皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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ちょい短いです


127話 内心翻訳「お前らが勝手に倒せ、俺は知らん」

 

 

 

 

 

「──────『黒竜』を討つ」

 

冒険者としてモンスターを殺すことを生業としている者でその言葉の重みがわからぬものはいない。

 

かつて栄華と隆盛を極め、神時代の頂点としてオラリオに君臨していた最強の派閥【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が敗北を喫した黒竜。

 

下界に生きる全ての者にとってそれは何としても討ち滅ぼさなければならない終末の象徴であり、誰もが抱く恐怖そのもの。

 

怪物の王、最強のモンスター、あらゆるまでの頂点に立つ黒竜。それは現在確認されているダンジョンの深層に潜む階層主などとは比べ物にならない脅威。

 

現行の人類がどれほどの精鋭を集めたところであの黒竜を打倒することなど不可能だ。

 

下界の人間が挑むこと自体が間違っている、そう思われてしまうまでに黒竜の力は隔絶している。

 

それでも挑まなければならない。挑まなければ下界そのものが滅ぼされる。

 

それこそが下界の悲願。

 

冒険者の悲願。

 

人類の悲願。

 

今の平和は世界が滅ぶまでの黄昏に過ぎない。黒竜の討伐とダンジョン最下層の攻略なくては人類が新たなる時代を迎えることはできない。

 

だが、それを果たして誰が成し遂げられるのか。

 

ゼウスやヘラでさえ敗北を喫したあの災厄を一体誰が討伐できるというのだろうか。

 

そして、『当代最強』は語る。

 

自分達が果たさなければならない責務なのだと。最強を引き継いだ冒険者だからこそ果たさなければならない義務だと。

 

先日の遠征でゼウスとヘラしか足を踏み入れたことのない『未到達領域』へと足を踏み入れた当代の最強派閥である【ロキ・ファミリア】こそがその偉業を達成すべき存在なのだと。

 

ダンジョンに潜る冒険者たちの大半が金や名誉を目的としているのは否定できないが、少なくとも都市最大派閥である【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】は違う。

 

この両派閥に、オラリオという英雄都市に求められるのは黒竜の討伐である。その偉業を成し遂げた時こそ、オラリオの冒険者は本当の意味で英雄になれる。

 

今の下界には『後がない』

 

神時代以降、間違いなく最強であったゼウスとヘラが敗れたという確固たる事実。

 

当代最強と同等以上のLv.8の『英傑』に加えてそれを凌駕するLv.9の『女帝』。

 

他にも『静寂』や『暴喰』を始めとした複数のLv.7。他派閥も含めれば山ほどとは言わずとも多くのLv.6がひしめき合っていた神の眷属の最盛期。

 

そんな現行のオラリオではどう考えても届かない二大派閥ですら届かなかった生きた終末。

 

オラリオ内で絶えず行われている戦争遊戯やギルドから一定以上のファミリアに命じられる遠征も結局のところは今の冒険者たちをかつての水準にまで引き上げるためのものだ。

 

神時代以前の太古に大穴から世界中に進出したモンスター達の末裔や世界三大秘境たる『竜の谷』から降りてくる竜種達。

 

モンスター達は今もなお世界中に存在し続けている。こうしている今にもモンスターによる被害は加速度的に増えている。

 

家族を失った幼子、友を失った老人、恋人を奪われた若者、その嘆きは尽きない。

 

それに対抗するためにも、今一度下界の存在は一丸となって立ち上がらねばならない。

 

──────世界は『英雄』を待っている

 

それを【ロキ・ファミリア】に所属していて理解していないものはいないだろう。

 

皆、英雄に憧れ、英雄になりたいと願い、英雄に続こうと努力している者達ばかりだ。

 

だからこそアルの一言は重い。

 

『英雄』だけでは、神々と人類だけでは世界は救えないと英雄に最も近い男が断言したのだ。

 

アルの言う通り、今のオラリオに存在する全戦力を集めても黒竜を倒すことは不可能だ。

 

