皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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今回は色々あって短いです


九十九話 下半神「うわっ、マジかよ、すげぇ··········。ンンッ────流石は儂の孫!!」

 

 

 

アイズにとってリヴェリア・リヨス・アールヴは第二の『母』と言ってもいい人物だ。

 

九年前、恩恵を受けて【ロキ・ファミリア】の一員となってから無茶がすぎるアイズの教育係を任せられたリヴェリアは根気よくアイズと接し、両親を失い『孤独感』に満ちていた幼き日のアイズを慈しみ育ててくれた。

 

アイズにとってアル・クラネルは『理想』であった。

 

誰よりも才に溢れ、どのような困難に直面してもそれを踏破するその姿は物語の英雄のようでもあり、アイズが己に求めた力そのものでもあった。

 

最初は嫉妬からか嫌っていたが、その暖かさを、優しさを知り、前に進むのみだった自分を護ってくれるアルをアイズは『父』と重ねた。或いは、自分に兄がいればアルのようだったのかもしれないと思っていた。

 

アイズはその、特殊な出生がために男女の機微を解さない。『参考』にできるのはかつての父と母の穏やかな日々。故にアイズはアルへの自らの感情がなんなのかを、父や母、リヴェリアに向けるそれとの違いを理解できていない。

 

リヴェリアとも、アルとも、ただ、一緒に居れればいい。未だ、心は幼いままのアイズはそう考えていた。

 

『高貴の御方──────リヴェリア・リヨス・アールヴ殿とあの、アル・クラネルが秘密裏に婚姻しているというのは本当か?』

 

『··········································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································は?』

 

その言葉を聞いたとき、アイズが浮かべたのは怒りでも嫉妬でもなく。

 

────なにそれ、聞いてない、という悲しみにも似た驚愕だけだった。

 

両親を除けばもっとも親しく、信用し、家族のように思っていた二人がそのような仲だったとは一切、知らなかった。

 

確かに二人は仲がいい、ファミリアの副団長と事実上のナンバーツーである二人は公私問わず一緒にいることが多く、もしかしなくてもアイズよりも一緒にいる時間は多いかもしれない。

 

それならばアイズが知らぬ間にそういった仲になっていっても不思議ではないし、アイズの目から見てもリヴェリアとアルはこれ以上ないほどにお似合いと言える。

 

己の『感情』を家族愛と混同しているアイズは仮に、二人にそういった仲なのだと明かされれば素直に祝福しただろう。

 

けれど、『聞いてない』、もっとも親しいはずの二人の仲についてアイズは、全く知らず、一度も相談されたことはなかった。

 

────なんで、教えてくれなかったの?

 

アイズを襲ったのは忘れたはずの『孤独感』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────どこかの聖域。

 

かつては英雄の都たるオラリオで隆盛を極めた最強派閥。

 

現行の二大派閥である【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】を纏めてもなお届くかどうかという最強の集団を率いていた男神は神時代以前に自らが撒いてしまった神々の負債、災厄の種の精算のために行動していた。

 

「·····················はぁ、完全に汚染されきっとるの」  

 

 大神たる彼の目には聖域などと呼ばれている島の真の姿が映っている。そこにはかつての栄光など微塵もなく、禍々しい邪気が蔓延し、邪悪な呪詛が渦巻いている。

 

智慧神の加護によりかろうじて抑え込んでいるものの、このままではいずれ限界が訪れるだろう。

 

もはや、呪いそのものとなった天上の神焔を、解き放たれれば一挙に下界を滅ぼすであろう聖火を堰き止めておけるのもあと僅か。

 

澱み、穢れ、腐り果てたこの都市にはもはや一片たりとも聖なるものは残っていない。

 

その穢れきった天界の呪詛こそが『神々の失敗例』であり、全能を振るう神が下界に干渉する過ちを犯した結果だった。

 

全知全能たる神の力でもダンジョンより産み出される神殺しの刺客────漆黒のモンスターを討つことはできない。

 

雑多なモンスターは討てたとしても漆黒のモンスターは別だ。神の火はいたずらに下界の理を乱しただけで終わった。

 

下界は神の手では救えない。

 

この世界を救えるのは下界に生きる人類のみ。

 

本来ならば、十五年前、男神と女神の眷属達によって『救世』、すなわち『三大冒険者依頼』の完遂がなされるはずだった。

 

古代、大地に穿たれた大穴。それより産まれたモンスターによって積み重なった三千年に渡る悲劇の精算、その第一歩目こそが『三大冒険者依頼』の遂行。

 

すなわち、『陸の王者』ベヒーモス、『海の覇王』リヴァイアサン───そして、『隻眼の黒竜』ジズの討伐。

 

太古の時代よりこの地上を荒らしてきた世界を蝕む怪物達の打倒をもって、初めて人類は真に平和を得る。

 

男神達はこの歪みきった『聖火』も『隻眼の黒竜』を打ち倒した後に対処するつもりであり、そうであればなんの問題もなく災厄の篝火は絶たれるはずだった。

 

──────だが、敗れた。

 

