タキオンのトレーナーが死ぬ話   作:羊の脚

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夢オチです。
いらない場合は無視で大丈夫な奴です。


続き

「はっ。朝か」

 

ただの仮眠のはずが、つい寝すぎてしまった。

URA決勝のための対策がまだ終わってないのに。

 

「はー…また今日も徹夜かな」

 

ソファで寝ていたせいか、妙に夢見心地が悪かった。

何の夢を見たかは覚えていないが、凄く嫌な感じだったな…。

 

「今日の予定は…」

 

午前にトレーナーミーティングがあって…その準備と…メインのタキオンのトレーニング。

まずはタキオンのための弁当を作らないと…ワンパターンだと文句を言うので、今日のはどうしようかな…私のは適当におにぎりでいいか…。

 

起き上がろうとして、タキオンが私に抱き着いていることに気がついた。

 

寝苦しいと思ったら…タキオンの肩をゆすって起こす。

そういえば、どうしてここにタキオンがいるんだろう?

 

無断外泊…無断外泊かなぁ…また謝らないと…。

 

「タキオン?タキオン」

 

なんだか様子がおかしい。

寝ているわけではないらしい。

いくら肩をゆすっても動かない。

 

そういえば彼女がこうして密着してくるのは珍しい。

実験でもこうして抱き着かれたことはあまりない気がする。

 

まあ何か理由があるんだろう。

私はタキオンごと立ち上がって、朝支度の用意をした。

 

「…私を無視する気かい?」

 

「ごめん…今日は忙しくて…」

 

「仕事と私とどっちが大事なんだよ…」

 

朝一で面倒くさいこと言われてもな…。

 

「タキオンのことが大事だから仕事も頑張るんだよ。ほら、引きずられたくなかったら、立ち上がって」

 

タキオンは二本足で床に立ち、そのまま私の真正面から抱き着いてきた。

 

「えぇ…」

 

「…」

 

「あの…抱き着かないと駄目?」

 

「…」

 

「うん…じゃあ…せめて後ろから抱き着いてくれないかな?このままじゃ歩けないから」

 

「…」

 

ずりずりと移動して後ろからにしてもらった。

言うこと聞いてくれるんだ…。

 

どうしたんだろタキオン…心配だな…あ…時間ない…やばい…。

 

とりあえずこのままで身支度をすることにした。

 

 

 

「ほら、タキオン。今日はタコさんウィンナー入れちゃうよ~。おいしそうだね~」

 

「…」

 

「あ!この人参お花さんだね!きれいだね~」

 

「…」

 

反応がない…。

 

弁当を詰めて、きゅっと布で包む。

自分用のおにぎりも作ったし…弁当をここでタキオンに渡せれば時間がいつもより短縮できて…あ、着替えてない…。

 

「あの…タキオン。私、着替えたいから、一瞬だけ、いいかな…?」

 

「おい…なんだこのおにぎりは…」

 

「え?わ、私のお昼ご飯…」

 

「なんだと…?ふざけているのか…?」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「こんな食生活だから…病気になるんだ…」

 

何の話だろう…。

 

「…うっ…ぐっ…」

 

…。

 

泣いて…泣いてる!?

 

「どうしたのタキオン…何があったの!?」

 

「ちゃんと栄養バランス考えろよぉ…」

 

「すみませーん!今日のミーティング休みまぁす!」

 

 

 

ついでに学園側にもタキオンが欠席することを伝えた。

まあどうせいつもサボってるけど…ああ…嘘をついてしまった…心苦しいな…。

 

でも仕方ない。なんたって、タキオンの異常事態なんだから。

タキオンが泣くなんて…初めて見た…ここからじゃ見えないけど…タキオンは私の服でゴシゴシ涙を拭いている。後できれいなハンカチを渡さなきゃ。

 

「タキオン…一体どうしたの?何があったの?話せる?」

 

「…」

 

「話にくい事なのかな…?無理はしなくてもいいけど…私にも話辛い?」

 

「…」

 

「え?なになに?」

 

「…昨夜、悪夢を見た」

 

「…そっか」

 

