いつかの明日へ、【ヒーロー】は助け合いでしょ   作:しょくんだよ

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到着と交渉と威勢


No.90 バカとプロと作戦開始

 

爆豪と火野が連れ戻そうと無謀な奪還作戦を決行した緑谷達。(ヴィラン)連合が居ると思われる場所へ、向かうべく、駅に到着したメンバー。すると、八百万が向かう先の詳細を説明する。

 

「いいですか?発信機の示した座標は、神奈川県横浜市神野区。長野からの出発ですので約2時間…、10時頃の到着です」

 

それを聞いて皆は同意すると、さっそく新幹線へと乗り込む。席へ座り、新幹線が動き出した数分後、緑谷が向かい合わせで座って、弁当を食べている轟達に声を掛けた。因みに、緑谷の隣は飯田。4人が座っている反対側の席には、八百万と耳郎が向かい合わせとなって座っている。

 

「あの…この出発とか詳細って皆に伝えてるの?」

 

「ああ。言ったら余計止められたけどな」

 

「あの後、麗日がダメ押しでキチい事言ってくれたぜ」

 

「麗日さんが?」

 

切島の言葉に緑谷が反応する。麗日はこう言ったそうだ。

 

『火野君はともかく……爆豪君、きっと…皆に救けられんの屈辱なんと違うかな……』

 

それを聞いた緑谷は目の前で爆豪を連れて行かれそうになり、必死に手を伸ばした時の彼の言葉を思い出す。

『来んな、デク』と。

自尊心、プライドの塊の爆豪にとって、今救けに行った所で、それはきっと彼の望んでいる事では無い。深刻な表情で目を見開いている緑谷を見て、轟は弁当を食べながら口を動かした。

 

「一応聞いとく。俺達のやろうとしてる事は、誰からも認められねぇエゴって奴だ。引き返すならまだ間に合うぞ」

 

「迷うくらいならそもそも言わねえ!あいつらは(ヴィラン)のいいようにされていいタマじゃねえんだ…!」

 

「ウチも切島と同じだよ。絶対に爆豪も、火野も連れ戻す…!」

 

漢らしく切島はその想いを曲げずに覚悟を言い放ち、耳郎もそれに頷く。監視役の飯田と八百万はおかしな行動を止めるべく参加したので、何も応えず黙っていると、緑谷は小さな声で「僕は…」と口を開いた。

 

「後戻りなんてできない」

 

オールマイトから授かった〝個性〟。彼が見初めてくれた以上、誰かを救ける為に使いたい。例えそれが、望まれていない救いだったとしても。緑谷も覚悟を決めて、そう応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

新幹線で移動する事2時間。緑谷達は駅から降り、しばらく歩くと、そこには夜の灯りが視界一杯に広がった街並みが目に映った。

 

「着いた!神野区!」

 

「この街の何処かに潜んでんのか」

 

「人多い…!」

 

現在午後22時過ぎ。都会の街はこれからだと言わんばかりの人並みの多さに呆気を取られる緑谷達。

 

「さァどこだ、八百万!」と早速動き出そうとする切島。

 

「お待ち下さい!ここからは用心に用心を重ねませんと!!私達(ヴィラン)に顔を知られているんですのよ!!」

 

御尤もな意見に切島は立ち止まる。このまま目的地に行ったとしても直ぐに見つかって戦闘になる可能性は高い。八百万の言葉に、緑谷は「うん、オンミツだ」と言って両手を交差して顔を隠そうとしていた。

 

「…しかしそれでは偵察もままならんな」

 

「場所が分かれば良いけど、もし見つかった時がマズイよね…」

 

飯田と耳郎がそう言って、どうしたものかとメンバーは考えると、八百万が何かを見つけたのか指を指しながら口を開いた。

 

「そこで私、提案がありましてよ!?」

 

ソワソワと落ち着かない様子で言う八百万。その頬は、若干赤目らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

八百万が指した方向にあったのは、安い値段で売られているのに名を知れた名店、〝激安の王道 鈍器.大手(ドンキ・オオテ)〟だった。そに入って数十分後、緑谷達は、普段見られないような可笑しな服装で出でくる。

 

「オッラァ!!コッラァ!!」

 

