皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
昨日は更新できなくてすみませんでした
「────人間と同じ理知を持ったモンスター、ですか」
オラリオに生きる者にとってはとても信じられないことだ。本来、理性など持ち合わせておらず、本能のままに殺戮を齎す怪物。それが迷宮から生まれるモンスターである。
それが、知性を持つなどあり得ないことだ。下界の常識そのものが揺らぎかねない事態にアミッドは思わず頭痛を覚えた。
額を押さえながら、アルから聞いた話を整理する。ありえないと一蹴したいところではあるが、アルが嘘を言っているとは考えにくい。
要所要所で浅慮で考えなしな男ではあるが、無意味なことは絶対にしないとよく理解している。それにしても納得しがたい話ではあるのだが。
「············一応、確認しておきますがタチの悪い冗談ではありませんよね?」
「おいおい、俺がお前に嘘をついたことなんてあったか?」
「············普通にありましたが?」
なにを良い顔で言っているんだ、この男は。アミッドはジト目を向けるも、アルは気づいているのかいないのか、悪びれた様子もなく肩をすくめた。
見た目や風格で騙されるが、やはりこういうところは年相応の子供っぽいところがある。
「ああ、正確には事実の一部を意図的に隠して事実を誤認させる、が正しいですね」
「············ははっ」
余計質が悪い。というか、やっぱり自覚があるんじゃないですか、と呆れた視線を送る。
嘘はつかないが真実も語らない。アルらしいと言えばアルらしいが、気を抜けば舌先三寸で上手く誤魔化されてしまうので腹立たしい。
アミッドはアルの言うことを額面通りに受け取る危うさをよく知っているので、疑ってかかるのは当然のことだった。
とはいえ、今回の件に関してはそんな冗談を言っているとは思えない。いくらなんでもアルはそんなくだらないことでこんな時間に来るほど馬鹿では無い。
「それにしても理知を持ったモンスターってまさか、例のリヴィラの一件のモンスターですか?」
「ああ、詳しくは言えんがそういうことになるな···········まぁ、リヴィラの連中も別に死んじゃいない」
前から事あることに面倒ごとを持ち込んでくる問題児であるが、どうやら今回はいつも以上に厄介な案件のようだ。
現在、都市全体を騒がせているリヴィラを壊滅させた武装したモンスター。
その正体をアルが知っているどころかその正体が理知を宿したモンスターという特大の爆弾にして未知の存在だ。
これはどう考えてもただ事で済む話ではない。下手をすれば都市の存亡に関わるほどの重大な情報だ。
そもそもなぜそんなモンスターがいると知っているのか問い詰めたい気持ちもあるが、今はそんな場合ではないとアミッドはその気持ちを飲み込む。
「············私以外にそのモンスターの存在について知っているのは?」
「元から知ってる奴らを除けばお前だけ········あ、いや、アステリオスと戦って言葉を聞いたリューもか」
そのアステリオスというのは件のモンスターの内の一体だろうか。となると直接アルが教えたのは自分だけということにアミッドは少し安堵する。
こんなことが大人数に知れたら取り返しのつかないとても大きな事件に発展するかもしれない。無論、アルもそれを分かっているからこそ自分だけに言ったのだろう。
ともあれその信頼には応えるべきだろう。アミッドは小さく息を吐くと、アルを見据える。
「·············まあ、今にして考えてみれば腑に落ちる点もありますね。貴方の言動に不可解な点が多々あったのは確かですし」
「············なんか含みのある言い方だな」
「気にしないでください」
アミッドの言葉に少しばかり不満そうな表情を浮かべるも、アミッドはそれを黙殺する。確かにアルの行動はたまに不可解だったし、不審な点はいくつもあった。
例えばこの間の解呪薬作成の際に集めさせたドロップアイテムの中でマーメイドの血などのレアモンスターのレアドロップが交じっていたこと。
効率的にモンスターを穫れて運がいいためドロップアイテムを多く集められるのは知っているがそもそも遭遇することの難しいレアモンスターのドロップアイテムを安定して確保するのはアルでも困難なはずだ。
角や皮などではない血液という欠損につながらず、魔法で失血を回復できることも考えればアルに友好的な理知を持ったモンスターにマーメイドの個体がいれば安定供給の協力を取り付けることも不可能ではない。
