皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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オバロの映画と個展よかった




139話 謀略なんてそんな野蛮な···ここは穏便に暴力で···

 

 

 

 

 

ダイダロス通りに武装したモンスター────異端児が現れ、【ロキ・ファミリア】の面々と戦ってから五日が経過した朝。

 

乾いた空気に僅かながら肌寒さを感じさせる風が吹く中、迷路街ダイダロス通りには慌ただしく動く【ロキ・ファミリア】の姿があった。

    

異端児との戦いで半ば廃墟と化した一角。瓦礫の処理と最低限の修繕は行われているものの、多くの建物は崩れたままである。

 

一部の別動隊を除いた【ロキ・ファミリア】のほぼ全員がダイダロス通りに集まり、フィンの指示のもと情報収集や警邏に努めている。

 

「各員、警備を徹底しろ。特に建物周辺の警戒を怠るな。まだ例のモンスターたちが潜んでいる可能性は十分にある」

 

「はいっ!」

 

 矢継ぎ早に指示を飛ばすフィン。モンスターとの戦場となって荒れ果てたダイダロス通りの復興と警備のため、という名目で団員達を布陣させているもののその本当の目的は異端児たちへの警戒である。

 

現在、ダイダロス通りには異端児の姿はない。しかし、いつ再び姿を現すとも限らない。

 

逃げ遅れた個体がいたとしても流石に策もなく出てくるとは思わないがアルや【ヘスティア・ファミリア】と同じような立場のものが異端児の手助けをするために現れる可能性はある。

 

そのためフィンは団員に常に警戒を怠らず、怪しい人物───【ガネーシャ・ファミリア】、ロキが白と判断したギルド職員以外───がいれば接触せず遠巻きに監視をつけた上ですぐに報告するようにと命じていた。

 

18階層で【ガネーシャ・ファミリア】と接敵した後、上層を経由せずにダイダロス通りに出現した異端児達。

 

セントラルパークを突破せずに地上に進出、それももとより闇派閥専用の───人造迷宮の出入り口があると目されていたダイダロス通りに現れた以上、まず間違いなく異端児達は『鍵』を持っている。

 

「他派閥の冒険者達が目立つな······流石にダイダロス通りに『なにか』があるのは気づかれているか」

 

 ダイダロス通りでのモンスターの出現、そして『剣聖』の離反。その二件は当然各派閥にも伝わっている。

 

無論、情報規制はしているが流石にここまで事態が大きくなってはそれも意味はない。

 

ふぅ、とフィンの横でリヴェリアがため息をつく。翡翠色の視線がフィンのそれと交差する。

 

「娯楽に飢えている神々が下手に介入してこないのは幸いだったな、他派閥の冒険者達も警戒網の外にいる限りは放置して良い」

 

 創設神とロキが睨みを利かせているからなのだろうが常日頃から娯楽に飢えている神々が面白半分で介入してこないのはフィン達にとって僥倖だ。

 

だが、それもいつまで続くかはわからない。このまま手をこまねいていてはいずれ───。その次を想像し、フィン達は気が重くなるのを感じた。

 

主神達の抑えが効いているうちに事態を解決しなくてはならない。

 

「【イケロス・ファミリア】が壊滅し、例のモンスター達が人造迷宮を経由して地上に現れた以上、まず間違いなく彼等のいずれかが【イケロス・ファミリア】分の『鍵』を持っている」

 

 偏執的なまでの悪意に満ちた罠の数々と最硬精製金属の扉、そして闇派閥の信徒が待ち受ける人造迷宮クノッソス。

 

敵方の怪人と精霊の分身という突出した個を除けばこちらは兵の質も量も優っている。

 

狂信からくる死すら恐れない歪な士気の高さは侮れないものはあるが、奇策を弄してこない限りは地力の差で押しきれる。

 

個の強さに関してもオラリオ全体で考えればアルやオッタル、二人には一段劣るかもしれないが魔槍を使ったフィンや復讐姫のスキルを発動させたアイズなどの怪人や精霊の分身相手に一対一では敵わずとも戦えるだけの力を持つ第一級冒険者もいる。

