皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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第一章  
一話 ダンまちのキャラって曇らせ適性高すぎない? 


 

 

 

 

 

地面を踏み荒らす無数の脚は蹄を持ち、身体を覆う体毛も皮膚も人のそれではない。頭髪のない頭部からは一対二本の角が伸び、口元から覗く牙もまた同様に鋭い。その数は優に百を超え、真っ赤な眼球がギロギロと周囲を睥睨している。

 

ダンジョンの深層49階層、その荒野には牛と羊のキメラのような人型の異形が運河の如き群れを成していた。モンスターは鈍器を持つ太い腕を頭上高く振りかぶり、そのさまに身をすくませる前衛に即座に盾を構える指令が送られる。

 

「「「─────ッ!!」」」

 

 直後、一際大きな轟音と共に大地が大きく揺れた。前衛がその一撃を大盾が受け止める衝撃で土煙が立ち昇り、辺り一帯に蔓延る砂塵が視界を覆う。

 

しかしそれも束の間の出来事だった。すぐに晴れていく視界の中、後衛を務める魔法使いの少女───レフィーヤ・ウィリディスが詠唱を終えると、巨大な火球が宙に浮かび上がったのだ。

 

「───【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

 

 それは瞬く間に大きさを増していき、炸裂する。火球は数多の火矢となり、凄まじい熱量を持ってモンスター達を焼き払った。 

 

悲鳴を上げる間もなく灰になる者、辛うじて耐えるも炭化する者など様々だが、いずれにせよその場にいたモンスター達はその膨大な魔力によって引き起こされた業火によって等しくその生を終える。

 

しかし、『千の妖精』の二つ名を持つ彼女の砲撃魔法といえどもその悪夢のごとき量の大群を一掃するには至らない。その証拠に未だ数百を超える軍勢は健在であり、それらは先程と同じようにまたぞろ進軍を開始しようとする。

 

「支援!!ティオナ、ティオネ、 左翼へ急げっ!!!!」

 

 小人族の首領の指示を受けた双子のアマゾネスがそれぞれの獲物を翻してモンスターを次々に両断してゆく。それでも尚、状況は劣勢だ。第一級冒険者達が戦線を支え続ける間にも、途切れることのない怪物達の侵攻は止まない。

 

金属で編まれたかのようなその巨体でもって、大人の身長ほどもある黒鉄の鈍器を大気を引き裂きながら振り切り、盾を構える前衛達をおいつめる。そしてその怪力を以て武器を振るう度に、大地を大きく揺るがし破壊を巻き起こすのだ。

 

そんな中でも、やはり最も目を引く存在がいる。はちきれんばかりのその肉体は群れの中でも最も大きく、筋骨隆々という言葉ですら足りないほどの強靭さを誇っている。

 

全身を覆う鋼色の剛毛と、それよりも更に目を引く爛爛と輝く血走った双眸、それらはこのモンスターの持つ戦闘への飽くなき欲求を表しているかのようであり、正面に立つ前衛の腰が引けてしまうほどの鬼気を発していた。

 

そう、今まさにモンスター────『フォモール』が豪快な一撃を振り下ろさんとしているところである。

 

尋常ならざる力の込められたそれを、前衛の壁役が構えるタワーシールドに巨大な棍棒が打ち付けられるや否や、盾を構えた前衛が耐え切れず吹き飛ばされた。周囲を巻き込んで吹き飛ばされたことによって前衛の一角が崩壊する。

 

そこに更なる追撃を加えんと前衛の壁に守られていたはずの後衛のもとへモンスターが流れ込む。そこに更なる追撃を加えんとするモンスターの前に、素早く一人の青年が立ち塞がる。

 

マフラーを靡かせて颯爽と現れたその白い影を見て、モンスター達が歓喜の声を上げた。それはまるで更なる殺戮を待ち望んでいたかのように。モンスター達の視線を一身に集めながらも、しかしその者は臆することなくモンスター達に相対する。

