いつかの明日へ、【ヒーロー】は助け合いでしょ   作:しょくんだよ

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チームヒーローと魔獣の森と経験値


No.78 ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ

 

あれから1時間が経過し、山道を走らせていたバスが休憩所も何もないパーキングスペースにバスが停車する。窓から見える景色は建物など見当たらない、見渡す限りの山ばかりだった。

 

「さっさと降りろよ」

 

相澤に促され、皆んなはそれぞれ休憩かと伸びをしながら立ち上がる。ジュースを飲み過ぎた峰田は「おしっこ…!」と体を震わせながらいち早くバスを降りていく。

 

「んー……!ずっと座ってると体が痛いな…」

 

「もう老化現象?」

 

「なわけないだろ」

 

降りた矢先にぐーっと背伸びをしてボヤく火野に、ふざけた笑みで上鳴が茶々を入れる。苦笑しながら応える火野の隣では、今にも漏れそうなのか股間を押さえながら「おしっこおしっこ…」とか細い声で訴えていた。

そして広い空、広大な山々を堪能しながら火野は新鮮な空気を吸い込む。山に続く眼下に広がる森は鬱蒼としている。そんな中、気掛かりに思ったのか、上鳴が呟いた。

 

「つか何ここ、パーキングじゃなくね?」

 

「ねぇアレ?B組は?」

 

上鳴の言葉に便乗して耳郎が首を傾げる。確かに降りた場所には一緒に走行していた筈のB組のバスがどこにも見当たらない。景色を眺めるだけにわざわざ止まったのもおかしいとA組生徒達が考えている中、相澤が口を開いた。

 

「お…おしっこ…!トトトトトイレは……」

「何の目的も無くでは意味が薄いからな」

 

峰田の声を跳ね除けるかのように相澤は呟く。その言葉の意味をまだ火野達には理解しかねなかった。すると、別の場所に駐車していた1台の車から何人か下りて来て相澤に声を掛ける。

 

「よーーーーうイレイザー!!」

 

「ご無沙汰しております」

 

上機嫌に話し掛けるのは金髪の猫をモチーフにしたヒーローコスチュームを着た女性だった。隣のショートボブヘアの女性も似たようなコスチュームを着ている。そしてもう1人は小学生くらいの年頃の男の子で角が付いてある変わった帽子を被っていた。相澤はかしこまってお辞儀をする。そして、2人の女性はA組全員を目の前にして大胆不敵に自己紹介を始めた。

 

「煌めく眼でロックオン!」

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

ババーンと絵文字が飛び出しそうな自己紹介。そして、いい歳をした女性が小さな女の子が見てそうな子供番組のオマージュみたく登場する〝プッシーキャッツ〟の2人に生徒一同は呆然となっていた。

 

「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」

 

掻い摘んで相澤が紹介すると、知っているかのように緑谷が興奮気味に声を上げた。

 

「連盟事務所を構える4名1チームのヒーロー集団!!山岳救助等を得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年で12年にもなるーーー」

 

ブレない興奮と熱狂で送るヒーローオタクの解説。だが、キャリアの詳細を言い掛けたその時、プッシーキャッツの1人〝ピクシーボブ〟が肉球を模した手袋で緑谷の顔面を鷲掴みにした。

 

「心は18!!」

 

「へぶっ!?」

 

「心は?」

 

「じゅ、ジュウハチ!」

 

必死に訴えるピクシーボブ。肉球に仕込まれた爪型の刃がギラリと輝き、脅すような物言いで緑谷は言われるがままとなっている。それを見ていた火野は「若づくりって大変だなぁ…」と呟くと耳郎が慌ててシーッと静かにさせていた。

 

「お前等、挨拶しろ」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

礼儀を忘れずに挨拶の指示で一同は大きな声で挨拶をする。すると、もう1人の〝マンダレイ〟が振り返って山々を見渡しながら口を開いた。

 

「ここら一体は私等の所有地なんだけどね。あんた等の宿泊施設はあの山の麓ね」

 

マンダレイはそう言ってピッと爪型の刃で指差す。その山は立っているこの場の目視だと握り拳と同じくらいのサイズの山だった。バスで移動しても小一時間は掛かりそうな距離に、何人かは声を揃えて「「「遠っ!!」」」と言うのも仕方ない。そして、そのマンダレイの言葉に疑問を思う生徒が呟く。

 

「え…?じゃあ何でこんな半端な所に…………」

 

