皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
··············ごめんなさい(第9章開始から5ヶ月弱経過して現在、六話目)
このペースだと完結までに3年ぐらいかかりそうなのでいろんな本を読んで読む気を高めています
読む意欲と書く意欲って連動するんだなって
とりあえずオラリオ・ストーリーズとアルゴノゥト、19巻を読まなきゃ
オラリオ南部。綺羅びやかなアクセサリーや魔石製品を扱う店々が立ち並ぶ露天街から少し離れた路地裏。
繁華街にほど近く他の地区に比べてやや治安が悪いとはいえ、まだ日が高いこともあってこの辺りは物乞いや酔い潰れた冒険者などの姿も少ない。
何よりここ最近のモンスター絡みの騒動は荒事に慣れている住民たちにとっても不安の種であり、上級冒険者の警邏があるとはいえ無闇に歩こうとはしていなかった。
それでも、都市の暗部である薄暗い路地裏にはぽつりぽつりと人の姿はあった。ある者は露天街から盗んできたのだろう、安物のアクセサリーを熱心に磨いていた。
ある者は地面に座り込み、俯きながら何かをぶつぶつと呟いている。ある者はボロボロの布で全身を包み、道端に寝転がっている。
英雄の都であるオラリオの輝きが強ければ強いほどその影も濃くなっていくのは道理であり、【ガネーシャ・ファミリア】の警邏の目も届かないこの場所にはスラムの住人が息を潜めて生活している。
「───────」
そしてそんな陰鬱とした裏路地に音もなく進む一つの人影があった。紺色の外套で全身を覆い隠し、顔はすっぽりとフードで覆われている。
それなりの速度で歩いているにも関わらず足音どころか衣擦れの音すら発さず、気配すらも希薄な人影は路地裏を縫うようにして進んでいく。
まるで最初からそこに存在していないかのように気配が希薄で全ての方向から死角をとるように移動する影。
普段に比べれば少ないとはいえ疎らにいる浮浪者達の誰の目にも留まらないのは異常だった。
「(やっぱりこっち側はガネーシャの警邏も少ないな)」
人影─────アルは周囲の様子を探りながら【フレイヤ・ファミリア】のホームである『戦いの野』にほど近い路地裏を進んでいく。
普段、炎のように全身から沸き立っている生命力や覇気は鳴りを潜め、本当にそこにいるのかと疑いたくなるほど気配が希薄だった。
まるで影に潜み獲物を狩る暗殺者のような振る舞いで進む今のアルの姿を誰が当代最強の英雄だと認識できようか。それほどまでに今の彼は静謐だった。
音もなく、気配もなく、影すら存在しないかのように歩いていくアル。
しばらくして路地裏から出、雑踏の中を歩きながら目的地へと到着した。
「(正面からは論外として·············やっぱり機を見て壁を飛び越えるか)」
白亜の城を思わせるような荘厳な造りの館、『戦いの野』。
都市最強派閥の片割れである【フレイヤ・ファミリア】のホームであり、オラリオで最も血気盛んな修羅たちが日夜問わずしのぎを削り合う血と戦の荒野。
その警備の厚さは当代最強であるアルをして正面突破は厳しいと判断させるほどのものだ。
普段ならまだしも今の都市の状況とアルの立場を考えれば即、幹部たちに囲まれるだろう。
さすがのアルもオッタルを始めとした幹部連中に囲まれては突破は難しい。
手段を選ばなくていいのなら警備が集まってくる前に第三魔法を門に叩き込めば突破自体は可能だがそれは本当に最後の手段だ。
────元より今回はフレイヤとの接触を悟られるわけには行かないので正面から行くはずもないのだが。
フレイヤに直接、接触するにはどうあっても館に入らなければならない。
忍び込んだところでフレイヤの側には護衛として幹部のいずれかがいるはずだからそこもどうにかしなければならない。
三度目の侵入だからこそスムーズに進めているがこれが仮に初めての侵入ならばもう少し手間取っただろう。
「··············よし」
獣人でなくとも壁一枚向こう先に人がいるかいないか程度であれば高レベル冒険者ならばとして当然のように備えている研ぎ澄まされた五感と魔力感知によって知覚できる。
ましてLv.8で尚且つ斥候としての鍛錬も積んでいるアルならばその気になれば館の中にいる人数と配置くらいは容易く把握できる。
精霊を使った探知は逆に魔導士に気取られる可能性があるので今回は使わず、あくまで自分の五感のみを頼りにタイミングを計り壁を軽く飛び越える。
音もなく着地し、そのまま身を屈めたままよく整えられた庭木の陰に隠れながら館の壁沿いを移動していく。
