血は川となり、肉は土となり、涙は雨となり
~古来より伝わる創世記 その1節~
かつて、この世には神しかいなかったとされている。
正確には、この世が作られる前、だが。
とにかく、神しかいなかった時期がある。
神は、全部で637神いたとされており、それらは203の善神と197の邪神、そして237の原理神で成り立っていた。
善神とは、善良にまつわるそれぞれを司る神を示し、邪神は悪にまつわるそれぞれを司る神、原理神はこの世の理つまり世界の成り立ちを司る神である。
神々の力関係は、原理心の頂点レイド神を筆頭に原理神、善神、邪神の順に並ぶ。
例外的に、善、邪を問わずそれぞれの頂点神は三柱神として同列に並ぶ。
この、三柱神が世界の構成の全てを取り仕切っていた。
彼らが求めたものは、完全であった。
ただ神々とて、全てが同じ意志で統制されているわけもなく、したがってそれぞれが目指す完全像にもズレが生じる。
神は己が頂点と言う本能を持っている。
頂点とはすなわち絶対である。
だから、お互いにこのズレに対する譲歩をしようとは一切しなかった。
我こそが、この言葉の下に高まっていく不満と苛立ちが限界を超す日が来るのは、さして遠くはなかった。
ある日、邪神の頂点神であるムーベ神が世界の一部を黒く塗りつぶした。
そこが、後に言う深淵となるわけだが、このことをレイド神、バムーラ神ともに潔しとしなかった。
レイド神はムーベ神の身勝手な行動に憤り、黒く塗りつぶされた部分を次々に崩して地の底に埋めた。
ムーベ神は、この行いを敵対行動と見なしてレイド神の下に就く神々のうちのいくつかを呪い封じ込めた。
そして、運悪く封じ込められた神々の中にはバムーラ神の下に就く神もいた。
この出来事が、3つ能勢威力の間に決定的な亀裂を生んだ。
神々はお互いに憎み合い、果てに大戦争ー世界の再構築を要するほど大規模なーいわゆる「神話大戦」を始めた。
大戦の後に残ったのは、焼け焦げ荒廃しきったかつての楽園。
もっとも多く勝ち残ったのは、原理神であった。
理の前に、何者をも立ちはだかることは出来なかったのだ。
これは後の世にとって幸いなことで、彼らが勝ち残っていなければ世界の再構築は出来なかった。
ここで、彼らは和平協定を定めることにした。
踏むべき内容は3つ。
次なる世界の構築を原理神に一任すること、次なる世界において神々は客観的な立場にあること、次なる世界の担い手を神々がそれぞれ創造すること。
これらの条件を、お互いに承諾した結果今の世界が構築された。
世界の再構築に用いられたのは、先の大戦で滅びた神々の亡骸である。
デイロス、カートラ、スカージ、ロダリア、ニンパ、アカトシなどの柱神にこそなれなかったが実力があった各派の上位神を構築の主源とした。
まず、レイド神はそれぞれの亡骸から血を抜くことから始めた。
その血を特別な壷の中に溜め、次にそれぞれの目玉を取り出した。
取り出された目玉は液薬の中に入れられ、その時まで保存され続けた。
次にレイド神は、死んだ神々の腹を切り開いて中から心の臓と宿り石を取り出すことを始めた。
他の臓器は、原形が無くなるまで切り刻んで半液体状にして保存した。
残ったものは、神々の皮である。
そうして、神々の亡骸は5つに分離された。
レイド神は、まず皮をなめすことにした。
そうしてなめされた皮は、再生の礎となるために荒廃した世界の各地に埋められた。
そして、それぞれの骨で皮が埋められた場所に霊点を刻み込んだ。
その主たる場所は、焼かれてなお残ったムーベ神の爪痕、つまり深淵である。
霊点は、再生の原点も担うが深淵を後生封じ込める役割も担っていた。
たてられた霊点は、各地の霊点と根を結び再生の力の循環路を作り上げた。
しかし、何もないところに再生は有り得ない。
水は干上がり、地は腐り、空気は淀み、生気は絶えた。
そこに再生のための原点をもうけるための場を作るために、レイド神はかつて海であった場所にとってあった神々の血液を流した。
その血が広がり、広がった先で循環路に触れた時、海は再び現れた。
再生された海に、レイド神は神々の目玉を潰して海に放った。
目玉から滲み出た僅かな血液と涙は、それぞれ命の原点を構築した。
即ち、命の源あるいは神秘と呼ばれる力と、全てを育み清め流す雨。
そして、最後にレイド神は切り刻んだ肉を霊点に少しずつ埋めて、海にも流した。
痛んだ大地に、生気を取り戻させるためだ。
そうして、初めて世界の土台が再生された。
力があったとして、それが作用する対象物がなかったら、力は即ち無意味である。
レイド神は、大地と海にその作用する対象物をもうけた。
神々の亡骸から取り出した臓物である。
それぞれに弱い呪いを施して、レイド神はそれらを大地と海に放った。
放たれた臓物が、後に現れる彼らの素となる。
そして、特別な臓器つまり心の臓と宿り石であるが、
それらを霊点に置いて呪文をかけ、守護獣とした。
守護獣に科した役目は2つ。
深淵の監視と、霊点の守護である。
これらが全て揃った時、神々は新たなる地上において居場所と役目を同時に失った。
神々はこれを機に地上から姿を消して、何人たりとも寄り付くことのない天井の世界へと昇っていった。
そして行き着いたその先で神々は地上を見下ろして、その後の見届けをすることにした。
そして、何時間も何日も、何ヶ月も何年も、気が遠くなりそうなほど長い時間をかけて新しい世界には命が発生し時に争い、時に滅び、そんなことを繰り返しながら月日が過ぎた。
そして、今日の彼ら「ガウス」を始めとした様々な種族、生物が世界にいる。
神々は、それを機にこれまでを「第1紀世界」と呼ぶことにして、これからの世界のことを「第2紀世界」と定めた。
神々のそう言った取り決めを、何故知ることが出来るのか?
彼らの中にも、時たま神の声が聞こえたりする体質の持ち主がいるのだ。
だから、神の存在はかなり早い段階で各種族間に広がり認識されていった。
とにかく、そう言う経緯の下今の世界は成り立っているのだ。
物語は、ここから始まる。