いつかの明日へ、【ヒーロー】は助け合いでしょ   作:しょくんだよ

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経験とその後と密会



No.119 強さの先と対面する者達

 

「いやァ!!まさか身体に電気を流し込んでたとはね、俺の読みが甘かった!!普通虫って電気を流すなんて思わないよ、中々やるね君!」

 

「い、いえ…攻撃当てれただけで、俺は倒れちゃったので…流石です通形さん」

 

「ハッ、使いこなせればお前なんざ一捻りだったのに」

 

「そうだ、俺のメダル3枚も使ったんだぞ!?映司の使い方にも問題あるに決まってる」

 

授業の残り時間を鑑みて、ミリオとの戦闘は終了となり、体操服へと着替えたミリオは後頭部に手を置きながら火野を評価する。火野は受け流す様に言うが、釈然としなかったのかアンクとウヴァが隣でブツブツと嫌味ったらしく言われ、「仕方ないだろ、てかあの電撃もう少し何とかならないのかよ…」と火野はクワガタメダルに茶々を入れる。

すると、鳩尾を押さえながら上鳴がハッとし口を開いた。

 

「そ、その手があったな〜…俺もそうすればパイ先倒せたかもなぁ…」

 

「アンタが使っても稲妻が走るから気付かれるのがオチだっての……」

 

提案するも、その隣で冷静にツッコまれる耳郎に項垂れる上鳴だが、続けて皮肉そうに口を開いた。

 

「てか増えるのは分かっけど、昆虫に電気って反則すぎね…?原理とかそう言うの超えちゃっててスゲーけどさ、ズルい気がするわー…。腕の刃物と馬鹿みたいな脚力と言うおまけ付きでさ…」

 

ガタキリバの全面的な能力に嫉妬するような目付きで火野を見つめる上鳴。それを見て、満更でも無い様な笑みを見せるアンク。すると、緑谷は「それだけじゃないよ…」と口を開く。

 

「最初に分身して攻撃を仕掛けたのは()()がガタキリバの〝個性〟だと思い込ませる為…。更に、アレだけの数で押し寄せれば通形先輩はそっちに集中してしまうから、同じ〝個性〟でもあるアンク君が一体の分身の火野君に作戦を伝えてる目論見に気付けず、ガタキリバの電撃攻撃に油断してしまった…初見じゃないと例え僕でも、絶対やられていたと思う…」

 

「んん、凄い考察!殆ど言われちゃったんだよね!」

 

ハハハハ!と高笑いしながら言うミリオだが、それをスン…と止めてミリオは口を開いた。

 

「確かに多種多様の〝個性〟が使えるのは凄いけど、それを使いこなせる彼自身も凄いと思うんだよね。多分、電気を体に流し込むのは相当な技術と同時に体にもダメージが大きい筈。それを俺に気付かれずに宛かも力を溜めている様に見せかけたのは俺も想定外だったんだよね……」

 

「あ、ありがとうございます…!」

 

ここまで的確に評価してくれるとは思わなかったのか火野は隠しきれず笑みを浮かべてお礼を言う。すると、相澤が軽く咳払いをしてジロッとミリオを睨む。ハッとしたミリオはあたふたしながらグロッキーになっているA組達に向かって口を動かした。

 

「と、というわけで!!ギリギリちんちん見えないよう努めたけど!!すみませんね女性陣!!とまァーーーこんな感じなんだよね!」

 

「殆どが腹パンされただけなんですが……」

 

時間が少し立って少しは回復したつもりなんだろうが、A組の一同はそれでも顔色が真っ青なグロッキー状態で立っていた。火野自身はガタキリバの防御力のおかげでそこまでなダメージは無かったのだろうが、殴られ、蹴られた部分を摩っていた。

3年生だけあってか、ミリオの体はかなり鍛えられており、戦い途中でも見せたその筋骨隆々の体には驚かされていたのもある。

そんな、今にも座り込みそうな一同を見つめて、ミリオは軽い様子で口を開いた。

 

