いつかの明日へ、【ヒーロー】は助け合いでしょ   作:しょくんだよ

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敗北と決意と別の決意


第9章 〜神野区〜
No.88 敗北と病院


 

仮免許取得に向け〝個性〟の強化訓練を主体とした林間合宿。地獄のような訓練に勤んだ生徒達だが、その鞭には当然飴もあった。その内の1つで行われたA組とB組の合同による肝試し。

生徒達はその飴に有意義な時間を過ごす筈だったのだが、突如現れた(ヴィラン)連合開闢行動隊。予期せぬ襲撃に、困惑するヒーロー、生徒達。だが、それぞれの行動と起点によって甚大な被害は出さずにそれは治った…と、思っていたが。

結果は完全敗北。

騒動の最中、ブラドキングの通報によって(ヴィラン)があの森から去った15分後、救急、消防隊が到着した。生徒40名の内、(ヴィラン)の1人、〝個性〟によるガスによって意識不明の重体15名。重・軽症者10名。無傷で済んだのは13名だった。

そして…行方不明2名。

プロヒーローは6名の内、1名が頭を強く打たれ重体。1名が大量の血痕を残して行方不明となっていた。一方、(ヴィラン)側は3名の現行犯逮捕。彼らを残し、他の(ヴィラン)は跡形も無く姿を消した。1年A組、B組による林間合宿は、最悪の結果でその幕を閉じたのだった。

 

 

その翌日、夏休みに入っていた雄英高校は生徒達が不在の為に校内は魂の抜け去ったように静まり返っていた。だが、その校門の外は校内とは裏腹に騒めきと困惑を隠さずにマスコミメディアの集団で騒いでいた。万全を期すと宣言をしていた矢先に林間合宿の襲撃に会い、怪我をした生徒、2人も行方不明になった事に、世間は事情を聴こうと計画した雄英に押し寄せて来ていたのだろう。

その騒動が校門前で起きている中、先日の事件を議題に招集された雄英教師達が、会議室で緊急会議が行われていた。

 

(ヴィラン)との戦闘に備える為の合宿で襲来…。恥を承知でのたまおう。〝(ヴィラン)活性化の恐れ〟……という我々の認識が甘すぎた。奴らは既に戦争を始めていた。ヒーロー社会を壊す戦争をさ」

 

根津の言葉に室内の空気は重々しく深刻だった。今回の合宿は一部の人間しか知らされていない学校行事。最小限にしか伝えていない。これなら大丈夫だろうと思っていた矢先に事件は起きた。教師としてこれ以上不甲斐無い事が起きてしまった今回の事件。

 

「認識できていたとしても防げていたかどうか…。これ程執拗で矢継ぎ早な展開……〝オールマイト〟以降、組織立った犯罪はほぼ淘汰されてましたからね…」

 

「要は知らず知らずの内に、平和ボケしてたんだ俺ら。〝備える時間がある〟っつー認識だった時点で」

 

両サイド、向かい合わせで座っているミッドナイト、プレゼントマイクが教師として受け止める議題に反省と指摘をする。すると、ミッドナイトの隣に座っているトゥルーフォームのオールマイト。その顔は他の教師達よりも深刻な表情だった。今にも突っ伏してしまいそうな顔で俯いており、その口を悔し気に開いた。

 

「己の不甲斐なさに心底腹が立つ…。彼らが必死で戦っていた頃、私は…半身浴に興じていた…っ!!」

 

(ヴィラン)連合、少なくともその統括であろう存在、死柄木はオールマイトを殺す事が目的なのは把握している。今回の合宿に同行しなかったのはオールマイトが居るとなると(ヴィラン)連合は確実に何処からか情報を得て殺しに襲撃してくるだろうと判断し、敢えてオールマイトは参加しなかった。無論参加しないとは言っても、(ヴィラン)が襲って来るかもしれないのを頭に入れて、休日を過ごしていた。が、その連絡が来るまで呑気に休みを過ごしていた事に彼は悲観的になっている、

 

「襲撃の直後に体育祭を行う等…、今までの『屈さぬ姿勢』はもう取れません。生徒の拉致、雄英最大の失態だ。奴らは火野と爆豪、同時に我々ヒーローへの信頼も奪ったんだ」

 

