いつかの明日へ、【ヒーロー】は助け合いでしょ   作:しょくんだよ

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ライバルと新学期と偶然


第11章 〜インターン〜
No.116 後期始業式


 

事情聴取が終わり、火野達は信吾に送られて雄英高校へと帰って来る。車のドアを開け、すっかり夜の静けさへと変わっていた空を見上げながら、運転席にいる信吾へと火野はお礼を言った。

 

「信吾さん、ありがとうございます」

 

「おいおい、当然だぞ?それにこっちの方こそ時間を取らせてしまってすまないな、3人共」

 

「全くだ。さっさと寮へ戻るぞ」

 

後部座席から降りて来たウヴァはそう言って早々に寮に向かって歩き出す。アンクも同じ様に無言で寮へと向かって足を運んだ。2人の態度に火野は呆れながらも「すいません…」と信吾に言うと、信吾は苦笑しながら口を開いた。

 

「大変だな」

 

「えぇまァ…、信吾さんはこの後家に帰るんです?」

 

「あぁ、久々の地元だからな。早く帰らないと、比奈に怒られる」

 

「あ〜、怒った比奈ちゃん怖いですもんね」

 

「そうだな……〝個性〟ありきで本当手が付けられない……映司君。この事はくれぐれも…」

 

「勿論言いませんよ。俺も怒られますから…」

 

普段は優しいが、怒ると〝個性〟を躊躇無く使用してくる為、共に生活をしていた火野と信吾の苦笑する表情を見る限り、どれだけ怖いかを物語っている。すると、信吾のスマホからバイブの音が聞こえる。反応した2人は置いてあるスマホの画面を見るとそこには『比奈』と記載されていた。

 

「っと、早速催促だ…じゃあ映司君、君のグリードの事は一旦警察に任せて、君は学校生活を楽しんで。じゃ、また近いうちに」

 

「はい、帰り道気を付けて下さいね」

 

火野はそう言い残してドアを閉めると、車はそのまま走り去って行った。軽く見送った火野は、欠伸をしながらアンク達の後を追い、寮へと戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

歩いて数分、1-Aの寮へと戻って来た火野。アンクとウヴァはもう部屋に戻ってしまったのか辺りに見当たらず、火野も玄関へと入って行く。そのまま廊下を通っていると、ふと、明かりが付いている部屋を見つける。誰か居るのかと火野はこっそり中を覗き込んだ次の瞬間。

 

「爆豪は四日間!緑谷は三日間の寮内謹慎!その間は寮内共有スペース清掃!朝と晩!+反省文の提出!!怪我については痛みが増したりひかないようなら保健室へ行け!ただし余程の事でなければ婆さんの〝個性〟は頼るな、勝手な傷は勝手に治せ!」

 

「うわっ…!」

 

怒号する声が部屋内に木霊し、思わず声を漏らす火野。怒っているのは相澤で、その隣にはオールマイトが立っており、そして椅子に座って叱られているのは怪我をしている緑谷と爆豪だった。

 

「ん?火野少年…!?」

 

「火野、今帰ったのか?」

 

「あっ、えと…はい…遅くなりました……!」

 

オールマイトが火野の存在に気付き、緑谷と爆豪も振り返って驚く。相澤はそう声を掛けると場の雰囲気に気圧された状態になってしまい火野はビクビクしながらそう応える。

 

「ちゃんと話は付けて来たのか?」

 

「は、はい…!」

 

「ならもう部屋に戻って寝てろ。お前等もだ、寝ろ!」

 

「はい…」

「……」

 

相澤は言い放ち、彼等を捕縛していた捕縛布をシュルシュルと巻きながら深い息を吐く。緑谷と爆豪は椅子から立ち上がり、そのまま部屋を火野と一緒に出て行く姿をオールマイトと相澤は見送った。

 

「ったく、本当どうしようも無いくらい仲悪いガキ共だ……」

 

