いつかの明日へ、【ヒーロー】は助け合いでしょ   作:しょくんだよ

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必死と合図と裏切り

最近更新遅めのしょくんだよです、申し訳ないです泣ペースが落ちようと更新は止めませんので、どうかご了承下さい汗


No.85 渦巻く森に出た指令

 

同時刻。ガチャリと扉が開かれ、黒霧はバーのカウンター席に座っている死柄木に気付き、声を掛けた。

 

「死柄木弔。本当に彼らのみで大丈夫でしょうか?」

 

(ヴィラン)連合開闢行動隊を命名し、林間合宿へと出陣させた荼毘達を差し置いて、当の頭的存在の死柄木は今回待機している。それに疑問を抱いた黒霧の言葉に死柄木は「うん」と単調に応え、1枚のボロボロな写真を見つめては口を開いた。

 

「俺の出る幕じゃない………。ゲームが変わったんだ。今まではさ、RPGでさ、装備だけ万端で…レベル1のままラスボスに挑んでた。やるべきはシュミレーションゲームだったんだよ」

 

死柄木はゲームが割と好きな方で、今までの現実をゲーム基準として見てきた。その経験故なのか冷静に相手を分析し、予測して行動する頭脳の持ち主だが、ゲームに負けるように癇癪を起こす事もしばしばある。その趣旨を説明するように続けて死柄木は口を動かした。

 

「俺はプレイヤーであるべきで、使える駒を使って格上を切り崩していく……。その為まず超人社会にヒビを入れる。開闢行動隊、奴等は成功しても失敗してもいい。()()()()()って事実がヒーローを脅かす」

 

「……入って来たばかりの新参者は仕方ありませんが、脇真音姉弟は我々にとって今、捨て駒扱いにするのは少々痛いですよ?」

 

死柄木の言い分だと、その合宿で暴れて名を知らしめ、その後はどうなろうと構わない。そんなふうに聞こえた黒霧は、少し納得の行かない様子でそう言うと、死柄木は右手を振るい、「馬鹿言え!」と軽く吠えた。

 

「俺がそんな薄情者に見えるか?脇真音を含めた奴等の強さは本物だよ。向いてる方向はバラバラだが、頼れる仲間だ」

 

頼れる仲間。以前の死柄木はそんな発言など絶対にしなかった言葉だ。ショッピングモールで緑谷と接触した時から死柄木は妙に落ち着いた……否。彼と話して()()()()()を知ったと黒霧は推測していた。その発言を聞いて、何処か成長したかと、黒霧は「そうですか」と少し安心した様子で頷く。

 

法律(ルール)で雁字搦めの社会。抑圧されてんのはこっちだけじゃない…。成功か、()()()()を願ってるよ」

 

不気味に微笑むその視線には、体育祭で納得が行かずに暴れ、そして拘束されてた3位の爆豪勝己が写っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆

 

 

マスキュラーとの戦闘に勝つ事が出来た緑谷。勝利の雄叫びを上げ終え、疲労が一気にきたのか、息切れを起こし、フラリと体が倒れそうになる。

 

「あ、オイ…!」

 

慌てて洸太は駆け寄ると、緑谷は足を強く踏み出して止まる。フラフラなりながらも緑谷は心配させまいと声を掛けた。

 

「大丈夫…!まだやらなきゃいけない事がある………」

 

「そんなボロボロで何をしなきゃいけねんだよ…!」

 

満身創痍の状態で一体何をするんだと洸太は問いかける。緑谷はワン・フォー・オールを続けて放ったその拳に、ズクッと襲いくる痛みに冷や汗を流しながら口を開いた。

 

「防御されるのはわかってた…。だからこそ撃ったんだ。そこを差し引いても大ダメージを与えると思ってた。でも…、思ったより遥かに強い(ヴィラン)だったんだよ」

 

何せオールマイトのパワーだ。その攻撃を食らって立っていたマスキュラーの耐久性は倒した後でも恐ろしさを感じるくらいに、肝を冷やす緑谷は燃え広がる森を見ながら続けて喋る。

