皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
150話記念に古代編の予告みたいなのを書きました。
ぶっちゃけ一話だけでキリのいいところ行けるわけもないので説明口調の飛ばし飛ばしでめちゃくちゃ中途半端です。
箸休め程度に流し読みしていただければ幸いです。
「─────アルゴノゥト、『僕』はお前を赦さない」
「俺はお前とは違う。こんな世界に愛着なんてない、こんな惨劇を見続けるのはもうごめんだ、こんなことなら俺は死んだままでいたかった」
「英雄? 救界? 偉業? ───笑わせるな」
「俺程度が英雄と呼ばれてしまうこの世界はもう終わりだ」
「
「お前もだ、道化のアルゴノゥト!!」
「俺が英雄にしかなれないように、お前は英雄にはなれない」
「だから、だからッ!!」
「─────その『瞳』をやめろ、アルゴノゥト!!」
「ごめん、兄さん。それでも········」
「それでもっ───」
「『僕』は笑うよ」
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これは、始まりの英雄の物語。
それは、神々がまだ地上に降りる前。
人々が魔物に脅かされていた時代の、英雄にしかなれない道化と英雄になれない道化の悲劇にして喜劇。
────それは現代より遥か昔、大地に穿たれた大穴から溢れた怪物によって悲劇と絶望がもたらされていた昔日の世。
救いはなく、先はなく、未来もなく、誰もがただ、今を生きることに必死だった暗黒の時代。
神の眷属なんてものは存在しなかった古代。緩やかな滅びの時を迎えようとしていた世界の中で───それでも抗い続けた者たちがいた。
後に、『英雄時代』と呼ばれることとなる時代の始まり。
これは『勇者』が光の蹄鉄を遺すよりも、『大英雄』が絶望に染まるよりも、『道化』が船頭となるよりもほんの少しばかり前の物語。
語り部はなく、記録もない。
ただあるのは、終わりを迎える寸前の世界で、たった一人だけ········我欲に溺れた一人の愚者の物語。
悲劇を見た、嘆きを聞いた。
家族を失ったものの顔を、悲嘆にくれる声を、絶望に打ちひしがれる人々の姿を見た。
如何なる窮地にあって尚笑みを忘れずに船頭で有り続けた『道化』にはなれない。
数多の英雄達を率いて仲間達の想いを背負って遂には大穴への一筋の光の軌跡を築いた『勇者』になんてなれやしない。
見送って、見送って、見送って。
ただ、見送ることしか─────。
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西日が射し込む、峻厳な北の霊峰の果て。
かつては白妖精と黒妖精のハイエルフの元に妖精の大国があったという霊峰、その麓でまた
炎の海に抱かれた村は一夜にしてその痕跡さえ残さず灰燼と帰した。
散乱する屍の海は血肉の愉悦に酔う怪物の舌に舐め取られて亡骸の一片も残されていない。
老若男女の区別なく、村中の人間は全て殺された。只人と亜人の区別なく、怪物の腹に収められた。
火欠に揺らぐ闇夜を赤々と照らし上げる紅蓮は、そんな破滅の光景を慈悲深く包み込み、奇妙な穏やかさすら漂わせている。
それが人と人の争いであればまだ救いは在っただろう。
木々は残らず薙ぎ倒され、家屋は悉くが打ち壊されている。炭化した柱や壁だけを残し、村の痕跡さえ見当たらない惨憺たる有り様はまるで巨大な竜の尾にでも蹂躙されたかのようだ。
そして、その破壊の光景を作り出したのは戦争でも虐殺でもないただの『食事』。
身を寄せ合うか弱い獲物達を、怪物はただ戯れに弄び、その尊厳と命を無慈悲に奪い去った。
若草色の体毛に覆われた巨軀。
獅子の頭と山羊の頭の双頭。
狼の胴体に小山のような筋骨隆々たる人の上体。
そして、見るものに生理的嫌悪感とともに恐怖を与える醜悪な多脚蛇体の蟲の『竜』。
血と臓物、そして死肉が焼ける不快な臭気が漂う地の獄に怪物の哄笑が響き渡る。
それがこの世界の日常だ。
この怪物達に、人々はただ食われるしかない。
大海を席巻する蒼き蛇竜はその暴虐によって海上の全てを薙ぎ払い、腐毒と死毒の巨獣はただ其処に存在するだけで生者の肺腑を犯す猛毒を撒き散らす。
世界には、この絶望に抗う術はない。
この地獄に、希望を見出す事は出来ない。
────誰かが言った、この世界には悲劇が多すぎると。
────誰かが言った、この世界には喜劇が足りなすぎると。
────誰かが言った、この世界は英雄を欲していると。
誰もが望んだ、この地上に喜劇を齎す英雄が現れることを。
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かつて、この地上に『イルコス』という国があった。
この地上、この時代においては稀有なことに長期にわたって平穏を保っていた高原の王国。
王の善政によって只人も亜人も分け隔てなく平和を享受し、魔物に支配されたこの地上において『楽園』とさえ呼ばれるほど穏やかな時を刻んでいた王国。
