皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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ちょっと長いよ




146話 アイズーー!! はやくきてくれーーっ!!

 

 

 

 

「僕も意地を張るのはやめにするよ、だからアル。─────────君も頼りないかもしれないが、僕たちを頼ってくれ」

 

「何を、言っている?」

 

 『世界』に屈することなく、神意さえ振り払って『好き』にやる者。

 

神々が、世界が、求めている本当の英雄は存外、そんな自分勝手な英雄なのかもしれない。

 

躊躇いはある、恐れはある、だが、その迷いは振り払った。

 

「君だけの使命ではないんだ、僕等『託された者』全ての、使命が『隻眼の黒竜の討伐(世界を救うこと)』なんだ」

 

 未だ、『静寂』のアルフィア───【ヘラ・ファミリア】とアルの関係がどんなものだったのかはわからない。

 

太古の昔に大穴から出でた三つの大災厄、オラリオの冒険者たちがいずれ達成しなけれればいけない原初の約定でありながらその強さゆえ、千年もの間放置され続けた黒き終末。 

 

冒険者達に課された使命にして悲願、それこそ『三大冒険者依頼』の遂行。

 

『陸の王者』ベヒーモス、『海の覇王』リヴァイアサン───そして、『隻眼の黒竜』の討伐。

 

千年にも渡る下界の悲願であったそれを成し遂げた最強の集団─────【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】。

 

神々に認められし最強の集団は前人未踏の領域の階位に至った『英傑』と『女帝』、Lv.8とLv.9の団長達によってそれぞれが率いられ、更にその軍下には今の【ロキ・ファミリア】ですら及ばぬ本物の英雄達がいた。

 

彼らはまさに一騎当千、万夫不当の豪傑たち。その力は今のオラリオにいる冒険者達とは決して比べられるものではない。

 

まさに最強、まさに無敵、下界全土の悲願を達成するに足る英雄旅団、神々の全てが英雄たちの勝利を疑っていなかった。

 

そして、成し遂げた。『静寂』の鐘の音が『海の覇王』リヴァイアサンを打ち砕き、『暴喰』の牙が『陸の王者』ベヒーモスを平らげた。 

 

残るはただ一つ、絶望の化身たる黒き巨竜。

 

突如として現れて全てを蹂躙したモンスターの王。神でも確信した、下界の可能性、その結晶とも言える最強達であれば真に世界を救える、と。

 

────だが、敗れた。

 

人々の願いを、神々の予想を裏切って最強の集団はたった一匹の竜に敗北した。

 

最強の称号をほしいままにした英雄達は、最強の軍団はその力を踏み躙られ壊滅し、残った男神の団長も瀕死の重傷を負ってその力の大部分を失った。

 

幾多の試練を乗り越え、数多の偉業を成し遂げた彼ら彼女らならばきっとやってくれると、誰もがそう信じていた。··············だからこそ、これは予想外だった。 

 

その敗北によって力を失った大神と女神の派閥に挿げ替わるように他でもない【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の計略により、生き残った眷属たちは都市から追放され、前時代の英雄達は消えた。

 

残った者達も自らを次代の壁とし、その座を明け渡すことでオラリオの瓦解だけは防いだ。

 

アルが自身の肉親だと語った『静寂』のアルフィアもそうだ。

 

【ゼウス・ファミリア】のザルドとともに巨悪をもって次代の冒険者の『壁』となった。

 

─────彼らは託したのだ。

 

黒竜討伐の失敗によって戦力の大半を失い、世界からの求心力を失くしたゼウスとヘラ。

 

自分たちの代での救世は不可能だと予期した彼らは世界から希望を失わせないためにも次代の象徴を見出だすことにした。

 

それが【ロキ・ファミリア】であり、【フレイヤ・ファミリア】だ。

 

次なる最強の台頭がなければ人々は遅からず絶望する。だからこそ、たとえ道半ばで倒れようとも、未来への礎となるために、死に体の英雄たちは立ち上がった。

 

あるいはギルドと彼らの間には僕ですら知らぬ密約が交わされていたのかも知れないが少なくとも彼らは自ら望んで次代のためにその身を捧げることを選んだ。

 

