時は1980年、ロンドン
生臭さが鼻をつく
人気のない、血だまりの中に少女は立っていた
彼女が纏う黒い羽衣は血にまみれ、それは赤黒く、街灯に照らされ紅く光る
その出で立ちは若い、透き通る黒い髪に、若干日焼けをしたかのような小麦色の肌
紫の瞳には、光はなく、彼女の、人としての感情が消えていたことが伺えた
彼女が手に持つ、暗器の短刀とアンカーのような鞭はどちらとも漆黒加工をしており、光を反射せず、光に照らされる彼女とは反対に不自然に灯りの中に浮かぶ幽霊のようなものだと連想できた
彼女は暗殺者、かの教団の数百年ぶりの継承者
賜った銘は「不知」
歴代に比べれば技術、能力は劣る
彼女はあくまでその最低基準を満たしていたために抜擢されたためだ
故にその教団の実態も、歴史も、思想も、暗殺集団ということのみしか教えられていない
彼女の任務は人理に仇なす異端の抹殺、人喰らいの都市の幻想種、空より飛来した生命体「ニビル」を殺すことだった
幻想種である、彼には並大抵の魔術師では対抗できない
その怨念と秘められた神秘から魔法使いですら殺しうると判断されていた
明確に人類に対し敵対行動をとっている、実際に一つの都市の人間を虐殺し、徐徐にであるがその陣地を拡大している
都市内部には人間の形をした影、「這う影楼(ダークハウンド)」が跋扈していた
その容貌は黒、輪郭のみしか視認できず、眼窩や、口といった部品を認識することはできない
唯一違うとすれば鋭く尖った発達した爪、鋼鉄を裂く、魔力を込められた爪は魔術師であっても喰らえば致命傷になるものだった
その神秘を殺すため彼女は送られた
黒い影が少女を囲む
そこには明らかな敵意があり、獰猛な猛獣にも勝る
膂力をもつ、
「起動」
その言葉と共に少女は大地を蹴り、空へ身を投げだす
それと同時に大地より黒塗りの大木が現れた
影を全て相手にすることは不可能であり、彼女の討伐対象は一体だけ
わざわざ殺す必要もない
大木の頂上から街を見下ろし対象を探す
「みつけた」
都市の中心部
影が多くいるのか、そこは夜ではあるが一層闇が増していた
光を飲み込むほどに
そしてその中心に一つの巨大な影、異質な存在感
建造物を伝い、背後より奇襲する
予想通り傷はつかず、その一撃で彼女の単刀は折れた
気づいた
「ーーーー!!」
影の獣が喋る、だが彼女には理解できない、いやする必要がなかった
暗い紫の瞳を怪物に向ける、それはとても冷酷な眼差し
その殺意を向けられるのは怪物にとって初めてのことだった
神秘たる彼、萎縮すれども「殺す」という混じりけのない感情をぶつける者はいなかった
人間、魔術師、魔法使いでさえも
「____..」
怪物は初めての、わけのわからない感情に戸惑いながら
その少女に襲いかかる
大地を蹴りあげた瞬間に、吐血、胸に灼熱感が襲った
怪物は突然のことに胸をみた、心臓にあたるその部分にはすっぱりとがたついた刃物に貫かれたような傷があった
当然、幻想種たる彼はこの程度で死ぬことはない、だが心臓が貫かれたことにより心臓が停止し脳への血流がとまり、糸のきれた人形のように前方にたおれ込んだ
理解出来なかった、その一瞬で彼は負けたのだ
歩く音がきこえる
器械のような一定間隔でなる規則てきな音
徐徐に近づいてくるそれを
怪物は血の気が引く思いというものを人生初めて感じた
恐怖が全身を蝕み、ないはずの心臓が高鳴る、体が逃げろと警鐘するか
体が硬直しているためそうすることができない
動けない怪物に少女は歩みよる
顔を動かし見上げるように少女をみる
瞳には死神が写った、少女も彼等と同じ真っ黒な影、その瞳のみ紫に鈍く輝いていた
その胸には怪物と同じく裂かれており、少女も心臓の機能が停止していた
彼女が動作しつづけられるのは彼女のもつスキル「人体理解 」によるものだった
「起動」
冷たく細い指が首に触れた
瞬間、首からしたの感覚がなくなり、視界がぶれる
焦点が定まらず、左右の瞳が勝手に動く
一秒が数時間にも感じる感覚のなか、不意に後頭部に衝撃がはしった
怪物は自分の首が吹き飛ばされたという事実を認識するのに時間を要した
それはそうだろう、幻想種たる自身に傷を負わせるものなどいなかったのだから
人間という彼等にとって虫けらにも等しい存在なら尚更である
何がおきたのか、それを理解するには、大地にひれ伏す体をみて理解した