いつかの明日へ、【ヒーロー】は助け合いでしょ   作:しょくんだよ

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下心と開始と疑心


No.79 強化合宿

 

先に到着していたバスから荷物を受け取り、A組の一行は宿泊する大部屋に荷物を置いて食堂へと移動した。生徒達の体力はもう微かに残っているだけだが、目の前に並ぶ豪華な料理を前にしては本能的に食べたいと体が動き出し、全員は空いている横長の椅子へと座り込む。

 

「いただきますっ!」

 

パンっと緑谷が手を叩いて食堂の横長のテーブルに沢山置かれている料理へと手を伸ばす。他の生徒達も既に食事を始めていた。何せバスでお菓子を摘んでいた以来の食事だ。魔獣の森で〝個性〟をフル活用して7時間近くも森を駆け抜けて入れば空腹も限界なのだろう。生徒達は、かなりのハイペースでそれを口から胃袋へと運んでいる。涙を流しながら黙々と食べる者もいれば、森の地獄など忘れて楽しそうに会話しながら食べる者もいた。

 

「へえ、じゃあ女子部屋は普通の広さなんだな」

 

「男子は大部屋なの?」

 

「うん。人数が人数だから結構広かったよ」

 

瀬呂の言葉に隣の耳郎が質問をすると、その隣の火野が応える。プッシーキャッツが営むマタタビ荘は、山岳地帯で遭難した市民達を救助し、一時的に保護する施設だが、同時に登山を楽しむ一般人にも気軽にお泊まり出来る施設だった。設備や建物も万全で、寝室もかなり手入れが行き届いている。大人数用の大部屋も、男子生徒14名が大の字で寝ても余る程の広さだった。耳郎はそれを聞いて「へえ」と頷くと、聞こえてたのか後ろのテーブル席で食事をしていた芦戸が振り返り、口を開いた。

 

「見たい!ねえねえ、後で見に行っていい?」

 

「おー来い来い」

 

瀬呂はそう言ってご飯を食べ続ける。昼飯を抜いた為か、料理が本当に美味しく感じて全員の箸は止まることなく大皿のおかずを休む事なく、取り続けていた。火野の斜め横に向かい合って座っていた切島と上鳴もその1人で、白米を目一杯口に運ぶ。

 

「美味しい!米美味しい!」

 

「五臓六腑に染み渡る!!ランチラッシュに匹敵する粒立ち!!いつまででも噛んでいたい!」

 

箸と茶碗が擦れる程勢いよく掻き込む2人。すると、上鳴がハッとする。

 

「土鍋…!?」

 

「土鍋ですかぁ!?」

 

唯の炊飯器ではなく土鍋で炊き込んだ米だと気付いた上鳴に、料理を次々と運んでいたピクシーボブに向かって切島が声を掛ける。

 

「うん。つーか、腹減りすぎて妙なテンションになってんね…。まあ、色々世話焼くのは今日だけだし、食べれるだけ食べな」

 

「「あざっす!!」」

 

苦笑しながらもピクシーボブは愛想良くそう言うと切島と上鳴は頷き、再び白米を掻き込む。出しても出しても瞬く間に無くなる料理に、ピクシーボブとマンダレイは料理を持って慌ただしく食堂内を歩き回っていた。

 

「あー洸汰!そのお野菜、運んどいてっ」

 

手が空いてないマンダレイは食堂の端に立っていた洸太に指示を出す。洸太は「フン」と鼻を鳴らしながらも、隣に置いてあった野菜が沢山入っている段ボールを持ち上げて食堂を出て行った。

 

「(………洸太君…)」

 

その小さな後ろ姿に、火野は心配そうに見ていた。ヒーロー社会と言えども、誰でもヒーローに憧れる訳ではなく、当然ヒーローに対して否定的な人もいる。でも、ただ「嫌い」とか「気に入らない」などと、単に毛嫌いしているのではないように見えた。洸太が持つ嫌悪感は底知れぬ深いものだと感じていた。火野はその気持ちを聞くべく、踏み込むのはどうなのだろうと悩む。もやもやが頭から晴れないまま、止めていた箸を動かし、ご飯を掻き入れる。

