皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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今回は大体9000文字弱くらいにしてみました。


123話 さすが主人公!ホントならおれがやりたい事を自然にやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ!

 

 

 

 

嘘だろ、とベルの視界が暗くなる。

 

建物の屋根の上からこちらを見下ろす【ロキ・ファミリア】の幹部達の姿にベルの頭の中が真っ白に染まっていく。

 

なぜここにいるのか、どうしてこんなところに現れたのか、様々な疑問が浮かんでは消えていく。

 

なにより早すぎる。

 

ウィーネが地上に出て騒ぎにはなった。しかし、ウィーネが地上に出てからまだ3分も経っていないはずだ。

 

それなのにもうこの場所に現れるなんて·······。

 

呆然としている間もウィーネの悲鳴は続く。ウィーネの肩を貫いた金槍の穂先は迷宮街の壁に深々を突き刺さっていた。

 

苦痛に暴れようとするウィーネだったが、壁を穿つ金槍はびくともしない。

 

「(どうするっ、どうすればいい!?)」

 

 ウィーネを助けなければ、と思う反面、詰んでいる状況にベルは焦燥する。まず間違いなくウィーネは彼らによって殺されるだろう。

 

それも考えうる限り最悪の形で。

 

それは絶対に避けたい。だが、どうやってこの状況を打開すれば良いのか全く分からない。

 

そうこう考えているうちにもウィーネの悲痛に満ちた叫び声が耳朶を打つ。

 

「あのヴィーヴル、額の赤石が··················」

 

「ああ、暴走しているようだね」

 

 彼らの会話など耳に入らない。ベルは必死になって思考を回転させるが何も思いつかない。

 

彼らの目的はわかりきっている。地上に現れたモンスターの討伐、暴走状態で地上まで来てしまったウィーネを殺すことに決まっている。

 

モンスターを殺すためにある冒険者にとってそれは当たり前のことだ。彼らは冒険者で、ウィーネはモンスターなのだから。

 

ベルだって怪物祭の時、他ならぬここダイダロス通りでシルバーバックを葬った。

 

だから、わかる。

 

ウィーネを彼らから助ける手段は無いということが。

 

血の気の引いた頭でベルは絶望した。ベルが憧れる英雄達の姿が今は何より恐ろしいものに見えた。

 

ベルが憧れて止まない英雄達が今まさにウィーネを殺そうとしている。

 

何よりも心強いはずの彼らが今はベルが最も恐怖する存在に変貌していた。

 

「(ベートさん、アイズさん············兄、さん)」

 

 何度も折れかけては再起した心が再度折れかける。軋みを上げて、亀裂が走る。

 

ベルの内心に反して熱狂する民衆たち。ベルは彼らの歓声がまるで自分に対する嘲笑のように聞こえた。彼らの歓声がベルの心を削り取る。

 

憧れが、夢が、砕け散る。

 

ベルの心に絶望が満ちる。

 

『─────ァ、ギィァアアァァァァァァァァァァァアアアアアッ!!』

 

 ウィーネの絶叫がベルの鼓膜を打つ。はぁはぁと呼吸が荒くなり、ベルの顔が青ざめる。英雄達の強さを知るからこそ、ベルの中でその光景がありありと思い描かれる。

 

自分ではこの英雄達からウィーネを助けることはできない。その事実をベルは嫌でも理解させられてしまう。

 

どうする? 兄に助けを求める?

 

いや、論外だ、公衆の面前でモンスターを守るなどすれば兄のこれまでの名声は翻って悪名となる。そんなことできるはずがない。

 

助力は求められない、自分で考え、自力で対処しなくてはならない。

 

じゃあ、何を? わからない。何一つ思い浮かばない。

 

自分の背にはウィーネがいる。彼女を見捨てることなんてできない。

 

じゃあ、どうする? 自分に何ができる? この場において弱者でしかない自分が一体何をするのか。

 

「(··········迷っていられるのは()()()()だ)」

 

 今、この場所、この時間が最初にして最後の分岐点。

 

英雄たちの前に膝を屈して冒険者としてウィーネを見捨てるか、全てを投げ打って無理を承知でウィーネを救う異端の英雄になるかどうか。

 

今、ここで決めなければならない。

そして、決断しなければならない。

ベルは顔を上げ、唇を噛み締め、拳を握る。

 

怪物と人類、どちらに付くか。

 

その答えを出さなければならない。

 

