いつかの明日へ、【ヒーロー】は助け合いでしょ 作:しょくんだよ
「着替え良し…歯ブラシ歯磨き粉も予備を入れた…。うん、大丈夫そうだな」
「アイスはこれで全部か?」
「全部だよ。てかお前少しは手伝えよ」
「面倒な事は俺のやる事じゃない」
「薄情だなぁ。ウヴァは手伝ってくれたのに」
「それはお前が等価交換をしたからだろ?俺のは断りやがって…!」
「ウヴァはこれから一緒になるって意味の前祝いも兼ねてるんだよ。お前の申し出は対価がデカすぎ、何だよアイス10年分って」
火野にジト目で言われ、アンクは「フン」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。火野は大きく息を吐きながら家具が無くなった間抜けの空になった部屋の中を見回す。
8月中旬。今日から雄英生徒は新生活が始まるのだ。持って行ける手荷物はリュックと鞄に入れて、火野は玄関へと移動するとリビングから泉が声を掛けてくる。
「映司君、忘れ物無い?」
「うん、大丈夫。事前に業者の人達が持って行ってくれたから後はこの荷物だけ」
靴を履きながら火野は笑顔で応えると、泉は少し寂しげな様子で口を開いた。
「…アンクとウヴァは?」
「え?あぁ、俺の中にいるよ。移動は面倒みたいだし」
「そう…。アンク、ウヴァ、映司君の事お願いね?」
泉は火野の胸元を見ながら語りかける。精神の中に居るアンクとウヴァには当然聴こえていたが、返事は無い。だが2人揃って「フン」と鼻を鳴らす声だけは火野に聞こえた。
「もお……任せろってさ」
「良かった……じゃあ映司君。身体に気をつけて、頑張ってね?」
「ありがとう比奈ちゃん。じゃあ行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
別れの挨拶を告げ、火野は玄関のドアを開ける。暑い日差しが差し込む中、火野の後ろ姿を泉は寂しげな顔を隠すように、笑顔で見送ったのだった。
☆★☆★☆★☆
雄英高校に到着した火野はH型の校舎を見上げて少し懐かしさを覚えた。思えば林間合宿から数週間、色々な事がありすぎて濃い期間となっていた。
「クラスの皆んなは元気にしてるかな」
合宿以来まともにクラスメイトと会っていない。不安も残るが、今は無事に仲間達の顔が見たい。火野はそう呟き、指定された場所へと移動した。
☆★☆★☆
雄英敷地内、校舎から徒歩5分の地区3日。
豪華に立つその建物の名は〝ハイツアライアンス〟。前面には1–Aの文字があり、その玄関前にはお馴染みのA組生徒達が既に集まっている。どうやら火野が1番最後に到着したみたいだ。
「皆んな!」
「火野ぉ!」
「火野ー、お久ー!」
「身体はもう大丈夫かよ?」
「うん、もう大丈夫だよ」
火野は声を掛けると、クラスメイト達は振り返り笑顔で応える。ほんの少し懐かしさを覚えるその面々に火野は嬉しい気持ちと同時に安堵した。
「火野君、無事で何よりだよ」
「緑谷君も。それに、…ありがとう」
声を掛けてきた緑谷に、火野はお礼を言うと「え?」とキョトンとした顔をするが、察したのか緑谷はバツの悪そうな表情になる。
「…あぁ、えと、うん……でも、お礼を言われる筋合いなんて……」
「何の話?」
緑谷が籠った瞬間、麗日が2人に顔を覗かせ話を聞こうとしたその直後、2つある寮の玄関の左側が開かれ、そこから相澤が姿を現したと同時に、生徒達はシン…と一瞬で静かになり整列する。
「おはよう、とりあえず1年A組。無事にまた集まれて何よりだ」
「皆許可降りたんだな」
「私は苦戦したよ…」
「フツーそうだよね…」
「2人はガスで直接被害あったもんね」
瀬呂は言うと葉隠と耳郎は顔を顰めらせる。ガスの影響で昏睡状態だった2人を見て言う尾白だが、昏睡から一早く目が覚めた耳郎はその後に緑谷達と神野区に赴いた事に罪悪感を持ったのか、顔を曇らせる。すると、蛙吹が心配そうな表情で相澤に声を掛けた。