「ま、まァ相澤君…今回は大目に見てあげようじゃないか……」

 

「あいつ等の担任の身にもなって下さい。怒られるのは俺なんですよ…?」

 

「す、すまない…」

 

『電話が、キター!電話が、キター!』

 

ギロリと睨まれ怖気づくオールマイト。すると、オールマイトのスマホから着信音が鳴り出す。今の機嫌が頗る悪い相澤にとって耳障りな音声なのか、再びオールマイトをギロリと睨む。慌ててオールマイトは部屋から出て行き、スマホに耳を当てた。

 

「も…もしもし、何だい塚内君?」

 

『オールマイト、()()すまない。今時間あるかい?』

 

声の主は塚内だった。オールマイトは「大丈夫だ」と頷く。

 

『実は、火野君の事についてなんだけど…』

 

火野に言っていた数少ない信用の出来る人物。塚内は今日あった出来事を、オールマイトに説明し始めたのだった。

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

「え!?喧嘩した!?」

 

「う、うん…」

 

「うるせーぞ三色野郎、時間考えて叫べや!」

 

あの後、部屋を出た緑谷達は談話スペースまで移動し、何があったのか気になった火野は2人を呼び止めて理由を聞く。怪我をしたその理由を聞くと驚いて声を上げる火野だが、爆豪がそれを制して黙らせる。

 

「ご、ごめん…てか、何があったの?」

 

「……ちょっと…ね…。…率直に言えば、ワン・フォー・オールの話についてだよ」

 

「ッ!?バッ、てめェクソデク!何素直に吐いてんだ!?」

 

緑谷の告白に、爆豪は驚愕した表情で緑谷に詰め寄る。胸ぐらを掴み掛かるが、緑谷は「待って!」と口を開いた。

 

「かっちゃんごめん…!火野君も()()()()んだ…!」

 

「あァ!?」

 

その事実を聞いた瞬間、驚愕していた爆豪の顔は唖然となり、掴んでいた緑谷の胸ぐらを振り払うように手を離す。一旦落ち着こうと思ったのか、側にあったソファーへ豪快に座り込むと緑谷に声を掛けた。

 

「オールマイトは校長と保健室のババア…生徒は俺とデクだけだっつった筈だろ…」

 

「ごめん…訂正して…火野君も知ってたんだ…」

 

「騙しやがったなNo.1…」

 

爆豪は深く溜め息を吐く。それを聞いていた火野は困惑した様子で緑谷に声を掛ける。

 

「えっと…ごめん緑谷君…。爆豪君も知ってるの…?」

 

「う、うん…結構前に…僕が喋ったんだ…」

 

緑谷はそう言って、何故爆豪が知っているのか、そして何故喧嘩をしてしまったのかを白状した。

元々、〝無個性〟だった緑谷が何故雄英に合格出来、そして何故〝個性〟を使えるようになったのかについて、雄英通い始めた当時に、爆豪は疑念を抱いていた。咄嗟の拍子に吐いてしまった人から授かった〝個性〟。最初は爆豪はそれを鵜呑みにせずに受け流していたのだが、あの神野区で全力を出し切ったオールマイトの引退でそれは徐々に確信へと変わっていく。

更に自身が人質として捕まり、それが原因でオールマイトは力を使い果たしたのでは無いかと罪悪感に襲われる。もう一つ、元々努力家である緑谷のその急激的なスピードで成長して行く姿は、いつの間にか追い抜かれている劣等感にも襲われていた爆豪は、モヤモヤの気持ちを鬱憤晴らしになってしまう様に緑谷にぶつけ、緑谷も買ってしまい、そのまま喧嘩をしてしまったらしい。

 

「…オールマイトからも事情は聞いた。デク、コレ知ってるのはもういねェんだな?」

 

「う、うん…!誓うよ、生徒はここにいる3人だけ」

 

「……ケッ!」

 

何度も頷く緑谷に爆豪はそう吐き捨てると、火野に向かって口を開いた。

 

