皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
本編は学区で外伝はまだ妖精覚醒編続くみたいだし、アイズメインの巻ってあとどんぐらい後なんだろう
異端児達は強かった。フィンの、あるいはウラノスの予想以上に、都市最強派閥【ロキ・ファミリア】の主力たる第一級冒険者を含む最強の集団を相手に戦えるほどに。
それは『強化種』としての潜在能力と『異端児』としての理知が合わさった結果か、それとも当代最強の男の薫陶故か。
Lv.6にも匹敵する三体の主力を除いても第一級相当の個体が複数いる異端児の戦力はともすれば都市最大派閥【ガネーシャ・ファミリア】をも上回るかもしれない。
結界魔法の準備をする傍ら、戦場を俯瞰しているリヴェリアの目にも彼らの戦いぶりは鮮やかに映った。
一体の天敵に対する複数の連携は冒険者が多人数で行う戦闘の基本だが、モンスター同士がここまで見事な連携を組むのは見たことがない。
個々の力では劣っても戦闘経験を積み連携を磨き上げてきた彼らの戦い方は下手をすればそこらの大派閥の練度を凌駕している。
モンスターであるという一点から目を瞑れば確かに来たる黒竜との戦いにおいて切り札となり得る存在かもれない。そう思わせるだけのものを異端児達は持っていた。
だが─────。
「────ぬんッ」
「グヴウウウウゥッッ·········!!」
並の精錬金属を優に凌駕する硬度を誇る石鱗に守られたグロスの体をまるで紙屑のように吹き飛ばす剛腕。
大気を引き裂くほどの勢いで振るわれた拳がグロスの石体を迷路街の壁に叩きつける。凄まじい衝撃と共に壁の一部が崩れ落ちた。
石竜のグロス、レイやリドと同じように、Lv.6相当の実力を持つ異端児の主力たる彼だったが今回ばかりは完全に圧倒されていた。
崩れた破片が散らばる中、息をつく暇もなく襲いかかってくるドワーフの剛拳を前に為す術なく防御に徹するしかない。
「ほぅ、今ので倒れんか」
ドワーフの大戦士、ガレス・ランドロック。ティオネやベート達若手幹部とは違う、かつての『最強』を知る老兵。
都市最高戦力であるオッタルやアルに次ぐ確かな実力者の一人であるガレスの前に曲がりなりにも同じ領域にあるはずのグロスは防戦一方に追い込まれている。
ガレスの一挙手一投足によってその都度、吹き飛ばされる。その巨体や硬度に相当した重量を持つグロスを軽々殴り飛ばす圧倒的膂力に異端児達の表情に驚愕と畏怖が浮かぶ。
都合七度吹き飛ばされても未だに確たる負傷を負わず戦意を保っているグロスを称えるべきか、ガレスの周りに圧倒的膂力によって無力化された異端児たちが倒れ伏している。
「化ケ物メ··············」
「ヌシに言われてものぅ」
ガレスだけではない、『異端児』と幹部たち。互いに互いの命を狙わぬ消極的な戦いにおいてなお、当初は戦意よりも困惑が強かった幹部達は調子を取り戻し、地力の差で押しつつ始めていた。
「··················(とりあえず、戦いの趨勢は決した。互いに互いを殺さないという前提の上ならば冒険者のほうができることは多い)」
魔剣、各種アイテムによる援護や保有スキル、発展アビリティによる特定条件下での自己強化。
そして何より魔道具でもない限り再現性のないそれぞれ特異な効果を発揮する魔法。
モンスターに無い冒険者の強みは技と駆け引きに加えてこれらを駆使して戦うことにあり、それらを以てしてポテンシャルで勝るモンスターに対抗するのだ。
それに、いくらリドたち『異端児』がアルの薫陶、そして魔石によって急激に強くなったとはいえ、彼等は強化種でこそあるがレヴィスたち怪人のような『異種混成』やアルのような『才禍』ではないのだ、短期間に強くなれるのには限度がある。
「(···········あとはアルが手を出すか、どうか、か)」
グロスたちLv.6相当の三体とLv.5相当の数体、その他第二級相当の異端児たちの戦力は強大ではある。
だが、アイズとフィン、リヴェリアを除いてもLv.6の第一級冒険者とその援護をする二軍たちならば勝てる。
だが、そんな前提は極論、この場の全戦力を一人で制圧できるアルが出張ればすべてが覆る。