ワックスで逆撫でた髪、サングラスと付け髭を付けた緑谷は、チンピラのようなスーツを身に纏い、不慣れな怒号を張り上げる。すると、ツノのカチューシャを付け、不良少年のような格好をした切島がぎこちない態度の緑谷を指摘する。

 

「ちげぇ。もっと顎をクイクイやんだよ」

 

「オッラァ!」

 

「そーそー!」

 

「成る程、変装か」

 

2人のやり取りの横で、二色の髪色を隠すように黒のカツラを被り、ホストのような身なりをした轟が呟く。

轟の言う通り、八百万が提案したのは変装だ。身なりを変えれば、(ヴィラン)に出会してもそう簡単にバレる確率は低いと判断した八百万に皆は同意して、普段の格好とはかけ離れた姿をしていた。ちなみに八百万は、セレブ嬢のようなドレスを纏い、サングラスを装着し、普段のポニーテールをボリューミーにワックスで整えていた。その手には、ワックスのスプレー缶を所持している。

一方で隣にいる耳郎も、切島みたく不良少女を模した黒と紫のカラーの上着、赤のスカートに黒のニーソックスを着用しており、金髪のロン毛をカツラとして被っている。そして、飯田はワックスでオールバックの髪型、サスペンダーのズボンにリボン結びのネクタイを着こなし、どこかヤバい店の客引きのような姿をしていた。

 

「夜の繁華街!子供が彷徨くと目立ちますものね!」

 

「確かに良い案だけどさ…皆主旨がバラバラ過ぎて逆に目立ちそうなんだけど……」

 

ふーっと鼻息を大きく吐く八百万に、統一されていない皆の変装を見ながら、不服そうに耳郎が呟く。その後ろで、切島に何か言われたのか、飯田は「パイオツカイデーチャンネーイルヨー!!」と可笑しな発言をしている。

 

「八百万…、『創造』で作ればタダだったんじゃねえか?」

 

ふと、轟が八百万に尋ねると、八百万は慌てて口を動かした。

 

「そそソレはルール違反ですわ!私の〝個性〟で好き勝手に作り出してしまうと流通が…そう!国民の一人として...!うん、回さねばなりませんもの!経済を!」

 

「そうか」

 

「ドンキ入りたかったんだな、あのピュアセレブ」

 

「すっごいはしゃいでたもんね」

 

言い訳をする八百万に轟はスンと頷く。その隣で、切島が呟くと、耳郎も同意見だったのかケロっとした態度で応えていた。

 

「お?雄英じゃん!!」

 

すると突然、通行人の男性の声がそう聞こえ、5人はビクッ!と肩を跳ね上げる。

 

「オッ、オッラ…!」

 

早速バレたかと、緑谷は慌てて切島の言われた通りの怒号をかまそうと振り返る。だが、通行人を含めた人々は、変装した緑谷達ではなく、一斉に建物の上へと見上げていた。緑谷達も吊られて見上げると、そこには大きな液晶画面が設置されていた。その映像を見て緑谷達は驚愕する。

 

『ーーーーでは、先程行われた雄英高校謝罪会見の一部をご覧下さい』

 

なんと映し出されていたのは深々と頭を下げている雄英高校の教師達だった。根津を筆頭に、ブラドキング、そして、もう1人の教師が頭を上げて口を開いていた。

 

『この度、我々の不備からヒーロー科1年生27名に被害が及んでしまった事、ヒーロー育成の場でありながら、敵意の防衛を怠り社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした』

 

「メディア嫌いの相澤先生が…!」

 

お詫びの言葉を丁寧に喋っていたのはなんと相澤だった。メディア嫌いで有名な彼が、身なりを整えて無精髭も綺麗に剃っている。目を見開く緑谷達の中、メディアの1人が相澤達に質問するべく口を動かした。

 

『NHAです。雄英高校は今年に入って4回、生徒が(ヴィラン)と接触していますが、今回生徒に被害が広がるまで各ご家庭にはどのような説明をされていたのか、また…具体的にどのような対策を行ってきたのかお聞かせください』

 

雄英体育祭の件から、雄英の基本姿勢はその時にメディアを通して知らせていた。市民やメディアの人達も当然知っていた…の筈なのに、質問をする男性は白を切るような素振りで問い掛ける。そして、その質問に対して緑谷は「悪者扱い…かよ…」と悔しそうに呟き、強く拳を握る。

