皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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10章が一番書くの大変そう




144話 さよならシリアス、おかえりいつもの

 

 

 

 

 

 

「···········やるじゃねぇか」

 

 自らを認める師の称賛、それが意味するのは──────

 

「なら、こっからは手加減なんざいらねぇよなぁ────ッ!!」

 

 今より始まる『凶狼』の本気。瞬間、ベルの体は宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

第一級冒険者、それも第一級の中でも上位に位置するLv.6の本気。

 

ベートの四肢が霞む。

 

先ほどまでの速攻を凌ぐ神速の一撃。その猛襲を、ベルは辛うじて短剣で受け止めようとするものの、容易く弾き飛ばされる。

 

力負けして弾かれた短剣にベルは顔をしかめ、数瞬の猶予を得て空中で姿勢を整えるも────間に合わない。

 

「──────防げよ」

 

 空気が硬く、重く震える。ベルの第六感がこれまでにない警鐘を鳴らす。

 

だが、もう遅い。

 

『凶狼』ベート・ローガの連撃。回避も防御も反撃も許さない。その全てをねじ伏せる。

 

圧倒的な速度と膂力に裏打ちされた剣閃の嵐がベルを襲い、加工超硬金属の鎧が悲鳴にも似た異音を上げて欠けていく。

 

一撃一撃が致命となりうるその連撃を、ベルは辛うじて受け流し続けるもその成功率は精々が四発に一度。

 

致命とはならないものの、鎧の上からでも確実にベルの裡へと衝撃を届かせる連撃は、双剣の刃による斬撃から刀身の腹による打撃へと切り替えられていなければ軽く十や二十は死んでいただろう。

 

銀の乱光と火花の閃光が散る。衝撃に揉まれて視界は目まぐるしく回る。

 

それでもベルの眼はベートの一挙手一投足を見逃さない、見逃せない、見逃したら()()()

 

ベルは全身を深く打ち据えられながら少しずつ、だが確実にベートの攻撃を見切ろうと必死で食らいつく。

 

その双眸に映るのは、憧れた人物の姿だ。

 

彼に追いつきたいという思いがベルを強くした。憧憬がベルに力を与えてきた。

 

背中に刻まれたステイタスを示す神聖文字が赤熱したかのように熱を持つ。

 

限界を超えて行使される力にベルの全身が悲鳴を上げる。肉は裂け、骨が砕けても構わぬと更に力を絞り出す。

 

追いつきたい、隣に並び立ちたいと願った憧憬へ迫る、己自身の全てを薪として焚べる。

 

────────やっぱり、この人は強い。

 

今の自分では話にならない。わかっている、そんなことわかっている。

 

それでも、だからこそ挑みたい。憧れの人の本気に食らいついてこそ、意味がある。

 

ほんの一瞬、今の自分が置かれている状況を忘れる。

 

純粋なまでの憧憬。決して勝てない、届かぬと知っているからこそ燃え上がるベル・クラネルの()()

 

「ッッッ!!」

 

 もはや音すら置き去りにせん勢いで放たれる一閃を、ベルは受け流しきれずに吹き飛ばされる。

 

壁に激突し、轟音を上げて壁を崩壊させながらもすぐさま体勢を整えて着地する。

 

諦めはない、その双眸から闘志は消えない。

 

次は()()()()()()、と。そう言わんばかりにベルは短剣を強く握り直し、構える。

 

「ぉ、おおおおおおぉぉおおおッッ────!!」

 

 吠える、雄叫びを上げる。限界を超えた力を更に絞り出す。全身は軋み、骨は亀裂を奔らせる。それでもなお、ベルは前に進む。

 

ベートの連撃を捌ききり、反撃の一閃を放つ。

 

その一閃もあっさりと打ち払われてそのまま吹き飛ばされるが、ベルはその勢いを利用して空中で体勢を立て直すと再び突進する。

 

一閃が交錯するたびに火花が散る。金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響き続ける。

 

一方的に過ぎた銀閃の嵐、それを真っ向から打ち破るかのようにベルの短剣が唸る。

 

体格で劣るはずのベルはベートに一歩も引かず、むしろ押し返す勢いで連撃を放つ。第一級冒険者のそれには程遠いその刃には未熟さがあり、鋭さに欠け、拙くはある。

 