他にもここ最近ダンジョンに潜っている期間があまりにも長いことや、治療院に寄った際に換金するドロップアイテムの減量など挙げていけばキリがない。
違うファミリアの自分でも思い返してみればいくつか怪しい部分があった。
だが、それにしても想定していた以上にとんでもないことを告げられてしまったものだ。
正直、頭が痛くなってきた。
世間に露呈すれば全てがひっくり返るような爆弾を抱え込んだ気分だ。
「問い詰めておいてあれですがそれって露呈したら不味いですよね·············? 」
「まぁ、そうならないようにはするつもりだ。·············明日、その『ヴィーヴル』が貧民街の方に重傷を負って来るかもしれないからその治療をしてほしい」
「···············随分と簡単に言ってくれますね」
思わずため息が出る。一体、何を考えているのか。頭の中で思考がぐるぐると回る。
額に手を当てながら、頭痛を堪えるようにして考える。まずは、何よりも優先すべきは人命。それは変わらない。
アルの言葉を察するに明日、地上でその理知を持ったモンスターが一悶着起こすのだろう。
それによって冒険者や無辜の民が傷つくのは見過ごせない。
「俺の責任もあるからな···········アイツらに死んで欲しくないし 、それ以上に
だからそこは信用しろ、とアミッドの内心を見透かしたかのようにアルは言った。
その瞳は珍しく真っ直ぐで、真剣そのもの。本気なのは分かる。しかし、それでも不安は拭えない。
アミッドにとってアルはどこまで行っても問題児でしかない。
いや、この男がそう言ったのなら大丈夫なのだろうとは思うが。それに、この男をそこまでさせるモンスター達に興味が無いと言えば嘘になる。
そこまでするのだからきっと良いモンスターなのだろう。アミッドは諦めたような溜息を漏らすと、苦笑を零す。
「···········はぁ、なぜ明日そのモンスターが貧民街の方に行くかもしれないってことがわかるのか、というのは聞かない方が?」
「───ああ、頼む」
アルの返答を聞いて、アミッドは内心の葛藤を呑み込む。その名声と実力とは裏腹に面倒事を前にすると即逃避するアルがここまで言うのだ。
その瞳には強い意志が宿っており、覚悟も決まっている。そして、そんな眼差しで見つめられてしまえばアミッドは何も言えない。
アミッドはもう一度、深く息を吐き出した。本当に、面倒なことになった。
けれど、そんな面倒なことを引き受けてしまう程度には自分はアルという人間のことが嫌いになれないらしい。
その眼差しで見られてしまっては断れるはずがない。ずるい。そんな気持ちを抱きながらもアミッドは口を開く。
「はぁ、わかりました。任せてください。私がいる限り─────
その声音はいつも通り淡々としたものだったが、どこか温かみを帯びていた。チャランポランでいい加減なくせに、時折こうして真剣な表情を見せるのだから困ったものだ。
そんな風に言われてしまうと、アミッドとしてはもう何も言うことはできない。
アミッドは小さく笑うと、アルは少しだけバツが悪そうな表情を浮かべる。
アルは自分勝手で欲深く、ナニともしれない我欲のために行動を起こす言ってしまえば自分本位な男だ。
アルの英雄然とした普段の態度は素の部分もあるのだろうがほとんどが擬態であるとアミッドは知っている。
アルは英雄になりたいわけではないし、英雄であろうとも思っていない。ただ、自分が欲しいナニカを手に入れたいだけなのだ。
少なくとも世間一般がアルに抱いているような英雄像とアルの実態はかけ離している。
だからこそ、アルは誰かに面倒ごとを投げ出す以外での頼み事なんてまずしないし、こんなにも真摯な表情で頼んでくることは無いに等しい。
アミッドはほんの少しだけ優越感を感じながら、微笑む。それを悟られないように咳払いをして、アルに背を向けた。
さて、これから忙しくなる。
明日も治療院には患者がたくさん来るのだし、今日中にやるべきことは済ませておかなければならない。
明日に備えて、やらねばならないことは多い。
「じゃ、頼んだわ」
背を向けたアミッドにそれだけ言って窓から飛び降りていくアルを見送りながら、振り返ったアミッドは窓を閉める。
急に来てとんでもない事を押し付けられたことに辟易するが、なんだかんだで手のかかる弟のような存在のアルに頼りにされるのは悪い気がしなかった。
ダンジョン中層域、安全階層18階層。
淡い輝きを湛えた水晶と緑が美しい森林はここが怪物の巣窟であるダンジョン内だとは信じられないほど静謐で穏やかだ。