今更自分を責めた所で事実からは逃れられない。スナイプは遠回しにソレをオールマイトに突きつけ、現状の話を戻すと根津は今朝の新聞紙を取り出して広げた。

 

「現にメディアは雄英の非難でもちきりさ。爆豪君を狙ったのも恐らく体育祭で彼の粗暴な面が少なからず周知されていたからだね。もし彼が(ヴィラン)に懐柔されでもしたら教育機関としての雄英はお終いだ」

 

根津の取り出した新聞の記事には、大きく『雄英大失態』と題名が記載されており、囚われた爆豪の話題が大きく載せられている。爆豪の気性の荒さも体育祭でメディアに知られているので、(ヴィラン)に寝返ってもおかしくはない。そう書かれていた。

 

「火野君も…、彼のオーズは予測変換する多彩な〝個性〟だから、(ヴィラン)に目を付けられたのかもしれないですね…。(ヴィラン)にもオーズの力を持つ人も居るし、もしかして何か関係が……」

 

「………可能性はある。だが、彼は心当たりが無いと言っていた。彼自身のオーズの〝個性〟は警察でも調査済みだから黒では無い筈だ。

それに火野少年は根っからの優しい性格の持ち主だ。強制的に連れて行かれたとしても(ヴィラン)側に就く事など、それこそ有り得ない話だね」

 

ミッドナイトの異論に落ち込んでいたオールマイトが応える。彼の事情は警部の塚内と事情は把握しており、ヴィランオーズとの関係もオール・フォー・ワン絡みだと推測している。先ず持って火野はそんな男では無いと主張すると、ふと、プレゼントマイクが「まぁ…」と口を挟んで来た。

 

「信頼云々って事でこの際言わせてもらうがよ…。今回で決定的になったぜ。いるだろ、内通者」

 

その言葉に会議室は重い空気が響めく。それをお構い無しにプレゼントマイクは続けて口を開き、声を張り上げた。

 

「合宿先は教師陣とプッシーキャッツしか知らなかった!怪しいのはこれだけじゃねえ!ケータイの位置情報なり使えば生徒にだってーー……」

 

「マイク、やめてよ」

 

「やめてたまるか!洗おうぜ、この際てってー的に!!」

 

そんな訳が無いと言わんばかりに、顔を曇らせながらミッドナイトはプレゼントマイクを宥めようとするが、プレゼントマイクは怒りで冷静さを失っているのか、他の教師達を見渡しながら声を荒げて訴える。

 

「お前は自分100%シロという証拠を出せるか?ここの者をシロだと断言出来るか?」

 

プレゼントマイクの隣に座っていたスナイプが割り入り、その発言を撤回しようと意義を話す。

 

「お互い疑心暗鬼となり内側から崩壊していく。内通者探しは焦って行うべきじゃない」

 

無論、内通者は全員が思っていた事。誰も疑わなかった訳ではないが、同じ雄英の職員として、表では誰も疑いたく無い問題だった。所謂社会人に於けるセンシティブな問題だからだ。スナイプの言葉は正論なのか、プレゼントマイクは「Umm…」と口籠もり、言い返せなくなっていると、根津は落ち着いた様子で口を開く。

 

「少なくとも私は君達を信頼してる。その私がシロだとも証明しきれないワケだが。とりあえず学校として行わなければならないのは生徒の安全保証さ。内通者の件もふまえ…、かねてより考えていた事があるんだ。それは…」

 

『でーんーわーがーーー来た!』

 

何かを提案しようとした直後、オールマイトの声がオールマイト本人のポケットから鳴り出した。何事かと教師達はオールマイトを見遣ると、オールマイトは慌ててポケットから携帯を取り出していた。どうやら、自分の声を録音した着信音らしい。

 

「すみません、電話が」

 

「会議中っスよ!電源切っときましょーよ!」

 

そそくさに席を立ち、申し訳無さそうに言いながら部屋から出ようとするオールマイトにマイクはキレ気味に声をかける。そして、ミッドナイトとスナイプはその着信音を聞いて、心の奥底でダサいと思っていたが、それを口にするのは失礼なのか無言で彼を見送っていた。

