皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
お試しで文章の書き方とかをほんのちょっとだけ変えてみました
ダンジョン19階層、大樹の迷宮。
自然の迷路を構成する床や壁そのものが下手な石材よりも硬質な木皮で出来ている緑の迷路。
樹木の甘い香と血の匂いが混ざり合ってむせ返る様な香りが鼻をつく腐臭にも近しい匂いが嗅覚を責め立てる。
陽光の代わりに青緑色の苔が照らす視界は薄暗く、恩恵を受けた冒険者でなければ足元もおぼつかない。
その上、様々な配色の枝葉に阻まれて視界の確保すら難儀する程だ。森林での戦闘に慣れたエルフであっても油断すれば簡単に道を見失いかねない自然の迷路。
この層域特有の奇っ怪な植物群と、そこに巣くうモンスターが侵入者たる冒険者に容赦なく襲い掛かる。
「─────ッ!!」
木々の間から群れを成して飛来したトンボ型のモンスター、ガン・リベルラが甲高い羽音と共に鋭い牙を備えた顎を開きながら次々と空中を舞う。
機動力に秀でた飛行モンスターに遅れてメタルラビットやバクベアーといった地上を走るモンスター達が続々と姿を現す。
どれもこれもが厄介な敵だが何より問題なのはその数であり、数も質も上層までとは比べ物にならないほどに上回っている事だった。
「ぉ、おおおおおおおおッ!!」
そんなモンスターの群れを前にしたヴェルフは先陣を切って飛び出してきたガン・リベルラを大刀の一撃で両断し、返す刃で周囲の敵を斬り払う。
どのモンスターもランクアップを果たした上級冒険者でなければまともに相手取れない程のポテンシャルを持つ。
だが、春姫の【ウチデノコヅチ】によって疑似Lv.3状態になっている今のヴェルフにとってはそこまでの脅威ではない。
一振りごとに複数のガン・リベルラを巻き込んで切り裂く圧倒的な剣閃の前にモンスター達は瞬く間に数を減らされていく。
「──────シッ!!」
そして、アタッカーとディフェンダーの役割を一人でこなす上級鍛冶師を凌ぐ速度で戦場を駆け回りながら速攻魔法の炎雷と共に魔石を穿つ白い影があった。
紅蓮の短刀を逆手に構えたベルはその速度に特化したステイタスを駆使してモンスター達の間を縦横無尽に飛び回る。高速機動による撹乱に加えて速攻魔法による絨毯攻撃を繰り返すことで的確に敵の戦力を削いでいく。
その速度はLv.4にも引けを取らない程であり、中層域のモンスターですら手玉に取りつつあった。
「魔剣はあと二振りですか············リリ殿、20階層まであとどれほどですか?」
「19階層の半分以上は進んでいます!もう少しです!」
後衛であるリリルカと春姫、そしてウィーネを守る中衛として位置取りをした命は時折間近の壁から現れるモンスターの迎撃をしながら進んでいく。
前衛を担うベル達の背後を守りつつ、後方より襲いかかるモンスターを牽制する役割を担う命。刀を手に、まるで舞でも踊るかのように軽やかな動きで迫りくるモンスターを次々と屠っていく。
しかし、いくらなんでも多勢に無勢、立ち止まることなく先へ先へと進んで行くパーティー。
唯一のLv.1であり、この層域のモンスターとは直接戦闘できないリリルカも戦闘中のベルに代わってパーティー全体の状況を把握しつつ、戦況に応じて適切な指示を出す司令塔としての役割を全うしていた。
20階層への正規ルートを進んでいるとはいえ、いつどこから襲撃があるかも分からない樹海の中を進み続ける緊張感が絶え間なく続く。
アイテムの消耗は激しいが、目立った外傷や武器の破損もなく順調に攻略を進めていく一行。
「ドロップアイテムは最悪放置しても良いですが、魔石だけは必ず回収してください!」
「わたしも手伝う!!」
道中で倒したモンスターから得た戦利品は全てリリルカの指示の下、回収作業が行われる。中層のモンスターのドロップアイテムだけあってしかるべき場所で売ればかなりの値段になる。