ベルの脳裏に浮かぶのは同族に襲われていた竜の少女の姿。孤独に押しつぶされそうな彼女の瞳。

 

その表情にベルは思わず手を伸ばした。

 

そうだ、これはベルが始めた事だ。

 

自分の選んだ行いに責任を持つべきだ。

 

このままではウィーネの死が確定する。

 

だからといってウィーネを助ければベルが都市に敵視されるのは目に見えている。

 

────────ああ、でも。

 

「(それでも·········ッ!)」

 

 そんな時、ふとこちらを見下ろす 兄の赤い瞳と視線が交わる。偶然ではない、ベルを見て僅かに笑っている。

 

まるでお前ならどうにか出来るだろうと言わんばかりに。

 

違う、自分は『英雄』なんかじゃない。

 

『英雄』の真似事をしただけの未熟な子供。

 

『英雄』に憧れただけの子供なんだ。

 

おとぎ話の『英雄』にも眼前に立ちふさがる『英雄』にも届くはずがない。

 

だけど、それでも、それだからこそ。

 

「(────あの日、あの時から僕は決めたんだ)」

 

 兄が自分を置いて村を出た時、剣姫にミノタウロスから救われた時、初めての師匠に出会った時。

 

そのいずれでもあり、あるいはそのどれでもないあの瞬間。

 

兄に置いて行かれた寂しさに枕を濡らしながら眠ったあの日から。

 

いつか自分もあの人の隣で戦えるような人間になりたいと思ったあの瞬間から。

 

喉元に喰らいつかんとする狼の顎を前に敗者の殻を脱ぎ捨て弱者の咆哮を上げた時から。

 

ベル・クラネルは誰よりも強く願ったのだ。

 

────────────『英雄』になると。

 

ベルの知る『英雄』は、ベルの憧れた『英雄』はこんな時、決して諦めない、決して見捨てない。

 

絶望的な状況であっても不敵に道化の如く笑って全てを覆す。

 

だから、ベルもそう在りたい。

 

そうでなければいけない。

 

だから───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

·············································ククッ·························くはっ、はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは───────────ッ!!

 

そうだ!!そうだろう、そうだろうよ!!

 

それでいい、それでこそだ!!

 

そうではなくては!!

 

それでこそお前だ!!!!

 

お前の愚行、お前の蛮行、お前の勇姿、その全てを俺は肯定する。

 

その全てを見届けよう、観覧しよう、称賛しよう、そして保証しよう。

 

異端にして欲飽の悪である俺が断言する。

 

お前は、お前こそが『英雄』だ!!

 

────────まぁ、堕ちるのは俺だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────は?」

 

 それは誰の困惑の声だったか。民衆たちの熱狂が水を打ったように静まり返る。ベルが、少年が取った行動に誰もが困惑した。

 

ベルの師である狼人は眉をひそめ、アイズは目を見開いて驚愕に息を呑む。先程まであれほど熱狂していた民衆たちが今、完全に言葉を失っていた。

 

なぜなら、ベルはナイフを逆手に構え、ウィーネを庇うように【ロキ・ファミリア】のまえに立ち塞がったからだ。モンスターを守ろうと言わんばかりの行動に誰も彼もが絶句するしかなかった。

 

困惑と動揺が場を支配する中、ウィーネの悲痛に満ちた叫び声だけが響く。

 

「·············なんのつもりだ?」

 

「あれってアルの············」

 

 ただウィーネを背に庇い決死の意志を紅瞳に浮かべるベルの姿にただ一人、誰にも気づかれずに口角を上げる男を除いて【ロキ・ファミリア】の面々は狼狽する。

 

「────────ッ!!」

 

 ベルは【ロキ・ファミリア】に相対し、覚悟を決めた。もう迷わない。怖くて震えそうになる足を踏みしめながら、ベルは精一杯の虚勢を張ってみせる。

 

ベルは今、自分の意志で立っている。自分の夢を守るためにこの場に立っている。

 

冒険者達からウィーネを守れるかどうかはわからない。だが、それでもやるしかない。

 

たとえ相手が都市最強の冒険者集団であろうと関係ない。一度、彼女の手を取った以上、ベルはその手を離すわけにはいかない。

 

その想いを胸にベルはナイフを構える。

 

その姿を見ているのは冒険者たちや 民衆だけではない。

 

「なにを、やってるんだよベルっち···········!?」

 

「バカナ、アレデハ·········」

 

 路地の陰から事態の変遷を覗く異端児達は信じられないものを見たと言わんばかりに目を丸くしている。

 