不審に思う麗日。パーキングエリアでもなく、下りた先に緑谷が言っていた山岳地帯のプロヒーローが()()()()待ち構えていること。何かが妙だと思い、生徒達はざわつき始めていた。

 

「これってもしかして…」

 

「いやいや…」

 

「ハハ…。バス…戻ろうか……。な?早く…」

 

「そうだな…そうすっか…」

 

考えが鋭い蛙吹は顎に人差し指を置いて言うと、砂藤が首を振り、顔を曇らせながら瀬呂が背を向ける。その言葉に賛同した上鳴もまた、頷く。のどかな遠足気分に浸っていたA組の面々は、自身達が置かれていたこの状況を理解し始め、生徒達の額には冷や汗が流れていた。だが、その嫌な予感を更に向上させるようにマンダレイが口を開いた。

 

「今は午前9:30。早ければぁ…12時前後かしらん」

 

「ダメだ…おい…」

 

腕時計を見ながら企みの笑みを浮かべるマンダレイ。嫌な予感が確信へと徐々に変わっていき、切島の顔は青ざめていた。このままここに滞在すれば身の危険が迫ると感じたのか芦戸が声を張り上げる。

 

「戻ろう!」

 

「バスに戻れっ!!早く!!」

 

切島が叫ぶと生徒達は一斉に停車していたバスに向かって一目散に駆け出した。だが、全員が戻ったわけではなく、緑谷は何事かとオロオロしており、爆豪はこの状況が逆にワクワクするのか不敵な笑みを浮かべて動じていない。そして飯田と轟、そして火野もこれから起こりうる出来事に備えて警戒態勢に入っていた。

 

「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きねー」

 

「悪いね諸君…。合宿は()()始まっている」

 

マンダレイが逃げる生徒達に忠告をすると、相澤が生徒達へと軽く謝罪と宣言をする。先導を走る切島、バスはもう目の前だった。その時、そのバスの前に先回りしたピクシーボブが現れる。彼女が両手を地面に触れる次の瞬間。その地面は急速に盛り上がり、瞬く間にその場にいた生徒達は呑み込まれていく。

 

「何だぁーーー!!?」

 

「土が、盛り上がってーー!?」

 

「うわっ!!…っておいおい嘘だろおお!?」

 

土砂災害の勢いでフェンスを越えて押し出された生徒達。まさか先程まで見渡していた鬱蒼とする森に放り出されるとは思っておらず、火野は叫びながら他のクラスメイトと共に森の中へと落下する。そして、生徒達全員が落下したのを確認したマンダレイがフェンス越しで「おーい!」と声を掛けた。

 

「私有地につき、〝個性〟の使用は自由だよ!今から3時間!自分の足で施設までおいでませ!!この…『魔獣の森』を抜けて!!」

 

マンダレイの説明を聞いて、落とされた生徒達は不吉で太陽の光が届いてないのか薄暗く、気味悪い森を見遣る。すると、魔獣の森と思わぬ単語を聞いた緑谷の声が裏返った。

 

「〝魔獣の森〟…!?」

 

「なんだそのドラクエめいた名称は……」

 

名称を聞かされ、まるでゲームの世界に飛ばされたような感覚になったのか上鳴が顔を顰めながら言う。

 

「雄英こういうの多すぎるだろ…」

 

「文句言ってもしゃあねえよ。行くっきゃねえ」

 

ごねる耳郎に切島が土のついた服を払いながら立ち上がる。便乗して他の全員が渋々覚悟を決めていた。その中、「耐えた…オイラは耐えたぞ…!」ともう膀胱が破裂しそうなのか峰田はいち早く用を足そうと森の中へと入ろうとしたその時。

パキッと木の枝を踏みながらこちらを睨む名称の名に相応しい〝ソレ〟が姿を現した。

 

「「マ、マジュウだーーーー!!?」」

 

「HAA………」

 

こちらを睨むソレは四つ足の歩行で生物に近い姿をしていた。だが動物にあるべき毛皮どころか、目も鼻も耳も無い。体を覆う木とゴツゴツと岩のような皮膚。〝魔獣〟と言えるその生物に上鳴と瀬呂は愕然と叫び、1番近くに遭遇した峰田は一瞬身震いをし、天にも昇るような声を漏らしていた。

 

「魔獣…!?本当にいたのか…!」

 