 

「もし、この夜襲に来た(ヴィラン)が全員このレベルなら危ない。その上、狙いは僕ら生徒かもしんない。その事を相澤先生やプッシーキャッツに伝えなきゃ。僕が動いて救けられるなら、動かなきゃいけないだろ」

 

今回の襲撃はU S J事件の有象無象の(ヴィラン)ではなく、手練れだ集団が多いと見受けられる。マスキュラーもそうだが、ここに来る途中に遭遇した脇真音姉弟も火野と同じオーズの力を持っている。そしてマスキュラーが言っていたように爆豪を探しているとなると、緑谷の言う通り狙いは生徒。ならば、今その目的を知っている自分が動いて、突然の襲撃に困惑している皆んなに知らせなきゃならない。ボロボロの状態で覚悟を決める緑谷のその態度に、洸太はまだこんな(ヴィラン)がいるのかと思い、思わず唾を呑んだ。

 

「何よりまず、君を守らなきゃいけない」

 

振り返る緑谷のその言葉に、思わず「え?」と洸太は声を漏らす。

 

「君にしか出来ない事があるんだ。森に火を付けられている。あれじゃどの道閉じ込められちゃう」

 

その言葉にふと、洸太は火の森を見遣る。青い炎は勢いを増して森を焼き尽くさんと徐々に広がりつつある。現状を把握していない生徒、または施設へ向かおうと動く生徒が森の中にいるとなると、炎に囲まれて逃げ場を失ってしまう。と、なると何で僕が?と疑問に思う洸太に、緑谷は近寄り、膝をついて洸太を見つめながら、その口を開いた。

 

「分かるかい?君のその〝個性〟が必要だ。僕らを救けて。さっきみたいに」

 

洸太は目を見開く。洸太の〝個性〟は水を放出出来る。親譲り故の〝個性〟だが、同時に亡くしたトラウマの〝個性〟でもある。緑谷を救けたい一心で振った〝個性〟が、今必要だと言う緑谷に、洸太は戸惑いはしたが、その内心は覚悟を決めていた。自分のこの忌々しい〝個性〟が必要なんだとーー。

洸太は小さく頷くと、緑谷はくるりと回転し、背中を見せ、口を動かした。

 

「さぁ、おぶさって!まず君を施設に預けなきゃ」

 

「その怪我で…、動けるのかよ…!?」

 

「大丈夫。その為に、()を残した!」

 

戦闘に使ったのは両腕だけ。その場から逃げる、または動くのを想定して、緑谷はダメージの少ない脚にワン・フォー・オールの力を巡らせる。しがみつく洸太を確認し、動こうとした直後。

ふと、自分が来た方角を見つめる。火野が脇真音姉弟を足止めしている場所だ。

 

「……今は、信じるしかない…」

 

状況を知って戦地に飛び出した彼もどうすれば良いかは分かっている筈。緑谷を信じて先に行かせたように、緑谷も火野を信じて、先ずは洸太を施設へと運ぶ事を選び、その場から駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆

 

 

数分前、別館で荼毘と接触した相澤は、荼毘の不意打ちを食らい、別館の外は青い炎に包まれていた。直撃した筈なのに荼毘は冷静な態度で上を見遣る。何故なら()()()()()()()()が無いからだ。

 

「まァ…プロだもんな」

 

荼毘の視線の先には、別館の2階の柵へと捕縛布を巻き付け、壁に足を掛けている相澤がいた。恐らく炎が当たる直前に当たり判定が無い上へと逃げたのだろう。荼毘はすかさず、右腕を突き出してもう一度焼こうと掌を翳す。だが、何故か炎は出なかった。

 

「出ねえよ」

 

相澤の〝個性〟、抹消によって炎は出せずに、そのまま捕縛布を伸ばして荼毘の体を拘束する。

 

「うおっ」

 