 

その身体に纏っているものは鎧ではなく軽装の戦闘服であり、防具と呼べるものは何も小手以外装備していない。しかし、そんなことは些細なことだ。

 

『フォモール』の悪魔のような風貌とその合金のような精強たる肉体は見かけだけではなくその一撃はマトモに喰らえばオラリオ最強派閥たるロキファミリアの主力、第一級冒険者ですらひとたまりもない。

 

その怪物は本来、Lv5の実力者ですら決して油断できぬ強敵ではあるが今回においては相手が悪かった。その男は今や都市最強の男、世界最速の男、大仰な二つ名まで持つ最強の冒険者だ。その名声は都市外にも轟いている。

 

「─────【サンダーボルト】」

 

 ロキファミリア、美神フレイヤが率いるフレイヤファミリアと対をなす最強派閥、その最高戦力たる───『剣聖』アル・クラネル。彼が無造作に、たった一言で発動させている魔法の名は【サンダーボルト】、手や武器から炎のような輝きの電撃を発する攻撃魔法。

 

雷速の速度で放たれたそれは狙い違わずモンスターの頭部を打ち抜いた。感電したモンスターは悲鳴を上げて動きを止める。それを皮切りにして次々と雷撃がモンスター達を貫いてゆく。

 

それだけで有ればありふれた唯の攻撃魔法だがその魔法がオラリオ最強魔導士であるリヴェリア・リヨス・アールヴをして規格外と評される理由は二つ、一つは詠唱を不要とする速攻魔法であること。

 

魔法というものには共通する弱点がある、それが詠唱時間である。攻撃魔法、回復魔法、防護魔法、付与魔法、呪詛、いずれの系統であったとしても発動するには詠唱が必須であり、強い魔法であればあるほどそれは長くなりものによっては超長文詠唱と言われる発動までに数分かかるものまで存在する。

 

無論、並列詠唱や超短文詠唱などその弱点をある程度カバーできる技術や魔法はあるが詠唱自体はなくならない、アルのそれはその大前提を覆す稀少魔法であり、たった一言で発動するがゆえに連発すら容易く行える。

 

そして二つ目の理由としてはその威力の高さがある。

前述したように魔法の威力は詠唱の長さに比例するように高くなり、リヴェリアや一部の上級魔導士の砲撃とも評される魔法は当然ながら長文詠唱か超長文詠唱である。しかし、アルの【サンダーボルト】はそんな常識からも逸脱する。

 

雷故に速く回避は不可、それに加え耐えたとしても麻痺による行動阻害のおまけ付き、そしてその威力は第一級冒険者の長文、超長文詠唱による砲撃に匹敵し、ダンジョン深層モンスターを一撃で仕留めうる。

 

場合によっては鍛え上げられた耐久アビリティに加え耐魔法の装備に身を包んだ第一線級冒険者ですら直撃すれば一撃でノックアウトしかねないほどである。

 

そして魔法に遅れぬ速度で雷鳴のごとく、空中に何重にも銀の軌跡を築く。間髪入れず、幾体ものフォモールの身体が血しぶきを噴出させ、その五体をバラけさせる。その光景を見て、誰もが言葉を失う。

 

それは、あまりにも圧倒的だった。モンスターの巨体がまるで紙細工のように宙に舞う、それも一体や二体ではない。数十、数百のモンスターが為す術もなく屠られていく。それは最早、虐殺と言っていいものだった。

 

感傷も感慨もなく無感情なまま振るわれる銀閃は瞬く間に幾十の死を築き上げる。何者よりも美しく残酷な死の芸術。雷鳴とともに周囲の兇悪たるモンスター全てを絶命させる死の舞踏。

 

それに戦っているのはアルだけではない。前衛に群がっているモンスター達がアルによって殲滅される。そして、アルに競うかのように剣撃の雨を降らせる『剣姫』の他六名の第一級冒険者達。