だが、アイズを無力化してからのアルはどちらに手を出す様子もなく、戦場の端で戦いの行く末を異端児達に任せるが如く、たたずんで戦況を見つめているだけ。
「いや、何かを待っている···········?」
リヴェリアがアルの態度に違和感を覚えた瞬間、雷鳴を思わせる怪物の咆哮が響き渡った。
うん、まあ勝てないわな。
善戦した方ではあるけどまだまだガレスたちには届かんか。まあ、互いに非殺傷前提に戦ってるからそれもあるだろうけど。
アイズなら話は違かっただろうが、俺が相手したからな。··········アイズも強くはなってるんだろうけど、何をどうしても俺を殺すのは無理だな。
相性的にもアイズが五人くらいいても負ける気がしないわ。属性魔法使う半精霊の剣士とかありとあらゆる面で俺に有利だからなあ。
アイズに殺される、ってのはかなりオイシイんだけどまず、無理だな。まあ、最初から期待してないからいいか。
で、異端児たちだが、俺が手を出せば確実に逆転勝ちできるが、俺が直接手を出すのは不味い、あくまでも俺は火の粉を払うのに留めなきゃならねぇ。
だから。
────────暴れろ、アステリオス。
『────ォ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
それはまさしく雷鳴の如き轟音。大地を揺るがす振動と大気を震わせる覇気の奔流。
英雄以外の全ての存在を怯えさせる雷鳴のごとき雄叫びにティオネと対峙していたリドは目を見開き、他の者達も何事だと視線を巡らせる。
ビリビリと肌を震わせる覇気と膨大な魔力が荒れ狂う震源地の方向をその場全ての者が視線を向けた。
「なん、だ·········あれはッ!?」
「今のは、まさかっ!!」
冒険者達の呟きを掻き消すように異端児達もまた動揺の声を上げた。
迷路街の片隅から響く、竜の遠吠えにも似た獣性の絶叫。
戦いに参加せず、隠れて戦いの形勢を見やっていた【ヘスティア・ファミリア】や結界の準備に当たっていたリヴェリアもその声の主がいるであろう方向を見て呆然と言葉を無くす。
そして、大地を揺るがす足音が響いて姿を現したのは─────
「────黒い、ミノタウロス?」
それは誰の言葉だったのか。だがその場にいる全員が同じ気持ちを抱いていた。迷宮の闇を凝縮させたかのような漆黒の体躯に、血潮の如く紅い双眼。
その姿に、誰もが息を飲み言葉を失う。
漆黒の体表、天を衝くかのような長大な体躯、鋭利かつ堅牢なる無数の刃を思わせる威圧感を放つ角。
漆黒の体毛に覆われたその巨躯は、まるで山のように巨大で、そして禍々しさを放っていた。
しかもそれが放つ圧倒的な存在感にティオネたち歴戦の第一級冒険者ですら気圧され、硬直してしまう。
対峙する者全てを呑み込むような錯覚を覚えさせるほどの強者が持つ絶対的な覇気に知らず息を飲む。
離れているにも関わらず空間が軋んでいるかのような錯覚を覚えるほどの重圧に呼吸を忘れてしまう。
全身を冒険者のような装備で覆い隠しているものの、その内側に秘められた桁外れの力は隠しきれず溢れ出ている。
間違いなく、今の今まで都市最強派閥である第一級冒険者たちが遭遇したどのモンスターよりも強い。
59階層で遭遇した精霊の分身をも凌ぐ威圧を放ちながら、その存在は異端児とそれに相対する冒険者達に視線を向ける。
見ただけでわかる絶対的な実力。Lv.6相当であるはずの三体でさえ、目の前の存在の前ではその足元にすら及ばないだろう。
異端児達とは違う、『怪物』という言葉が何よりも相応しい存在を前に冒険者達はその足を後退させる。
理性ではなく本能をノックバックさせてくるその感覚に抗いながら冒険者達は武器を構えた。
そこに、先程までの困惑や思慮はない。あるのはただ、死と隣り合わせの状況に置かれたことによる緊張感のみ。
戦場を冷静に俯瞰していたフィンですら無意識のうちに槍を持つ手に力がこもり、額に汗が滲む。彼の折れた親指は痙攣するように震えている。
『·················』
猛牛のフゥー、フゥーという荒い呼吸音だけが響く中、やがて巨体はゆっくりと動き出す。
濡れたような黒い美しさを感じさせる人間大の刀身をもった漆黒の大剣を手にして一歩ずつ、ゆっくりではあるが確実に歩みを進めていく。
それはまさに王者の行進。
視線をぐるりと見回すともう一度息を吸って、吐きだす。
