いつかの明日へ、【ヒーロー】は助け合いでしょ 作:しょくんだよ
ヴィランオーズ、ポセイドンと交戦を繰り広げていた火野映司こと、オーズとアンク。相手側の未知のコンボと力に苦戦を強いられていたアンクの前に、オーズの体から突如、この世界にいる筈のない存在のウヴァが姿を現したのだった。
「フフフフ…ハハハハハハハ……!……はァ…。こいつは凄い…!凄いぞ…!コレがオーズの力か…!!」
ガタキリバコンボとなったウヴァは、初めて使うオーズ、そして自身のコアメダルで変身したその煽れんばかりの力に高揚して、体から緑色の電流が流れながらそう言う。そんなオーズの力に自惚れるウヴァ。その言動は、過去に火野の体を乗っ取ったゴーダにそっくりだった。それを聞いたアンクは怒りを覚え、拳を震わせながらウヴァに吠える。
「ウヴァ……!映司から離れろ!」
「フン、出来ない相談だな。それに、この俺が手助けをしてやろうと言ってるんだ。雑魚は大人しく黙ってろ」
弱い犬ほどよく吠える。まるでそう言っているようなオーズの物言いにアンクは今にも飛び掛かりそうになるほど怒りを激らせていた。だが、それを必死に堪える。今この状況でガタキリバコンボのウヴァを相手していたら間違いなく自分が返り討ちに合うのが目に見えているからだ。ウヴァの発言が本当だとすればヴィランオーズとポセイドンを足止め、もしくは倒す事が出来るかもしれない。
それを予測して、アンクは噴火しそうな感情を押さえ、大きく深呼吸をしながらゆっくりと立ち上がる
「あぁあ………!!体痺れる〜……!」
「……!姉さ…ン大丈夫……?」
電撃の余韻が残るヴィランオーズはまだ痺れが取れず、痙攣していた。ポセイドンは声を掛けながらオーズを見遣る。その姿が変わっていた事にポセイドンはディーペストハープーンを構えていると、ヴィランオーズもオーズの姿を見ては「うっわ…!」と声を漏らしながら身構えた。
「えー…ちょっとおぉぉ…!チート級のガタキリバ使うんかい…!通りで電撃出したと思……」
ふと、ヴィランオーズは疑問が浮かんだのかその言葉を止め、こちらを見つめているオーズに向かって声を掛けた。
「ん?…あれ?ちょっと待って。さっきタトバで電撃を流してたよね…?え、基本形態であんな攻撃出来てた……?」
電撃を浴びせられた時は間違いなくタトバコンボ。その状態で浴びせられた攻撃に疑問を抱くと、オーズの後ろに居るアンクがオーズを睨みながらソレを応えた。
「どういうわけか知らないが……そこにいるオーズの中にウヴァが入ってやがる」
「あぁ〜成る程!それで電撃攻撃が出来たのね!そっかそっか〜………」
アンクの言葉に納得したヴィランオーズは、うんうんと頷く。だが、その上下に動く首は徐々に動きがゆっくりとなり、完全に止まると同時にオーズを二度見した。
「え、………え?えぇ!!?ウ、ウ、ウヴァぁ!!?」
「は?…何だ貴様。俺の事を知ってるのか?」
驚愕の事実に驚きを隠せず声を上げるヴィランオーズ。その様子を見ていたオーズは声をかけると、ヴィランオーズは動揺を隠せない仕草でオーズに話しかけた。
「待って待って待って!!え、あのウヴァ…!?本当に?え、マジで?ちょっと、嘘じゃないよね?ね!?しぶとく最後まで生き残ったあのウヴァ様ですか!?」
「ウヴァ様……?あ、あぁ…そうだ。俺はグリードのウヴァだ」
「キャ〜〜!!何で火野映司君の中にいるの!?って事は今自分のコアメダルで変身したガタキリバって事!?どんだけ胸熱展開なフォームチェンジだよ!!待って興奮がとまらない!!思わぬサプライズ過ぎるでしょー!!」