「俺の〝個性〟、強かった?」

 

「強すぎっス!」

 

「ずるいや、私の事考えて!」

 

「すり抜けるしワープだし、轟や火野みたいなハイブリッドですか!?」

 

間入れず反発する瀬呂、葉隠、芦戸。その芦戸の質問にミリオは笑顔で「いや、1つ!!」と言い放つ。

 

「え、1つ…!?」

 

「はーい!私知ってるよ〝個性〟!ねえねえ言っていい?言っていい!?『トーカ』!」

 

「波動さん…今はミリオの時間だ」

 

驚く緑谷の前に、元気良く挙手する波動はミリオの〝個性〟の名を上げるが、後ろを向いたままの天喰がソレを止めると、ミリオは彼女を割いて口を開いた。

 

「そう!俺の〝個性〟は『透過』なんだよね!君達がワープと言う移動は推察された通りその応用さ!」

 

説明を全部持ってかれたのかムスッとふて腐れながら裾を引っ張る波動にミリオは「ごめんて」と謝る。すると、緑谷は詳しく聞こうと手でメモをする様な動きをしながら質問をした。

 

「どういう原理でワープを……!!?」

 

「全身に〝個性〟を発動すると、俺の身体はあらゆるものをすりぬける!あらゆる!すなわち、地面もさ!」

 

「あっ、じゃあ……あれ、落っこちてたってこと……!?」

 

「そう!地中に落ちる!!そして落下中に〝個性〟を解除すると不思議な事が起きる!質量のあるモノが重なり合う事はできないらしく……()()()()しまうんだよね。つまり俺は瞬時に地上へ弾き出されてるのさ!これがワープの原理、体の向きやポーズで角度を調整して弾かれ先を狙う事ができる!」

 

「……?ゲームのバグみたい」

 

「イーエテミョー!!」

 

ミリオの説明に納得しない顔でボソッと言う芦戸に彼は吹き出す。そんなミリオの〝個性〟に蛙吹は口を開いた。

 

「攻撃は全てスカせて自由に瞬時に動けるのね…やっぱりとっても強い〝個性〟」

 

「ハッ、馬鹿が。映司は当てれただろ」

 

アンクの言葉に一同は「あっ」と口を開く。その言葉にミリオはうんうんと頷き口を動かした。

 

「そっちの金髪の子の言う通り、俺の〝個性〟は攻撃時には実体化して相手に攻撃を当てる。裏をかけば、その直後の実態に攻撃を当てる事が出来るんだよね!……それに、俺の〝個性〟は、強く()()んだよね」

 

一旦区切るミリオの言葉に全員は不思議そうな表情を浮かべる。それを回答する様に続けて彼は言った。

 

「発動中は肺が酸素を取り込めない。吸っても透過しているからね。同様に、鼓膜は振動を、網膜は光を透過する。あらゆるモノをすり抜ける。それは何も感じることが出来ず、ただ質量を持ったまま、落下の感覚だけがある……ということなんだ」

 

その言葉に殆どの一同はハッとする。一件はかなりの脅威的な〝個性〟だが、透過している間は息も呼吸も何も出来ない。地面に落ちている間は何も見えず、下手をすれば何処に出て来れるのかもわからない状態。自身がその〝個性〟だったらと思うとかなりゾッとする話だ。

 

「分かるかな!?そんなだから壁一つ抜けるにしても、片足以外発動、もう片方の足を解除しながら向こう側に接地、そして残った足を発動させてすり抜け、簡単な動きにもいくつか行程が要るんだよね」

 

「急いでる時ほどミスるな俺だったら…」

 

「おまけに何も感じ無くなってるんじゃ動けねー…」

 