火野は驚きながらもオーズドライバーを腰に宛い装着する。すると、ソレに反応するかのように火野の中からアンクが出てきた。ヤミーかと思いタトバのメダルを取り出すアンクだが、その魔獣を見つめて少し怠そうに息を吐いた。

 

「おい映司、あの化け物…グリードでも()()()でもないぞ」

 

「え…?そうか!…だったら手加減はいらないな!」

 

よく見ると魔獣の体は硬そうな皮膚ではなく動く度にボロボロと土くれが落ちていた。恐らくピクシーボブがなんらかの〝個性〟で創り出したモノだろう。だったらやる事はシンプル。そう確信した火野は、ヤミーではないと認識していたアンクの持つタトバのメダルを奪い取り、ドライバーの左右に2枚、真ん中に1枚と嵌め込む。

 

「あ、おい!」

 

無理矢理盗られたアンクは吠えるが、構わず火野は右腰部分にあるオースキャナーを取り出し3枚嵌め込まれた部分へとソレをスキャンさせた。

 

「変身!」

 

 

タカ!

 

トラ!

 

バッタ!

 

 

 

 

 

「ハァッ!」

 

コンボソングが鳴り響き、火野はオーズ〝タトバコンボ〟へと姿を変えると、アンクは不満そうに舌打ちをしてオーズから距離を取る。オーズは直様駆け出すと、魔獣は峰田に襲い掛かろうと右前足を大きく振りかぶり、攻撃を仕掛けていた。だが、咄嗟に緑谷が峰田を担ぎ、その攻撃を交わしていた。涙目になる峰田を木影に下ろすと緑谷も気付いたのか全身にワン・フォー・オールの力を巡らせて戦闘態勢へと入る。

 

「轟君!こいつ…!」

 

「あぁ、大体分かった」

 

同じく駆け出していた轟にオーズは声をかけると轟も把握していたのか頷きながら、足元を踏み入れ氷結させる。氷結は魔獣の4本足を凍らせると、別方向からエンジンで駆け出した飯田と、爆破で飛んできた爆豪が魔獣目掛けて突っ込んでいった。

 

「〝レシプロバースト〟!!」

 

「死ねやあああっ!!」

 

脹脛部分が破れ、高熱を帯びたマフラーが剥き出しになった飯田は全力の足蹴りを氷で身動きのとれない魔獣に食らわす。それと同時に爆豪も溜め込んだニトロを発火させ、爆破攻撃を魔獣に食らわせた。両サイドからの攻撃で魔獣の体は土くれとなって粉々になるが、まだ本体が残っている。それにトドメをささんとオーズが跳躍すると、それとまた同時に、緑谷もジャンプした。

 

「セイヤァア!!」

 

「〝SMAAASH〟!!」

 

オーズの飛び蹴り、緑谷の渾身の拳を当て、魔獣は断末魔と共に土くれとなって砕け散った。魔獣を倒した事によって戦闘した5人を除くA組達から「おおっ!」と喜びの声が上がる。

 

「あの魔獣を瞬殺かよ!」

 

「やったな!」

 

オーズ達の援護に回っていた轟の元へ砂藤と瀬呂を先頭に歩み寄って勝利の笑みを浮かべながらそう言う。一方で木に手を添え、片方の手を股間に当てながら峰田は嘆いていた。

 

「やった…!オイラやっちまった…!」

 

まさか高校生にもなって漏らすなんて夢にも思わなかったのだろう。その付近では、爆豪に切島が声を掛けている。

 

「流石だぜ、爆豪!」

 

「…まだだ!」

 

警戒を解かない爆豪に切島は「え?」と声を漏らす。爆豪が向いている森の奥、良く見ると木の影から先程のとは姿形、大きさが違う魔獣がこちらを睨んでいたのだ。その魔獣は背中から巨大な翼が生えており、ドラゴンを模したような体で翼をはためかせる。すると、土くれの体なのに空中へと飛び立った。

 

「おいおい、一体何匹居るんだ…!?」

 

「どうする…、逃げる…?」

 

「冗談。12時半までに施設に行かなきゃ昼飯抜きだぜ」

 

木々が生い茂って空の様子が全く見えない中、A組生徒達の上で魔獣が飛び交う音が威嚇をするみたく聞こえる。怖がる上鳴の言葉に戸惑う芦戸。だが、砂藤の言う通りこの魔獣の森を抜けなければ昼食どころか宿泊施設に辿り着けることもできないだろう。すると、辺り一帯から魔獣の雄叫びが森全体に響き渡り始め、オーズは身構え口を開いた。