お母さんに泣きつく幼稚園児みたいだな…。

 

「酷い悪夢だったよ…この世の地獄を見た…」

 

ミーティング休んじゃったな…。

 

「どんな悪夢だったの?」

 

「…言いたくない」

 

「…」

 

 

 

「ううん…じゃあ、どうしたら怖いのが無くなるのかな?」

 

「怖いわけでは…ふぅン…まあ…一日は続ける必要があるだろうね」

 

「抱き着いてくるのを…?私にも仕事があるんだけど…」

 

「だから私と仕事とどっちが大事なんだよ」

 

「そんなこと言っても…貴方のことも仕事に含まれてるし…」

 

「えー!?君は仕事として私の相手をしているというのか!?」

 

面倒くさい事言い出した…。

 

でも段々元気になってきてるような…相変わらず後ろから思いっきり抱き着いてきてるけど…。

耳元で叫ばれるとちょっとうるさい。

 

「URA決勝に向けたトレーニングだってあるでしょ?」

 

「体力がギリギリだから失敗の可能性がある」

 

「何言ってるの…わかるけど…じゃあまあ今日は休息にしようかな…」

 

「うん」

 

「お腹空いてない?折角だからこのお弁当食べる?」

 

「食べる」

 

 

 

このままの体勢ではタキオンが食べ辛いので、私の膝にタキオンが乗る形で食事をすることに落ち着いた。

 

「ふぅン…カラフルな見た目じゃないか…」

 

いそいそと弁当を食べようとするタキオンを尻目に、私もこの際だからお腹に物を入れようとおにぎりを手に取ると、

タキオンが動きを止めて、凄い眼でこちらを睨んできた。

 

「え?なに?」

 

「…おい。何をしている…?」

 

「お、おにぎりを食べようと…」

 

「だから栄養バランスを考えろと言っているだろう!!ちゃんとした朝ご飯を食べろ!!」

 

今日のタキオンの地雷が分からない…。

 

「でもまた作りに立つのも面倒くさいなぁ」

 

「君はその体たらくで今まで私の食生活に文句をつけてたのか?」

 

「ぐうの音も出ないけど…忙しくて…」

 

「ハァ…いいか?明日から二人分の弁当を作るんだ。いいな?」

 

「結局私が自分で作るんだね…タキオンが心配して言ってくれるんなら、素直に従うけど」

 

「心配…うぅん…まあ…心配してる…」

 

「どうしちゃったのタキオン?」

 

「…まったく!君は私の弁当は苦も無く作るのになぁ!どれだけ私のことが好きなんだか!」

 

「やっぱり変だよ今日のタキオン…」

 

妙にもじもじして、頭の耳がぴょこぴょこ動いている。可愛い。

 

 

 

その後もうタキオン食べ始めちゃったし立ち上がれないよそれならこの弁当を食べろいやそれはタキオンのために作った弁当でつべこべいうななどとひと悶着があって、

二人で弁当とおにぎりを分け合って食べることになった。

 

「栄養バランス考えて作ったのに…いつもなら人に譲らないのにどうしちゃったのタキオン…」

 

「君が自分の分を作らないのが悪い。反省したまえ」

 

ほら、あーんと弁当の中身を口に持ってこられて、

なんでナチュラルにあーんしてるんだろ…?やっぱり今日のタキオンおかしいな…と思いつつ満更でもなかったので、

特に指摘せずに食べた。我ながら美味しかった。

 

「どうだ?美味いだろう?」

 

「美味しいよ。ありがとうタキオン」

 

「ふぅン。礼には及ばないさ。ほら、今度は君の番だ」

 

「はい、あーん」

 

「もぐもぐごくん…ハッハッハ!」

 

なんで笑うんだろ…?ウマ耳が忙しなく動いていた。尻尾もバサバサ動いて私の顎をかすめている。

 

楽しい食事を続けた。

 

 

 

食事を終えて、片付けのために立ち上がろうと、タキオンの位置をまた私の背後にずらして、流しに立った。

移動するたびに面倒くさいな…くっついてくることに対しては正直に言うと悪い気してないけど…。

 

