いつかの明日へ、【ヒーロー】は助け合いでしょ 作:しょくんだよ
到着と激突と異変
記者会見をざっと見終えた緑谷達は、爆豪と火野を奪還するべく、八百万の創った受信デバイスの発信源を辿っていた。大通りに比べて人通りが少ない路地裏の場所で、先頭を歩いていた八百万は立ち止まる。
「ここが発信機の示す場所ですわ」
「これがアジト…いかにもだな!」
切島が見上げるその目の前に、聳え立つのは使われていない廃倉庫の建物だった。人が徘徊する場所に比べて不気味な静けさを増す建物。
「わかりません……ただ、私が確認した限り
「あぁ…耳郎、ここに爆豪達はいるか?」
八百万と轟が耳郎を見遣る。索敵に優れた彼女のイヤホン・ジャックがあれば、中の様子を音で把握する事が出来る。頼られる耳郎は「任せて」と頷き、耳朶のプラグを建物の外壁に刺し、中の音を探り始めた。
「………人の居る気配がない…」
人の呼吸、足音、会話をする声が全く聞こえない。数秒模索した耳郎は首を横に振り、俯きながらそう呟く。八百万の言う通り、受信デバイスが必ずしも爆豪達がここに居るという確証は何処にもなかった。微かな希望を頼って、一か八かでここに来たのも、それは覚悟の上。今になって悔しい気持ちが込み上げてくる。
飯田は俯きながらも、後はヒーロー達に任せようと、口を開こうとしたその時だった。
「ッ…待ってっ」
突然耳郎が声を上げる。皆は顔を上げると、耳郎は不審な表情を浮かべて口を動かした。
「何か…音がする…水……?」
「廃倉庫だろ?水道の水くらい出しっぱなしでも不思議じゃねーよ」
「違うっ。なんかこう…ブクブクって溜まってるような音が聴こえるんだ、それも何個もっ」
切島の言葉を否定する耳郎。すると、轟が廃倉庫を見上げてポツリと呟く。
「……調べてみる価値はありそうだな……」
爆豪と火野がいなくとも、何か手掛かりがあるかもしれない。そう判断した轟に、緑谷は「…行こう」と頷く。耳郎と切島もそれに同意し、止めても無理そうな彼らの表情を見て、八百万と飯田は黙って後を着いて行った。
☆★☆★☆
同時刻、誰も使われていない神野区のビルの中に明かりがついていた。その中には、有象無象と今回の事件に向けて動き出そうとする猛者達がいた。
「何で俺が雄英の尻拭いを…こちらも忙しいのだが」
「まァそう言わずに…OBでしょう」
「そうそう、エンデヴァーさんがいてくれたら百人力だって事で」
不機嫌そうなエンデヴァーにベストジーニストと伊達が宥める。それを聞いた塚内も口を動かした。
「雄英からは今ヒーローを呼べない。大局を見てくれエンデヴァー。今回の事件はヒーロー社会崩壊の切っ掛けにもなり得る。総力をもって解決にあたらねば」
今回の作戦は
「バース、それにアンク君。作戦に参加してくれてありがとう。脇真音の〝個性〟には君達の力が必要不可欠だからね」
「俺なんかがお役に立てるならお安い御用ですよ。知人が捕まってるとなると、尚更ジッとなんかしてられませんから」
「フン…礼を言う暇があるなら、さっさと話を進めろ」
「私は以前、爆豪の素行を矯正すべく事務所に招いた。あれ程に意固地な男はそうそういまい。今頃暴れていよう、事態は急を要する」
「ホホォ、貴様が変えられなかったのか」
「毛根までプライドガチガチの男だった」
彼の発言に、白いスーツを見に纏い、その顔は〝シャチ〟そのもののヒーロー〝ギャングオルカ〟が反応する。捻くれた者を正しく粛清すると有名なベストジーニストまでもが、根を上げてしまうくらい粗暴な性格の爆豪。何か思い出したのか、頭を押さえて俯くベストジーニスト。すると、付近にいた虎も悔しそうに口を開いた。
「我が同志ラグドールが奪われている。個人的にも看過出来ぬ!」
林間合宿、ラグドールは森の中央で脅かし役として参加していたのだが襲撃された後、音沙汰も無く姿をまるで神隠しのように消えてしまったのだ。悔やむ気持ちを晴らすべく、
「生徒の一人が仕掛けた発信機では、アジトは複数存在すると考えられる。我々の調べで拉致被害者が
日頃から
塚内がそう話している間、グラントリノはオールマイトに声をかけていた。
「俊典、俺なんぞまで駆り出すのはやはり…」
「〝なんぞ〟、なんぞではありませんよグラントリノ!ここまで大きく展開する事態。
「……オール・フォー・ワン…」
長年から敵対していた巨悪、オール・フォー・ワン。この掃討作戦に、奴も必ず出てくる筈。小声でそう行ってくるオールマイトにグラントリノは真剣な目付きで巨悪の名を口にした瞬間、塚内は叫んだ。
「今回はスピード勝負だ!