それを覆すためなら怪物の力も借りるべきだとアルは言っている。アルの言葉の意味を理解した者達は一様に驚愕の表情を浮かべたが、その言葉の重みを理解すればするほどに声は小さくなっていく。

 

フィンすらも言葉を失わざるをえない。救世の為なら英雄であることすら捨て去ると宣言したアルに対し、団員はこれ以上の異論を唱えることができなくなってしまう。

 

しかし、そんな中で──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんで、アルは剣をとったの?』

 

 あの日、日もとっくに落ちた肌寒い街のベンチに二人で腰を下ろしたときにふと思い浮かんだ疑問。

 

それはずっと不思議だった。どうしてアルは冒険者になったんだろうって。自分の考えや過去を喋らない彼のことだ。きっと答えてくれないだろうけど、それでも知りたかった。

 

『私が、剣をとったのは────モンスターに奪われたおとうさんとおかあさんを取り返したかったから』

 

 強くなりたいなんて思いはその理由に付随したものでしかない、と私は返答も待たず続けた。

 

いつか必ず両親の仇を討つために、いつか必ず両親を取り返すために。

 

あの黒き竜を討つために。

 

そのために私は剣をとり、そのためだけに強さを求めた。

 

なら、アルはなんの理由があって強くなろうとしたの? 私のように復讐のため? それともまた別の何かのために?

 

私以上に強さを求めてきたであろうアルの戦う理由を聞いてみたかった。

 

あのときは確か─────

 

「理由、か。どうしても見たいものがあった。それを見るためには強くならなくてはいけなかった、ただそれだけだ」

 

 いつもと変わらない無表情でつまらなそうに言う姿。それがどこか悲しげに見えたのは気のせいだろうか。まるで義務をこなすようにモンスターを殺すアルの姿が思い出される。

 

それを見ていられなくなって思わず肩を寄せた。血が通っていないような冷たい姿。だけど、確かに伝わる体温。

 

「······その、見たいものが見えたあとでいいから」 

 

 あの時、脳裏に浮かんだのは父と母の姿。

 

「アルは、私の英雄になってくれる?」

 

 私にとって英雄とは、物語の中にしかいない存在だ。現実には助けてくれる英雄なんているわけがない。

 

それをわかっていたからこそ、私は自分の手で剣を取ることを決めた。だが、今は違う。アルは確かに自分を助けてくれた。

 

いつか、お前だけの英雄に巡り会えるといいな

 

 父が言ったそんな言葉を思い出した。それはきっとこの事だったんだと思う。私の言葉を聞いたアルは驚いたように目を丸くすると、少し考える素振りを見せた後に口を開いた。

 

『親代わりの爺は俺に英雄になれと常日頃言っていたが、俺は多くのために戦う英雄なんてものにはなれないし、なりたくもない』

 

『─────ただ、そうだな。お前一人くらいの英雄なら考えてやる』

 

 ·················あの夜、言ってくれたあの言葉は嘘だったのか。なんで私達ではなく『怪物』を選んだのか。

 

今、その仮面のような顔の下で何を考えてるの? わからない、何もかもが分からない。

 

いくつもの感情、いくつもの疑問が脳裏に浮かび、混ざり合う。泥沼の中を泳ぐかのように思考がまとまらず、気持ちが悪い。

 

溢れ出る想いがわだかまるように胸の奥底へと沈殿していく。そしてついには決壊する。

 

──────【目覚めよ】。

 

 

 

 

 

 

 

 

吹き荒れる風、巻き上がる土煙。人一人が簡単に吹き飛ぶほどの暴風が渦巻き、形と色を変えていく。

 

漆黒の風はより深く黒く染まり、周囲の大気を侵食していく。闇色の神風は瞬く間に天高く昇り、迷路街全体を覆いつくさんとする。

 

悲鳴のように鳴り響く風の轟音。もはや都市そのものが軋むような激音が迷路街に響き渡る。

 

