皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
自分的にベストの投稿時間は0時ぴったりなんですけどなかなかそこまでに書ききらない……
0〜1時くらいと朝の7〜8時くらいってどっちの方がいいですかね
四方を岩盤で覆われた洞穴の迷路。饐えた朽木の腐ったかのような匂いが鼻を衝く。
大樹の迷宮と岩窟の境目の大空洞には無数の横穴があり、そこから様々な場所へと繋がっているようだ。
その大空洞はまるで蟻の巣の様に複雑に入り組んでおり、何度もそこを通ってある種の土地勘を持った者でなければ簡単に迷ってしまうだろう。
天井から滴り落ちる水滴の音だけが響く静寂の中で一人、大樹の天蓋から差す月光のような蒼白い輝きに照らされながらウィーネは無言のまま佇んでいた。
彼女が今いる場所が地下だという事を忘れてしまうほどに幻想的な空間。
冒険者たちを魅了してやまない迷宮の絶景だが太陽の輝きに憧れ、その実物を見たウィーネの心にはさざ波一つ立たない。
本物の空を知ればどこか物足りないと思ってしまう。今も思い焦がれている地上の情景を思い浮かべながら彼女は涙で腫らした眼差しで目の前にある光景を眺めていた。
「···············ベル」
少女のようにも見える華奢で小柄な体躯。瑞瑞しい肢体は透き通るような蒼白に染っており、明かりに照らされた肌は真珠のような光沢を帯びている。
憂いを帯びた表情を浮かべる視線の先には先ほど泣く泣く別れた少年の姿を幻視していた。
琥珀色に潤う瞳の奥には複雑な感情が入り混じっていた。哀しみとも悲しみとも違う形容し難い想いが渦巻いている。
「ウィーネ、そろそろ出発しますよ?」
不意に声をかけられ、振り返ると異端児の一人であるハーピィの姿があった。その声に惜しむようにウィーネは名残惜しげに俯く。
しばらくしてポテンシャルは高くともその性根の幼さから戦うことのできないウィーネを守るような隊列を組む異端児達。
小隊規模になった彼らはそのままゆっくりと歩き出す。各自が冒険者風の装備や全身を隠せるローブに身を包んでいるため、遠目から見ただけでは彼らがモンスターだとは到底思えない。
そんな彼らの先頭に立ちながら歩くのはローブでも隠せない体躯を持つフォモール。
彼らは20階層での宴の後、異端児達の本拠地がある下層ヘ向けて移ることにしたのだ。
現在100名近いほどの数がいる異端児達はこの小隊のように六名前後にバラけたパーティを作って冒険者たちの目につかぬように移動している。
異端児達の実力ならば多少の冒険者の目を欺き、姿を晦ませることなど造作も無いことだった。
冒険者の視線から逃れるように中層から下層へのモンスターである異端児達しか知らない最短ルートを度々使って移動していく。
リドやレイ、グロスなどの異端児の主力を含めた小隊が先に行き、残りの比較的弱い個体のいる小隊が後からついてくるという形を取っている。
とはいえときたまモンスターがダンジョンの壁から生まれてくることもあるので油断はできない。
「いつまでも泣きぐずっているんじゃない、ウィーネ」
「ご、ごめんなさい··········でも、私やっぱりベルと·········」
人蜘蛛の異端児であるラーニェの刺々しい言葉に項垂れながらもウィーネは再び涙腺を緩ませて弱音を吐く。
ラーニェとてウィーネの気持ちも分からないでもない。彼女にとってあの少年との別れは何よりも辛かったことだろう。
だが。
「ここはもう里ではない。リドたちが先行しているとはいえ新しく生まれた同族たちが敵意を持って襲いかかってこないと決まったわけではない」
人間に気を取られているようでは死ぬぞ、と厳しい現実を突きつけるような言い方にウィーネの顔が更に曇っていく。
下半身は醜悪な蜘蛛そのもので上半身は女神のような美を湛えた女性のモノ。しかしその顔に浮かべる表情と発する声音はとてもではないが穏やかとは言えない。
人間への嫌悪感と敵意に満ちたその態度、そして何よりその紅い双眸から放たれる威圧感は幼いウィーネが受け止めるにはあまりにも重いものだった。
