皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
投稿に不備があったので再投稿です
後半の内容が変わってるのでもう一度読んでいただけると助かります
「────アルっち?!」
全身を硬質そうな赤い鱗で覆ったリザードマンが驚愕に目を見開く。
「遅かれ、早かれ、だ。どのみち明かす他ないだろうよ、リド」
当然のように『話す』モンスターに返答するアル、その様子は普段の彼と何ら変わりはない。
その異様な光景に【ロキ・ファミリア】の面々は呆然とするしかなく、フィンは最初から詰んでいたことを悟る。
リドと呼ばれた赤鱗のリザードマンは困惑と疑念、そして僅かな怒りが込められた視線を仲間であるはずの『人間』から向けられるアルをまるで『庇う』かのように立つ。
怪物が人間のような知性を持っていることへの驚き、人類に対して悪意しか持たぬ怪物であるはずの存在が人間を守るような行動をとったことに戸惑いを禁じ得ない。
リザードマンの爬虫類じみた顔からは人間のような機微は読み取れず、何を思い、何を思っているかなどわかるわけもないが、その瞳には隠せない不安と恐怖の色が見て取れる。
人類に接することに対して恐れにも似た感情を抱いているようにも見えた。
「··············アルっち達は、オレっち達の同胞を、ウィーネを············助けようとしてくれただけなんだ!!」
だから、責めないでやってくれ、と懇願するように叫ぶリドに他のモンスター達も同意を示すように各自様々な配色の瞳で訴えかける。
「モンスターが··········喋った?」
「そんな、まさか········!!」
その事実に信じられないものを見るかのような視線を向ける団員達の衝撃は計り知れない。
ましてや、そんな存在と派閥最強の英雄が親しげに会話を交わしているのだ。
人類への悪意しか持たぬモンスターに人のような感情や理性は持ち合わせていない。それが下界の常識だ。
それは全知たる神々ですら例外ではなく、モンスターと意思疎通を図ることは不可能とされてきた。
しかし、目の前で繰り広げられているのは紛れもなく人とモンスターとの会話。
人類の敵として立ち塞がってきたモンスターが牙を剥き出しにすることなく言葉でもって必死に弁解している姿に団員達に動揺が広がる。
「なんて悍ましい········!!」
ありえざる光景に誰もが唖然となり、それぞれ程度の差こそあれど負の感情を宿した眼差しを向ける。
いや、向けざるを得ない。人類とモンスターの間に存在する確執。古代より数千年にもわたって積み上げられた悲劇と憎悪の連鎖。
それを生半なことでは埋めることはできない。むしろ、そんな怪物が人間の言葉を喋ることにこそ嫌悪の情を抱く者もいた。
困惑と拒絶。初めて目にした憧憬の存在である地上で人間から向けられる感情にモンスター達は悲痛に顔を歪める。
一方でアルはその視線を一身に受けながらも平静を保っており、自分やモンスター達を背後に庇ったままのリドから視線を逸して集まったモンスターの中でも一際人間に近しい容姿を持った美しい個体にちらりと視線を向ける。
美しい黄金色の頭髪に嫋やかな羽毛、女神とも見紛う美貌を備えたセイレーンはモンスター達から一歩前に出ると切実な思いを込めて語り出す。
「何より··········私達ハ貴方達卜話ガしたいノです。戦いデはなく、対話ヲもって分かり合いタイと願っていまス」
「··············あぁ、アルっちはそんなオレっち達のことを嫌わずに対等に接してくれたんだ」
あくまでも怪物らしい容姿をしたリザードマンよりも遥かに人類に近しい美しさを持った彼女の言葉に【ロキ・ファミリア】の面々は息を飲む。
嘘偽りない真摯な願いを込めた怪物の少女の声音はその場の空気を支配する。その声は酷く澄み渡っていて、耳を傾けずにはいられない何かがあった。
「(···········狙ったな)」
混乱の只中でフィンだけは冷静に状況を俯瞰していた。その声に込められているのは純粋なまでの希望と祈り。聞く者の心に訴えかけ、信じたいと思わせるだけの情動が込められている。
だが、フィンは彼女の言葉よりも彼女に喋らせたアルの意図を見抜いていた。怪物を庇うアルと怪物が人の言葉を話すという異常事態に目を白黒させる冒険者達。
混乱のただ中でまともな思考ができなくなっているところに畳み掛けんとばかりに次々繰り出されるアルの策略。
はじめにいかにも怪物らしい容姿のリザードマンに話させた上で今度は緩急をつけるように人間の美的感覚でも非常に美しいセイレーンに喋らせることでモンスターが喋っているという不快感を拭う。