アイズがアルへ魔法を使って斬りかかったのだと理解するのが早いか、【ロキ・ファミリア】に、そして『異端児』達に迷いが走る。

 

【ロキ・ファミリア】のそれは止めるべきか、援護するべきか。

 

『異端児』のそれは助太刀するべきか、【ロキ・ファミリア】を止めるべきか。

 

風の音色に感化されたように高まる場の戦意。互いを警戒するようにジリジリと緊張感が張り詰められていく。

 

互いを牽制し合う両者、自然と【ロキ・ファミリア】の視線がフィンへと集まる。誰しも好き好んでアルと戦いたいとは思わない。

 

そしてそれはフィンも同じこと。『異端児』に関してももはや、普通のモンスターとしては見られない。

 

だが、このまま逃がすわけにもいかない。葛藤と責務の板挟みになった団員達は判断できずにいた。そんな中、フィンは静かに息を吐いて思考を巡らせる。

 

すなわち、この場における最善手は何か。

 

─────『異端児』を隣人として認める?

 

論外だ、そんなあっさりとうまるほど人間と怪物の数千年に渡る殺し合いの溝は浅くない。

 

─────『異端児』を殺す?

 

論外だ、そんなことをすれば【ロキ・ファミリア】はバラバラになる、第一アルが許さないだろう。

 

·················『見なかったことにする』。

 

この場に限り、ヴィーヴルも『異端児』も見なかったこととし、見逃す。たしかに、これが最も簡単で穏当ではある。

 

しかし─────。

 

「·················生け捕りにしろ」

 

 それが許されるオラリオではないのだ。もし、この場にいたのがフィン一人ならば可能だったかもしれないが、【ロキ・ファミリア】という集団である以上、そのような行為は自殺行為に他ならない。

 

血塗られた歴史が積み重なり、今なお続く怨恨の連鎖。人類と怪物の争い、その始まりたる大穴から出てきたモンスター達との生存権を賭けた戦いは未だ続いているのだ。

 

そんな中、『殺し合い』ではなく『話し合い』をできるモンスターがいるなんてことが知られればどうなるか。

 

いくら異端児に人間と似たような理性や感情があっても結局はモンスターであることに変わりはない。

 

モンスター達は人類にとって常に脅威であり続けなければならない。それこそが、この世界の絶対の理なのだ。

 

異端児たちは安全だったとしても仮にその存在が世間に露見してしまえばモンスターと戦う者たちの手が鈍る。

 

戦う手が鈍ってしまうことで犠牲になる人々が増えてしまう。その結果、最悪の場合、人類の存続を脅かす問題にまで発展する可能性すらある。

 

下界全てを激震させるほどの影響を及ぼせる異端児たちを放置しておくことは、許されない。

 

─────『怪物』は『処分』する。

 

冒険者に課せられた責務であり、宿命でもある。アイズと同じようにフィンはためらわずにモンスターを殺せる。

 

怪物は人類にとって毒にしかなり得ない。どんなに変わった怪物がいたところで関係ない。自らの立場と人類全体の利益を考えるならモンスターは殺すしかない。

 

アルの言葉がなければ、迷うことなくそうしていたはずだ。

 

だが、アルは言ったのだ。

 

──────黒竜を討つ。

 

ゼウスとヘラがいたあの時代を知るフィンだからこそ、その言葉の意味を理解してしまった。

 

あの時代を生き抜いた者だけが知りうる、その言葉の真意。託された者の責務と願い。

 

表向き上、黒竜に敗北してその主戦力を失った【ゼヴス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】はその敗北を咎められ、他ならぬロキとフレイヤによって都市から追放された。

 

だが、実際は違う。

 

ヘラに恨みを持っていたフレイヤはいざしらず、フィン達【ロキ・ファミリア】にゼヴスやヘラに対しての隔意はなかった。

 

偉大なる先達である彼らは後継たるフィン達の『壁』に自らなったのだ。

 

自分たちの代での救世は不可能だと悟り、次代の者達に託して散った。

 

託されたからには、応えなくてはならない。

 