 

会議室を出たオールマイトは小さく溜め息を吐く。それは何も出来なかった自分を悔やんでいたからだ。教え子すら救けられず…何が平和の象徴か…何がヒーローか…!オールマイトは悔しさと怒りに体を震わせていた。

雄英の教師となって間も無い期間に、(ヴィラン)の襲撃が相次いで起きている上に、その(ヴィラン)の目的は平和の象徴、オールマイトを殺す事。雄英から遠ざかってしまえば雄英には危害は最小限になると最初は考えていたが、この学校で生活している内にその考えはプツンと途絶えていた。故に、現在狙われてしまった生徒が出て来てしまっている。甘い考えが仇となってしまったと悔やんでも悔やみ切れない気持ちの最中、

鳴り止まぬ着信音にオールマイトは、気持ちが晴れないまま、携帯を耳に当てた。ふと、画面を見ると宛先は塚内からだった。

 

「ーーーー……すまん、何だい塚内君」

 

『今イレイザーヘッドとブラドキングから調書を取っていたんだが、思わぬ進展があったぞ!(ヴィラン)連合の居場所、突き止められるかもしれない!』

 

「!」

 

予想外で思わぬその発言に、曇っていたオールマイトの顔は一気に希望を取り戻した表情へと変わる。通話越しでも驚いた様子がわかったのか、塚内は笑みを浮かべてそのまま事情を説明した。

 

『2週間程前、〝顔中ツギハギの男がテナントの入ってないハズのビルに入っていった〟という情報を入手していた。20代くらいだというので過去の犯罪者を焦ってみるも目ぼしい者はいない。又、ビルの所有者に確認したところいわゆる隠れ家的なバーがちゃんと入ってるという話だった為、捜査に無関係だと流していたんだが、今回生徒を攫った(ヴィラン)の一人と特徴が合致した!事態が事態だ、裏が取れ次第すぐにカチ込む!これは極秘事項、君だから話してる!今回の救出・掃討作戦、君の力も貸してくれ!』

 

「………」

 

事細かく説明してくれた塚内。だが、何も応えない彼に『オールマイト?』と塚内は声を掛けると、オールマイトは深く息を吐いて口を開いた。

 

「ーーー………私は…、素晴らしい友を持った……」

 

悔やんでいた無念を晴らしてくれるかのような提案にオールマイトの顔は徐々にやる気に満ち溢れた表情へと変わる。

あぁ、本当に素晴らしい友を持った…。

オールマイトは全身に力を入れる。その体からは蒸気が放たれ、筋骨隆々のマッスルフォームへと変わった。囚われた生徒、そして可愛い教え子達に牙を向いた(ヴィラン)に報いを晴らすべくと、覚悟の眼をした笑顔で彼はこう言った。

 

「奴らに会ったらこう言ってやるぜ…、私が反撃に来たってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

事件から2日後、軽・重症を負った生徒達は直ぐに合宿近くにある病院に搬送されていた。軽症者は軽い手当をしてそのまま直ぐに帰宅出来たのだが、重症者は病院でそのまま入院となっている。

その重症者の1人、緑谷もまた、病室で寝たきりとなっていた。全身包帯を巻かれ、バキバキに折れた両腕はかなり大きめのギブスが付けられている。

 

「……」

 

かなりの重症で、気絶と悶絶、それに加えて高熱で魘されやっと治った緑谷は、目が覚めて病院の天井を死んだ魚のように、茫然と只々見つめていた。ふと、隣の机に綺麗にカットされたりんごが置いてある事に気付く。そこには『起きたら食べて連絡下さい』と置き手紙があった。それは間違いなく母親の字。それを見た緑谷はふと、ショッピングモールの事件で警察に赴き、迎えに来た母親の事を思い返していた。また心配させてしまったと。

だが、それも一瞬で、緑谷は再び天井を見つめる。母親の心配よりも、救けた洸太の事を思い出す。

 

「……洸太君、無事かな…」

 

「あー緑谷!!目ぇ覚めてんじゃん」

 

「え?」

 

