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“爆破テロの調べはついていたが、銃撃戦にまで発展するとはな!”
このような事態に直面するようならキシリアとガルマを安全圏に避難させたし、ゲストであるアストライア達もまた同様だ。
「少佐!? ここは避難を!」
「逆だ! ムンゾの士官が先頭に立たずどうする!?」
実際、ヨーク家次期当主が前に出るということは、それだけテロリストの注目を集める事でもある。かつて貴族が戦場で
「我々で護り抜く! 誰一人として傷付けさせるな……!!」
◇
正しく獅子奮迅と称すべき活躍。そして実行犯のうち、二名を直接逮捕するにまで至ったイワンの大手柄は大々的に報じられ、保安隊長が手を尽くすより先に、既に情報は各メディアへとリークされていた。
ことここに至り、最早保安隊長を含む改革派隊員と、そしてジオン党におけるジンバの勢力は共に組織としての巻き返しが図れないほどに人心というものが離れていた。
「ジンバを討て!」
「保安隊長と取り巻き共を討て!」
「少佐殿! 決起すべきです」
「副隊長殿! 我々もまた同意見です!」
新首相と、その権力欲に憑かれた悪漢共。民の血と涙から甘い汁を啜らんと暗躍してきた
勇ましい発言や大仰な身振りなど必要ない。そのような真似をせずとも、イワンはこの場に集った青年将校達から十分な人心を勝ち得ていた。
「今は忍従の時だ」
自分とて、
「同志諸君らの思いは分かる。小官とて、叶うならばこの手でそれを果たしたいという欲を自覚している。それでも我々は『真の敵』を追い詰めるには手が短い」
その発言に、清聴していた青年将校たちがざわついた。真の敵……それはすなわち。
「やはり少佐殿も連邦が糸を引いていると?」
元連邦軍人の逮捕者ということもあり、ムンゾでは大規模な反連邦デモが今なお続いている状態だ。英雄として持ち上げられたイワンが人命を尊重し、
「連邦側は関与を否定した。確かに、分り易すぎるのは認めるがな。しかし諸君、西暦時代の地球において、その愚かな行動というものは先例として幾重も歴史に残っている」
一寸先さえ見ずに行われた国家転覆。国際社会の敵対を視野に入れないままの侵略戦争。
このような愚行を犯す筈がないという常識は、現実という摩訶不思議な情勢の前には呆気なく覆るのが世の常だ。
「重要なのはその愚かさに直面した時、真に謀略を巡らせる者共が、どのような一手を次に打つかだ」
我々は愚者ではない。未来の為に集い、こうして意見を交わす同志の筈だと諭す。
「ムンゾの経済基盤を支える企業連の重役、政治的土台たるザビ家、そしてダイクンの遺児達を一息に暗殺することは失敗した」
これで終わりなのか? 否、これは始まりなのである。これより先、真の敵たる連邦と、それに踊らされる者達はあらゆる手を尽くして裏から国家の生命線を断つべく暗躍を続けることだろう。
「内々の話だが、ギレン・ザビ政治部部長は新組織設立を法案として提出する用意がある」
一切の不義も腐敗も存在しない。真に国家を憂う優れた同志を選抜し、彼らにはその模範的思想と能力に見合う職務を与える。その組織の名は──
「──親衛隊。今はジオン党の私兵としての登録だが、将来は防衛隊でなく、諸君らは要人警護をはじめとした各種公務を担うこととなるだろう。そして、巡査長」
「は、はい!」
末席に加わったばかりの、この集会においては青二才と称すべき保安隊員は、隊長に命じられて元連邦軍人のスキャンダルを塗り潰すべく奔走させられた人物であり、しかし隊長を裏切ってイワンに付くことで、隊長の思惑を叩き潰した最大の功労者でもあった。
「貴官の勇気ある行動が、隠れ潜む我々の敵の一人を暴いてくれた。貴官の功績には、必ず報いさせて貰う」
◇
「お疲れ様です、少佐殿」
「ああ、すまんな」
暴発を抑えるためとは言え、ああいう教条主義的な連中の相手は疲れるものだと、軍用外套を預けつつイワンは大きく息を零した。
熱意は買うに値するが短絡的であり、なまじ能力が高い分頭が痛い。
本来親衛隊はザビ家が政権を掌握してから推し進めたかった組織だが、あの手の連中をコントロールする為に、無理言ってギレンに前倒しで予算案を組んで貰わざるを得なくなったのは痛恨事以外の何物でもなかった。
