いつかの明日へ、【ヒーロー】は助け合いでしょ 作:しょくんだよ
荼毘とトゥワイスが動き出した数分前、ポセイドンの一撃で大爆発が起き、付近に居たアンクは爆風により吹き飛ばされてしまう。土煙が舞い、晴れたその場所で、2人の戦士は立っていた。
「いったァ〜……。ギリギリで防御とったは良いけど、やっぱ威力強いねソレ」
「ごめん……」
何層にも覆った木の蔓でバリケードを作ったヴィランオーズ。力を使い切ったのか変身が解かれ、優無はその場に座り込んでいた。ポセイドンは申し訳なさそうに謝っていると、気配を感じたのかディーペストハープーンを構える。ポセイドンが見るその方角を優無は蔓のバリケードから顔を出して見遣ると、そこには腕を交差して防御をとっていたオーズが立っていた。
「うっわ…。アレを食らったのに立ってられるんだ…!流石ガタキリバ…。防御も随一なんだね…」
「…フン、これぐらい、どうって事ない」
強気を見せるオーズだが、その腕はプルプルと震えて煙を出していた。いくら防御が硬いフォームと言えど、大技を正面から受け止めていたのでダメージは大きいのだろう。オーズはそのまま戦闘態勢に入ろうとすると、優無は「待った待った!」と慌てて両手を上に上げて降参するようなポーズをとり、辺りを見回ながら口を開いた。
「…さっきの威力でアンクは飛ばされたみたいだね。……ねェ、ウヴァ。私と少し話さない?」
「話し…だと……?」
アンクが居ない事を確認した優無はウヴァに会話をしようと持ちかける。ふと、優無はポセイドンに視線を送り、その眼を見たポセイドンは変身を解いた。姉弟は闘う意志を見せようとするが、オーズは変身を解かずに、いつでも襲えるよう警戒態勢へと入る。
「何で火野映司君の体に居るのかはさておいて…、質問なんだけど、今火野映司君の意識はあるの?」
「……いや、体の奥底に奴の精神を閉じ込めている。俺が引っ込まない限りは出てこれない筈だ」
オーズは自分の胸に手を置きそう言うと、優無は「そっかそっか…」と顎に手を置いて何度も頷く。そして、ニッと笑うとオーズに提案を持ち掛けた。
「じゃあウヴァ、率直に言うね。私と
「は?契約?」
「うん、そう。まァでも、見ず知らずの敵にそうなるのは当然の反応だよね」
何を言ってるんだこいつは?とオーズは目を見開く。槍無もその提案に理解が追い付いていないのか「姉さん…?」と首を傾げるが、優無は続けて口を動かした。
「ウヴァは恐らく何らかの影響で火野映司君の体に転移してきたと思うの。因みにこの世界はアンク以外にグリードは存在しない全く別次元の世界。そして、1人1人には特殊な能力を持った〝個性〟を使う事が出来る超人社会になってる世界なの」
「…さっきから何を言ってやがる?」
「(…やっぱり。王に取り込まれて、ウヴァ自身の意志はそこで途絶えたような素振り…。そのまま急に
いきなり説明されても思考が追い付かないウヴァ。どうやら優無の推測通り、前世で服従していた800年前の王に取り込まれたまま、ウヴァの意識は消失してしまったのだろう。優無は自身の胸に手を置いて口を開いた。
「まァ、詳しい話は後で話すよ。それよりも契約の内容なんだけど、私もちょっと特殊なその〝個性〟を持っててね。オーズに変身出来るのもそうなんだけど、もう1つ。ヤミーを生み出せる〝個性〟も持ってるの」
「っ!?ヤミーを生み出すだと!?馬鹿な!人間如きがそんな事出来る訳がないっ!」
「そう、人間はそんな事出来ない。でも私は特別。それが出来ちゃうんだよね。今はちょっと土台となる人間がいないから見せれないんだけど、他の証拠としてオーズに変身出来てたのは事実でしょ?」
戸惑うオーズに優無はそう言うと、オーズは先程闘っていた本人の言葉に何も言い返せずに困惑していた。優無はそのまま自身の〝個性〟について説明をする。
「セルメダルさえあれば私はヤミーを生み出せれる。と言っても、生み出せるヤミーはランダムなんだよね。でも、その子達は私に忠実で、その人間が持つ欲望が大きければその分、セルメダルも大量に増える。まァでも、どう言った原理か分からないんだけど、欲望のままに私の生み出したヤミーは行動しないんだ。ただその人間の欲望と言う餌を溜め込んだ、忠実さを持つヤミーって感じかな」
