いつかの明日へ、【ヒーロー】は助け合いでしょ 作:しょくんだよ
洸太がいる〝ひみつきち〟へと向かうべく森を駆け抜けていた火野と緑谷。だが、その途中で
「まさかとは思ってたけど…最悪のタイミングだぞ…!」
「この人が……
「おぉー!探す手間が省けたよお!ショッピングモール以来だね。火野映司君、アンク」
「……えと…こんばんは……」
警戒する火野の表情を見て、脇真音姉弟と見抜く緑谷は驚愕しながらも身構える。そんな2人に対して、友人が挨拶をするように声をかける脇真音姉弟。相変わらずのなめた態度にアンクはショッピングモールの事も相まってか、苛立ちを覚え、口を開いた。
「よくもまあ、のうのうと俺達の前に現れたもんだな。素直に顔を出した…ってことは、それなりの覚悟は出来てるんだろな?」
「え、覚悟?…あぁ、そんな事もあったっけ?まあ、過去の事は水に流そうよ、アンク」
忘れたような物言いにアンクは「巫山戯るな!」と激怒する。ふと、身構えながら緑谷は火野の隣まで後退って来ていた。火野は姉弟から目を逸らさず、緑谷に声をかける。
「…緑谷君。ここは俺とアンクで引き付けるから、緑谷君は洸太君のところへ行って…!」
「っ!で、でも…」
「ここで緑谷君まで、こいつらの相手をしてたら洸太君の身に何かあったら手遅れになる。……俺は大丈夫だから」
脇真音姉弟は言わずもがな、狙いは火野とアンク。火野は、緑谷に付いて来たのは
「あら、そばかすの子は逃げちゃうの?」
「……させ…ない…」
駆け出す緑谷を目で追う優無。だが槍無はそう呟くと、その場から跳躍し、緑谷に襲おうと飛び掛かる。その瞬間、火野は「アンク!」と声を張り上げると、アンクは舌打ちをしながらグリード化した右腕を槍無に向けて突き出し、炎の球を放った。
「!!」
槍無は間一髪でソレを避けるが、体勢を崩して地面へと着地する。その間、緑谷は稲妻が迸る体で、物凄いスピードの速度で駆け抜けて行った。
「ちょっとぉ!火なんて危ないでしょ!当たったらどうすんのさ!」
「フン、どうもしないだろ。まぁ、当たって手負いが出来るなら万々歳だったんだが…。映司、さっさとコイツら倒してメダルを奪うぞ」
「………戦闘は避けろって言われてたけど、ヒーローが手薄の今、こればかりはしょうがないよなっ」
プンプンと頬を膨らませて怒る優無を蔑ろにしてアンクは、マンダレイの言葉を思い返していた火野に向けて、タトバのコアメダルを投げ渡す。優無も「せっかちだなぁ!」と文句を垂れながらオーズドライバーを腰に宛い、装着させる。そして、火野、優無は両者共にタトバのメダルを構え、それぞれの変身手順のシークエンスを見せた。
「変身!」
「変身」
タカ!
トラ!
バッタ!
タ・ト・バ!タトバタ・ト・バ!
同じ音が両者のオースキャナーから鳴り響き、重なり合う。そして火野はオーズ、優無はヴィランオーズ、〝タトバコンボ〟になってその身を変えた。オーズは「ハァッ!」と声を上げて戦闘態勢に入る中、ヴィランオーズは何故か身構えず、弟の槍無を見遣る。
「さァて、弟君!憧れの2人に、君のカッコいい姿を見せちゃってよ!」
「うん…」
ヴィランオーズはそう言うと槍無はコクリと頷き、ヴィランオーズの前へと移動する。そして、後ろに手を回して取り出したのは、オーズとアンクにとって、見たこともないドライバーだった。
「っ?何だそれは…!?」
「違う…ベルト…?」
ギザギザに覆われた黄色の淵が3つある円盤状のドライバーにアンクとオーズは目を見開く。その光景を見ていたヴィランオーズはニヤニヤとしながら口を開いた。
「君達にとってはパラレルのような世界で遭遇した代物だからねェ。ここからはオリジナルの展開でご披露させてあげるよ…!」
ヴィランオーズが自慢気にそう言っている間、槍無はそのベルト、〝ポセイドンドライバー〟を腰に宛い装着させる。すると、槍無の目が青く光り、勢いよく胴体から3枚のコアメダルが飛び出す。そのメダルは槍無の周りを数秒間浮遊すると、瞬時にドライバーの3つの窪みに嵌る。そして、目を閉じた槍無はゆっくりと目を開け、小声で呟くように言った。
「…変身」
サメ!