「そう!案の定俺は遅れた!!ビリっけつまであっという間に落っこちた。服も落ちた。この〝個性〟で上を行くには遅れだけはとっちゃダメだった!!予測!!周囲よりも早く!!時に欺く!!何より『予測』が必要だった!そしてその予測を可能にするのは経験!経験則から予測を立てる!長くなったけどコレが手合わせの理由!言葉よりも〝経験〟で伝えたかった!インターンにおいて我々は『お客』じゃなくて一人のサイドキック!同列(プロ)として扱われるんだよね!それはとても恐ろしいよ、時には人の死にも立ち会う…!けれど恐い思いも辛い思いも全てが学校じゃ手に入らない一線級の〝経験〟!俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ!ので!恐くてもやるべきだと思うよ1年生!!」

 

「(経験を……力に……)」

 

熱く、そして力強く語ってくれたミリオに火野はブルっと武者震いを起こす。3年生ともあって、見てきた光景の経験差が今の彼を物語っているのだろう。すると次第にA組達から拍手が次々と送られていた。

 

「話し方もプロっぽい……」

 

「1分で済む話を、ここまで掛けて下さるなんて……!」

 

「お客か、確かに職場体験はそんな感じだった」

 

「危ない事はさせないようにしてたよね」

 

「インターンはそうじゃないって事か…」

 

「仮免を取得した以上、現場に出ればプロと同格に扱われる…!」

 

「うんッ」

 

「覚悟しとかなきゃだな……」

 

「上等だっての!」

 

「そうだよ、私たちプロになるために雄英入ったんだから!」

 

「そうだな」

 

「セラビィ☆」

 

「上昇あるのみ」

 

「プルス、ウルトラ…」

 

ミリオの演説を聞いた一同は奮い立つ様に和気藹々と盛り上がっていた。仮免を取れなかった轟も、早く追いつこうとその目を真っ直ぐやる気に満ち溢れており、火野も拳に力を入れて意気込みを見せていた。

すると、時計を気にしていた相澤がクラスの一同に声をかける。

 

「そろそろ戻るぞー、挨拶!」

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

一同は先輩達に元気良く挨拶し、体育館内を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

その夕方、授業が終わって寮へと戻り一段落の息をついていた。すると、謹慎最終日の爆豪が大きいポリ袋を持っては吠える様に声を荒げていた。

 

「オラァ!!ゴミあるなら持ってこいやああ!!」

 

「爆豪、頼むー!」

 

「俺もー」

 

「頼む…」

 

「オイラも」

 

「テメェら溜め込み過ぎなんだよこのクソ共ぉ!!」

 

ゴミを出してくれると男子達は見境無く次々と溜め込んでいたゴミ袋を持って来る。

 

「手伝おうか?」

 

「いらんわ、ヨユーだ!全部よこせ!!…あァ!?何だこのゴミ!」

 

自分のゴミだけでもと火野は声を掛けるが、爆豪は啖呵切って火野からゴミをぶん取る。すると、突起物らしきものが幾つも出ているゴミ袋に違和感を覚えていると、アンクが口を開いた。

 

「見てわからないのか?アイスの棒だ」

 

「見りゃわかるわ!!俺が驚いてんのは量だ!てめェコレ入れ過ぎなんだよ!てか、食い過ぎだろ!何本あんだ!?」

 

「ハッ、お前には関係の無い事だ。ほら、さっさと捨てて来い、謹慎君」

 

「ぐぬぬぬ……!!」

 

謹慎もあってか、挑発するアンクに言い返せず唸り声を上げる爆豪。火野も苦笑しながらも見ているその一方で、談話スペースのソファーでは、女性陣が腰を掛けて会話を弾ませていた。

 

「くー!通形先輩のビリっけつからトップってのはロマンあるよねー!」

 

「うんうん!」

 

「インターンに行くのが楽しみになってきたわ」

 

「どうなんやろね、1年はまだ様子見って言ってたけど」

 

「とりあえず相澤先生のGOサイン待ちですわね」

 

髪を下ろしながら八百万が言うと、葉隠が「ねー!」と言って女の子達の会話が一旦止まる。それに耳を傾けていた火野は、帰りのH Rで言っていた相澤の言葉を思い出していた。