「つまり何だ!?勿体振らずに言え!」
まず状況があまり把握出来ていないウヴァは〝個性〟を説明されても困惑が増えるばかりだ。吠えるオーズに、優無は軽く息を吐いて口を開く。
「増やしたヤミーのセルメダルは全てウヴァにあげるよ。その代わり、私と一緒に行動してくれないかな?」
「っ!何だと…?」
「あ、別に縛る訳じゃないよ?肝心なお仕事みたいな時に一緒に居てくれたら良いからさ。
ね?どう?この世界にいるグリードは多分アンクと君だけ。私と一緒に動けばセルメダルはウヴァだけの独り占めさ。悪い話しじゃないと思うんだけど?」
この世界がどんな世界なのかはウヴァは知らない。その中でウヴァの存在を知っている雰囲気を出す彼女から提案された交渉は、今のウヴァにとってはかなりの好都合の条件だ。敵意も感じられない。そして火野の体を乗っ取っている以上、アンクが来ようとも、オーズの力で難なく対抗出来る。
「ウヴァ、君の持つその欲望…存分に解放したくない?」
黙り込むオーズに、優無は更に一押しする。その言葉にオーズは目を見開くと、下を向いて静かに笑い出した。
「クククク……ハハハハ……!……フッ、良いだろう。その契約に応じてやる」
オーズは顔を上げて了承すると、ドライバーに手を掛け、その変身を解く。火野の姿だが、その瞳は緑色になっており、髪も緑のメッシュが追加されてオールバックになっている。取り敢えず、交渉は成立したので優無はニコリと笑い、火野の姿をしたウヴァに握手をしようと手を差し伸ばした。
「フフッ、よろしくね。ウヴァ」
「フン、勘違いするな。お前の言った条件が今は最適だと思っただけだ。色々知りたい事も山程あるしな。……それに……」
握手を断ると、火野ウヴァはチラリと槍無を見遣る。
「そこにいるガキの中にコアメダルの気配が感じるぞ……。何者なんだそいつは?」
「私の弟君。味方だから安心して。まァ諸々の説明は後で話すよ。今は取り敢えず場所を変えようか。コンボ使って私ももうヘトヘトなんだよね…」
警戒し、睨むようにそう言う火野ウヴァに、優無はフォローしながら応えると、通信機を取り出して黒霧に繋げた。それを見た火野ウヴァは「フン」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。そして、その態度を見ていた槍無は、ずっと黙って火野ウヴァを見ていたが、その目付きは強張っており、睨んでいるように火野ウヴァを見つめていた。
「…………」
ふと、火野ウヴァは何か気になったのか辺りを見回し始める。そして、顔を見上げて闇夜を薄らと照らす月の光を、物珍しそうに見つめていたのだった。
☆★☆★☆★☆
数十分後、戦闘を行った場所まで戻る事が出来たアンク。だが、気配が消えた通りに、その場からオーズやヴィランオーズ達の姿は何処にも無く、アンクは「やっぱりか…!」と表情が強張る。
「………無い…!あンの野郎…!手土産に持って行ったか…!!」
アンクはメダルホルダーがないかと辺りを見回す。当然ソレは何処にも無い。パンパンに敷き詰められた財布が落ちていれば、悪い奴は大体持って帰るのが当たり前だ。更に苛つきが募る中、ふと、辺りを見回すとアンクは口を開いた。
「
先程までここら一帯を漂っていた桃色の煙が徐々に晴れていく事に気付く。
それもその筈、ここら一帯を充満させていた有毒ガスは
幾度の闘いをして来た為か、その煙が害を持ってるモノだと感じ取ったアンクはなるべく吸わないように避けてここまで来ていた。煙が晴れた中、アンクは引き続き火野を探そうとする。
「ッ!アンク君!?」
「っ、お前…、何でここに…!?」
その時、聞き慣れた声にアンクは振り返ると、そこには緑谷が立っていた。そのボロボロな体を見てアンクは目を見開く。
「尋常じゃないな、その怪我…」
「う、うんまァ……。それより…火野君は…?一度スタート地点に戻ったから通りかかったんだけど…アンク君1人…?」