私生活の傍ら続けてきたロビー活動には、こういうことも含まれる。使える人材をリストアップしつつ、篩分けとして過激な手合いを一纏めにすることで抑制しなければ、後世の歴史書にどのような愚行が記されるか分かったものではない。
「おかげで、諸君らの為の予算案は次に持ち越しだ。当分は苦労をかけることになる」
何を仰いますかと朗らかな笑みでイワンを招き、席に着かせたのはイワンより一〇は年上の防衛隊下士官であった。
しかし、この席に着く者達の内、軍籍を持つのは半数にも満たなければ、官職に就いてもいない。所属や身分の一切を問わず、年齢も若い者は大学を出たばかりの若手から退職間際の老人まで様々だったが、彼らには共通項があった。
能力に優れ、ザビ家に対する忠節を抱いていることは先の集会と同じだが、彼らは広く透徹した視野と、何よりも血気に逸らず大局の為に行動できるだけの分別を有しているということ。
早い話が
「……しかし、よもやあの状況で副議長閣下を狙いに来るとはな」
一体何故、連邦駐留軍はダイクンの死亡時に警戒態勢などという悪目立ちを行ったか。
答えとしては今イワンが語った通り、連邦政府にとって最も危険な思想家でなく、大黒柱たる
「ご承知で、敢えて外縁部に立ったのでは?」
くすくすと三十路ほどの女性が笑えば、イワンも釣られるように勿論と微笑みつつ頷く。
加え、保安隊長という地位に就くことさえ能うだけの実績を持ち得ながら敢えてその下に就き、公私混同して
「保安隊長だけでなく、連邦の馬鹿共も実に上手く踊ってくれた。正直、ここまで面白く転がるとは思っていなかったな」
敢えて警備に穴を開けてデギンに毒を盛ったつもりが、あろうことかダイクンの喉を通るとは……。
そのように仕向けたのはイワンであったが、正直連邦が何処かで違和感に気づいて修正に入るものとばかり考えていただけに、謀略を巡らす側としては拍子抜けにも程があったし、その後の転がり具合もまた実に呆気ないものだった。
唯一にして最大の誤算といえば、やはりパーティーでのテロだろう。今回の集会も、そこを見直す為のものでもある。
「人員、装備、侵入ルート……いずれもこちらが掴んでいた情報とほぼ変わりない。何処でズレた?」
「企業連の役員が、民間警備会社に依頼して登録したボディーガードが入れ替わっていたようですので、その筋かと」
ち。と思わず舌打ちした。来賓は事前に問題ないかリストアップしていたつもりだったが、これは間違いなくイワンの手抜かりである。
「
「無用では? アドリブで動くこととなった分、情報操作が容易になったと笑っておりましたが」
「弟妹を危険に晒したのだ。許されることではない」
今後、二度とこのようなことがあってはならないとイワンは気を引き締め、言の葉を継いだ。
「連邦の封じ込めは成功したか?」
「あの大捕物に加え、乗用車の爆発物の類も全て回収した上で白日に晒しましたからな。打って出るには、隙がないと認めざるを得んでしょう」
ダイクンの遺児達やザビ家に張り付いた諜報員も軒並み逮捕し、拷問の末に必要な情報は一通り吐かせた後だ。無論警戒を緩めることは決してできないが、直接的な脅威という意味ではクリアしたと見ていい。
「サスロ閣下には感謝だな」
正史では早い段階で暗殺された彼だが、この世界ではメディアコントロールのみならず裏社会にさえ精通するその情報手腕は大いにザビ家の勝利と、連邦の行動抑制に寄与してくれた。
今回のテロと先のダイクン暗殺疑惑によって、駐留軍基地では絶え間なくデモ隊が張り付き、彼らが一歩でも外に出ようものなら不審な動きがないか市民が防衛隊情報部へ安全に通達できる匿名の密告体制まで確立してくれたし、だからこそザビ家とイワン達は常に先手を打つことができていた。
何よりだ。
「今後、ジンバ・ラルは思いもよらぬ『プレゼント』に目を丸くしてくれることだろう」
「サンタクロースと言うのでしたな。年末でもないのに足繁く通うとは、随分とラル家がお気に入りのようで」
えこ贔屓は大人の特権だからなとイワン達は笑い、そして続ける。
「しかしだ、プレゼントを受け取ったなら、幸福は皆で共有すべきだと思わんか?」
然り然り。貰い物を一人引き出しにしまい込むなど無粋というものだと追従し、声を揃えて頷いた。
ジオン・ズム・ダイクン暗殺計画──本来、連邦がデギン・ソド・ザビの暗殺に用いた数々の物的証拠が、時限式に解き放たれようとしていた。
◇
“くっ、糞!? けしからん! 実にけしからんっ……!!”
