皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
次のダンメモも周年イベントって何だろう
『剣聖』アル・クラネルは弟子を取らない。
都市最大派閥【ロキ・ファミリア】の幹部であり、都市最強の冒険者である『剣聖』は冒険者として未だ若輩の身でありながらその教えを受けたいと願う者は数多くいる。
たった4年の間に築き上げられた名声と偉業の数々、綺羅星が如き数々の逸話に憧れる者。
神の眷属の中でもっとも才能と
そうでなくとも『九魔姫』リヴェリア・リヨス・アールヴや『凶狼』ベート・ローガがそうであるように熟練の冒険者は自らの後釜となる後進や目をつけた素質のある者を鍛えることはままある。
では、なぜ『剣聖』は弟子を取らないのか。
理由は一つ。
──────『神の恩恵』に依る成長ではアル・クラネルにはついていけぬのだ。
人から神へ近づくともされる『神の恩恵』の力だが、『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインや『猛者』オッタルといった類稀なる才能の持ち主であってもその『器』を昇華させるのには莫大な『経験値』を得るための年単位の時間が必要となる。
アイズ・ヴァレンシュタインがLv.5からLv.6にランクアップするのにかかった期間は三年以上、オッタルがLv.7からLv.8にランクアップするのにかかった期間は七年。
遅い、とは言えない。
むしろそのレベルの高さを考えれば驚異的な早さであると言えるだろう。
魔石を劣化させたモンスターや人間同士の戦いしか経験していない都市外の使い手と異なり、ダンジョンという魔境に日夜挑み続ける迷宮都市の冒険者たちはこれ以上ないほど効率的に経験値を稼ぎ続けていると言っていい。
闘国や学区などと言った例外はあるが、オラリオの冒険者ほど効率よくレベルアップできるのはいない。
それを踏まえた上で『神の恩恵』を受けた眷属は『経験値』をこれ以上無いほどに効率的に獲得することができるオラリオの冒険者であってもその大部分は一度もランクアップを経験せずにLv.1のまま生涯を終える。
故にこそ一度でもランクアップを果たしたものはオラリオ外であれば数十の兵にも勝るであろうし、オラリオにおいても上級冒険者と尊ばれる。
長らくランクアップの世界最速記録を持っていたアイズ・ヴァレンシュタインや【ヘラ・ファミリア】の才禍たる女傑であってなお、ランクアップ所要期間が一年を切ることはなかった。
だが、『剣聖』は一年で第一級冒険者たるLv.5へ········つまるところ四度のランクアップを果たしている。
なかなか『偉業』に恵まれずにいたLv.5からLv.6のものを除けば全てのランクアップは半年以内に果たされており、今でこそ都市最強のLv.8である『剣聖』も半年前までは都市最強
今や前人未到の階梯に指を掛けつつある当代の英雄。そんな『剣聖』に一体、誰がついていけるというのだろうか。
その魔法の特異さからランクアップとはまた違った方向に強くなることのできるレフィーヤという例外こそあるがそれはあくまで特例だ。
純後衛であるレフィーヤと前衛である『剣聖』ではそもそも戦い方が根本的に異なる。師弟と言うにはあまりに噛み合わない。
まっとうな師弟として同じの道を歩むならばまず間違いなく才能の限界が訪れる。
それは師の側からしても弟子の側からしても不幸以外の何物でもない。
仮に、ついていける者がいるとすればそれは人の域にない『怪物』、同族食いによって冒険者の緩やかな成長を嘲笑うかのような速度で自らの位階を際限なく高める『強化種』の如き化け物だろう。
「─────人類と怪物の共存、だって·······?」
ウラノスの口から告げられた言葉にヘスティアは驚愕する。有り得ない。モンスターと人類が共に歩んでいけるなど、そんな未来はあり得ない。
モンスターは人類の敵だ。怪物は人類の天敵だ。それが当たり前の摂理で常識だ。モンスターと人類が手を取り合って生きるなど、そんなことは起こりえない。
「本気で言っているのか、ウラノス!? そんなこと、できるわけが···········」
そんなことは不可能だ、下界に降りたばかりでその情勢を詳しく知らないヘスティアでさえわかることだ。