しかしそれでも彼女の心の中にはまだ未練が残っている。人間であるベルとモンスターであるウィーネでは同じところで暮らすことは叶わない。
仕方のないことではあるが、やはり納得できるほど割り切れてはいない。
人間を嫌っているラーニェの言葉を素直に受け入れられるほどに彼女は大人ではなかった。
「ウィーネ、まだ悲しんでいますか?」
「···················うん」
「地上の御方········ベルさんにはきっとまた会えますよ」
「···················うん」
フィアが慰めるように優しく語りかけるもウィーネの表情は依然として暗いままだ。無理もない。彼女にしてみれば初めての家族同然の存在だったのだから。
他の異端児達も心配そうにウィーネを見つめているが、彼らも彼女とどう接すればいいのか分からずに戸惑っていた。
人間に対して強い憎しみを持っているラーニェも涙ぐむウィーネの姿に気まずそうにしている。
眦に涙を浮かべるウィーネの姿にフォモールの異端児、フォーが涙を拭うように太い指先で撫でた。
フォーは異端児でもトップクラスの体格を持つがその手つきはまるで壊れ物を扱うかのように優しいものだ。
ウィーネの頭を包み込むほどに大きな手のひらは温かく、どこか安心させるようなものがあった。
「·····················ありがとう、フォー」
しゃべることのできないタイプの異端児であるフォーだがその身振りや仕草だけで彼の言わんとしていることが理解できる。
意思疎通ができずともその温和な性格故に異端児達に慕われており、こうしてウィーネを元気づけようともしてくれている。
フォー以外の者達も皆、仲間思いだ。
刺々しい態度のラーニェも仲間思いだからこそ厳しく当たる節があった。そんな仲間たちの優しさを感じ取ったウィーネは嬉しそうな笑みを見せる。
異端児達は全員が全員出会ったばかりのウィーネを温かく受け入れてくれた。
ベル達と別れたことはなにより悲しいが彼らに出会えて本当に良かったと思う。
だからこそラーニェのように人間に対して敵意を持った異端児がいるのは悲しかった。
「··········ウィーネ、あの人間どものことは忘れろ。害にしかならない」
忌々しげに吐き捨てるラーニェにウィーネは寂しそうな表情を浮かべる。人間に対する本能的な敵意を持たない異端児ではあるがその全員が人間に対して友好的というわけではない。
レイやリドのように人間に対して好意的に接する異端児が大部分を占めているものの、そうでない異端児もいる。
異端児の中には冒険者によって殺されかけたり、あるいは眼の前で同胞を殺められたりして冒険者を憎む者も少なからず存在する。
特にラーニェはその傾向が強く、同胞の前でなければその鉄兜を脱がないほどに人間という存在を毛嫌いしていた。
例外的な存在としてアルがいるが、モンスターと人間の違いとかそれ以前の『化物』であるアルに対しては武具を受け取るなど必要以上に馴れ合うことはしないが、敵意は向けるだけ無意味だとしている。
モンスターと人間。本来なら決して相容れないはずの両者だが、ウィーネにとってはどちらもかけがえのない存在である。
どちらとも仲良くして欲しい。そう願ってもかなわないほどの確執と過去があるのは幼いウィーネでも薄々察している。
「どうしてラーニェはベル達が嫌いなの?··········みんな優しいのに」
「そんなものは憐れみからの気まぐれに過ぎない」
ウィーネの問いを切り捨てるように言い放つラーニェ。その紅い瞳の奥には複雑な感情が入り混じっていた。
激怒とも嫌悪とも違う形容し難い想いが渦巻いている。ラーニェにとって異端児達は大切な家族であり、同時に守るべき対象でもある。
そんな同胞たちが人間に裏切られる姿をラーニェは何度も見てきた。
騙され、利用され、迫害され、傷つけられ、殺された。
同胞たちの屍を踏み越えて生き永らえたラーニェにとって人間とは憎悪の対象でしかない。