都市最強派閥のホームだけあって────否、主神に揺るぎない絶対の忠誠を誓う美神の派閥だからこそその警備はいやというほど厳重だ。
館内部だけではなくその外も隙なく歩哨している団員達はアルからすれば数段劣るがそれでも中小派閥であれば団長になれるほどの猛者であり、Lv.4の者もちらほらいる。
さすがにそのレベルとなると五感の鋭さも半端ではなく不用意に近づけばすぐに気が付かれるだろう。
だが、『最速』。
Lv.4までなら最悪本気で走れば冒険者、全恩恵持ちの中で最速を誇るアルならば彼らの動体視力を逸した瞬間移動じみた移動も不可能ではない。
隠密と神速、二つの力を十全に発揮し、誰にも気づかれることなくアルは館へと侵入していった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
────────そこには『美』があった。
絶対者であり、擬神化した美という概念の結晶。ただそこにいるだけで凡そ汎ゆる者を魅了し、畏怖させ、狂わせる魔性の発露。
漫然たる人の一生をいくら束ねようとも評する言葉を紡ぎ出すことなど叶わないであろう究極の造形美が其処にはあった。
「─────ふぅ」
何気ないため息が零れ、銀糸の長髪が揺れる。月空を切り取ったかのように幻想的な銀光を放つ髪はそれだけで見る者の心を虜にしてしまいそうなほどに美しい。
彼女を構成する全てが美という概念を形作る為に生み出されたと錯覚してしまうほどの美象。
凍りついた湖面のように静謐な瞳は伏せられ、その美貌からは一切の表情というものが窺えない。
だが、彼女の纏う神秘的かつ荘厳な雰囲気はその美貌と相まってまるで絵画の世界から抜け出してきた聖女のような印象を見る者に与えるだろう。
「·············退屈、ね」
何度目かもわからない嘆息と共に彼女はポツリと呟く。
常人がその憂いと僅かばかりの倦怠感を帯びた声音を聞いてしまえばまったくの無関係だったとしても言いしれぬ罪悪感を覚えて自害を選ぼうとするかもしれない。
見目、声色、仕草、雰囲気。
それら全てを統合して初めて完成される天理の芸術。
─────『美』。
人のカタチはしているが人でなく。
神秘の合であるが精霊でもない。
ありとあらゆる美という概念を一笑に付す程の絶世にして至上の美。
ソレは
人間という種が美という概念を識る頃から天上の檻よりその営みを見守ってきた超常の存在。
一体、何人もの英傑がその女神を前に魂を凍らせ、命を燃やし尽くしたのか。
一体、何柱もの男神が彼女の愛を得ようと足掻き、藻掻き、そして散っていったのか。
「·············」
そんな彼女、美神フレイヤは自室で一人静かに椅子に腰掛けていた。静謐に過ぎるその様は普段の魔女然とした彼女を知る者からすれば別神ではないかと疑ってしまうだろ。
退屈という名の毒に蝕まれ、嘆息を繰り返すその姿からは常の妖艶さすらかすれたかのように感じられない。
退屈、本来の全能性故かあるいはその遠大にすぎる生命故か常に面白おかしい娯楽を求める神々ではあるがフレイヤはそういった神々とはまた違った在り方をしている。
退屈だからといって自ら何かをすることはなく、あくまで他者の起こす波紋を楽しむ傍観者。自ら動くにしてもそれは他者の輝きを際立たせるために過ぎない。
だからこそギルドは冒険者たちにダンジョンの攻略を一時控えるよう発令しているのだがフレイヤにとってはあまり面白い状況ではない。
愉楽を好むフレイヤにとって地上での騒ぎは度がすぎるものでなければむしろ歓迎すべきものだ。
しかし、今回ばかりはフレイヤの好みにそぐわない方向へと風向きは進んでいる。
地上へとモンスターが侵攻している─────これはいい。
事態への対処がガネーシャの派閥に一任されている─────もとよりこれ自体にはあまり興味がない。
ギルドが何か隠している─────ウラノスの秘密主義は今に始まったことではない。
問題はフレイヤが並ならぬ寵愛を注いでいるあの兄弟────ベル・クラネルとアル・クラネルが騒動の只中にいることだ。
アル・クラネルはまあまだいい、彼が騒動の中にいるのはいつものことだし何ならここ数年の騒動の何割かは彼が原因だ。
肉体的にも精神的にも頑強すぎて心配するのが馬鹿らしくなる阿呆だ。
彼に比べればフレイヤの方がまだ節度を弁えている。
だが、ベル・クラネルは別だ。
いや、騒動に巻き込まれること自体は構わないし、フレイヤ自身彼が困難に立ち向かうことでその魂の輝きがより一層輝くのであればむしろ推奨したいくらいだ。
現にこれまでも何度かフレイヤはベルに試練を課し、その成長を楽しんでいる。