 

「……」

 

その考えを持つのは緑谷も同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

カポーーーー……ン……

 

漫画でありそうな、桶がタイルに当たる音が響いた。食事を終えた生徒達は泥まみれになった体を洗うべく風呂場へやって来たのだが、そこはなんとかすかに湯気の立つ露天風呂。仄かにひんやりとした石造りのタイルに、装飾として植えられている松。昔ながらの和風庭園といった感じだ。男達は体を洗い流すと、直ぐ様大浴場へと入る。

 

「くぁあ〜…!!気持ち良い〜…!」

 

「あぁ、雰囲気も悪くねぇ」

 

火野はゆっくりと浸かる。少し熱めのお湯だが直ぐに慣れて心身と肩まで浸かった。全身の疲れが一気に吹き飛ぶ気持ち良さで思わず声を漏らすと、隣に浸かっていた轟がそう言って露天風呂を見回していた。

 

「てかここ広過ぎじゃね!?泳げるぜ、ホラ!」

 

「そんなにはしゃぐと怒られるよ?」

 

広々とした露天風呂に喜ぶ上鳴は疲れなど忘れてバタ足で泳いでいた。隣で尾白が少しだけ注意をしていると、木で出来た端から端まである大きな仕切り板を見上げながら呟く。

 

「まぁまぁ…。飯とかはね…ぶっちゃけどうでもいいんスよ。求められてんのってそこじゃないんスよ。その辺分かってるんスよオイラぁ…。求められてるのはこの壁の向こうなんスよ…」

 

「1人で何言ってるの峰田君…」

 

「やめとけって峰田」

 

えらく柔い口調で淡々と呟く峰田に緑谷はそう言うと向こう側が女子専用の露天風呂だと知ってて呆れたように切島は止める。だが、峰田にとって性とはご飯とデザートが別腹になるように、峰田の体力は女体の為ならいくらでも湧き上がるのだ。

 

「まさか合宿に来て温泉入れるなんて思わなんだ!」

 

「気持ちいいねえ」

 

「温泉あるなんてサイコーだわ」

 

耳をそっと仕切り板に当てると女子の声が聴こえてくる。峰田は「ホラ…」と口を開いた。

 

「いるんスよ…。今日日、男女の入浴時間ズラさないなんて事故…。そう、もうこれは事故なんスよ…」

 

「「…………!!」」

 

学生の合宿とは、生徒達が協力して試練を乗り越えるもの。それとは別に、男子にとっての楽しみとは、峰田のような卑猥な考えを持つ者にとって、女性の風呂を覗く事も考える奴らも少なくはない。この薄い壁の向こうには女体の生徒達が湯槽に浸かっている。意識してしまった緑谷と切島は顔を真っ赤にしていると泳いでいた上鳴も反応して振り返る。他にも意識して固まる男子が何人かいた。

 

「フー…!」

 

峰田の脳内では、百合の花が咲き乱れようとしていた。天国でもあり、パラダイスでもある。自分が女になって素知らぬ顔で加わりたいとさえ思った。だが憤慨とともに耐える。なぜ、女体を壁の向こうにしながら妄想で補わなければならないのかと。

すると、当然のように委員長の飯田が昇天が合わない目の峰田を止めようとした。

 

「峰田君やめたまえ!君のしている事は己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!」

 

「やかましいんスよ…」

 

妄想と希望と期待を邪魔された峰田は悟りを開いたような表情で飯田に言う。ふと、峰田は仕切り板を見上げると、引き寄せられるかのように頭のもぎもぎを手に取り、口を動かした。

 

「壁とは超えるためにある!!」

 

次の瞬間、峰田は声を荒げ「Plus Ultra!!!」と言いながらもぎもぎを壁に貼り付けて物凄い形相で登っていく。

 

「峰田君!?」

 

「速っ!!」

 

「校訓を穢すんじゃないよ!!」

 