「そんなことない!ベルだって私を助けてくれて·······!」
「··········お前は奴らの残虐さや狡猾さを知らないだけだ」
過去を嘆くように目を伏せて呟くラーニェ。そこには人間への嫌悪だけでなく哀しみも宿っているように見えた。
他の人間に友好的な異端児達もその意見自体は否定することなく沈痛な面持ちを浮かべている。
ウィーネは知らない。ラーニェ達の言う通り、人間は決して善良な種族ではないことを。
人間の中には悪人がいる。それはこのダンジョンに潜る冒険者たちも同じだ。
自分達の利益のためならば手段を選ばず、弱者を痛めつけることに何の躊躇いも持たない者も大勢存在している。
ベル達もいずれそうやってお前を切り捨てるかもしれない、とラーニェは言外に告げていた。
そんな時、ぞわりと全員の背筋を冷たいものが奔る。
『────────ッ?!』
反射的にラーニェを含めた異端児達が臨戦態勢に入る。ウィーネもまたその気配に気づいたのか、怯えながら辺りを見回す。
自分たち以外には誰もいないはずの連絡路の空気が急に寒々しくなる。まるで巨大な氷塊の中に放り込まれたような感覚にウィーネは恐怖する。
臓腑に氷柱を突っ込まれ、全身を凍らされたような悪寒に震えながらもウィーネは視線を彷徨わせる。
すると、暗闇の向こうから何かが近づいてくる音が聞こえてくる。
コツ、コツ、コツ、コツ、と硬い靴底が地面を踏む音。その足音を耳にした途端、ウィーネだけでなく他の異端児たちも息を呑んだ。
「な、なんなの······?」
『·········』
思わずウィーネの口から漏れた疑問の声に答える者はいない。しかし、その沈黙こそが答えだった。
何者かがゆっくりとこちらに向かってきていることは間違いなく、そのナニカが持つ威圧感は圧倒的だった。
逃げることすらできずにそのナニカがゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
明かりのない闇の中だというのにその輪郭がはっきりと見えるほどに存在感を放つナニカの影は徐々に大きくなっていく。
そしてついにその姿が見え始めた。
「········あ」
最初に声を上げたのはウィーネだった。目の前に現れた異存在を見て彼女は無意識のうちに呆けたような声を上げて膝をついた。
ラーニェや他の異端児達も言葉を失い、ただ唖然としながらその存在を凝視することしかできない。
そこにいたのは全身を黒紫のローブで覆い、不気味極まる仮面を被った人型。
「なッ·············!!」
異端児の誰かが叫んだ。その叫びを皮切りにようやく異端児達は我に返ったかのように身構える。
しかし、それでも彼らは動けなかった。圧倒的な威圧感。呼吸すらままならないほどの重苦しいプレッシャー。
本能が理解していた。その異形を前にすれば誰もが死を覚悟しなければならないと。
瘴気が人型を象っているかのようなそのさまはラーニェ達の胸を掻き毟るかのような不吉さを醸し出しており、見る者を畏怖させるには十分すぎるほどだった。
異端児の中でも上位に位置するラーニェですらその実力を測ることができない。
昏い魔力を纏うその人型は異端児達を一人ずつ眺め、最後にウィーネと目を合わせる。仮面越しにじっと見つめられただけでウィーネは意識が遠退きそうになる。
即座に、異端児の中でもリド達に次いで強く一団の中では最強であるフォーがウィーネを庇うかのように前に出た。
「···············モンスターがモンスターを庇う、か」
堰を破ったかのように、内側へ押さえつけておけない魔力が沸き立ち、漆黒の波動となって空間を歪ませる。
人型の体躯が階層主の如く膨張したかのような錯覚。同時に発せられる濃密な死の気配にウィーネは涙を流す。
先程までの恐怖とは異なる、もっと根源的で生物としての本能的な恐怖にウィーネは意識を繋ぎ止めようとする。
この存在の前ではどんな抵抗も無意味だとウィーネの直感が訴えていた。
しかし、そんなウィーネの直感とは裏腹に異端児達は武器を構えて人型を睨みつけている。
