皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
バカクソ忙しかったけどギリギリかけた
異端児編後半開始
132話 俺以外の曇らせなんざ許すわけねーだろ
【ロキ・ファミリア】が異端児達との戦いを終えた頃。貧民街の路地裏を駆ける白い影が一つ。
焦燥した様子で走るベルの両腕にはぐったりとした竜の少女が抱えられている。今すぐにでもこの場を離れなければと必死な思いで足を動かす。
だが、そんな少年に追いすがるように複数の足音が響く。冒険者達が自分達を追ってきているであろうことを想像するのは容易かった。
背後から迫る追跡者の気配を感じ取りながらも、それでもベルは止まることなく走り続ける。
「ウィーネッ················目を開けて!!」
腕の中の少女に声をかけるも返事はなく、力なく項垂れるばかり。既に額に赤石を戻していたためその姿も怪物らしいものから少女然としたものに戻っている。
だが、意識はなく。全身の肌がひび割れたように亀裂が入り、そこから血が滲んでいる。
顔色も悪く、呼吸も弱々しくなっている。
このままでは、という思いが胸中を過り、同時にベルは自分の無力さを呪う。
【イケロスファミリア】の主力は既にいない。しかし、街中に現れたモンスターを当然の義務として攻めたてる冒険者たちはいた。
貧民街の路地裏に来るまでの間、地上に出たモンスターを倒そうという冒険者たちの魔法や弓矢による攻撃を浴び続けたせいだ。
元々、消耗していた上に傷を負って衰弱した少女はとうとう限界を迎えてしまったのだ。
ベルは咄嵯に少女を抱えて人気のない場所を探して逃走している最中である。
手持ちのポーションなどでできる限りの処置は施した。けれど、それでどうにかなるような状態ではない。
「(どうしよう、このままじゃ·············ッ)」
焦る気持ちに呼応するように徐々に速度が落ちていく。
先ほど迷路街の方からあがった凄まじい怪物の咆哮。どこか聞き覚えのあるそれのおかげで冒険者達の追跡者は減っているようだがそれも時間の問題だろう。
怪物の姿ではなくなったとはいえ見つかればただでは済まない。
「駄目っ···············目を開けてよっ!!」
もとより青白いウィーネの肌はさらに蒼白になっている。出血量も多く、放っておけば死に至るのは明白。いくら呼びかけても反応はない。
治癒魔法を使えないベルではポーション以上の効果は望めない。
体温が下がり、冷たくなっていくのを感じる。頭の中に最悪の結末が浮かんでくる。
「···················ベ············ル」
「っ!! ウィーネ!!」
「ごめん、ね··················」
か細い声に目を見開く。ゆっくりと瞼を開いた少女は焦点の定まらない瞳を向けながら謝罪を口にする。
ベルの服を握りしめた小さな手が震えていた。何を謝ることがあるのか、と思わず叫びそうになったベルだったがウィーネの表情を見て言葉を呑み込む。
琥珀色の瞳からは涙が溢れ、今も苦痛に苛まれているはずなのに柔らかな微笑みを浮かべていた。
何かを言いたいのに言葉が出なかった。喉の奥が熱くなって何も言えなくなる。そんな少年に少女は小さく唇を動かして呟いた。
「ありがとう···············わたしをたすけてくれて···············」
それは掠れて、音にならないような微かなものだった。それでも確かに聞こえた。優しい少女の感謝の言葉。だから、ベルは何も言えない。言うべきことが見つからない。
少女を助けるために自分ができることが何もないから。悔しさから歯噛みする。自分の非力を呪いそうになる。
少女の体が少しずつ軽くなってきた。その重さが命が失われようとしていることを表しているようで悲しかった。
ここまできて、何も守れないのか。無力を嘆きながら、唇を強く噛みしめた時だった。
──────【ディア・フラーテル】
少女が崩れ落ちるよりも、少年が慟哭を零すよりも疾く、純白の光の粒が立ち上った。幻想的に輝く光はウィーネとベルを包み込む。
穢れを一切孕まない純白の魔法円、それが幾重にも折り重なって貧民街を覆うように展開されていく。
空気すら浄化されたと錯覚するような清浄な輝きが周囲を照らし出す。あまりの眩しさに目を細めながらもベルは視界の端に捉えた光景に驚きを隠せない。
「·············えっ?」
ウィーネの体へ立ち昇った光が収束していく。傷だらけになっていた肌も、ひび割れていた亀裂も逆巻くように修復されて消えていく。
そして、ウィーネの閉じられていた目が開き、力無く地面に落ちようとしていた腕にも力が戻り始めた。
完全に元通りになった少女は不思議そうに首を傾げている。まるで何が起こったのか理解していないように。