 

アルに負けじとばかりに、その猛威を振るうのが彼等だ。魔導士たちも負けじと魔法を発動させる。詠唱を終えた魔法使い達が一斉に火球を放つ。魔道士達が放つ風の刃が、氷柱が、岩塊が、毒液が、火炎放射器のように吹き出す火線が、モンスター達に襲い掛かる。

 

「【──────間もなく、火は放たれる。怒れ、紅蓮の炎。無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり。悉くを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

「【焼き尽くせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】!」

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 ロキファミリア幹部たる総勢八人の第一級冒険者と全員が上級冒険者で構成された精鋭達。その中でもアルやアイズ・ヴァレンシュタイン、ベート・ローガなどの前衛はリヴェリアの詠唱が終わるまでの時間を稼いでいたのだ。

 

その役目を終えた今、前衛たちの戦いは終わりを告げる。それと共に放たれるのは都市最強魔導士の攻撃魔法。第二位階攻撃魔法【レア・ラーヴァテイン】。翠色に輝く魔法円が展開される、全戦域が効果範囲内たる火の殲滅魔法。

 

炎熱によって形作られた幾本もの紅蓮の大槍が戦場を蹂躙する。炎弾は次々に着弾すると爆発を起こしモンスターを吹き飛ばす。爆炎と爆風にモンスター達はなす術もなく巻き込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルドから一定ランク以上の【ファミリア】にかせられるミッションによる『遠征』の真っ最中である【ロキ・ファミリア】。

 

彼らはダンジョンの深層50階層、他には【フレイヤ・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】などのごく一部の有力ファミリアしか足を踏み入れたことのない深層の深部までもぐり、いまだ現代の冒険者の誰もがたどり着けていない未到達階層へ向けて進んでいる。

 

そんな今は、ベースキャンプを作成し、大がかりな休息を挟もうとしていた。それは、この遠征に参加している団員たちにとっても久しぶりの休息であり、同時に次の遠征への英気を養うための大切な時間だった。

 

「よし、じゃあ野営の準備をするっすよ」

 

 二軍の指揮を任されているラウルの言葉に団員達がテキパキと動き出す。テントの設営、食料の確保、魔石を利用した照明の設置などだ。こうした野外活動に慣れているのか、その手際は非常にいい。複数のテント、そして食事のための竈や調理器具もすでに準備されている。

 

何人かのメンバーは、周囲の警戒にあたっていた。とはいえ、この階層はダンジョンでも珍しいモンスターが新たに出現しない『安全地帯』であり、危険は限りなく少ない。

 

大きな戦いを終えた後というのもあり、だからといって気を抜いているわけでもないが団員たちの間には程よく緩んだ空気があった。

 

それは主力たる第一級冒険者達も例外ではない。

 

「今日は多かったねー」

 

「ええ、さすがにちょっとこたえるわ」

 

 そう言いながら他の団員の数倍の量の荷物を運ぶ少女達は、先ほどまで激しい戦闘を繰り広げていたアマゾネスの姉妹、ティオネとティオナだ。

 

本来、幹部である彼女らは下位団員の行うような雑事などする必要はないのだが、ティオナは自分から団員たちの仕事を手伝い、ティオネもそれに付き合っている。

 

ちなみに、彼女達は褐色の肢体を晒す露出の多い踊り子のような服装をしているが、これはアマゾネス特有の服装であり、戦闘用の衣服としてはかなり刺激的なものだが戦闘中も肌の見える薄着で戦っている。

 

ティオナは巨大な大双刃を振るうにしては小柄な体躯だが、それでも並の冒険者よりはるかに力持ちだ。彼女は山のように積まれた食糧の入った木箱を持ち上げて運び、ティオネも妹に負けず劣らずの筋力とタフネスで壮絶な戦いの後だというのに涼しい顔で荷物を担いでいる。

 

