皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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100話記念話 なんてことのない静穏の幻

 

──────これは、なんてことのない静穏の幻。

 

 

【 福 音 】(ゴ ス ペ ル)

 

「「「ぐっ、ぐあーーーーーッ!!」」」

 

 三つの影が決河の勢いで吹き飛ばされ、周囲の草木を巻き込みながら地面を転がる。

 

グキリゴキリ、と明らかに人体から鳴ってはいけない音が響いた後、三人はピクリとも動かなくなる。

 

人類とモンスターの戦いの最前線、冒険者の都市たるオラリオであってもまず見ない凄惨な光景だが驚くべきはこれがクラネル家にとって日常であるということだ。

 

そして、その惨状の中心に立つ美女、アルフィアも当然のようにいつも通りである。

 

いや、家族でなければ気づけないレベルの差異だがいつもより少しだけ不機嫌そうに唇を尖らせているかもしれない。

 

クラネル家には決して破ってはいけない不文律があった。それは何があってもアルフィアの機嫌を悪くさせてはいけないというものだ。

 

何故って?

 

それは呵責容赦のないゴスペルで吹っ飛ばされるからに他ならない。

 

クラネル家は男四人、女一人という男世帯でありながら一家の舵は絶対的『女王』であるアルフィアによって握られている。

 

絶対不変の法であり理。何よりも静寂をこよなく愛する彼女は驚くほど手が出るのが早く、だからアルフィアの機嫌を損ねた瞬間にクラネル家の男は問答無用で吹き飛ばされる。

 

何があってもアルフィアだけは怒らせてはならない。それがクラネル家の不文律であった。

 

一人が怒られただけで他の二人も連帯責任として殴られるのだ。

 

彼女の前では世界中にその勇名を轟かせていた最強派閥を率いていた大神も、その眷属であり『陸の王者』討伐の立役者である英雄も、世界で唯一アルフィアに並ぶ才を持つ才禍も女王様に媚びへつらう小間使いと化す。

 

調子にのってアルフィアの前で騒いだ日には翌日一日中はベッドの上で過ごす羽目になる。

 

中でも神話級問題児であるゼウスは度々、死も恐れずにセクハラまがいの行為に及んだりもするのだが、結果は言わずともお察しの通りである。

 

そして今日も村の女性の中で誰が1番可愛いか、なんて馬鹿な話題で盛り上がってしまったばかりに福音鉄拳ゴスペル・ナックルを喰らった男達が宙を舞っていた。

 

ゼウス、ザルド、アルの三人を等しく畑の肥やしとした女王様は唯一、制裁から逃れてオロオロしているベルを抱き上げ、『ベルの教育に悪影響しか与えない愚図共め·······』と吐き捨てて家に戻ってしまった。

 

なんてひどい!! ザルドはともかくアルは恩恵も受けてないただのクソガキだというのに!!

 

「───あぁ、食事を終えたら『鍛錬』の時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基本、クラネル家において日々の食事を作るのはザルドとそれを手伝うアルだ。

 

アルフィアもまあ、作れるには作れるが誰よりも食にこだわるザルドと事あるごとに雑事をアルフィアに押し付けられているアルが担当になったわけだ。

 

全身ボロボロになりながら取る食事は美味であるはずなのに全く味を感じなかった。

 

そして、昼餉の後に始まった日課の鍛錬だが────

 

「ごっ、あぐぅ────!?」

 

 またもや人体が曲がってはいけない角度に曲がってしまったアルの身体が地面をバウンドしながら転がっていく。

 

常人ならば間違いなく後遺症が残るだろう。しかし、そこは腐ってもアルフィアに並ぶ才を持つ者。

 

即座に立ち上がると痛みを無視して戦闘態勢をとる。

 

「隙しかない構えはするだけ無駄だ、間抜け」

 

 返ってくるのはそんな冷たい罵倒の声とそこらの恩恵持ちの首程度なら容易く落とせるであろう手刀だった。

 

すぱこーん、と良い音を立ててアルの後頭部を叩いた一撃で意識を失ったアルは地面に倒れ伏した。

 

またすぐに意識を取り戻して立ち上がるがその度に吹き飛ばされる。何度も、何度でも、気絶しては叩き起こされ、殴られ、蹴られ、踏まれ、殴られる。

 

「ガッ、ゴッ、うっ、ぐっ、ぐはッ!!」

 

 こんな鍛錬をしている者はオラリオの冒険者にもいないだろう。アルフィアの一挙手一投足でアルはズタボロにされていく。

 

いくら才能があろうと恩恵も受けていない12歳の少年と現状、比喩抜きで『世界最強』であるアルフィアとではそれほどまでに生物としての格が隔絶している。

 

そうでなくとも、これまでに修行という修行をしたことがなく、至高の才を持つがゆえにできぬ者の気持ちがわからぬアルフィアによるアルへの鍛錬は常軌を逸する厳しさがあった。