積み重なった悲劇と怨嗟の連鎖はそう簡単に断ち切られるものではない。家族を奪われた者、愛する者を喪った者、故郷を滅ぼされた者、大切なものを奪われ壊された者はモンスターへの憎悪を心に刻みつけている。
モンスターと人類の溝は深く、そして永劫に続く。どちらかが滅びるまで決して埋まることはない。それが世界の摂理であり不変の事実。
「ああ、本気だ」
しかし、ウラノスの表情に冗談の色は見えない。その双眼には真摯な光が宿っている。
ヘスティアの言葉に肯定してみせた彼は本気でモンスター······異端児が人と共に生きていける道を探している。
「彼らは本能ではなく理性によって行動することができる。人間に歩み寄り、その心に触れてみたいと願っている」
「·······それは」
ヘスティアが想起するのは竜の異端児、ウィーネの無邪気な笑顔。彼女の見せたあの笑みに嘘偽りはなかった。
そこらの人間以上に人間らしい感情を持ち、子供のように純粋な少女。ヘスティアには彼女を『怪物』として見ることはもうできない。
「それに、彼らの居場所はダンジョンにもない」
「? どういうことだい?」
「人類と変わらぬ理知と感情を持つ異端児は同胞であるはずのモンスターからも迫害され、排斥されている」
同じダンジョンから産まれた同胞であるはずのモンスターたちからも疎まれ、忌諱される。それはつまり、この世界のどこにも彼らの居場所はないということに他ならない。
そんな境遇にある彼らを放っておけるかと言われれば、答えは否。ウラノスはそう言い切った。
「彼らをモンスターだから、と葬ることは簡単だ。だが、彼らは爪と牙ではなく対話を選び、雄叫びではなく言葉を交わしたいと望んでいる」
産まれながらに迫害と排斥を受けて生きてきた彼らの慟哭と訴求は痛いほどに理解できる。それを無視して葬り去ることは容易い。
だが、それではあまりにも救いがない。『祈祷』を捧げ、千年間にも渡ってダンジョンに蓋をし続け、この世界の秩序を守り続けているウラノスだからこそそんなことはできない。
ヘスティアもウィーネ達異端児の話を聞かされて思うところはある。
たとえウィーネ達がどんなに自分達と近しい存在であろうと、結局はモンスターであることに変わりない。モンスターと人は相容れない。いつか必ず争いが起きる。
ベルたちの事を、その立場を考えるのであれば切り捨てるべきだろう。
だが、だからと言ってその時になって彼女たちを切り捨てることが自分にできるだろうか。異端児達の悲哀を、絶望を、希望を、願いを叶えずに見捨てることができるのだろうか。
「ウラノス、君は本気で子供達と異端児の融和を考えているのか········?」
「無理難題なのは承知の上だ。私も立場がある以上、独断で動くわけにはいかない。持て余してるというのが実情だ」
「彼らが怪物への忌避感を打ち消すほどの存在理由を証明しなくては実現は不可能だろう」
どれだけ善良であろうと怪物と言うだけで彼らは悪とされてしまう。ならば、彼らは怪物である以上の存在意義を示さなくてはならない。
それができなければモンスターと人類の溝を、その壁を乗り越えることは絶対に不可能だ。
流されてきた血の量、刻まれた傷の深さ、積み上げられた屍の山、その全てがモンスターと人類の共存を阻む。
殺戮を是とするモンスターとそれを非とする人類の溝はあまりに深い。
それを覆せるほどの何かがなければ到底不可能な夢物語。そう断じられても仕方のないことだ。
融和の道のりは果てしない。それをウラノスは理解している。それでも彼は諦めようとはしていない。
へスティアもできることなら彼女らに希望を見せてあげたい。でも、それは難しいことだと理解している。
何度も繰り返したようにモンスターは人類にとって天敵であり、その脅威を取り除くために冒険者は日々戦っているのだ。
仮にウィーネ達が人類の脅威にならない存在だしても異端児たちがモンスターだという事実は変わらない。
モンスターの、『怪物』に味方したことが露見すればベル達は破滅する。最悪、オラリオに居られなくなるかもしれない。
異端児達と同じように同族から排斥され、怪物と関わりを持った者として後ろ指を差されることになる。ヘスティアは眷属のそんな末路は許容できない。
