皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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後数話で第一次異端児編は終了かな。




141話 よし、楽しく話せたな(槍を躱しながら)

 

 

 

 

「ねぇ、アル。これまでの借りを返してなんて言うつもりはないけれど一つだけ私のお願いを聞いてはくれない?」

 

「···················言うだけ言ってみろ」

 

「ふふ、ありがとう。····················いつか、私が本気でベルを手に入れようと思った時、一度だけ私の行いを見逃してはくれないかしら」

 

「非道いことをするつもりないけれどその時になって我慢や自重はしたくないの。··················我ながら自儘とは自覚しているわ」

 

「····················お前は、ベルを自分の『伴侶(オーズ)』と見定めたと?」

 

「ええ、出会ってまだ半年にも満たないけれど確信したわ。私の運命は彼よ、もし彼が明日死ぬのなら私も明日天に還る」

 

「協力してなんて言うつもりはないわ」

 

「一時の無干渉を約束してくれるなら結果がどうなったとしても『救界(マキア)』にも、貴方の············アレンに言っていた『大願』とやらにも協力するわ」

 

「ベルの幸せも約束する、貴方による終わりも受け入れる、だからお願い」

 

「一度だけ、私を見逃して」

 

「·································································はっ、いいだろう、その気持ち(想い)は汲んでやる。その貌をした女の恐ろしさはゼウスのジジイの体験談で良く識っているしな」

 

「だが、お前は一つ思い違いをしているぞ」

 

「─────なんで、ベルが俺より弱いことを前提に話してるんだ、お前」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

必死で草。

 

まぁ、どのみちその頃には俺もういねえから勝手にしろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(流石に【ヘスティア・ファミリア】に直接行くのはだめだよね)」

 

 深層37階層への単独行から地上に帰還したアイズ。その足でそのまま今回の渦中の人物であるベルの下へと向かおうとしたのだが、流石にこの状況で【ヘスティア・ファミリア】のホームに行くのはまずいと流石の彼女も察する。

 

都市からの注目こそその大半をアルが受けているものの、そもそもの発端であり創設神ウラノスとの繋がりも垣間見える【ヘスティア・ファミリア】は今のオラリオにおいて一級の火薬庫だ。

 

下手に近づけばどこで爆発するかわからない。故にこそフィンは、アイズやベートを筆頭とした団員達に【ヘスティア・ファミリア】との接触を禁ずると告げた。

 

膠着状態。一言で表現するならばそんな言葉がぴったりな後手に回るしかない状況の悪さ。それを理解しながらも異端児やアルが事を起こすのを待っている現状。

 

現在はロキ、ガレス、リヴェリアといった主だった幹部メンバーがギルド上層部との折衝に当たっているが、それも良い結果にはならないだろう。

 

アイズとしては恐らくは自分達以上に、或いはアルよりもこの事態の核心に近いであろうベルと直接話をしてみたいのが本音だが、下手に動けばフィン達に迷惑が掛かる。

 

「(でも··············)」

 

 モンスター騒ぎもあってか平時に比べると閑散とした街並みを視界の端に収めながら都市南西の第六区画近くを当てもなく歩くアイズ。

 

いつもは活気に満ちている大通りもどこかうすら寒い。いつもは威勢のいい声が響き渡るセントラルパークも今はどこか閑散としていて人の数自体が少ない。

 

モンスターへの恐怖が人々の心に影を落としているのだ。

 

そんな中にあって普段なら気にもならない市民達の無遠慮な視線も今は煩わしい。16という若さで事実上の最高位たるLv.6まで上り詰めた『剣姫』の名はオラリオ内外に轟いている。

 

人の目を集めることはアイズも慣れたものだが、今回の視線にはいつもの視線にある憧憬や嫉妬といった感情とはまた異なる感情が入り混じっているように感じた。

 

怒りでも恋慕でもない、そう、言うなれば憐憫。

 

その理由は言うまでもなく『剣聖』の離反。

 

都市最優にして当代最強の冒険者があろうことか倒すべきモンスターを庇い、仲間であるはずの【ロキ・ファミリア】─────アイズに剣を向けたのだ。

 

皮肉にも真っ先にモンスターへと斬り掛かったアイズへの非難は限りなく少なかったが、それが逆にアイズを苦しませる。

 

「どうしよう」

 