ただでさえ懐事情が乏しいのだ、少しでも収入を得るためには可能な限り拾っておく必要があるのだが、如何せん数が多いためにどうしても手が回らない時が出てくる。
かさばるドロップアイテムなどは最悪、置いておいても構わないが、魔石だけは絶対に拾い集めるようにと念押しする。
モンスターが食べでもして強化種になったりしたら目も当てられない。
「それにしても、この辺りは本当にモンスターが多いな」
「時間帯が悪いのかも知れませんね。他の冒険者も見当たりませんし、その分モンスターが分散せず私達に集中している可能性もあります」
ヴェルフの言葉にリリルカが答えながら周囲を警戒するように視線を動かす。今は僅かにまだ余裕があるが、下層に近づくにつれてこれ以上の質と量を持ったモンスターが群れを成して襲ってくることになるだろう。
そうなった場合、いかにベル達が強いといっても苦戦を強いられるかもしれない。
「··········」
「? どうかしたのウィーネ?」
ヴィーヴルの異端児の少女、ウィーネ。
最強の系譜である竜種ゆえにこの階層のモンスターにも負けないほどのポテンシャルを持ってはいるがその内面は人間の幼児とさして変わらず殺気立つモンスターを前に萎縮している。
青白い肌を隠すようにゴライアスのローブを纏い、フードを被って顔を隠している少女はモンスターに怯えるように肩を抱きながら歩く速度を落としていた。
その様子に気付いたベルが心配そうに声をかけるとウィーネは小さく首を振って何でもないと答える。
ウィーネ自体、『それ』が何かは分かっていない。
懐郷と恐怖の入り混じったいびつな感情。それは意識の奥底に根付く本能的な恐怖と故郷を思い出させる懐かしさ。
「こわいけどなんだか·······なつかしい、きもち······?」
自分でも理解しきれない複雑な気持ちに戸惑っているウィーネを安心させようと、ベルは優しく微笑んで彼女の頭を撫でた。
ウィーネも最初は驚いたものの、すぐに嬉しそうな表情を浮かべて受け入れる。
そんなやり取りを見て、リリルカは少し羨ましそうな顔をしたが、直ぐに我に返って進行方向を見据えた。
今はとにかく進むしかない。
こうして、一行は20階層を目指して樹海の迷宮を進んでいく。
命たちにとっては初見の階層域であり、湿度の高い空気はじっとりと重く、体力を奪っていく。加えて、視界の悪さも相まって精神的な疲労も蓄積されていく。
森林の特色をそのまま冒険者を殺すために反映したような広大な階層域には多種多様な植物群や樹木で構成された森が広がっている。
虹色の蜜を垂らす巨木や、毒々しい色合いの花々、奇妙な形をしたキノコ、岩に擬態した巨大なアリ塚、銀白色に輝く鱗粉を撒き散らす蝶、どれもこれもが地上では見たことのない奇っ怪なものばかりだ。
本来であれば手探りに未知の層域を進まねばならないところだが、事前に用意していたマップのおかげで迷わずに進むことが出来ているのは幸いだった。
この世にあらざる美しすぎる自然を横目に見ながらひたすら前進していく。
樹洞に潜む巨大ムカデや、鋭い牙を持つ大顎をもつ甲虫型のモンスターが襲いかかってきたが、その全てを蹴散らしながら先へと進んで行く。
「··············っ」
なにかに見られている、と肌を刺す嫌な気配を感じ取ったベルは怪訝そうに眉を寄せた。
モンスター達はこちらに対して殺意を抱いて向かってくるが、今感じ取っている視線は明らかに違う。
まるで値踏みされているかのような感覚を覚えたベルは周囲に神経を張り巡らせる。
「(········一体、どこから?)」
姿は見えない。しかし確かに感じる何者かの視線。大小様々な植物が生えるこの層域には隠れる場所などいくらでも存在する。
19階層に入ったあたりから違和感を感じていたが、この20階層に近づいてからというもの、より一層強くなっている気がする。
正体不明の視線に晒されながらも、足を止めずに進んでいくベル達。度々、襲い掛かってくるモンスターを屠り、あるいは避けながら先へ進んでいく。