千年にもわたって隆盛を極めた英雄たちの最期には名誉も賞賛もなかった。

 

十五年前と七年前。

 

二度にわたって僕たちの前に立ちはだかり、壁となった昔日の英雄達。

 

彼らの犠牲なくして、僕たちはこの場に立っていることはなかった。

 

そんな彼等の系譜であろうアルもまた、世界を救う為、己を懸けている。

 

「(············僕にはこれまで君が何のために戦っているかがわからなかった)」

 

 一つ一つの戦いの理由ではなく、アイズ以上の執念と覚悟で以って強さを求め続けたその理由。

 

我が身を省みることなくひたすらに剣を振るい続け、鍛錬に次ぐ鍛錬、己を苛め抜き、限界を超えるような過酷な訓練、貪欲なまでの知識の吸収。モンスターの弱点部位からドロップアイテム、階層ごとの出現モンスターの特徴。 

 

あらゆる情報の習得に費やした時間は膨大だ。時間を切り詰める為に睡眠すら削って知識の研鑽に励んだ。

 

常軌を逸した努力の果てに辿り着いた頂。まるでこの世の摂理から外れているかの如き成長速度。

 

敗北の泥を啜り、全てを凌駕せんとする意思。

 

まるで何かに取り憑かれているかのような凄惨な姿。儚猛にして凶暴、残忍で冷酷。それは狂気にも似た、純粋なまでに一途すぎる熱情。

 

決して弱音を吐かず、涙を見せず、諦めず、どこまでも強さを求め続ける在り方。

 

あの、瞳の奥底で静かに燃ゆる暗い炎。

 

「(それが、繋がった)」

 

 アルの異常とも言える成長速度の理由の一つであるスキル【憧憬追想(メモリア・フレーゼ)】。

 

想いの丈に比例して早熟するというロキですら初めて見たレアスキル。その根源たるアルの『目的(黒竜)』と『憧憬(英雄)』は─────。

 

 

 

   『──────『黒竜』を討つ』

 

 

 

「君一人に背負わせない、背負わせてたまるものか」

 

 あの時、ダイダロス通りで異端児を受け入れるに足る利としてあげた責務。

 

いくら英雄の器を持つとはいえ一人の少年が背負うにはあまりにも重過ぎるモノ。それを、アルはたった一人で抱え込もうとしている。

 

許せない。

 

その生き方をアルに選ばせた自分の惰弱が、その生き方を強要する世界の意志が、全てを吞み込もうとしているアルが。

 

そんなことをさせるわけにはいかない。

 

アルが僕たちを頼れないなら、僕が、アルが異端児達にそうしたように手を差し伸べる、差し伸べなくてはならない。

 

そうあらなくては、僕に一族の光(フィン・ディムナ)を名乗る資格はない。

 

「世界を救う··········ああ、そのためならモンスターとも手を取ろう、僕は『大衆の英雄』であることを捨てられる」

 

 ラウルを筆頭に、この場にいる【ロキ・ファミリア】団員は───アルを含めて───その矮躰の勇者に『気圧されていた』。

 

かつて、ベル・クラネルが、ベート・ローガがそうしたように『勇者』フィン・ディムナも自らの殻を破ろうと超克の一歩を踏み出さんとしている。

 

「なに、簡単な話さ。僕は『異端児』を利用することにした」

 

「利用だと············?」

 

「目先のことだと、人造迷宮の攻略かな」

 

 闇派閥残党の拠点にして悪辣なる罠と執念が渦巻く未知の魔窟。あの人造迷宮を攻略するにはどうあっても戦力が足らない。

 

あの一助として戦力に組み込むことができるのであれば異端児達は最上の駒となりうる。

 

「わからないな。なんで、今になって『異端児』を信用する──」

 

「いや、それは少しばかり違うかな。僕が『信頼』しているのは『異端児』ではない───────────君だよ、アル」 

 

 静かに瞠目するアルにフィンは朗らかな、それでいて確たる意志が宿った笑みを浮かべる。

 

「僕は『異端児』達のことを知らない、知っているのは精々君が彼等のことを信用していることぐらいだ。···········だが、君のことなら知っている」

 