だが、今回ばかりは話が別だ。
アルがベルを庇った。
その場にいたわけではないので全てを把握しているわけではないがヘルメスの報告によればモンスターの娘をベルが【ロキ・ファミリア】から庇い、そのベルをアルが衆目の前で庇ったという。
英雄としての立場を持つアルがモンスターを庇ったことへの民衆の動揺は大きく、これまでの名声が翻ったかのようにアルを糾弾する声は日に日に増えている。
それを気にしないベルではない。多少の屈折ならば構わないがこのままではベルはフレイヤの望まない形でその輝きを翳らせてしまわないとも限らない。
ただでさえいつにもまして謀略が混じり合い、息が詰まりそうなオラリオの空気。
事態をひっかき回した当事者であるアルの所在が割れてない以上、あくまでも外野であるフレイヤどうこうするには少々難しい。
魅了や武力による騒動の解消は論外だ、それでは意味がない。
「一体、何を考えているのかしら··········」
アルの行動の意図が読めないのはいつものことだが今回のはあまりにも突拍子がなさすぎる。
いつものようにオッタルやアレンが側に控えていれば今の悩める彼女の様子に独断専行してしまうだろう。
常に彼女の周囲には護衛兼見張り役として幹部のいずれかが側付きをしているのだがフレイヤとてたまには一人になりたい時ぐらいはある。
オッタルで遊ぶのもそれなりに楽しいが今はそんな気分ではない。ホームを出てどこかに行くというのであればオッタル達もいい顔はしないだろうが一人の時間が欲しいというだけならば従わない理由もない。
もとより外ならばいざ知らずホーム内であれば護衛なぞ必要ない。
最強の集団である【フレイヤ・ファミリア】のホームには並外れた強さと常軌を逸した女神への忠誠を兼ね備えた団員たちによって日夜問わず万全の守りが敷かれている。
物理的、魔法的問わず幾重にも張り巡らされた護りは都市の創設神ウラノスが座す祈祷の間にも匹敵あるいは凌駕する。
英雄級の実力を持った暗殺者でも危機感知に秀でた数十人もの上級冒険者たちの警吏を抜けるのは至難だろう。
故にこそ本拠の『戦いの野』はフレイヤの絶対安息を保証する揺り籠であり、第三者が忍び込むことはもちろんのこと正面から突破するなどそれこそオッタルをも凌駕する大英雄でもなければ到底不可能な話だ。
「··········」
できることならアルに直接その真意を問い質したい所だが同じファミリアの『勇者』や『九魔姫』でも割り出せないアルの居場所がフレイヤにわかるわけがない。
ヘディン達に捜索を命じたところで見つかるとも思えないし、イシュタルとの一方的な抗争の件を罰さない代わりにギルドから動かないように牽制されている今下手に眷属を動かせば余計面倒ごとになる可能性もある。
というか騒動の渦中にいる時のアルに関わるとロクなことにならないのは分かりきっているので正直そんなに会いたくもない。
幾度となくちょっかいをかけ続けて学んだが疫病神の度で言えば話題になって人の目を集めている時のアルはそこら辺の悪神より厄介極まるのだ。
おそらく、今、アルに関われば十中八九フレイヤ────というよりアレン達はそれはそれは多大な迷惑をかけられた上で何かしらのスケープゴートにされる。
─────まぁ、それはそれで面白くはあるのだが─────
うじうじと悩んでいても仕方ないし、何よりフレイヤの性に合わない。
意味のない思考を巡らせるくらいなら『娘』の姿になって弟の方に会いに行く方がまだ建設的だ。
ここ数日はモンスター進出の件でホームから出ようとすると眷属達が危険だとうるさいこともあってベルとはあまり会えていない。
この際会いに行こうかしら、と考えた、そんな時。
「──────なんだ、オッタルもアレンもいねーのか」
「··············別に貴方の方には会いたくなかったのだけど」
窓から疫病神が不法侵入してきたのだった。
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フレイヤ&アル「「(今のベルになにもするな、じっとしていてくれ·······)」」
・フレイヤ⇒テンション高いときのアル
(アレン達にとっての)疫病神。
・テンション高いときのアル⇒フレイヤ
保証人でっち上げできる催促利子の無い闇金。
利息ナシ!!金利ナシ!!催促ナシ!!返す気ナシ!!
どっちかがテンション高い時大概もう片方がテンション低い組み合わせでテンション低い方が割を食う。
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