勢いよく相澤は捕縛布を引っ張ると、荼毘は空中へと引き寄せられる。その勢いに相澤は2階から飛び降り、荼毘の後頭部を掴むとその顔面に重々しい膝蹴りを食らわせた。激痛に加わり、視界を奪われた荼毘の背中に回り込んだ相澤は、更に捕縛布を引っ張り、反動で荼毘の体はぐるりと回転する。そしてガラ空きとなった背中に相澤はのし掛かり、そのまま地面へと頭を押さえながら倒れ込ませた。

 

「目的・人数・配置を言え」

 

「何で?」

 

尋問する相澤にしれっと応える荼毘。次の瞬間、相澤は左腕で押さえている荼毘の腕を、長ネギをへし曲げるのように撚り、ゴキッと鈍い音が響いた。

 

「〜〜〜っ!!」

 

「こうなるからだよ。次は右腕だ。合理的に行こう。()()()()()()()護送が面倒だ」

 

「…焦ってんのかよ…イレイザー」

 

容姿ない拷問。だが、荼毘の言う通り、行動とその真顔の表情の瞳にはどこか焦りを感じていた。そして、応えない荼毘に相澤は無言で右腕をゴキッとへし折った直後。

轟音と共に地響きが静かに響く。それも2()()だ。それぞれ別の方角から鳴る衝撃音に、相澤は驚いて顔を上げる。

 

「何だ………」

 

「先生!!!」

 

その時、聞き覚えのある声に相澤は振り返ると、獣道を走って来た飯田、尾白、峰田が姿を現す。マンダレイの指示でここまで来たのだろう。

だが、そっちに気を取られた瞬間、荼毘は勢いよく体を捻らせ、馬乗りとなっていた相澤を払い除けた。荼毘はフラフラと立ち上がりながら距離を取ろうとするが、捕縛布は拘束されたままだったので、逃げようにも逃げれない状態だった荼毘は口を動かす。

 

「……流石に雄英の教師を務めるだけはあるよ。なあ、ヒーロー……」

 

不気味に笑う荼毘。相澤はそのまま引っ張ろうと捕縛布に力を入れたその時だった。

荼毘の拘束された()()()()事、捕縛布がズルッと引っ張られ、荼毘の胴体は真っ二つになるような状態となっていた。

 

「生徒が大事か?」

 

「!?」

 

泥野ように体がみるみる液体化する荼毘を見て驚愕する相澤。同時に、炎を操るのが荼毘の〝個性〟じゃないのかと困惑する。

 

「守りきれるといいな……また会おうぜ……」

 

そして、不気味な笑みでそう告げた荼毘は、体が完全に泥になり、べチャリと地面に広がった。また会おうぜと言う言葉は恐らく、この場から消えた事になると、一先ず息を吐きながら相澤は捕縛布を首へと巻き直す。

 

「先生今のは…!!」

 

「……中入っとけ。すぐ戻る」

 

状況が理解出来てないのか慌てて声を掛ける峰田に、相澤は単調に指示を出し、再び鳴り響く衝撃音の方向へと駆け出した。

 

その一方、森を燃やす炎の付近で()()の荼毘が引き続き木に手を当てて燃やしていた。そしてもう1人、全身に黒と灰色を基調としたラバースーツを身に纏い、顔全体を覆うマスクを着用した男、〝トゥワイス〟が、何かを感じとったのか口を開いた。

 

「あーーーダメだ荼毘!!お前!やられた!弱!!雑魚かよ!!!」

 

「もうか……弱えな、俺」

 

「ハァン!?馬鹿言え!結論を急ぐな、お前は強いさ!この場合はプロが流石に強かったと考えるべきだ!」

 

荼毘は意外にもショックだったのか声のトーンが弱くなっていた。だが先程まで侮辱していたトゥワイスは急にフォローへと入る。

 

「…まァいい。もう一回()()()()()トゥワイス。プロの足止めは必要だ」

 

「雑魚が何度やっても同じだっての!!任せろ!!」

 

指示を出す荼毘に、自分勝手な返答をするトゥワイス。その片手は、中指を突き立てたファック、もう片方はサムズアップをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