クジラ!
オオカミウオ!
海の生物の名が轟き、槍無の体は水流に包まれる。海洋生物に至ってはシャウタと同じモチーフとなっている。だが、そのコアメダルは、同じ海とは言えど、どれも脊椎動物である〝サメ〟、〝クジラ〟、〝オオカミウオ〟のコアメダルだ。槍無を纏った水が弾け飛ぶと、そこにはオーズと似た見た目をした姿の戦士が立っていた。鮫の頭部、鯨の胴体、そして狼魚の脚部を模した体は、まさに海の化身とも言える。戦士は腕を差し出すと、木に刺さっていた赤い槍、〝ディーペストハープーン〟がそれに反応し、引き寄せられるかのようにその戦士の手に戻っていく。そして、その戦士はディーペストハープーンを地面に突き刺すと、その姿に驚くオーズとアンクに向けて口を開いた。
「……言っとくけど……命乞いをしない方がいい………時間の……無駄だから……。えと……これで、いいんだ…よね?姉さん?」
ポツポツと喋る台詞のような言葉。だが、最後に疑問系となってヴィランオーズに振り返る。それを見たヴィランオーズは「あちゃあ」と顔に手を当てて口を動かした。
「その疑問系がなかったら完璧だったのに…まあいいか。次からは気をつけなよ?」
「ごめん………」
「おい!茶番なんかどうでもいい!何だお前は!?」
2人の会話に痺れを切らしたアンクが吠えるとヴィランオーズは溜め息を吐いて口を動かした。
「せっかくの晴れ舞台なのに、少しは待機って言葉の配慮したら?…まあいいけどさ。
私の弟の槍無はその身に宿す海のコアメダルを使って変身できるの。勿論、ドクターお手製のベルトでね。その名前は、〝仮面ライダーポセイドン〟!」
「ポセイドン…!?あの、海の神様の…!?」
「馬鹿がっ!そんなわけあるか!」
オーズはギリシャ神話のポセイドンが脳内に浮かんでたのか、愕然としている。この状況でも天然地味たリアクションが取れるオーズに、アンクが呆れて、吠えながらオーズの頭を叩いていた。すると、ポセイドンはディーペストハープーンを突き刺した地面から引っこ抜く。戦闘態勢に入るポセイドンの隣に立ったヴィランオーズは口を動かした。
「さて、そろそろ始めますか。火野映司君の相手は任せたよ、弟君」
「……うん……」
「っ、アンク!今回はお前も戦えよ!」
「チッ、まあ……そうせざるを得ないか…!」
オーズの言葉にアンクは珍しく了承していた。だが、その目は身構えるオーズの背中を、どこか心配そうな目をして見つめていたのだった。
☆★☆★☆★☆★
有毒のガスが充満した森。拳藤は巨大化した手の中で、小大と骨抜を閉じ込めてガスを吸わせないようにと、微風が吹く風上の方へと走っていた。当の本人も息継ぎの要領で呼吸をしているが、一呼吸をする度に「ゴホッゴホッ」と咳き込んでいる。
「拳藤!」
「っ!鉄哲!茨!何そのマスク!?」
馴染みのある声に振り返ると、そこにはガスマスクを装着した鉄哲と、同じくガスマスクを被って抱き抱えられてた塩崎だった。
「A組の八百万が近くにいて創ってもらった!泡瀬がB組らの待機位置を案内して救助にあたってる!使え!沢山貰った!」
鉄哲はそう言いながら腰に下げているガスマスクを拳藤に見せる。「ありがと!」と拳藤は腰からガスマスクを貰い、小大と、気を失っている骨抜に装着させ、自分もそれを被る。やっと呼吸が出来たのか、軽く息を整えて口を開いた。
「早く施設に戻ろう。
マンダレイのテレパスで交信された現状、
「いや!俺は戦う。塩崎や小大の保護を頼む」