市民を脅かす悪の集合体。それを覆さんと装甲を纏った警察部隊、ベストジーニスト、ギャングオルカ、Mt.レディ、虎達は緑谷が現在居る廃倉庫へ。
残りの部隊と塚内、オールマイト、エンデヴァー、忍者のコスチュームを纏ったヒーロー〝エッジショット〟、シンリンカムイ、グラントリノ、バース、そしてアンクは、隠れ家のバーへと到着する。
☆★☆★☆★
一方、緑谷達は廃倉庫の中を調べるべく正面の入り口へと足を運ぶ。バリケードがされており、当然中に入ることは出来ない状態の中、切島は耳郎に声をかけた。
「中に人の居る気配全くねーけど、本当に何かあるのか?」
「何か…機械が動いてる音がするんだ。間違いない」
「正面のドア、下に雑草が茂ってる…他に出入り口があるのか?どうにか中の様子を確認できないものか…」
耳郎は頷くと、隣で緑谷がブツブツと言いながら入り口のドアを見つめていた。
その瞬間、「おい」と男性の声が掛けられる。まさか、
「ホステス〜!何してんだよホステス〜!俺達と飲みましょ〜!そっちの彼女も〜!」
「やーめとけバカ!」
「いっ!?」
1人の男が酔った勢いで八百万と耳郎に話し掛ける。2人は顔を引き攣らせていると、もう1人の男が話しかけた男の頭を叩いて止めようとする中、緑谷達が割り込んだ。
「オッラァ!?」
「パッ、パイオツカイデーチャンネー!?」
「一旦離れよう」
切島に教わった方法で威嚇をする中、拉致があかないと轟は指示を出し、この場を離れ移動した。
少し離れた場所に移動し、轟は彷徨く人々を見ながら口を動かす。
「多くはねぇが人通りもある…」
「目立つ動きはできませんわよ。どうされますの?」
「………裏に回ってみよう。どれだけか細くても、この中を調べる必要性がある事は変わりない…」
通行人が少ないとは言えど、少数の人は目に入る。戸惑う八百万に緑谷が提案すると、それしか無さそうと判断した4人は頷き、廃倉庫の路地裏へと再び移動した。
「かなり狭いな…大丈夫か2人共ッ」
路地裏へと回り込んだ緑谷達だが、その道は壁と壁で挟まれ、決して人が通れるような道ではなかった。横歩きで1人1人が移動する最中、切島が後方にいる耳郎と八百万に声を掛ける。
「ウチは平気…」
「狭いですわ…つっかえそう」
「………」
小柄な体型をした耳郎にとっては十分なスペースがあったのか難なく擦り抜けているが、後ろの八百万がサラッと呟く。学生とは思えないナイスバディが擦れているのだろう。それを聞いた切島は何とも言えない表情で黙り込み、方や耳郎は憎悪を抱いたような険しい表情となっていた。
「安全を確認出来ない限り下手な行動は出来ない…。ここなら人目はないし…」
先頭を歩く緑谷はそう言うと、何かを見つけたのかハッとする。
「あの高さなら、中の様子見れそうだよ!!」
少し高い場所に見受けれるのは、鉄格子が貼られている小さな小窓だった。
「この暗さで見れるか?」
「それなら私暗視鏡を…」
辺りも廃倉庫の中も暗い状況で肉眼で様子を探るのは困難だと轟は言うと、八百万が創造で暗視鏡を創ろうとする。だが、それを見た切島が「いや!!」と声を上げて止めた。
「八百万、それ俺持ってきてんだな実は」
「ええすごい!何で!?」
「アマゾンには何でもあってすぐ届くんだ」
切島がスッと取り出した暗視鏡を見て緑谷は驚いて目を見開く。恐らく緑谷達がまだ入院している間に注文したのだろう。切島は暗視鏡を見つめながら口を開いた。