『ォ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!』
次の瞬間、放たれるのはまさしく『怪物』の雄叫び。空気そのものが弾け飛びそうなほどに強烈な衝撃を伴うその雄叫びに冒険者達は思わず耳を押さえる。
そしてバタバタと第三級以下の冒険者達が昏倒していく。遠目から様子を見ていた【ヘスティア・ファミリア】も例外ではない。
それはまるで大波を彷彿させる光景であった。物理的圧力すら伴った『
レベルの低い者であればそれだけで恐慌状態に陥りかねない暴虐の雄叫び。聞いたものを強制停止させる力を持った雄叫びに強者揃いの【ロキ・ファミリア】ですら膝を着く。
原始的恐怖によって引き起こされる畏怖の感情は、彼等を動けなくするには十分すぎるほどのものだった。
「あの、野郎·········!!」
そんな咆哮の余韻の中、一切の戦意の衰えを見せないどころか暴力的な戦意を爆発させたベートが立ち上がる。
「···········!!(アレは、ベートが言っていた!!)」
18階層で生まれ落ちた『神の刺客』。神を殺すべく最強の力をダンジョンに与えられたかの猛牛はベートと『女神の戦車』を正面から打ち倒した。報告を受けたギルドが発表した推定レベルは──────『7以上』。
現状、【ロキ・ファミリア】ではそれこそアルを除いて単騎で勝てるものはいない怪物。
この怪物も異端児だというのなら、話は変わってくる。
──────黒竜を討つ。
【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の零落以降、たった二人しか踏み込むことのできなかった英雄の領域、Lv.7。
フィンを含めて未だ、【ロキ・ファミリア】の者たちがたどり着けてない階梯にこの『最強の異端児』はたどり着いている。
このような、前例があるならば戦力として『異端児』はあるいは現行の最大派閥にも匹敵しうる。もとより魔石によって冒険者よりも遥かに早く成長する強化種としての強さを持つ『異端児』達はこれからも際限なく強くなっていくだろう。
「参ったな············」
アルの選択に衝撃を覚えたのはなにも、アイズだけではないのだ。
爆進、破砕。
走るという行為そのものが巨大な鉄塊を叩きつけるに等しい破壊を生む。
圧倒的な質量を持つ漆黒の巨躯が駆け抜ける様は、まるで嵐だ。荒れ狂う暴風のように、大津波のように怒涛の勢いで冒険者達へと突進する。
漆黒の突撃を前にティオネは湾短剣を交差させて構える。
「────ッ、馬鹿野郎!!受けるんじゃねぇ!!」
唯一、その膂力を知るベートが防御しようとするティオネに警告するが既に遅い。
「〜〜〜〜〜〜〜ッ?!」
漆黒の怪物のぶちかましがティオネを捉える。凄まじい轟音が鳴り響き、そのまま地面に叩きつけられて二度三度バウンドして壁に激突する。
技も工夫も何もないただの体当たり。だが、それでもティオネは一撃で意識を刈り取られそうになる。
瞬きの浮遊感のあと、肺の中の空気が一気に吐き出される。呼吸ができない。視界には星がちらつき、全身が悲鳴を上げる。
「···················ふざけやがって」
ブチッ、と。己の中で何かが切れた音をティオネは確かに聞いた。刹那、炎のような熱を帯びた蒸気がその憤激の丈を示すかのように溢れ出る。
「舐めんじゃねぇっ!!!」
瓦礫を押し退けて地面を踏み砕かんばかりに蹴り飛ばし、その反動を利用して跳ね起きる。
血の混じった唾を吐き捨てると、怒りに燃える双眼で敵を睨みつけた。
その瞳からは普段の冷徹さはなく、純粋なる闘志だけが燃えている。
漆黒の大剣を振り上げ再度突進してくる敵の巨体に向けて彼女は獰猛な獣のように駆け出した。地面を踏み砕かんばかりの疾走。
瞬く間に間合いを詰め、漆黒の大剣の刃を寸前で避けながら懐に飛び込むと全力の拳撃を放つ。風を穿つようなその速さは、並の反応速度では絶対に捉えきれないもの。
しかし、その必殺の威力を誇るはずの渾身の殴打は怪物の剛体にあっさりと弾かれる。殴ったほうが逆に痛みを覚えるような硬質な手応え。
予想以上の防御力にティオネは内心舌打ちしつつも、折れた指にも構わずに追撃を加える。