「は!?交戦はダメだって…」
生徒の身として
「お前はいつも物間を窘めるが…、心のどこかで感じてなかったか!?A組との差…」
鉄哲の言葉に拳藤は目を見開く。確かに、同じヒーロー科とは言えど、体育祭の時は最終種目で栄光を浴びたのはA組生徒のみ。その時は仕方ないと目を瞑っていたが、本心は悔しかったのもある。
「俺ァ、感じてたよ…!」
鉄哲はそう言って一旦区切り、塩崎を地面へ下ろすと口を動かした。
「同じ試験で、雄英に入って同じカリキュラム。何が違う?明白だ!奴らにあって俺達に足りなかったもの…〝ピンチ〟だ!!奴らはそいつをチャンスに変えていったんだ!当然だ!人に仇なす連中にヒーローがどうして背を向けられる!?」
「鉄哲…」
その言葉の意味はおそらくUSJ事件。授業の一環として訪れた演習場に、予想をしていなかった
「止めるな拳藤!1年B組ヒーロー科!ここで立たねばいつ立てる!?見つけ出して俺が必ずぶっ叩く!!」
だからこそ、ヒーローを目指す者として、このピンチをチャンスに覆したい。鉄哲は覚悟を決め、その上げた右腕をスティールにして、ガキッ!と鉄が軋むような音と共に拳を作る。一度言い出した事を曲げないその男らしさの鉄哲に、拳藤はかける言葉もなく、ただ不安そうに横たわる塩崎と骨抜を見つめていたのだった。
☆★☆★☆★☆★
『洸太…!洸太聞いてた!?すぐに施設に戻って!私ごめんね、知らないの!あなたがいつもどこへ行ってるか…。ごめん洸太!!救けに行けない!すぐ戻って!!』
洸太の脳内でマンダレイのテレパスが、先程から何度も響く。燃える森を見た以上、只事ではないと、洸太もそうしたかった。だが、振り返った途端に冷や汗が溢れ出て、その足は止まっていた。そこには黒マントを覆った仮面の男、マスキュラーが立っていたのだから。
「見晴らしの良いとこを探して見ればどうも…、資料になかった顔だ。なァ、ところでセンスの良い帽子だな子供。俺のダセェマスクと交換してくれよ。新参は納期がどうとかってこんな玩具つけられてんの」
ズンズンと詰め寄りながら愚痴を溢すように話しかけるマスキュラー。洸太にとっては化け物のような巨大と存在感のある男だ。今にも襲われそうな危機感を覚え、洸太は反対方向へと逃げ出す。
「ひぇああァ…!!」
「あ、オイ」
マスクを外す最中に逃げ出した洸太を呼び掛けたその時、マスキュラーは足に力を入れる。その途端、ブーツがモリモリと膨れ上がる。踏み込む地面は割れ、ジャンプすると、巨大とは思えないスピードで洸太の前へと回り込んだ。
「ひっ…!!」
「景気づけに一杯やらせろよ…!」
マスキュラーは右腕を大きく振りかぶる。すると、皮膚から筋肉の繊維が覆うように飛び出て、その腕に纏わりつく。膨れ上がるその腕に驚く洸太。…否、それではなく、マスキュラーの
「お前…!!」
少し前の出来事。洸太の両親ウォーターホースは1人の心無い
「パパ…!ママッ…!!」
恐怖、憎悪、絶望。そして、死の窮地に立たされた洸太は、溢れ出す涙と共に殺された両親の面影を思い出していた。それと同時に、心の底で僅かに、〝たすけて〟と願った。
マスキュラーは満面の歪んだ笑みと共に拳を振り下ろしたその時、下の崖から緑谷が現れ、勢いよく跳び出す。洸太を抱き抱えマスキュラーの攻撃を間一髪避けたのだ。
「ぐっ!」
勢いが有りすぎて緑谷は洸太を傷つけまいと受身で転がる。その際に衝撃でスマホがポケットから落ちてしまう。画面には亀裂が入り、もう使い物にならなくなっていた。
