皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
総評価数1000突破ありがとうございます。めっちゃモチベーション上がりました。これからも、コメント、評価、よろしくおねがいします。
十一話 お前いつもニヤけてるから嫌い、曇れよ
アル・クラネルの朝は早い。
日が昇ってくる頃には剣を持ってダンジョンへ潜り、単騎での突貫をして最近では一時間程度で下層、25階層まで潜っている。
熟練冒険者の中で新世界と呼ばれ、【天然武器】で武装したモンスターやLv.3相当の水棲モンスターが相手に地の利がある状況で襲いかかってくる大瀑布『巨蒼の滝』で水浴びをしてからこれまた高速で駆け上がり、皆が起きてくる頃には自室の掃除に手を付けている。
そしてアイズやティオナ達、若手の幹部陣と朝食を摂ってからはダンジョンに行く日なら深層まで一人で潜って発展アビリティ【幸運】の効果でドロップ率の上がったドロップアイテム狩りをしてフリーの日なら訓練室で鍛えている二軍、三軍の者達にやさしく訓練をつけてあげる。
最強の男の胸を借りられる幸運を逃すまいとアルが訓練に参加する日は多くの参加者がアルへ挑んでは返り討ちにあっており、たまにアイズやティオナなどの若手幹部が徒党を組んでかかってくることもある(なお、Lv.4上位の二軍中核メンバーは大抵アルにビビっているので参加しない)。
無論、訓練をつけたりすることにアルへの見返りはないが常日頃から周りの者の好感度をこまめに上げておくことで曇らせ時のカタルシスを増やそうとしているのだ。
昼食を摂った後、フリーの日であれば【ヘファイストス・ファミリア】や【ディアンケヒト・ファミリア】に赴いたり、昼食自体を【豊穣の女主人】で摂ったりもする。
今はその昼食のあと。
昼時をやや過ぎ、人通りの少なくなった街角にアルを待ち伏せていたかのようにその女神はいた。美という概念が擬人化ならぬ擬神化したかのような銀糸の女、女神フレイヤである。
「こんにちは、奇遇ね」
「────。」
だが、アルの目を引くのはその至高の美を持った女ではなく、女神の後ろに忠実な従者の如く側めている巌の男────至高の武を誇る『猛者』オッタルをおいてほかはない。
どちらもLv.7、どちらもオラリオ最大派閥が誇る最強の漢である二人が顔をあわせることは少ない。他でもない二神、ロキとフレイヤの配慮によるものだ。
かつて挑む者と挑まれる者であったアルとオッタルは四年前、アルがLv.2だったときにフレイヤの企みのもと、真剣による死闘を行っている。その勝者は言うまでもなくオッタルであったがその戦いの中でアルは確かに何かをつかみとり、世界最速記録を更新するレベルアップを果たした。
それ以来、アルはオッタルを敵視するようになりオッタルも【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が消えてから唯一、全力を出して戦える自らと同じ頂天へ登りつめたアルを特別視している。
だが、この二人が戦うということは一介の冒険者同士の諍いとは次元が違う個人間での戦争とも言うべきものだ。万が一、都市内で両者が刃を交えれば一体、どれほど多くの被害が出るのかは神ですらもわからない。
そして何よりもその戦いでどちらかが──あるいは両者ともに死んでしまった場合、それは各ファミリアの損害には収まらずオラリオ全体、ひいては世界の損失と同義である。最悪の場合、15年前の暗黒期の始まりのような有様になってしまうかもしれない。
故に、異例も異例ではあるが近隣諸国の首脳陣との連名でギルドから両者の私闘を禁ずる命が出ている。それを当然わかっているフレイヤがアルに会いにいく際にわざわざオッタルを連れてきた理由は何なのか。
「あら、私ではなくオッタルばかり見て、妬けてしまうわね。安心なさい、オッタルを連れてきたのはただの気まぐれよ、他意はないわ」
