。

 

 連邦軍事公報に綴られた、その異名に厚みを持たせること。

 公国軍の綺羅星──その象徴たる専用機を潰すことだけを、ヤザンは今日まで求められ、成し遂げてきた。

 

 今日までのヤザンの公式戦果は二桁にようやく届くほどだが、勝ち得た白星の全てが、公国軍軍事公報にその名を連ねるか、或いは十字勲章組のパイロットであったという実績が、ヤザンの異常性を物語っている。

 

“できることなら、アマダ少佐を真っ先に喰いたかったがな”

 

 それが敵わなかったのは、ヤザンすら潰されかねないと危険視したからではなく、南米方面から進出した連邦地上軍が、主力たるシローを抑えているからだ。

 エース殺しのヤザンが相手取るのは、一大反攻作戦に出た連邦軍の穂先……大進撃を続けるGMが、その突破力・衝撃力を止められかねない相手に出くわした時。

 一点突破の大本命たる北西方面で、キャリフォルニア・ベースへの道を阻む公国軍エースを始末することこそ、ヤザンに求められた戦いだった。

 

 津波の如き物量を。圧倒的な砲火をものともせず、堅固な防衛陣を布きながら、時として盤面を覆すべく反撃に打って出るような、ジオンのエースを殺して見せること。

 そのために、有象無象に手を出すなと厳命されてきたヤザンにとって、眼下に捉えた風神雷神のエンブレムは、朗報以外の何物でもなかった。

 

“荒野の迅雷、ヴィッシュ・ドナヒュー!”

 

 突撃機動軍、北米方面軍のエースは欧州と比して決して多くはない。

 だからこそ、殺し合いたいと希うリストの上位が目についたことに対する歓喜は大きく、無意識にフットペダルを強く踏み込んだが、それは獲物を前に飛びかかるのではなく、本能に寄る回避行動だった。

 

「やるっ!」

 

 飛行するMSを前に、茫然自失になったかと思いきや、即座にヤザンの回避運動を予測しての三連射だ。

 おまけに、隊長機と思しき角付きの動きも然ることながら、僚機の連携も他の部隊とは一線を画す。

 多くの公国軍エースは、どうしてもその卓越した能力から部下が付いて来れず、スタンド・プレーにはまりがちだが、この連中の動きは違う。

 隊長との『差』を弁えつつ、それでいて邪魔にもならず、囮役さえ買って出る度胸もある。

 

「いいだろう、乗ってやる!」

 

 罠を罠と理解し、囮を囮と知りながら、敢えて不利な立ち回りを演じて見せる。最大効率化された戦争の中、自分達の戦略目標を阻む要素を最短で取り除くべき軍務の中にあって、個人の欲望を押し出すなど以ての外だろう。

 しかし、全てを結果でねじ伏せてきたからこそ、ヤザン・ゲーブルの今がある!

 

『……!?』

 

 ニュータイプではないものの、囮を務めた僚機の動揺は手に取るようにヤザンに伝わった。これまで空を駆けていた相手がフィギュア・スケーターのように大地を滑り、間近に捉えられる距離まで接敵したのだから。そして。

 

「びびったら、敗けよ」

 

 一撃。すれ違いざまに発射した電磁砲(ニードルガン)の銃身を押し当てられた直掩機は、円形に焦げたビーム痕を遺して崩れた。

 げに恐ろしきは、機体性能以上に、ヤザンの嗅覚だろう。ニュータイプのような未来予知でなく、経験と本能に裏打ちされた鋭敏な生存本能が、獣めいた感覚で危機を嗅ぎ分けている。

 自身は手負いとならず、相手を殺す狩猟者の立場を崩さないこと。乱戦・連戦が常態化したミノフスキー粒子下での戦闘に適応できるからこそ、ヤザンは今日という日まで黒星はおろか、手傷の一つさえ追わずに来たのだ。

 

 その一方で、撃墜された仲間を悼むという、無駄口を零す余裕さえドナヒュー達には与えられない。

 長大な銃身に、磁場特有の帯電と発光を見れば、二本角のMSの主武装が電磁砲(レールガン)であることは誰の目にも明らかだが、レールガン特有の長距離射程(ロング・レンジ)と、何よりも空という絶好のポジションを捨てて肉薄するなど、一体誰が想像できた!?