「何で…!!」
洸太を置いて、咳き込みながら体制を立て直す緑谷に、洸太は困惑状態のまま尋ねる。ふと、マスキュラーは現れた緑谷の顔を確認すると、嬉しそうに口を開いた。
「んん?お前は…
資料に当てはまる人物を当てたマスキュラーは緑谷の顔を嬉しそうに舌舐めずりをする。
「大丈夫…!」
一方、緑谷はマスキュラーを目の前にして反射的に体に無駄な力が入る。悪い癖だと、落ち着こうと息を整えながら緑谷は洸太にそう言い聞かせ、考えていた。洸太を庇った衝撃で連絡手段のスマホは破損。途中で脇真音の足止めをしている火野達にもこの場所までは知らせていない状況、ここに応援が来るのは厳しいとなる。よって、この場を動けて退けるのは、緑谷のみとなっていた。
僕1人でやれるかどうか。
焦りと不安を感じる緑谷はふと、洸太の顔を見遣る。
「!」
洸太は涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。何せ両親を殺した本人が目の前にいる。しかも自分も殺されかけたのだ。色々な感情が湧き出ているその表情を見て、緑谷は「(ーーじゃない!!)」と心の中で一喝する。
「だいっ…大丈夫だよ、洸太君…」
不安に襲われる人を背にして、ヒーローを目指す者が怖気付いてどうする。緑谷は冷や汗を流しながらも、笑顔で呼びかけ、その顔を上げてマスキュラーを見つめた。
「必ず、救けるから…!」
ピンチはチャンス。例え1人だろうと、困ってる人は放っておけない。緑谷は全身にワン・フォー・オールの力を張り巡らせ、身構えたのだった。
☆★☆★☆★☆★☆★
スタート地点から少し離れた場所。有毒ガスが届いていていないこの付近は、荼毘の炎によって焼かれた森より静寂していた。の、筈だが、突如衝撃と轟音が夜空へと響き渡る。次の瞬間、一本の木が軋む音と共に地面へと倒れた。そして、その向こうではオーズとポセイドンが戦闘を繰り広げている。
「ハァッ!!」
「…!!ムッ!」
オーズは渾身の回し蹴りをするが、ポセイドンはディーペストハープーンでそれを受け止める。すると、ポセイドンはすぐにその脚を掴む。オーズは何かされる前にハッとなり、地面を踏み込むと脚を掴まれた状態で宙へと上がり、ポセイドンの肩に片方の足で蹴りを放った。
「タァ!」
「!?ムン!」
何歩か後退り、よろけるポセイドンだが、反撃をせんとディーペストハープーンを豪快に振り上げる。すると、刃先から水の斬撃が放たれ、地面へ着地したオーズの足元に斬撃が直撃し、抉れる程の威力でオーズ諸共吹き飛ばされた。
「うわあっ!?」
地面を転がるオーズに、追い討ちをかけんとポセイドンがディーペストハープーンを振り回して詰め寄る。態勢を立て直そうとオーズは顔を上げた時、ポセイドンはその槍をオーズ目掛けて振り下ろそうとしていた。
だが次の瞬間、直撃したディーペストハープーンから、ガキィィ!と硬いモノに当たった音が響く。ポセイドンは何かと見遣ると、オーズは取り出したメダジャリバーで受け止めていたのだ。オーズはそのまま押し出すように力を入れ、ポセイドンを引き離す。
「ヤミー相手じゃないけど…、この際防衛手段として使わせてもらうよ…!」
「………」
メダジャリバーは鴻上から譲り受けた物で、ヤミーとの戦闘でのみ使用可能と許可を貰っている。相手が武器を所持して無防備で挑むのは余りに無謀だとオーズはメダジャリバーを構えて言う姿に、ポセイドンは無言で身構えていた。ふと、それを見ていたヴィランオーズは若干興奮気味に口を開く。