その上でモンスター側の代表であろうリドに話をさせることでモンスターが人の言葉を話しているという不自然さを薄れさせ、自然な形で意識を誘導する。
加えて、アルとモンスター達の関係性を匂わすことでこの場にいる全ての者にアルはモンスター達の味方であるという認識を植え付ける。
「モンスターがなにを·········!!」
「モンスターの言うことなど信用できるはずがないでしょう!!」
それに対しての反応は様々。嫌悪感を露わにする者もいれば、納得できかねる者も多く、油断なく怪物とアルの動向を窺っている。
「ですが、対話を望んでいるというのにそれを切り捨てては私たちこそが············」
「ならばどうしろと言うのですか!?」
団員の中でざわめきが大きくなっていく。潔癖、それ故に誠実なエルフを中心に迷いが広がっていく。
「──────コイツらは『希望』だ」
団員たちに迷いが生じた隙を見逃さずにアルは口を開く。静謐ながらよく通るその声は全員の耳に届き、その視線を釘付けにする。
演出家のように場の空気を掌握するアルの様子にフィンは内心で舌を巻く。フィン自身、アルの言葉に計り知れぬ未知なる可能性を感じ取っていた。
そして、同時に予感も抱いていた。おそらく、ここでアルが行動を起こすことを止められなければもう二度とチャンスはない。
怪物が人語を理解するという前例のない出来事によって生まれた動揺を利用し、その混乱に乗じて行動に移るアルの企みは計れないが、今は止めようがない。
「希望、ですか···········?」
二軍の主要団員であるアリシアが怪しむように問い返す。そこにあるのは戸惑いと疑念。当然だろう、彼女にとってモンスターとは憎悪の対象でしかない。
モンスターと人は相容れず、わかり合えることは決してない。そう教えられてきた彼女はモンスターと対話することなど夢にも思ってはいなかった。
だからこそその前提を崩したアルの言葉に耳を傾けてしまう。
「数千年にもわたって繰り広げられた血と悲劇の歴史に終止符を打つべく、新たな時代に歩を進めるために創設神ウラノスは怪物との共生を望んでいる」
「なに、を─────」
爆弾を投下するアルに対し、団員達に衝撃が走る。まさか、と驚きを隠せない彼らの反応を予測していたかのようにアルは言葉を続ける。
「殺戮と破壊ではなく対話と調和を持って世界を変える。そのための鍵がコイツら異端児だ」
それは決して公にしてはならない秘密であり、ギルドにとっての最重要機密。次々と明かされる驚愕の事実の数々に団員達が絶句する中で、フィンだけが平然とした様子で成り行きを見守る。
いや、その内心は決して穏やかではない。それでもフィンは微塵も動揺することなく、冷静に状況を把握していた。
アルが今語った言葉は本当だろうとフィンは確信している。少なくともあの怪物の群れにはそれだけの価値がある。
聞くな、斬り捨てろ、と混乱する団員たちに指示を出すこともできるが未知を未知のまま、聞く耳を持たず切り捨てればそれこそ怪物よりも悍ましいものになりかねない。
「モンスターの母胎であるダンジョンの理から外れたイレギュラーにして混沌の裡で生まれた新たな可能性。それが人類との調和を望む異端のモンスター、異端児だ」
アルとウラノス。オラリオ最高の冒険者であるアルの存在とオラリオの最高神であるウラノスの名前は決して無視できるものではない。
団員達もその言葉を鵜呑みにしたわけでもないがその二人が信を置いているということにもしかしたら、と感じてしまう。
昨日までの常識が音をたてて崩れていくような感覚。怪物らしからぬ怪物の姿とその言葉に戸惑う者達を見て、アルは最後の一押しを加える。
「今すぐ受け入れろとも、今すぐ理解しろとも言わない。だが、いずれ来たる変革のためにコイツらの話を聞いてほしい」
いつになく真摯な口調で語るアルに誰もが言葉を失う。もごもごと口を動かしてはいるものの反論らしいものは出てこない。
そして、それはアルの背後に控えている怪物達も同じだった。アルの背後から恐る恐るといった風に顔を出すモンスター達は自分達の思いを必死になって伝えようとする。
だが、上手く言葉が出てこず、どうすればいいのかわからない。そんな不安げな雰囲気を醸し出す怪物たち。
様々な配色の瞳に憂いを浮かべ、懇願するように見つめてくる彼らに団員達の心が揺らぐ。
これこそがギルドが隠そうとしていた真実。
一歩間違えれば下界を滅ぼしかねない危険極まりない地雷。
「·············話は分かった、けれど単純な損得として、たとえ知性や感情を持っていたとしても『怪物』と『
フィンの脳裏に浮かぶのは『怪物』の爪から自分を『庇って』、死んだ両親の姿。いくら理由を並べようと これまでに人類とモンスターの間で起こった数多の悲劇を思えば到底納得できることではない。