物凄い勢いでぴょんぴょん飛び跳ねると同時にテンションが最高潮になっているヴィランオーズ。ポセイドンは「有名人…?」とその様子を見ては首を傾げていた。すると、オーズは突然アンクに振り返り声をかける。
「お、おいアンク!何だアイツらは!?何で俺の事知ってる!?そもそも何で敵にオーズがいやがる!?」
「あ!?おまっ…!そんな事も知らずに出て来たのか!?………フッ、ハハハハ……!」
「な、何がおかしい!」
突然の戸惑い様を見てアンクは思わず笑い出す。
「お前、あれだけ強者振った登場をしときながら全然知らないのか?…やはりお前は相変わらずの虫の脳みその持ち主のウヴァ
「…!!先にお前から消してやろうかアンク!!」
相手の挑発に直ぐにのっかかるウヴァに、アンクは鼻を強く鳴らしてそっぽを向く。すると、ディーペストハープーンを思い切り振り回し、オーズの足元に向かって水を纏った斬撃を放った。
「うぉっ!?」
突然の攻撃にわざと外されたとはいえ、衝撃音に驚くオーズ。はしゃいでたヴィランオーズも驚き、ポセイドンに向かって声を掛けた。
「ちょ、ちょっと弟君!」
「姉さん…まだ…、戦い…途中…!」
思わぬ出来事に戦いが止まっている事に苛立ったのか、その言葉には溢れ出しそうな怒りがこもっていた。ヴィランオーズもそれを察して「あ〜…」とバツの悪そうな表情を浮かべて身構えた。
「そうだったそうだった。今私もコンボだし、あまり長びかせるわけに行かないんだった…。あ〜っ、ガタキリバ相手にシガゼシで勝てるかなぁ…!ちょっと不安っ」
コンボの力と言えど、オーズのガタキリバはその防御力に加えて、電流攻撃、そして特性の分身。50体まで増えてリンチされればこちらの2人では圧倒的に不利になる。その状況を考えヴィランオーズは弱音を吐いていると、ウヴァが憑依したオーズもやっと戦えると思ったのか両腕を大きく広げて口を開いた。
「フン、今は事情なんかどうでもいい。さっさと掛かって来い。今の俺は、最強だ」
「最強コンボだけに?はぁ…弟君、本腰入れなよ。さっきのオーズとは比べ物にならないと思うから…!」
自分で言っておいてしょうもないギャグと思ったのか溜息を吐きながら身構えるポセイドンにそう言うヴィランオーズ。ポセイドンは「うん…」と頷き、ディーペストハープーンを振り回して、ヴィランオーズと共に駆け出したのだった。
☆★☆★☆★☆★
100%のSMASHを0距離から打ちかまし、轟音と共に衝撃波がその場から放たれる。岩の壁は豆腐みたく崩れ、辺りの地面にもその余波が響き渡る。
「うわぁ!!」
近くに居た洸太も地震に足元を掬われ、衝撃波でその小さな体は簡単に吹き飛ばされる。そしてそのまま崖の下へと落下しそうになった。
「わっ!うわぁぁあっ!?」
落ちると思った直後、服を掴まれたのかガクンと勢いは無くなり、崖の上で吊るされたまま止まっていた。止まらない荒い呼吸と冷や汗の中、洸太は捕まれてる服へと視線を向けた。
「ごえんっ…!ふっおあひえ……!」
ごめん吹っ飛ばしてと、服を口で掴んでいる緑谷はそう言っていた。そのまま引っ張られ、洸太は「ありが…」とお礼を言おうとした直後、立ち上がる緑谷の体を見て驚愕した。
ボロボロの体に、至る所からは血が流れ、両腕は紫色に腫れ上がっていた。ぶらん…と脱力した腕を見る限り折れているのは間違いない。そんな姿を見て洸太は恐怖と共に疑問を抱いた。何でそこまでして救けて、立ち向かってくれるのかと。涙目で緑谷を見つめる中、緑谷は崩れている岩の瓦礫を見ながら口を開いた。