「君がそこまでしたからこそ、『異端児』は人を襲わないと、立証されてしまった。少なくとも、僕はそう判断してしまった。闇派閥は双方にとって明確な敵だということも確認できた」

 

「アル、他でもない君が『異端児』は人間と手を取り合いたいのだと説いた」

 

「なら僕は彼等を信じる君を信じよう」 

 

 言葉を、失う。アルだけではない、ラウルも、アキも、ナルヴィも。

 

この場にいる全員が言葉を失い、ただ呆然とフィンを見つめていた。

 

「────、────もし『異端児』と交渉を結んだとしてその繋がりが露見した時、お前の名声が地に堕ちることを理解しているのか? 俺とお前は違う、お前の、『フィアナ』の再来となって一族を再興する野望は潰えることになるぞ?」

 

()()()()

 

「目指すべき野望を、目標を変えた···········いや、初心に立ち返ったと言うべきかな」

 

 倒すべきモンスターとの融和。そんなものに手を染めればアルがそうだったように名声は罵声に、喝采は嘲笑に、勇名は汚名へと変わる。

 

アルの懸念は当然のものだ。だが、フィンは躊躇なくそれを受け入れる。

 

「もはや、かつての栄光には固執しない。僕は、フィアナのようにではなく、フィアナを超えたい」

 

「仮に名声を失い、零落するとしても構わない。その時は一からやり直すさ────人類と怪物を繋いだ新時代の英雄として、とかね」

 

 そして、そんなわざわざ遠ざけるようなことを言うアルをフィンはほんの少し赤みを帯びた瞳で以って睨むように見つめる。

 

「───────君には責任を取っても貰う、僕に、僕達に『理想()』を見せた責任を」

 

「───────ッ!!」

 

 その、フィンの瞳に宿った強い意志。それはかつて、アルがベル・クラネルに見たものに似ていた。

 

「君に『孤高』なんて赦さない」

 

「君が英雄であることを捨ててでも世界を救うというのなら僕もそうあろう」

 

「····················なぜ、そこまでする」

 

「─────僕達は家族(ファミリア)だろう」

 

「これ以上に理由はいるかい?」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『····················なぜ、そこまでする』

 

『─────僕達は家族(ファミリア)だろう』

 

『これ以上に理由はいるかい?』

 

アイズーー!! はやくきてくれーーっ!!

 

このままじゃいい話で終わっちまう!!

 

なんか、大暴れしていろいろ台無しにしてくれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「全速で進め!! もうすぐ脱出できる!!」

 

 フェルズと異端児達。ダンジョンへの帰還に向けて駆けていた。

 

紆余曲折あって【ロキ・ファミリア】の警戒網を抜け、闇派閥の罠を躱してクノッソスの中にまで侵入した彼らはひたすらに、道を塞ぐ極彩色のモンスターを排除しながら駆け続ける。

 

【ロキ・ファミリア】ですら初見ではろくに対処しきれなかった悪辣な罠と複雑怪奇な内部構造もフェルズの多種多様な魔道具と歌人鳥のレイのエコーロケーション、そしてモンスターの優れた嗅覚で強引に突破し、ついにはダンジョンの出口まであと一歩という所まで到達していた。

 

「(だが、うまく行きすぎている·················!!)」

 

 異端児達の先頭を走るフェルズは違和感を感じていた。闇派閥の罠を潜り抜け、モンスターを蹴散らし、ダンジョンまで駆け抜ける。

 

ここまでの全てがうまく行き過ぎている。

 

まるで何者かが意図的にそうしているかのように、全ての物事が都合良く進んでいる。

 

闇派閥と極彩色のモンスターの襲撃が、まるでこちらを導くかのように手薄であり、ダンジョンまでの最短経路の『扉』はこちらの手持ちの『鍵』で開けるまでもなく事前に開かれていた。

 

まるで、フェルズ達がここまで来ることを何者かが望んでいるかのような········ しかし、その違和感を深く考えている暇はない。

 

今は一刻も早くダンジョンへの脱出を図らなければならない。

 

単純戦力という意味では第一級冒険者級のリド達のいる自分達を抑えられる強さを持った闇派閥の手勢は例の仮面の怪物くらいのものだろう。   

 