同じく『楽園』と呼ばれる遠き大国ラクリオスの王族はその国との友誼のためか王族の娘をその王国へと嫁がせた。
イルコスにおいて、異国の、ラクオリス王族の姫君はその穏やかな人柄もあって邪険に扱われることなどなく大層歓迎され、その王国に骨を埋めることになるかと思われた。
だが、平穏は長くは続かなかった。
一夜にしてイルコスは火と魔物の爪牙に蹂躙され、『楽園』と呼ばれたその城下町は無惨にも廃墟と化した。
賢者はその五体を引き裂かれて血肉を怪物の糧とされた。賢王は誰よりも多くの民を逃そうとしてその命を凄惨に散らした。若き王子は半妖精の少女の手を取って逃げ出した。
その地獄の如き光景にラクオリスの姫君はイルコスの王族との間に生まれた子を連れて滅びゆくイルコスを脱した。
戦う術なぞ持たないラクオリスの姫君にできたことなど、その白髪の子供を自らの故郷に────イルコスとは違う、犠牲と血の礎の上に築かれた『偽りの楽園』たるラクオリスに届けることだけだった。
その身を魔物に貪り食われる者の悲鳴を身代わりに、数多の騎士たちの犠牲を隠れ簑にして故郷に帰った死に体の姫君は肉親であるラクオリス王に願った。
『次の『贄』には私がなります、その代わりにどうかこの子は』
ラクオリス王はその願いを聞き届け、姫君は『
そして、それから、数年。
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ラクオリス王の娘であるアリアドネには一人の義兄がいた。
ラクオリス王族にはいない白髪に赤い瞳を持った少年。
年齢に見合わぬ深い叡智を瞳に宿したその義兄はアリアドネが物心ついた頃から王城の図書館で本を読み漁って過ごす、一言で言えば変わり者であった。
無知なアリアドネでもわかる、神に選ばれたとさえ言われる才気を持つ義兄は、だが、その生まれ持った才を持て余しているように見えた。
この上なく聡明で、そしてそれゆえにこの世のあらゆることをくだらないことだと見限ったような冷めた眼差し。
そんな義兄の在り方は王族として育てられたアリアドネには受け入れ難く────けれど同時に、自らの運命に諦観すら抱けなかったアリアドネはその義兄の在り方に憧れていた。
冷淡ではあったが酷薄ではなく、アリアドネに対して義兄は無関心ながらも親切だった。
アリアドネにとって家族とは自らを含めて遅かれ早かれ、この『楽園』を維持するために死ぬ生贄でしかない。
血の繋がった親兄弟は自分たちを贄として差し出させることで得られる平和に甘え、真実を知るアリアドネの心を蝕み続ける毒に過ぎない。
だから家族とは名ばかりの、血の繋がりなど欠片もない────自分と違って生贄になることのない義兄との触れ合いはアリアドネにとっては数少ない心の慰めだった。
図書館で静かに本を読む義兄の隣に座り、その日一日の出来事をあれやこれやと話して聞かせた。
だが、その穏やかな日々は長くは続かなかった。
『天授物』の鎖とその鎖につながれる『
『アリア、いつかお前だけの英雄に出会えるといいな』
それが義兄がアリアドネに向けて放った最後の言葉だった。
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今より三代ほど前のラクオリス王国はイルコスがそうであったように魔物の侵攻によって滅びかけていた。
『英雄』のいないラクオリスでは万の魔物の群れに抗する術はなく、滅びを受け入れるほかないはずだった。
だが、そこに天から一つの光が『光』が落ちてきた、落ちてきてしまった。
途絶えぬ光を湛え、決してちぎれることのない『鎖』。
神々の住まうとされる天界から落ちた『奇跡』。その神秘の鎖はとある一つの代償の代わりに魔物をも支配下におく『天授物』。
その鎖は最初にその鎖を使った者の血族───即ち、ラクオリス王族の血筋の者を贄に捧げれば魔物を縛る鎖として作用する。
その奇跡の力を以ってして今にも国を滅ぼさんとしていた『
だが、その代償として王族は『
イルコス王家の生き残りであり、アリアドネの義兄────テセウスもラクオリス王以外は知らぬことだが色濃く、それこそアリアドネと同程度にはラクオリス王族の血を継いでいる。
ラクオリス王の実子であり、なにより女───王族を産むことのできるアリアドネよりも先に『死肉貪る戦牛』を縛る鎖の贄として白羽の矢が立ったのは当然の成り行きだった。
いくら才知に溢れているとはいえ神々の恩恵もない時代の少年が『
『祭壇の間』と呼ばれる人造迷宮の最奥に、生贄を捧げるための儀場ともとれるその部屋に、自らの母が死んだ部屋に縛り付けられたテセウスは─────嗤った。
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俺、テセウスは転生者だ。
のどかながら異国の地の赤ちゃんに生まれ変わった俺はハイハイが終わって少しして弟が産まれ、名前を聞いたとき愕然とした。