「無事に集まれたのは先生もよ。会見を見た時はいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」
蛙吹の意見に同意したのか麗日は「うん」と頷く。
「………俺もびっくりさ。まぁ…色々あんだろうよ。さて…!これから寮について軽く色々と説明するがその前に1つ」
何か訳有りなのか頬を掻き目線を逸らすが、余計な心配させまいと相澤は手を叩き、続けて口を動かした。
「そういやあったなそんな話!!」
「色々起きすぎて頭から抜けてたわ…」
騒つくA組だが「大事な話だ。いいか?」と遮られ、その騒つきは一瞬で止んだ。そして相澤
の目付きは嫌悪、あるいは怒りのこもったような目付きとなっており、相澤はA組の生徒達の一部の名を呼んだ。
「轟、切島、緑谷、八百万、飯田、そして耳郎」
その名を呼んだ瞬間、呼ばれた6人はハッとし、同時に察した。
「この6人は
相澤が言った瞬間、「え」と声を漏らす峰田を筆頭に呼ばれた6人、そして爆豪と火野以外の生徒達の表情は曇り、内心驚愕した顔で緑谷達の方へと視線が向かれる。それもその筈、緑谷達が神野区へ赴いた事を麗日達は知らなかった。増してや昏睡状態だった耳郎もさえだ。
「その様子だと、行く素振りは皆も把握していたわけだ。色々棚上げした上で言わせてもらうよ。オールマイトの引退がなけりゃ俺は、爆豪、火野、葉隠以外全員除籍処分にしてる」
「!?」
久しく忘れていた。相澤は見込みが無いと判断すれば容易に生徒を除籍処分する担任の存在。その相澤の発言にクラスメイトは動揺し、緑谷は唾を呑むと相澤は続けてその理由を喋った。
「彼の引退によって暫くは混乱が続く…
「せ、先生!でも緑谷君達はーー」
「話の途中だぞ。それに肩入れするな火野」
火野は口を挟むが相澤はそれを割入るように言い、火野に向かって口を開く。
「もし逆の立場ならお前もあの場に行ってただろ、違うか?」
「……!」
「人質の身だからって贔屓はしない。お前は
「え…」
犯罪者を匿っていると言うような突きつける言葉を相澤が喋るとクラスメイト達が再び騒めき始める。ウヴァは林間合宿で
「まあ、何にせよ…これからは火野とそのグリード達を含めてお前らは正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい。
以上!さっ、中に入るぞ、元気に行こう」
「(((いや待って、行けないです…)))」
即決に言い終え、体を半回転してツカツカと寮へと歩き出す相澤。だが心を抉られるような指摘にA組生徒達は直ぐに元気を出す事は無理なのか重々しい雰囲気を漂わせ、皆は俯いていた。
すると、爆豪は不機嫌そうな顔をしながらも落ち込んでいた切島と上鳴を見遣る。爆豪は何を思ったのか上鳴の方へと歩き、彼の首根っこを突然掴んだ。
「来い」
「え?何?ちょ、怖い!やだ……」
戸惑う上鳴を構い無しに茂みの方へと連れて行き、他の皆んなの目の届かない場所へと入って行く。次の瞬間、上鳴の〝個性〟である放電が茂みの奥から鳴り響く音と同時に発光する。いきなりの電撃の音に驚く全員だが、鳴り終えた直後、上鳴の姿が現れる。
「うェ〜〜〜〜い……」
放電し過ぎたのか上鳴はアホの顔になりサムズアップをしながら皆の側へとやって来る。戸惑う生徒達の中、笑いのツボに入った耳郎は「バフォッ!」と吹き出していた。
「何?爆豪何を…」
「切島」
「んあ?」
突然の行動に瀬呂は聞くが爆豪は無視して切島に声を掛ける。すると、ポケットから万札を5枚取り出し切島にそれを差し出した。
「えっ怖っ、何カツアゲ!?」
「違ぇ、俺が下ろした金だ!いつまでもシミったれられっと、こっちも気分悪ィんだ」
「あ…え!?おめーどこで聞い……」
爆豪の言葉に切島は以前アマゾンで購入した暗視鏡を思い出す。目を見開いて驚いていると爆豪は有無を言わずに切島にその金を押し付けた。
「いつもみたいに馬鹿晒せや」
爆豪はそう言って切島から離れていると「うェい?うェイうェうェウェイ!?」と上鳴がアホな発言を連発しながら耳郎達の周りを徘徊する。