 

「魔獣を倒して進むしかないみたいだな。…それにしても、土くれでできた体なのにどうやって声を出してるんだろ…?」

 

声帯器官など無いはずなのにと、オーズは疑問を抱いていた。隣のアンクは興味なさそうに「知るか」と啖呵を切る。それに目や鼻、耳といった感覚器官も無いのにどうやってこっちを捕捉して襲ってきているのかも不明だ。だが、そんな浅はかな考えは今はしている暇はない。いきなり放り出された森で引き返すなどは考えず、全員が覚悟を決め始め戦闘態勢に入る中、八百万と飯田がA組生徒達に声を掛けた。

 

「火野さんの言う通りですわ。ここを突破して最短ルートで目指すしかありませんわ!」

 

「よしっ!行くぞA組!!」

 

「「「「「おぉっ!!」」」」」

 

委員長の声によって指揮が上がり、全員は覚悟を決めた。

薄暗い森で何処から攻めてくるのか分からない状況。それを把握する為に、索敵を得意とする障子が複製した耳で音を聞き、眼で周囲の魔獣の場所を確認する。それと同時に耳郎も木に刺したイヤホンジャックで音を探っていた。

 

「前方から3匹!左右に2匹ずつ!」

 

「総数7…来るよ!」

 

「よっしゃ!行くぜ!」

 

障子と耳郎の合図でまず瀬呂がテープを木の枝に射出させ、左方面の空中へと飛び出した。飛んでいたドラゴン型の魔獣が瀬呂を発見して襲い掛かろうと口を大きく広げるが、瀬呂は素早くテープを射出させ、ドラゴンの翼を縛ると、飛行能力を失い地面へと落下する。

 

「砂藤!切島!」

 

瀬呂が叫ぶと地上で待機していた砂藤が所持していた角砂糖をふんだんに口へと頬張り、ボリボリと噛み砕く。糖分を摂取することによってパワーが増加する〝個性〟で砂藤の体は筋骨隆々と膨れ上がり、溢れる力に「うぉおおおっ!」と雄叫びの声を上げた。

 

「オラ!オララララララァッ!!」

 

その間、切島は両腕を硬化させ、身動きの取れないドラゴン型魔獣の懐へと潜り込み、強烈なラッシュを繰り出す。

 

「ウらあっ!」

 

ボロボロと崩れ落ちる体に、トドメの一撃をと砂藤が顎下からアッパーを直撃させた。

続いて、右から迫り来る生物型魔獣2体。先頭を駆け出した常闇が「ダークシャドウ!」と叫ぶと体から分身であるダークシャドウが姿を現す。

 

『フン!ウラア!』

 

薄暗い森のせいか、少し気性が荒々しくなっている。だがその分攻撃力も増しており、ダークシャドウの攻撃により生物型魔獣は簡単に吹っ飛ばされていた。すると、後方から尾白も突っ込んできて、〝個性〟の尻尾で強靭な一撃をもう1体の魔獣にへとダメージを与える。

 

「今だ!青山!」

 

「トドメね☆ンウッ!」

 

怯んだ魔獣2体を確認する尾白が叫ぶと、いつの間にか付近の木の頂上へと上っていた青山が頷き、腰に巻かれたベルトの水晶から〝個性〟のネビルレーザーを魔獣に向けて射出する。直撃した魔獣2体の体は貫かれ、断末魔を上げながら爆散した。

次に、前方から迫り来る3体のうちの1体。二足歩行でゆっくりと襲い掛かろうと生徒達を睨む魔獣に、泣き喚きながら峰田が突っ込んだ。

 

「ちっくしょーっ!お前らのせいで下がビッチャビチャじゃねえかあ!!」

 

その発狂と同時に峰田は〝個性〟のもぎもぎを八つ当たりする勢いで魔獣へと投げまくっていた。どうやら魔獣は知恵を持っていないようで、大量のもぎもぎは魔獣の体へと付着していく。すると、掴んでいた木ごとくっついて身動きがとれない状態の中、「離れてろ峰田!」と上鳴が動けない魔獣の背中を駆け上がりながら叫ぶ。そして背中に乗った上鳴は両手を魔獣に押し当てると体がバチバチと帯電し始めた。

 

「食らえ!130万ボルトーーッ!!」

 

「ーーーーーッ!!」

 