神として、彼等の主神として、そんな未来は許せない。見ず知らずのモンスターたちと愛する眷属を天秤にかけることなどできるはずもない。
手を差し伸べることはできる。
しかし、それによって失うものはあまりに大きい。ヘスティアは俯き、沈黙してしまう。
あまりに残酷な選択だ。その決断は、彼女が愛する少年の未来を閉ざすことになるかもしれない。
「───だが、一年前。私ですらできなかった、誰にも知られぬ、それでいて何よりも尊い─────ただの人として手を差し伸べるという偉業をたった一人の『英雄』が成し遂げた」
「これは、夢か?·········」
眼前に広がる光景にヴェルフは唖然として呟く。モンスター達と仲良く談笑している姿はまるで怪物の宴そのもの。
大きな篝火を中心に輪になって座り込み、酒を酌み交わす怪物たちの姿は人間のよう。
怪物たちが笑い合い、楽しげに話をしている。そこに恐怖はなく、ただ穏やかな時間が流れる。ベルはそんな彼らに交ざって汗をだらだら流しながら杯を傾けている。
命と春姫、リリルカもハーピィ達に捕まって色々と聞かれているようだ。ヴェルフ自身はというと、リザードマンやラミアに囲まれて木のジョッキに酒を注がれている。
山積みに積まれた
それでも緊張してしまう。この場にいる全員が怪物なのだ。あの時、自分達を何度も殺しかけたモンスターと同じ存在。それが友好的に振る舞うのだから戸惑ってしまう。
酒精が感じられるドリンクが入った古びた酒樽の数々や木製の皿に盛られた肉や果物、様々な種類の飲み物が並べられている。
それらが惜しげも無く振舞われ、怪物たちとベル達の間にぎこちないながらも穏やかな空気が流れ出す。
ヴェルフも緊張しながら怪物たちに勧められるがままグラスに口を付ける。強い酒精が喉を焼くが、その味は悪くはない。
「遠慮せずにどんどん食えよ!! ほら!!」
「こ、これは?」
ただ焼いただけの簡単なものから地上の美食もかくやという完成度を誇るものまである。
魚介のスープの入った大鍋や香草と野菜が肉と一緒に煮込まれたシチュー、色鮮かなサラダなどもある。
コース料理のように次々と出てくる料理にベルは目を白黒させる。モンスターが作ったとは到底思えない出来栄えのそれら。
ベルは勧められるままに料理に手を伸ばし、一口食べてみる。
「··············美味しい」
見た目以上に繊細で丁寧な味付けのそれらは絶品だった。
そしてまた別の怪物が大皿に載った巨大な骨付き肉を運んでくる。こんがりと焼き上がった表面の匂いが食欲をそそり、じゅわりと溢れ出る脂の香りがベル達を誘惑する。
肉汁がたっぷりと染み込んだそれを切り分け、ベル達は口に運ぶ。柔らかな食感の後に襲い来る強烈な旨味の奔流にベル達は目を大きく見開く。
口の中一杯に広がる濃厚な肉の味わいに思わず舌鼓を打つ。地上でもこれほどの食事にありつけるところはあまりないだろう。
あまりない、逆に言えば似たような味を提供する店はあり、ベルはそれに覚えが合った。
それらの味は【豊穣の女主人】で出されるのものに非常に似通っている。似ているがそれとは違う、どこか懐かしいその味にベルはハッと気付く。
「これ、もしかして兄さんが······」
「アルっちは何でも出来んだよなっ」
「めちゃくちゃ恐っっっっっろしいドワーフに叩き込まれたからな」
四年ぶりの、村にいた頃より洗練された兄の料理にちょっと感動するベルは兄がいなくなってからの『焼く!! 焦げる!! 塩味!!』な祖父の料理との格差に少し涙が出そうになった。
話していくにつれてだんだんとリドたち怪物の表情や機微がわかるようになり、緊張も解けていく。
騒がしい宴は続き、ベル達はリド達と親睦を深めていく。見た目からは想像つかないほど人懐っこいリド達に面食らうベルだが慣れればその距離感にも心地良さを感じるようになる。
「··········そういえばこの酒樽や装備って、その、冒険者達から·········?」
中身を空にして山積みになった古びた酒樽や彼らが身につけている装備品を指差しながらベルは問う。
食糧とは違って流石にダンジョンで採れるとは思えない。地上由来であろう酒や装備をダンジョンから出られない彼らが得られるわけがない。
「あ〜、いや、酒なんかはもらいもんだけど、この剣とかは───」
「それだ」