あまりのスピードに驚いた火野と緑谷は思わず声を漏らし、トチ狂う発言に飯田は止めようとするが、峰田の耳にはそれは聞こえず、只々、壁の向こうにある花園へと赴こうとしていた。念願の女体。楽園の天国。峰田のまさに、更に向こうへの意志で男湯から越えようとしていた。だが、現実はそうは行かないのが付き物。壁の上からバッと小さな影が現れる。

 

「!」

 

「洸太君!?」

 

顔を出した洸太に峰田はピタリと止まる。驚く火野。どうやら壁は一枚だけではなく、2枚壁で僅かに空いていた間から梯子を使って先に登ってきたのだろう。

 

「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」

 

洸太はそう言ってパンッと差し伸ばす峰田の手を叩き、バランスを崩した峰田は「クソガキィィイイイ!!?」と激昂しながらそのまま男湯へと落下していった。すると、洸太の後ろから賑やかな歓声が上がる。

 

「やっぱ峰田ちゃんサイテーね」

 

「ありがとー! 洸汰くーん!」

 

その声に思わず振り返ってしまった洸太。そこには湯気が微風で無くなり、裸体を露わにする女性生徒達が洸太の視界へとくっきり入ってしまったからだ。

 

「わっ……あ……」

 

刺激が強過ぎたその光景に思わず洸太はバランスを崩して男湯の方へと落下してしまう。まずいと思った火野はバッと立ち上がる。だが、先に駆け出した緑谷が鼻血を出して顔を真っ赤にし、気絶する洸太をなんとか受け止めていた。ホッと安心する火野は、その隣をチラリと見遣る。

 

「オ、オイラの……楽園……!」

 

飯田に受け止められた峰田は白目を向いてピクピクと痙攣しながら気絶している。覗きという名の天国に行けなかったのが相当ショックだったのだろうが、それは自業自得であるのは当然の事だ。

 

「洸太君大丈夫っ?」

 

「気を失ってるみたい。ちょっと僕、マンダレイのところに連れて行くね」

 

緑谷はそう言って気絶している洸太を抱き抱え、露天風呂を出て行った。

 

「…大丈夫かな」

 

「恐らく落下の衝撃で気絶してしまったのだろう。…全く、峰田君も大概だ。不埒な事を考えるからこうなるのだぞ」

 

心配そうに呟く火野に、峰田を抱き抱えた飯田が呆れるように気絶している峰田へと説教をしていたが、彼は聞く耳など持たず、しまいにはブクブクと泡を吹いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

翌日、山際から朝日が昇り始める午前5時30分。A組生徒達は体操服へと着替えてマタタビ荘の広場へと集合していた。

合宿は2日目となり、全員の顔はまだ起きていない様子で、欠伸をする者もいれば、ヘアセットが間に合わずボサボサになっている者もいる。火野も早起きは得意な方なのだが、昨夜の晩は何せA組生徒達と同じ部屋で一夜を共にしたのだ。学生の身分もあって雑談をしたり、少しはしゃいだりして就寝するのが遅くなってしまったのだろう。火野は眠たそうに大きな欠伸をする中、相澤が生徒達の前へと立った。

 

「お早う諸君。本日から本格的に強化合宿を始める」

 

眠たそうにする生徒等を見渡しながら、相澤は淡々と喋る。

 

「今合宿の目的は全員の強化及びそれによる〝仮免〟の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の心の準備だ。心して望むように」

 

〝敵意〟。言わずもがな、それは(ヴィラン)連合の事を意味しているのだろう。近日活発化している連合、今回の林間合宿もA組達で行ったデパートで緑谷は死柄木と、火野は脇真音姉弟と遭遇した件で変更された件もある。相澤の思う今回の目的とは、緊急時における〝個性〟行使の限定許可証、ヒーロー活動可資格の仮免の習得する為の強化合宿。活発化してきた(ヴィラン)に対して自衛の術を持たせようと判断していたのだ。

 

「(……いずれは…)」

 

火野は拳を強く握る。現実をストレートに突きつけられて、眠気は瞬く間に吹き飛んだ。他の生徒達も同じように、全員は顔を引き締めて、緊張と覚悟で身構える。

 

「というわけで爆豪、こいつを投げてみろ」

 