「1つしか買えなかったけど、やれる事考えた時に…いると思ってよ」
「用意周到だな……って……その暗視鏡、ウチもアマゾンよく使うから見たことある!」
「それメッチャ高いやつじゃない!?僕もコスチューム考えてた時、ネットで見たけど確か5万くらいしたような…」
「値段はいんだよ。言うな」
感心する耳郎がふと、切島の暗視鏡が高い代物だと知って驚愕すると、緑谷も便乗して驚く。友を救けるべく買ったので、値段の事は野暮なのか切島は表情を曇らせていた。
「よし…じゃあ緑谷と切島が見て、俺と飯田で担ごう」
轟の言葉に皆は頷くと、さっそく行動に取り掛かる。
「狭いな…」
「あまり身を乗り出すなよ。危ないと思ったらすぐ逃げ出せるよう」
「飯田ちょっと下がれるか?」
「ちょ、切島っ、もうちょいゆっくり上がんなよ。見てるこっちがコワイ」
ウゾウゾと狭い通路の中、緑谷と切島は轟と飯田の背中に攀じ登り、上へと上がる。
「様子を教えたまえ。切島君どうなっている!?」
「奥の方から音が聞こえるよッ」
「んあー…奥……奥はーーー……」
不安定の中、飯田と耳郎が言うと、切島は暗視鏡で鉄格子の小窓から中の様子を覗く。
「ッ!!?うおっ!!」
「切島君!?」
「っべェ!!」
突然、何かに驚いたのか声を張り上げ不安定の状態でふらつく切島。今にも落っこちそうになり、緑谷は慌てて声を掛けると、切島は何とか態勢を立て直す。
「おい!どうした、何が見えた!?切島!!」
「クッソ…!耳郎の言ってた事がマジだった…!!左奥…!!緑谷左奥!!見ろ!!」
荷台代わりになっている轟は何も見えない状態なので、驚くだけの切島に困惑し、声を上げる。だが切島は轟の言葉を無視し、大量の冷や汗と愕然とした表情で緑谷に暗視鏡を渡した。一体何が…?と言わんばかりの表情で緑谷は受け取り、恐る恐る切島の言われた方向を暗視鏡で覗く。
流石5万円相当の暗視鏡だけあってか、暗い倉庫内でもハッキリと緑谷は見渡せていた。切島の言われた通り、左奥の方を見遣る。
「!?ウソ…だろ…!?あんな…無造作に……!アレ…全部、脳無…!?」
見つめたその先にあったのは、無造作に置かれた巨大な培養器のような入れ物の中、液体からはみ出していた
☆★☆★☆★
一方、隠れ家を装った
「先生ぇ…?てめェがボスじゃねぇのかよ…!白けんな」
今になって明かされた黒幕の存在を聞いて爆豪は不敵な笑みを浮かべていても、その顔からは冷や汗を流していた。
「黒霧、コンプレス、脇真音。また眠らせてしまっておけ」
「私ー?はいはい、わかりました」
「ここまで人の話聞かねーとは…、逆に感心するぜ」
死柄木に指示を出された優無は渋々と頷き、取り出したオーズドライバーを腰に宛い装着する。Mr.コンプレスもまた了承し、爆豪の性格に呆れを成して溜息を吐いていた。対して爆豪は「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」と威勢を吠えるが、脳内では必死にこの人数から火野を取り返して、脱出の糸口を探ろうとしていた。
だが思いもしない突然の一言で、それは杞憂に終わった。
「どーもォ、ピザーラ神野店ですー」
扉のノック音と同時に聞こえたのは気の抜けた声。
誰がこんな時間にピザなんて頼んだんだ?と疑問を抱いた次の瞬間ー…。
「SMASSH!!!」