 

生と死の境界を見極め、その上で限界を超えなくては真に強くなることなど不可能だというアルフィアの持論。

 

冒険者という生き方の過酷さと責務の重さを誰より知るアルフィアだからこそ、アルに妥協を許しはしない。

 

それがわかっているからこそ、アルも必死に抗い続ける。

 

時には手を縛られた状態でモンスターの巣に放り込まれたこともあった。

 

獅子よろしく崖から突き落とされたことも、激流の中に沈められたこともある。

 

天然の迷宮で迷子になって何週間も彷徨った時もあった。それはまさに地獄のような日々であったが、アルは諦めることだけはしなかった。

 

どれだけ無様に這いつくばろうと、血反吐を撒き散らそうと、泥水をすすり雑草を食んでも期待に応えようと心折れることはなかった。

 

生死の境をさまよったことも一度や二度では済まない。それでも、アルは己の限界を超えるべく、この怪物に追いつくためだけに全てを捧げた。

 

そうして、今日もまたアルはボロ雑巾のようにされたのであった。

 

「身体能力に頼るな、武器により掛かるな、技を磨け」

 

 手っ取り早く強くなりたいのであればそれこそゼウスあたりに神の恩恵を刻ませればよいのだ。

 

アルが神に近づく恩恵の力を受ければ即座に並ならぬ強さを手に入れることができるだろうが、アルフィアはそういった手段は好まなかった。

 

神の眷属として究極に至った英雄たちの強さを誰よりも知り、その上で神時代1000年の歴史の結晶である最強の英雄たちがたった一匹の竜になすすべなく蹂躙される様を目の当たりにした彼女がアルに求めるのは神意なんてものが介在する余地がなかった古代の英雄達が如き強さだ。

 

最終的に神の恩恵を授かること自体は否定しないが自身と同等以上の速度でランクアップを重ねるであろうアルがその激上するステイタスにより掛かってしまわないように『技と駆け引き』を叩き込まねばならない。

 

器に振り回されることのない心身を育むことがアルの課題なのだ。

 

それがアルフィアの出した結論であり、故にアルはこうして毎日、地獄の特訓を受けているのである。

 

どちらかといえば常識人よりであるザルドは何度も止めようとしたがその都度、邪魔をするなと言うがごとく福音鉄拳ゴスペル・ナックルによって殴り倒されていた。

 

よりタチが悪いのは普通の子供であればすぐにでも音を上げてしまうだろうが、アルフィアも顔負けな才覚を持つアルは恩恵もうけていない身でありながら虐待のような鍛錬に適応しつつあるということか。

 

「この程度か?」

 

「················」

 

 まあ、しかし、それでもアルフィアに対抗できるだけの力があるわけでもなし、一方的に叩き潰されているのは変わらないのだが。

 

「あの······明日、オラリオ行く日なんで今日はこのくらいに······」

 

「·········ああ、そうだったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────本当はな。私は、お前達と会う気なんて更々なかったんだよ

 

─────お前達の前に姿を現すことだけはすまいと、そう思っていたんだ

 

今ある仮初めの平和を崩し、ありとあらゆる善なる者を絶望の淵へと叩き込む絶対悪。

 

秩序を乱す者。

 

平穏を穢す者。

 

世界の敵。

 

全てを灰燼に帰した後、残った者に綺羅星が如き『正義』の在り方を問い、『英雄』たる存在へと昇華させる。

 

『次代の英雄』のために、世界を救う『最後の英雄』を生み出すために、悪を持って踏み台となる。

 

停滞を打ち破り、その他多くのものを殺すことでその屍の中から英雄たる人物を見出し、導く。

 

そんな、そんなことを、そんな未来を、そんな使命を、そんな運命を、そんな役割を、そんな罪科を、そんな業を、そんな呪いを背負う覚悟を、私は既にしていたはずなのに。

 

たった一つの『正義』を生み出すための『悪』になり果てていたはずだったのに。

 

だが。

 

─────だが、私はお前達の白い髪を見てしまった

 

汚れを孕まない純白の髪を見てしまった。

 

忌々しい赤目を除けば白い髪も、顔も、笑みも、全て母親譲りな、·············メーテリアによく似たベル。

 

そして、私をして戦慄を抑えられない神才、私とは違い病という枷もない、兄としてベルを守ることのできる·············昔日の私の理想そのものとも言える、アル。

 

涙は流さなかった、けれど、無理だと思わされてしまった。

 

こみ上げてくる激情に、自らの心に嘘をつくことはできなかった。

 

愚かしくも私は世界の行く末よりも妹の忘れ形見であるお前たちを選んでしまった。

 

そして同時に思ってしまった。

 

─────幼いお前達を残して死ぬのは嫌だ、と。

 

 かつての、私が聞けば唾棄するような醜い欲。ああ、認めよう。

 

 