緊迫する雰囲気にさせた相澤は、空気を変えるように突然と爆豪にボールを投げ渡した。

 

「これ……体力テストの」

 

「前回の… 入学直後の記録は705.2m…。どんだけ伸びてるかな」

 

そのボールは、入学時に行われた〝個性〟把握テストで使用されたあのボールだった。相澤の言葉に、全員の期待が膨らんだ。

 

「おお! 成長具合か!」

 

「この3ヶ月色々濃かったからな! 1kmとかいくんじゃねえの!?」

 

「いったれバクゴー!!」

 

芦戸や瀬呂、切島らが歓声を上げる中、爆豪は右肩をぐるんぐるんと回してストレッチを行う。準備が整ったのか、さっそく爆豪は思い切り振りかぶると同時に、その顔はいつもの不敵な笑みへと変わった。

 

「んじゃ…よっこら……くたばれや!!!」

 

手放す瞬間、爆発が重なりボールは爆風と共に勢いよく朝日の空を通過していく。体力テストの時にも見た光景で、その悪態吐く投げ方も前回と同じような口調。まるで既視感を思わせる光景だった。ボールは山の彼方まで飛んでいき、「ヘッ」と爆豪は楽勝と言わんばかりの笑みを溢す。すると、ピピッと相澤の端末が鳴り相澤はその表示された記録を発表した。

 

「709.6m」

 

「!!?」

 

「…あれ、思ったより………」

 

その記録に、皆んなの驚きの声が静かに騒めく。投げた本人である爆豪も1番驚いて目を見開いていた。

 

「約3ヶ月間様々な経験を経て、確かに君らは成長している」

 

相澤の言う通り、A組生徒達はヒーロー基礎学に於ける救助訓練や戦闘訓練、USJ事件、体育祭、職場体験、ヒーローショーなど、3ヶ月にしてはなかなかの濃い1学期を過ごしてきたのは生徒達も承知していた。それと同時にそれだけ経験し、乗り越え、強くなっていたと思い込んでいた。相澤はそれらを踏まえて、本日行われる〝内容〟を説明する。

 

「だがそれはあくまでも精神面や技術面。あとは多少の体力的な成長がメインで、〝個性〟そのものは今見た通りでそこまで成長していない。だから、今日から君らの、〝個性〟を伸ばす」

 

相澤は嘲笑うかのようにニヤリと微笑む。

 

「死ぬ程キツいかもしれないが、くれぐれも死なないように」

 

その相澤の言葉に緊張が走る。この後、地獄のような試練が待ち受けている事を生徒達はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

少し時間が経ち、午前6時頃。B組生徒達も同じようにマタタビ荘から出てきて広場へと集まっていた。眠たそうに欠伸をする面々。担任のブラドキングが相澤と同じように説明をすると、さっそく訓練を行う場所へと移動をしていた。

 

「突然〝個性〟を伸ばす訓練って言われても、一体何をするんだ?」

 

「20名20通りの〝個性〟があるし…。何をどう伸ばすのかぶっちゃけ分かんないよね…」

 

「具体性が欲しいな!!」

 

道中、泡瀬が呟くと取蔭と鎌切がそう言って疑問を抱く。すると、聞こえていたのか先頭のブラドキングが歩きながら応えた。

 

「筋繊維は酷使するほど壊れ、強く太くなる…。〝個性〟も同じだ。使い続ければ強くなりでなければ衰える!即ち、やるべき事は1つ!」

 

各々が持つ〝個性〟は体の身体機能の1つ。経験し、その能力を熟知し、修行してより己の糧とする。そう言いたいブラドキング。すると、目の前の茂みの向こうに光が差し込む。辺り一帯も明るくなり、いつのまにか日の出が上がっていた。B組一行は茂みをぬけると、先にぬけたブラドキングがその光景を見ながら口を開いた。

 

「限界突破!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

その光景を目の当たりにしてB組生徒達は驚愕する。

 

「ああああああああ!!」

 

「いてええええええ!!?」

 

「クソがああああああ!!!」

 

「ぎゃああああああ!!?」

 