 

『周辺地域の警備強化、校内の防犯システム再検討、〝強い姿勢〟で生徒の安全を保証する……と説明しておりました』

 

「は?」

 

「全然守れてねーじゃん」

 

「何言ってんだこいつら」

 

根津が応えると、映像を見ていた人々から不平不満を垂れ流し始める。この世は結果が全て。その空気は澱んでいく。いくら教師達が宣言し、頑張っていたとしても、結果が果たせなければ、それは虚勢に過ぎなかった。所詮は他人事だ。実績を残さなければ、栄光や信頼など直ぐ地に落ちる。罵声や文句が飛び交う街中、緑谷達はその澱んだ空気の中、身を縮こまらせていた。

 

 

 

 

 

 

☆★☆★

 

 

一方で、その中継を見ていた(ヴィラン)連合達も然り。死柄木はそれを愉快そうに眺めては口を動かした。

 

「不思議なもんだよなぁ……何故奴等が責められてる!?奴等は少ーし対応がズレてただけだ!守るのが仕事だから?誰にだってミスの1つや2つある!『お前らは完璧でいろ』って!?現代ヒーローってのは堅っ苦しいなァ。爆豪君よ!」

 

恰も他人行儀の素振りを見せ、皮肉に笑う死柄木。周りの連合達は黙って見守る中、爆豪も死柄木を睨みながらそれを聞いていた。すると、便乗するようにスピナーは口を動かす。

 

「守るという行為に対価が発生した時点で、ヒーローはヒーローでなくなった。これがステインのご教示!!」

 

「人の命を金や自己顕示に変換する異様。それをルールでギチギチと守る社会。敗北者を励ますどころか責め立てる国民。俺達の戦いは〝問い〟。ヒーローとは、正義とは何か。この社会が本当に正しいのか、1人1人に考えてもらう!俺達は勝つつもりだ。君も、勝つのは好きだろ?」

 

ステインの思想を追いかけるスピナーは、相変わらずの威勢を見せる。

死柄木の言う爆豪を引き込む理由はその乱暴な性格と何が何でも勝つというプライドに目を付けたからだ。ヒーロー側ではルールや縛りが多い。だが(ヴィラン)側ならば、その縛るモノが無い。勝つという概念は(ヴィラン)にも存在する。死柄木はそれを見据えて爆豪を勧誘しようとしていた。

 

「………フン」

 

すると、カウンター席に座っていた火野ウヴァが突然立ち上がり、出口まで移動すると扉のドアノブに手を掛ける。それを見た優無は声をかけた。

 

「ウヴァ、何処行くの?」

 

「そいつの引き込みなんざ、俺には何も関係ない。外の空気を吸ってくる」

 

火野ウヴァはそう言ってバーの外へと出て行き姿を消した。それを見ていたマグネは皮肉そうに口を開いた。

 

「…何よ、頼もしい仲間が増えるってのに、感じ悪いわねあの子」

 

「まァそう言いなさんなマグ姉。俺達連合にとって彼の力は必要不可欠な存在だ。今は馴染めないだろうから、彼にも息抜きという時間を与えてやってあげようじゃないか」

 

出て行った扉を睨むように言うマグネをMr.コンプレスが宥める。ふと、皆が扉を見つめる中、槍無はマグネと同様、またはそれ以上の、睨みつけるような目付きでその扉を見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

バーから出て行った火野ウヴァは、そのビルの屋上へと足を運んだ。夜の明かりが灯される街並みを、柵から顔を出して火野ウヴァはその光景を視界に入れる。微妙に冷たい微風が吹き、火野ウヴァの肌に感覚が走る。すると突然、何処からか声が聞こえてきた。

 

『やっと1人になったなーーー…』

 

「ッ!?」

 

その声に驚いた火野ウヴァはバッと後ろへと振り返る。だが、その屋上には誰もいない。今居るのはウヴァだけだった。ハッキリと聞こえた声に同様するウヴァ。数秒経ち、その声の主が()なのか理解すると、ウヴァは口を開いた。

 

「……貴様……()()()()……!?」

 

『お前がこのビルに入った時からだよ』

 

「お前の精神は完全に閉じ込めた筈…!何故出てこれる…!?」

 

