皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
20巻読んだら今後白髪バカに発現させるつもりだったスキルとほぼ同じ効果を含んだ魔法と白髪バカの必殺技とほぼほぼ同じ性質の技が出てきてびっくりした。
スキルの方はちょっと変えようかな。
ダンジョン51階層。
ギルドが定めた『真の死線』、その深層をさらに十階層以上超えて潜った先にある竜の顎。
未踏の深み、人類が踏み入ることを拒む難攻不落の領域。
かつての最大派閥の他には【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】しか到達していない竜の壺を手前にした地の獄。
【ロキ・ファミリア】が第一級冒険者八名と第二級冒険者のサポーター、鍛冶大派閥の最上位鍛冶師という精鋭部隊で向かったそんな死の領域に三人の冒険者がいた。
一人は白髪赤目のヒューマン。
オラリオに知らぬ者のいない当代最強の冒険者にして『英雄候補』。
【ロキ・ファミリア】最強にして最大の問題児であるアル・クラネル。
一人は山吹色の髪をしたエルフの少女。
アルと同じ【ロキ・ファミリア】の団員であり、人造迷宮クノッソスの戦いで自らの無力を思い知ったがゆえにアルに師事するレフィーヤ・ウィリディス。
レベルに差こそあれど同年代の同じファミリアの団員として同じ死線を何度も潜り抜けてきた二人。
そして最後の一人は────
「タスケテベルサマ」
一人では上層すらまともに戦えないと自覚している自分にとって自らの推奨階層よりおおよそ40階層以上深く潜ったこの領域にかわいそうなぐらい怯えている小人族の少女だ。
当然ながらこの層域のモンスターと彼女が戦えば考えるまでもなく、というか考えたくもないが0.1秒で死ぬ。
とはいえそうはならないのは彼女も分かっている。
都市最高のLv.8、それもその器を半分近く埋めているアルにとって51階層はLv.5の第一級冒険者にとっての中層と同程度の領域だ。
Lv.5の第一級冒険者ならば経験不足なLv.2複数人を中層の脅威から守りきることは容易い。
それと同じように、アル・クラネルにとってリリルカを守っていても51階層は苦戦する場所ではない。
そうでなければ弟の仲間とはいえ他派閥の少女を連れて行くわけがない。
というかそうでなければさすがにレフィーヤが止めてる。いや、まぁ、そうでなくても止めたは止めたけど。
「俺が思うに指揮官────冒険者に求められるのは未知を既知へと変える速度と非常識を常識に落としこむ力だ」
レフィーヤと違って戦う必要は全くもってないが今までの常識を壊すためにここまで連れてきたと、そうアルは語る。
ダンジョンの下層以降の情報はそのファミリアがその層域の攻略を考える手前程度まで成長しない限りギルドからの情報開示はされない。
それは未熟な者たちが絶望するのを防ぐためとも言われているが確かにLv.4未満でこんな地獄を知ってしまえば心を折ってしまうことも考えられる。リリルカはもう砕けた。
リリルカの常識をぶっ壊すために51階層まで連れてきたというアルの言葉。
それは、確かに成功したと言えるだろう。
51階層に潜ってからすでに1時間が経過している。
その間、リリルカ達は一度もモンスターと戦っていない。
というか視界内にモンスターが現れた瞬間リリルカの動体視力では捉えられない速度で奔る雷霆がモンスターを消し炭にしてしまうのだ。
【ヘスティア・ファミリア】が総力をあげてようやく一体押しとどめられるかどうかという怪物が、だ。
リリルカは改めて思い人の兄の規格外さに戦慄する。
リリルカはベルの成長速度と命知らずともいえる冒険に度々ドン引いてきたがその比じゃねぇ。
というか、リリルカと同じ年ぐらいでありながら怯えを抱えつつ馬鹿みたいな火力の砲撃を乱発するレフィーヤも怖い。