託された誰かが最後の英雄にならなくてはいけない。

 

だが、フィンは自分が『人工の英雄』にすぎぬことを理解している。

 

演出し、画策する。英雄として求められる名声と偉業を実現させるために、フィンはあらゆる手段を使い、自らが英雄であることを周囲に認めさせてきた。

 

当然、その中には汚い策謀も含まれており、時に卑劣と蔑まれても仕方がないような真似だってしてきた。

 

見せかけの勇気に、演出した栄光、造られた偉業、鋪装された冒険、ツギハギされた人工の英雄。

 

自分こそが『架空の女神フィアナ』に代わる一族の希望になるために、冒険を重ね、力をつけ、名声をかき集めた。

 

欲するのは小人族の新たな光となるための英雄譚。『大衆の英雄』であり、『奸雄』であり、『人工の英雄』だ。

 

全てを利用し、全てを切り捨てる。輝かしい名声とは正反対に穢れきった薄汚れた道。

 

『勇者』という二つ名もロキに掛け合って拝命したもの。全ては見せかけの『勇気』ではなく、確たる実績を残すために。

 

フィンは常に全力を尽くし、己を磨き上げ、研鑽を続けてきた。一族の全てを背負えるだけの力と名声を得るために。

 

その中で僕に冒険を教えてくれた冒険者の先達やともに戦ってきた戦友を見殺しにもした、それがより多くを救うと確信があったからだ。

 

人工の英雄、造られた英雄、ツギハギだらけの偽物。

 

フィンはそのことを恥とは思わない。必要なことを必要なように行っただけに過ぎない。

 

だが、英雄とは作り出すものではなく求められるもの。

 

誰かの涙に、嘆きに、救いを求める声に応えられる存在でなければならない。

 

「(アル、君は─────)」

 

 都市最強の冒険者としての名声すら捨てて怪物の手を取った青年をフィンは思う。

 

アルの言葉はフィンに突き刺さっていた。

 

眩しかった。損得を顧みず、ただひたすらに前を見続けるアルが羨ましくて眩しくて仕方がない。

 

 

『黒竜の討伐』。

 

下界すべての悲願にして諦められてすらいる太古の契約。それをかつての最強派閥の残り火であり、最新の最強である少年は本気で成し遂げようと考えている。

 

─────本気で世界を救おうとしているのだ。

 

フィンはかつて憧れた英雄達の背中を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────まぁ、ここまで言ったことは全部その場の空気の勢いなんだけど。

 

俺が死んだ後のことなんて知ったことかよ。

 

最終決戦がいつになるかは知らないけどその時はもう俺死んでるはずだし。

 

とはいえ俺のせいで戦力が減って負けるなんてことにならないようにある程度の補填はするつもりだけどな、実際きついだろうし。

 

Lv.6からLv.7に、Lv.7からLv.8になって分かったけど今の俺やオッタルクラスが数人とそれ以上なのが一人、後詰めにアイズクラスがたくさんいて手も足も出なかった隻眼の黒竜ってまぁまず普通の手段じゃ倒せねえよな。

 

単純にポテンシャルが高くて負けたって言うならかなりの絶望だけど十中八九何らかのギミックがあるだろ。

 

継承スキルとかが発現して俺の魔法とかスキルをベルかアイズあたりに渡せれば割りと気楽なんだがそうもいかんよなぁ··········。

 

なんか俺の影響かは知らんがダンジョンのイレギュラーとか頻発してる気がするし、明らか原作より強くなってる敵もいるし。

 

やっぱり───────俺の代わりが必要だよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

アル「がんばれ♡がんばれ♡」

 

アイズ「それどころじゃない」

 

ベル「えぇ·······」

 

代わりについては後々。

 

・アルから冒険者への期待度

ベル≫≫≫≫≫アステリオス、レフィーヤ>フィン>オッタル、アイズ>その他ロキ・フレイヤ幹部

 

・アルからの信頼度

ベル≫≫アミッド≫≫≫フィン、リュー

 






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