まるで分厚い鉄板に殴りつけているような感触を感じながら傷も痛みも置き去りにした憤怒に身を任せる。
正拳、直突、横薙ぎ、回し蹴りと流れるような連続攻撃。一撃でもまともに喰らえば深層のモンスターであろうとも致命傷となるであろう苛烈な連撃に僅かも怯むことなく、漆黒の巨人は大剣を振るって迎撃する。
暴風の如き斬戟と拳武の応酬。互いに一歩も引かずに繰り広げられる攻防。第一級冒険者でもなければ割って入ることはおろか視認することも難しい次元の戦い。
「─────チッ、一人で先走るんじゃねえよ!!」
「ちょっとティオネ!」
そこにベートとティオナが参戦する。ベートは持ち前の敏捷を駆使して漆黒の猛牛の背後から奇襲を仕掛ける。同時にティオナは真正面から横腹目掛けて大双刃を打ち込まんと迫る。
─────が。
『──────』
大上段から振り下ろされたベートの足払いを、ティオナの斬撃を、ティオネの連撃を、前に漆黒の怪物は凄絶に笑んで見せた。
そして、大剣を水平に構えて力の限り薙ぐ。
技の術理なぞ一切存在しない。ただ、力のままに振るわれた漆黒の大剣は周囲の空間ごと斬り裂くように放たれた。
その大剣が纏う濃密な殺気にベート達の表情が強張る。ティオネ達は咄嵯に回避行動をとったが、巨人の鉄槌に匹敵するほどの豪快なる一閃はその動きさえも封じ込めた。
結果として、ティオネ達三人は薙ぎ払われた漆黒の刀身に巻き込まれて吹き飛ばされる。衝撃と轟音、粉塵と土煙を巻き起こしながら三者三様に壁へと叩きつけられる。
「(前よりも明らかに強くなっていやがるッ!!)」
「(こ、の野郎········ッ!!)」
「(『力』だけならアルより────)」
たった一度の攻防。だが、あまりに強烈な印象を残すその光景に冒険者達は息を呑んだ。
即座に再起した三人は体勢を立て直すものの、漆黒の怪物はまるで嘲笑うかのように再び突進を開始する。
鋼の鎧を身に着けていながらも、それをものともしない速度の突進をティオネが迎え撃つ。
頭上に掲げた湾短剣を真っ直ぐ突き出す刺突。狙う先は怪物の眉間。立体的な軌道を描いて迫り来る湾短剣に対し、漆黒のミノタウロスは大剣を一閃させて迎撃を試みる。
両者の武器が衝突し、周囲に衝撃波が拡散し、轟音が鳴り響く。先程までの困惑や思慮なぞ抱く余裕もないほど熾烈なぶつかり合い。
第一級冒険者による三者三様の攻勢に対して真正面からの突撃を繰り返す漆黒のミノタウロス。
Lv.8へとランクアップを果たしたアルに迫る、或いは凌駕する『力』と『耐久』でもってひたすらに前進する怪物の猛攻。
深層の怪物どころか、階層主をも軽く凌駕する肉体の頑強さ。ミノタウロスの鋼が如き肉体はただの打撃や斬撃では損傷を与えることなどできない。
「ガァッッ!!」
雄牛の攻撃を紙一重で避けつつ懐に飛び込んだベートの火炎を帯びた銀靴による蹴りを叩き込まんとするも瞬時に反応してその蹴りを大剣で防ぐ。
それでもなお止まらず、そのまま蹴りの勢いを利用してベートはさらに片足を軸にしつ回転を加えて炎を宿した回転蹴りを繰り出す。
だが、側頭部を狙った鋭い蹴りを漆黒の猛牛は驚異的な反射神経で上半身を仰け反らせて避けてみせた。
同時に、今度は逆にベートの脚を掴もうと手を伸ばす。その動作を見てベートは間髪入れずに後ろへ跳躍することで追撃を回避。
唯一、速度だけは上回るベートの攻撃でさえ漆黒のミノタウロスは難なく対応してみせる。
そのどれもが必殺の威力を誇る第一級冒険者の猛撃。しかし、そんな彼らでも漆黒のミノタウロスには決定打を与えることができない。
三対一でありながら戦況は膠着状態に陥る。
瞬間移動と見紛うばかりの速度から放たれる、風を切る音すら置き去りにする怒濤の神速の連撃。
神がかった技術が織り交ぜられた連携でようやく五分に渡り合えるレベル。
歴戦のLv.6三人がかりでもこの怪物を倒し切ることは容易ではない。さすがに第一級冒険者の一撃を完全に無効化できるわけではなく少しずつその体表に傷をつけていく。
しかし、その傷も魔力の燃焼によって瞬く間に再生していく。
まさに不死身の怪物。
このままでは先に体力が尽きるのはこちらだと理解しながらも、彼らは決死の覚悟を持って怪物に立ち向かう。
「かったいー!でも、これならどうだぁっ!!」
「いい加減に倒れろ!!」