『ん〜…お前よりも狡賢くて、ムカつくグリードが、ほぼ毎日俺の体使ってるからね…その耐性がついたんじゃない?』

 

話しかけてくる正体は火野映司本人だった。普段からアンクが体の中を出入りしては精神を乗っ取っている為、本人の言う通り耐性が知らぬ内に付いてしまったのだろう。  

 

「…俺が1人になった所を襲う気か?」

 

『話をしたかっただけさ。他の奴らがいると怪しまれるし。それに、直ぐに出たいけど、多分体が言う事きかないだろうし』

 

「…フン!だが今更出て来た所で無駄だ!この体は俺が使わせてもらうっ。目障りなアンク以外の他の奴らはいない…!この世界で俺は、完全な存在になる!!」

 

『それは無理な相談だね……』

 

奴ら、とは恐らく他のグリード達の事を言っているのだろう。前世では、ちまちまとセルメダルを集めては奪われ、一緒に組んでいた他のグリード達からも見放されたウヴァは、孤立気味ではあったもの、それこそ虫の執念深さみたく最後まで生き残っていた。だが、完全な存在となって欲望を欲しようにも、結局は邪魔をされ、それを実現する事は出来なかった。握り拳を作りながら言うウヴァに、火野はそう返す。すると、『だけど…』と言って口を開いた。

 

『お前のその欲望…、多分全部は出来ないと思うけど、…満たす事なら手助けをしてあげてもいいよ』

 

「は?どう言う事だ……?」

 

発言の意味が分からず、ウヴァは困惑する。その中、火野は続けて口を動かした。

 

『俺…お前達がいた時の記憶が全然無くてさ。…アンクと出会って色々と聞かされてもらったんだ、前の世界の記憶を…。当然グリード達の事もね…。だから、お前とこうして会って会話するのも俺にとっては初めてなんだ』

 

「記憶が無い…?フン、それが俺の欲望を満たすのと何の関わりがある?」

 

『初対面のお前だからこそ、記憶が無い俺はお前がどんな事をしでかしたのか分からない。と言っても、さっきみたいな事をしている時点で、悪い奴だって思っちゃったけどな』

 

「それがどうした?俺達グリードは、お前達みたいな人間はただのメダルを増やす〝道具〟に過ぎない。…その()()に俺達が作り出されたってのも癪な話だがな……」

 

元々グリードは800年前の王が、当時の科学者…言わば錬金術師によって作り出された存在。各生き物の力を宿したコアメダル10枚を、1枚ずつ減らし、9という欠けた数字にした結果、足りない故に満たしたいと誕生したのがグリードだ。皮肉に言うウヴァに、火野は続けて語りかける。

 

『…1つ質問なんだけど、俺の体を使って何か感じた事ない?』

 

「………なに?」

 

『ほら、グリードって五感が無いだろ?でも、俺の体は人間の体だから、アンクも食べ物を食べたい時は体借りて食べてるし…。何か感じたことないかな〜って、思ってさ』

 

〝欲望〟が中心的な位置にあるグリードだが、逆に言うと欲望しか存在せず、その欲望を満たす事が出来ずそれを感じる肉体的機能、そして感情的機能も人間に比べて退化している。アンクから聞いたグリードの事を火野はそう言って質問をすると、ウヴァは黙り込み、ふと夜の街並みを眺めた。

 

「………あぁ、人間の…お前の体は…随分と居心地が良い…」

 

肉体機能が低下していたグリードの体でずっと生きていたウヴァは、ノイズの走るような音、ピンぼけする濁った景色で過ごして来た。が、火野の体に入って()()()明確に聞こえる音、色鮮やか景色を知り、その身に実感していた。死柄木達が居たバーの中に居るよりも、新鮮な外を見る方が何倍も良いとウヴァは屋上にやって来たのもあった。ウヴァにとっては衝撃的な実感だったのか、火野の質問に素直にそう応えると、火野は続けて語りかける。

 

『セルメダルもグリードにとって大事なモノだと思うけど…、世の中それだけが欲望じゃないって俺は思うんだ。食べて味わって、色鮮やかな景色を見て、何気ない生活を送るってのも1つの欲望だし…』

 

一旦区切る火野は、再度口を開いた。

 