待ち受けているだろう罠も『鍵』があればその効力は半減するだろうし、フェルズの魔道具とリド達の戦力があればいかようにも食い破れる。

 

下手に動きを止めて【ロキ・ファミリア】や仮面の怪物といった現戦力では勝てない相手と戦う羽目になる方がよほど危険だ。

 

故に、今は駆け抜けるのみだ。

 

────フェルズの思考は全て正しい。

 

アナキティ達による断続的な嫌がらせによって今の闇派閥残党の戦力は枯渇しかけており、第一級冒険者パーティークラスの戦力である異端児達を相手取れる存在は怪人か、あるいは精霊の分身くらいだろう。

 

そして、そのどちらもが出張ってくることはない。

 

クノッソスの悪辣なる罠も『鍵』と己の魔道具ならば対応は可能だろう。

 

ただ一つの計算外。

 

闇派閥が、タナトスが異端児達を誘導している先にいるのは闇派閥の残存戦力でも未知の罠でもない。

 

それは、異端児達以上の速度と制圧力、明確な戦意のもとクノッソスを食い破りつつある凶悪な『妖精』。

 

「──────ッ、捕捉された!!」

 

 その【魔導】に気がついたのもやはりフェルズが最も早かった。自分自身、【魔導】と【神秘】のアビリティを突き詰めたからこそわかる規格外。

 

通路全域に展開された翡翠色の魔法円。あまりにも膨大な魔力のもと超広域展開されたそれは意思を持っているかのように広がり、異端児達の影を絡め取った。

 

「全員、領域外に出ろ!!」

 

 既に通路全域が『砲撃』の射程圏内。

 

異端児達はフェルズの指示に従い、影から飛び出した。

 

瞬間、魔法円は収縮し────緋色の極光が炸裂した。

 

【────レア・ラーヴァテイン】

 

まるで津波のように押し寄せる火炎の波濤は、いくつもの極大の火柱を巻き上げながらクノッソスを灼熱の煉獄へと変貌させる。

 

「────まさか、このような場所で遭遇するとはな」

 

「【ロキ・ファミリア】、『九魔姫』·············!!」

 

 先頭にいたが故に躱しきれず耐魔のローブごと焼かれたフェルズが苦慮を交えながらその『妖精』の姿を認める。

 

未知たる人造迷宮クノッソスにおいて危機感知とある種のマッピングを行うために全魔法の中でも最大級の魔法円の大きさを誇る第二階位攻撃魔法【レア・ラーヴァテイン】を待機状態のまま維持して魔法円が感知した闇派閥でも極彩色のモンスターでもないフェルズの反応に壁越しの『砲撃』を放ったのは、この場にいるはずのない都市最強の魔導士。

 

『九魔姫』リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

その後ろに控えるのは『純潔の園』を筆頭とした【ロキ・ファミリア】所属の第二級冒険者の妖精魔導士達。

 

「『武装したモンスター』···········いや、『異端児』か。フィン達の迎撃と闇派閥の罠の全てをかいくぐって、ここまで来ていたか」

 

 その女神にも勝る怜悧な美貌に、しかし今は僅かな驚愕と最上の警戒を宿して異端児達を見据える。

 

数は少ないがそれぞれが先日の戦いで【ロキ・ファミリア】相手に大立ち回りを演じた異端児達。その中でも突出した個体であろう蜥蜴人や歌人鳥はリヴェリアをして同格──一対一ならば確実に勝てるが──と認めざるを得ないほどの強者。

 

したがって間合いを詰められる前に一挙に無力化する。

 

「リヴェリア・リヨス・アールヴ。いや【ロキ・ファミリア】。話がしたい」

 

 問答無用で攻撃される寸前、フェルズは気勢を削ぐように『話し合い』を持ちかける。

 

「·············貴様がモンスターに与する魔術師、神ウラノスの遣いか?」

 

「その通り。私は『剣聖』と志しを同じくする魔術師フェルズ。オラリオの創設神ウラノスの神意に従ってここにいる」

 

 無抵抗の意思表示をするフェルズはリヴェリアの問いにそう応じる。今、この場で敵対することとなれば双方に甚大な被害が出る。

 