たとえ、これから先の未来に新しい時代が来ると言われても、人とモンスターが手を取り合って生きていくことなど不可能だと断ずるに十分な過去が世界中にはいくらでもある。
その『異端児』が自分達に敵意を持たないのはわかった、だがそれはこちらの事情ではないのだ。
現に【ロキ・ファミリア】の中でも身内を、あるいは仲間を『怪物』によって喪った者は少なからず存在する。そんな者たちの顔は困惑よりも嫌悪が浮かんでいる。
彼らを納得させられる理由など─────────
「──────『黒竜』を討つ」
その『一言』に全てが凍る。フィンですら思考が停止し、心臓を鷲掴みにされたかのような錯覚に陥る。予想だにしなかった答えに団員たちの頭は真っ白になる。
「皮肉にも、ゼウスが、ヘラが、神時代の結晶たる最強の英雄達が証明してしまった。『英雄』と『神』だけではあの黒き災厄を打ち倒すことはできない」
それはオラリオに生きる、否、下界に生きる全てのものにとっての悲願であり達成すべき目標。
冒険者のみならず全人類の共通認識。
誰も成し遂げられなかった偉業。
─────下界の悲願『三大冒険者依頼』。
太古の昔に大穴から出でた三つの大災厄、オラリオの冒険者たちがいずれ達成しなけれればいけない原初の約定。
かつての最強を引き継いだ【ロキ・ファミリア】は当事者として、何としてでも成し遂げなければならない。
それがまさか、今ここで、このタイミングで、よりにもよってアルの口から語られるなど誰が想像できただろうか。
今度こそ完全に団員たちは言葉を失い、動揺が走る。
「アルフィア─────、この地上で唯一俺に匹敵する才を持っていた、俺の『
噛みしめるように『当代最強』の男は語り、目を閉じる。そこにあるのは個人が背負うにはあまりにも重い重責。
フィンでさえ、他の団員達と同じく絶句してしまう。最もその悲願に近い英雄からの言葉だからこそ、フィンたちにとっては衝撃的だった。
「そして、託された俺たちにはあの『英雄』達に代わって何を賭してでも『救界』を為し遂げる責務がある─────違うか?」
『隻眼の黒竜』、『ゼウスとヘラ』、『アルフィア』そのどれもが【ロキ・ファミリア】には無視することのできない爆弾の雨だ。
団員たちは固唾を呑んで見守る、見守らざるをえない。
アル・クラネルは『万能の天才』である。そして、その才覚はなにも戦いのみに優れているわけではない。
『神すらも騙し切る演技と演出』、この世界に生まれついて十数年、大神を、ロキを相手にひたすら磨き上げられた神話級役者、それがアル・クラネル。
嘘はつかず、本音を隠して相手の心を揺さぶるアルの詐術は相手の意表を突き、確実に自分のペースへと持っていく。
アルの本気の弁舌の前には、いかに歴戦の功者といえど抗うことは難しい。ましてや今この場所にいるのはその精神性ゆえにアルの話を聞き逃してはならないと理解している者達ばかり。
その言葉の一つ、一つが【ロキ・ファミリア】の心根を穿ち、『納得』を与えてしまう。
『なるほど、アルは知恵あるモンスターを敵ではなく救う対象として手を差し伸べた。たとえ自らの地位を捨てさってでも、そんな覚悟で』
『なるほど、アルは英雄としての地位よりも英雄としての責務、世界を救うことを優先したのだ』
そう、思ってしまう。思わされてしまう。もちろん、中にはそんな理屈で割り切れる者達だけではない。しかし、そんな者達ですらも圧倒されてしまう力がその言葉にはあった。
─────しかし、それは。
「私、達より、モン、スターを、────『怪物』を選んだ、の?」
絶望の表情でうわ言のようにアルへ語りかけるアイズ、だが、つまりはそういうことではあるのだ、アルが『英雄』であることを捨てるというのは。
「─────さて、どうする? 『怪物』に与した俺を殺すか? アイズ・ヴァレンシュタイン」
「ぁ、ああ、────」
アイズは絶望の表情で呟いた、【目覚めよ】、と。
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なお、自分が倒そうという気持ちは全くもってない変態白髪。
アルにとって一番相性いいのは神と精霊を取り込んだ格上の漆黒のモンスター。
理由としてそれっぽいから言ってるだけで本気でどうこうしようとかは思ってない。
自分のせいでその戦力が減るのは問題だからその分の補填はしようとは考えてるくらい。
【ダメージ】
・フィン −1500
・ロキF −500〜1000
・アイズ −1700
・ヘルメス −1200
・リヴェリア −2000
・アル 毎ターン+9999
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