やがて、開けた場所に辿り着いた。
「ここは········」
そこは天井や壁が発光する水晶のようなもので覆われており、薄暗い樹海の中でもその場所だけは別世界のように輝いていた。
まるでそこだけ空間を切り取って別の世界に持ってきたようだ。
今まで通ってきた通路も中々の広さだと思っていたが、この場所はその比ではないほどの広さを有している。
ちょっとした村くらいならそのまま収まりそうな広さがある。
指定された20階層への降下路。その直前である大広間に到着したベル達。上層も度々、広間のような構造をしているが、こちらはかなり広い。
木皮や草花に覆われている地面も他に比べて綺麗に均されており、歩きやすい。
「あれが20階層への降下路で────」
『グォオオオオオオオオオオオッ!!』
「っ!?」
20階層へと続く道を指し示そうとしたリリルカの言葉は突如として響いた轟音によって掻き消された。
「今のは、いったい·······!?」
森林を揺るがす『
それは、あまりにも規格外の存在。体高7Mはあるであろう巨躯、尾を含めれば15Mは優に超えるだろう。
全身を覆うのは鎧のような鱗、太い四肢と尻尾の先端には鋭利な爪と針状の棘が生えている。木皮を思わせる表皮は緑色に染まっており、頭部は蛇のような爬虫類特有の縦長の瞳孔が宿っていた。
ダンジョンの構造そのものである森林を突き破って現れたそれは、竜種と分類されるモンスターの一種。
「なっ、あれは
「中層最強の········なんで19階層に?!」
本来であれば24階層に極少数点在する宝石樹を守る宝財の番人であり、階層主であるゴライアスを除けば間違いなく中層最強のモンスターである
それが何故こんなところにいるのかと、驚愕に目を見開く一同。だが、そんな疑問も次の瞬間には吹き飛ばされた。
ドッ、と空気を震わせるほどの勢いで直進した
「「「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」」」」
直後、先程まで立っていた場所を通り過ぎた
階層主にも劣らない威圧感を放つモンスターを前にリリルカは悲鳴を上げることすら出来ずに硬直してしまう。ウィーネに至っては怯えきった表情を浮かべてベルの背後へと隠れた。
本来、24階層に出現する
「────まさか、強化種?」
ぽつり、と呟かれたリリルカの一言。それに呼応するように、緑色の巨体は身じろいだ。
ベルが初めて冒険をした相手である片角のミノタウロスがそうであったようにダンジョンには時折、同胞であるはずのモンスターの魔石を喰らう個体が現れることがある。
俗に言う、強化種と呼ばれる存在だ。
禁忌の共食いによって際限なく力を増幅させるダンジョンにおける最悪の敵の一つ、それがこの強化種である。
目の前の
何より、この威容。
巨躯から放たれる存在感。サイズ以上に強大さを感じさせるその佇まい。18階層で相対した黒いミノタウロスほどではないにしろ、それに通ずる脅威を感じる。
深層で言うところの強竜に相当する宝財の番人として通常の個体であっても第二級冒険者複数人でなければ倒せない
レベルで換算すれば3の上位、あるいは4に届く。この個体が
しかし、ベルはこの状況下にあっても冷静だった。
冒険者としての経歴の短さに反してくぐってきた死線の数は並ではない。
冒険者として新人の部類でありながら既に2度のランクアップを果たしたその強かさは確かなもの。この程度の窮地など幾度となく経験してきた。
「一旦、逃げ───」
誰よりも早く決断を下したのはやはりというべきか、ベルだった。彼は素早く撤退を提案しようとしたのだが────。
ダンジョンの悪意はその程度の賢しさで見逃してくれるほど甘くはない。
逃げようと踵を返した後方から響く羽音。幾重にも重なって雨音のように降り注いでくるその音の正体は─────無数の蜂型モンスターの群れだ。
「······デッドリー・ホーネット?」