暖かな陽射しのような力の波導に照らされるベルは目の前で起きている現象が信じられない。
思えば自分自身も身体の奥に残る鈍い痛みや泥のような疲労感がみるみると薄れていく。まるでこの場にいるだけで全てが癒されているよう。
────『英雄』は自身以外の死を許容しない。自身以外のものが死をもって他者に『傷』を残すことを許さない。
そして、『英雄』は博打を嫌う、故に成功するかもわからぬ蘇生魔法や間に合うかもわからない自分ではなく、自身の経験からこと『死なせない』ことにかけては誰より深い信頼を寄せる『聖女』を頼った。
ベルは知らない、その白き光粒こそが『聖女の奇跡』。
比喩でなく『全て』を癒やす最上の奇跡であり、その回復効果は対象の死以外であれば全てを癒やす絶対の治癒。
傷の治療、体力回復、状態異常及び呪詛の解除とこの世に存在するあらゆる毒を浄化し、あらゆる傷を癒す回復魔法の極北。
『当代最強』たるアル・クラネルですら届かなかった全癒魔法の効果はLv.3の身でありながら、不死を実現させた魔法大国の賢者のそれを上回る。
ランクアップ以前も発展アビリティを発現させていないのにも関わらず展開されていた純白の魔法円はLv.3へと至ったことで正当に獲得した【魔導】の発展アビリティの後押しによってその範囲と強化率を飛躍的に上昇させていた。
彼女は予めアルに指定されていた貧民街をすでに詠唱を終えて非活性状態で維持した魔法円を展開しながら歩を進めていた。
ランクアップしたことでリヴェリアの【レア・ラーヴァテイン】のような感知能力が付与された魔法円の探知範囲は半径数十メートルにまで拡大している。
だからこそウィーネとベルの姿をいち早く発見することができたのだ。
純白の光輝が収束する。ウィーネの腕にあった傷も、ベルが負っていた傷も全て綺麗さっぱりなくなっていた。
「·················いたく、ない?」
「·················ウィ、ーネ?」
呆然としていたウィーネは自分の手を握ったり開いたりと繰り返しながら、困惑した様子で呟く。
そんな少女に安堵したベルもまたその場に膝をつく。掠れそうな声で呟いたベルはふと、顔を上げてこの奇跡を起こした存在を探そうと辺りを見回す。
光の中心にいたはずの人物を探したが、そこにあったのは光輝く魔法陣のみ。先ほどまで感じていた優しい魔力の残滓だけが残っていた。しかし、それもすぐに消える。
まるで役目を終えたと言わんばかりに。やがて、周囲に展開していた光の粒子が完全に消失すると静寂が訪れた。
ウィーネは改めて自分の手足を確認しながら、隣で座り込んでいるベルを見やる。
少年は少女の顔を見ると、瞳に涙を浮かべながら微笑んだ。ウィーネもつられて微笑んだ。
「────ああ、どうやら間に合ったようですね」
そこにコツコツという足音が響く。現れたのは純白の法衣に身を包む銀髪の少女だった。長い髪を光に靡かせた少女はこの場に現れた途端、周囲を見渡して状況を把握したらしい。
ほっとしたように胸を撫で下ろした少女はウィーネ達の方へ歩いてくる。未だに光粒の残滓を纏う彼女は正しく『聖女』の名に相応しい神々しさを放っていた。
精霊や女神の生まれ変わりと言われても誰もが信じるだろう、それほどまでに神秘的な雰囲気を持つ少女。
そして『英雄』は精霊や女神程度で収まってくれればどれだけ楽かと言うだろう極聖の乙女。
「人目につかないよう気をつけてそちらの路地を曲がってください。アルの人目払いの魔道具が設置してあります」
頭痛に堪えているかのように頭を押さえながら安全な道を教える『聖女』────アミッド・テアサナーレはモンスターを治療したことを知られてはならないために「では、私はこれで。細かい処置はアルに」と言葉を残して未だ呆然としているベルのもとを去る。
「ウィーネ················」
「·····················べル」
このオラリオで俺以外の曇らせなんざ許すわけねーだろ。
【イケロス・ファミリア】は叩き潰したから問題ないとはおもってたけど万一の場合に備えてアミッドを派遣しといて正解だったな。
まあ、あとはアステリオスを回収して一旦ダンジョンに潜るかな、【ロキ・ファミリア】には当分帰らないってことで。
この『全方向曇らせ大作戦』。
一見、完璧にも思える作戦にも欠点がある。
それは単純············ゴールがないんだよ。いつものなら俺の死で完成するからいいんだが、この場合は曇らせ成功しても別に俺死なないからな。
この異端児騒動じゃあどうあがいても俺は死ねないからな。さらなる燃料を追加して続けるか、わだかまりを残しつつ落とし所を作るかの二択かな。
····················んなもん、前者に決まってるわ!!