 

“飛行時間に限界があるのか!? 或いはただの余裕か!?”

 

 ドナヒューの疑問点は鋭かった。ミノフスキー博士が存命したことは、この世界においてジオン・連邦双方に多大な影響を与えた。

 ジオン公国はミノフスキー粒子のエネルギー運用を更に発展させ、ビーム兵器の安定化と、武装のエネルギーを保存するマガジンの役割を果たすエネルギーCAPの早期開発に成功させたが、連邦は重力圏での飛行を可能とさせるフライト・ユニットの開発に成功していた。

 とはいえ、未だ一年戦争期の時間軸であり、互いに完全とは言い難い。

 ジオン公国はビーム兵器こそ満足に使えても、エネルギーCAPは弾数が乏しく、保険程度の役割に止まっているし、連邦のフライト・ユニットも滞空・飛行時間には限界がある。

 それでも、そうした限定的な面があろうとも、一つの戦場で与える技術発展の影響は互いに絶大だ。

 

 ──特に、一分一秒の差が生死を分ける戦場にあっては。

 

『糞ぉ……!』

 

 バイザーの内、通信など届く筈もない、くぐもった叫びを上げて突貫した直掩機は自棄を起こした訳ではない。

 レールガンの過熱と帯電、何より長銃身故の取り回しの悪さを理解した上で、ビーム・ナギナタを展開しての白兵戦に持ち込むことこそ狙いであり、苛烈さの中に強かな計算を見せるのは、MS戦において一日の長がある、公国軍の為せる冴えだった。

 

「俺でなければ、お前にも勝ち目があったかもな」

 

 そう、この相手が、ヤザンという捕食者でなければ良かった。

 軍人としてのセオリーを守り、空に逃げるという選択を取ってくれたなら、追いすがって背中を斬ることも出来たかも知れないが、ヤザンが選択したのは、ニードルガンの銃身を鈍器として、相手のコクピットを物理的に叩き潰すという荒業だった。

 

『────……ぁ……ぎひ』

 

 断末魔の声は届かない。しかし、連邦軍でも数少ないルナ・チタニウムを惜しみなく注ぎ込み、絶対の耐久性を誇るニードルガンは、軍用品特有の堅牢さ以上の、埒外の使用法でさえビクともしない。

 超硬スチールのコクピットは見るも無残に潰れ、オイルと臓物がコクピット内で混じり合う。

 そして、駄目押しとばかりに引き金を引くヤザンのそれは、嗜虐心からでなく『二枚抜き』……援護の構えを見せた、背後のゲルググさえ始末する為の物だった。

 電磁カタパルトから撃ちこまれた実体弾がゲルググの装甲を貫通し、超高熱を発して爆発する。ビーム兵器の開発に出遅れ、量産体制を整えることが出来たのが、近・中距離型のビーム・スプレーガンに止まった連邦だが、そこはやりよう次第。

 要は、『弾体が高速で直進性が高く、極めて命中し易い』というビーム兵器の利点を踏襲しつつ、『超硬スチールやチタン合金セラミック複合材に有効打さえ与えられればいい』と割り切り、その上で『エースを殺す為の、高価な武装』として用意されたその性能を、ヤザンは十二分に発揮させ、実績を積み上げて来た。

 余りに無駄のない、鮮やかにして残酷な手並み。しかし、ここで折れぬからこそ公国軍!