だがそこに宿る想いだけは他の誰にも負けぬと吠え猛る。憧れた人に追いつきたい、隣に並び立ちたいと願った憧憬へ迫る。

 

銀光の交わりに少しずつだが赤の軌跡が混じり始める。ベルの刃はベートの刃を捉え始める、その頻度が少しずつではあるが増していく。

 

余裕が消え、いつしかベートは嗤うように歯を剝く。眼前で吠える少年に己自身の心を焦がされるような感覚を覚える。

 

そして────

 

ベルの短剣が、【牛若丸弐式】がベートの双剣によって弾かれて宙を舞う。

 

しかし、ベルの体勢は崩れない。

 

短剣の片割れを故意に捨てたブラフ、眼前の師から学んだ『技と駆け引き』。

 

火雷が散る。詠唱を介さない速攻魔法の炎熱が唸りを上げ、そして収斂する。

 

白い鐘の音が高らかに響き渡る。アルの真黒なそれとは正反対の純白の光と【ファイアボルト】の火雷が───()()()

 

凝縮され、炎の衣となって【ヘスティア・ナイフ】を包み込む火雷。鍛冶神によって鍛えられた神血の刃に刻まれた神聖文字が呼応し、紅蓮に輝く。

 

──────『二重集束』。

 

アルの【英雄覇道(アルケイデス)】と同質同系統のスキル【英雄願望(アルゴノゥト)】の『集束』という特性が生み出したベルの切り札。

 

斬撃と魔法。二つの行動に対する畜力、刃を覆う火雷の炎を纏わせた刃が至境の速度と威力を以て輝く。

 

畜力の解放よりも速く振るわれたベートの一撃を今度は正面から受け止める。

 

加工超硬金属の鎧を、ヴェルフの鍛え上げた防具を信じて前に走ることでベートの剣閃を凌ぐ。

 

擦過音、そして火花が散る。

 

ベルは止まらない。そのまま加速した勢いのままにベートの懐へと踏み込む。

 

間合いの間隔すら引き千切るような速度域での肉薄、瞬時にしてゼロへと転じた両者の間合い。常人ならば視認すらできぬ超高速の世界。

 

そして、吠える、

 

「───────【聖火の英断(アルゴ・ウェスタ)】!!」

 

 収束した炎熱の塊、熱の嵐と荒れ狂う雷光を纏った短剣が唸りを上げる。大気をも焦がす熱気、大気を焼き尽くす雷光、そして全てを断ち斬る炎刃。

 

【ヘスティア・ナイフ】の刀身は火の刃によって伸長され、熱量と輝きを増大させながら振るわれる。

 

刹那の交差、炎の轟声と雷光の咆哮。

 

既に構想はあった。だが、それは本来ならば次なる戦いで初めて使い、少しずつものにしていくはずだったベル・クラネルの奥義。

 

しかし、ベルにはいた。【英雄願望(アルゴノゥト)】と同質同等のスキルを持ち、同種の『速攻魔法』を極めた兄が。そして、見せられた雷鳴の一撃、【聖雷の英断(アルゴ・ディアーナ)】。

 

ベルの知る由もない知識を元にいずれベルが辿り着く極みを先回りするかのように築かれた技。

 

ベル・クラネルという冒険者が生涯をかけてやっとたどり着けるかどうかという『高み』による薫陶を経て、【聖火の英断(アルゴ・ウェスタ)】は完成した。

 

銀髪が翻る。

 

師である自分が知らぬベルの奥義に凄まじい速さで後退し緊急回避したベートは奔る痛痒にはっと胸に手を当てる。

 

躱しきったはずの炎撃、しかし、ベートの胸元には横薙ぎの火傷の跡があった。

 

ベルの叫びが届いた、証左。

 

「どうして、そこまでしやがる」

 

 初めて行われるベートの問い。驚きをあらわにするベルは、ベートの目を見返して叫んだ。

 

「あの娘を助けたいんです!」

 

「本気か? いくら見た目がマシでも人間じゃねぇ『怪物』だぞ?」

 