 ぽつり、と思わず呟かれたのは答えを求めての呟きではない。ただ、口から言葉が漏れてしまっただけ。

 

だが、その答えかのようにアイズの視界に灰色の軽鎧を身に着けた白髪の少年が映り込んだ。

 

だがその白髪の少年はアイズが声をかける前にアイズのよく知るエルフの少女に引きずられ、そのまま人波の中に消えていった。

 

「················えっ、レフィーヤ?」

 

 「また、先越された·········?」と呟くアイズの背は煤けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「ん? おっ、アレンか」

 

「──────────────────────────────────────────────────────は?」

 

 敬慕する女神の自室の扉から姿を現したアルに思わずアレンの口から呆けたような声が漏れる。

 

ここにいるはずのない、いて良いはずが無い男がそこにいる。しかし、そんなアレンの様子などどこ吹く風と気の抜けた顔で手を振ってくる。

 

予想だにしていなかった事態を前に呆然としているとフレイヤが中から顔を覗かせる。

 

「せっかくだからアレン、アルを皆に気づかれないように外まで送ってあげなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめぇ············なんでここにいやがる」

 

「いやぁ、ちょっとフレイヤに頼みがあってな」

 

 フレイヤの自室から少し離れた通路でアレンはアルを睨み付けながらそう尋ねる。

 

その声音には隠しきれない怒気と苛立ちが含まれているが、それを向けられたアルはどこ吹く風とばかりに受け流す。

 

Lv.6でも最上級に近いアレンの怒気はそれだけで昇華を果たしていない眷属ならば失神しかねないほどの圧が込められている。

 

しかし、そんな怒りを向けられてもなおアルは飄々とした態度を崩さない。その態度がよりアレンの神経を逆撫でする。

 

「··················チッ、まあいい」

 

 よくはない。いいはずがない。唯一絶対たる女神のもとに礼儀も敬意も知らない不敬の塊がのこのこと顔を出しているのだ。

 

そもそもどうやってこの館に侵入を果たしたのか? 門番や巡回していた団員達は一体何をしていたのか?そんな様々な疑念が頭に浮かぶがそれらを全てを今は些事と投げ捨てる。

 

今はただ、この不敬な男を女神の領域の外に出すことが先決だ。アレンはアルを先導するようにして歩き出す。

 

そしてそのまま館を出るとオラリオは既に闇夜に包まれていた。月と星々の輝きだけが都市を照らし出す中、二人は無言で歩く。

 

既に日は沈んでおり、モンスターへの恐怖もあってか大通りに人通りはなく辺りは静まり返っている。

 

「ちょうどいい、聞くがテメェ、今のざまはどういう了見だ?」

 

「なにがだよ」

 

 館から十分────仮に、二人の第一級冒険者が本気で殺し合っても女神に被害が行くことのない距離まで────離れたと判断したアレンが銀槍の矛を向けながらアルに問いかける。

 

チリッ、とアレンの纏う空気が重くなり、周囲の温度がわずかに低下したように錯覚する。

 

反応次第では即、抉ると猛けるアレンに躊躇いはない。

 

しかし、当のアルはアレンが何に対して怒っているのかわからないのか首を傾げている。その態度がまたアレンの怒りを煽る。

 

「問い返してんじゃねぇ、薄汚えモンスターを庇った挙句あろうことかカス共から逃げ回ってるのはどういうつもりだって言ってんだ」

 

 モンスターを庇ったこと自体は割とどうでもいい。ろくでもない動機なのは考えるまでもないが何にせよ それ自体はアレンの知ったことではない。

 

無論、アレンにとってモンスター······怪物は故郷と家族を奪った忌まわしき仇であり、叶うことなら皆殺しにしてやりたい憎むべき対象だ。

 

だが、その過程で女神に危険が及ぶような真似をしない限りはアルが誰を救おうとどうでもいいし、誰を殺したとしてもそれはアルの自由だ。

 

アレンが激しているのはその後のこと。

 

衆目の前でモンスターを庇えば批判の対象となるのは必定だがアル程の力があれば容易く跳ね除けることが出来るはずだ。

 

しかし、アルはそれをしなかった。無辜の、衆愚の非難に晒されるままとなってあろうことか民衆や他の冒険者から逃れるようにその姿を表から消した。

 