「だめ…ウチ、この上鳴…ツボッフォ!!」
「ふぇ…ふぇ、ふぇいだウェイ!」
ヒートアップする上鳴に耳郎は再び吹き出す。恐らく、爆豪なりにクラスの雰囲気を明るくしたかったのだろう。それに上鳴もアホになりながらも察して笑いを取ろうと必死にアピールする。次第にA組の連中の口は綻び、その場は笑いに包まれて行った。
「あはは……。そうだ、皆」
笑い終えた火野はふと、その場に居た全員に声をかけて視線を向かせる。
「どうした火野?」
切島が聞くと、火野は真剣な表情となって口を開いた。
「うん、その…この場を借りて紹介しておこうかと思って。ウヴァ、出て来てくれる?」
『?…何でだ?』
「挨拶。これから皆と居る事になるんだからさ」
『!今するのかっ?』
「今じゃ無きゃいつやるんだよ、ほら早くっ」
『こ、断る!あんな自己紹介やってられるか!』
「あ、そう。なら、引越しに手伝ってもらったお礼のアレは無しで良いんだな?」
『なっ…!?卑怯だぞ!?』
体の中に居るウヴァに話しかける火野。側から見れば1人で喋っている雰囲気だが、しばらくすると、火野の中から大量のセルメダルが浮遊しながら溢れ出しその形が形成され、人間態のウヴァが姿を現した。殆どのA組達は初めて見るウヴァ。目付きも悪くオールバックにした髪型、緑色のジャケットを着込んだその容姿はとてもヒーローの手助けをするとは思えない。言ってしまえば
「映司…!本当にやるのか…!?」
「当たり前だろ、その為に
「ゥぐっ…!」
響んだ空気の中、ウヴァと火野はコソコソと小声で話し合う。ウヴァは観念したのか、大きく溜息を吐くと、一歩前に出てクラスメイト達の顔を伺う。
そして、ウヴァは覚悟を決めたのか大きく息を吸い込むと…。
「み……みんな! おはよウヴァ!! 俺はグリードのウヴァ!こ、これからは心を入れ替えて君達の手助けをしていくよ!よろしくね!」
その瞬間、その場に居た者達の顔はポカンと唖然する。柄の悪そうな先程の見た目とは思えない程の満面の笑み。そして子供番組のお兄さんのような喋り方と振る舞い。笑いの場となっていた筈の空気が、一気に冷めてしまった雰囲気となってしまい、火野は全員の顔を伺いながらオロオロとしていたその時。火野の体から再び大量のセルメダルが飛び出し、形を形成していく。
「クククク……ハハハハハッッ…!!おいウヴァ、お前そんな芸当が出来たのか?虫頭が随分と優しい顔をするもんだなぁ!フッ、こいつは傑作だ!ハハハハ!」
現れたと同時に高笑いしたのはアンクだった。1人だけ腹を抱えて大笑いし、それを見ていたウヴァは1番笑ってほしくない相手だったのか拳を震わせ顔を真っ赤にしながら声を掛けた。
「アンク!!貴様、そこまで笑うか!?」
「あぁ?何だ、笑いを取る為にあんなギャグをかましたんだろ?笑って何が悪いんだ?」
「んぐ…っっ…!!よりにもよって1番聞かれたく無い奴に…!!」
「…………ブッふ…!」
「思い出し笑いをするなっ!!」
余程恥ずかしい思いをしたのかウヴァは悔しそうに再び拳を強く握り締め震わせる。アンクとウヴァの2人のやり取りを見ていると、芦戸が火野に声を掛けた。
「ねえねえ火野、うゔぁって人はアンクと知り合いなのー?」
「え?……あ、あぁ。えっと…知り合いって言うか、因縁って言うか…」
前世の事はボロを出さないよう、火野はしどろもどろに返答すると芦戸は「へー」とあまり納得してない返事をし、続けて口を開いた。
「なんか面白そうじゃん!」
「
「アンクと仲良さそうだな」
「むしろ並んでると
「全然敵意なさそうだしねー!」
「お前が信じるなら俺は賛成だぜ、火野」
「うんうん!よろしくウヴァ!」
次第に1人、2人と曇っていた顔が解けて行き、明るい雰囲気となっていく。賛同していくクラスメイトに火野は「皆…」と嬉しそうに笑みを溢す。ウヴァも近寄るクラスメイトに戸惑いながらも「お、おう…」とぎこちなく返事をしていると同時に、立ち止まって生徒達を見ていた相澤は溜息を吐くも、その眼は何処か安心しているような瞳を写していた。