再び衝撃音が森全体に走っていた中、緑谷は洸太を背負って獣道を駆け抜けている。その轟音にビクッとなった洸太は緑谷に声を掛けた。

 

「いっ今のは爆発…!?」

 

「わからない…!とにかく急ごう…!もう、すぐそこだ」

 

暗い森の中を走り続けている中、夜襲されたこの森で戦闘を開始してもおかしくはない。焦りが募る緑谷は、急いで施設へ向かおうと足を踏み出したその時。「おい、あれ!」と洸太が何かを見つけたのか声を出す。その目線の先には、施設から出てきた相澤が走っていた。

 

「先生!!」

 

「緑…」

 

「先生!良かった!」

 

緑谷は声を上げて近付く。相澤も反応して振り返ると、その顔は歪ませていた。側から見ても尋常じゃない程の怪我を負っているからだ。

 

「大変なんです…!伝えなきゃいけない事が沢山あるんです…!けど」

 

「おい…」

 

「とりあえず僕、マンダレイに伝えなきゃいけない事があって…洸汰君をお願いします」

 

「おいって…」

 

「水の〝個性〟です。絶対守って下さい!」

 

「(コイツ……完全にハイになってやがる…!)」

 

相澤の声が届いていなく、現状を伝えようと必死に説明する緑谷。今にも倒れてもおかしくない体なのに、まるで痛みを感じていないような態度を見せる緑谷。救けようとするその一心でアドレナリンがドバドバと溢れ出ているのだろう。

 

「お願いします!」

 

「待て緑谷!!!」

 

振り返って走り出そうとする緑谷を、声を張り上げて止める相澤。ビクッと肩を跳ね上げ、振り返る緑谷に、深く溜息を吐きながら続けて口を開いた。

 

「その怪我…またやりやがったな」

 

「あ……いやっ、でも……」

 

ようやく会話が出来るくらいの冷静さを取り戻し、相澤の言葉にしどろもどろで口を動かす緑谷。ヒーロー活動未習得者が〝個性〟を使うのは規則違反なのは当然。だが、洸太を救ける為には使わざるを得なかった。そんなのは言い訳になると目に見えている。緑谷は必死に通用もしないその言い訳を考えてようとしていた。

 

「だから、彼女に()()伝えろ」

 

すると、相澤は緑谷に指示を出す。彼女とはマンダレイの事だろう。相澤は何か決心したような表情で口を開いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「……ぐっ………あぁ…!…クソ、あの野郎…!」

 

ヴィランオーズ、ポセイドンの必殺技で、大爆発を引き起こした爆風により、かなり離れた森の奥地へと吹き飛ばされたアンクは木々がクッションになってくれたおかげで大事には至らなかったが、それでも体のあちこちを打撲していた。痛む体を無理矢理起こしながら、アンクは上半身を起こし、引っかかった木から地面へと下りる。だが、脚にもダメージがあるのか、着地と同時に膝から崩れ落ちてそのまま地面へと倒れ込んだ。

息切れを起こしながらも何とか立ち上がるアンクは、辺り一帯を見回す。

 

「チッ、さっさと見つけないと…後々が面倒だ…!」

 

火野の体に取り憑いたウヴァ以上、火野から離れる訳にはいかない。それこそ、()()()()()()かわからないからだ。アンクはポセイドンやウヴァのコアメダルの気配頼りに、森の獣道を歩こうと踏み出したが、またしても膝から崩れ落ち、よろけそうになる体を必死に耐えてその場で立ち止まる。

 

「あぁクソ…!思ってるよりダメージが…!!」

 

ふと、体を見遣ると周りにはセルメダルが散らばっていた。吹き飛ばされた衝撃でかなり飛び散ったのだろう。力が入らないアンクは、「背に腹はかえられないか…」と呟き、メダルホルダーを取り出そうと腰に手を回す。だが、ある筈のメダルホルダーが無かったのだ。

 