「施設へ行こう。こっからは近………」
言い途中の直後、瓦礫から岩を退けるような音が聞こえる。緑谷はその瞬間大量の汗を流した。青ざめた表情で恐る恐る振り返ると、土煙が晴れたその中で、筋繊維で上半身が肉だるまとなっていたマスキュラーが立っていたのだ。
「ウソだ…ウソだろ……100%だぞ……!?」
ワン・フォー・オール100%。それはNo.1ヒーロー、オールマイトが常時放つ力。天候さえも変える程の威力で、しかも至近距離で放った拳の筈なのに、奴は立ち上がった。戦慄が走る緑谷に、筋繊維を体内へと戻して行くマスキュラーが、不敵の笑みを浮かべる。衝撃で飛んだのか、片目の義眼は無くなっていた。
「テレフォンパンチだ。しかしやるなぁ!緑谷…!!」
オールマイトの力で放った一撃。それなのに平然と立っているマスキュラーは何も無かったかのように緑谷と洸太に詰め寄ろうと足を踏み出す。その悍ましい姿に恐怖を覚えた緑谷は震えながらも後退り、叫んだ。
「くっ来るな!」
「やだよ、行くね。俄然」
ズンズンと詰め寄るマスキュラー。張り上げた声だけでは止まる事はないと、緑谷は分かっていた。だからこそ、近づけさせないと吠えて、この状況をどうするか必死に考えていた。マスキュラーの攻撃、及びワン・フォー・オールの力を放った両腕は完全に折れて使い物にならなくなっている。両腕無しで今戦闘をするのは極めて危険過ぎた。増してや、洸太が背後に居る。守りながら戦う事も出来ない状態で、必死に頭を回転させて打開策を見つけようと緑谷は吠えながら考えた。
「なっ、な、何がしたいんだよ!!
「知るかよ。俺ァただ暴れてえだけだ。ハネのばして〝個性〟ぶっ放せれば何でもいいんだ。覚えてるか?さっきまでのは遊びだ!俺言ってたよな!?遊ぼうって!!な!?言ってたんだよ!やめるよ!遊びは終いだ!お前強いもん!」
己の快楽を満たす為に巨悪の行進は止まらない。すると、マスキュラーはポケットに手を突っ込みゴソゴソと手探っていた。ポロポロとポケットから落ちて行くのは義眼。そして、1つの義眼を手に取り、空いた左目にソレを嵌め込み、口を開いた。
「こっからは……本気の
闇夜に染まるような真っ黒な瞳。底知れない漆黒だ。嵌め込んだと同時に筋繊維が体に纏っていくマスキュラーを見て緑谷は目を見開き、洸太に叫んだ。
「洸太君捕まって!!」
尋常じゃない程の殺気を感じ、焦りを感じた緑谷の咄嗟の声に「え……」と声を漏らす。震えていた洸太は我に返り、一瞬遅れて緑谷の背中に抱き付いた直後。
マスキュラーは地面を蹴り、凄まじい勢いで緑谷に向かって殴りかかって来た。
「うゥっ!!?」
間一髪でしがみついた洸太と共に緑谷はワン・フォー・オールの力で跳躍する。轟音と同時に崩れる崖。跳びながら緑谷はその光景を目にして恐怖を覚えた。さっきまでの戦闘とは比べ物にならない力と速さ。マスキュラーが言っていた事が本当なら、先程までの戦いは彼にとっては単なる遊び。遊び感覚で殺そうとしていただけだったのだ。
「待て待て、大人しく殴られろや!」
マスキュラーは空中を跳ぶ緑谷を確認すると、再度地面を強く蹴り、緑谷に向かって突っ込む。緑谷は岩の壁を蹴って別方向へと跳んで逃げると、その蹴った岩壁に勢いよくマスキュラーが突っ込む。再び轟音と衝撃が辺りに走り、余波が緑谷を襲い、洸太ごと地面へと叩きつけられた。
「ぶわっ!!」
「クソ、勢いあまった」