「この世界、ダンまちやんけ」、と。
それもベル・クラネルが主人公の本編じゃなくて 前日譚とも言えるアルゴノゥトが主題の外伝。
イルコス王家の白髪の王子アルゴノゥトに、地上を席巻する大穴の魔物。
これはもう確定だろう。ここは間違いなくあのダンジョンでモンスターを狩るファンタジー世界のダンまちだ、と。
それからという物、俺は前世の記憶がある事を隠して普通の子供を演じてきた。
掠れ始めた前世の記憶をたどるにダンまちとは主人公ベル・クラネルが冒険者の町、オラリオで出会ったヒロインたちを救い、仲間との絆を育みながら英雄へと成長する物語である。
そしてのこの作品には悲しい過去を持った曇らせがいのあるキャラがたくさんいる。
そんなダンまちの世界に転生したとわかった時、真っ先に思ったのは「あーアイツらの傷になって盛大に死にてぇ」だった。
生前の俺は曇らせ展開が大好きな畜生だった。そんな俺は一回死んだせいか死に対する恐怖や忌避感がなくなり原作より遥かに昔の古代でも、いや、だからこそ、と性癖を満たすのを待ちかねていた。
だが───────
俺は『英雄』にならなくてはならず、この世界は俺が死ぬのを許さなかった。
この世界は詰んでいる。
俺というイレギュラーが産まれたせいか、それとも元々こんな有様だったのか。
どちらにせよ俺にはこの世界の未来にあんな物語が待ってるとは到底信じられない。
悲劇を見て、地獄を見て、悪夢を見て、絶望を見た。
どうしようもない黒い終焉を見せつけられた。
────誰もが俺より先に死んだ。
俺の死に場所はまだ、ない。
この世界にとっての異物である俺に、『英雄』は現れない。
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テセウス─────後の世においては『始まりの英雄アルゴノゥト』とその仲間たちに討たれたとされる『憎騎メディア』は自らの願望とは裏腹に世界に愛されていた。
否、愛されすぎていたと言っても良いだろう。
それは神々が下界を覗き見た時に垣間見えた、英雄の魂が持つ輝きに由来するもの。
だが、その光は決して輝かしい物ではない。
英雄の光は暗く澱み、闇よりもなお暗き妄念と絶望で形作られていた。
後の世における神の恩恵の代わりをするか如く、望んでいないにもかからず世界中に揺蕩う精霊達はテセウスに惜しみない、過剰とも言える加護を授けた。
そう、過剰なほどに。
仮にテセウスが神時代に生まれ、英雄の器を研磨させる前に神の恩恵を受けてその器を神血で満たしていればそんなことは起きなかっただろう。
だが、古代における才禍の兇児の器は空いていた、埋まっていなかった。
その空白を彼を愛する、呪いにも似た愛に狂う幾百の精霊が埋めようと、その才を伸ばそうと群がった。
まさしく呪いである。
神の恩恵は器の許容量を超えることはないが、精霊の加護はその限りではない。
至上の英雄の器は、しかしてそこに注がれる愛に耐えきれず罅割れ砕けた。
だが、精霊達は砕けて尚、器に注がれ続ける愛によって不出来な人形が如く砕けた器を無理矢理繫ぎ止めようとした。
臨死と蘇生の円環。生と死が混線する精霊の奇跡。
そして何よりも不運。テセウスの持つ器は砕けた程度では決して壊れることのない下界至上の大器だった、それ故に─────
───────決して死なない神の肉人形が産まれた。
これは、世界に求められ、英雄になることを強制された『
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ガチシリアスに見せかけたシリアル。
・テセウス/メディア
古代に転生した白髪変態。古代の環境に心折られた敗北者。神の恩恵がない代わりに本編の比じゃないレベルで精霊の加護を受けまくってるのでアルゴノゥトとフィーナがラクオリスに来た段階で本編の馬鹿より強いかもしれない。
なお、根はそんなに変わってないので余裕が出てきたら本編メンタルに寄ってくる。
予告編ではガチシリアスみたいな感じになってるが別にそんなこともない。
・【加護精霊】
本編時空においては神の恩恵によってスキルに制限されたことでかなり弱体化している。とはいえ、精霊の加護による負荷よりも白髪馬鹿の器の適応、拡張のが早いので古代時空でもくっついてる精霊ごとスキルのようなものに圧迫される。
・決して死なない神の肉人形
古代式の怪人みたいな存在、ぶっちゃけ本編とそんなに変わらん。
・アルゴノゥト
天敵その1。
・リュールゥ
天敵その2。
・フィン
天敵その3。
・エピメテウス
ヒロイン。
みなさんの日々の応援のおかげで150話まで行けました、本当にありがとうございます。
約1年以上、更新を止めていたにもかかわらず再開して早々多くの方に読んでいただき、大変ありがたかったです。
これから作中一番の私的鬼門である10章が始まっていきますがどうにか書き続けていきたいなと思ってますので これからもどうぞよろしくお願いいたします。