「普通のモンスターとは違う!! 話せるんです、笑い合えるんです!! 手を取り合える!!」

 

 悲痛ささえ覚えるほどのベルの叫び、心からの言葉。

 

「···············あの娘と暮らせる居場所が欲しい」

 

 ウィーネの悲しげな声が、ベルの脳裏に蘇る。そして、ウィーネが語った言葉も思い出す。

 

たとえそれが愚行だとしてもその手を取りたい、一緒に笑い合いたい。

 

「ウィーネ達が笑える世界が欲しい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────重ねてしまった。

 

自分に対してなおも吠えるバカを前に、かつての、まだ『失うこと』を知る前の、弱く愚かで、ただ自分より弱きものを守るのにひたむきだった頃の自分を。

 

幼馴染を守ろうと誓った、昔日の自分を。

 

ベルは吠えた、かつての自分とは違い、すべてを敵に回す覚悟で『異端』の少女を守ると。

 

──────無理、だな。

 

これ以上は無理だ。

 

これ以上自分に嘘はつけない。

 

これ以上は『異端児』を『怪物』としては見れない。

 

 

 

 

「チッ、くだらねぇ······」

 

 それは『愚者』を突き通した弟子への負け惜しみか、それとも自身への嘲笑か。だが、ベートは最後まで折れなかった弟子の意思に、自身の負けを認めた。

 

「ベート、さん···········?」

 

「·············そこまで言ったんだ、最後まで守り通してみせろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

常人の耳には連続する破裂音のようにしか聞こえないであろう音の連なりが迷宮街南東の路地裏に響き渡る。

 

「············ッ!!」

 

 不壊剣の刃と木刀の刀身が衝突し、甲高い音が鳴り響く。

 

一合、二合、三合と打ち合ったところでアイズは散乱する木箱の欠片などを踏み砕きながら後方へ飛び退き、襲撃者たる覆面の襲撃者との間合いを取る。

 

木の葉を思わせる緑のロングケープ、そのフードを深く下ろした襲撃者は油断なくアイズに対峙する。

 

「貴方は、誰? ········アルの、なに!!」

 

「申し訳ない、訳あって名乗ることはできない」

 

 誰何の声に、覆面の襲撃者は静かな声でそう答える。その声、その容貌に覚えがあるアイズは、しかしそれを振り払うかのように強く剣を握りしめる。

 

沈黙が落ち、路地裏に流れる風がカタカタと空き箱を鳴らす音だけが流れる。

 

ほんの僅かな静寂、どちらも動かず、時間だけが経過する。

 

遠くで響く戦闘の音を聴きながら、しばしの時が過ぎたあと───先に動いたのはアイズの方だった。

 

答える気がないのなら、と敵意を剝き出しにしたアイズが石畳を砕くほどの踏み込みと共に襲撃者へ肉薄し、通常の剣士にはありえない三次元的な動きで襲撃者の周囲を駆け回りながら斬撃を繰り出す。

 

ランクアップにこそ程遠いが怪人をはじめとした強敵との連戦に次ぐ連戦によってアイズのステイタスは高まり、その数値は既に第一級冒険者の中でも最上の域に達しつつある。

 

深層の番人たる強竜を一方的に斬り伏せるであろうその斬撃は、しかし覆面の襲撃者を一撃たりとも捉えることはなく空を斬る。

 

襲い来る斬撃の尽くを恐るべき精密さで打ち払い、受け流す襲撃者を前に激情に染められていたアイズの瞳に僅かに理性の色が戻る。

 

驚愕すべきはその技量だ。

 

怪人との戦いを経た今のアイズの技の冴えは、フィン達であろうとも容易に応対できるものではない程にまで練り上げられている。

 

対人故の加減が僅かにあるとはいえ凡百な使い手では反応すらできない剣撃をまるでどこに来るのか分かっているかのように受け流すその技量は一体如何なるものなのか。

 

覆面の襲撃者のその技量にアイズは戦慄と驚愕を覚えながら、しかし決して攻撃の手を緩めはしない。

 

無論、敵方も防戦に甘んじているばかりではない。

 

影のみを残すかのような高速機動、限界まで落とした重心から跳ね上がるかのような剣閃でもって、上下左右から襲い来る不壊剣による刃の檻を襲撃者は打ち払う。

 