「………わりィな。……よしっ」
一方切島はアンクとウヴァに視線を向けているクラスメイトから目を引いて爆豪を見遣る。押し付けられた5万円を軽くギュッと握り締めるとその口を開いた。
「皆!すまねえ…!!詫びにもなんねえけど…今夜はこの金で焼き肉だ!!」
「ウェーイ!」
「マジか!」
「買い物とか行けるかな?」
「俺鶏肉食いてー」
「鶏肉…!?おい、せめてアイスにしろ!」
「何だ?同族を食うのは嫌か?」
「黙れ、…『おはよ』ウヴァ君」
「やめろ…!!!」
切島の提案に賛成し、笑いと嬉しさでその場の空気は和まれ楽しく包まれる。そんな中、先程まで上鳴にハマって笑っていた筈の耳郎は愛想笑いはするも、アンクと痴話喧嘩をするウヴァを嫌悪した目で見つめていたのだった。
☆★☆★☆★☆
そんなこんな、茶番を挟んだ後にクラスメイトは寮へと足を踏み込んだ。
「1棟クラス、右が女子棟、左が男子棟と分かれてる。ただし1階は共同スペースだ。食堂や風呂・洗濯などはここで」
「広!キレー!!そふぁああ!!!」
「おおおおっ」
「中庭もあんじゃん!」
「豪邸やないかい」
「うららかくん!!」
まずは1階の共同スペース。大型液晶テレビを囲んだソファーの場所や食事をするリビングにはテーブルセットの20人分が揃えられた広々とした空間。さらに瀬呂の言う通り、横一面と広がるガラス面の向こう側には芝生や低木がオシャレに生やした中庭が見える。家具もしっかりと兼ね備えており、贅沢な寮に麗日は立ちくらみがしたのか、ふらりと倒れそうになっていた。
「聞き間違いかな…?風呂、洗濯が共同スペース?夢か?」
「男女別だ。お前いい加減にしとけよ」
息遣いを荒くしている峰田はボソッと呟くと、相澤の低く、精神的に殺しに来るような一声でその卑猥な衝動は「はい」と単調に終わっていた。
和気藹々とクラスメイト達は1階を見終えると、続いて2階のフロアへと移動。同時に相澤は歩きながら説明をした。
「部屋は2階から。1フロアに男女各4部屋の5階建て。1人1部屋エアコン、トイレ冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ」
「ベランダもある、凄い!」
「我が家のクローゼットと同じくらいの広さですわね…」
「豪邸やないかい」
「八百万さんの家って広い家なんだね」
「ただの金持ちだよ」
一部の部屋を開いて紹介する相澤。一通りの家具が揃われた空間はとても高校生が住まうには贅沢な広さだ。ポツリと呟く八百万に麗日は再びツッコみながら倒れそうになる。そんなやり取りを火野は解釈すると耳郎はジト目でそう応えていた。
「部屋割りはこっちで決めた通り。各自事前に送ってもらった荷物が部屋に入ってるから、とりあえず今日は部屋作ってろ。明日また今後の動きを説明する。以上、解散!」
「「「「「「はい先生!!!」」」」」」
説明を終えた相澤はその場を後にして立ち去る。
ふと、火野は部屋割りの見取り図を振り返る。
2階はまず男子、峰田、青山、緑谷、常闇
女子は空室。
3階男子、火野、空室、飯田、尾白
女子は耳郎、空室、空室、葉隠
4階男子、障子、切島、爆豪、上鳴
女子は麗日、空室、空室、芦戸
5階男子、空室、砂藤、轟、瀬呂
女子は八百万、空室、空室、蛙吹
「こんな感じなんだ…。よし、先ずは部屋に行って片付けをしないとな。アンクもウヴァも手伝えよ?」
「フン、勝手にやってろ」
「同感だ。俺はもう疲れた」
「駄目だって、一息吐くのは片付けた後!さ、早く行くよ」
面倒くさがる2人を引き連れ、火野は自分の部屋がある3階へと移動した。中に入ると、部屋の真ん中辺りには実家から事前に持って来られた段ボールが重ねられて置かれている。手荷物を隅に置いた火野は袖を捲り上げ、「やるぞー」と意気込みを入れていたのだった。
No.100 ベストセンス決定戦
更に向こうへ!Plus Ultra!!