アルがどんな目に遭おうとも知ったことではないしむしろ良い気味だとすら思うがアル自身がそれをよしとして容認していることがアレンには我慢ならない。

 

「俺に負けた後なら好きにしやがれ。─────だが、俺に轢き殺されるまでテメェに無様は許さねぇ」

 

 『女神の戦車』が轢き殺すべきは強者であり、越えるべきは自分以上の英雄でなくてはならない。

 

アレンにとってアルは乗り越えるべき壁であり、倒すべき敵だ。その自分が超えるべき壁が無様を晒していいはずがない。

 

清廉であれとは言わない、正義なんて求めない。

 

ただ、力を喪うことと強いだけの怪物になり下がることは許さない。

 

アレンがそう告げながら睨み付けているとアルははぁ、と溜め息を吐きながら頭を掻いた。

 

それから僅かに口角を上げながら口を開く。

 

「なんだ、お前。俺を心配してんのか?」

 

「──────、」

 

 返答は神速の突きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

スーーーーーーーーーーーーーッ!!!!

 

『ちょうどいい、聞くがテメェ、今のざまはどういう了見だ?』

 

『なにがだよ』

 

 フレイヤとの交渉とかいうクソつまらねぇイベントが終わったと思ったら思わぬボーナスステージに出くわしたわ。

 

アレンと話すこと自体、割と久しぶりな気がする。つか、なんでアレンはこんなに怒ってんだ?

 

や、そりゃそうなるように誘導はしてるけど今回のことってそこまでアレンに刺さるような内容じゃないと思うんだが。

 

『問い返してんじゃねぇ、薄汚えモンスターを庇った挙句あろうことかカス共から逃げ回ってるのはどういうつもりだって言ってんだ』

 

 そんなぴりぴりすんなよ。なんなら、アーニャの歌声録音した蓄音魔道具(自作)、フレイヤ経由でやるからさ。

 

『俺に負けた後なら好きにしやがれ。─────だが、俺に轢き殺されるまでテメェに無様は許さねぇ』

 

 なんなん?獣人の第一級冒険者はあざとくないとやっていけないの?

 

ポンコツがエルフの御家芸なら獣人の御家芸はツンデレなん?

 

ああ、いや、欠片もあざとくない筋肉猪がいるか。

 

『なんだ、お前。俺を心配してんのか?』

 

『──────、』

 

 返答は神速の突きだった。躱した。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が降る。

 

空を覆う雲は厚く、陰鬱な色をしていた。

 

ぱらぱら、と。

 

雨粒が、落ちてきた。

 

まるで今まで堪えていたものが決壊したかのように。間断なく、水が落ちてくる。

 

心の色をそのままに映しとったかのような濁った雨が、体を濡らしていく。

 

ダイダロス通り、複雑怪奇な迷宮街を俯瞰するアイズの金髪が濡れそぼっていく。

 

雨が体の奥底にくすぶる炎の熱を冷やしてくれることを微かに期待するかのようにアイズは空を見上げ続ける。

 

そんなことでこの煮詰まった感情がどうにかなるわけではないのだが、それでもそうせずにはいられない。

 

無情な空は変わらず灰色の雲を広げている。

 

「アイズた〜ん」

 

 雨避けもせずにぽつねん、と佇むアイズに背に気の抜けた声がかけられる。

 

「ロキ·················なんのよう···················?」

 

 いつも通りの軽薄な笑みを浮かべた主神に、アイズが問う。ロキは、そんなアイズの全身を上から下まで眺め、 そして、微かにその細眉を顰める。

 

恐らく満足に眠れてないのだろう、目の下には微かな隈が浮かび、顔色も悪い。幼さを残した精霊のようなアイズの美はその程度で霞むものでは断じてないが、しかし健全とは言い難い。

 

何より、今のアイズは危うい。

 

まるで消えてしまいそうなほどか細く見えるのは決してロキの気のせいなどではないだろう。

 

「なんや一人で黄昏とるアイズたんの様子を見に来たんや」

 

 今のこの状況に心を痛めているのはなにもアイズだけではない。

 

もとより、都市のダンジョン攻略の最前線に立つ【ロキ・ファミリア】の団員であれば友人や恋人を目の前でモンスターに殺された者も少なくはないだろう。

 

最大派閥、そして神の眷属の昇華の性質上、親しい者達を怪物に殺された経験を持つ者が多数を占めている。

 