「「っっ!!」」

 

 ────驚愕は二つ。

 

一つはアイズの、敵が自身と同格のLv.6級の使い手であるということ。

 

以前、会ったときはLv.4最上級、という程度だったはず。アルじゃあるまいし、たった数ヶ月で二回もランクアップするなどありえないはず。

 

二つ目は覆面の襲撃者───リューのもとより対人に優れ、ランクアップによりこれまでになく高められた自身の一撃が容易く防がれたということ。

 

互いの驚きに染まる内心と切り離されたかのように幾百にも及ぶ実践の末、身体に刻み込まれた剣技が美しい二つの曲線を空中に描き出す。

 

石造りに靴底を削られながら、呼吸の間隙を縫うように刃をかわし合う両者。

 

黄金と空色の双眸が互いを捉え、振り撒かれる刃の火花をその身に浴びながら二人は剣舞に没頭していく。

 

僅かな狂いも許されない極限の攻防。一合ごとに加速する斬撃の応酬は、もはや第二級冒険者であっても視認できない領域へとその速度を上昇させる。

 

撒き散らされる火花と、駆け巡る剣閃。生半可な者では立ち入ることさえ能わぬ、刃の檻の乱舞が路地裏に咲き乱れる。

 

拮抗しているが故の膠着状態。

 

それをどう思ったか一際、大きな火花を散らして自ら後ろに飛ぶように 間合いをあけるリュー。

 

端正な顔を訝しげに歪めたアイズが 間合いを詰めるよりも早く、疾走を重ねる。障害物の多い路地裏ではあるが七M程度と存外に広いスペースを周るように駆け巡るリュー。

 

「(何をして、─────!!)」

 

 アイズの周囲を竜巻のように円を描いて駆け巡るリュー。その行動にアイズが疑問を抱くのと同時に、ぐん、と疾走の速度を上げリューの姿が消える。

 

加速に次ぐ加速。四方を建物の壁に囲まれた路地裏という空間を、リューは疾風と化して駆け巡る。

 

ただでさえアイズと同等以上だった敏捷が目に見えて跳ね上がり、僅かな光の軌跡を残して文字通り縦横無尽に駆け巡る。

 

スキルと地の利、この二つの後押しを受けた今のリューの速度は『女神の戦車』にも肉薄し得る。

 

その速度を攻撃に転化させれば、たとえLv.6に至った第一級冒険者と言えど刃を合わせることすら困難になる。

 

「しぃッッ!」

 

「ッ!」

 

 上下左右、三次元的に疾走するリューの姿が突如として消え───直後に背後からの強襲。

 

僅かに遅れながらもまともに受ければ決定打となりえるであろう一撃を察知したアイズは振り返らずに背後へと不壊剣を振るう。

 

刃と刃が打ち合わされる甲高い音。横合いからの一撃で振り抜いた木剣を跳ね上げるように受け流したアイズはすれ違いざまに斬撃を見舞うも、これは既に間合いを測っていたかのようにバックステップを踏むことで回避される。

 

「(今の、一撃············)」

 

 びりびりと腕に響く痺れにアイズは僅かに目を見張る。確実に捉えていたはずの反撃の一撃が空を切ったことにも驚愕を隠せない。

 

そんな思考の介在を許さぬとばかりに、リューの姿は再び風と化し疾走する。

 

複数の残像を残すかのような動きにアイズは目を鋭く細めながら剣を構え直す。

 

警戒の丈を最上まで引き上げる。

 

アルのこと、知性を持ったモンスターのこと。聞きたいことはいくつもあるが雑念を持ったままでは勝てない、とそう判断したアイズはただ剣のみに意識を集中させる。

 

息もつかせぬ剣撃の乱舞にアイズは防戦一方へ追い込まれる。間合いこそ離さぬものの、反撃を試みる余裕はない。

 

常に絶妙な位置取りで放たれる斬撃はその全てが致命の鋭さであり、まともに受ければ一撃で戦闘不能へと追い込まれかねない威力が込められている。

 