「御託はいい、なんの用だ」
「ただ貴方の顔が見たくなっただけ、それではいけないかしら」
男に限らず心を持つ知的生命体であれば尽くを魅了し尽くすフレイヤがまるでそこらにいる恋する町娘であるかのように頬を赤く染めて笑う。
瞬間──世界が止まった。今の今まで盛況だった街から一切の音が消え、一切の動きが停止した。
犬も、鳥も、虫も、人も、神も、その動きを止めてただ一点、蕩けるような笑みを浮かべたフレイヤを凝視し、身体の全機能を美を認識するためだけに特化させた信者と成り果てた。そして、そんな世界を作り出したフレイヤは、艶然と微笑む。
そう、時間など止まってはいない。言うまでもなく全知零能たる下界の神にそのような力は振るえない。
この現象の正体は魅了。あらゆる生物の精神を一瞬で虜にする究極の『美』だ。そんな、文字通りの意味で神の領域にある美貌を持つフレイヤは、己の持つ魅力を最大限に発揮する極上の笑顔を浮かべたまま、そっと口を開いた。
──ねぇ、あなた。私のものになりなさいな。
フレイヤの声は、音として世界に響いたわけではなかった。しかしそれでも、その声を聴いた者は例外なく彼女の命令に従い、フレイヤの所有物となった。フレイヤの言葉を聞いた信者たちは、まるで夢遊病者のようにフラフラとした足取りでフレイヤの前に並び立ち、そのまま一斉に膝をつく。
──それは美の神が行う全身全霊の魅了。
ありとあらゆる存在の意識を自分だけに向けさせ、虜とする魂への絶対支配だ。この世に存在する全ての生あるものにとって、フレイヤとはまさしく神の如き美しさを持っているのだ。
相手の全てを美で塗り潰し、全ての生命活動を美の認識に捧げさせてしまうほどの、魂を捻じ曲げる女神の情愛。
それはオッタルですら意識しなければ呼吸を忘れてしまうほどの強制力を持って世界全てをたった数秒で塗り替えてしまった。
今のフレイヤに逆らうことは世界への反逆にも等しい。
世界をまるごと敵に回す覚悟がなければ美という概念に押し流され、矮小な人間の人格など千回染め上げて余りあるだろう。
だが──────。
フレイヤは自分の万物を自身の絶対的な傀儡とする神をも侵す魅了にも靡かない男を見て微笑む。それは下界の者を翫ぶ嘲笑じみた微笑みではない。自分の魅力が全く効いていないという喜びからの笑みだ。
「(やっぱりこの子·············!!)」
自分の魅了に全く動じないどころか逆にこちらが魅了されそうになるほどの眼力を放つ青年を前にして、フレイヤは歓喜に打ち震えた。
これほどまでに美しい人間を見たことがない。否、これこそが美だと言わんばかりの輝きを放っている。
フレイヤは今まで出会った人間の中でアルが一番気に入っていた。誰よりも才能があるから、とかそういう理由ではない。もっと根本的なところで気に入ったのだ。アルにはどこか神々しさすら感じるような雰囲気がある。それに何よりアルは美しい。自分が見てきたなによりもアルは綺麗だった。外見の話だけではない、なにものにも、フレイヤにだって揺るがせない漆黒の魂。
だからこそフレイヤはアルのことを気に入っている。しかし、だからといってアルをどうこうするつもりはなかった。
フレイヤにとってアルはあくまで観賞用なのだ。眺めるためだけの観賞物。触れようと思えば触れられるが、決して手を出すつもりのない芸術品のような存在。それがアルに対する評価だった。
いや、かつてはそうではなく、なんとしてでも手に入れるための努力をした時期もある。しかし、フレイヤがどんなに手を尽くしてもアルの魂を揺らがせることはできなかった。
故に、フレイヤは諦めた。自分に靡くことのないアルを諦めた。しかし、同時に納得した。なぜ自分はここまであの子に惹かれていたのかと疑問だったが、今なら分かる。
フレイヤは『手に入らないからこそ美しいものもある』ことを学んだ。
そして、それを理解した上でフレイヤはアルを見守ることを決めたのだ。