放電され電撃をもろに浴びる魔獣は断末魔を上げた。放電が治ると魔獣は黒焦げになっていて、体のあちこちから煙が立ち上り、そのまま崩れ落ちる。同時に背中に乗っていた上鳴も地面に落下したが、やってやったぜと言わんばかりにサムズアップをしながら「ウッへへウエ〜イ」とアホ顔になっていた。

 

「うわー!こっち来ないでー!!」

 

そうこうしてる間に、前方から来た二足型魔獣2体に透明化が〝個性〟の葉隠が逃げ惑っていた。隠密行動に長けている彼女だが、こう言った戦場で面と向かっての戦闘だとやや分が悪い。だからこそ、敢えて()()()()()()()()()逃げていた。

 

「あらよっと!」

 

葉隠しか見ていなかった二足型魔獣の1体に、背後から近づいていた芦戸が、その巨体の足に酸を出した手で触れる。触れた部分は一瞬にしてドロドロに溶け、二足型魔獣はバランスを崩して膝をついた。

 

「うわー!大変!やられちゃうーー!!」

 

「葉隠さん、ナイス囮ですわ!」

 

続いてもう1体の二足型魔獣から再び大声を上げて逃げる葉隠。だがその先には創造から創り出した砲台を横に、威厳に満ちた表情で八百万が魔獣を見遣った。葉隠はそのまま走ると、正面からこちらに走ってくる芦戸とすれ違い様にハイタッチを行う。

 

「ほらさっ!」

 

芦戸はそのまま葉隠を追っていた二足型魔獣の片足に酸を放射する。片足が溶け、膝をつく魔獣。それを待っていましたと確認した八百万が叫んだ。

 

「お2人共!伏せてください!」

 

八百万の声に反応した葉隠と芦戸はその場でしゃがみ込む。すると、2体の二足型魔獣の顔面目掛けて八百万が大砲の弾を放った。直撃した魔獣の顔は跡形もなく吹き飛び、意識を失うようにそのまま倒れ込む。

 

「やったねヤオモモ!」

 

「お2人の協力あってこそですわ」

 

芦戸と葉隠は駆け寄ると、八百万はそう応えた。

一方で左方向の瀬呂、切島、砂藤が戦っている別の場所では、麗日と蛙吹が見るからなに動きが鈍そうな四足型魔獣を相手にしていた。動きが鈍い分簡単に背後に回り込めた為、麗日は両手の肉球で触れる。

 

「いいよ!梅雨ちゃん!」

 

「任せて!」

 

無重力状態となった魔獣から距離を取り、木の上の蔦を持って待機していた蛙吹に麗日が合図を出す。蛙吹は頷くと長い舌を伸ばして魔獣の体へと巻きつかせた。

 

「ケローーッ!」

 

蛙吹は蔦を利用し、遠心力の力で魔獣を大きく空中へと放り投げた。舌を離した蛙吹は地上へと下りて麗日と同じく木影に隠れると、麗日はその場に誰もいない事を確認して「解除!」と両手指を合わせる。すると、魔獣の無重力が解除され、四足型魔獣は勢いよく落下し、地面へと直撃した。

着々とA組の力によって魔獣は倒されていく。だが、この合宿はそんな甘優しいものではないと障子の一声で実感させる。

 

「更に多数出現!」

 

「っ!全方向から来るよ!!」

 

複製の目で確認、イヤホンジャックで音を探知し叫ぶ耳郎。そして、更に数が増えて襲いくる魔獣達。A組達は協力して立ち向かっていたが、爆豪は不敵の笑みを浮かべて単独で突っ込んでいく。

 

「ハッ!死ねや!」

 

土くれでできた体の魔獣なら手加減など不要。思う存分に殺す事ができる爆豪は不敵な笑みと共に二足型魔獣を宙から攻撃しようと飛び出す。だが、地上から接近していた轟が氷結攻撃を繰り出す。凍った魔獣に爆豪は振りかざした手から爆発が起き、直撃した魔獣の顔横半分と片腕が吹き飛ばされる。

 

「クソが!」

 

まだ残っている体に悪態を吐く爆豪はもう一度食らわせようと手の平からバチバチと火花が飛散し出した。だが次の瞬間、上空から突如炎の球が飛来して魔獣の体が燃え上がって土くれとなる。爆豪と轟は何事かと上を見上げると、木の上でグリード化した右腕を突き出したアンクが愉快そうにこちらを見下ろしていた。