防御に専念せねば即座に敗北へと繋がるであろうその剣閃を前に、しかしアイズは一歩も引かない。

受け流し、回避し、時にはかわせぬと悟った剣撃に対し刃を合わせて打ち払う。

 

一撃、二撃、三撃と打ち合うごとにリューの速度が上昇していく。

 

「(·······間違いない、疾走系のスキル)」

 

 一合の度に少しずつ増す衝撃の丈にアイズは確信する。疾走による加速に応じて剣撃の威力、あるいは力のステイタスそのものに補正がかかる類のスキル。

 

ベートの【双狼追駆】と同系統のものだろうとあたりを付けていた。

 

同格のステイタスを持つ冒険者が相手ともなればたとえ僅かでも攻勢の密度に差があれば押し切られる可能性すらある。

 

「──────ふッッ!!」

 

「ッッ!!」

 

 一撃の度にその丈を増すリューの剣撃を、アイズはギリギリで受け流し反撃の速撃を返す。

 

苛烈な剣戟の応酬。同格が故の拮抗。多少の手違いがあろうと瞬殺は免れるが、こちらも決定打を放つことはできない。

 

そして長引けは長引くほど状況的に不利になるのはアイズの方だ。本命はあくまでもベルであり、アルだ。

 

眼前のエルフは足止めの為の戦力だ。

 

──────【目覚めよ】。

 

そう判断したアイズは、囁くように一工程の詠唱を口ずさむ。己の内から力を汲み出すかのようにして引き出した魔力を魔法へと昇華させる。

 

刹那、人型の嵐がダイダロス通りに顕現する。吹き荒れる風、巻き上がる土煙。人一人が簡単に吹き飛ぶほどの暴風が吹き荒ぶ。

 

しかし、風渦巻くその中心に在るアイズは風の後押しを受けて爆発的に加速し、土煙を斬り払いながらリューへと迫る。

 

大気の壁を突き破るような刺突の連撃、超高速域での連続攻撃。リューの残像を幾重となく貫き、その身体を刃圏に捉える。

 

ヒットアンドアウェイを体現するリューにこれ以上の加速は許さないと、アイズは鎧と成す風を纏いながらリューへと肉薄する。

 

しかしリューもまたその速度に追随を許さないと更に疾走を重ね、剣閃の檻をかいくぐりながら烈撃を見舞う。

 

一合、二合と打ち合うごとに加速していく互いの剣戟。

 

だが、アイズの風を纏いながらの連撃はリューから少しずつ反撃の機会を奪っていく。

 

───────このままでは()()()()()

 

果敢たるアイズの猛撃にリューは冷静にそう判断する。このまま剣の檻を形作る風を破れなければ、ステイタスと武装面で劣る自分はいずれ敗北すると。

 

アイズの付与魔法のような自己強化の術をスキル以外にリューは持たない。

 

─────いや、あるが使えない。

 

特殊なランクアップに際して発現した新たな魔法、あれを使えばアイズの付与魔法による強化にすら匹敵する力を得られるだろう。

 

火華の付与魔法は勿論のこと、居合に際して魔力の五刃を生み出す魔法など白兵戦において抜群の威力を誇る魔法は幾つもある。

 

もとより都市最強魔導士であるリヴェリアに匹敵、或いは凌駕する並行詠唱の使い手であるリューであればアイズとの戦いの中でも『歌う』事は出来る。

 

だが、発現したばかりの第三魔法とそれに付随する幾つもの詠唱への慣れはないに等しい。

 

格下の眷属や知性を持たないモンスターが相手であれば使えないこともないだろうが同格、それも自分よりも早くランクアップしてステイタスのもとより今の今まで最大派閥の主力として日夜、戦いに次ぐ戦いに身を投じているアイズ相手に使っては魔力暴発を起こして自滅するのが精々だ。

 

ただでさえ、激上したステイタスに振り回されないようにと意識を割いている状態での慣れない並行詠唱など自殺行為に等しい。

 

お互いの勝利条件は遥かに違う。明確な勝ちを狙いに行くならばともかく、この一戦においては勝利よりも足止めが優先されるのだから。

 

春姫の階位昇華を使う選択肢もあったが今でさえ激上したステイタスに振り回される身では第三魔法の行使と同じく自滅に繋がらないとも言い切れない。

 