せっかく、きれいに決まったのに自分から止めるとか勿体無いにも程があるわ、追加の燃料くれてやるよ。理想としちゃあ、仲違いしたまま死んで永遠に引きずってほしいな。
うひっ、ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ────ッッ!!
異端児と【ロキ・ファミリア】の戦いが終わってから間もない黄昏時。
戦いによって廃墟と化した家屋の一つの中ではフィンとロキによる尋問が行われていた。
闇派閥に組していた【イケロス・ファミリア】の主神の身柄を確保したことでギルドには引き渡す前に情報を引き出そうというわけだ。
逃げられた異端児達当人ほどの情報は期待できないが、それでも闇派閥残党の中核にほど近いと思われるイケロスの捕縛は不幸中の幸いとも言える戦果である。
「事が事だ、あまり時間がない。素直に僕達の質問に答えてくれるとありがたい」
フィンの蒼澄の瞳が薄暗い室内で鋭く細められる。本来なら武装したモンスターとの交戦やアルの離反など、ここまでの大事は想定していなかった。
大きな問題といえばアルの離反とあの漆黒のミノタウルスの存在だがそれ以前に理知を持ったモンスター、異端児について情報を少しでも多く集めなくては後手に回りすぎてしまう。
「んなこと言われてもよぉ。実際に闇派閥の連中と繋がってたのは俺のガキ共で俺自身はただの傍観者だからなぁ〜」
超越存在である神らしく整ってはいるがどこか軽薄な印象を与える笑みを口元に浮かべるイケロスを睨むようにして見つめるロキは小さく息を吐く。
お飾りの自分が知ってることなんて大してない、そう言いたげなイケロスの態度は苛立ちを覚えさせるのに十分過ぎるもの。
「もったいぶんなや、どのみち自分はギルドの連中が来たらお縄になる身やぞ?」
「おいおい、そうピリピリすんなよォ、ロキ。怖くてちびっちまうぜぇ? ··············かわいい眷属に見限られたのがそんなにショックだったかぁ?」
「あ゛?」
瓦礫の山に腰掛けるイケロスの挑発するような口調にこめかみを引くつかせるロキ。
瞬間、吹きすさぶは凍てつくような神威。嵐を孕んだ暗雲のような重圧と視線、それが今にも爆発しそうなほど荒れ狂う。
天界きってのトリックスター、その名は伊達ではない。かつて天界で神々を殺しあわせようと画策していた善神とは程遠いロキの本質が顕現する。
それを受けてなお自らの送還すら恐れていないのかヘラヘラと不敵な笑みを絶やすことのないイケロスにフィンが問う。
「ロキ、落ち着け。···············人造迷宮の『鍵』は持っていないか?」
「いやぁ、外には持ち出すなって連中がうるさくてなァ。持ってねぇぜ」
『闇派閥残党の規模』、『残存派閥数』、『エニュオという神』、『人造迷宮クノッソス』。
矢継ぎ早に問いかけるがほとんどがまともに知らないという回答。唯一知っていることと言えば派閥単位で残っているのは【タナトス・ファミリア】くらいだということだけだ。
「さっきも言ったがあの馬鹿げた迷宮を管理してたのは俺じゃなく俺の眷属だからなぁ。中の構造なんてほとんど知らねぇや」
「なら自分のその眷属は今どこにおるんや」
「はぁ?お前らに全員殺───ああいや············そうかぁ。俺のガキどもを皆殺しにしたのも『剣聖』の独断かぁ。全く、ひでえ話だよなぁ、勝手に殺された上に知られてすらいねぇなんての殺され損だぜ」
「············なんやと?」
ロキはもちろん、フィンですらその言葉にぴくりと反応を示す。アルが時折独断で動いているのは前々から知っていたことだがまさか一派閥、それも渦中の密猟派閥を全滅させていたというのは予想外だった。
「ひひっ、ひひひひひひひひひひっ、その感じじゃあやっぱり知らなかったみたいだなぁ? あーあ、可哀想に。せっかく育てたガキにあっさり見限られちまうなんてなぁ」
安い挑発だとわかっていても、いやだからこそか。気にしていることを的確に突かれてロキの額に青筋が浮かぶ。