 

 

『ビッグ3から校外活動(インターン)の意義を教わったが、お前らがまだ同列(プロ)の現場に行けると決まったわけじゃない。職員会議で是非を決める必要があるし、やるならやるで、マスコミ等への対応も考えなきゃならん。しばらくは様子見だ』

 

 

「ん〜…、行けるのは難しいのかなぁ」

 

独り言の様に呟いた火野は、窓の外を眺める。夕暮れで赤面に広がる空は、いつもよりも赤色に染まっていた。

その景色を見て火野は微かに胸騒ぎを感じる。が、気のせいと直ぐに思い込み、談話スペースで盛り上がっているクラスメイト達の輪に入って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

少し時間が経ち、辺りは夜の闇に呑まれそうになっていた空の下、人里から離れた場所の森の中に建設されて随分と日が経っていたのは廃工場だ。その付近に、1台のセダン車が止まっており、中から2人の男性が顔を出す。

(ヴィラン)連合の1人、トゥワイスと、オーバーホールだった。

 

「見るからに不衛生だな。ここが拠点か?」

 

「ああ!いきなり本拠地連れてくかよ。面接会場ってとこ!」

 

「勘弁してくれよ。随分埃っぽいなここは……病気になりそうだ」

 

「安心しろ!中の奴らはとっくに病気だ」

 

ゴホゴホと咳をするオーバーホールの意見を無視してトゥワイスは錆びついた扉を開ける。

薄暗い工場内には灯りが灯されており、その部屋の奥には死柄木、優無、槍無、マグネ、トガ、Mr.コンプレスが、各々の定位置に座ってオーバーホールを見つめていた。

 

「ヨォヨォ!連れて来たぜー、帰ったぜー!話してみたら意外と良い奴でよ!!お前と話をさせろってよ!感じ悪いよな!!」

 

相変わらず1人で2人分の会話を行っているように矛盾し続ける喋り方をするトゥワイス。だが連合等は慣れたのかツッコむ者は誰もおらず、紹介されたオーバーホールを見つめて死柄木が口を開いた。

 

「……とんだ大物、連れてきたな…トゥワイス」

 

「大物とは…皮肉が効いてるな、(ヴィラン)連合」

 

オーバーホールが言うと、大物のワードにマグネが食い付く。

 

「何!?大物って有名人!?」

 

「先生に写真を見せてもらった事がある。いわゆる筋者さ。『死穢八斎會(しえはっさいかい)』、その若頭だ」

 

「死穢八斎會の若頭?てことは極道のNo.2!?やだ初めて見たわ、危険な香り!」

 

何か興味でもあるのか目を輝かせウッホホイ!とテンションを上げるマグネ。すると、優無もオール・フォー・ワンに聞いた事があって、何か心当たりがあるのか、トゥワイスに声を掛けた。

 

「私も前に確か先生が教えてくれてたかな。トゥワイス、凄い人連れて来たね。何処で知り合ったのさ?」

 

「家の近くでブラブラしてたらちょうどその街中で起きてた事件に絡んでたんだ!声かけなかったけど!」

 

「はーん……まァこれはこれで収穫物だねぇ」

 

優無はそう言って死柄木の顔を見るが、手で顔が見えない死柄木の表情は読み取れず、優無は軽く息を吐いていると、極道と言う言葉に不思議そうな顔をしていた槍無。隣のトガも同様なのか、真上の鉄置き場に座っていたMr.コンプレスに声を掛けた。

 

「私達と何が違う人でしょう?」

 

「あ…僕も気になる……」

 

「よーしよし、中卒のトガちゃんと世間をあまり知らない槍無君におじさんが教えてあげよう。昔は裏社会を取り仕切る恐ーい団体がたくさんあったんだ。でも、ヒーローが隆盛してからは摘発・解体が進み、オールマイトの登場で時代を終えた。尻尾を掴まれなかった生き残りは、(ヴィラン)連合予備軍って扱いで監視されながら細々生きてんのさ。ハッキリ言って時代遅れの天然記念物」