断末魔が飛び交う訓練広場。そこはまさに地獄絵図だった。限界突破、即ち。〝個性〟を使いまくれと至ってシンプルな内容だが、それは予想以上にキツい事である。例えば、走れば走る程足の筋力や持久力が高まるが、酷使すれば筋肉痛や疲労を伴う。

それは〝個性〟も同じ原理で、爆豪の爆破、轟の半冷半熱、芦戸の酸、上鳴の帯電、青山のレーザー、瀬呂のテープらは、ひたすら出し続けたり、麗日の使った後の酔いを慣らす為に空気注入式のバルーンに入って崖から転がり落とされたり、耳郎のイヤホン・ジャック、切島の硬化を硬いモノに打ち付け強度を上げるなどが行われていた。

また、切島の硬化を利用して尻尾で叩き込む尾白や、索敵と隠密の障子と葉隠のように互いで互いを高め合う特訓も見受けられる。他にも、蛙の長い舌、手足を使って崖っぷちを登る蛙吹、暗い洞窟で暗闇で活発化するダークシャドウを常闇が必死で従わせる、エンジンを酷使してひたすら走り続ける飯田、もぎもぎをひたすら千切る峰田と個々で修行する者もいる。

そして、八百万と砂藤は食べ物をエネルギーとして〝個性〟を使う為か、テーブルの上に置かれている大量のお菓子やケーキを食べながら〝個性〟を使用し続けていた。

 

その光景をあんぐりと口を開けて見ていたB組生徒達にブラドキングが口を開く。

 

「許容上限のある発動型は上限の底上げ。異形型・その他複合型は〝個性〟に由来する器官・部位の更なる鍛錬。通常であれば肉体の成長に合わせて行うが…」

 

「まぁ、時間ないんでな。B組も早くしろ」

 

時間は有限。割入った相澤が合理的に事を進めようとそう言う。だが拳藤が「私達40人それぞれの〝個性〟を、たった6()()で管理できるの?」と疑問を口にした。

 

「そうなの!あちきら四位一体!」

 

すると、それに答えるべく、彼女らがB組の前に姿を現す。

 

「煌めく眼でロックオン!!」

 

「猫の手手助けやってくる!!」

 

「どこからともなくやって来る…」

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」

 

そう言ってポーズを決めて出てきたのはプッシーキャッツこと、マンダレイ、ピクシーボブ、そして青と緑色のロングヘアーと丸い目が特徴の〝ラグドール〟。もう1人は可憐な女子チームの中に混じってはいけない雰囲気をかましている、茶色いコスチュームに筋骨隆々な肉体をした〝虎〟だった。フルバージョンで登場を決めたプッシーキャッツはさっそく今回の内容と自身らが合宿を担当する役目をそれぞれが言った。

 

「あちきの〝個性〟『サーチ』!この目で見た人の情報100人まで丸分かり!!居場所も弱点も!」

 

「私の『土流』で各々の鍛錬に見合う場を形成!」

 

「そして私の『テレパス』で一度に複数の人間へアドバイス」

 

「そこを我が殴る蹴るの暴行よ……」

 

他の3人ならまだしも、虎は殺意を秘めているような表情で言い放つ。1人だけ場違いな姿の上、殺しに掛かってくるような物言いでB組生徒達は言葉を失っていた。そのまま虎はB組生徒に向かって声をかける。

 

「単純な増強型の者、我の元に来い!我ーズブートキャンプはもう始まっているぞ」

 

「ひーーー!」

 

虎の言葉にB組の増強型の宍田と回原が反応する。虎の後ろには手足を延々と引いて伸ばしてと昔ながらの特訓を必死に行っていた。

 

「さァ今だ、打って来い」

 

すると、虎は緑谷に声を掛ける。緑谷は「はっ」とし、直ぐにワン・フォー・オールの力を全身に宿した。

 

「〝5%デトロイト・SMASH〟!!」

 

「よォォォし、まだまだキレキレじゃないか!!」

 

素早くストレートを打ち込む緑谷だが、虎は体のあらゆる箇所を曲げれる『軟体』の〝個性〟。ブリッジみたく拳を避ける虎は直様体制を立て直し、緑谷の顔面に拳を打ち込んだ。