彼らも彼我の力量差は十二分に分かっているがそれでも同胞を守ろうとする意思は揺るがない。
「··········なるほど、クラネルが気に入るわけだ」
寒気を感じさせる冷淡な声で人型は呟く。その一言だけでその場の空気がより一層冷え込んだように感じた。
その言葉の意味をラーニェは測りかねたが、そんなことは気にする余裕などない。
「なんだ、お前は······!!」
ラーニェは震える唇を懸命に動かして問いかけた。脊髄に氷柱を突っ込まれたような寒気を感じながらラーニェは目の前の存在の正体を問う。
そして、回答を待つよりも先に知性を持つモンスターである異端児は人間よりも遥かに感覚器官が優れているゆえにこそ気がついてしまった。
人間であるはずの人型からほのかに感じる同族の気配を。その事実にラーニェは愕然となる。あり得ない。
そう言いたいが、それでは説明がつかない。人型から漂う禍々しい魔力も、その身に宿す膨大な力も、そのどれもがそこらの人間やモンスターとは比べ物にならないほど強大。
知性を持った怪物ということは自分たちと同じ異端児なはずだがこの怪物が自分と同じ種族であるという現実が受け入れがたく、しかし否定することもできない。
何度かその脅威を垣間見た階層主ですらこの異形に比べれば赤子も同然だ。
まるで、あの『化物』のような──────。
「お前は、人間か? それとも同胞なのか········?」
湧いて出た疑問と問いかけ。だが、ラーニェには知る由もないが、その問は目前の人型の『地雷』を踏んでいた。
瞬間、人型から凄まじい殺気が放たれ、その殺意が物理的な圧力を伴ってラーニェ達に襲い掛かる。
「〜〜〜〜〜〜ッ?!」
「ぐぅっ·········!!」
まるで巨人に殴られたかのような衝撃にラーニェを含めた全員が吹き飛ばされる。
フォーが咄嵯にウィーネを抱え込んで守ったが、他の者達は壁に叩きつけられて痛痒の声を上げる。
「(今のは、なんだ? 攻撃·······? いや、まさか········)」
人型は動いていない。なのに何故、というラーニェの思考は強制的に中断させられた。
人型を中心にして広がった黒紫の魔力が床に染み込むようにして消えていき、それと同時に壁がひび割れていく。
物理攻撃でも魔法による攻撃でもない、ただの魔力の放射だけでこれなのだ。もしもこれが直撃したらどうなるか想像もつかない。
人型はゆっくりと歩き出す。ただ歩いているだけなのにそれだけで心臓を直接握り潰されるような威圧感と圧迫感に襲われる。
人型はラーニェの前まで歩み寄ると仮面の奥にある瞳で彼女を見据える。
仮面によって表情は窺えないはずなのに、その仮面の下に隠された双眼はラーニェの全てを見透かしているような錯覚を覚えた。
「さあな、そんなもの。私にもわからない」
澱みのない冷たい声音で人型は告げる。そして、人型の視線がラーニェから外れると、彼女の後ろでフォーに抱えられながら気絶したウィーネへと向けられる。
「──────では、クラネルに気づかれる前に済ませよう」
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『人間は決して善良な種族ではない』
『人間の中には悪人がいる』
『自分達の利益のためならば手段を選ばず〜〜〜、何の躊躇いも持たない者も大勢存在している』
アル「なんだよ」
『『『主にお前』』』
アル「うるせぇ」
『死にたくない闇派閥志望はこれだけ覚えとけ!!』
①単騎の『剣聖』との遭遇=死です
②貴方が成長性のあるLv7以上の使い手か、光堕ち適性のあるエルフでもない限り気づいたときには首が飛んでます。
③単騎のアルは淡々と遊び抜きで機械的に戦ってくるので命乞いとか言う前に終わります
④逃げる? 世界最速から?
⑤死になくないなら闇派閥なんかなるな
ちなみに『巫女』は『剣聖』由来のスキルを二つ持っていて、【直感】持ちの『剣聖』に悟られなかったのは片方の力です(逆に言えば巫女クラスが個人にメタ張ったスキルとか使わない限りは勘付かれます)