リドの言葉に割り込んだのは先程までとは違う意味でどこか緊張しているかのようなヴェルフだった。
「さっきから気になっちゃいたが、お前らの武具は質が
鍛冶師の顔をするヴェルフの目が向けられているのはリドが背中に背負っているどこか生物感のある鞘に納められた漆黒の曲剣だ。
鞘から抜かれてないというのに何らかの圧を感じさせるそれはヴェルフには未知の素材であり、それを剣の形に鍛え上げた技術も相当なものだ。
リドのものだけではない、周囲にいる二足歩行のモンスターの大半は今のヴェルフでは到底作れぬほどの技術が注ぎ込まれ、『深層域』のドロップアイテムから作り上げられた武具を身に着けていた。
人間の体とはかけ離れた怪物が身につけることを前提として作られたそれらはいずれも第一級冒険者の装備と遜色ない輝きを秘していた。
ヴェルフの詰め寄るような気迫にリドは苦笑し、酒樽の山に立てかけてある長直剣を見やる。
そして、静かに鞘から抜き放つ。現れたのは刀身がほんの僅かに波打つように歪曲した両刃刃の剣。
鍔のない両手持ちの、それでいて片手でも扱えるだろう大きさのそれは間違いなく名工の手による業物。
「こういう武器はアルっちが用意してくれたもんなんだ、アルっちはよく一人で深層に潜るんだけど、余ったドロップアイテムをオレっちたちの身体にあった武具にしてくれたんだ」
リドの他にも多くのモンスターが防具や戦闘衣を身につけている。精霊の護符や深層の素材をふんだんに使ったそれらは決して安価なものではない。
深層の素材から作られる装備は考えるまでもなく超一級品。そんなものを仮にリド達全員分を用意しようと思ったら一体どれだけの資金が必要になるのかわからない。
素材を好きなだけ採れるとはいっても深層のドロップアイテムから武具を作るとなるとその手間と時間は馬鹿にならない。
「それと、アルっちに戦い方も教えてもらっててな。流石にアルっちみたいに深層を一人で歩き回ったりはできねぇけど、みんなでなら50階層ぐらいならいけるぜ」
「最近じゃ、アルっちにサポーター?代わりについて行かせてもらったりしてな」と、嬉しげに、あるいは誇らしげに語るリドにヴェルフ達は顔を引き攣らせる。
噂に聞く【ロキ・ファミリア】の大遠征でもなければ潜ることのないダンジョンの深部、そこをそんな気軽に行けるものなのかと疑問が浮かぶ。
薄々感付いてはいたがリド達の実力はオラリオの最高戦力である第一級冒険者にも匹敵するのかもしれない。
都市最高の冒険者がモンスターを鍛えているなど矛盾もいいところだが、リド達を見る限り嘘をついているようには見えない。
もはや、器が広いとかそんな次元ではないとリリルカは半分白目になりながら思う。
「まあ、オレっち達は軽く戦い方を教えてもらってるだけで一番弟子は新顔のアイツだけどな!!」
「へぇ、そうなん·······えっ!?」
何気なく放たれた言葉にベルは驚きの声を上げる。今、リドは確かに『弟子』と言った。あの兄が弟子を取ったという事実にベルは衝撃を受ける。
都市最高冒険者の一番弟子がモンスターなんてことが地上に知れたら大騒ぎになるだろう。
ベル自身、兄が誰かを弟子に取ったなんて聞いたことがない。
「ああ、そうそう、アイツ、ベルっちと会いたいって言ってたんだった」
考え込むベルにリドは思い出したかのように言う。
「僕と──?」
「ああ、アステ───」
そのリドの言葉に「えっ?」とベルが聞き返すより先に篝火の向こうから大きな黒い影が現れる。
それは全身をすっぽりと覆い隠す漆黒の外套を纏い、頭巾を被っているために素顔すら伺えない。
その背丈は高く、フードから覗く口元と手だけがかろうじて見える。だが、ベルはその姿に見覚えがあった。
「あ、貴方は──────」
「ベル、ベル・クラネル。────また、会えて嬉しく思う」
ソレは鋼の如く握り固められた拳を有していた。
ソレは岩石のごとき剛体を誇っていた。
ソレは巨大な黒き大剣を背負っていた。
ソレは────ベルの好敵手だった。
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戦いの師匠︰リュー
料理の師匠︰ミア
戦いの弟子︰アステリオス(レフィーヤは仮弟子)
········アルに弟子入り(料理)したいやついない? 今なら、月謝一月タダだよ