 

「筋繊維がちぎれてない証拠だよ!!」

 

「イエッサ!!」

 

「声が小さい!」

 

「イエッサァ!!」

 

アメリカ軍の鬼教官みたく喝を入れる虎に四つん這いになりながらも懸命に叫ぶ緑谷。ノリが怖いとはこの事だろう。それに追い討ちを掛けるように虎は指をくいくいとさせた。

 

「プルスウルトラだろぉ!?しろよ!ウルトラ!」

 

あまりの形相にB組生徒達は唾を呑む。それを見ていた相澤は独り言みたく呟いた。

 

「雄英も忙しい。ヒーロー科1年だけに人員を割く事は難しい。この4名の実績と広域カバーが可能な〝個性〟は、短期間で全体の底上げするのに最も合理的だ」

 

そう言い終わると、突然森の向こうから轟音が鳴り響き、鳥達が一斉に飛び立つ。相澤はそれを確認すると、ラグドールとピクシーボブに声をかけた。

 

「ラグドール、ピクシーボブ。()()()もそろそろ様子を見に行った方がよろしいかと…」

 

「あらま、もう倒しちゃったみたいね」

 

「了解にゃ〜」

 

ピクシーボブのサングラスのモニターがピピッと反応し、彼女は少し驚いた様子で言うとラグドールも頷き、相澤と共に森の奥へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

A組、B組生徒達が修行に励んでいる場所から少し離れた場所。そこには土くれとなった魔獣が辺り一帯に倒れており、その中央には火野映司こと、オーズ、ラトラーターコンボが立っていた。ピクシーボブの土流で造った魔獣が一通り倒したのを確認し、アンクが声をかける。

 

「フン、修行なんて面倒な事を思いつくな、あの教師」

 

「いいじゃんか。ピクシーボブのおかげで思い切り相手が出来る魔獣も出してくれたんだし。…でも、相澤先生、何でコンボ限定で戦えって言ったんだろ…?」

 

オーズは疑問を抱きながら軽く準備運動をし始める。コンボこそ強力な切り札となるがそのデメリットも大きく最終手段として使用するのが基盤となっている。本心を言えば今回の修行は負担が少ないタトバや亜種フォームで慣らしたいのが火野の理想だが、相澤に言われるがまま、今現状こうである。

アンクは再び鼻を鳴らしてそっぽを向くと、ちょうどその方角から相澤達がこちらに歩いて来るのが確認される。近寄った相澤はオーズに声をかけた。

 

「火野、そのコンボは使い慣れてるのか?」

 

「あ、いえ…。そんな事ないですけど…、どうかされましたか?」

 

「なら、1番疲労が激しいコンボを使って魔獣を倒しまくれ。でなきゃ修行にならん」

 

相澤の言葉にオーズは「わかりました」と頷く。が、不服そうにアンクが茶々を入れる。

 

「コンボは万が一の為だ。それ以外はバラバラのメダルで敵と戦うのがオーズのやり方でもあるんだ。偉そうに指図するなっ」

 

「アンク!先生に向かってその態度はないだろ!」

 

「……まあ、アンクの言う事にも一理はある。火野のオーズは多種多応制にかけたとても珍しい〝個性〟。ましてや派生型で生まれたアンクの冷静と分析力によって敵の特徴、弱点を瞬時に把握し、メダルチェンジをして戦う術。…その戦い方は間違ってはいない」

 

アンクの言葉に相澤は素直に納得し、アンクはホラなと言わんばかりに上から目線のような目をする。だが、相澤は一旦区切って「だがな」と口を開いた。

 

「それは〝アンクと一緒に戦う〟って意味でのやり方だ。(ヴィラン)連合はヒーローが警戒する一方で日々勢力を拡大している可能性もある。仮にもしも、お前らが連合と戦う時があったとして、アンク。お前が火野の側にいられなかった時、火野は1人で(ヴィラン)と戦わなければならん」

 

「あ?…何が言いたい?」

 

淡々と喋る相澤にアンクは眉を寄せて尋ねると相澤は続けて口を動かした。

 