「…!!落としたか…!!クッソ!」

 

更に苛々が募るアンクは右腕を思い切り、木に向かって殴る。グリードの腕とは言えど痛覚は感じるので、ジワりと痛みが拳に残っていた。

 

「…バイクがあればなぁ……」

 

少し落ち着いたアンクは、前世で使っていたライドベンダーの事を思い出す。だがこんな森の奥地でバイクを使ったとしてもまともに走る事は出来ない。アンクは顔を曇らせながら、痛む体を堪え、獣道をゆっくりと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

同時刻、スタート地点で(ヴィラン)と戦う虎とマンダレイは激しい攻防戦を繰り広げていた。虎はマグネの持つ包帯を巻かれた棒を払い落とすと、その筋骨隆々とした体で接近戦を行う〝キャットコンバット〟を繰り出していたが、マグネはそれを去なすように真っ向から受け止めていた。

 

「あーん、もう近い!アイテム拾わせて!!」

 

オカマ口調で文句を垂れるマグネ。だがそのアイテムを拾えば、〝個性〟でマンダレイに危害が及ぶ。拾わせまいと虎はキャットコンバットを続けて繰り出す最中、マンダレイはスピナーの攻撃から避けながら彼女も文句を垂れていた。

 

「しつこっ…」

 

「い…のはお前だ偽者!とっととシュクセーされちまっーー」

 

猫のように素早しっこいマンダレイにスピナーも苦戦しているようで、彼女の頭上へと飛び出し、継ぎ合わせた巨大な剣を空中から振りかざそうとした。

だがその時。

 

「〝SMASH〟!」

 

駆け付けた緑谷のドロップキックにより巨大な剣は砕かれるように分解され、無数のナイフや刃物が散らばる。突然の加勢に「えぇっ!?」と声を上げるスピナー。すると、緑谷はそのまま空中でマンダレイに向かって声を上げた。

 

「マンダレイ!!洸太君!無事です!」

 

「君……!?」と緑谷が現れた事に驚くマンダレイ。

 

「いっ!!!っ!!!」

 

勢いよく空中へ飛び出してスピナーの攻撃は防いだのは良いが、着地を想定してなかったのか、地面へと転がるように落下し、重傷を負った体に激痛が走る緑谷。だが緑谷は直ぐに態勢を立て直し、地面を滑るようにそのスピードを殺しながら、続けて声を張り上げた。

 

「相澤先生からの伝言です!テレパスで伝えて!!」

 

そう言う緑谷は相澤の言葉を思い出していた。今回の襲撃事件は完全に生徒がターゲット。そしてマスキュラーが言っていた爆豪がほぼ絶対に狙われている。プロヒーローが少ない以上、この場を生き延びるには防衛手段が必要。

 

即ちーーーー。

 

 

「A組B組総員!!プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!!」

 

 

状況が分からないままでは被害は大きくなるばかり。なら、生徒達が闘う事でその被害は少なくとも最小限に出来る。相澤は生徒たちの命を守る決断であるとともに、すべての責任を背負う覚悟でそれを緑谷に伝え、託したのだ。それを聞いたマンダレイは何も言わず、直ぐに〝個性〟のテレパスを使い、森にいる全ての生徒達、及び他のプッシーキャッツに伝令を言い渡した。

 

(いいんだね?イレイザー…!)『A組B組総員ーー……プロヒーロー、イレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!繰り返す!A組B組総員!イレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!!』

 

テレパスを発信し終えたマンダレイは、武器を無くした無防備なスピナーへと駆け出し、踏みつけるように足蹴りを当てる。だが、スピナーは両腕を交差してそれを防御した。

 

「伝達ありがと!でも!すぐ戻りな!その怪我尋常じゃない!」

 

「いやっ…すみません!まだ!もう1つ…伝えて下さい!(ヴィラン)の狙いは少なくともその1つーーー…」

 