「なんだー、まだまだ元気あるじゃん!!」

 

「うっさいわね」

 

「あ、あんまり無理しないでくださいね、お二人とも前線で戦っていらっしゃったんですから」

 

 ティオナは体力があり余っているのか、笑顔を浮かべて作業を続けている。そんな妹を見て姉の方も悪態をつきながら薄く微笑んでいた。そこに山吹色の頭髪をしたエルフの少女、レフィーヤが現れて心配そうな声をかける。

 

「大丈夫、大丈夫!! あたしもティオネもケガしてないし、それよりあんなに魔法つかったんだし、レフィーヤのが疲れたでしょ」

 

「い、いえ、わたしなんて全然················」

 

 レフィーヤもまた、疲労の色を見せていた。魔法による援護射撃を行っていたとはいえ、あの激戦の中で前衛の戦いについていくのは楽なことではなかっただろう。しかし、それをおくびにも出さず、健気に先輩達に話しかけるあたり、なかなか根性のある少女であった。

 

そんな彼女に、ティオナが悪戯っぽい笑みを向ける。実際、レベルの上ではレフィーヤはティオナ達には遠く及ばないが、主神に「バカ魔力」と揶揄られるほどの魔力から放たれる砲撃魔法は先の戦いのような対多数においては抜群の制圧力を持ち、場合によってはティオナ達よりも活躍しえる。

 

【ロキ・ファミリア】の中でも、中堅どころのレベル3でありながら大規模魔法の行使においては師であるリヴェリアに次ぐ実力の持ち主なのだ。もっとも本人はそのことをあまり意識していないようだが。

 

彼女達の会話を聞いてか、ベートが近づいてくる。アマゾネス姉妹は彼に気づいた瞬間に顔をしかめたが、ベートは気にせず話しかけた。彼らは仲が悪いわけではない。ただ単に相性の問題だった。

 

ベートの粗暴な性格が二人の神経を逆なでしてしまうのだ。とはいえ、ベートとしても、アマゾネス姉妹は快い相手ではなく、そんな相手とわざわざ話したいと思うはずもない。なので、彼はレフィーヤにだけ話し掛けた。

 

「おい、アイズとアルはどこだ?」

 

 問われたレフィーヤは一瞬きょとんとした表情を見せる。たしかにあの二人の姿がみえない、そう思っていると横からティオネが答えた。

 

「二人ならあっちのテントで団長に絞られてるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

派閥のエンブレムの滑稽な道化師が刻まれた最も大きいテントのその中には首脳陣の他に二人の少年少女がいた。テントの中には大きなベッドがあり、その傍には幾束の資料の乗ったテーブルがちょこんと置いてある。このテントこそが今回の遠征における本拠地であった。

 

【ロキファミリア】団長、フィン・ディムナ。柔い黄金色の髪に青い瞳は知的な印象を抱かせる少年のような外見の美男子だ。

 

「さて、アイズ。なぜ、前線維持の命令に従わなかったんだい?」

 

 レベル6の冒険者でもある団長の言葉に、目を伏せた流れるような金髪に粗野な冒険者とは思えない女神が如き美しさを持ったその少女こそロキファミリア幹部が一人、『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインである。

 

彼女は俯いて押し黙るだけで何も答えない。そんな彼女にフィンは呆れたように溜息をつく。

 

「アイズ、君は確かに強いよ。けど、だからこそ良くも悪くも、幹部である君の言動は下の者に影響を与えるんだ。それを覚えて貰わないと困る」

 

「························」

 

「窮屈かい? 今の立場は」

 

「······················ううん、ごめんなさい」

 

 そう言ってようやく謝罪を口にした彼女はその肩書きに見合った実力を持っているにも関わらず、まだ発展途上の少女であり、精神的にも未熟だった。

 

「別に謝らなくていいさ。ただ、気を付けてくれればいいよ」

 