それを横目に見ていたフィンは嘆息する。アルが何を思ってあんな行動に出たのかは幾分か察することができる。今はそれよりも先に確認しておかねばならないことがある。
「てかよぉ、もっと聞きてぇことあんだろぉがよぉ、················『しゃべるモンスター』、とかなぁ」
そんなフィンの内心に応えるように、ニタリとした笑みを浮かべたイケロスが核心をついた言葉を口にした。
瞬間、フィンとロキの表情が歪む。
それは当然だろう。何せつい先刻まで戦っていた渦中の存在なのだから。
アルに準ずる強さをもった漆黒のミノタウルスを筆頭に第一級冒険者相当の個体が複数体。それだけでも異常事態だというのに、その上─────。
「なら、聞かせてもらう。··············あの理知を持ったモンスターたちの正体は何だ」
モンスターでありながら人間と変わらぬ感情や思考を持つ怪物達。強さ以上にそのあり方が気にかかる。アルの離反も含めて、明らかに今回の件はイレギュラーすぎる。
そんなフィンの疑問にイケロスはにぃ、と口角を上げる。
「大抵は『剣聖』が言ってた通りさぁ、なんなら俺よりよっぽど『剣聖』のが詳しいだろぉ、なにせ一年は一緒にいんだからなあ」
自分から聞かせといて知らんのかい、と苛つくロキだったが、ん?と聞き返す。
「一年?」
「あぁ、ディックス··················死んだ俺のガキがここ一年くれえ前からめっきり、驚くほど『しゃべるモンスター』を捕まえられてないってボヤいててなあ。つまりはそういうこったろ、心当たりはねぇか?」
たしかに、とフィンは心のなかで頷く。ここ一年ほど、不自然なほどアルがダンジョンヘ長く潜ることが多かった。
それが『異端児』絡みならばイケロスの一年、という予想も間違ってはいないのだろう、と納得できる。
アイズやベート、フィンとリヴェリアですら一年もの間、見抜けなかったのは間抜けとしか言えないがイケロスは嘘は言ってはいないだろう。
話はこれで終わりだと結局ろくに答えることもしなかったイケロスはギルドの職員が来るまでの間にやにやと笑い続け、そしてギルド職員の到着と共に連行されていくのだった。
「なぁ『勇者』」
「···············何かな、神イケロス」
ギルド職員に連行されるイケロスは最後に嗤いながら『迷える子羊』たるフィンに『神託』を下そうとする。フィンはそれに対して嫌悪感を隠そうともしないままに、しかし律儀に返答をする。
そんなフィンの反応にイケロスは満足げに笑うとオラリオの神として最後の言葉を告げる。
「一族のための理想も野望もいいけどよぉ、お前もあのガキどもみたいに『好き』にやりゃあいい。お前の『魂』は息苦しそうだぜぇ?」
そう言い残し、今度こそイケロスはフィンの視界から消えていく。愉快犯の神が最後に残した神託、未だ『勇者』の名を捨てられない小人族はそれを受けて────────。
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一方、白髪変態
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di_∧ 我が世の春〜♪
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|ノ ゝヽ
────なお、ウィーネ治療後
アミッド『何やってるんですか、あなた』
アル『マッテツカアサイ』
▼アミッドのせいじょぱんち!!
▼アルはひらりと身を躱した
▼アミッドのせいじょこゆびふみ!!
▼アルに999999999ダメージ!!
▼スキル効果【闘争本能】HP1で耐えた!!
▼スキル効果【闘争本能】逆境時全能力向上、HP5000回復!!
▼アミッドのせいじょびんた!!
▼アルに999999999ダメージ!!
▼スキル効果【闘争本能】HP1で耐えた!!
以下ループ
アル『たかが四対一でいいようにやられやがって·······鍛え直すか(八つ当たり)』
アステリオス『?!』
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