Lv.1の身でこんなとこまで連れてこられたリリルカをかわいそうなものを見る目で見つつ、気遣ってくれてるその態度はあたかも常識人側であるように見えてその実、レフィーヤも大概だ。
後衛が格上の層域に順応している時点でなにかがおかしい。
「コワイ」
「まぁ、上層や中層に比べればそりゃ怖いだろうな」
「············オニイサマ、アナタデス。アナタ」
ぶっちゃけリリルカには30階層あたりとこの階層の違いがあんまりよくわからない。だってどっちもリリルカがそこまで潜ったらすぐ死ぬのだから。
ならせめてこれから仲間たちと潜る予定の下層で常識を壊してほしかった。
Lv.1のサポーターであるリリルカと比べられるわけもないがそれでもこの階層の推奨レベルには到底追いついていないLv.3であるはずのレフィーヤが放つ魔法の火矢の雨も十分常識の埒外ではあるがなによりアルの存在がなにより常識外れだった。
正直、多分こんな深層まで潜るような手間をせずとも地上でアルが魔法を何発か使うだけでリリルカの常識は音を立てて崩れていったことだろう。
なんなら常識は崩れる前に蒸発していたかもしれない。
ともあれ、Lv.1の自分に51階層を見せようとした時点でアルが一番常識外れで頭がおかしい。
というかさっさとこのまま帰らせてほしい。
「冒険者であらんとするならば未知を既知へと変えろ」
「出来なければ死ぬだけだ」
ならもう冒険者やめますとリリルカは叫びたかった。
「ナンデコンナコトニ················」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ステイタスの更新。ベルの背中に刻まれた神聖文字が光輝き、それが収まっていく。
魂の奥底にしまいこまれている下界の人間の可能性を解き放ち、ステイタスとして反映させる。
神血によって行われるそれは、下界の人間を神々へと近づける儀式とも言える。
愛する眷属の背中に刻まれた戦歴の結果に感慨めいたため息を吐きつつ、ヘスティアはベルの背中をそっと撫でた。
「おめでとう、ベル君···········ランクアップだ」
ベル・クラネル
『Lv.3』→『Lv.4』
力:SSS1120→I0
耐久:SSS1399→I0
器用:SS1096→I0
敏捷:SSS1389→I0
魔力∶SS1002→I0
幸運︰G
耐異常︰H
逃走:I
《魔法》
【ファイアボルト】
・速攻魔法
《スキル》
【
・早熟する
【
・能動的行動に対するチャージ実行を得る。
【
・猛牛系との戦闘時における、全能力の超高補正。
【
・戦闘時、発展アビリティ『直感』の一時発現。
・能動的行動に対するチャージ実行権の譲渡。
・体力及び精神力の大幅減少。
既に限界を突破していたステイタスはベートとの戦いによって更に上昇し、遂にはLv.4へ到達するに至った。
打倒できないのは当然として、Lv.3のベルが本気じゃないにしてもLv.6の第一級冒険者を相手に正面から戦って一矢報いたのだ。
それは確かにランクアップに足る『偉業』なのだろう。
それに元々、ベルはいつランクアップしてもおかしいほどにLv.3としての器を突き詰めていた。
【イシュタル・ファミリア】との抗争から始まってはるか格上のLv.8である実兄とのウィーネを巡る戦いや第一級冒険者にも匹敵するという実力を持った異端児のリド達を纏めて一蹴する仮面の人物との戦いなど、むしろこれまでランクアップできなかったのがおかしいとすら言える。
ステイタスの更新を終えたヘスティアはベルの背中のステイタスをそっとなぞる。
「それともう気がついているかもしれないけど、新しいスキルが発現したよ」
やはり気がついてたのかその言葉に対した驚きを見せないベルにランクアップしたステイタスの内容を伝える。
───【
【
実際に使ってみないことにはどこまでに有用性があるかは分からないがそのスキルが発現した理由は分かる。
考えるまでもなくベートとの戦いと全てが終わった後の兄との会話だろう。