 

ならば、あとは相手の持つ地の利を剥がし、手数の差で押しきるだけだ。

 

その為に、かの迷宮を突破し、闇派閥の策謀を挫くために不可欠な最硬精製金属の扉を開閉することのできる魔道具────通称、『鍵』。

 

それを手に入れられる千載一遇の好機。都市崩壊を阻止するためにもそれを見逃すわけにはいかなかった。

 

「·······問題はアルと例のモンスター達の繋がりがどの程度のものかだね」

 

 フィンの呟きにリヴェリアが同意するように目を伏した。異端児とアルの繋がり、それがどの程度のものなのかは現状ではわからない。

 

だが、少なくともアルは異端児を仲間と認識しているし、思い返してみれば意図がわからなかった行動も巡って異端児達を守るようなものが多かったように感じる。

 

ならば、その繋がりが浅いとは考えにくい。イケロスの言を信じるのであれば一年以上前から交流があったはずだ。

 

そのことが一切、露呈しなかった事に対する驚きはない。前々からアルの独断専行、単独での深層行は時折あった。

 

他の団員達がついていかないタイミングで深層───あるいは例のモンスター達が住処としている未到達領域等───まで潜ってしまえば誰にも気取られることなく接触することは容易い。

 

まぁ、アルと例のモンスター達の仲についてはこの際、置いておこう。問題はアルが例のモンスター達が持っているであろう『鍵』についてどこまで認知しているかだ。

 

少なくとも前回、アミッドと【カーリー・ファミリア】を伴っての人造迷宮アタック時にその存在を知らなかった、或いは持っていなかったとは思いたい。

 

場合によっては他でもないアルが【イケロス・ファミリア】から奪って例のモンスター達に渡した可能性もあるのだから。

 

心情的にも状況的にも、アルと敵対的な関係になることは避けたいフィンとしては、平和裏に『鍵』を手に入れられることを願うばかりだ。

 

だが、それは楽観的な希望的観測だ。最悪、闇派閥、自分達、アルと例のモンスター達の三つ巴の争いになる可能性だってあるのだ。

 

と、そこまで考えたフィンのもとに慌ただしい足音と共に一人の団員が駆け寄ってきた。

 

「だっ、団長!! 都市北部から武装したモンスターの目撃情報が多数!! 」

 

 案の定、と言うべきか。駆け込んできた団員の言葉にラウル達が目を見開く中、フィンは酷く冷静だった。

 

「北······僕たちの現在地から対角上か、露骨だな。───言うまでもないことだが囮だ、本命は依然こちらの『扉』だ」

 

「一応、状況把握のために何人か向かわせてあとの人員は変わらず待機だ。流石に闇派閥もこの状況で『鍵』を持って打って出るようなマネはしてこないだろう」

  

 この散発的な目撃情報もただの撒き餌に過ぎないだろう。常人であれば対応不可能な複雑化した状況、不安定な情勢、そして都市全域に広がった異常事態。

 

そんな只中にあって尚、フィンだけは冷静だった。状況は刻一刻と変化している。即断し対応していかなくては最悪、事態が手のつけようがなくなりかねない。

 

アルという精神的支柱を失った【ロキ・ファミリア】だが、フィンという揺るがない柱がいる限り、進むべき道を過つことはない。

 

目まぐるしく変わる状況を伝える伝令が絶え間なく駆け抜け、指示を仰ぎに団員がやってくる。

 

都市全体を俯瞰し、この状況を打破するためにフィンは次々と団員達に指示を飛ばしていった。

 

そして───。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「───我々の唯一の優位性はこの『鍵』を所持していることだ」  

 

 都市南部の地下水路。存在すら半ば忘れられた水路の片隅に、男とも女ともつかない声が響く。

 

影を人型に固めたかのような黒衣の人物───フェルズ。   

 

都市に散っていた未だ、ダンジョンに戻れていない異端児達と共に細い水路を慣れた調子で進む足取り、いささかの遅滞もない。

 

蜥蜴人のリドや石竜のグロスなど、異端児達の主力とも言える者達を中心として今後の動きを話し合う。

 