 優しく微笑みかけるフィンにアイズは小さく頭を下げた。そして彼女は思う。自分は何故こんなにも弱いのかと。

 

『剣姫』と呼ばれる彼女の剣技は都市でも有数の実力者である筈なのに、自分の前に立ち塞がる壁を越える事が出来ない。

 

それは、まるで自分が迷宮でモンスターを倒す事しか頭になかった頃と同じようで、彼女は焦りを感じていた。あの時のように強さを追い求めればまた、自分に新たな出会いがあるかもしれない。しかし、今の自分に必要なものは果たして何なのか。

「関係ないような顔してるけど君もだ、アル。君が僕達の中で最も強いのはわかってる。けどね、先走りすぎだよ。あれじゃみんなが育たないし何より君がダメになる」

 

 もうひとりは処女雪を思わせる白髪に血のような双眸、ギリシャ彫刻のような男性的美しさに満ちた少年、アル・クラネル。アイズと同じ歳であり、アイズ同様リヴェリアの頭を悩ませる問題児である。

 

「·····················自重しよう」

 

 仏頂面のまま、言うアルに「わかってねぇなあ」という苦笑を浮かべるフィンだが、実際アルの強さはこの遠征に参加している団員の中でも抜きん出ている。単純な戦闘技術だけならば間違いなく最強だろう。

 

けれど、そんな彼をしてもアルはまだ成長過程にあるのだ。その才能は既に開花しかけているのだが、如何せん彼は力を求めすぎて無茶をする傾向にある。だからこうして度々、注意しているのだが改善の兆しはない。

 

「(まぁ、そこら辺も含めてどうにかしないとね)」

 

「まぁそう言ってやるな、フィン。二人とも前衛である儂らを諌めるつもりであえてフォモールの群れに突っ込んだのだろう。危うく陣形を崩す所だったからのう」

 

「それを言うなら、詠唱に手間取った私の落ち度もあるか」

 

 二人をそう援護するのはロキファミリア最古参であり、Lv6の実力者であるドワーフのガレス・ランドロックとハイエルフであるリヴェリア・リヨス・アールヴ。その二人の親友の助け舟に「二人は甘いなぁ」と再び苦笑いを浮かべるフィンはアイズとアルに顔を向けた。

 

「今回は大目に見るけど次からは気を付けるんだよ?」

 

「··············はい」

 

「··············了解した」

 

 恐縮そうに返事をしたアイズに対し、相変わらずぶっきらぼうなアル。そんな対照的な二人を見て、フィンは肩を落としてやれやれと首を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強くなるのはいいことだよ。二人にとっても【ロキ・ファミリア】にとっても」

 

 二人が去ったあとフィンは呟く。

 

「だが、あの子達はひたむきすぎる。何よりアルのは度が過ぎている」

  

 フィンとリヴェリアの脳裏に浮かぶのはいつも白髪を赤く染めた満身創痍でダンジョンから帰ってきてロキがステイタスの封印をチラつかせても一歩も譲らずたった三年半でLv7、冒険者の最高位に達してしまった少年のことである。

 

「Lv7になってから半年、また焦り始めておるな」

 

 半年前、【ロキファミリア】の遠征の帰りにインターバルの最中であるにもかかわらず発生した異常個体の階層主バロールを相手に満身創痍だった団員達を逃がすために一人で殿となり戦い、激戦の末に討ち取ったことでランクアップしてから半年。

 

─────そう、アル・クラネルは焦っている、停滞を恐れている。恩恵を受けてから一年程で第一級冒険者となったあの少年はLv7という最強の頂に至ったのにも関わらず満足していない、まだ先を見ている。

 

フィンにもアルの気持ちはわかる。しかし、今のままでは駄目だとも思う。

 

「あやつは自身の命を粗末にしすぎる、儂らを守るために一人で戦ったのもアレが初めてではない」

 

 

「ああ、アイツが皆を思っているのはわかっている。しかし、あれでは強さを求めるあまりアイズたちですらついていけない場所に独りで行ってしまいかねない」

 