『えっと…ウヴァ、今後俺の体でその欲望を体感してもらう代わりに、俺と一緒に戦ってくれないか?』

 

「…一緒にだと?」

 

まさかの勧誘にウヴァは戸惑いながら首を傾げる。

 

『うん、ここに居る理由って多分だけど…脇真音にセルメダルをあげるって言われたから来たんだろ?グリードにとって大事なモノなのかもしれない。でも…俺にとって別にメダルとかはどうでもいい。だから、ヤミーを倒した分ウヴァにあげるよ。……ウヴァみたいな強い奴が味方だと心強いんだけどなぁ』

 

人々を餌とし、欲望を求めるだけの存在グリード。だが、火野は精神の中で考えていた。

人間の体に入り、娯楽を味わうアンクと同様、ウヴァもその娯楽に浸ってくれるのではないか?現に、ウヴァは火野の体に入って人間の感じる感覚、色鮮やかな景色を見るという時点で堪能している。その条件を持ち掛ける火野に、ウヴァは黙り込む。すると、静かに笑い出した。

 

「……ククク…ハハハハ…!!お前と言い、あの脇真音とかいう女…、オーズの力を持つ人間は俺達グリードを何だと思ってやがる!?要はお前達と共に人間を救えって事なんだろ?ふざけた話だ。第一、お前はこっちの世界でもアンクと一緒に居るだろ。俺は昔から奴が嫌いなんだ…!自分だけメダルを横取りしようって考えてるアンクなんかと一緒にいてたまるかッ!」

 

『そ、そんなにアンクの事が嫌いなの?』

 

相当アンクの事が嫌いなのかその表情は徐々に怒りが増して眉に皺を寄せる。火野は問い掛けるとウヴァは続けて口を開いた。

 

「大嫌いだ!お前、記憶が無いとか言ってたな?奴はお前を散々たぶらかして自分が良いようにメダルを集めていた姑息なグリードだった。たまに同情する程、お前もこき使われていたぞ」

 

『えぇ〜っ…。でも…確かにアンクって強情で、なんか自分優先って感じだな…』

 

「フン!そうだろ?俺も奴に随分と騙され続けてきたからな…。思い出しただけでも腹が立つ…!」

 

『腹立つで思い出したんだけど、この間ヤミーが現れたとか言って商店街に行ったんだけど、結局ヤミーが見つからなくて、アイスを奢らされた事あったんだよなぁ…』

 

「フッ、相変わらずの野郎だ…」

 

話は逸れていつの間にかアンクの愚痴を言い合う火野とウヴァ。この場にアンクがいない事を良いことに2人の会話は絶妙に弾んでいた。すると、屋上の扉が開かれる。顔を出して現れたのは槍無だった。

 

「………ウヴァ……捕まえた爆豪…暴れ出した…」

 

「……俺の知ったことじゃない」

 

槍無はポツポツとそう告げると火野ウヴァはそっぽを向く。その態度に苛立ったのか槍無は睨みながら口を開いた。

 

「姉さん……呼んでる……早く来て…来ないとセルメダル…あげない…」

 

「……わかった……」

 

火野ウヴァは大きく息を吐き、面倒臭そうに頷くと、槍無の横を通り過ぎて扉の中へと入る。すると、精神の中から火野が言葉を発した。

 

『ウヴァ、さっきの件…』

 

「悪いが、俺は好きなように暴れさせてもらう」

 

『………そっか』

 

小声でそう応えるウヴァに火野は残念そうに呟く。アンクみたいなグリードがいるなら他のグリードも話し合えば共に戦ってくれると、そう思っていた。が、現実はそう上手くはいかない。(ヴィラン)と同様に、自身の強い欲望という名の邪心を持つ者など素直に従うわけがないのだ。

諦めかけていた火野は、今この状況、どうするかと考え悩んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

「俺は、()()()()()()が勝つ姿に憧れた。誰が何言ってこようが、そこァ()()曲がらねぇ!」

 

火野ウヴァと槍無はバーの扉を開けると、拘束具を外された爆豪が掌から煙を上らせ、そう吠えていた。どうやら、対等に話す為に死柄木達が外したのだろう。だが、爆豪は正義の勝つその背中に憧れた為、勧誘されようとその信念を曲げずに立っていた。爆豪の前に立っていた死柄木は、顔に付けていた手が床に落ちており、それを見つめながら「お父さん…」とポツリと呟く。