「オーズも相手によっては相性の悪い相手と鉢合う可能性もある。そうなってしまってはその万が一のコンボを使わざるを得ない事にもなり得る。その時に、仮にコンボを使ったとしても、次々と(ヴィラン)が現れると予想しよう。…コンボの反動で疲弊してしまった火野は戦う事が出来るか?」

 

「…!」

 

相澤の言葉にオーズはハッとする。アンクが現れてからはメダルはアンクが一方的に管理している。火野とは違い、相手の出方、能力、相性などは瞬時に分析してその場に見合ったコアメダルを使っていた。火野も以前までは自分で選んで戦ってきたが、その扱いが悪いせいか体育祭みたくコンボを使い過ぎていた時期もあった。それ故に多少は耐性が付いたつもりだったのだろうが、1番反動が少なく、現在使っているラトラーターで相澤には見栄を張ったが、正直しんどいのも事実である。

すると、相澤の話を聞いたアンクが少し納得したのか相澤に声をかける。

 

「ほぉ…、俺がいない時、あるいは、コンボで凌いだ途端に次の敵が現れる状況、それ等を対処できるかどうかってことか…」

 

「そう言う事だ。火野、確かお前は中学の時に初めてコンボを使った時は、維持出来ないくらいの反動が襲ったらしいな?」

 

その言葉にオーズは思い出して「はい」と頷く。

 

「USJの時に使用して力を発揮できた。そして体育祭、その他の出来事にもそれなりに使えるようになってきてるのはこっちも把握済みだ。…その意味が分かるな?」

 

「…!少なくとも体は慣れてきている…!」

 

「だったら、やる事は他の皆んなと変わらない。ヒーローを目指す者として死ぬ気で励め」

 

「はい!よぉし、やるぞー!!」

 

相澤がそう言い終わると、オーズはやる気が溢れてきたのか全身に気合いを入れて叫ぶ。その姿をアンクは呆れたような目でオーズを見つめていた。

 

「(馬鹿が、オーズの力を使いこなせるのはお前自身に素質があるって事だ…。まあ、この世界()の映司には言ったところで鵜呑みにするだけか…。修行でコンボを使いまくれば、体が慣れて強敵にも難なく倒せるかもしれない。)…楽にメダルが稼げるなぁ…」

 

最初はどうかと思っていたこの修行だが、理に適っている相澤の説明を聴いて、アンクはニヤリと微笑んだ。相澤は他の生徒達の所へ戻ろうと背を向ける。その間際に、ピクシーボブとラグドールに声をかけた。

 

「では、ピクシーボブ、ラグドール。彼の特訓をお願いします」

 

「お任せー!くぅー!逆立ってきたぁ…!」

 

ピクシーボブは猫の毛が逆立つかのように体を震わせ、嫌らしい手付きで興奮していた。

 

「ん〜……?」

 

ふと、ラグドールがオーズを見て首を傾げる。その眼は少し青白く発光していた。それは、彼女の〝個性〟『サーチ』を発動している眼だ。目で見た相手の居場所、弱点などの情報を100人まで知ることができる。また、一度見たものは星形の目印が見えるようになる登録型であり、情報に適した〝個性〟だ。彼女が見た者の〝個性〟は視界にくっきりと名称と説明が映し出されるのだが、オーズ、火野の〝個性〟を見てラグドールは首を傾げていた。

 

「(資料には〝仮面ライダーオーズ〟って書かれてた筈、だよね?)」

 

ここに雄英生等が来る前に相澤がA組の資料を手配していた。ラグドールは全員の〝個性〟を把握していた、はずなのにだ。彼女の視界にはこう映っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火野映司

 

個性 『仮面ライダーオーズ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハテナマークは何かの間違いかにゃぁ…?まあ、こういうのも、偶にはあるでしょ〜にゃ」

 

ラグドールはあまり気にせず、歪ませていた顔を元に戻し、ピクシーボブと共にオーズの元へと駆け寄ったのだった。

 




No.80 集結の合宿

更に向こうへ!Plus Ultra!!
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