地面に落ちた衝撃で洸太は離れて転がる。緑谷は体制を何とか立て直し、筋繊維を纏った腕が岩壁にめり込んだマスキュラーを見遣る。本気で殺そうとしているマスキュラーの動きは桁違いの速さだ。そして簡単に拳1つで岩が崩れるほどの力。余波だけで吹き飛ばされた緑谷は、もし当たったらと思うと肝が冷える。
「(火野君に応援を…!いや、無理だ!施設まで行けば相澤先生がいるハズ!先生に〝消して〟もらえれば……)」
ヴィランオーズと戦闘をしている火野が、そう簡単に駆けつけれるとは思えない。なら、相澤の抹消を使えばマスキュラーを倒せれる。だが、『ダメだ』と緑谷は脳内でそれも否定する。今にも殺されそうな状況で緑谷は必死に考えた。
「ここから施設まで距離を追いつかれずに行けるか!?ただでさえ合宿の疲労が溜まってるそんな状態で獣道を…!」
ブツブツと言葉に出しながら打開策を見つけようとする。だが焦りも同時に募って来ており、考えれば考える程頭の中はパニックになり、真っ白になっていく。緑谷は大きく首を横に振り、考えるのを止めた。重症のまま逃げたとしてもあの速さで追い付かれるのは目に見えているからだ。だったらここで戦って勝つしか道はない。
どんなにピンチでもそれを覆せ。
自分の限定を思い出せ。
緑谷は自分を鼓舞するみたく、そう言い聞かせながら、後ろにいる洸太に向かって声をかけた。
「下がってて洸太君。離れ過ぎると的になる。……うん…7歩…くらい…で、
それを聞いてハッと理解した洸太は、折れた腕を震わせる緑谷に向かって口を開いた。
「ぶつかったらって…お前、まさか!無理だ、逃げよう!お前の攻撃効かなかったじゃん!それに…両腕!折れてーーー」
「大丈夫!」
激痛が走る右腕に緑谷は、ワン・フォー・オールの力を張り巡らせる。痛みで涙目になるなか、不安になる洸太にそう言って、迫り来るマスキュラーに向かって、決死の覚悟でその拳を突き放った。
「〝デトロイト・SMASH〟!!!」
正面からの一騎討ちを行い、筋繊維を覆ったマスキュラーに渾身の一撃を放つ。100%の重々しい一撃。猛攻で突き進んで来たが、一瞬怯むマスキュラー。ブチブチと筋繊維が千切れる音が聞こえる中、マスキュラーは吠えた。
「〜〜〜っってええ、どうしたぁ!?さっきより弱えぞ!!!」
どうやらダメージは有るようだが、筋繊維の中から少しだけ見えているその顔は、なんともないような笑みで不敵に笑っていた。ぶつかり合った時は互角の力…と見えたが、手負いが大きい緑谷の力はフルに出せなかった為、マスキュラーはその一瞬の緩みに漬け込み、筋繊維を纏った拳で押し戻した。
「ーーー……じょうぶ……大丈ぶ!!」
もはや意識も飛びそうになる程の激痛、朦朧とする中、緑谷は洸太に心配させまいと何度もそう言って足腰に力を入れ、持ち堪えていた。その勇敢かつ無謀な行動を見ていた洸太に、緑谷は声を張り上げる。
「
全力で止めている間にと緑谷は必死に叫ぶ。だが側から見ればその光景は地獄絵図だ。バキバキと骨が砕かれる音が聞こえ、満身創痍で抵抗する緑谷はある意味恐怖でしかない。洸太は完全に腰を抜かしてしまい、動こうにも動ける状態ではなかった。
「走れ!!」
「んのガキが、てめェエ…」
それでも声を掛け続ける緑谷。他人の心配などしている状態ではないその姿に、マスキュラーは心底喜びの笑みを浮かべた。こんなに真剣に誰かの為に救けようと全力で挑んで来るその姿勢に、敬意を示さんと。だから全力でコイツを殴り殺してやろうと、マスキュラーも持てる力を出し切り、足腰に力を入れ、更に拳に力を加えた。
「最っ高じゃねえか!!!」