筋骨隆々とした肉体のオールマイトが壁を打ち破った。壁際に寄りかかっていたスピナーと槍無は吹き飛ばされ、「何だぁ!!?」と愕然とするスピナー。
「黒霧!ゲート…」
何はどうであれ、現れたのは本物のヒーロー。死柄木は直ぐに逃げようと黒霧に指示を出したその時、オールマイトと共に駆け込んだ若手ヒーロー、シンリンカムイが動いた。
「先制必縛!〝ウルシ鎖牢〟!!」
爆豪以外の
「木ィ!?んなモン…」
「逸んなよ」
束縛された木を見た荼毘は燃やしてと炎を出そうとすると、勢いよく飛び出たグラントリノが荼毘の後頭部に向けて蹴りを放つ。脳震盪を起こした荼毘は気絶し、その場で沈黙した。
「大人しくしといた方が、身のためだぜ」
「流石若手実力派だシンリンカムイ!!そして目にも止まらぬ古豪グラントリノ!!もう逃げられんぞ
即時敵を捕縛したシンリンカムイ。その早業を見せたグラントリノ。そして、No. 1ヒーロー、オールマイト。これだけの精鋭が目の前に現れたら並みの
「ちょっ!?まっ!?オールマイト…!?何でここが分かったの!?」
「…!!力…強い…!!」
両腕が拘束された以上、変身する事が出来ない優無と槍無。無理矢理引き千切ろうとするが、かなりの強度の木に成す術もなかった。
「ぐっ!どーなってんだ!?ここは安全じゃないのか!!」
火野ウヴァもまた必死に抗おうともがいている中、オールマイト等に続いて入ってきたアンクがその哀れな姿を見て鼻で笑う。
「2日振りだなぁ、ウヴァ。さっさと映司を返してもらおうか…!」
「アンク…!?貴様…!!」
「…ふむ、これがアンク少年が言っていたグリード…。アンク少年!一先ず今はこいつ等を連行して、火野少年は警察署で対処しよう。いいね?」
合宿の出来事はアンクから事前に聞かされたオールマイトは、見た目も性格も変わっている火野を見つめて、アンクにそう指示を出す。アンクは「…フン」と鼻を鳴らしながらそれを了承すると、バーの扉の隙間から〝擦り抜ける〟ようにエッジショットが現れる。
「攻勢時程、守りが疎かになるものだ…。ピザーラ神野店は俺達だけじゃない。外はあのエンデヴァーをはじめ手練のヒーローと警察が包囲してる」
エッジショットは言うと、内側から扉の鍵を開ける。すると、装甲を纏った警察部隊が次々と中へ侵入し始めた。彼の言う通り、外にはエンデヴァーを筆頭に、バース、その他のヒーロー、そして塚内の連れた特殊部隊がずらりとバーの外を包囲していた。その中、エンデヴァーはカチコミに入ったオールマイトが気に入らないのか塚内に向かって吠える。
「塚内ィ!!何故あのメリケン男が突入で俺は包囲なんだ!!」
「万が一捕り漏らした場合君の方が視野が広い。勿論、ヤミーが出た場合もね?頼むよバース」
「シャ!!」
「単純だねェ…」
的確な判断に怒鳴っていたエンデヴァーは意気込みを入れていると、隣のバースはマスク越しで何とも言えない表情となってエンデヴァーを見ていた。
そして、完全包囲した状況でオールマイトは爆豪にようやく声を掛けた。
「怖かったろうに……よく耐えた!ごめんな……、もう大丈夫だ少年!」
「こっ…怖くねえよ、ヨユーだクソッ!!」
約2日間は監禁されていた爆豪。優秀な彼であっても、オールマイトからすればまだまだ子供。守るべき存在な事に変わりはない。安心させるようにオールマイトは言葉を掛けるが、その安堵する表情を押し殺して爆豪はいつものように吠える。それを見たオールマイトは安心したのかサムズアップを彼に向けていた。