「くぁあ!やっぱりオーズって言えばメダジャリバーだよねぇ…!目の保養になるけど弟君相手に刃物はダメだぞ!」
「お前の弟にも同じ事が言えんのか!」
見惚れるヴィランオーズの背後に回り込んだアンクが、グリード化した右腕を大きく振るい、ヴィランオーズの背中へ直撃する。「ぎゃ!?」と苦痛を上げヴィランオーズは前方へと転がった。
「んああっ!!不意打ちは嫌い!もー!痛いじゃんか!」
「だったら素直にメダルを渡せ。そうすれば楽に始末してやる。そうでなければ苦痛の中で始末するぞ」
「両方選んでも殺されるのかい!?」
恐怖の選択を見下すような笑みで問うアンクに、ヴィランオーズはツッコみを入れながらも、その言葉に若干背筋が凍りついていた。
「…!姉さんーー」
「ハァッ!」
姉が圧されているとポセイドンは感付き、加勢しようとするが、オーズはその隙を逃さず、ポセイドンへと詰め寄るとメダジャリバーを大きく振り上げる。だが、ポセイドンは直前で気付いたのかディーペストハープーンを前に出して攻撃を防御した。
「邪魔…!!」
「それはこっちの台詞。お前等何で林間合宿の事を知ってるんだ!?」
睨みつけてくるポセイドンにオーズは身構えながらもこの襲撃について問いかける。すると、ポセイドンは軽く息を吐くと、前髪を掻き上げるような仕草を見せて口を動かした。
「言え…ない……言わ……ない…。そんな…の……どウだっテいイィ……!!」
「!?」
明らかに声のトーンが変わり、その漂わせる悍しいオーラを出すポセイドンにオーズはゾッとする。その感覚を感じたヴィランオーズは、ポセイドンを見るなり「あちゃあ」と手を額に叩いた。
「ちょっと弟君〜。テンション上がるの早すぎないー?」
「ウゥアア…!!」
「あーあ…、完全に入っちゃってんね」
「…おい、何がだ?」
やれやれと息を吐くヴィランオーズにアンクが声をかける。ヴィランオーズはアンクへと振り返り、ポセイドンに向けて親指を指しながら口を開いた。
「あのポセイドンはね。〝欲望〟を強さにして戦うの。〝戦闘欲〟ね。戦いたい、倒したい、勝ちたい…、その弟君の想いが強さの引き金になるわけ。ま、理性は残ってても半分暴走状態に近いから、治るのに時間かかっちゃうけど」
「…フン、つくづく面倒な物を作ってくれるなぁ。おい映司!面倒になる前にとっととそいつを倒せ!」
「俺もなるべくそうしたいんだけど…!思うように体が…!」
怒れるポセイドンにアンクは警戒しながらもオーズに呼びかける。明らかにヤバい雰囲気を出すポセイドンと戦っているオーズもそれは重々承知しているのだが、屁理屈を言うオーズにアンクは「あ?」と疑問を抱いていた。だが、それも一瞬で、アンクは今日行った〝個性〟伸ばしの訓練を思い出し、不快そうに舌打ちをする。
それもそのはず、今日の訓練で火野はコンボを3回も使用している。いつ倒れてもおかしくはない。増してや、今反動が少ないタトバコンボで戦えてるのも奇跡なのだ。
「…チッ!何でこうも厄介ごとは万全じゃない時に限って訪れるんだよ…!」
「えー?なになに?何の話?」
「黙ってろ!」
ヴィランオーズが興味を示すように顔を覗き込む仕草を見せると、それにキレたアンクが右腕から炎の球を飛ばして攻撃を仕掛ける。「あっぶな!」とヴィランオーズはそれを避ける。