「!!?ゔゔ……っるせぇええええええ!!!」
ズン!と更に力が加わり、緑谷は海老反りの体制になるにも関わらず、激昂しながらそれを耐える。ここで倒れてしまえば洸太の命が危ない。その想い一心で懸命に持ち堪える。その緑谷の姿を見て、「何で…!」と洸太は声を漏らしていた。だが、緑谷はもう押し返す程の力が残っていない。徐々に耐えている足の地面は亀裂が走り、今にも潰れてしまいそうになるほど押されている緑谷。必死に抗おうと耐える緑谷に、マスキュラーは追撃の力をお見舞いした。
「血ィイイイ見せろやあ!!」
「ぎぃ!!?」
もう駄目かもしれない…、ごめん、お母さん。徐々に力が抜けていく中、緑谷は脳内に浮かんだ母の顔を思い出しながら涙を流す。そしてもう1人、ワン・フォー・オールの力を授けてくれたオールマイトの言葉が脳内に過った。
〝ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!!〟
どんなに危険な状況でも覆し、人々に笑顔を齎らす。だが、人には必ずしも限界がある。守る力を授かっても、それをオールマイトみたいに使いこなせなければ意味がない。所詮この世は弱肉強食。強い者が上に立ち、弱い者は地べたに這いつくばる。まさに今がその現状だった。最期の悪足掻きか、折れた両腕で筋繊維を纏った拳を押さえる緑谷は、諦めそうになっているその時。
バシャア…!
「!?水!?」
突然、マスキュラーの体に濡れた感覚が走る。何事かとマスキュラーは振り返ると、そこには涙目で震えながら両手を前に出していた洸太が立っていた。恐らくその子の〝個性〟だろう。
「やっ、やめろォォ!!」
「(洸太君!?)」
地面に埋もれつつある緑谷は洸太の行動に気付く。あれだけヒーローや〝個性〟を憎んでいた洸太が、初めて人に向けて自分の〝個性〟を使ったのだ。救けたいと、無我夢中で使ったのだろう。その悲痛な洸太の叫びに似た声に、意識が飛びそうになっていた緑谷の瞳に色が戻っていた。
「後でな!な!?後で殺してやっから待っーーー」
水をかけられただけでは当然マスキュラーは止まる事はない。それは子供が駄々を捏ねてか弱いパンチをしただけの感覚にしかなかった。今にも殺してやりたい気持ちを抑え、マスキュラーは嬉しそうにそう言った直後。拳の先から押し戻される感覚が走った。
「何だ…!?」
一瞬。ほんの一瞬。洸太に気を取られ、力が緩んだ。その一瞬の隙にマスキュラーの拳が徐々に押され始めていた………否。
「おい待て!?パワー上がってねェか!!?」
マスキュラーは
「ころっっさせてええええええたまるかぁあああああ!!!」
押し返されるそのパワー、緑谷は完全に起き上がると、ワン・フォー・オールの力を全身、そして右腕へと中心的に張り巡らせる。
「〝ワン・フォー・オール 1000000%〟……!!」
桁違いの言葉。だがワン・フォー・オールの最大は100%。洸太を救けようとするその想いが、彼の火事場の馬鹿力を引き出させたのだろう。
迸る稲妻、その気迫にマスキュラーは直感でヤバいと感じたのか全身に更に筋繊維を纏い防御態勢を取ろうとする。すると、緑谷は右腕を筋繊維に突っ込むと、デコピンの要領で拳を広げ、弾いた。その瞬間、マスキュラーの拳の筋繊維がバッ!と一気に張り裂けるように千切れた。そして、ガラ空きとなった顔目掛けて、緑谷は渾身の、捨て身の勢いで思い切り拳を打ちかました。
「〝デラウェア・デトロイト・SMASH〟!!!」