 

時は流れてヒーロー飽和時代、そしてオールマイトの台頭により、旧来のヤクザは組織解体が進んでいく。Mr.コンプレスの回答にオーバーホールも「天然記念物か。まァ、間違っちゃいない」と同意していた。

 

「それでその細々ライフの極道くんが何故敵連合(ウチ)に?あなたもオールマイトが引退して、ハイになっちゃったタイプ?」

 

「いや…オールマイトよりもオール・フォー・ワンの消失が大きい」

 

オーバーホールの言葉に、死柄木、優無はピクリと反応する。

 

「裏社会の全てを支配していたという闇の帝王…俺の時代じゃ都市伝説扱いだったが、老人達は確信をもって畏れてた、死亡説が噂されても尚な。それが今回実体を現し……オールマイトは引退、そしてオール・フォー・ワンもタルタロス(監獄)へとブチ込まれた。つまり今は、日向も日陰も支配者がいない。じゃあ次は誰が支配者になるか」

 

「……ウチの〝先生〟が誰か知ってて言ってんならそりゃ…挑発でもしてんのか?」

 

「本当ね。てか支配者って、そりゃもうここに居る死柄木君じゃんね。ね、弟君」

 

「うん…」

 

気に入らなそうに立ち上がりオーバーホールへと歩き出す死柄木に優無も当たり前の様に言って槍無に共感を求めていた。オール・フォー・ワンが捕まってしまった以上、師である死柄木に全てを託し、(ヴィラン)連合の統率を任された死柄木が、次の世を支配する存在。その優無の意見に同意したのかその場の(ヴィラン)連合達は同意の笑みを浮かべる。

 

「今も勢力を掻き集めてる。すぐに拡大していく。そしてその力で必ずこのヒーロー社会をドタマからブッ潰す」

 

「計画はあるのか?」

 

「計画?おまえさっきから何だ?…仲間になりに来たんだよな?」

 

「計画のない目標は妄想と言う。妄想をプレゼンされてもこっちが困る。勢力を増やしてどうする?そもそもどう操っていく?どういう組織図を目指してる?ヒーロー殺しのステインをはじめ、マスキュラー、ムーンフィッシュ、どれも駒として一級品だが、すぐに落としてるな?使い方がわからなかったか?イカレた人間十余人も操れないのに勢力拡大?コントロール出来ない力を集めて何になる?目標を達成するには計画がいる、そして俺には計画がある。今日は別に仲間に入れて欲しくて来たんじゃない」

 

「えぇ…、間違っちゃ無いけど…さァ」

 

確かにオーバーホールの言ってる事は一理ある。今までの仕掛けてきた事件も、勢力を集めて攻めただけの無計画な作戦ばかりだった。捕まった(ヴィラン)達も自身の我欲が強過ぎて突っ走り、雄英に倒された。ここに残っているのは、生き残れた偶然の者ばかりだとしても、少なくとも死柄木に着いて行こうと決意した、有象無象の連中の集まり。点穴を突かれた様な気がした優無は顔を曇らせていると、不機嫌そうに死柄木はトゥワイスに声を掛けた。

 

「トゥワイス…ちゃんと意志確認してから連れて来い」

 

「いっ…」

 

「計画の遂行に莫大な金が要る。時代遅れの小さなヤクザ者に投資しようなんて物好きはなかなかいなくてな。ただ名の膨れ上がったおまえ達がいれば話は別だ……俺の傘下に入れ。おまえ達を使ってみせよう。そして俺が次の支配者になる」

 

まさかの逆の勧誘提案に工場内は沈黙に包まれる。トゥワイスもまさかこんな奴だと思わなかったのか、この空気をどうしたものかと慌てふためいている。槍無もまた、どうするか考えながら姉の表情を見遣る。だが優無は小さく溜息を吐いていた。まるで、それはNGワードだよ、と言わんばかりの表情で、死柄木を見つめる。