「……火野、てめェは何とも思わなかったのか?」

 

その問いに火野は無言になる。確かに爆豪の思っている気持ちは火野自身もわかっていた。あの時、自分が捕まってなければ…もしかしたらオールマイトはまだ引退せず現役を続けられたのではないのか。あの悲劇を起こさなければ、平和の象徴として立っていられたのではないか。

そう思っていた火野は、ゆっくりと口を開いた。

 

「確かに…爆豪君の気持ちはわかるよ。俺も負目を感じて、あの事件の後オールマイトに謝ったんだ…。でも、さっき緑谷君が言ってたように、オールマイトは『どの道活動限界が近いから君のせいじゃない』って言ってくれた…」

 

一旦区切り、火野は両手を目一杯広げる。

 

「だから無理矢理前向きに考える事にした!今やるべき事を考えて、精一杯自分がヒーローになる為に努力するって決めたんだ。そして、これくらい!手が届く範囲で動いて、憧れのオールマイトにも負けないくらい、人々の手を掴める最高のヒーローになる…ってね」

 

オールマイトが言っていた〝次は、君だ〟と言う言葉。それが例え自分では無くても、その言葉を糧として、次の若きヒーローになる為、火野は前向きに捉え、そう宣言する。それを聞いた緑谷は「火野君…」と彼の意思に呼応する様に言うと、爆豪は「…ケッ!」と悪態吐く。

 

「てめェの意思なんざどーでもいいんだよ…!お前、試験の時に紫色のコンボを使いこなしたらしいな?」

 

そう言いながらソファーから立ち上がり、火野へと詰め寄る。

 

「どれだけ強くなろうが関係ねェ。俺は俺の力で上へいき、誰にも負けねェ完全勝利のヒーローになる」

 

爆豪はそう言って火野にガン飛ばす様に見つめる。どうやら吹っ切れたみたいで、彼の意思が体の節々に伝わってくる。すると、緑谷も一歩前に出てその意思が伝染するみたく口を開いた。

 

「僕も、2人には負けないヒーローになるよ!」

 

「あぁ!?だからさっきそれを超えるっつってんだろが!」

 

「いやでも、さっきも言ったけどそれよりも上に行かないといけないって…」

 

「だぁから!俺がその上行くっつってんだろ!!」

 

ギャーギャーと揉め出す2人。喧嘩したかの様に見えるが、それは何処かお互いの実力を認め合うライバル視している様な会話に見え、火野は少し微笑ましそうに見つめていた。

そして、ふと、火野は思っていた。この2人なら、自分の過去の真実を言っても良いのではないかと。少し考えた火野は決意し、「あの…」と口を開いたその時だった。

 

 

「ほぉ……『寝ろ』って言ったのに、無視してまた喧嘩か?随分な反抗期を持って先生は逆に感心を覚えるぞ……」

 

「「「!!」」」

 

談話スペースの入り口からドスの効いた低い声が聞こえ、騒いでいた2人と火野を含めてビクッと肩を震わせる。恐る恐る火野は振り返ると、そこには憤る表情で立っていた相澤がこちらを睨み飛ばしながら口を開いた。

 

「火野、お前も参戦か?」

 

「い、いエ!違います…!」

 

「あ、相澤先生いつからそこへ…!?」

 

「んなもん気にする要素が何処にあるんだ?おい?」

 

話を聞かれたのかと焦りビクつく緑谷の言葉に怒れる声でそう応える相澤。どうやら今さっきに来たようなので、心の中でホッと安堵する火野。

 

「これ以上罰増やしたくないなら5秒以内に部屋に戻れ………5」

 

「「ォおやすみなさい!!」」

 

数を数えようとした直後に緑谷と火野はそう言い残してエレベーターへと全力で走り去り、爆豪も無言のまま、そそくさにその後を追って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「ケンカして」

 

「謹慎~~~~!?」

 