血塗られた歴史が積み重なり、今なお続く怨恨の連鎖。人類と怪物の争い、その始まりたる大穴から出てきたモンスター達との生存権を賭けた戦いは未だ続いる。

 

アルという派閥最強の英雄が自分たちではなく『怪物』の手を取ることを選んだことに対して複雑な気持ち、あるいは裏切られたという気持ちも持っていない団員はいないだろう。

 

そんな中でアルと並んで幹部最年少であり、派閥の中核である第一級冒険者であるが精神面において万全でないという事実。それは他の団員にも少なくない悪影響を及ぼす。

 

「·············まぁ、フィンも何か『揺れとる』みたいやけどこっちの方が心配になってなぁ」

 

 ついでにレフィーヤもかなり不安定な事になっているがこれに関してはアイズには言わない方がいいだろう。

 

「なぁアイズたん、ぶっちゃけ、自分、アルと喋るモンスター·················いや、異端児のことどう思っとるんや?」

 

「言いたくない」

 

 主神の問いに、アイズは更に雨を滴らせながら即答する。そんなアイズの様子にロキは微かに苦笑する。

 

アイズは瞼を閉じて少し前にアルとした会話を思い出す。

 

『なんで、アルは剣をとったの?』

 

『私が、剣をとったのは────モンスターに奪われたおとうさんとおかあさんを取り返したかったから』

 

『理由、か。どうしても見たいものがあった。それを見るためには強くならなくてはいけなかった、ただそれだけだ』

 

『······その、見たいものが見えたあとでいいから』

 

『アルは、私の英雄になってくれる?』

 

 アイズ・ヴァレンシュタインにとって英雄とは、物語の中にしかいない存在だ。現実には助けてくれる英雄なんているわけがない。

 

それをわかっていたからこそ、自分の手で剣を取ることを決めた。だが、今は違う。アルは確かにアイズに手を差し伸べた。

 

『親代わりの爺は俺に英雄になれと常日頃言っていたが、俺は多くのために戦う英雄なんてものにはなれないし、なりたくもない』

 

『─────ただ、そうだな。お前一人くらいの英雄なら考えてやる』

 

 あれから何度も想起してはその言葉の意味を考えた。

 

あの言葉は嘘だったのか、それともアルにとっては人も怪物も変わらないのか。

 

その答えを、アイズは未だ持たない。だが、きっとその答えに向き合わなければならない時がくるだろう。

 

今はただ、アルのことを想う。

 

今だけは、怪物のことなど忘れていてもいいと思えた。

 

気がつけば、雨脚は弱まりその勢いを弱めていた。灰色の雲間から差し込む光が目に眩しい。ロキはそれに目を細めながら雨の去った空を仰いだ。

 

神々(ウチ)の言葉なんて今聞いても惑わされるだけ、か」と小さく呟かれたその言葉は雨と共に消えていく。

 

「好きに悩んだらえぇ。悩み抜いた先で見つけた答えなら、それがアイズたんの求めるもんってことやろ」

 

「アイズたんは好きにし。··········アルが突っ走ったのはうちの責任やしな」

 

「············うん」

 

 小さく頷いたアイズにの反応に満足したのか、ロキは「ほなまたな〜」と手をひらひらさせながら去っていった。

 

「····················」

 

 雨上がりの空を眺めながら、ふとアイズは思い至る。

 

そういえば、レフィーヤとベルは何をしていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

【フレイヤ→アル】

野放しにしたら何をするか分かったもんじゃねぇ。

今のところはベルに手荒な真似をするつもりはない。

 

【アル→フレイヤ】

(俺が死んだ後のことなんでどうでも)いいですよ。

まぁ、ベルのが強いから。

 

 

 

【各√救世(黒竜討伐)に対する意識】

本編・聖女√「ベルがやるだろ(鼻ほじ)」

アストレアIF「共倒れを狙っていきたい」

女帝「は?知るか」

静穏「仕方ねぇか、やってやるよ」

ベルが妹IF「殺す!!!!!!!!!!」

 

【各√フレイヤに対する反応】

本編・聖女√「女版アポロンがよ······」

アストレアIF「キッショ」

女帝「鴨が葱を背負って来た」

静穏「悪いな神様。約束、守れそうにない(素)」

ベルが妹IF「殺す!!!!!!!!!!」

 






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