そんな中、先程まで見ていたテレビの記者会見が相澤達に質問をしていた。

 

『生徒の安全…と仰りましたが、イレイザーヘッドさん。事件の最中生徒に戦うよう促したそうですね。意図をお聞かせください』

 

『私共が状況を把握できなかった為、最悪の事態を避けるべくそう判断しました』

 

『最悪の事態とは?26名もの被害者と、2名の拉致は最悪と言えませんか?』

 

メモ調を見ながらメディアの男性は質問をする。だが相澤の返答に眉をピクリと動かせ、続けて質問をした。

 

『………私があの場で想定した〝最悪〟とは、生徒が成す術なく殺害される事でした』

 

プロヒーローが少なく、森の何処にいるかも分からない生徒達の前に突然襲来した(ヴィラン)連合。成す術も無く殺されてしまうよりも、今まで培った経験を活かして戦う術を持ち、立ち向かう事で、被害は最小限に収まった。その最適な判断をした相澤には正しいと一理ある。メディアの男性は眉に皺を寄せると、根津が口を動かした。

 

『被害の大半を占めたガス攻撃。敵の〝個性〟から催眠ガスの類だと判明しております。拳藤さん、鉄哲君の迅速な対応のおかげで全員、命に別状はなく、また…生徒らのメンタルケアも行っておりますが、深刻な心的外傷などは今の所見受けられません』  

 

『不幸中の幸いだとでも?』

 

『未来を侵される事が〝最悪〟だと考えております』

 

『ほお、なら攫われた爆豪君や火野君についても同じ事が言えますか?』

 

その一言で、騒ついていた室内が一気に静まり返る。メディアの男性は続けて口を開いた。

 

『爆豪君は体育祭3位、ヘドロ事件では強力な(ヴィラン)に単身抵抗を続け、経歴こそタフなヒーロー性を感じさせますが、反面決勝で見せた粗暴さや表彰式に至るまでの態度など、精神面での不安定さも散見されています。

方や火野君は体育祭優勝、動物のあらゆる力を己のモノとして扱う〝個性〟。学校面での活躍は鰻登りの様子も把握しています。彼の〝個性〟は珍しく、超人社会にとっては逸材な存在になり得る。……ですが、その強大な力に並みの(ヴィラン)同様、彼自身が溺れてしまったら?もし、2人はそこに目をつけた上での拉致だとしたら?言葉巧みに彼を匂引かし、悪の道に染まってしまったら?未来があると言い切れる根拠を、お聞かせ下さい』

 

調べられた爆豪と火野。それに加え、攻撃的な質問。明らかにストレスを掛けて粗野な返答を曝け出そうとしている。ブラドキングは息を呑む。恐らく、メディア嫌いの相澤を知ってての挑発的な言葉なのだろう。相澤はスッと椅子から立ち上がと、深々と頭を下げたのだ。

 

『行動については私の不徳の致すところです』

 

冷静かつ、予想外のしっかりとした謝罪に、ブラドキングは動揺する。静まり返る室内の中、相澤は続けて口を動かした。

 

『ただ…、体育祭でのそれらは()()の理想の強さに起因しています。誰よりもトップヒーローを追い求め…また、誰よりも手を伸ばそうと…もがいている。あれらを見て隙と捉えたのなら、(ヴィラン)は浅はかであると、私は考えております』

 

メディアに対して相澤は感情的になる事無く、冷静に対応し、自身の意見を述べる。その努力を、実績を、有望さを、爆豪と火野の教師である相澤だからこそ言える言葉だ。他のメディア達が騒つく中、質問をした男性は顔を曇らせながら口を開いた。

 

『根拠になっておりませんが?感情の問題ではなく、具体策があるのかと伺っております』

 

『ーー…我々も手を拱いているわけではありません。現在警察と共に調査を進めております。我が校の生徒は必ず取り戻します』

 

その質問に根津が応えると、中継を聴いていた爆豪が不敵にも笑って口を動かした。

 

「ハッ!言ってくれるな、雄英も先生も…!そういうこった!クソカス連合!」

 