翌朝、夏が終わりを迎えた時期の朝。まだ蝉の鳴き声が聞こえる残暑の中、新学期登校初日を控えたクラスメイト達は、私服で掃除機をかける2人を見て驚いていた。

 

「馬鹿じゃん!!」

 

「ナンセンス!」

 

「馬鹿かよ!」

 

「骨頂ーーッ」

 

何があったのかは知らないが、それを機に茶化し始める男子達。当然爆豪は「ぐぬぬ…」と唸り声は出していても、反撃しない所を見る限りかなり本気で怒られたのだろう。

 

「えええっ。それで、仲直りしたの?」

 

「仲直り…っていうものでも……うーん…言語化が難しい…」

 

「よく謹慎で済んだものだ…!!ではこれからの始業式は君ら欠席だな!」

 

心配そうに尋ねる麗日だが、色々ありすぎた昨日の喧嘩の内容を、言い訳しようにも言葉出てこずに唸る緑谷。だが親友と言えど、飯田は過ちを犯してしまった緑谷にビシっと厳しく言う。

 

「爆豪、仮免の補習どうすんだ」

 

「うるせぇ…てめーには関係ねぇだろ…!」

 

心配を装う様に声を掛ける轟だが喋りかけてほしくないのか爆豪はそう言って遇らう。

 

「じゃー掃除よろしくなー」

 

時間が差し迫り、生徒達は雄英に行く為鞄を持ってぞろぞろと出て行く。クラスメイトが出て行った後、事情を知っていた火野は黙々と掃除している2人に近寄る。

 

「2人共、頑張れ!」

 

「う、うん…!」

 

「ケッ!嫌味か!?とっとと行きやがれ!」

 

悪態吐く爆豪に「ごめんごめん」と火野は苦笑しながら、出て行くクラスメイト達の後を追った。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「皆いいか!?列は見出さずそれでいて迅速に!!グラウンドへ向かうんだ!!」

 

「いや、おめーが乱れてるよ」

 

「委員長のジレンマ!!」

 

長い夏休みの期間が終わり、いよいよ学校に専念する時期の初日。最初に行われる始業式に久々に委員長の飯田が捲し立てるように声を出して整列させようとする。だが相澤の厳しい習慣があってか、列からはみ出している飯田に瀬呂がツッコみを入れる。

 

「入学式、出られやんかったから今回も相澤先生何かするんかと思った」

 

「まー4月とはあまりに事情が違うしね」

 

前方にいる麗日と尾白の会話が聞こえる。確かに入学当時は直ぐに体力テストを行われた為、始業式もてっきり無いのかと思っていた火野は共感しながらツタツタと歩いていると、前方の下駄箱に凭れ掛かっている生徒が視界に入る。B組の物間だ。

 

「聞いたよーA組ィィ!2名!!そちら仮免落ちが2名も落ちたんだってええ!!?」

 

「B組物間!相変わらず気が触れてやがる!」

 

わざわざA組が来るのを待ってまで煽りたかったのだろうか。物凄い形相で迫り来る物間に上鳴が辛口でそう言い放つ。

 

「さてはまたおめーだけ落ちたな」

 

ハッとした切島が何か思い当たる節があるのかそう尋ねると、物間は急に「ハッハッハッハッハッ」と腹を抱えて笑い出す。が、スン…と笑いを止めて無言で後ろに振り返り、切島は思わず「いやどっちだよ!」とツッコみを入れた。

 

「こちとら全員合格、水があいたねA組」

 

その前方にはB組生徒達が集まっており、振り返る物間はドヤ顔で1人だけ勝ち誇っていた。

 

「……悪ィ、皆……」

 

「いやいや、向こうが一方的に競ってるだけだから気に病むなよ」

 

それを聞いて鵜呑みにしてしまったのか、悔しそうに轟が俯く。切島がフォローを入れていると、B組の中から1人、角取が少し嬉しそうにA組に声を掛ける。

 