交戦しているだろうと緑谷は肝試しのスタート地点と岩壁の中央地帯へと駆け付けたらしく、火野と脇真音姉弟が見当たらない事に疑問を抱く。
「……恐らく連れて行かれた」
「え…」
アンクが応えると緑谷は声を漏らして口を開けたまま固まっていた。何を言ったの?みたいな表情をする緑谷は、もう一度確かめようとアンクに声を掛けた。
「つ、連れて行かれた…?何で…?狙いはかっちゃんの筈じゃ…………」
「フン!さっき頭ン中で猫女が言ってた事か?何で爆豪が狙われてるのか知らないが、別にそんな事はどうでもいいッ。あの脇真音共と闘ってる最中に、何故か映司の中で俺と同じグリードが目覚めやがったんだ…!」
「同じ…グリード……!?」
「あぁ、ウヴァって奴がなぁ。映司の体を乗っ取った奴は、喧嘩っ早い性格で頭は悪い。大方、脇真音がそれを知ってて上手い事話を合わせて誘ったんだろ」
文句を言うアンクは「虫頭が…」と言って舌打ちをする。すると、緑谷はそれを聞いて一気に表情が青白くなっていく。マスキュラーを倒して、直ぐに火野の元へ駆けつけていればと、頭の中で強く後悔していた。狙いは爆豪
「…おい、別にそこで塞ぎ込んでいても俺には関係ないが……、お前はまだやる事があるんじゃないのか?」
「え………」
「あの爆発頭が狙われてるんなら、さっさと行け。後悔してる暇なんかないだろ。手が届く場所にいるんなら……その手掴んでやれ。…ま、その腕じゃ掴めるにも掴めないだろうがなぁ」
アンクは元気付けるようで皮肉に緑谷の腕を見ながら、
「アンク君は…、どうしてそんなに冷静なの…?火野君が連れ去られたのに………」
「あ?冷静な訳あるかっ。大事なメダルまで持ってかれたんだ。直ぐにでも奴の居場所を掴んで、あの憎たらしい顔を捻り潰してやりたい気分なんだよこっちは…!」
アンクは一旦区切ると、右腕を見つめて口を動かした。
「あの
冷静に振る舞っているように見えるが、その眼は怒りと、何処か焦っているような眼をしていた。ただむやみに突っ込んでたら意味がない。先ずはこの状況をどうにかしようと考えているのだろう。
前の世界の二の舞にならない為にも、と。
「………アンク君………そうだね。アンク君の言う通りだ…!」
アンクの想いを聞いて、緑谷は立ち上がった。今すべき事は爆豪を安全な場所へと向かわせる事。連れ去られてしまった火野はどこに連れ去られたのか分からない。なら、アンクの言う通り、この森にいる
「アンク君、ありがとう!……うわっとと…!」
緑谷は振り返り、足を踏み出した直後、急によろけてしまい、その場に転んだ。冷静さを取り戻してアドレナリンが切れかけたのだろう。じわじわと滲み出るような激痛が体を襲い始める。
「フン、お前もどっかの馬鹿みたいに相当無茶したな」
「う、うん……ちょっとやりすぎたかもね…!でも、休んでる暇はないよ…!早く、かっちゃんを探さないと…!」
見るからに重症を負っている緑谷は、それでも動こうとする。他人の為に自らを顧みず救けようとするその姿勢は火野にそっくりで、アンクは見て見ぬ振りが出来なかったのか、突然体を光らせると同時に、緑谷の中へと入り込んだ。
「うわっ!?ちょ…!「……これなら痛む事ないだろ」
緑谷の中へと入り込んだアンク。緑谷の髪型はメッシュのかかった赤い髪に、アンク特有の羽を模した髪型へと変わる。緑谷アンクはスッと立ち上がり、中の緑谷に声を掛けると、精神の中で緑谷は、(うわ!え!?何これ…!?)と体を乗っ取られるのは初めての為か、かなり戸惑いの声を荒げていた。
「チッ…この両腕折れてんのか。かなり無茶な戦闘したもんだなお前」
「(ご、ごめん…)」
「フン。……言っとくが、体を借りてるだけでダメージや痛みは今のお前には余り感じないだろうが、回復した訳じゃない。俺が使っている以上、後からお前にその負荷が戻る。…それが嫌ならーーー……」
「(僕は大丈夫…!それで少しでも動けるのなら、僕の体、君に託すよ…!)」
これ以上動けば後々動けなくなる緑谷。だがその救けたい想いに、
「…そうか……で、爆豪の場所はわかるのか?」
「(あ、えと…うん。この獣道を真っ直ぐ行けば肝試しの道に繋がる筈だから、その道筋を辿れば合流出来ると思う。かっちゃんも轟君も