ダンジョンに生きる異端児達であっても地上の常識として、モンスターと人類の関係性は十二分に理解している。

 

だからこそ、彼らの行動は驚きと戸惑いを隠せない。

 

「············ひっ·······いひっ、くひッ、ひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ·················!!」

 

「·················実に愚かだな、君は」

 

 騒動から離れた建物の上部からその光景を見下ろす二柱の神。

 

「ひひひひひひひひひひっ!!─────最っ高じゃあねぇか!!おもしれぇ!!あんなガキがいるなんて下界もまだ捨てたもんじゃねぇな!!」

 

 片方のイケロスは傑作とばかりに腹を抱えて笑い転げ、もう片方のヘルメスは憐れみすら交えて冷淡に呟く。

 

少年は、ベルはたった一匹のモンスターを守るためだけに都市最強の冒険者たちに刃を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静けさを取り戻した街の一角。ナイフを構えたベルの姿に困惑す人々。怪物を、ウィーネを庇った時点でもはやベルに残された道は破滅のみ。

 

【ロキ・ファミリア】や集まりだした様々な派閥の冒険者達がベルに怪訝な目を向けている。針のむしろに立たされながらもベルは決してその場を動かずウィーネを守る。

 

渇いた表情を浮かべ、ベルは必死に思考を回転させていた。どうすればいい? 一体何が出来る? 今更ウィーネを連れて逃げても間に合わない。

 

かといってこのまま黙っていてもウィーネが殺されるだけだ。ならば一か八か、無謀な賭けに出るべきか。

 

「確か、アルの弟じゃよな········?」

 

「あぁ、そのはずだが············なにを考えている?」

 

「··················」

 

 仲間の肉親の姿にリヴェリアとガレスは疑念を抱き、フィンは無言のまま考え込んでいる。

 

ベルの人柄を詳しく知っているわけではないが、少なくともこのような行動を安易に取る人物ではないだろうとは思っている。

 

何かしらの理由があるはずだと困惑しながら見下ろすが、その視線の先で少年はナイフを構えて微動だにしない。

 

ティオネやティオナもどうするべきかと顔を見合わせているが、アイズだけは違った。彼女はただじっと少年を見つめ、その瞳の奥にある決意を感じ取っていた。

 

僅かな停滞の後。

 

「···············マジに何考えてやがる、あのバカ」

 

 チッ、とそんな沈黙と困惑を切り裂いて舌打ちしたのは狼人の青年だった。

 

そして師であるベートもまたベルの行動の真意を図りかねていた。ベルはナイフを構えてはいるものの、その切っ先は細かく揺れており、怯えを隠しきれてはいない。

 

モンスターを背にして立つ姿に強い違和感を覚える。

 

ベートは鋭い眼光でベルを一睨すると、ゆっくりと歩み出して他ならぬモンスターを殺すために屋根から飛び降りようとし─────

 

「────ッ、ファイアボルト!!」

 

 刹那、空に翳したベルの手から炎の号砲が放たれた。甲高い音を響かせながら飛翔した火矢は真っ直ぐに空へと昇り、やがて轟音と共に爆ぜた。

 

爆風によって巻き上がった粉塵が集まった冒険者や民衆の視界を覆い、激音の炸裂が聴覚を奪う。

 

ベートへの威嚇のようであり、あるいは他の誰かの注意を引くためのものなのか。

 

「···········あ゛ぁ?」

 

「────ッ!!」

 

 威嚇の号砲に返ってきたのは強烈な殺気の塊。【ロキ・ファミリア】の団員達は勿論のこと集まりだした冒険者達や民衆達からも糾弾と排斥の激情が形のない刃となって突き刺さる。

 

なによりも凄まじいのは弟子の蛮行に対してベートから噴出される圧倒的怒気、それこそまるで怒り狂う猛獣のように膨れ上がっていく。

 

ベルの頬に冷や汗が流れ落ちる。自分の意図など、兄以外ではこの場にいる誰一人としてわかるはずがない。

 

だが、それでも構わない。

 

これは賭けだ。ベルの本当の狙いはこの場に居る全員の意識を集めること。注目さえ集めればあとはどうとでもなる。

 

少し前に対峙した怪人のおどろおどろしい激情に比べれば、と鳴りそうになる歯を食いしばり、ベルはナイフを握り締めて耐え忍ぶ。

 

全方面から注がれる敵意と糾弾、それら全てを受け止めながらベルは深呼吸を繰り返す。

 