「どう?お腹いっぱいになって立ち直った?」

 

「なんだよ…さっさと離れて欲しいのか?面倒くさそうにするなよ…」

 

面倒くさいよ…今日のタキオン面倒くさいよ…。

 

「そうやってると貴方も研究ができないでしょう?」

 

「…今日は研究する気が起きない」

 

「え?タキオン?」

 

思ったより重症だな…夢のことで…。

 

いつも些細なことでやる気が下がってトレーニングに支障をきたすけど、

ここまで深刻だと少し心配になる。

 

元気出してほしいな…ううん。

 

「…わかった。今日は薬を五本まで飲みます。グイっといっちゃうから、好きなの持ってきてよ!」

 

「そんなことして君の身に何か起きたらどうする…」

 

「嘘でしょタキオン!?」

 

そんなに?夢でそんななるの?

 

いつも私のことをモルモット呼ばわりしてくるタキオンが…?

 

「本当にどんな夢見たの…?流石に心配になってきたんだけど…」

 

「今までは心配してなかったのかい?」

 

うわー面倒くさい。

 

「いやでも、ほら…なんだかんだ言って、今までだって薬の安全性は最低限考慮してくれてたんでしょ?ね?」

 

「おおよそは」

 

おおよそ?

 

「害はない。ないが…今の私には何もわからない…」

 

そう言ってタキオンはしょぼんと項垂れる。

尻尾がパスパスと力なく床に擦れる音がしていた。

 

「タキオン…」

 

「…」

 

「…そんな自信のないタキオン、見たくないな。どうしたら元のタキオンに戻ってくれる?」

 

「…」

 

「私、いくらでもタキオンの力になるよ。タキオンが辛いと、私も辛いから」

 

「…」

 

「何だって私に言ってくれていい。私たち、今まで一緒に頑張ってきたでしょう?」

 

「…」

 

「もちろん、言いたくないことなら無理には聞かないけどね。そっとして欲しいなら、そうするよ」

 

「…」

 

「…」

 

「…誰にも…言わないでくれるか…?」

 

「うん」

 

「…」

 

「…」

 

「…君が…死ぬ夢を見たんだ…」

 

…夢と現実は区別しようよ。

 

「悲しくて…君の顔が見たくなって…」

 

いよいよお母さんに泣きつく幼稚園児みたいなこと言ってるな。

 

「原因不明の病気で…どうしようもなくて…」

 

タキオンの薬が原因だったんじゃない?

 

「なあ。今何を考えている?なあ」

 

「ご、ごめん…ちょっと予想外で…」

 

 

 

私を後ろから抱きしめるタキオンの腕の力が強まった。

しばらくタキオンの尻尾が床に擦れる音が続いた。

 

うーん…。

 

私は水を止めて、手を拭き、

そしてソファに向かった。タキオンも抱き着いたままついてくる。

 

ソファに座る。

タキオンを私の膝の上に座らせた。なぜか向かい合っている。いや別にいいけど。

目の前にうつむき気味のタキオンの頭が見える。

 

今なら撫でさせてくれるかな?

私はそっとタキオンの頭に触れ、優しく撫でた。

タキオンは特に抵抗しない。

 

「怖かったね」

 

私は笑いながらタキオンの頭を撫で続けた。

 

タキオンは私の顔を上目遣いにじっと見た。

そしてまた俯いて、私の胸にぎゅっと抱き着いた。

 

 

 

「今日は一日こうしてゆっくりしてようか」

 

「…君、仕事とかいいのか?」

 

「今更だね。いいよ。最近働きづめだったし、病気になってタキオンを心配させたくないもんね」

 

「…明日は元通りになるから」

 

「うん」

 

「…今日だけはこうさせてくれ」

 

「わかった」

 

「…明日以降は今日の記憶を忘れてほしい」

 

「努力はするよ」

 

「…」

 

「…」

 

「…いつもありがとう」

 

 

言葉通り、翌日からタキオンはいつもの調子に戻った。

ただ、その日以降の薬に健康成分がふんだんに混ざるようになって、とてつもなく不味くなった。

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