一方、オーズは徐々に疲労が出始めたのか、息切れを起こし始める。だがポセイドンは止まることなく、リミッターが外れたようにその息が荒くなると共に、地面を踏み込んだ。
「ゥゥウア!!」
跳び出したその速度は先程まで戦ってたポセイドンの比では無かった。オーズがハッと気付いた時には、目の前で回し蹴りをしようとしたポセイドンがいたのだ。
「アア!!」
「っ!?うわあっ!!」
左肩に諸に直撃し、そのまま真横へと吹っ飛ばされる。吹き飛ばされても威力は止まることなく、オーズが通過する度に木々がその衝撃で、何本かへし折れる程だった。
「うがっ!?うぅ…!?」
勢いは治まり、木の根元にぶつかったオーズは痛む全身に悶えていると、ポセイドンはディーペストハープーンを構えて、オーズへと向かって駆け出す。
「ッ!おい映司!メダル変えろ!」
「させるわけないっしょ!」
アンクはオーズに声をかけ、コアメダルを取り出そうとする。だが、ヴィランオーズが飛びかかるように襲い、それを止めた。
「!邪魔すんな!」
アンクは飛び退きながらも炎の球を放つ。ヴィランオーズの胴体にそれが直撃すると、火花を散らしながらヴィランオーズは地面を転がった。
「いだっ!?あつっ、あついっ!?」
残り火が胴体に引火し、ヴィランオーズは慌ててバタバタと手を振るって火を消す。鎮火したのを確認すると、徐にオーメダルネストへと手を差し伸べ、3枚のコアメダルを取り出し、口を開いた。
「もお!酷い!女の子に火は当てちゃダメって火野映司君に言われなかった!?」
「知るか!それに毎回、変に可愛い子振るのはやめろ!苛々すんだよ!」
「女の子なんだからいいじゃんか!もぉ頭にキタ!本気出すからね!」
互いに吠える両者。するとヴィランオーズはドライバーからタトバのメダルを抜き取り、見たことも無い造形を模したコアメダルを嵌め込む。それを見たアンクは、また知らないコアメダルだと心底不快そうに舌打ちをし、身構える。
そして、オースキャナーを取り出してヴィランオーズはドライバーへとスキャンさせた。
シカ!
ガゼル!
ウシ!
シーガーゼーシー!シーガーゼーシー!シィーガーゼーシィー!!
今までの変身音とは随分と、軽快でポップな曲調で鳴り響く。頭部はシカ、胴体はガゼル、脚部はウシと、〝偶蹄類〟を模した茶色をベース姿となっている。どの部分にも共通した〝角〟が見受けられ、ヴィランオーズは〝シガゼシコンボ〟となっていた。
「…!?新しいコアメダルにコンボ…!?」
「不愉快極まりないな…!どれだけ持ってんだお前…!!」
ポセイドンと戦闘していたオーズも初めて見るその姿に驚いていた。同時にアンクも目を見開きながらヴィランオーズに問いかけると、ヴィランオーズは軽装を纏ったみたくぴょんぴょんとステップをしながら口を開いた。
「ふっふーん!どのくらい持ってるでしょう!…さて!こうなったら流石のアンクでもちょっとしんどいかもしれないからね!」
ステップを止めると、ヴィランオーズは脚部の〝ウシレッグ〟で地面を何度も蹴り上げる。それはまるで、猛牛がこちらを威嚇し、今にも突進してくるような姿だった。
「フゥ…!フゥ…!」
一方、オーズも左肩を押さえながらなんとか立ち上がり、興奮気味に息が荒くなって迫り来るポセイドンを見つめていた。戦闘欲の塊と未知のコンボ形態。立っている事すら儘ならなくなって来たオーズは窮地をどうするかと、必死に考えていた。それは同時にアンクもだった。
No.83 深緑の稲妻
更に向こうへ!Plus Ultra!!