最大威力の一撃。マスキュラーは直撃し、なす術も無く、岩壁へと吹っ飛び轟音と共に大きく亀裂が走ると同時にめり込んだ。白目を向き、完全に意識を失うマスキュラー。
「……何も知らないくせに…!」
あの血狂いマスキュラーを倒す事が出来た。確信する最中、洸太は涙を流しながら困惑していた。どうしてそこまでボロボロになるまで守ってくれるのか。見ず知らずの人間をそんな状態にまでになって救けてくれるのか。訳の分からない状況で、ふと、洸太はマンダレイの言葉を思い出していた。
〝洸太。あんたのパパとママ…ウォーターホースはね、確かにあんたを残して逝ってしまった。でもね、そのおかげで守られた命が確かにあるんだ。あんたもいつか、きっと出会う時が来る。そしたら分かる…〟
「何で!!何も…!知らないくせに…!」
〝命を賭して、あんたを救う。あんたにとってのーーーー……〟
「何でっ……そこまで……!」
そんなヒーローなどいるわけがない。所詮は見返りを求めるだけの有象無象のヒーロー社会。そんな人生にうんざりしていた洸太。だが、どうだ?まだ立派なヒーローでもない、学生の1人の少年に、親の仇でもある
勝利の雄叫びを上げる緑谷出久…ヒーローネーム〝デク〟という1人の人間が、命を賭して救ってくれた。洸太は溢れる涙を流す中、その思いは確信へと変わっていく。
僕にとっての…、僕の、ヒーローが、現れてくれたのだったのだからーーー…。
☆★☆★☆★☆★
同時刻、岩壁の向こう側の森の奥地から、轟音が夜の闇に響き渡る。土煙が舞うその中からヴィランオーズ、そしてポセイドンが飛び退くように姿を現した。
「姉さん…大丈夫…!?」
「いったああ!もぉ!電撃ばっかで近付けれない上に木だから直流してくるし!ウザい!めんどい!」
体からバチバチと電気の余波が流れるヴィランオーズにポセイドンは心配そうに見つめる。文句を垂れるヴィランオーズ。すると2人の前に土煙から堂々と歩いて此方にやって来るオーズが現れた。オーズは無言で左腕を差し出し、挑発するみたく指をくいくいと曲げていた。
「次は、僕が…先陣切る…!!」
ポセイドンはそう言ってディーペストハープーンを振り回し、その場から駆け出した。間合いを詰め、勢いよく横から薙ぎ払うように振りかざす。だが、オーズはそれを見切ってカマキリソードで受け止めると、「ムン!」と体から電流を流し、ディーペストハープーンを通してポセイドンに電流を流し込んだ。
「!!ウガガーーー…!!?」
「弟君!!こんのっ!」
ヴィランオーズは両腕を地面に押し当て、オーズの足元から無数の蔓を生やす。一瞬にしてオーズが見えなくなる程の蔓で拘束した隙に、ポセイドンは痺れながらも距離を取った。これなら攻撃出来る、と思ったのも束の間、オーズはカマキリソードで瞬時に蔓を切り刻み、縛られた拘束を解くと、蔓はバラバラと地面に落ちていく。
「あ〜!コレもダメなのぉ!?」
近づいても電撃、直接攻撃しても電撃。生憎ポセイドンとシガゼシコンボは近接戦闘に優れているフォームの為、相性はかなり悪い。それを見て肩を落とすヴィランオーズ。すると、オーズは後方にいるアンクに向かって声を掛けた。
「おい、アンク。この姿、分裂が出来た筈だったな?どうやれば出来るんだ?教えろ」
「は?馬鹿がっ、俺が知るわけないだろ。知りたいのなら直接映司に聞くんだな」
「…無理だな、俺が出ている以上、コイツは精神の底で閉じ込めている。……クソ、オーズってのは使い勝手が悪いもんだな…!」