ガーッハッハッハ!と豪快に笑う爆豪。大見えを振るっている素振りを見せているが、内心は冷静に考えていた。自分は〝利用価値のある最重要人物〟、早々に殺しに来る事は先ず無いと。なら、隙あらば何人か蹴散らしてこの場を脱出しようと考えていた…のだが。

 

「言っとくが、俺ァまだ戦闘許可解けてねぇぞ…!」

 

そう言いながら、爆豪はチラリと火野ウヴァを見つめる。ここに拉致されてから大体は予想していたが、爆豪は火野の中に別の何かを感じ取れるのが目で見て理解していた。また、火野映司本人が出てきてないのは今表に出ているウヴァが精神を乗っとっているのだろうと。

 

「(相手は火野を含めて10…。火野をブッ叩き起こして脱出してェが……そう簡単にはさせてくれねぇみてぇだな……!)」

 

火野を連れて逃げようと考えるが、ウヴァがそうさせてはくれないだろう。増してやこの数。何人かは重症を与える事が出来ても、数で圧されてしまうのが目に見えている。思考がフルになっている中、威勢を吐く爆豪に、マグネがほくそ笑む。

 

「自分の立場、よくわかってるわね…!小賢しい子!」

 

「刺しましょう!」

 

「…僕、殺る……」

 

「殺っちゃダメでしょ。しまいなさいその槍」

 

カウンター越しに笑顔で言うトガに、便乗してか槍無がディーペストハープーンを取り出し、構える。捕獲したのに殺しては元も子もないので、優無は頭を軽く小突いてそれを止める。

 

「いや…馬鹿だろ」

 

「その気がねえなら懐柔されたフリでもしときゃいいものを…、やっちまったな」

 

爆豪の行動を見て呆れる荼毘とMr.コンプレス。場所が何処かも分からず、狭い空間で逃げようとするのは自殺行為に等しい。仲間になる振りをし、隙を見て逃げ出せば、そちらの方が有利だっただろう。

 

「したくねーもんは嘘でもしねんだよ俺ァ。こんな辛気くせーとこ、長居する気もねえ…!てめェもそーだろ、三色野郎!」

 

「三色…?え、私?」

 

ふと、爆豪は火野ウヴァに視線を向け、吠える。オーズの色かと思い、優無は自分に指を指すが、その目線は火野ウヴァに向けられており、察した優無はバツの悪そうな顔をしてそっと指していた指を下ろした。

 

「こんなチンけな奴らと一緒にいる事を選んだか!?てめェには山程仕返しがあんだよ!!ボケっとせずに出てこいや!」

 

「……フン、本人に聞こえているだろうが、今は俺がこの体を使ってる。叫ぶだけ無駄だ」

 

精神に閉じ込められてる火野の意思に呼び掛けるように吠える爆豪。だが、その体の主導権はウヴァが握っている為、ウヴァは鼻を鳴らしてそう言った。

その間、死柄木は床に落ちている手をずっと見つめていた。それに気付いた黒霧はハッとする。

 

「いけません、死柄木弔!落ち着いて…」

 

黒霧は慌てて死柄木の元へ駆け寄ろうとする。すると、死柄木は急にギロリと爆豪を睨んだ。悍ましいその目付きに爆豪はピタリと動きを止め、警戒をする。

 

「手を出すなよ……お前ら。こいつらは…大切な駒だ」

 

スッと手を差し出して床に落ちていた手を拾い顔に付ける死柄木。前までの死柄木だったら、感情的に怒り、見境無しに爆豪を殺していただろう。その冷静な振る舞いに驚く黒霧。同時に、それを見た優無は微笑ましそうな小さな笑みを浮かべて死柄木を見つめていた。

 

「出来れば、少し耳を傾けて欲しかったな…君とは分かり合えると思ってた…」

 

その言葉に「ねぇわ」と断固拒否する爆豪。

 

「仕方がない、ヒーロー達も調査を進めていると言っていた…。悠長に説得してられない」

 

何れはこの場所がヒーロー達に知られるかもしれない。時間が無いと判断した死柄木は「先生」と先程まで見ていたテレビに向かってそう言う。すると、テレビの画面が急に乱れ始めた。

 

「力を貸せ」

 

『………良い、判断だよ…死柄木弔』

 






No.91 激突と太古の力

更に向こうへ!Plus Ultra!!
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