皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
アンケートで4000〜5000文字の方がいいっていう意見の方が多かったので試しに今回だけ4500文字程度にしてみました
ダンジョンに潜ったベルとは別側面からのアプローチで攫われたウィーネを探そうとヘスティア達はダイダロス通りへと訪れていた。
しかし、捜索は困難を極めた。
地道な聞き込みをしようとも有力な情報は無く、そもそも目撃証言すら得られなかった。
それに聞き込み以前にダイダロス通りの複雑怪奇さも相まって迷子にならないようにすることだけでも一苦労だった。
数百年にもわたって区画整理なぞ知ったことかと言わんばかりに好き勝手な増築が繰り返された結果、地上の迷宮とさえ呼べる程に入り組んだ迷路のような街へと変貌してしまったのだ。
一応は区画ごとにある程度の目印はあるが、それも所詮は目安にしか過ぎず、実際に歩いてみるとほとんど意味を成していない。
その複雑怪奇さは冒険者でさえ迷うほどであり、無許可の違法建築物が立ち並ぶスラム街の路地裏に至っては下手をすれば迷宮よりも迷いやすい。
「どーするんですか、ヘスティア様。これじゃあ見つかるものも見つかりませんよ·······?」
その迷宮じみた地形に辟易としたリリルカは愚痴を零す。
その小さな体躯には似合わないほどの大荷物─────万が一の際に即応できるように各種ポーションや魔剣などを詰め込んだリュックサック────を背負っている。
場合によっては何らかのものと戦闘に発展する可能性も考えての準備だった。
「そんなこと言ったって············ボクだってダイダロス通りなんかに来たくなかったよ」
均一性というものがまるでなく不規則に乱立した家々を見上げながら、ヘスティアは溜息を漏らす。とはいえ、このまま闇雲に探していても徒労に終わる可能性が高い。
騙し絵のように歪んだ建物群で構成された道を歩きながらどうしたものかと悩んでいると、ふと、耳になにか悲鳴のような音が聞こえてきた。
「············何か聞こえなかったかい?」
「············慎重に進みましょう」
音の発生源はすぐ近くのようで、ヘスティア達は嫌な予感を覚えながらも足を進める。まがりなりにも街中で危ないことはまずないはずだが、何事にも例外はある。
少し前の怪物祭のような例も考えられる。
「ッ·········!!」
わずかに聞こえた悲鳴を皮切りとしてつんざくようないくつもの悲鳴が木霊する。それは、まるで戦場を思わせるような凄惨な叫び声。
ざわざわと人混みがこちらに駆け逃げだし始めたことから何か事件が起きたのは明白だが、それがどのようなものなのかまでは分からない。
「······行こう!!」
「はいっ!」
大太刀を背に担いだヴェルフを先頭にして【ヘスティア・ファミリア】は逃げる人達の流れに逆らいながらも声が聞こえる方角へと向かう。
やがてたどり着いたのは、広場のような空間だった。
不規則に立ち並んだ建物の間隙に作られたそこは、円形にぽっかりと空いたスペースになっている。
「あれ、は·········ッ!?」
「なんでモンスターが地上にッ!?」
全身が氷のような蒼い鱗に覆われた竜体。大型級モンスターにも劣らない巨体を誇るその人頭竜体のモンスターが家屋を破壊して暴れていた。
青白く輝く長い髪は地面に触るほど長く、その双眼は血のように紅い。
怪物らしい不均等な醜さを湛えたコウモリのような翼、そして丸太の如く太い竜体がゆらりと揺れる。
『──────────ッッ、ァアアッッ!!!』
その怪物は口を大きく開くと、人間には発音不可能な雄たけびを上げる。
「ッ、どこから!?」
「いや、あれはまさか─────」
サポートとしてモンスターの知識に明るいリリルカは即座にその正体に思い至ってしまう。
人間の女性のような上半身に蛇や竜のような下半身。蒼白い鱗に包まれた肌に赤い瞳。