私は自らに課した『原罪』を取り払ってでもお前達の『母』でありたいと願ったのだ。

 

黒き竜への怒りは私の中で消えない炎となり今も燻っている。

 

けれど、それ以上に私はお前たちとともに生きていたい、そう思ってしまった。

 

神の眷属の【スキル】は眷属の心を表すもの。11年ぶりのステイタスの更新、長年、私を蝕んできた【スキル】は何事もなかったのように消えていた。

 

─────妹への贖罪よりも、お前たちへの欲が勝ってしまったのだろうか

 

不思議と、罪悪感は湧かなかった。

 

だが、私達が『正義』を生みだす『悪』を選ばなかったせいで『英雄』は芽吹かないかもしれない。

 

だから、身勝手な思いだと理解しているが───。

 

明日、お前はあの英雄の都へ旅立つ。そこでは数多の困難があり、幾多の挫折を経験するだろう。

 

そして、数多の英雄達がお前の前に立ちふさがるだろう。

 

だが、どうか諦めてくれるな。

 

抗ってくれ、足掻いて、藻掻き続けて、それでもなお届かぬ高みがそこにあるならば這いつくばっても前に進んでくれ。

 

その果てに───

 

「─────アル、お前が『最後の英雄』になってくれ」

 

 

 

 

 

『··········まあ、ベルにやらせるよりはマシか』

 

別れを告げる黄昏の刻。空に浮かぶ太陽に照らされる雪のような白い髪を揺らしながら、アルは一人呟いた。

 

オラリオ、冒険者の街。

 

かつて、世界の中心に座する英雄が住まう地。

 

世界を救うという責務をかせられた英雄達が生まれ続ける場所。

 

その約束の地に行く少年は静かに笑う。『母』から託された願いは少年が思う以上に重く、そして険しいものかもしれない。

 

いつの日か少年は英雄という責務を嫌うかもしれない。いつかは己の無力さに嘆く時が来るのかもしれない。

 

けれど、それでも、きっと────────

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

アル・クラネル

所属︰フレイヤ・ファミリア

種族︰ヒューマン

職業︰冒険者

武器︰大剣

イメージカラー︰白黒

好きな食べ物︰甘い物

バトルタイプ︰オールラウンダー

天敵︰アルフィア、アミッド、ミア

 

『Lv3』 

 力:I0

 耐久:I0

 器用:I0

 敏捷:I0

 魔力∶I0

幸運︰F

直感︰H

 

《魔法》

【サンダーボルト】

・速攻魔法

・雷属性

 

【シレンティウム・カナン】

・付与魔法

・損傷回復

・精霊加護

 

《スキル》

憧憬追想(メモリアフレーゼ)

・早熟する。

・隻眼の黒竜を討伐するまで効果持続。

・想いの丈に比例して効果向上。

 

地喰到天(ティフォン・アルカディア)

・あらゆる技能の習熟が早まる。

・潜在能力(ステイタス)を限界まで引き出せる。

・魔石を喰らうことで経験値獲得

・魔石を喰らうことで全アビリティ強化

 

英雄王道(アルバート)

・能動的行動に対するチャージ実行権。

・解放時における全アビリティ能力補正。

・能力補正はチャージ時間に比例。

・対竜種時、特別な補正。

 

リューとか除けばほぼ独学の本編やアストレアレコードとは違い、前衛系Lv7なザルドと後衛系Lv········7か? 英雄二人の薫陶をこれでもかと受けた上でのオラリオ入りなのでまあなんというか、かなりヤバいです

 

情操教育(ゴスペル)によって性根を矯正されており、曇らせ性癖が些かマシになっており、割と真っ当な英雄になります(度々、まえがきとかで言ってた曇らせ抜きの対人関係に近い)

 

スキルとかもいろいろ変わりますが、やってることは本編とあんま変わってないのはアレですね。

 

本編でのことは原作知識振り回して最速でエニュオを狩りに行くのでだいぶ変わってくるんじゃないかな。万一の場合はマザーパワーアルフィアが出張ってくる(ついでにパッパザルド)という無体、エニュオは泣いていい。

 

【キャラ】

アイズ→うん、まあ、本編よりはいいよ

フィルヴィス→真っ当に救われるかもしれない

アミッド→どの世界線でも何一つとして変わらない

 

フレイヤ→目が潰れる

ヘルメス→腰抜かす

エニュオ→「まだ何もしてないのに······」







みなさんの日々の応援のおかげで100話まで行けました、本当にありがとうございます。

また、昨日は多くの温かいコメントと本当にすごい量の評価を頂いて感謝の気持ちでいっぱいです。

もらったコメントや評価してくださった方は一人一人目を通させていただいています、今後も更新の励みになりますのでコメントと評価をいただけると幸いです。

そして、ようやく作品も折り返し地点を過ぎたところなのでこれからもどうかよろしくお願いいたします。
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