その要となるのが、異端児達の持つ『鍵』だ。

 

Dの記号が刻まれた手のひらほどの大きさの眼球のような魔道具をローブから取り出したフェルズにリド達は口を閉ざしたまま続きを促した。

 

「もう一つの『鍵』もアルとアステリオスが持っている。彼等であれば奪われることもまずないだろう」

 

 『女神の戦車』から回りまわってフェルズの手元に来たそれは人造迷宮内の最硬金属製の扉の開閉を可能とする魔道具だ。

 

もう一つは中層で異端児達を狩っていた【イケロス・ファミリア】の主力達が持っていたものを彼等を襲撃したアルが回収したもの。

 

【ロキ・ファミリア】ですら手に入れていない魔道具を二つ、フェルズ達は所持していることとなる。

 

都市全体が敵とも言えるこの状況での勝利条件はこの『鍵』を使って人造迷宮へと逃れることだけだ。

 

「【ロキ・ファミリア】をはじめとした冒険者達が『鍵』を手に入れる前に動く必要がある」

 

 『鍵』を持たない冒険者達への優位は彼らが闇派閥などから『鍵』を一つでも得てしまえば簡単に覆されてしまう。

 

流石にこの局面で『鍵』を無防備にするほど闇派閥も馬鹿ではないだろうが『勇者』の策が彼等の企みを上回る可能性は捨てきれない。

 

神々でさえ侮れない『勇者』の冴え渡る知略は、この盤上を支配するだけの能力がある。ならばフェルズ達に打てる手があるうちに速やかに動かねばならない。

 

実際のところ既に【フレイヤ・ファミリア】はイシュタルの持っていたものを回収済みなのだが今回ばかりはあの派閥は考慮に入れる必要はないとアルから聞いている。

 

ならば後は後手に回らないよう機を見て人造迷宮に侵入するのみだ。

 

一度、人造迷宮に入りさえすれば人造迷宮を経由してダンジョン中層に移動することができる。

 

そこまで辿り着ければ、あとはダンジョン内で皆と合流できるはずだ。

 

無論、人造迷宮内も闇派閥の信徒や罠による危険地帯に変わりはないが第一級冒険者相当のリド達に加えてその領域すら逸脱したアルかアステリオスの片方でもいれば大抵の危険は排除できる。

 

「我々の活路がかの人造迷宮にしかないことは『勇者』に見抜かれているだろうが、あちらも人員が限られていることは確かだ。機を待ってクラネル兄弟の助けを借りれば『勇者』を出し抜くことも不可能ではないはずだ」

 

「助けてもらうっていうことは、アルっち達と落ち合うってことでいいのか?」

 

「いや─────アルには『囮』になってもらう」

 

 良くも悪くも他者の視線を集めるアルは囮としてはこれ以上ないほどに優秀だ。異端児達が危機を脱出するまでの時間を稼ぐにはうってつけの人材だろう。

 

彼が出てきては【ロキ・ファミリア】は勿論のこと、闇派閥も彼への対処を優先せざるを得ない。囮だと見抜いたところであの暴力の化身を放置して動くことは難しいはずだ。

 

異端児達を護衛してもらう事も考えたがあの手合いは守りにつかせるより単騎で暴れさせた方が遥かに有用だ。

 

「フェルズ。またアルさんニお仲間ト戦わせルつもりですか····················」

 

「··········彼にこれ以上無理を強いるのは申し訳ないが、戦いの趨勢を決めかねない重要な役割だ」

 

 フェルズの発言に「外道メ」「骨め」「フェルズ、酷い!!」と異端児達から次々非難が飛ぶ。特にウィーネからの眼差しが心に痛い。

 

「もとよりこれ以上ないほどに目立つ男だが、一連の騒動のせいでより目立っている」

 

「···············陽動トスルワケカ」

 

「ああ、一緒に行動してはむしろ目立ってしまう。彼には悪いが囮としてオラリオ中の注目を集めてもらう」

 