「························彼の憧憬とは一体何なのだろうね」

 

 アルの異常とも言える成長速度の理由の一つであるスキル【憧憬追想(メモリアフレーゼ)】。想いの丈に比例して早熟するというロキですら初めて見たレアスキルであり、その存在はロキの他には首脳陣の三人しか知らない。

 

アルがオラリオに来たばかりの頃、ロキが聞いた話ではアルには親と呼べる存在はいなかった。アイズとは違い、弟という肉親こそいたがそれでもアル自身、家族というものに縁がなく、故になのか【ファミリア】の皆とも未だに少し壁がある。

 

そんな彼が何故ここまで強くなろうとしているのか、フィンにはわからない。しかし、彼は確かにその目標に向かって進み続けている。

 

「いつかは知るときが来るさ」

 

「そうだといいがの。あいつはあのスキルを度外視しても才能に溢れすぎている。まるでかつての『静寂』を見ているかのようじゃ」

 

 そう、あまりに似ているのだ。かつての最強派閥【ヘラファミリア】の中ですら異端だった、神時代以降最も才能に愛された眷属と言われた『静寂』のアルフィアに。

 

「存外、血縁だったりするのかもなぁ、名前や見た目も似ておるし。····なまじ才能に溢れすぎておるから誰もあやつを止められん」

 

 

「「はあ、どうしたものかなぁ·············」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくらモンスターの出現しない『安全地帯』といえども誰もが警戒を忘れない中、それでもほんの少々羽目を外して【ロキ・ファミリア】の団員たちは戦いで疲労し尽くした身体を休ませる。

 

野営地の中心には芳しい匂いを放つ大型鍋が置かれており、団員たちはそれを囲んで思い思いに談笑している。

 

鍋の中身は派閥内最高戦力でありながらオラリオ最恐ドワーフに叩きこまれた腕ゆえにロキのおつまみを作る担当であったりするアルを主導に迷宮産の木の実や肉果実などで作られたスープであり、疲れ切った身体を温めるには最適な料理だ。

 

「あの、本当に食べなくていいんですか?」

 

「うん、大丈夫·······················」

 

「なーんて強がって、実はぐうぐうお腹鳴らしてるんじゃんかー」

 

 遠慮がちに声をかけてきたレフィーヤに対し、アイズは素っ気なく答えたがその言葉とは裏腹に腹から音が鳴ったことでティオナ達に聞かれてしまい顔を真っ赤にする。

 

しかし無理もないことだ。必要以上の食事は戦闘に悪影響をもたらすと思っているアイズは最低限の食事として棒状の携行食を齧ることしかしておらず、まともな食事を摂っていないのだ。

 

そんな状態で目の前に美味しそうな香りを放つ鍋があれば空腹に耐えられるはずがない。鍋から沸き立つ香りに食欲を刺激され続ければ当然のことだろう。恥ずかしそうに身を縮こませているアイズを見てティオナは笑いながら言う。

 

加えて。

 

「食っとけ、いざという時倒れては目も当てられないだろ」

 

「うっ········」

 

 作った張本人であり、アイズ的には兄のような相手でもあるアルに言われては食べないわけにはいかないと口をつけた。そして一口食べた瞬間、アイズの瞳が驚愕に見開かれる。

 

そのまま無言で二口三口と口に運ぶと、次々具材を口に放り込み始めた。あっという間に一杯目を平らげてしまったためおかわりを要求すると、配膳をしているアキが器によそってくれた。

 

「(……温かい)」

 

 それは食事に対してか、それとも仲間達に対してか。自分でもわからないが、とにかくそう思った。しかし、同時に思う自分は今、ここにいていいのか? この場にいることは間違っていないだろうか? と。

 

こんなにも暖かくて優しい場所に自分がいる資格はあるのか? と。自分の居場所があるということに対する疑問。自分がいるべき場所ではないのではないかという不安感。それがどうしても拭えない。