精神の中の緑谷の言葉にアンクは無言で了承すると、グリード化した右腕を動かし辛そうにゆっくりと右耳の上辺りまで持っていく。そして指を突き当てると、アンクは目を閉じた。
「(アンク君?何してるの?)」
「飛んで行った方が楽だが、生憎俺もセルメダルをかなり消費したんでな」
翼を出す余力も無いアンクはそう言って一旦区切り、「悪いが…」と言うと、全身に力を入れる。すると、体に緑色の稲妻が迸る。紛れも無くなく、アンクは緑谷の体にワン・フォー・オールの力を宿らせた。
「お前の〝個性〟を使わせてもらう」
アンクはそう言って、足を踏み出し、脅威的な速度で獣道を駆け出した。
「(え!?す、凄いよアンク君!ワン・フォー・オールの使い方わかるの!?)」
「お前の記憶を辿ればこのくらいどうって事ない…。さっさと案内しろ。一気に行くぞ」
5%の力でもコントロールが難しいその力を、意図も容易く使いこなすアンクに驚愕する緑谷。改めてアンクは凄いと感心すると同時に、頼もしいと感じていた。
しばらく駆け抜けていると、緑谷の言った通り肝試しの道へと辿り着く。緑谷の指示に従い、道を走っていると、別の方角からバキバキと木が薙ぎ倒される轟音が聞こえてきた。
「なんだ?どっかで戦ってんのか?」
緑谷アンクはその衝撃音が聞こえる方角を見遣る。その直後。黒く、巨大な手を模した物体が勢いよく緑谷アンクに向けて突っ込んできた。
「!?」
咄嗟にその物体を跳んで避けた緑谷アンク。すると、「緑谷っ」と声を殺したような叫びで呼び掛けてくる者がいた。緑谷ほどではないが、怪我を負った障子が後ろに立っていた。
「あ?お前…」「(障子君…!?)」
「シッ……あまり声を出すな。気付かれる」
緑谷アンクの声を静するように障子は人差し指を立ててそう言う。再び木が薙ぎ倒される音が聞こえ始め、緑谷アンクはその方角を睨みながら口を開いた。
「………どうやら、何か向こうにいるみたいだな…」
「…その重症、動いていい体じゃないだろ…?友を救けたい一心か?呆れた男だ…」
「あ?フン、確かにコイツのお人好しはあの馬鹿と同等だな」
「っ…?お前、緑谷じゃないな……!?」
「悪いが、俺はアンクだ。今重症のコイツの体を借りている。俺が入っていれば少しは負担が軽くなるから安心しろ」
いつもと違う喋り方に気付いた障子は警戒態勢に入るが、アンクと知ってそれを解く。それと同時に「アンク…?」と疑問を抱いた。
「何故お前が緑谷の中に…?火野はどうした?」
「ちょっと面倒な事になってな。敵に連れ去られた」
「!?何だと……!?」
驚愕する障子。直後、バキバキと圧し折れる衝撃音が聞こえる。緑谷アンクと障子は身を屈めてその方向を見る。そこには、見た事ある黒い大きな物体が暴れ回っていた。
「あいつ……確か……」
「(ッ!!?常闇君……!!?)」
その方角で暴れているのは常闇を今にも覆うとしているダークシャドウだった。いつも見るダークシャドウとは明らかに巨大で、その光る眼は悍ましい獣を模した眼となっており、力を振るわんと辺りの木々を薙ぎ払っていた。精神の中で驚愕する緑谷。すると、障子が口を開く。
「
常闇の〝個性〟ダークシャドウは、闇が深ければ深い程その性格は獰猛になり、本人自身も制御が難しい。〝個性〟強化訓練も洞窟で制御しようと励んでいたが毎回訓練が終わる頃にはへばっていたくらいだ。そして、今はその闇が深い夜の森。ダークシャドウにとっては絶好の世界となっていた。
「制御が出来ない〝個性〟…暴走か……。その腕はあそこで暴れてる奴にヤられたのか?」
「いや、変幻自在の刃を使う
「説明は後だ。今はさっさと先に進みたいってのに、面倒な事に巻き込みやがって…」
障子の腕から流血しているのをそっちのけにして緑谷アンクは暴走するダークシャドウを見遣る。どうやら音で獲物を把握しているようで、無視して先へ進もうとすれば、先程みたいに襲ってくるのは間違いない。苛々が募る中、緑谷が精神の中から声を掛けてきた。
「(アンク君…!炎出せる…!?)」
「あ?出せない事もないが、アイツ事焼き払う気か?」