 【ロキ・ファミリア】をはじめとした冒険者達、闇派閥の信徒達。二陣営の注意を一身に引き受け、異端児達が人造迷宮に到達するまでの時間を稼がせる。

 

翻って言えば頭抜けて最も危険度が高く、相対するのが『勇者』や『剣姫』であればまだ良いが或いは闇派閥から怪人が出張ってる可能性がある以上、アルを囮にするのはフェルズにとっても苦渋の選択だ。

 

だが、勝つならばともかく生き残る事に限ればアル以上の存在はオラリオには存在しない。

 

単純な戦力で言えば極論、一人で冒険者の包囲を突破できる。

 

「彼が表に出れば【ロキ・ファミリア】の、『勇者』の注意は否応なしに彼に引き付けられる」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「───────と、相手は考えているだろう」

 

 ダイダロス通りに設営された【ロキ・ファミリア】の仮設本部にて、フィンがそう呟くと周囲の団員達が息を飲む。

 

【ロキ・ファミリア】二軍の第二級冒険者を主力とした都市南部での警戒網に未だひっかかることもなく、散見される武装したモンスターの目撃情報は北部に集中していた。

 

都市全体を包む異常事態、闇派閥の策謀、アルの離反と理知を持ったモンスター達。誰もが焦燥に駆り立てられながらもそれを表に出すことなく普段どおりを装う中、そのフィンの一声はやけに大きく響いた。

 

様々な要因が絡み合う現状の中でその詳細について知悉している者は少ない。それはフィンとて例外ではない。 

 

だが、その神がかった勘の良さと洞察力でフィンは理解を組み立てていく。幹部を含めたファミリアの主力達が集まった会議の場でフィンは語る。

 

「恐らく近日中にモンスターの目撃情報が途絶える代わりにダイダロス通り程近くでアルが陽動として姿を現すだろう。そこで僕達が動くことを予測して、だ」

  

 単純な手だが囮だとわかっていても無視はできない。味方にしていても胃の痛いアルだが敵方に回られるとそれ以上に厄介だ。

 

「相手の狙いはアルを陽動としてダイダロス通りに集中している戦力の分散だ。そして本命であるモンスター達の人造迷宮への侵入を遂行することだろう」   

 

 相手の策を抜きにしてもアルばかりを警戒するわけにもいかない。武装したモンスター達も個々が侮れない戦力だ。

 

事実、都市内に散りばめられた冒険者の警戒網を突破して出没しているモンスター達の戦力は個体ごとにばらけはあるが強い個体に至っては第一級冒険者と遜色ないレベルだ。

 

そんな者達を相手にしながらも市街での戦闘を制さなくてはいけない。そして、それは同時にアルとの敵対を意味する。

 

「···············まぁ、何にせよ、今回アルは僕達の味方にはなりえない」

 

 フィンの断言に、目を伏せる者、やりにくそうにため息をつく者、苦々しげに顔を歪める者と様々だ。

  

「つまりはアル一人に気をとられるなってことだろ?」

 

「ああ、とはいえ自由に動かれては困るから、最低でも幹部一人はアルに割かなくちゃいけないけどね」

 

「なら、私が···············」

 

「··········そうだな、いいだろう、アイズ。アルの相手は君に任せよう」

 

「北部側に散っていた団員達をダイダロス通りに戻してモンスター達が決起する前に警戒網を再構築する」

 

 フィンの言葉に団員達は一斉に行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「─────と、今頃『勇者』と元賢者は考えているだろう」   

 

 古代の神殿であるかのような荘厳さに満ちた地下空間に、そんな声が響いた。ギルド本部の地下にある大広間。松明に囲まれた祭壇の中央には、神座が設えられている。

 

そして、そこに腰掛けているのは一人の男神。

 

オラリオの創設神にしてギルドの主神である老神ウラノスだ。

 

声の主、ヘルメスは普段の軽薄な振る舞いを潜め、ウラノスへ語りかける。  

 

「【ロキ・ファミリア】と闇派閥、そして異端児達。三つ巴というには歪だが駒の質は異端児が、駒の量は闇派閥が、その両方に【ロキ・ファミリア】は秀でている」  

 