どの新聞もラル家が──より正確にはジンバ・ラルと保安隊長がダイクン暗殺とそこから続く暗躍の黒幕であるかのような論調で書かれ、ばかりかジオン党内において過去最低支持率であることも抱き合わせてある。
テレビジョンの報道でも弾劾されるべしと評論家達が眉間に皺を寄せつつ意見を一致させ、民衆もまたそれに踊らされてか、ラル家の私邸は『売国奴』と、それに近しい罵詈雑言の落書きで埋め尽くされた程である。
護衛のつく公務を除き、一歩として邸内から出ることの叶わなくなったジンバは、今や私邸でなく比較的出入りが容易い議長公邸での生活を余儀なくされていた。
“おのれ……! どいつもこいつも、よくも恥知らずにも儂を罵れたものだ!”
机に叩きつけるように新聞に当たったが、その醜態も来客を前に続かなかった。
「これは、ローゼルシア様……お見苦しい姿を」
「ええ、本当に」
まるでこの公邸が我が物であるかのように息を吐き、車椅子を押され近づく女はローゼルシア・ダイクン。ジオン・ズム・ダイクンの正妻であり、活動家時代から資産家としてヨーク家共々ダイクンを援助した人物でもある。
「ですが、無知な大衆に怒りを覚えているのは私も同じ……あの忌々しい
アストライアは既に正妻としての地位にあったローゼルシアを差し置き、ダイクンとの間に不義の子を身篭った愛人でしかない。
しかし、病に蝕まれたローゼルシアとの間にダイクンが子をもうけることは叶わず、本来であれば非難されるべき愛人関係に加え、議長公邸に愛人とその子供を住まわせるといった公私混同を行いながらも、大衆は偉大な指導者の世継ぎを生んだことと、その美しい見目からアストライアを非難することは一切なかったし、議員でさえ政権安定のために沈黙を貫いた。
だからこそ、というべきか。愚かな者共や、悪意ある者たちに人生を壊される苦しみは人一倍理解しているつもりだとローゼルシアは宥めた。
「わ、儂は……私は誓って首相暗殺など企ててはおりませぬ! これは間違いなく……」
「分かっています。デギンならばいざ知らず、貴方にそのような真似ができるものですか」
そんな大人物であるならば、もっと上手くダイクンの死から立ち回れていただろうし、何より暗殺を行うメリットなど皆無だ。引きこもり、藁に縋りながら時代の荒波に呑まれ溺れ死ぬのを待つばかりのこの老人には、土台不可能と言っていいし、だから来た。
「ですが、貴方の政治生命が絶望的と言っていいことは理解していますね?」
既にしてラル家私邸では暴徒が踏み入り、それによって荒らされた私邸から保安隊が求めに応じて追い出したが、その過程で見つかったダイクン暗殺にまつわる、数々の物的証拠の断片が見つかっている。
「程なく貴方は弾劾裁判所に出頭を余儀なくされるでしょう。私も手を回しますが、持って三日……いえ、手の回り具合の速さから二日といったところ」
「たった二日で……」
「見方を変えなさい。貴方には二日も猶予があるのです」
その間に、ローゼルシアは自分の頼みを聞けという。見返りに、ムンゾや連邦からの追っ手から逃れさせてやるとも。
「……私にできることでしたら」
「簡単なことです。ダイクンの子には、それに相応しい教育を受けさせねばなりません。今、あの子達はザビ家の私邸に匿われています」
ぎりぎりと、掴んだ車椅子の肘掛けが軋みを上げた。本来は自分が産む筈だった子。自分のものになる筈だったダイクンの子を、ローゼルシアは自分のために
「……それは、いや、しかし」
ザビ家は忠実にダイクンの言葉を守っているに過ぎず、しかもテロの件もあって警備は非常に厳重だ。何より、あの老獪なデギンのこと。ダイクンの遺児が本当に私邸に居るのかさえ疑ってかかるべきだろう。
「良いこと? これは貴方にとって唯一の救いの糸だということをお忘れなく」
話はここまでだというローゼルシアに、ジンバは「必ずや」と力なく頭を下げた。最早、道は残されていない。滅びにひた走るくらいならば、どのような契約であろうと、結ぶ以外にないのだ。
「ランバを……息子を呼ばねば」
たとえその結果、あの哀れな母子を不幸にしてしまうのだと理解していても。
ジンバ・ラルには、命以外残されていないのだ。
親父が毒殺されるわ、政治の闇を散々見せつけられた挙句テロに巻き込まれて、止めとばかりに誘拐計画まで行われるわ、キャスバル君の人生がハードモードすぎる件(愉悦)