それは、『異端児』と【ロキ・ファミリア】───否、怪物と人類の融和の夢を完全に途絶えさせる結果を招くだろう。

 

故にこそ己の素性、ウラノスの神意、その全てを包み隠すことなくさらけ出す。

 

そんな、フェルズの殊勝な態度にリヴェリアは内心舌打ちをする。

 

──────交渉、話術においてはあちらに()()()がある。

 

ハイエルフとして恩恵を持たないヒューマンの一生に匹敵するだけの年月を生きてきたリヴェリアをして、交渉の場では目の前の魔術師の方が一枚も二枚も上手だと認めざるを得ない。

 

たったの二言三言の会話でこちらに不戦の楔を打ち込もうとしている。

 

武器ではなく言葉で以ってこちらに向かい合い、無抵抗の姿勢を見せるフェルズを誇り高いエルフ達は攻撃できない。

 

更には創設神ウラノスの神意という大義名分じみた文句、そして何よりも『剣聖』の名にラクタや若いエルフ数人は動揺を隠せずにいる。

 

「············地上では我々から散々逃げ回っておいて、窮地に陥った今、都合よく『交渉』をしたいと?」

 

「私は『剣聖』ほど豪胆ではない。言うまでもなく地上におけるモンスターに対する敵意と憎悪は計り知れない。それに、モンスターとの『交渉』の場を万が一にでも他の者に見られれば君達に残された選択肢はモンスターの殲滅しかなくなる。これは理屈ではなく感情の話だが君達と我々が『交渉』する機は今を除いて他になかった」

 

「──────」

 

 フェルズのその言葉に、リヴェリアは黙り込む。

 

正論だ。

 

認めよう、弁論では目の前の魔術師には勝てない。いくら揚げ足を取ろうが理で説き伏せられるだろう。

 

「················」

 

 少し、思考が冷めていくのがリヴェリアにはわかった。思えばここ最近の自分は感情的になりすぎていた。

 

リヴェリアは、目を瞑る。

 

想起されるのはかつての情景。

 

不器用で過保護な父王との別れから始まった冒険。傲慢で生意気な小人族、粗雑で相性最悪なドワーフ、女神らしからぬ品のない神との出会い。

 

そして、才能があっただけで『英雄』としてさんざん祭り上げられた挙げ句、眼前のモンスターのために『異端の英雄』となり、手のひらを返すように民衆から敵意を向けられる『少年』の姿。

 

やがて。

 

その瞳から一切の熱が消えた。

 

「【ロキ・ファミリア】、どうか彼等の手を──────」

 

「アホか」

 

 そして、魔術師の言葉をリヴェリアが遮った。その相貌は、一切の熱を捨てた氷のようだった。

 

「─────と、言うだろうな。私達の主神は」

 

 リヴェリアらしからぬ一方的な『拒絶』の言葉にアリシア達ですら瞠目して言葉を失う。

 

異端児達は人から向けられる、これまでも向けられてきた『拒絶』の視線に諦観と失望の混じった視線で応じる。

 

それから努めて目を逸らしてリヴェリアはフェルズに向き直った。

 

「─────証明できるのか? 立証できるのか? 方策はあるのか? モンスターに家族を、友を、故郷を、全てを奪われた者に『モンスターとの共存』などという絵空事を説けるのか?」

 

「それ、は·············」

 

「私が求めるのは理論に基づいた『現実』だ。『理想』や『夢』、我々の情に訴える姑息な涙などでは断じてない。それを示せないならば貴様の言葉に耳を貸す道理はない」

 

「そして貴様が言った、『感情』の話をこちらもしよう。──────────端的に言って、私はお前達が()()()()()

 

 柳眉を立てて苛烈に言い捨てる。理路整然とした言葉を投げ捨てた彼女らしからぬ『気に食わない』という言葉。

 

「········気に食わない、か」

 

 嫌悪でも、敵意でも、怒りでもなく、────不愉快。

 

「ああ、この一点に関してだけは私はフィンやアイズにも些か、憤っている。先程、貴様は『剣聖』······アルと志を同じくすると宣ったが、なにか勘違いしていないか?」

 

「?」

 

「────あいつはまだ、16の子供だぞ」

 

「───!!」

 