中層域で時たま出現報告されるレアモンスター。怪物の代名詞であり、最強の系譜である竜種の一種。
その名は──────
「ヴィー、ヴル··········」
「まさかそんなことが···········」
駆け上る、駆け上る、駆け上る。
地上への階段をウィーネの背を追うようにベルは懸命に走る。怪人との戦いとも言えない戦いで全身に負った傷は既にフェルズによって癒されている。
全力で走ることに支障はない。だが、手間をくってしまった分、ウィーネの姿を見失わないように必死だった。
酸素を求めて呼吸が乱れても、肺が悲鳴を上げても、脚が千切れんばかりに痛んでも、息を切らせながらベルは走り続ける。
そして─────
「ヴィー、ヴル··········」
「まさかそんなことが···········」
地上に辿り着いたベルを迎えたのは偶然にも驚愕に目を見開くリリルカと春姫を始めとした【ヘスティア・ファミリア】一同であった。
そしてそんな彼女らの視線の先では、ウィーネがヴィーヴルとしての本来の姿を晒し、ケダモノのように喉を鳴らして雄叫びを上げていた。
その姿は正に怪物そのもの。
地上に現れてはいけない古代の再演。誰もが恐れ戦き、己が身を震わせる。
大穴の地獄の蓋が開いてしまった際に地上に広がるであろう地獄の光景 の体験。
不味い、とベルは直感的に感じ取った。
地上にウィーネが、モンスターが出てしまった。このままでは冒険者達に見つかってしまう。
そうなればウィーネはモンスターとして冒険者たちに討伐されてしまうだろう。
「────ウィーネ!!」
「ベル様!!」
声を上げながらベルはウィーネに向かって飛び出していく。リリルカ達はその声にハッと我を取り戻す。
「みんな、下がってて!!」
春姫やリリルカは勿論のこと、Lv.2になったばかりのヴェルフと命では暴走したウィーネを止めることは到底できない。
まして全知零能の存在として一般人以下の身体能力しか持たないヘスティアがウィーネの暴虐に晒されてしまってはひとたまりもない。
「(········最悪の事態は避けれたけど、どうしよう············)」
地上にこそ出てしまったがウィーネが民間人を手にかけたり、他の冒険者が来る前に追いつくことはできた。
しかし、どうやってウィーネを鎮めればいいのか。ベルには分からない。
石を手渡せばそれで大丈夫なのだろうか。そもそもウィーネがあれほどまでに暴れている理由もわからない。
石を返した時に、あの怪人はなんて言っていた?
確か、認識障害だとか。認識阻害とか。
後半はよく聞き取れなかったが確かそんなことを言っていなかっただろうか。
何よりもまずは他の冒険者たちに見つかる前にウィーネを迷宮に逃さなくては。
ウィーネを宥めるのはそれからだ。
そう判断したベルはウィーネを刺激しないようにゆっくりと近づく。
その光景にウィーネはビクリ、と体を強張らせた後、ベルの方へと振り向く。
その瞳からは理性の色は失われていたが、それでもベルを認識すると少しだけ落ち着いたように見えた。
ウィーネはベルの元へ駆け寄り─────
「············え?」
─────たどり着くよりも早く彼方より飛来した一筋の金色がウィーネの左肩を貫いた。
ベルのステイタスでは刺さるまで反応すらできなかった。
ウィーネが傷つけられたことにベルが反応する暇もなく、ウィーネは金槍の投擲によって迷宮街の街壁に縫い付けられた。
『─────ギ、ィアアアァァァァッ!?』
遅れて獣のような絶叫がウィーネの口から漏れ出る。ウィーネが苦悶の声を上げる中、街の外壁の上に立つ存在に気が付いた。
怖気にも似た感覚がベルの背を伝う。呼吸が止まるほどの圧倒的な存在感。そこに立つのは、金色の髪を風に靡かせる小人族。
「········ふむ、あのヴィーヴルが騒ぎの原因、かな」
投槍の一撃を当てたとは思えぬほど遠くから響くような声音。違法建築の建物の上に佇み、ウィーネを見下ろす彼。
見間違えるはずがない、知らないはずもない。