 

「帰れ」

 

死柄木が誰かの下につくのは有り得ない話。その一言によって、この場の空気の流れが変わった。そして先に動き出したのは、包帯を解いた巨大な磁石を手に持ったマグネだった。

 

「ごめんね極道君!私達、誰かの下につく為に集まってるんじゃあないの!」

 

「!」

 

「あらら…喧嘩っ早いなァ、マグ姉…」

 

磁石をN極に向け、オーバーホールは男即ち〝S極〟となって彼はマグネに引き寄せられて行く。短い期間共に過ごした優無は、何かと世話焼きで、意外にも怒りっぽい性格のマグネに対して苦笑を浮かべていた。こうなってしまえば冷静に話は出来ない。落ち着かせる方法を後で考えないとと。

 

「こないだ、友達と会ってきたのよ。内気で恥ずかしがり屋だけど、私の素性を知っても尚友達でいてくれた子。彼女言ってたわ、『常識という鎖に繋がれた人が繋がれてない人を笑ってる』」

 

 

『剣ちゃんは、その常識から飛び出したんだよね…。私は、飛び出す勇気も持てないや…』

 

 

マグネの脳内にふと、同じトランスジェンダーである友人の言葉を思い返していた。その言葉に、マグネはグッと腕に力を入れ、迫り来るオーバーホール目掛けて声を荒げる。

 

「何にも縛られずに生きたくてここにいる!私達の居場所は私達が決めるわ!!」

 

〝生きやすい世の中にしたい〟。その想いもあってか、マグネは叫ぶと同時に、巨大な磁石をオーバーホールの後頭部目掛けて直撃させる。

鉄の塊が直撃した今、勝負はあったかとその場の者達は見届けていた。

だがそう思った直後、オーバーホールは()()()()()()外していた手袋を右手に持っており、素手になっている指先をマグネの左腕に触れた。

 

その瞬間だった。

 

 

バツン!! と、マグネの上半身が、風船の様に割れて血飛沫と共に吹き飛んだのだ。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

一瞬の出来事に死柄木達は何が起きたのか頭が追いつかなかった。目の前に広がるのは無惨にも散っていくマグネの肉片、血飛沫、そしてオーバーホールの側で倒れるマグネの下半身。その血みどろになっていく床下を見て、ようやく、マグネが()()()という事を理解し、興奮する以外の感情を見せないトガがゾッと口を開いた。

 

「マ、マグ姉ぇ…!!?」

 

「……!!」

 

思わぬ味方の死。(ヴィラン)にとってはそれは日常茶飯事なのかも知れないが、完全に油断していた此方が迂闊だったとも言い切れる。優無は咄嗟にオーズドライバーを取り出そうとするが、その手は直前の所でピタリと止まっていた。

 

 

「先に手を出したのはおまえらだ……ああ汚いな…!!これだから嫌だ…!」

 

「……まえ……」

 

マグネの返り血を浴びたオーバーホールは服の袖でゴシゴシと不快そうに血を擦る。

すると、優無の横から小さく震え上がった声が聞こえる。ハッとした優無は振り向くと、いつの間にか立っていた槍無が俯きながらその拳を震わせていた。

 

「おまえっっ…!!!!」

 

「っ!バッ!弟君!!」

 

 

「変身!!」

 

 

 

サメ!

 

クジラ!

 

オオカミウオ!

 

 

 

 

「うおあああアア!!!」

 

激昂を露わに、バッと駆け出すと同時に槍無の体は水流へと包まれ、ポセイドンへと姿を変える。そして振り翳した赤い槍、ディーペストハープーンを、オーバーホール目掛けて突き刺そうとしていたのだった。

 





No.120 いざ、再びあの会社へ!

更に向こうへ!Plus Ultra!!

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