ティオナとティオネの斬戟が漆黒のミノタウロスの大剣と斬り結んで火花を散らす。ティオナの大双刃とティオネの湾短剣。
どちらも第一級冒険者が持つに相応しい業物であり、並よりも遥かに頑丈かつ鋭利な切れ味を誇る。だが、それをもってしても漆黒の怪物の筋肉の鎧を突破することはできない。
一進一退の攻防を繰り広げる両者だが数で勝るベート達は決定打を与えられず、力で勝るミノタウロスは数的不利にも関わらず一歩も引くことなく攻め続ける。
そこに。
「ヌゥ────ッ!!」
猛牛の剛撃がティオネの横から飛び出したドワーフの大戦斧によって阻まれる。グロスを無力化し、駆け付けたガレスはそのまま鍔迫り合いの状態から強引に押し込んでくる力を受け流しつつ後方に飛び退く。
一瞬遅れて漆黒の巨体と激突。凄絶なる剛撃の打ち合いが繰り広げられる。地を揺るがすような衝撃音に大気が震える。
ドワーフの大戦士はベートやアレンも下した『怪物』の怪力と真っ向から打ち合った。
猛々しい笑みを浮かべるドワーフの大戦士に猛牛の快進が止まる。
「一端に剣技を使うかッ!!」
ガレスが言うようにベートは前回との違いを感じていた。
武器は変わらぬ漆黒の大剣、しかし、それを振るう様に確かな技量が宿っていた。まず間違いなく、『当代最強』の薫陶を受けた賜物である。
先程までの単調な突進ではなく、フェイントを交えた巧みな攻撃の数々にガレスは思わず感嘆の声を上げる。
四名のLv.6を相手に未だ落ちていないのはその技量があるからこそ、だが、付け焼き刃の技術には限界がある。
四対一という数の有利を生かし、ベート達が果敢に攻め立てる。ベートの銀靴が、ティオナの大双刃が、ティオネの湾短剣が、ガレスの戦斧が。
四方からの怒涛の連続攻撃に堪らず漆黒の怪物は後退する。
戦いの趨勢は冒険者達へと傾きつつあった。
このまま行けば打倒することは可能だろう、とまさにその時だった。
────どこからか戦いの広場にいくつもの黒玉が飛来し、地面に転がった。
何事か、とベート達は警戒心を強めるよりも早く破裂して爆発するように大量の煙幕が発生する。
視界を奪われ、漆黒の怪物の姿も煙の向こうへと消え失せる。
「煙、幕?!」
「クソっ、どこに隠れてやがった!!」
まるで誰の目にも映らない透明のナニカが投げ込んだかのよう。ベートは舌打ちを零しながら周囲を見回すが煙のせいで視認できない。
煙に含まれる香料の刺激臭のせいで視界のみならず嗅覚まで奪われてしまう。
その黒煙がフェルズの魔道具によるものだと察した異端児達は倒れた仲間たちを担いでその場を離脱する。
それを煙幕の外にいた冒険者たちが止めようとするがどこからともなく吹き出した緋火の壁により行く手を遮られる。
それがアルの魔法によるものだと察するよりも早く異端児達は迷路街からクノッソスに繋がる隠れ道へ逃げ込んでいく。
「待っ、て············、アル」
「───────」
やがて、煙が晴れた時には既に漆黒のミノタウロスや異端児達は姿を消していた。逃げられた、と誰もが気付くももはや追いつく術はない。
「クソっ、あの野郎逃げやがった!!」
「ちょっ、落ち着いてティオネ!!」
暴れ出しそうなティオネをティオナが羽交い締めにして抑え込み、なんとか宥めることに成功する。
燃え上がった火の壁は何にも延焼することなくまるで最初から無かったかのように消えた。
後に残ったのはベート達とミノタウロスの咆哮によって強制停止させられた下位団員のみ。
「··············地下に逃げたようだが追うか?」
「いや、いい。アルは──────、いないか」
フィンの視線の先、そこには呆然と佇むアイズしかいなかった。
アステリオスでも無理かー、まぁガレスまで出てきたんじゃ仕方ないか。
これ以上はあんまり意味ないし。
見るもん見れたしもう良いかな。
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フェルズ謹製アダマンタイトゴーレム『········』
アル「出しても無駄だからやめとけ」
アステリオスは力と耐久はLv.8クラス、それ以外はLv.7いかないくらい。技量はまだまだ未熟。
少なくとも異端児編終了まではこの投稿ペースを続けたいな、励みになりますので評価とお気に入り登録、コメントよろしくお願いします