異常な怪我をしている緑谷にマンダレイはそう言うが、その場から駆け出した緑谷は自分の事を構う事なく駆け出しながら声を掛ける。その言葉に戦闘していた虎とマグネはハッとしてる中、緑谷は燃える森の方角へと走りながら声をかけた。

 

「〝かっちゃん〟が狙われている!テレパスお願いします!」

 

「え!?かっちゃ…誰!?待ちなさいちょっと!」

 

急いでいるのか冷静さを失っている緑谷はいつもの呼び名でそう言ってしまった為、マンダレイは誰か分からずに聞き返そうとする。だがその声は届かず、緑谷はそのまま走り去ろうとしていた。

ふと、マグネは緑谷を眼で追いながら顔を曇らせていた。先程の地鳴りのような音。(ヴィラン)側でパワーを得意とした戦闘が出来るのは血狂いマスキュラーか、脇真音姉弟ぐらいだ。戦闘を行ったと言わんばかりに緑谷の体はボロボロになっていた。情報が漏れている故に、緑谷がここにいるとなると、恐らく何方かと闘い、倒したと言う事になる。

 

「やだ…この子、ホント殺しといた方がイイ!」

 

そんな緑谷に脅威を感じたマグネは、虎を押し退けて真っ先に緑谷の方へと駆け出す。周りが見えていない緑谷に横から殴り掛かろうとしたその時だった。

 

()()()()()マグ姉!!」

 

「!?」

 

突然スピナーがマグネに向かってナイフを投げたのだ。マグネは慌てて顔を仰け反らせてそのナイフを避けるが、お陰で緑谷は森の獣道へと入って行ってしまった。

 

「ちょっと何やってんの!?優先殺害リストにあった子よ!?」

 

「そりゃ、死柄木弔個人の意思」

 

「スピナー何しに来たのよあんた!」

 

殺害を妨害され苛立つマグネ。だが、しれっとした態度に更に苛々が募るマグネは吠えると、スピナーは緑谷の後ろ姿を見つめながら口を開いた。

 

「あのガキはステインがお救いした人間!つまり英雄を背負うに足る人物なのだ!!俺はその意思に、シタガ!!」

 

従う。と言おうとしたのだろうが、隙だらけな状態のスピナーにマンダレイは、その顔面に渾身の回し蹴りを直撃させる。

 

「やっっと、イイの入った!」

 

その一撃にマンダレイはそう言って、緑谷が走って行った獣道を見遣る。当然、彼の姿は何処にもなかった。仕方ないと思ったマンダレイは、言われた通りにテレパスを発信する。

 

 

(ヴィラン)の狙いの1つ、判明ーー!!生徒の〝かっちゃん〟!!〝かっちゃん〟はなるべく戦闘を避けて!!単独で動かないこと!!わかった!?〝かっちゃん〟!!』

 

 

生徒達の脳内に発信されるテレパス。A組の生徒達は緑谷がよく言う呼び名だったので直ぐに分かるが、B組生徒達はその名前が誰か解らず困惑していた。

その一方で、死刑囚のムーンフィッシュと接触し、テレパスの交信で戦闘の許可が降りた轟は、さっそく氷結を繰り出し、防御をとっていた。ムーンフィッシュは()を鋭利な刃物に形を変え、それを伸ばして攻撃を仕掛けてくる。その強度はかなりのモノで、氷壁が簡単に貫かれる程だった。

 

「耐えなきゃ…。仕事を…しなきゃあああ…。ああああーーーーーー」

 

無数に伸びた歯を蜘蛛の足みたく地面に伸ばし、体はぶらんぶらんと宙で揺れながら、ムーンフィッシュは自分の衝動を押さえようと独り言を言う。すると爆豪が飛び出し、攻撃を仕掛けようと手の平を突き出す。だがムーンフィッシュは歯の刃を斗出させる。それを見てハッとした轟は爆豪の前に氷結を繰り出し、「不用意に出るんじゃねえ!」と怒鳴った。

 

「聞こえてたか!?お前狙われてるってよ」

 