 ある意味誰よりもアルを英雄視するフィンも、何よりも尊い憧憬とするアイズも、人間とは根底的に価値観が違う『異端児』も、英雄としてでしかアルを見ない神々も、そしておそらくはアル自身も直視していない事実。

 

いくら達観した物言いをしようと、いくら大人びた態度をとろうとアイズやレフィーヤと同じ年代の子でしかない。

 

【ロキ・ファミリア】の中ではガレスとベート、それ以外ならばアミッドあたりしか思慮のうちにないアルが所詮は才に溢れただけの『子供』であるという当たり前の事実を主神に【ロキ・ファミリア】の『母』とも揶揄られるハイエルフは語った。

 

見方によってはもう、大人だと言う者もいるだろし、その『力』の前では年齢など些事だと言う者もいるだろう。

 

だが、たとえそうだとしても─────。

 

「そのモンスターを救うために、一人の『子供』がこれまで無責任にも『英雄』として祭り上げてきた者たちに蔑まれる。私はそれがどうしても我慢ならない」

 

「魔術師、貴様に『覚悟』を問おう。この場凌ぎではなく、私の心を今、動かすに足る『覚悟』が············その黒衣の内に本当に存在するのか?」

 

「─────はっきりと言おう、私はお前たちの言葉を()()()()()()

 

 それが交渉を決裂させる決定的な言葉だった。リヴェリアの拒絶の意思にフェルズは静かに嘆息する。

 

「君達が味方であったなら···············そう思わずにはいられない」

 

「無意味な仮定だ。『もしも』を語っていても私達の立ち位置は変わらない」

 

「そうだな、 その通りだ。ならば···········生き残るために、抗わなくては」

 

リヴェリアの宣言にアリシア達は一斉に杖を構え、その戦意に呼応して異端児達も武具を構える。

 

一触即発の空気が漂う中、しかしそれを切り裂いたのは────

 

「〜〜〜〜〜〜ッ!? リヴェリア様っ、モンスターの大群と闇派閥の兵が!!」

 

「闇派閥の残党か?!」

 

 地下通路を埋め尽くすように溢れ出る極彩色のモンスターの大群に、それに追従する夥しい数の人型。

 

10や20ではきかない。数百にも及ぶモンスターの数にさしものリヴェリアも歯噛みする。

 

「誘導したのは、まさしくこれが目的だったか············!! 二つの勢力を争わせてたところに横槍を入れ、漁夫の理を狙う算段か!!」

 

 融和なぞできるはずもない【ロキ・ファミリア】と異端児達を足止めさせ、殲滅に足る戦力を集めて一挙に両勢力を瓦解させる。

 

不覚。平時であればかからないはずの罠にリヴェリアとフェルズがかかってしまったのはお互い表面上はともかく内面では平静を保てていなかったからだろう。

 

「殺せ殺せえええええええええええ!! 【ロキ・ファミリア】もモンスターどもも、タナトス様と我らが悲願に仇なすもの、全てをおおおおおおおおおおお!!」

 

 殺意と狂気を火種に、冒険者と異端児、闇派閥の三勢力が入り混じる三つ巴の戦端が開かれた。

 

そして────────。

 

 

 

 

 

 

 

「─────【聖霆の覇斬(レーア・ユピテール)】」

 

「オ、オオオオオオオオオオ────ッ!!」

 

 雷光を迸らせる純白の『英雄』と雷光の名を持つ漆黒の『怪物』という最大最強の横槍が開かれた戦端を二撃で終わらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────数十分前。

 

 

突如、『勇者』によって語られた『休戦命令』。

 

それは事情を知らぬものが聞けば闇派閥を追い詰めきり、撤退させたという状況伝達に過ぎなかったが、事情を、『異端児』を知るもの······【ロキ・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】からすれば『異端児』を見逃す、どころか手を組んだかのような『勇者』の口ぶり。

 

それを聞いた者たちの反応は様々であった。

 

あるものは理知を持つ『異端児』と戦わなくていいことに安堵し、あるものはアルと和解したことに喜び、あるものは自らの知らないところで事態が終息したことに呆気にとられた。

 

中には『剣姫』のように納得できぬものもいたが、その中で最もフィンの決定に異を唱えたがっていたのは──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あー、お家帰りたい。お家ないけど。

 

なんでそんなに物わかりいいんだよ、まだそんなに『異端児』と和解する材料なかっただろうが。

 

『異端児』が認められた、ってのは普通にいいことなんだが、今じゃねぇよ。俺が死んでからにしろや、せっかくそのために準備もしてたのに···················。

 

てか、なんでアイズ来ないんだよ?! 口だけめ!!