フレイヤはアルを『神工の英雄』や『伴侶』にしたいわけではない。ただ、アルが起こす風を感じられれば良いと思っている。
だからこそ、フレイヤはアルに対して何もしない。ただ、見守っているだけだ。フレイヤは、アルが望むままに行動して欲しい。それを止める権利は誰にも無いはずだから。
そんなアルが自分をじっと見つめてくる。その瞳は何かを訴えるように真っ直ぐな視線で、少しばかり熱っぽいものを感じる。それこそ、自分に惚れてくれているのではないかと勘違いしてしまいそうなほどに。
けれど、そんなことはないことをフレイヤは知っている。何故ならアルは『名無し』と『女神』の違いを見抜くことできる眼力がありながら自分に興味がない。
アルは美神たる自分に価値を見出していない。都市最強派閥の主神として幾多の心と魂に触れてきたからわかる、自分への無関心。
だがそれすらも『愛される』存在であったフレイヤからすれば心地よい未知。
フレイヤは嬉しかった。初めて興味を持った青年が自分の虜にならないことが、とても嬉しい。
『美』が介在せぬ唯一無二の相手。
そして、そんなアルだからこそフレイヤは期待しているのだ。いつか必ず訪れるその時に、この子が一体何をしてくれるのかが楽しみで仕方がなかった。
フレイヤはそんな風に思いながら、目の前にいる『美』の化身に向けて言葉を投げかけた。
「ああ、やっぱり、貴方は私のことを美しいとは思っていないのね」
「お前の笑みよりも美しいと言えるものを知っているのでな」
それは当然、みんなの曇り顔です(クソデカ感情)
いや、だってよおコイツ、いっつも笑ってて嫌なんだもん。美の神だかなんだか知らんが少しは曇れよ、無敵か?
フレイヤからは度々、改宗の誘いをされているが断固お断りである。だってさ、【ロキ・ファミリア】の面々とは違って【フレイヤ・ファミリア】の連中、俺が死のうが何しようが絶対に曇らないじゃん。
フレイヤ至上主義のオッタルが団長だしクソつまらんわ、お話にもならん。
あ、でもアレンは好きだよ。直接、俺に対してではないから少しあれだけど妹への屈折した感情とかね、あれを引き出すために俺は【豊穣の女主人】にいつも行ってアーニャと仲良くなってるんだ。
アイズ・ヴァレンシュタイン
『Lv.5』
力:D555→D564
耐久:D547→D563
器用:A825→A827
敏捷:A822→A824
魔力:A899→S900
狩人:G
耐異常:G
剣士:I→H
《魔法》
【エアリアル】
・付与魔法
・風属性
「これがLv.5の最後の【ステイタス】なー!」
37階層の階層主、ウダイオスを単独で倒すという『偉業』を成し遂げ、軒並み上昇した基本能力値に加えてランクアップを控えるまでに上がった能力にアイズは静かに驚いていた。
中でも日頃から【エアリエル】を使っているからか、魔力のアビリティは抜きん出ており、最高評価のSにまで至ることができていた。
冒険者のアビリティランクは大抵の場合はCかD、良くてBランク止まりとなる、ランクアップ前とはいえ最高評価Sのアビリティランクに上り詰める事は珍しいことであり、十分な成果だ。
············毎度、Sランクを超越したSSやSSSランクに至る化け物が身近にいるが例外としておく。
ぼんやりとアイズは羊皮紙に書き記されている数値を眺める。
「【発展アビリティ】も発現可能や! 良かったなぁアイズたんっ、 Lv5ん時はなーんも手に入んなかったし!」
「·····どんなアビリティですか?」
「【精癒】や!! うちだとリヴェリアとアルだけが持っとるやつ! 選べるの一つだけやし、これを発現させてもええやろ!」
「二人と、同じ·····? 発現させます、発現させてください」
食い気味で答えたアイズを見てロキは笑う。自分の眷属達は本当に可愛くて仕方ないのだ。そんな愛しい子達の成長は嬉しくもあり寂しくもある。
だからついつい構ってしまうのだが、それがまた可愛い反応を見せてくれるのだから余計に止め時がなくなる。