「ブラドティーチャーによるゥと、後期ィはクラストゥゲザージュギョーあるデスミタイ。楽シミしテマス!」

 

「へぇ!そりゃ腕がなるぜ!」

 

「つか外国人さんなのね」

 

カタコトな日本語を聞き取って切島が喜び、アメリカ人の彼女を見て上鳴は見つめていると、物間が角取にコソコソと何やら小声で伝え始める。

 

「ボコボコォにウチノメシテヤア…ンヨ?」

 

「変な言葉教えんな!」

 

アメリカ人を良いことに変な言葉を教える物間は後ろで高笑いをするが、B組の拳藤が目潰しという暴力で反省させる。そんなこんなで、ヒーロー科のA、Bクラスが靴を履き替えず下駄箱で屯っていると、後方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「オーイ、後ろ詰まってんだけど」

 

「すみません!さぁさぁ皆、私語は慎むんだ!迷惑掛かっているぞ」

 

「かっこ悪ィとこ見せてくれるなよ」

 

ハッとした飯田は急いで屯っている生徒達を下駄箱へと誘導させる。呆れた様な物言いに火野は振り返ると、普通科のクラスで、先頭に立ってそう言っていたのは心操だった。

 

「心操君!体育祭以来だね!」

 

「相変わらずお前のクラスはおちゃらけてんな」

 

「あはは…」

 

彼とは体育祭の時に騎馬戦を共にした生徒。久々もあって火野は列から外れて近寄り声を掛けると、気怠そうに彼はそう応える。火野は苦笑していると、飯田が「火野君!」と列を外れた火野に向かって声を上げていた。

 

「ご、ごめん!じゃあね心操君ッ」

 

「おう」

 

火野はそう言い残し、心操も軽く手を上げてその場を後にする。下駄箱で靴を履き替えていると、耳郎が火野に声をかけた。

 

「あれって緑谷と戦った生徒でしょ?仲良いね」

 

「うん、体育祭の時からの付き合いだからね」

 

「ふぅん。……火野」

 

ふと、耳郎は火野の名を呼び、火野は「ん?」と返事をする。その時の耳郎の脳内には、仮免許試験が終わった後、相澤に尋問されていた光景を思い出しており、耳郎は心配そうに口を開いた。

 

「…その……なんかあったら、ウチに相談しなよ?」

 

「? うんっ。ありがとう」

 

急な言葉にキョトンとする火野だが、彼女の善意だと受け取り、火野はお礼を言う。

そのまま靴を履き替え、先に歩き出す火野の背中を耳郎は見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

校庭のグラウンドへと集合した全生徒達。一学年にヒーロー科、普通科、サポート科、経営科の11クラスが合計33クラスも集まっていると、かなりの人数で、グラウンドは大所帯となっていた。

その中に並んでいる火野。すると、体の中からアンクの声が聞こえてくる。

 

『おい映司。何をそんなに嬉しそうにしてやがる?』

 

「(そりゃあ、入学式とかやってなかったからね。なんか新鮮って言うか、学生らしい事が出来て嬉しいって言うか…)」

 

『長ったるい話する行事だろ。何処が楽しいのか、俺には理解出来ん』

 

「(まぁ普通の人ならそうだろうけど、俺は何とも思ってないよ)」

 

アンクに続いてウヴァも面倒くさそうに言ってくるのが聞こえ、火野はそう言って小声で応える。入学当時は相澤先生の独断で入学式は出られなかったが、先程尾白も言ってた様に、一学期の間で色々と事件があったのもあって、今回の始業式は出る事になったらしい。雄英入って初の学校行事なので、火野自身は少し嬉しそうにソワソワとしていた。

 

「やぁ!皆大好き小型ほ乳類の校長さ!」

 

ふと、全校生徒の前にある壇上に上がって元気よく挨拶をするのは雄英の根津校長だ。そこから何処の学校でも共通の校長の話が始まったのだが、その内容は自身の毛質がどうだの、食事を考え、睡眠を良くとって毛並みを整えるだのと私用の事ばかりを語り始める。火野に関してはへぇ〜と興味を持って話を聞いているが、他の生徒達は長ったるい話だと反応に困っていた。