この階層には新たなモンスターが出現せず、ここに暮らす少数のモンスターたちは他の階層から移ってきたもの。
迷宮の楽園とまで呼ばれる地下世界に広がる蒼と緑の色彩に目を奪われる冒険者も多い。
岩壁や天井を構成する石材から突き出た水晶が淡く発光し、地上とはまた違った美しさを持つ光景を作り出しているのだ。
その幻想的な風景の中で争い合う一団があった。
片方はいずれも屈強な体格をした歴戦の風貌を持つ戦士風の冒険者たち。
そしてもう一方は冒険者がつけるような装備を身につけた様々な種類のモンスターたちだった。
身長二Mに迫る巨体に豚に似た顔、緑色の皮膚に覆われた醜悪なオーク。
赤い鱗の生えた爬虫類のような体躯を持ち鋭い牙を備えたリザードマン。
全身を鎧のように固い甲殻に覆われ、剣山のような突起が無数についた凶悪なフォルムの大サソリ。
女神にも劣らない美しさを誇る女性の姿だが腕の代わりに巨大な翼を広げているセイレーン。
他にもゴブリンやコボルドといった人型のモンスターを始めとして、巨大な昆虫や蛇など多種多様だ。
冒険者とモンスターが入り乱れての乱戦。
階層の浅さからは考えられない激戦が繰り広げられていた。
リヴィラを壊滅させた武装するモンスターとその鎮圧をギルドに依頼された【ガネーシャ・ファミリア】の精鋭たちが戦闘を繰り広げていたのだ。
乱戦は既に始まってから数分が経過していた。
しかし未だ終わりの兆しを見せていない。それどころか戦いはさらに激しさを増していく一方であった。
理由は単純なものだ。
「姉者ッ、このモンスターたちは─────っ!?」
「イルタッ?!─────ぐぅっ!!」
モンスターたち────異端児はギルドが、ウラノスやガネーシャが考えていた以上に強かった。対冒険者の戦闘経験も豊富であり、武器の扱い方も心得ている。
それだけでも厄介なのに彼らは全員が全員、そこらの上級冒険者を軽く凌駕する実力を備えていた。
いや、それどころか歴戦の第一級冒険者と第二級冒険者から構成される【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちを相手に互角以上に渡り合っていた。
その証拠に、今まさにアマゾネスのイルタが石竜の一撃に吹き飛ばれ宙を舞ったところだ。
空中で体勢を整え着地したイルタだったが、苦悶の声を上げて膝をつく。深手ではないがそれなりのダメージを負っているようだ。
第一級冒険者であるイルタを凌駕するモンスターのポテンシャルに団長であるシャクティも戦慄を禁じ得ない。
そんな彼女を援護するために周囲の団員たちも魔法を放つ。即興の陣営ではあるが対階層主にも勝る連携を見せている。
それでも戦況は芳しくなかった。
モンスターたちはいずれも強く、中には第一級相当の個体すら交じっていた。
だが、それでもLv.5として最上位の実力を持つシャクティならばどうにかできる範囲ではあった。
問題は───────
「(··········Lv.6級が三体、か)」
今しがたイルタを吹き飛ばした石竜に二刀流で戦う双剣士のリザードマン、空を飛びながら音波による攻撃を仕掛けてくるセイレーン。
レベルだけで言えば6相当の怪物が三体。そのいずれもがポテンシャルで言えば派閥最強のシャクティすら上回るかもしれない化け物だ。
その三体を除いたとしても苦戦は免れないがその三体の存在が決定的だった。
本来ならば技と駆け引き、そして連携で覆せるはずの差ではあるが今回に限っては相手も自分たちと同じように連携と戦術を駆使してきているのだ。
防戦一方とはいえ今も戦えているのは【ガネーシャ・ファミリア】の高い練度があってこそだろう。
だが、それも長くは続かない。
既に多くの団員が傷つき、疲弊している。特にイルタの負傷が深刻だ。彼女は前衛の要となる戦士であり、ここで戦線を離脱すれば一気に押し込まれる可能性がある。
このままではいずれ瓦解してしまうことは目に見えていた。
「(─────こんなモンスターたちを生け捕りにしろとは無理を言ってくれる!!)」
ギルドからの依頼はリヴィラを壊滅させたモンスターたちのテイム────すなわち生け捕りだ。
確かに冒険者のような装備を身につけた様々な種類の強化種が同時に これほどの量を出現するというのは聞いたこともない。
その未知の原因を探るという意味では生け捕りにしろという命令は実物を前にした以上納得できるものだが、だからといってこのモンスター達を殺さずに捕らえろとはいくらなんでも無茶振りが過ぎる。
普通に殺し合っても勝てるかどうかわからないモンスターなのだ。ましてやこちらは既に怪我人を抱えている。