 橙黄色の瞳には、普段のおちゃらけた色はない。自身のホームから持ち込んだのであろうチェス盤に木塊から削り出された駒を次々と並べて、ヘルメスは続ける。

 

「元賢者も優秀だが『勇者』の冴えの鋭さは少々、常軌を逸している。年の功と自作の、未知の魔道具でどこまで食い下がれるかが勝負の分かれ目だ」

 

 木塊からナイフで槍を担いだ小人と黒衣の魔術師を象った駒を削り出し盤上に配置する。

 

『神秘』のアビリティを最も極めた最高位の魔術師であるが元研究職のフェルズでは都市最大派閥の頭目ではあるフィンとは潜ってきた修羅場の質と数が違う。

 

「戦場に於いては武官である『勇者』に優位がある、か」

 

「その上、駒の量で劣っている以上、謀略を介さない【ロキ・ファミリア】との正面戦闘は愚行だ。そういう点でも『勇者』は元賢者より有利だね」

 

 ヘルメスの言葉に、ウラノスはふむと頷く。

 

「闇派閥に関しては『鍵』を守るためにも異端児達が人造迷宮に侵入を成功させるまでは雑兵をまばらに出す程度だろうから大して気にする必要はない」

 

 冒険者の駒とモンスターの駒を次々、盤上に並べていく。橙黄色の髪を揺らすヘルメスは駒を並び終え、ようやく口を開いた。

 

「仮に話に聞く仮面の怪人がでてきたら全てがひっくり返されるが·········まぁ、ないだろう」

 

 天上の神々の視点で戦場を俯瞰するようにチェス盤を眺める。冒険者、闇派閥、異端児の木駒。神々の視点でみれば盤上の駒にすぎないが、一概にただの駒とは言えない。

 

地上で生きる者達は時に神の想像を超える。だからこそ面白いのだ。

 

正対する二つの勢力と、盤外の勢力。オラリオに渦巻く思惑がどのように移り変わっていくのかを想定し、ヘルメスは僅かに目を伏せる。

 

「でも、まあ────」

  

「重要なのは、やはり()だ」

 

 どこか苦々しくヘルメスは呟き、駒を削り出すのに使っていたナイフを仕舞い込む。

 

「色々と話しはしたが、結局のところ、全てはあの『英雄』にかかっている。ベル・クラネルも今回ばかりは趨勢を動かせない」

 

「一度、その気になられたら残念ながら俺たちではどうしようもない」

 

 ヘルメスの手が駒の載ったチェス盤をひっくり返す。盤上の駒がすべて、地下祭壇の床へと散らばり落ちる。

 

備え付けと黒と白の駒、そして木彫りの駒が床一面に広がり、ヘルメスは顔をあげ、皮肉げに笑みを作った。

 

「賢者の理知も、勇者の策謀も、神の思惑も、そのすべてをたった一人で覆す無理無体の化身」

  

 量より質を体現する英雄都市オラリオにおける暴力の頂点であり、神話級問題児と超絶残虐破壊衝動女(ハイパーウルトラヒステリー)の系譜に連なる生まれながらの暴君。

 

当代随一の英雄の器なのは間違いないが同時に純真無垢な弟とは違い、ゼウスとヘラの継いで欲しくなかった部分を煮詰めて抽出したとしか思えない埒外。

 

地下水路で異端児と共に機を探る元賢者も、迷宮通りで罠を張る『勇者』もヘルメスと時を同じくしてその名前を脳裏に過ぎらせていた。

 

「「「───アル・クラネル」」」

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

─────とか、アイツら考えてるんだろうなぁ。

 

嫌だね、どいつもこいつもコソコソ謀略なんて。

 

そんな野蛮なことより穏便に暴力でかたをつけようぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

フェルズ「あの暴力装置に適度に暴れてもらおう」

 

フィン「あのコズミックバカに暴れられると困るなぁ」

 

ヘルメス「クラネル兄弟の頭と言動と存在がおかしい方に暴れられるとめちゃくちゃになるだろうなぁ」

 

「頭脳パート終わったから思いっきり暴れるかぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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