 

「潰れろっ……!!」

 

 ドナヒューや、MS部隊ではない。有線誘導によるロケット・ランチャーを構えた歩兵達であり、機動浮遊機(ワッパ)に乗って戦場を飛行する彼らは、巨人の戦場に生身で飛び込み、援護を実行するという究極の無茶を断行した。

 MSパイロットにしてみれば、蜂が刺しに来たという程度。しかし、その一刺しは関節を潰し、機動力を削ぐに足る一刺しだ。

 

「命中さえ、してくれればな」

 

 蜂の一刺しは、通らない。レールガンを応用した電磁パルス・ガードは、ミサイル群を叩き潰し、のみならずワッパごと歩兵達を電磁の炎で焼き潰す。絶叫を上げる間もなく、炭化して墜ちて行く兵士達の死に様は、火に飛び込んだ虫のようであり、これ以上ない程、惨く、理不尽な死に様だった。

 

『……白い、悪魔め』

 

 誰かが漏らす。誰かが慄く。そう、これこそ正しく連邦の見せつける、戦場の悪夢。

 正史・外史を問わず、ジオンの夢を食い潰して来た鏖殺の化身に他ならない。

 

「『怯むなぁ────…………!!』」

 

 だからこそ、その悪夢を前にしても臆さず立ち向かう者。スピーカーによって鼓舞し、踏み止まり、相対することが出来る者を勇者と呼ぶ。

 荒野の迅雷、ヴィッシュ・ドナヒューは、そう讃えられるだけの資格があった。郷里を思え! 家族を思え! 今隣に立つ戦友を思い、踏み止まって戦い抜けというその叫び。

 

 たとえそれが、勝ち目のない戦いだったとしても。その発露と共に挑まれて応えねば、ヤザンも男が廃るというもの。

 アトラスの手に握られるのは、ニードルガンでなく、ゲルググから奪ったビーム・ライフルであり、連邦機がジオン公国軍の……それも、最新装備の火器管制システムにさえ対応しているという、驚愕の事実だった。

 ゲルググが両の手で保持すべきビームライフルを片手で扱い──当然命中精度やブレの影響は、アトラスと言えど出るが──苦も無く命中させて使い捨てる。

 ヤザンの技量・機体性能を不要と承知で敢えて見せたのは、彼なりの手向けであり(はなむけ)だった。とはいえ冥途の土産を弾み過ぎたことは、ヤザン自身理解できていたが。

 

「それでも……貴様を相手に出来たのだから、悪くもないだろうよ」

 

 エースと言えど、常軌を逸したビーム兵器の速度は回避し得るものでなく、ビーム・コーティングが実用化されていない一年戦争期において、これを受けて堪えるのはルナ・チタニウムでさえ無理がある。

 三次元的な空間移動と運用が可能な宇宙空間ならばともかく、地に足を付けた戦闘で、ましてや互いが肉眼ではっきりと捉えられる至近距離での戦闘において、ヤザンが的を外す間抜けはしない。

 だからこそ、ヤザンは尊敬の吐息を零す。ビーム・ライフルのエネルギーCAPが切れ、投げ捨てた──火器管制システムに対応している以上、ジェネレーターからビーム用の動力を回すことも可能だが、鹵獲品にそこまではしない──瞬間まで。

 言い換えれば、ドナヒューと僚機は残弾を使い切る瞬間まで致命傷を避けつつ、ヤザンを殺すべく戦うことが出来ていたのだ。

 だが、現実は無慈悲であり、勝敗の別は、おそらくドナヒュー自身理解できていただろう。

 それでも引かず、戦い抜いたドナヒューに、止めを刺しつつヤザンが零す。

 

「良い狩り……いや。いい男()()()ぞ」

 

 獣でなく人として。狩猟者でなく軍人として。挑まれ、応えたヤザン。

 最後の最期。止まらず挑んだ男相手には、これぐらいしても悪くないと思えたのだ。

 




 ヤザンをアトラスに乗せるって言うのは、最初っから決めてました。
 流石に今まで公国側がイージーすぎたからね。一杯苦しんで♡(畜生オブ畜生)
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