けれども、今のアイズにいささかの危なっかしさを感じたロキだが、それよりもまず素直にランクアップを喜ぼう。
発展アビリティ【精癒】の効果は魔法発動のための燃料である精神力の急速回復であり、魔法を行使した側から精神力回復薬を使わずとも深い休息を取ったかのようにみるみると回復してゆく稀少アビリティだ。
アイズの表情を見る限りはもう既に決めているようでロキもそれを察して口を開く。
瞬きを繰り返した後、興奮気味に確認してくるロキにぶんぶんと頷く。アイズの背中は、Lv.6へのランクアップが可能であることを告げるよう神聖文字がほのかに光り、
浮かび上がっていた。
ロキはそれを確認するとなれた手付きで指を走らせた。そして、しばらくして一新されたステイタスを羊皮紙へと書き込んでいく。そして、それが終わると羊皮紙を丸めてアイズに差し出した。そこには先程とは少し違う内容が記載されていた。
アイズ・ヴァレンシュタイン
『Lv.6』
力:I0
耐久︰I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
狩人:G
耐異常:G
剣士:H
精癒︰I
《魔法》
【エアリアル】
・付与魔法
・風属性
【ロキ・ファミリア】 ホームはアイズのLv6へのレベルアップの話題で持ちきりだった。
都市最強の派閥であるにも関わらず、今朝からずっと団員達はお祭り騒ぎだ。しかしそれも仕方がない。
Lv.5の壁を破れば、それは英雄の証。Lv.6ともなれば、まさに最強の一角だ。
この都市の冒険者にとって、それは選ばれたものだけが足をかけられる領域である。
アイズ・ヴァレンシュタインはもとより第一級冒険者の中でも群を抜いた実力者だ。
彼女がLv.5だったときでも【エアリエル】という魔法もあってLv.6の歴々に並んで都市最強剣士候補に上がっていたほどだ。
そして今回ウダイオス討伐で彼女はLv.6に至った。つまりは真に都市最強候補筆頭となったのだ。
強く美しいアイズをアイドル視する団員たちにとってはそんな彼女の偉業が誇らしくて仕方がなかった。
─────なお、二年前、当時14歳の頭のおかしい兎カラーがLv.6に至った際には「ああ、また頭のおかしい成長してるよ···········」と祝われるどころかドン引きされていたのは内緒である。
ティオネやティオナもアイズがLv.6になったことには大層喜んでいた。そしてその偉業を成し遂げた少女も、今ホームにいた。
そんなこんなでもみくちゃにされたアイズはスキを見て食堂から逃げ出し、誰もいない時間帯の中庭へ退避した。
ただ、そこには今しがた女神フレイヤを振ってきた男がきれいに整えられた芝生の上に寝転んでいた。
「あっ、アル。···ぁ···ぅ······」
目をきらめかせ、恥ずかしながら隣に寝転ぶアイズにアルは少し驚き、顔を傾けてアイズに話しかける。
「ん、あいつらから逃げてきたのか」
「うん」
「───Lv.6か、頑張ったな」
「うん、───うんっ」
つかの間の穏やかな時間、アイズは幼い頃の両親との思い出に重ねながら笑い。アルはそのアイズの背後から自分に極冷の視線を向けるレフィーヤ・ウィリディスの鬼気に身を凍らせた。
──────────────────────────────────────────────────────────────────
つぎにアイズがいい思いするのいつだっけ··········
フレイヤ「おら、魅了!!」
アル「セルフ『偽現・炉神の聖火殿』」
フレイヤ「おもしれー奴····」
フレイヤのアルに対するスタンスは割と無敵です。伝わらないと思いますが他作品で例えるとセイバールート終盤のセイバーに対するギルガメッシュと終盤のサスケに対する大蛇丸をかけ合わせた感じに近い。
一昔前のモテモテ王子様キャラが唯一、自分に靡かない女主人公をおもしれーやつ扱いする逆。