続けて更新されたテレパスに、一緒に居た爆豪を戦闘させまいとそう言うが、マンダレイの発信した呼び名が脳内で何度も響いたせいか、爆豪は眉を顰めながら口を開いた。

 

「かっちゃかっちゃうるっせんだよ頭ン中でえ……!クソデクが何かしたなオイ!戦えっつったり、戦うなっつったりよお〜〜〜ああ!?」

 

狙われている身とは言え、敵に背を向けて逃げるなど彼のプライドが許されない。「クッソどうでもいィんだよ!!」と爆豪は吠えて接近しようとした直後、爆豪の目の前に歯の刃が襲い掛かる。すると、その歯から別方向に歯が飛び出し、爆豪は慌ててそれを仰反るように避ける。轟はすかさず氷結を繰り出し、本体を狙おうとするが、伸びた歯を利用してムーンフィッシュは空中でかわす。当てられなかった事に舌打ちをする轟はその動きを見ながら口を動かした。

 

「地形と〝個性〟の使い方がうめぇ」

 

「見るからにザコのひょろガリのくせしやがってあんのヤロウ…!」

 

その俊敏な動き、距離をとっての攻撃、そして確実に急所を狙って手負いを負わせようとするやり方に爆豪は苛々が募る。明らかに場数を踏んできた証拠だ。こちらも全力で対処したい所だが、問題があった。

 

「爆豪、ここででけえ火使って燃え移りでもすりゃ火に囲まれて全員死ぬぞ。わかってんな?」

 

「喋んなっ、わーっとるわ!」

 

お互い火を発火、または放射する〝個性〟。森に囲まれたこの場所でそんな事をすれば二次災害になってしまう。至近距離での爆破なら燃え移るのは無いと思うが、その相手は近寄らせてくれない所存である。そして、ここで一旦引こうと轟は後ろを見遣るが、奥から桃色のガスが徐々にこちらに広がりつつある。分かりやすく、この場に止めようと縛りに掛けられている事に、轟は顔を歪ませていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ウヴァ、ポセイドンの気配頼りに獣道を歩くアンク。ダメージも酷いのか、その速度はかなりゆっくりだった。

 

「……!?」

 

アンクは何かを感じ取ったのか立ち止まると、その表情は険しくなり、辺りをキョロキョロと見回し始める。

 

「…!!()()が消えた……だと…!?」

 

ハッキリとしていた気配が、電化製品がプツッと切れるみたく消えて感じ取れなくなっていた。しかも、ポセイドンとウヴァの両方の気配がだ。

 

「クッソ!!何処行きやがった…!!映司ーーー!!!」

 

頼りにしていた足掛かりが消え、アンクは火野の名前を叫ぶ。その声は届く筈もなく、闇夜に響き渡るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆

 

 

トゥワイスと行動し、森を燃やしていた荼毘。そんな時、荼毘の持っていた通信機から音が鳴る。荼毘は起動させ、発信した相手と連絡をとった。

 

「………そうか、分かった」

 

「相手誰だ?」

 

何かを了承し、通話を切る荼毘にトゥワイスが話し掛ける。

 

「脇真音の姉弟共が先に帰るんだとよ」

 

「ハァ!?何でだよ!?まだ作戦の最中だろ!疲れてんのかな?」

 

キレると同時に心配するトゥワイス。すると荼毘は小さく首を振って、脇真音姉弟が居たであろう方角を見つめて口を開いた。

 

「まァそう怒るな……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。俺達は残りの目的を早いとこ捕まえるぞ」

 

不敵に笑う荼毘。

一方、脇真音姉弟は黒霧が発動させたワープゲートを潜り抜けようとしていた。優無は嬉しそうに、その手にはアンクが落としたメダルホルダーが握られており、その2人の後ろには、緑色に輝かせる瞳をした、火野映司が立っていたのだった。

 




現在、オーズの持つメダルは……


タカ×1
トラ×1
クワガタ×1
カマキリ×1
バッタ×1


No.86 生徒達の覚悟

更に向こうへ!Plus Ultra!!

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