 

「あ!?てめェこの赤鳥野郎!!何しやがる!?」

 

「フン、コイツらは生物でもなければグリードでもない。いくらでも倒しても問題ないんだろ?合宿なんざ退屈していたが、こういうのは悪くない。おい!お前ら感謝しろ。この俺がわざわざ手伝ってやっているんだからなぁ」

 

「ふざけんな!横取りしてんじゃねえ!」

 

「爆豪、ここはアンクの力も借りた方がかなり戦力になーー」

 

「黙ってろ半分野郎!それに赤鳥野郎!こんな土雑魚は俺1人で余裕だ!てめェらの出る幕じゃねえんだよクソが!!」

 

怒号を吐き散らす爆豪はそう言い残して先に駆け出す。アンクと轟は爆豪の悪態にムッと顔を顰めらせると負けずと爆豪の後を追って行った。

奮闘するA組達。薄暗く鬱蒼とした森は混戦する衝撃と轟音で辺りは揺れ、騒がしい森へと変わっていた。だが、それでも尚増え続ける魔獣。それに立ち向かうA組生徒。奮闘する中、緑谷、飯田、オーズもまたその戦場を駆けていた。

 

「行くぞ!緑谷君!火野君!」

 

「「うん!」」

 

飯田は更に加速し、地上を群がる魔獣達を次々と蹴り込んでいく。同時に、緑谷とオーズはその場からジャンプし、上部な木を踏み台として跳んでいき、空中から魔獣へと目掛けて渾身の拳、そして蹴りを放っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

「あ、やーーーっと来たにゃん」

 

「随分遅かったねえ」

 

時刻は午後17時20分。日が沈み、烏が鳴く空は夕闇迫る頃だった。目的地である宿泊施設、『プッシーキャッツのマタタビ荘』で、待ちくたびれたピクシーボブがそう言うとマンダレイも反応し、壁に背もたれしていた相澤も腰を上げる。少し離れた場所には角の帽子を被った目付きの悪い少年もめんどくさそうに待機していた。

すると、森の奥からボロボロになり疲弊しきっていた生徒達がやって来る。約7時間も森の中を魔獣と戦いながら駆け抜け、〝個性〟も使い過ぎたのだ。オーズも宿泊施設が見えたので変身を解くと今にも倒れそうな疲れきった顔をしている。アンクも調子にのってエネルギーを消費し過ぎたのか右腕を押さえて息切れを起こしていた。

全員が施設の前まで足を運ぶと瀬呂と切島が文句を言うように垂れ流す。

 

「何が3時間ですかぁ…!」

 

「腹減った…死ぬ…!」

 

「アレ私達ならって意味なの。悪いね」

 

「実力差自慢の為か……やらしいな…」

 

マンダレイがプロと比較された発言をすると砂藤がげんなりとなって肩を落とす。するとピクシーボブが「ねこねこねこ…」と笑っているのかよく分からない仕草で肩を震わし、口を動かした。

 

「でも正直もっと掛かると思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ君等……」

 

そう言って一旦区切ると、肉球の指で火野達へと向ける。

 

「特にそこの5人。躊躇の無さは()()()によるものかしらん?」

 

火野を含め、緑谷、飯田、轟、爆豪にピクシーボブは期待を膨らますような笑みを浮かべた途端、急にその5人に向かって飛び出し、唾をぺっぺっと吐き付けた。

 

「3年後が楽しみ!ツバつけとこーー!!!」

 

「うわっ!?」

 

「何を!?」

 

「ヤメロ!」

 

必死に腕で顔を覆いガードする5人。すると、それを不審に思った相澤がマンダレイに声を掛ける。

 

「マンダレイ…。あの人あんなでしたっけ?」

 

「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」

 

相澤の言葉にマンダレイが応える。適齢期と言えどまだ学生の少年達にマーキングみたく唾を吐き付けるのはどうかと、と言わんばかりに他の生徒達は唖然としていた。すると緑谷が「適齢期と言えばーー」と言った瞬間、ピクシーボブが緑谷の顔面を掴みかかった。

 

「と言えばって!!」

 

「ぶっ!?ずっと気になってたんですが、その子はどなたのお子さんですか?」

 

顔が肉球で埋もれながら緑谷は帽子の少年へと指を指して問う。するとマンダレイが「違う違う」と否定し、口を動かした。

 

「この子は私の従甥だよ、洸汰!ホラ挨拶しな。一週間一緒に過ごすんだから…」

 

マンダレイはそう言う。だが〝洸太〟はその場から動かず、緑谷達を子供とは思えない目付きで睨んでいた。見兼ねた緑谷は自ら歩み寄り、自己紹介しようと握手を求める。

 

「あ、えと、僕雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」

 

少し背を屈めさせ、笑顔で手を差し伸ばす。背丈は緑谷の腰辺りの身長の洸太は緑谷の顔を見たが、その目線は真っ直ぐ男の急所へと向けられた。

 

 

キン!