一方で、アンクは拘束されている連合らの側を歩き、優無へと近寄る。後ろの腰に入れてあったメダルホルダーを確認すると、それをぶん取り口を開いた。
「あ、ちょっ!?盗らないでよ泥棒!」
「その言葉そっくりそのまま返してやるよ、盗人が」
吠える優無にアンクはそう吐き捨てて、念の為と思ったのか中身を確認する。位置は変わってはいたが、ホルダーの中には所持していた時と同じコアメダルと数枚のセルメダルが入っていたので、アンクはニヤリと喜びの笑みを浮かべる。すると、拘束された死柄木が不満そうに、憎悪を抱いた目付きでオールマイトを睨み、口を開いた。
「せっかく色々こねくり回してたのに………。何でそっちから来てくれんだよ、ラスボス」
ずっと狙っていた因縁のNo.1ヒーロー。
その宿敵が目の前に居る。だが、襲おうにも他の
「仕方がない…俺達だけじゃない……そりゃあ、こっちもだ。黒霧、持って来れるだけ持って来い!!!」
別の場所に保管していた脳無を呼べば戦局を変えれるかもしれない。何匹かは倒されてしまうが、脳無が暴れて拘束が解かれれば形成逆転。死柄木は黒霧に指示を出すが、何故か黒霧は反応せず、その場は静まり返った。疑問を抱く死柄木に、黒霧は言いにくそうに口を開いた。
「すみません死柄木弔…。所定の位置にある筈の脳無が…、無い…!!」
「!?」
場所を特定し、繋げる事が出来るワープゲート。廃倉庫に保管していた筈の脳無が何故か呼び出せず、黒霧も死柄木も困惑の顔を隠せなかった。すると、オールマイトは爆豪の肩に手を置きながら圧力を重ねて激昂した。
「やはり君はまだまだ青二才だ、死柄木!」
「あ?」
「
何が起きたのか分からない死柄木。それを応えるかのように、警察部隊の1人がオールマイトらに声を掛けた。
「連絡です!ベストジーニスト率いるヒーロー達が倉庫に居る脳無を鎮圧!ラグドールも保護したとの事!!」
「!?」
「おいたが過ぎたな、ここで終わりだ死柄木弔!!」
廃倉庫に保管されていた脳無達の居場所は、事前に発信機を取り付けた八百万のおかげで突き止める事が出来た。ここに来ていないベストジーニスト、ギャングオルカ、Mt.レディ、虎はそちらの方へ向い、見事沈静化に成功したのだ。それを踏まえて把握していたオールマイトは、もうどうする事も出来ない、観念しろと言わんばかりに重圧を死柄木達に飛ばす。
「オールマイト…!これが、ステインの求めた…ヒーロー…!」
その圧巻とせん存在感にスピナーが戦慄する中、死柄木は焦りと募る怒りが込み上げ、ポツポツと口を動かした。
「終わりだと…?巫山戯るな…始まったばかりだ。正義だの…平和だの…あやふやなモンで蓋されたこの掃き溜めを、ブッ壊す…。その為に
瞬間、死柄木は「黒霧」と叫ぼうとした。ここから逃げる為にワープゲートを開かせようとしたのだろう。だが、刹那。黒霧の胸の辺りに突然一本の黒い線が黒霧を貫いた。
「うっ…!」
「!?」
「……え…!?キアアア!やだぁもお!!見えなかったわ!何!?殺したの!?」
首を落とし、気絶する黒霧を見ていたマグネが焦り声を荒げる。すると、貫いた黒い線が徐々に形を変えていき、その正体はなんとエッジショットだった。
「
エッジショット
個性『紙肢』
忍法とか言ってるけど体を薄く細く伸ばせるだけだ!
しかしその変化速度は鍛錬により音速を越える!