小さく呟く緑谷。すると、病室の扉が開かれた。そこには上鳴が立っており、「オハー」と気軽に挨拶をしながら入ると、その後ろからぞろぞろと大勢の人が入って来る。無傷・軽症で済んだA組生徒だった。

 

「テレビ見たか!?学校今マスコミでやべーぞ」

 

「春の時の比じゃねー」

 

「メロンあるぞ。皆で買ったんだ!」

 

上鳴、砂藤、高そうなメロンを掲げて喋る峰田を筆頭に皆は心配そうな表情で緑谷を見つめる。

 

「具合はどうだ?」

 

「迷惑をかけたな、緑谷…」

 

左腕に包帯を巻いた障子、軽く腕にガーゼを付けている常闇が声を掛ける。同時に、余程メロンを自慢したいのか「デカメロン!!」と峰田は言うと、緑谷は生気を失っているような表情で口を開いた。

 

「何とか…。ううん…僕の方こそ…A組皆で来てくれたの?」

 

緑谷の言葉に、少し篭り気味で飯田が応えた。

 

「いや…耳郎君、葉隠君は(ヴィラン)ののガスによって未だ意識が戻っていない。そして八百万君も頭を酷くやられ、ここに入院している。昨日丁度意識が戻ったそうだ。だから来ているのはその3人を除いた………」

 

「………1()4()人だよ」

 

「爆豪と火野がいねぇからな」

 

「ちょっ轟…」

 

黙り込む飯田の変わりに麗日がそう言うと、轟が掻い摘んで行方不明となった2人の名を出す。精神的にも肉体的にも1番酷くやられている緑谷にとってその言葉はタブーだと芦戸が声を掛ける。だがそれは同じ仲間として連れ去られた事にはA組全員も悔しい気持ちで一杯だからだ。轟の言葉を聞いた緑谷はハッとし、その黒ずんだ瞳に白い気泡のような色が戻る。

 

「オールマイトがさ…、言ってたんだ。手の届かない場所には救けに行けない…って。だから手の届く範囲は必ず救け出すんだ…。僕は…手の届く場所に居た。必ず救けなきゃいけなかった…!僕の〝個性〟は…その為の〝個性〟…なんだ。相澤先生の言った通りになった…!体……動かなかった…!」

 

あの事件は悪い夢ではない。現実の出来事なんだと、緑谷の死んでいた表情は徐々に感情を取り戻していく。救けられなかった悔しさ、無念が、満身創痍の体に突き刺さる。そして後悔が今になってぶり返して来た。

友に託され、置いて行ってしまった事ーーー。

重症になった体のせいで、幼馴染が目の前で連れ去られてしまった事ーー。

悔やんでも悔やみ切れないその表情を表に出す緑谷。すると、切島が突然緑谷に声を掛けた。

 

 

「じゃあ今度は救けよう」

 

 

突如、あっさりと告げられた一言に、緑谷と病室にいる一同は言葉の意味を取り損ねる。「「「へ!?」」」と呆気にとられた生徒達は反応し、切島の隣にいた轟は寡黙に佇んでいた。

 

「実は俺と……轟さ、昨日も来ててよォ」

 

切島は昨日の出来事を語り出す。極力用が無い限り自宅から出るなと言われた生徒達だが、切島はジッとしていられなかったようで、病院に足を運んだらしく、偶然にも受付で同じ理由で轟と合流したらしい。お見舞いに向かおうと病院の通路を歩いていた際、八百万の病室でオールマイトと警察が話している所に遭遇したようで、その会話を盗み聞きした。その時八百万とオールマイトは、こんな発言をしたそうだ。

 

 

『B組の泡瀬さんに協力頂き(ヴィラン)の1人に発信機を取り付けました。これが信号を受信するデバイスです。捜査にお使いください』

 

『この前相澤くんは君を〝咄嗟の判断力に欠ける〟と評していた。素晴らしい成長だ!ありがとう、八百万少女!』

 

『級友の危機に…、こんな形でしか協力できず…悔しいです』

 

『その気持ちこそ君がヒーローたりうる証だよ。後は私達に任せなさい!』

 

 

 

「……つまりその、信号デバイスを…、八百万君に創ってもらう……と?」

 