この場に集った全ての者を敵に回してなお、ベルはウィーネを庇って立ち塞がる。

 

ベルは覚悟を決めている。何を犠牲にしても、たとえそれが自分自身であろうともウィーネを救わなければならない。

 

そうでなければ、きっと自分は一生後悔し続けるだろう。

 

「··············手をっ、出すな」

 

「あ゛?」

 

「この、ヴィーヴルは僕の獲物だ···········!! だから手を出すなッ!!」

 

 それはなけなしの保身。モンスターに味方する人類の反逆者という汚名を仲間にまで被せないための苦渋の選択。

 

自らが団長を務める【ヘスティア・ファミリア】が明確に人類と怪物の境界を越えないための自己防衛。

 

人類に敵対してモンスターを庇う異端者ではなく欲に目が眩んだ愚者を演じ切る。

 

たとえそれで都市中の冒険者から軽蔑され、罵倒されたとしても構わない。

 

今しがたポケットに仕舞い込んだ竜の紅石を始めとしてレアモンスターであるヴィーヴルのドロップアイテムはいずれも高価な代物だ。

 

地上にモンスターが進出したという状況も弁えず我欲を優先する愚者であると誤認させる。

 

そんなベルの咄嗟の策に民衆や冒険者達の敵意は更に増す。誰もがベルの行為の愚かしさに顔をしかめ、悪感情を募らせていく。

 

ベルの兄を除いて、その真意を理解したのは二名。

 

一人はベルの師であるベート。ベルの人柄をよく知るベートは先の言葉は出任せであり、その切羽詰まった様子から欲にかられたのではなく、なぜだかはわからないが、ヴィーヴルを守ろうとしているのだと看破した。

 

そして、もう一人のアイズの目にはヴィーヴルを──────────『怪物』を庇っているベルの姿が何故か、ベルの兄であるアルと重なって見えていた。

 

「─────なんで、『怪物』をかばってるの?」

 

「────ッッ!!」

 

 冷酷さすら感じさせるアイズの言葉に己のつまらぬ演技が見破られたことに気がついたベルはどうにかウィーネを逃がそうと視線を右往左往させるが、冒険者達の包囲に穴は見当たらない。

 

もはやこれまでかと唇を噛み締めてナイフを構える。しかし、アイズはそれ以上何も言わずにただじっとベルを見つめていた。

 

まるで、何かを見極めるように。

 

アイズの視線に気がついていないベルは、アイズがただ黙って見ていることに困惑しながらもナイフを握る手に力を込める。

 

緊張によって心臓が激しく脈打つ。視線を逸らせばその瞬間に殺されかねない、そんな錯覚すら覚えるほどに酷薄とした空気の中、アイズはじり、と片足を踏み出す。

 

「どいて、『怪物』は、モンスターは殺さなくちゃいけない」

 

「いや、です··········!!」

 

 殺意すら混じった憧憬の女剣士からの言葉にベルは声を振り絞る。

 

ここで退くわけにはいかない。たとえ誰が相手だろうとも、その先に待つウィーネの死を許容することは絶対に出来ない。

 

押しかかってくる第一級冒険者の覇気に押しつぶされそうになるベルだが、兄や怪人のそれに比べればまだマシだと歯を食いしばって反抗する。

 

「そう··········そっか············」

 

 ベルの憧憬。アイズのその反抗に対する反応はいっそ薄気味悪いほどに淡白でそして冷たいものだった。

 

テンペスト、と呟くようにこぼすと風が渦を巻き、渦巻いた気流が小さな竜巻となってアイズの金の長髪を激しく靡かせる。

 

吹き荒れる暴風の中心で、アイズは既に抜刀していた。剣帯から外された不壊剣の鞘が地面に落下し、乾いた音を立てる。

 

口の中が渇く、視界が狭まり、呼吸が浅くなっていく。それでも、ベルはナイフを構えたまま退かない。

 

まるで英雄譚の『精霊』のごとき雰囲気を放つ少女と対峙する少年はどこか現実感のない光景の中にいるような感覚を覚える。

 

今から自分がこの怪物殺しの美姫に刃を向けるという事実がうまく飲み込めない。

 

対する少女がただただ凛然と佇むその姿に、ベルの鼓動は高鳴るばかりだった。

 

───────剣が向けられる。

 

誰に? 決まっている、モンスターに絆された、今度こそ真の意味で堕ちた『愚者』に、ひいてはヴィーヴルの少女に対してだ。

 