故にリューは、剣戟の檻を形作る風を纏い加速するアイズに負けじと更に速度を上げる。

 

打ち合うごとに増していく剣速。その速度は最早、音すらも置き去りにする神速へと至る。

 

それら前提を踏まえた上で────

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々】」

 

「───ッ?!」

 

 超高速域下での詠唱、それも長文詠唱を思わせる魔力の高鳴りにアイズは瞠目する。

 

この状況下に於いて詠唱など自殺行為に他ならないとそう判断したアイズは咄嗟に己の風を纏いながらもリューへと肉薄する。

 

間合いに入った瞬間に袈裟斬りにするべく振り上げた刃が狙うは胴体。

 

下手に頭部を狙って浅く入れば足蹴にされてカウンターを食らう可能性が高いと判断しての判断だった。

 

だが。

 

「ッ、【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を】─────!!」

 

 更に魔力の高まり、速度を増したリューにアイズは驚愕する。爆弾を抱えながら走るが如く、その身体には目に見えるほどの膨大な魔力が纏い付いている。

 

魔力暴発による共倒れをチラつかせる。アイズの勝利条件は手早く、尚且つ傷浅くリューに勝つこと。

 

対してリューの勝利条件は一定時間以上のアイズの足止め。それは共倒れだったとしても達成できる。

 

己の身の安全を度外視しての詠唱。

 

しかし、その気迫をアイズは凌駕した。

 

「──────ふッ」

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 

 リューは強い。疑いもなく自身と同格の使い手であるとアイズは認める。

 

対怪物に特化したアイズの剣は対人に秀でたリューの『技と駆け引き』に僅かに劣るかもしれない。

 

だが、アイズはこの四年間を常に彼女以上の戦場に身を置いてきた。

 

自らの限界を、その更に先を目指して死に近づく愚行と知りながら、それでもなお己を磨き続けてきた。

 

─────そう、全ては『憧憬の英雄』に辿り着くために。

 

そして、この数ヶ月の間に度重なった死闘に次ぐ死闘。赤髪の怪人レヴィス、そして仮面の怪人エインへの敗北。

 

二人の明暗を分けたのは死闘の数と執念の丈。

 

自爆を受けようとも構わないと、そう判断したアイズの執念はリューを上回った。

 

「──────がっっっ?!」

 

 駆け引きを捨て、詠唱によって生じた僅かな減速を見逃さずに剣をもつ右手ではなく左手で鞘を腰から引き抜き、一閃を翻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベートがベルと、アイズがリューと戦っている中、全体の指揮をとっていたフィンは作戦実行中でありながら自身の周囲で音が消えたことに気が付く。

 

怪訝に思い、振り返るとそこには言葉を失う団員たちと今にも暴れだしそうな黒き猛牛。

 

そして─────。

 

「よお、フィン」

 

「····················来たか、アル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

▽チョロ狼が仲間になりたそうな顔でこちらを見ている!!

 

シル「かーっ!見んねアレン! 卑しか狼ばい!」

 

ちなみにアルの技とスキル構成はアルにとっての最高の英雄(原作ベル)の影響をかなり受けており、それを才禍と四年間で磨き上げてまだ覚えてないベルに教えるとか言うカンニングみたいな真似してます(ベルに教える為に同系統の力を鍛えてきたとも言う)。

 

・説明する機会のないアルの武装紹介

【白氷のバングル】

後衛の冒険者用装身具。大陸北部『白氷の森ファナシェ』原産の霊樹から作られた腕輪。温度変化に対する若干の耐性を齎す他、平時にアルの魔力を溜め込んでおり、【レァ・ポイニクス】の結界を作る際に起点媒介することでアルが離れても魔法効果を維持出来る。ぶっちゃけ、アルの魔法との相性はそんなに良くないが曇らせの為に使い続けている。

 

過去編的なのを書いたとしたら出るかも、出ないかも。

 

【ファナ・トリエグル】

麻痺避けのアミュレット。アルのレベルには到底釣り合っていないLv.1からLv.2程度の冒険者向けの装備。アーニャからの貰い物を某女神の戦車へのポーズに使い続けている。

 

 

 

 








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