男神の、そして最恐たる女神の眷属達はたった一匹の竜に敗北した。契約は果たされなかった。世界は救われなかった。

 

もはや、この聖なる厄災をどうにかするには男神程の大神が全てを捨て去る覚悟でアルカナムを行使するか、穢れた焔を御せるであろう『不滅の火』を司る神格の献身が必要だろう。

 

「限界が近いな·····················」

 

 嘆息した男神は懐から一通の便箋を取り出し、読み始める。それは、昨日、男神がオラリオを離れてからも秘密裏につながっている伝令神から定期的に送られてくるオラリオの状況連絡だった。

 

様々な事件、様々な事柄が簡潔に綴られているが、その中でも彼の目を引いたのは二つ。一つは、彼の幼い方の孫が他でもないヘスティアの眷属となったこと。

 

「ほお····················」

 

 もう一つは兄の方が、己の眷属の中で最強を誇った『英傑』と同じ階梯───Lv.8へと至ったというものだ。

 

三千年前よりありとあらゆる英雄を見てきた男神をして比肩するものを探すことすら窮する『英雄の器』。

 

叔母や母のような病にも侵されず遺憾なく発揮される下界至上の才、全てを『より良い』方向へ捻じ曲げてしまう魂の熱量。

 

『英傑』と『女帝』を始めとした神時代が誇る英雄達。

 

【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】を筆頭とした群雄割拠の覇者たち。

 

長年にわたって『陸の王者』を諌めた【トール・ファミリア】。

 

二大派閥とともに『海の覇者』を打ち倒した【ポセイドン・ファミリア】。

 

地上に混沌をもたらさんと二大派閥に挑戦を続けた【オシリス・ファミリア】。

 

上記の派閥たちも無視できなかった大有力派閥連合であった【イシリス・ファミリア】や【セト・ファミリア】。

 

『三大冒険者依頼』の戦いや派閥同士の果たし合いによって姿を消した前世代の勇者達。

 

そのいずれにも勝るとも劣らない今代の英雄候補。神の時代の終わりを告げる、新たな時代の幕開けを感じさせる傑児。

 

男神をして『史上』最強に届きうると、『救世』を成し遂げうると、確信できる、次世代を背負う英雄の器。

 

孫を救世の道具とすることに思うところがないわけでもないが最終的には全てを大団円で片付けてしまえるであろうという信頼もあった。

 

だからこそLv.8という千年にわたる神時代の中でも数えるほどしか存在しない領域に16という若さで踏み込んだことに対しても称賛はあれど驚愕はなかった。

 

─────だが、この手紙には看過できない内容が記されていた。

 

「ん? もう一枚あるのか················」

 

 あらかた読み終わった後、便箋の中に追加で差し込まれたであろう手紙があった。

 

その内容は─────。

 

「うわっ、マジかよ、すげぇ···············。ンンッ────流石は儂の孫!!」

 

 儂のエルフスキーが感染ったんじゃろーな、と呟いた下半神だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アエデスウェスタ編は本編終了後にやるかもです(今のところ時系列的な折り合いがうまくまとまってない)。

 

 

 

 

 

 






『ここ数日の事情について』

ハーメルン内で作品のコピペをされてるって教えてもらって対象の人にメッセージで聞いてみたら無視&0評価貰いました。

流石にそれはないですよね·······。  

当該作品を確認してみたら話の展開やセリフ、地の文もコピペで二つ名の『剣聖』すらそのままだったし他の作者さんの作品からもコピペしてたみたいです。

アストレア・レコード編にいたっては七割くらい私の文章をそのまま使ってました。

私も以前、原作のセリフとかをそのまま使ってる部分があってそれが良くないことだと気付いた以上は運営さんから指摘とかがあったわけじゃないとは言え、後ろめたくならないようにと一から書き直した経験がありました。

だからこそこの人もアカウントをロックされたら気の毒だし、やり直す機会があった方が良いと穏便に済ませるために通報しないでメッセージで内々で改善をお願いしたら証拠の作品を非公開にした上で報復だけされました。

規約をよくわかってなくてやっちゃった可能性もあるからってこっちが下手に出たのにそれを報復で返すのは流石に酷いよ。  

せっかく皆さんが付けてくれた評価もその分下がっちゃったし·······。

それを理由に更新をやめたりはしないけどやる気なくなりますね·······。

本来なら黙殺するか活動報告で呟くような内容ですが万が一相手が今後こちらが悪いと運営さんとかに言ったりした時に少しでもこの事態を知っている証人が多い方が良いと思ってここで吐き出させてもらいました。

その方を晒し上げたりはしたくないのでユーザー名や作品名は伏せますが、万が一の時のためにこういう経緯があったことを覚えておいてほしいです。

(今後の事態によってはこのあとがきは消去するかもしれません)


最後にいつも拙作を読んでくださっている皆さんへ。

今回で設定を含めた話数的には100話、という節目の話の後にこんな長文を書いて御不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。

今後もコメントや評価をして頂けると更新の励みになりますのでよろしくお願いします。


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