内容を聞き、それを掻い摘んで飯田が確認を取ると、緊迫感で顔を強ばらせる切島は無言で頷く。それを見た飯田は、保須事件で体験先に迷惑をかけたことを思い返す。その瞬間、声を荒げた。

 

「オールマイトの仰る通りだ、プロに任せるべき案件だ!生徒(おれたち)の出ていい舞台ではないんだ馬鹿者!!」

 

「んなもんわかってるよ!!でもさァ!何っも出来なかったんだ!!ダチが狙われてるって聞いてさァ!なんっっも出来なかった!しなかった!!」

 

期末テストで赤点を取った切島は、補修の為に肝試しの時に施設に残っていた。強制的にその場から動けなかったので、マンダレイのテレパスが発信された際はどうする事も出来なかった。その時の後悔と悔しさが溢れ出て飯田の言葉に反発してしまっている。

 

「ここで動けなきゃ俺ァ!ヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ!!」

 

「切島落ち着けよ病院だぞ!?こだわりは良いけどよ、今回は…」

 

「飯田ちゃんが正しいわ」

 

「飯田が、皆が正しいよ!!」

 

上鳴、蛙吹が声を張り上げている切島を宥めようと飯田の意見に賛同しながらそう言うと、切島は自分の言ってる事は違うと一旦区切ぎり、「なァ緑谷!!」と緑谷に振り返る。

 

「まだ手は、届くんだよ!!」

 

緑谷に手を差し伸ばし、力強い言葉が病室に響き渡る。愕然と緊張感が漂う病室。その中、芦戸が戸惑うように切島の言った言葉を整理しようと口を開いた。

 

「つまり、ヤオモモから発信機のやつもらって、それ辿って…自分らで火野と爆豪の救出に行くってこと……!?」

 

(ヴィラン)は俺らを殺害対象と言い、爆豪は殺さず攫った。火野も恐らく爆豪と同じで生かされるだろうが、殺されないとも言い切れねえ。俺と切島は行く」

 

無謀な事だと、学生の身だと重々承知している。保須事件の事もあってそれはやってはいけない事だとも把握していた。それでも、友が危険に晒されているのを黙って見過ごす訳にはいかない。揺るがないその決意を示す轟だが、同じ過ちを犯そうとするその轟の発言に飯田は激昂した。

 

「ーーーふっ、ふざけるのも大概にしたまえ!!」

 

「待て、落ち着け」

 

すると、障子が包帯を巻かれた左腕を出して飯田を宥める。激怒していた飯田はハッとし、息遣いが荒くなる呼吸を整えようとする中、障子が口を動かした。

 

「切島の〝何も出来なかった〟悔しさも、轟の〝眼前で奪われた〟悔しさもわかる。俺だって悔しい。だが、これは感情で動いていい話じゃない」

 

障子も目の前で連れ去られた事を根に持ち、その気持ちは表に出してはいないが、内心は相当悔やんでいる。彼の言う通り、ここで感情任せに行動してしまえば、下手をすればこの先の雄英生活や周りに支障をきたしてしまう。御尤もな意見に轟と切島は黙っていると、震えながら青山が口を開いた。

 

「オールマイトに任せようよ…。戦闘許可は解除されてるし。やれる事はやったよ…☆」

 

「青山の言う通りだ…。 救けられてばっかりだった俺には強く言えんが…」

 

便乗して常闇もそう言うと、蛙吹が顎に人差し指を当てながら轟と切島、そして緑谷に言い放った。

 

「皆、火野ちゃんと爆豪ちゃんを攫われてショックなのよ。でも冷静になりましょう。どれ程正当な感情であろうと、また戦闘を行うというのならーー、ルールを破るというのなら、その行為は(ヴィラン)のそれと同じなのよ」

 

救けたい気持ちは皆同じ。だが、その場の感情に任せて動けば、犯罪人と同じよう、気持ちや感情で人を殺める、物を奪う、金を盗る。その言い分は正論で、皆の顔は徐々に曇っていた。すると、病室の扉がノックされる音が聞こえてくる。

 

「お話し中ごめんね。緑谷くんの診察時間なんだが…」

 

「い…行こか。耳郎とか葉隠の方も気になっし…」

 