すると、根津の空気が変わり始める。

 

生活習慣(ライフスタイル)が乱れたのは皆もご存知の通りこの夏休みに起きた〝事件〟に起因しているのさ」

 

自身の生活習慣を例え話にして、根津は本題へと入り口を動かす。

 

「柱の喪失、あの事件の影響は予想を超えた速度で現れ始めている。これから社会には大きな困難が待ち受けているだろう。特にヒーロー科諸君にとっては顕著に表れる。2・3年生の多くが取り組んでいる〝校外活動(ヒーローインターン)〟もこれまで以上に危機意識を持って考える必要がある」

 

校外活動(ヒーローインターン)…?」

 

「職場体験の発展系のようなものかしら……?」

 

聞き慣れない言葉に1年生徒達は首を傾げるが、根津校長はそのまま口を動かした。

 

「暗い話はどうしたって空気が重くなるね。大人たちは今、その重い空気をどうしようか頑張っているんだ。君たちは是非ともその頑張りを受け継ぎ発展させられる人材となってほしい。経営課も、普通科も、サポート科も、ヒーロー科も、皆社会の後継者であることを忘れないでくれたまえ」

 

生徒達を見守る校長として最もらしい事を言い終えると、根津校長は壇上の階段を下りてその場を後にした。

 

その後は注意事項として、生活指導のハウンドドッグ先生が壇上に上がって物申そうとしたのだが言葉を喋らず、猛犬が怒り狂って吠える様な怒号で伝える。のだが当然伝わる訳も無く、ブラドキングが代わりに「昨晩喧嘩した生徒がいました。慣れない寮生活ではありますが節度をもって生活しましょう」と通訳してくれ、生徒達はハウンドドッグ先生何だったんだ?と言わんばかりに校庭は唖然に包まれていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

とある市街地。人混みが交う街中で1人の青年が立っていた。黄色い服を基調に白髪の上に帽子を被っている彼は、まるで()の様に人間を見つめていた。

すると、何かを見つけたのか青年はニヤリと笑みを浮かべて目的の者へと足を運ぶ。その人間の後ろ姿は至って普通だが、まだ残暑の時期なのに紫色のファー付きのモッズコートを羽織っている。

 

「ねえ君」

 

青年はある程度近寄ると声を掛ける。男は気付いたのか振り返ると、口元には赤いペストマスクを着用していた。

 

「面白いマスクをしてるんだね」

 

「何か要でも?」

 

興味を持つ青年だが、如何にも無駄話をする暇は無いとその表情に出す男は要件を聞く。

 

「ちょっとね、君の()()がかなり渦巻いていたから思わず声を掛けちゃった」

 

「ッ!」

 

青年の言葉にペストマスクの男は目を見開く。何か考えていたのか数秒無言が続き、男は右手を軽く上げて口を開いた。

 

「1つ質問良いか?お前には目的はあるのか?」

 

「目的…?そうだね、その人の欲望を解放させて上げることかな」

 

青年はそう言って、1枚のセルメダルを取り出そうとする。

だが、ペストマスクの男は続けて口を開いた。

 

「少し、話さないか?連れも待たせてるので…」

 

「話?まァ、それくらいなら良いよ」

 

「なら移動しよう、ここは人目が多くつく…。もう一つ質問良いか?名前は?」

 

「別に、教える義理はなーー……」

 

ペストマスクの男に、青年はそう言って促そうとするが、何か思ったのか不敵な笑みを浮かべ、口を開いた。

 

 

「僕は〝カザリ〟。君は?」

 

 

「しがない組を任されていてね。……組の奴らからは〝オーバーホール〟と呼ばれてる」

 





No.117 出会いの季節

更に向こうへ!Plus Ultra!!
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