この状況で捕獲するなど不可能に近い。
もはや依頼を放棄しての逃走すら考え始めたシャクティ。
「(········不味いな、このままでは誰か
一糸乱れぬ連携と戦略でこちらを押し込んでくるモンスターたちに限界が近いことを悟る。それは負傷者が増えるほどに顕著になる。
負傷によって集中力が欠け、判断力が低下して動きが悪くなる。そうしてできた隙を突かれてさらに負傷者が増え、それがさらなる焦燥を生む負の連鎖。
後衛の回復魔法やポーションで適宜回復させてはいるが、一度崩れた流れを取り戻すのは難しい。
そうなれば待っているのは全滅だ。
撤退も視野に入れなければならない。
というよりもなぜまだ死者が出ていないのかが不思議でならない。モンスターたちは明らかに自分たちを超えた強さを持っている。
しかし、なぜか致命打だけは避けているのだ。そのせいでこちらも攻めあぐねているのだが、何か理由があるのだろうか。
「(それともあるいは···········)」
他の団員たちは知らないがシャクティだけはこの依頼の前にガネーシャからモンスター達の正体について軽く聞いている。
理知を持ったモンスターなぞ目にするまでは実在すら疑わしかったがこうして相対してみるとしゃべらずとも行動の節々から人間のそれに似た知性を垣間見ることができる。
生け捕りという命令もモンスターの異常個体の異常発生の原因の追求というのは表向きの理由で本来の目的は彼らの保護なのだろう。
知性や感情があるのなら是非とも交渉でもしてリヴィラから引いてほしいものだがそうもいかない。事前知識と直接相対したからこそわかる彼らの瞳にある憤怒の感情、何が理由かは知らないが彼らはその憤怒を発散するまでは誰に何と言われようと止まることはないだろう。
無理難題を押し付けられたのかのような状況にシャクティは苛立ちを募らせるが、今はそれどころではないだろう。
すでにイルタを始めとした団員の多くは満身創痍の状態だ。このまま 戦い続ければ致命的な被害が出る。
その前に打開策を見つけなければならない。
そうシャクティが考えた時、戦場に変化が起きた。
「モンスター達が、引いていく········?」
突如としてモンスターたちが後退を始め、戦いを中断してどこかへ移動し始めてしまったのだ。
先ほどまで滾っていた戦意は鳴りを潜め、まるで逃げるようにダンジョンの奥へと姿を消していく。
「団長!!」
「待て、追うな!! あれは我々の手には負えん、今は地上への報告を優先しろ!!」
追ったところで勝てるとは思えない。返り討ちにあうのが関の山だ。
それよりもまずはギルドにこのことを伝えて指示を仰いだほうがいい。
モンスターたちの想定をはるかに超えたポテンシャルは都市最大派閥である【フレイヤ・ファミリア】か【ロキ・ファミリア】でなければ対応できない。
あれが地上で暴れるなんてことになれば都市に未曾有の被害が出てしまう。それだけはなんとしても阻止しなければならない。
シャクティの判断は間違っていなかった。
だが、それでも─────事態は既に最悪の方向に向かって進んでいた。
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アルが面倒ごとの転嫁とファミリアの団員としての交渉以外で人に物を頼むのはごく例外的な相手だけです。
基本的に悪巧みは一人で済ませますし真面目な事柄の場合も大抵自分一人でどうにかなるので人に頼ることを知らない個人主義。
アミッドに対しては姉的な感じに甘えてるのが半分、自分にできないことができる相手に対しての信頼が半分って感じですね。
アミッドからはこんな真面目に頼まれるのは珍しいし、それだけ言うなら協力してあげるかって感じです。
・異端児vs【ガネーシャ・ファミリア】
異端児達が深層魔石デリバリーと高級装備、ブートキャンプで全体的に強化されてるのとなんだかんだ言ってラーニェ達は死んでいないのである程度の冷静さを残している為、終始優勢。
全体的に0.5〜1レベル分強くなってて【ガネーシャ・ファミリア】ほどの数ではないにしろ第一級冒険者に準ずる強さのモンスターはリド達以外にもそこそこいます。
とはいえ付け焼き刃は否めないのでこれが対【フレイヤ・ファミリア】とかだとオッタル一人に無双されます。
後方保護者面白髪頭「『ヒロイン』の作法を教えてやろう!!」
アステリオス「?!」
アステリオスはそれ以上の付け焼き刃ですが手加減なしのブートキャンプや漆黒補正でそれなりに強くなってます。
異端編前半終わりです
後半は書くためのカロリーがすごそう……