その姿は先日の兄と被るが、違うのは本気であるかどうか。

 

間違いなく彼女はウィーネを殺す気だ。

 

その瞳からは一切の激情も迷いも見受けられず、研ぎ澄まされた刃物のような冷徹さと鋭利さを宿している。

 

この場に居る誰もが動けなかった。

 

ベルも、ウィーネも、ベートも、アイズの仲間達も、誰も彼もが硬直して動かない。

 

誰かが何かを言わなければならない状況だというのに、誰もが言葉を発することが出来ない。

 

「もう一度だけ言う、どいて」

 

「──────」

 

 もはや反抗の言葉すら吐けないが視線だけは逸らさない。憧憬に反する絶望に心が支配されている。

 

でも、それがなんだ。

 

何度目かもわからない自問を繰り返す。これが自分の選んだ道なのだ。後悔なんてしない、してたまるものか。

 

自分に出来る精一杯の抵抗。

 

ベルの緋玉の瞳がアイズの金眼と交錯し、互いの視線がぶつかり合う。

 

周囲の雑音が消え去り、風の音だけが荒ぶ静寂が訪れる。

 

溢れんばかりの悪感情をベルに注いでいた民衆や冒険者達も今だけは『剣姫』の放つ静かな威圧に気圧され、息を飲む。

 

「················それじゃあ、仕方ないね」

 

 ぽつり、とベルの瞳から目を逸して伏目がちに言ったアイズは腰を落とし、構えをとる。

 

「(············あ)」

 

 理解ではなく納得。窮地にて研ぎ澄まされたベルの第六感が悟る、悟ってしまう。

 

次の瞬間、ウィーネは─────

 

「───────いくよ」

 

 瞬間、ベルの視界から掻き消える金色。Lv.3の第二級冒険者として間違いなく最上位の敏捷を持つベルですら知覚しきれない、第一級冒険者としてのステイタスに裏打ちされた圧倒的なまでの速攻。

 

ベルは知る由もないがアイズのスキル【復讐姫】の効力は怪物種全般に対する際の自己の高域強化、そして()()に対する際の──────超域強化。

 

その速力はLv.6の範疇を軽く超越し、英雄の領域へと到達する。音を置き去りにし、迅雷の速度で動く金色の影。

 

十数Mもの彼我の距離は瞬時に零となり、気づけば眼前にまで迫っている金閃。

 

速攻魔法を使う暇すらない神速の世界。

 

極限状況下で限界まで遅延された世界であってなお、金色の軌跡はベルの視認から外れる神速を保って迫り来る。

 

せめてもの、抵抗として次の瞬間にはやってくるであろうベルでは防御も回避もできない斬撃から背にいるウィーネを庇おうと目を瞑りながら身体を前に出して──────。

 

一秒、二秒、三秒··············十秒経っても斬撃はやってこない、背後のウィーネが斬られた音も聞こえない。

 

それどころか、先程までの喧騒すら消え、静まり返っている。

 

興奮の極致にあった民衆や【ロキ・ファミリア】の団員たちの声の一切が消えている。

 

『剣姫』の覇気による一時の沈黙とは違う、まるで時が止まったかのような異様な静けさ。

 

もしかしたら、ウィーネごと斬られて自分は死んでしまったのか、そんな益体もない考えすらも浮かんだベルはとうとう瞑っていた目を開く。

 

そこには─────。

 

驚愕と絶望に目を澱ませる剣を振り下ろしたままのアイズ、信じられぬ光景に理解を拒むかのように身を凍らせる民衆と【ロキ・ファミリア】の姿。

 

そして、自分の代わりに『剣姫』の剣からウィーネを守った兄の背中があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

民衆『は?』

 

ベート『は?』

 

アイズ『は?』

 

ベル『え?』

 

魔王みたいなこと言ってる変態『イヒッ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ─────ッ!!』

 

 

 

ロキファミリア視点は次話です。

 

アイズ『死んだモンスターだけが良いモンスターだ!! 』

 

▼アイズの復讐姫アタック!!

▼ベルは反応できない!!

▼アルの片手真剣白刃取り!!

▼アルに3ダメージ!!

▼スキル効果【闘争本能】アルのHP.MPが500回復した!!

 

アイズ『ぐはっ·······』

 

▼アイズに精神的ダメージ!!

▼性癖効果【ええやん】アルのHP.MPの最大値五倍!!

 

(ネタです)

 







前回くらいの文字数のほうが読みやすいのかな?

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