 

「(私は……)」

 

 自分なんかがこの輪の中に入ってもいいのだろうか? 自分は皆と一緒にいてもいいのだろうか? と、自問する。だが、アイズが何かを言う前に隣に座っていたティオナが笑顔で寄りかかってくるいつも通りの明るさで当たり前のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、アル・クラネルは転生者だ。のどかながら異国の地の赤ちゃんに生まれ変わった俺はハイハイが終わって少しして弟が産まれ、名前を聞いたとき愕然とした。

 

「この世界、ダンまちやんけ」、と。弟が生まれて暫くしていなくなった両親の代わりに俺らを育てたやけに筋骨隆々とした爺にベル・クラネルという名前の弟。これはもう確定だろう。ここは間違いなくあのダンジョンでモンスターを狩るファンタジー世界のダンまちだ、と。

 

それからという物、俺は前世の記憶がある事を隠して普通の子供を演じてきた。掠れ始めた前世の記憶をたどるにダンまちとは主人公ベル・クラネルが冒険者の町、オラリオで出会ったヒロインたちを救い、仲間との絆を育みながら英雄へと成長する物語である。そしてのこの作品には悲しい過去を持った曇らせがいのあるキャラがたくさんいる。

 

そんなダンまちの世界に転生したとわかった時、真っ先に思ったのは「あーアイツらの傷になって盛大に死にてぇ」だった。

 

生前の俺は曇らせ展開が大好きな畜生だった。そんな俺は一回死んだせいか死に対する恐怖や忌避感がなくなり性癖を満たすのを待ちかねていた。ある程度身体が育ち、戦えるようになった俺は性癖を満たすためオラリオへ向かった。

 

当然、入るべきは主要人物の多いロキファミリア。最大派閥だけあって入るのは難しいかと思ったが無駄に高いスペックに加え当時12歳のショタ姿が面食い神のロキに刺さったようであっさりとロキファミリアに入れた。

 

それから俺は無口ながらも仲間思いな暗い過去を持つ美少年エミュに徹し、アイズやベート達と仲良くなっていき、みんなを守るため犠牲になる····················つもりだったんだが。

 

この身体、強すぎだわ。Lv1で強化種のインファントドラゴン倒せるわ、一人で階層主倒せるわで全然死ねない。最初の頃は死ぬまでいかない曇らせで満足できてたけど物足りなくなってきたし、最後にドカンと派手に逝きたいんだがなあ。

 

超強い強敵に殺されかけてもなんか身体が勝手に反応しちゃって漫画の主人公よろしく死に際のパワーアップして普通に勝っちゃう。

 

そんなことを繰り返してたらとうとうLv7になってしまった。もう俺が負けるような相手ほとんどいなくない? 

 

オッタルとは戦う理由がないし·······················。

 

はあ、どうしたもんかなぁ······················。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

アルフィア(Lv7)の超短文詠唱≒リヴェリア(当時Lv5)の砲撃なのでまあ

 

アル君の年齢は16歳です、本当はもう少し上にしたがったんですがそれだとアルフィア(15年前で16歳で母親の姉)の年齢的に父親が畜生になっちゃうんでやめました。

 

 

「アル・クラネル」

 

《魔法》

【サンダーボルト】

・速攻魔法

・雷属性

 

《スキル》

【憧憬追想(メモリアフレーゼ)】

・早熟する

・目的を達成(曇らせ)するまで効果持続

・想いの丈に比例して効果向上

 

細かいステイタスは後々書きます

 

 

 








ヒロイン(被害者)

  • 説明不要! アイズ!!
  • 私を庇って皆が死んだ! リュー!!
  • 都市最高の治癒術士! アミッド!!
  • 曇らせ界の王子! ベート!!
  • トラウマ姫! フィルヴィス!!
  • 全員だよ!!

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