紙肢の身体でエッジショットはそう言って爆豪を見遣る。黒霧は全身が黒いモヤで覆われているが、爆豪の見つけだした
「さっき言ったろ、大人しくしといた方が身の為だって。引石健磁、迫圧紘、伊口秀一、渡我被身子、分倍河原仁、少ない情報と時間の中お巡りさんが夜なべして素性を突き止めたそうだ。もっとも、そこの姉弟は
警察が調べ上げたのか、
「お前さんらはもう、逃げ場ァねぇって事よ。なァ死柄木弔。聞きてぇんだが…、お前さんのボスはどこにいる?」
「…………………………………………………………………」
グラントリノの言葉に、無視をするように死柄木は黙り込む。
…否、多様な感情で脳内が葛藤していた。ヒーローに鎮圧されてしまう焦り、オールマイトを目の前にして何もできない怒り、憎しみ、集めた仲間さえも捕まってしまう悲しみ。追い詰められたストレスのせいか、過去の記憶がまるで走馬灯のように頭に流れ込んでくる。幼少期、誰も救けてくれなかった少年に、差し伸べてくれる1つの手を。
「
「おまえが!!嫌いだ!!!」
爆発された感情がオールマイトに向かって絶叫し、その室内に木霊する。その瞬間、死柄木の叫びに呼応するかのように、背後からタールのような黒い液体が溢れ出し、その中から脳無が出現した。
「!?」
「脳無!?何も無い所から…!あの黒い液体は何だ!」
突如、死柄木の背後から現れた2体の脳無にシンリンカムイどころか死柄木本人も驚いている。まさかと思い、グラントリノはバッと振り返り、エッジショットに声をかけた。
「エッジショット!黒霧はーーー」
「気絶している!こいつの仕業ではないぞ!」
黒霧の側を離れずに見ていたエッジショットは断言する。
「どんどん出てくるぞ!!」
黒い液体は次々と現れ、その中から脳無達が産声のような叫びと共に出現する。
「ぐっ!?おいアンク、どーなってんだ!!」
「は!?知るか!そっち側の、お前等の、仕業だろが!」
火野ウヴァも状況が把握出来ておらず、アンクに声を掛けるが、アンクは襲って来る脳無の攻撃を避けながらキレ気味に応えた。
「シンリンカムイ!絶対に離すんじゃないぞ!!」
拘束しているシンリンカムイにオールマイトはそう言い放つ。
その瞬間だった。
「お〝!!?」
「ぼぁ!!?」
混乱する室内の中、突然爆豪と火野ウヴァの口から、ゴボッと脳無が出現したのと同様、黒い液体を吐き出した。物凄い勢いで黒い液体は爆豪と火野ウヴァの身体を呑み込んでいく。
「!!爆豪少年!!NO!」
「ッ!?何だ!?」
「っだこれ、身体が…飲まっれ…!?」
オールマイトは必死に爆豪を押さえようとする。アンクは何が起きたのか分からず、愕然と火野ウヴァを見つめていたその時、爆豪と火野ウヴァは液体に呑み込まれ、その場から忽然と姿を消した。
意識が朦朧とするウヴァ。その精神の中に居る火野は、何とか表に出れないかと万華鏡のように輝く精神の中を彷徨っていた。
「おい、ウヴァ!何がどうなってんだよ!?」
先程からずっと叫んでいるが、ウヴァの反応が全く無い。焦りが募る火野は、外に出ようと必死に模索を続ける。ふと、火野は自身の両手を見つめる。こうなったのは自分のせいだと悲観的になり始めていたのだ。
「俺が…弱いから………俺のせいで…皆に迷惑を……」
自身の力が足りないせいで、コンボも碌に扱えず、弱い自分があったから、ウヴァの語り声に耳を傾けてしまった。そんな自分が情けなく、悔やんでも悔やみ切れない気持ちで胸が張り裂けそうになっていく。こうしている間にも、爆豪やアンクに危険が迫っているかもしれない。皆の命が危険に晒されそうになっているのかもしれない。
「もっと……
人並みに欲深く無い火野は、初めて欲しいと言う欲望を口にする。どんなに離れていても絶対に手が届く力。それが欲しいと思ったその時だった。
何も無かった精神世界の奥、微かに紫色の光が輝いた。
「…あれは……?」
光を見つけた火野は、その先に向けて足を踏み出す。
まるで、〝力をくれてやろう〟。
そう思わせられるかのように、火野はその光に吸い寄せられて行ったのだった。
No.92 巨悪と無敵のコンボ
更に向こうへ!Plus Ultra!!