 

 

「キュウ…」

 

「「緑谷君!?」」

 

洸太の右ストレートが見事にフィットし、緑谷の全身が色褪せたように消え、その場に倒れ込む。飯田と火野が慌てて駆け寄り、飯田は歳上に無礼を働いた、早歩きで逃げ出す洸太に向かって叫んだ。

 

「おのれ従甥!何故緑谷君の陰嚢を!!」

 

「だ、大丈夫緑谷君!?」

 

火野は呼び掛けるが声にならない呻き声を上げる緑谷。マンダレイも困ったような表情を浮かべていると、洸太は立ち止まり、かなり鋭い目付きで飯田達を睨んだ。

 

「ヒーローになりたいなんて連中と連む気はねぇよ」

 

「つるむ!!?いくつだ君は!!」

 

とても少年とは思えない発言に驚愕する飯田。すると一連の光景を見ていたアンクが「フン」と鼻を鳴らして愉快そうな笑みを浮かべた。

 

「こいつは傑作だなぁ」

 

「アンク!」

 

面白可笑しく言うアンクに火野が怒ると、洸太はアンクを見るなり苛立つように口を動かす。

 

「お前のそのトサカも傑作だよ。ヒーロー目指してんのに(ヴィラン)みてーな面しやがって…!」

 

「あ?おい今なんつった!?」

 

「だぁー!やめろよ!子供の挑発にのんなって!」

 

キレるアンクが洸太に詰め寄ろうとし、火野は慌てて両肩を掴んで止めに入る。洸太はそのまま去っていくと、同じく洸太の行動を見ていた爆豪が鼻で笑っていた。

 

「マセガキ」

 

「お前に似てねえか?」

 

「あ?似てねぇよ!つーかてめェ喋ってんじゃねぇぞ舐めプ野郎!!」

 

「悪い」

 

轟のツッコみに爆豪が吠える。その感情任せに怒るところと汚い言葉を使うところを思って洸太に似てると言っても過言ではないだろうと火野は顔を曇らせていた。

ここで時間を潰すのは非合理的と思ったのか相澤が生徒達に声を掛ける。

 

「茶番はいい。バスから荷物下ろせ。部屋に荷物を運んだら食堂にて夕食、その後入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ。さァ、早くしろ」

 

ようやく休めると生徒達はヘトヘトの重い体を起こし、立ち上がる。林間合宿1日目は、想定外な出来事で半日が終わろうとしていた。だが、これから始まる合宿の出来事に、まだ火野達は知る義もなかったのだった。

 




ー 出立 ー

雄英高校の1年が林間合宿に向かったその前夜。
(ヴィラン)連合の脇真音姉弟は一足先に動き出していた。

優無「さて、準備は出来たかい弟君」

槍無「う…うん。大丈夫……」

優無「義蘭さんが送迎の車を手配してくれたみたいだからね。今回は死柄木君はいないから私が他の奴らより先に行っとかないと…。はぁ、正直怠いなぁ」

槍無「怠い…の…?」

優無「そりゃ怠いよ。死柄木君たら今回は俺は参加しないからお前が監視役として同行しろ、とか何とか言っちゃってくれたけどさ!普通に面倒ごと押し付けてるだけだもん。腹立つよ!」

槍無「姉さん…落ち着いて…僕も…できること…あるなら手伝…うから…」

優無「んー可愛いねー!そう言ってもらえると頑張れそう!よっし!行きますか!」

槍無「う…うん」

槍無は頷き、立ち上がる。ふと、ポケットから義蘭と同じ銘柄のタバコの一箱がポロリと落ちた。優無は気付かず先へと歩いていく。

槍無「…作戦開始…の前に…吸おう…かな…」

槍無はボソボソと言い、そのタバコをソッとポケットに入れて、その場を後にした。




No.79 強化合宿

更に向こうへ!Plus Ultra!!
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