大型犬ほどの大きさを持つ凶悪な外見の蜂型のモンスター。ガチガチと顎を鳴らしながらこちらに向かって飛んでくる。
中層最悪の劇毒、金属板すら貫く鋭利な針から注入される致死性の猛毒。ランクアップを果たした上級冒険者であっても一滴でも注入されれば命を落としかねないその攻撃手段は間違いなく中堅殺しの一角に数えられるモンスターに相応しい。
【耐異常】のアビリティで即死を免れたとしても、その毒性により戦闘不能に陥ることは避けられない。仮に生き延びたところでその後に待っているのは大量のモンスターによる袋叩きだ。
掠り傷一つでも致命的となる上級冒険者殺しの毒蜂。めったに遭遇することのない
10、20、30·······数えきれないほどの数で迫る死の軍団を前に、リリルカ達は絶望に顔を青ざめる。
「嘘っ······!?」
「くそっ、挟まれたか!?」
──────『
ダンジョンの悪意そのものとも言えるモンスターの異常発生現象。冒険者を殺すための罠。
前門の竜、後門の蜂。
先ほどまでいた入り組んだ樹海であればまだ逃げる余地はあったかもしれないが、ここは20階層までの一本道。
退路は完全に塞がれている。絶体絶命の状況に誰もが息を呑み、戦慄する。
片角のミノタウロスとの戦いは一騎打ちだった。
アステリオスとの戦いにはベートをはじめとした心強い仲間がいた。
【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯は試練としての戦いだった。
だが、今回は違う。
たった6人しかいないパーティーに襲い掛かるのは中層最強のモンスターの強化種と無数の中層最悪のモンスター。
絶対絶命の窮地にベルですら冷や汗を流し、動揺を隠せない。迫り来るモンスターの大軍を前にして、ベルは思考を巡らせる。
しかし、答えは出ない。
勝てるはずがないと頭で考えるよりも先に本能が悟る。
これは、もう駄目だと。
ベル達の表情から生気が消えかけたその時、 ───ドォオオオオンッ!! と轟音と共に雷光が轟いてモンスターの大群を雷鳴が包み込む。
それは一瞬の出来事であり、視界を埋め尽くしていたデッドリー・ホーネットの群れは瞬く間に灰塵と化した。
超越者たる英雄ならざる彼らでは知覚すら許されぬ迅雷の輝撃。ランクアップを果たしているベル達でさえ、辛うじて視認できたのは眩く光ったその残滓のみ。
そして再び、煌めく雷瞬。
都市最速、すなわち世界最速たる疾さで以て振るわれた一撃は光として後続のモンスター達を嘗めた後、遅れて魔石どころか全身を文字通りの粉微塵に粉砕した。
閃光が通り過ぎた後の光景を見て、一同は呆然と立ち尽くす。
その雷の主は全身を漆黒の武具で覆う一人の少年。その頭髪の色もあってどこか無機質な印象を与える端正な顔つき。細身でありながらも引き締まった肉体。
そして、右手に持つは身の丈にも及ぶ巨大な剣。
一目見ただけでわかる。その男こそが、都市最強の片割れにして最優の冒険者。冒険者の到達点に座す存在。
瞬間、場の雰囲気が一変する。
気配が違う。英雄たる人物の醸し出す戦慄のオーラ。蜥蜴と竜ほどの存在感の差がある。そんな存在を前に、リリルカ達は言葉を失う。
決して殺気立っているわけではない。しかし、その男は常人では決して勝てないと思わせる何かを放っている。
「に、兄さん·········?」
全身を焼かれながらも戦意を失っていない
「危なかったな、ベル」
ベルの兄、アル・クラネルがそこにいた。
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─────少し前
アル「だっっる、ベルたちが来るまで寝てよ········ぐぅ」
リド「いや、来てる来てる!! もう19階層!!」
アル「───はぁ?!」
寝起きかつ超スピードで駆け抜けてきた白髪頭でした。なお、こっから先しばらくはゲスなこととクズなこととアホなことしかしない模様。