「(ち、違うよっ。常闇君のダークシャドウは闇が深まる程強力な〝個性〟。なら、その逆はーー……)」
「…ほお。成る程なぁ。おい、お前。奴から注意を逸らさせろ」
「何をする気だ…?」
緑谷の案にアンクは理解したのか、障子にそう声を掛ける。疑問を抱く障子に「いいからさっさと動け」と命令口調で指示を出し、何か策があると理解した障子は「…わかった」と頷く。
「今はお前を信じるぞ!」
「ッ!」
ダッと駆け出した障子の足音に気付いたダークシャドウは視線を障子に向けて進行しようとする。
「ぐっ!?静まれ……ダークシャドウ…!!」
『アラガウナ!アバレサセロォ!!』
その中心部で抑え込もうと常闇は抵抗するが、夜の闇でパワーが増幅されたダークシャドウには子犬が戯れてくる程度なのか、容易にその抵抗を阻止して障子に詰め寄ろうとする。辺りの木々を薙ぎ倒すその猛進に、あっという間に障子の背後へと突進していた。
だがその時。吹き飛ばされた木々を踏み台として緑谷アンクはダークシャドウの真上へと跳躍する。その右腕には炎を灯しており、ダークシャドウの頭部目掛けて落下し、その右腕を突き出した。
『ヒャン!!?』
炎の灯を照らされ、女の子のような悲鳴を上げたダークシャドウは勢いよく常闇の体内へと逃げ込む。その瞬間、常闇は息遣いが荒くなると同時に膝をついた。
「ハァッ…ハァッ……!」
「無事か、常闇!」
障子が駆け寄り、安否を確認すると常闇は「すまん…助かった……」と息を整えながらそう応える。すると、緑谷アンクは2人に近寄り、辺りの倒れている木々を見ながら口を開いた。
「フン、お前のその怪物…難儀な〝個性〟だなぁ」
「ハァ……ハァ……緑谷…?じゃないな………お前は……?」
「アンクだ。訳あって今は緑谷の中に居る」
雰囲気が違う緑谷に戸惑う常闇に障子が軽く説明をすると、納得した様子で、申し訳なさそうに口を動かした。
「アンク…障子……悪かった…。俺の心が未熟だった。」
「礼なら緑谷に言うんだな。こいつの起点がなけりゃ危うく潰す所だったがなぁ…」
自身に指を指して言う緑谷アンク。その本人の体で喋る彼に常闇と障子は一瞬戸惑って言葉を失っていた。
「………すまない、緑谷。障子の複製の腕を飛ばされた瞬間、怒りに任せてダークシャドウを解き放ってしまった。闇の深さ…そして俺の怒りが影響され、奴の凶暴性に拍車をかけた…。結果、収容も出来ぬ程に増長し、障子を傷つけてしまった……」
ふと、常闇は障子の顔を見遣る。「そう言うのは後だ」と言わんばかりの表情をしており、常闇はこれ以上何も言うまいと口を閉じるが、疑問が浮かんだのか再度口を開いた。
「して、何故緑谷の体に火野のアンクが憑依してる…?肝心の火野はどうした……?」
「……チッ。何度も説明するのは面倒だ。さっさとしないと、爆豪が狙われてるみたいなんでな。俺はもう行くぞ」
「爆豪……?命を狙われているのか…?何故……?」
アンクの言葉に常闇は更に疑問を抱く。恐らく暴走したダークシャドウを抑えるのに必死でマンダレイのテレパスを聞き取れなかったのだろう。背を向けようとする緑谷アンクに「待て」と障子が声を掛けた。
「その怪我ではアンクが憑依したとしても乱暴な行動は出来ないだろ。俺におぶされ」
「あ?」
障子の言葉に緑谷アンクは顔を顰める。
「同じクラスメイトが狙われているとなれば、黙ってはいられない。俺も行くぞ」
「無論、俺もだ。だが…闇夜の中ではダークシャドウを制御するのは難しい。悔しいが、戦力としては役に立てない……」
障子に続いて、立ち上がる常闇は申し訳なさそうな表情を浮かべながらそう言う。すると、緑谷アンクは何かを思い付いたのか常闇を見つめては口を動かした。
「おい、お前のダークシャドウって奴は、光が在れば制御出来るんだよな?」
「…?あ、あぁ。焚き火くらいの灯りさえあれば大人しくなるが……」
「……そうか」
その言葉を聞いた緑谷アンクは、何か企みのあるのうな、不敵な笑みを浮かべていたのだった。
完全に連れて行かれた火野映司…
次回で林間合宿編は最後になりますかな…。
No.87 不意打ちの幕引き
更に向こうへ!Plus Ultra!!