 

··················ハイ、俺がリューに足止め頼んだからですよね、リュー頑張りすぎだわ。

 

あーもう、知らね。これ以上は無理だわ、闇派閥があと少し場を乱してくれれば話は違かったんだかなぁ。

 

エニュオ君さぁ、もうちょい頑張れない?

 

まあ、もういいや、適当に『異端児』を護送·············あ、『鍵』がねぇわ。アステリオスにもたせてたの渡しちゃったしなあ。

 

···········お、ちょうどいい、ヘルメス。『鍵』寄越せ。

 

は? いや、そういう取り引きが俺に通用するとでも思ってんの?

 

お前にある選択肢は俺に力ずくで『鍵』を奪われるか、素直に渡すかの二択しかないんだよ。俺が神風情に遠慮するわけ無いだろうが、ほらさっさと渡せや。

 

な~にが、世界は英雄を欲してるだ、馬鹿か?

 

一個人に救われる程度の世界なんざ、潔く滅べばいいんだよ················いや、まぁ、滅ばれたら困るけどよ。

 

まぁ、ベルやらアイズやらがどうにかするだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界はッ、オレ達は英雄を欲している!!」

 

「なぜっ、君が、最もその座に近い君がそれを理解しようとしないッ!?」

 

「三千年の悲劇、千年の停滞、十五年の絶望。神々(オレ達)でさえ覆せない黒き終わりの刻。その暗闇を晴らせるのは、晴らすに足るのは他でもない─────」

 

 

 

 

 

「──────『世界は英雄を欲している』、か」

 

「ああ、その願い(神意)は否定しないさ」

 

「だがな···········俺じゃ駄目なんだよ」

 

「個としての英雄では世界を救えない、『最後の英雄』には届かない」

 

「神の全知ではダンジョンの未知を暴けない、英雄の力だけでは終末の脅威を退けられない」

 

ゼウスとヘラ(前時代の英雄達)では届かなかった、英雄譚の物語(古代の英雄達)でも叶わなかった」

 

「選ばれた英雄では世界は救えない、選ばれた英雄ではかの黒き災厄には届かない」

 

「俺に、世界は救えない」

 

「──────世界は、英雄を自らの手で生み出さなくてはいけない」

 

「世界を救うのは選ばれた英雄ではいけない、一個人、一集団に救われる程度の世界なんてあってはならない」

 

お前達(神意)に選ばれなかった者達、英雄譚(古代)においては救われるだけだった力無き者達」

 

「お前達が英雄と呼ぶアル・クラネル()に役割があるとすればそれはそんな選ばれなかった彼ら彼女らの一人一人を、この地上全てを『最後の英雄』へと押し上げることだ」

 

「俺の言葉を理解しろとは言わない」

 

「だが、俺の代わりに見届けろ、神々(ヘルメス)

 

「──────最後の英雄神話を(アイツらが世界を救うまでを)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────   

 

勇者に完全敗北した他称英雄「覚悟を決めた勇者に勝てるわけないだろ、いい加減にしろ!!」

 

 

アステリオス「これ自分が行く必要あった?」

 

敗北者「黙れ」

 

ヘルメス「世界は英雄を欲している」

 

敗北者「黙れ」

 

 

・【聖霆の覇斬(レーア・ユピテール)

八つ当たり気味に使われた槍と第三魔法を除いたアルの単純最高火力技。【聖焔の英斬(ディア・アルバート)】と【聖雷の英斬(アルゴ・ディアーナ)】の合体技、不壊属性かバルムンク以外で使うと剣が弾ける。雑兵に使って良い技じゃない。

 

・最後の英雄うんぬん

敗北者「なんか、それっぽいこと言っとこ(鼻ほじ)」

 

 






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