緑谷の担当医の医者がそう言って入って来ると、邪魔になってはいけないと瀬呂が苦笑しながらそう言って、A組一行はぞろぞろと病室から出て行く。飯田も出ていこうとすると、切島が小声で緑谷に話しかける声が耳に入る。

 

「八百万には昨日話をした。行くなら即行…、今晩だ。重傷のおめーが動けるかは知らねえ。それでも誘ってんのは、おめーが一番悔しいと思うからだ。今晩………病院前で待つ」

 

何を、どんなに言われようと、切島の誤った決意は曲がらなかった。危険な行動だと分かって緑谷にその話を持ちかける。飯田はその場に立ち止まり、その目を大きく見開いていた。それを聞き終え、飯田はその場から出て行くと、緑谷は何か思い出したのか切島に声を掛けた。

 

「切島君…アンク君は来てないの…?」

 

林間合宿の時、アンクは円場に入ったままの状態で警察に保護されており、その後は入院していた為見かけていない。緑谷の言葉に、切島はバツが悪そうな素振りを見せて、口を開いた。

 

「実はよ、俺も轟も気になって円場の病室行ったんだけどよ……。()()()()()()()

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

場所は変わり、ここは東京都三鷹市。

保須市の隣街で、かの大企業、鴻上ファウンデーションが聳え立つ街。その鴻上ファウンデーションの会長室に1人の男が現れていた。会長の机に座っている鴻上は、少々驚いた様子で、彼に話し掛ける。

 

「…ほぅ、君だけがここに来るとは珍しい。相方はどうしたんだね?()()()君」

 

「………お前らの手助けを申し込むのは尺だが、…頼みがある」

 

鴻上の目の前には、人型の姿をしたアンクが立っていた。その眼は、何かを決意したような瞳で、鴻上に向かって口を開いていたのだった。

 








ー 変身講座 ー

林間合宿から翌日、死柄木が潜む都内のバーにて。

火野ウヴァ「フハハハ…!この俺様もついに仮面ライダーオーズか…!この力さえあれば、俺に歯向かう奴らは当然いなくなるだろう…」

優無「ウヴァ、オーズになるのはいいけど、変身ポーズもちゃんとしなくちゃね!」

火野ウヴァ「変身ポーズ?映司(コイツ)が変身の時にするあの大袈裟な素振りの事か?フン、あんなのをいちいちしていたら格好の的になるだろ」

優無「何言ってんのさ!仮面ライダーとして変身ポーズは何よりも大事なシーンだよ!てな訳で、私の変身の仕方を見本としてレクチャーするね!」

火野ウヴァ「おい、何故そうなる!?」

優無「じゃあ行ってみよー!」


★☆★


優無「まずその『1』!ドライバーを腰に装着する!」

そう言って優無はオーズドライバーを腰に宛い、装置する。

優無「その『2』!コアメダルを両サイドに2枚嵌め込む!火野映司君はシンプルに入れてるけど、私はオリジナル!腕を交差してタカとバッタを相手に見せながら、ドライバーに装填!そして、トラのメダルを見せるように手に持ち、嵌め込む!余裕がある時は投げ込むように入れてるんだ!これ決まったらカッコいいんだから!」

優無は両サイドに2枚、そしてトラのメダルを投げ入れるように装填する。

優無「そしてその『3』!ここは火野映司君と同じで、オースキャナーを取り出して同じポーズでスキャン!」

優無はベルトを下げて、オースキャナーを火野と同じポーズでスキャンさせる。キン!キン!キン!と読み込む音がバーの中に鳴り響いた。

優無「そして!ここは私のオリジナル!最終回のタジャドルのロストブレイズを意識するようなポーズでオースキャナーを構えて……『変身』!!」


タカ!

トラ!

バッタ!







優無「よっと!これで仮面ライダーヴィランオーズに変身っと!どう?カッコいいでしょ?」


火野ウヴァ「その間が隙だらけだろ。くだらん、俺はやらんぞ」

優無「ちょちょちょ!?何でさ〜!やろうよ〜!」


死柄木「おい、五月蝿いぞお前ら……!」

No.89 決行の夜

更に向こうへ!Plus Ultra!!
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