彼の姿に市民たちから歓声が上がる。それは英雄譚の登場人物であるかのように彼を、彼らの登場を歓迎していた。
ドクン、ドクンとベルの心音が跳ね上がる。どうして、なんで、と疑問の言葉が脳裏を埋め尽くす。
視覚の端で見るのが精一杯で振り返る勇気が出ない。自身の浅い呼吸音だけが聞こえてくる。
不味い、不味い、不味い。心の中で警鐘が鳴る。今すぐウィーネを連れて逃げろと理性が叫ぶ。
だが、ベルの体はまるで石化したように動かない。
絶望感に打ちひしがれ、畏怖に震えながらもベルは振り返った。
そして、見た。
「··············」
真っ先に視界に映ったのは白髪紅目の剣士。
次いで並び立つ英傑達、ベルが憧れる英雄達。
たった数十年でファミリアを都市最大派閥まで押し上げた小人族の勇者、九つの魔法を操る都市最強魔導師である始祖妖精、派閥最古参で都市随一の頑強を誇るドワーフの大戦士。
都市中でも抜きん出た体技を操る若きアマゾネス姉妹、ベルにとっても近しい相手でありその凶暴性から都市中から恐れられている狼人。
そして──── ベルが憧慕して止まない、銀の軽鎧を纏った剣姫の姿。
「おお、どうやら民間人に被害は出ていないようじゃな」
「というかあの冒険者って········」
「あん? あのバカ、何やってやがる?」
言わずと知れた当代の英雄達。都市の頂天に立つ第一級冒険者達。美神の派閥と並んで都市最強の名をほしいままにし、ダンジョン攻略の最前線を担う者達。
その幹部全員が世界中にほんの一握りしかいない事実上の最強の階梯であるLv.6。
その中でも先陣を切り、この場にいるだけで他を圧倒するだけの力を秘めている剣の極聖、もとより最強であった最新の英雄は新たな領域、前時代の最強に、神時代千年の成果たる『英傑』にならんだ。
オラリオの民衆はもちろんのことオラリオ外にまでその名を轟かせている下界の希望。
かつての最強であるゼウスとヘラが消えた今、名実ともに世界最高戦力として君臨する大派閥。
それが、彼ら─────【ロキ・ファミリア】だった。
よし、よしよしよしよし!!
オレ式眼晶で監視してたから問題はないと思ってたけど最悪の場合は大最悪やラムトンよろしく、1階層から18階層までぶち抜いて全てをご破算にしてでもどうにか帳尻を合わせるつもりだったけどベルがうまくやってくれたみてぇだ。
相変わらず直感や精霊の使役による感知は全然働かないけどさすがに俺が直接視認したものを隠蔽するのは無理みたいだな。
どうするかはベルに任せるけど·············まぁまぁまぁ、こっからは俺も肩の荷が下りた分好きにやらせてもらうか。
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ちなみに身近な誰かが死ぬ以外でもとある特定の条件を満たした場合、アルは曇らせを諦めて救世モードに切り替わります(曇らせ憧憬スキルのかわりにレベル依存の集団バフスキルが生えてくる)。
・アル式眼晶
フェルズの眼晶の改悪版。感度以外のほとんどの効果が下がっている上に集積した情報が接続元の親機を持つ者の脳内に直接叩き込まれるセルフ精神崩壊魔道具。その代わり使える場合は限られた範囲内ならば時間差なしで他の作業をしながら別の場所のことが把握できる。
今のところはフェルズに渡しているものだけしか作れていない。
・アルの【神秘】の発展アビリティ
アミッドが特別なポーションなどの治癒関連のアイテム。
アスフィがそれ単体で魔法に匹敵する特別な力を持ったアイテム。
バルカが呪道具やクノッソス関連のアイテム。
フェルズが分野を問わない様々なアイテムを作るのに対してアルは既存アイテムの改悪に特化している。
既存の魔道具や魔石製品、魔剣などを汎用性のかけらもないひねくれたものへと改悪する。
今は神の鏡を参考にした録画機能を持った魔道具を作れないか苦心している(使用用途はお察し)。
いつもに比べてめっちゃ書くの楽だったけどその分平均文字数下がっちゃうからなぁ……