初めてオーズになって戦闘をしている分、コンボの力は絶大だが、素人故にその使い方が分からずに戦闘をしているウヴァは溜息を吐く。それに比べて火野は初めて使うコアメダルやコンボを難なく使いこなして戦うのは、やはりオーズの器としての才能あるべきと言えるのだろう。
「だったらさっさと映司から離れろっ。お前如きが使える代物じゃないんだよ」
「誰が今更!今までの鬱憤を晴らす絶好の機会だ!そう簡単にこんな力、手放してたまるかっ!」
「…チッ、面倒な奴が復活したもんだ…おまけに映司の中にいるサービスまで付けてくれる…」
以前の世界の事を思っての発言か、オーズは苛立ちを見せる。その様子だと火野の体から離れるのは毛頭ないようで、アンクは面倒くさそうに舌打ちをした。すると、ヴィランオーズがオースキャナーを取り出し、待機音が鳴る中、ポセイドンに声をかけた。
「弟君、ごめんそろそろ限界かも…!同時に仕掛けるよ!」
「分かった…!」
ポセイドンは頷くと、腰を低く身構え、全身に力を入れる。すると、ディーペストハープーンの刃先が青く発光していく。そして、ヴィランオーズはオースキャナーをドライバーにスキャンさせた。
スキャニングチャージ!
「ハァアアア!能力!開放!!」
音声が鳴ると同時にヴィランオーズは声を張り上げる。すると、全身が発光し、頭部のシカヘッドの〝シカアントラー〟が大きく伸び、胴体のガゼルアームのガゼルアントラーがドリルの形状へと変わる。そして、脚部のウシレッグはなんと4本足へと形を変え、その姿はまるで神話のケンタウロスを模した姿へと変わったのだ。
「何だそりゃ…?」
「フルパワー状態さ!さあ、いっくよーー!!」
人間とはかけ離れたヴィランオーズの姿に首を傾げるオーズ。ヴィランオーズはそう応えると、ウシレッグの前足で地面を蹴り、重量のある馬が走る鈍い音と共に駆け出した。同時に、全身に力を溜めたポセイドンがその場から跳躍し、空中へと跳ぶ。
「何か仕掛ける気か…!おいウヴァ!お前もそれなりに対抗しろ!」
「五月蝿い!雑魚は黙ってろ!こんな転け脅しに俺がヤられるわけないっ!」
火野の体の事を思ってなのか、アンクは忠告するが、オーズはそれを断り、真っ向から受けようと身構える。接近するヴィランオーズはオーズの間合いへと詰め寄ると、その4本足の内前足を大きく持ち上げた。二本足だけで立つその姿は何倍にも巨大に感じたウヴァは化け物を見るみたいに、目を見開いて驚く。
「っっっダぁあッ!!!」
「!?」
その瞬間、ヴィランオーズは前足を振り下ろし、地面が抉れ、衝撃波が起こる。地ならしが起きる程の威力で、立っていたアンクもふらついてしまうほどだった。土煙が巻き起こり、オーズは腕を交差して防御を取っていると、ヴィランオーズはその場から飛び退き、空中を跳んでいたポセイドンに向かって大きく「弟君!!」と叫んだ。
「ウォォオアアアアアアア!!!」
張り上げる声と共に、ポセイドンは右腕に持ったディーペストハープーンをオーズに突き刺すように構え、急降下した。その槍の先端は青から赤へと発光の色が変わり、更には〝オオカミウオ〟を模した悍しい顔がエネルギー状となって浮かび上がる。土煙を腕で振るい、視界が晴れたと思ったオーズ。だが、既にポセイドンは頭上まで接近していた。
そして、直撃した刹那、凄まじい衝撃が辺り一帯に迸り、大爆発が起こった。
「ぐっっ!!?うおあああああっ!!!」
衝撃の余波により、アンクは必死に耐えるが、爆風が強過ぎてそのまま吹き飛ばされてしまったのだった。
No.85 渦巻く森に出た指令
更に向こうへ!Plus Ultra!!