ベートはベルに己の意思を突き通せと、アルはベルに自分の道は自分で決めろと言った。
それがきっかけとなって発現したスキルが、このスキルだ。
先達たる英雄への憧憬。そして、そんな英雄たちから薫陶を受けたからこそそれを引き継いで自らの糧とし、それをまた別の誰かに受け渡していくという英雄系譜。
図抜けて凄い英雄が一人だけいるよりも、誰かのための小さな英雄がたくさんいたほうが、きっと世界は良くなる。
その一端を自分も担う────ベートや兄に守られるだけではいられないという意識の芽生えこそが、発現の理由。
そんな想いを察して後ろからぎゅっとベルに抱きついたヘスティアはいつまでたっても戻ってこない二人を訝しんで突撃してきたリリルカに引き剥がされるのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
───『遠征』の『強制任務』。
探索系ファミリアとしてD以上とギルドに認定されたファミリアに定期的に下されるダンジョン探索任務。
Dに上がったばかりで早すぎるような気もしないではないが、以前、【ヘスティア・ファミリア】がウィーネを20階層の『隠れ里』に送り届けた際と同じように『強制任務』に拒否権はない。
【ヘスティア・ファミリア】の公式到達階層は20階層。普通に遠征を行うなら21階層を目標とするのが順当だ。
中層後半である21階層の到達基準はLv.2上位。Lv.2なりたてとは言え一芸に秀でたヴェルフや命、何よりLv.4となったベルがいる以上、そう難しい階層ではない。
そう結論づけて準備を進める内に【ミアハ・ファミリア】、【タケミカヅチ・ファミリア】に加え、春姫の姉貴分であるアイシャも加わることとなった遠征。
命は千草たちとともに武神であるタケミカヅチによる鍛錬を受け、ヴェルフは遠征に向けて新たな武具の作成に取り掛かる。春姫はアイシャから渡された魔導書によって得た新たな魔法を使いこなせるよう努力している。
そして、リリルカは─────。
「それにしても遠征、ですか···················」
皆の前では強がったけれど、20階層以降の適性レベルはLv.2、それも後半。
ベル様やヴェルフ様、命様のように戦えないLv.1の私では足手まといにしかならないことは目に見えている。
これまでのダンジョン探索では曲がりなりにもサポーターとしてそれなりの年月をダンジョンに潜ってきた経験と知識でベル様の戦い以外の部分をカバーすることが私の役割だった。
でも、中層後半や下層は違う。
古巣である【ソーマ・ファミリア】にはそんなところまで潜ることのできる冒険者はいなかった。
正確には潜る気概と実力を兼ね備えた冒険者はいなかった、というのが正しい。
ステイタスだけで言えば団長であるLv.2のザニスあたりは別派閥と合同で潜ればいけないこともなかっただろうがあれは小金稼ぎにしか興味のない男だった。
そんなわけでサポーターとしての私は中層前半でもギリギリだったが後半や下層に関しては潜った経験どころか知識すらない。
知識自体は調べることでいくらでも補填できるかもしれないがなら、そんなものわざわざ私である必要はないのだ。
春姫様のような飛び抜けた一芸もない私は遠征に同行したところでなんの役にも立たず、それどころか足手まといにしかならないだろう。
上層のモンスターの討伐すらままならない私はおそらく、環境とモンスターに対応できずに危機に陥りそれでまたベル様に助けられるのだろう。
そんなわかりきった事実に押しつぶされそうになり、私は買い出しの途中、ベンチに座り込んでしまった。
そんなとき。
「お、リリルカ・アーデか。どうした、そんな暗い顔して」
「義兄様·····················」
「─────なるほど、ミッションか」
「はい、私じゃ足手まといにしかならないんじゃないかって························」
落ちついて話そうと案内され、入ったオラリオ南西の隘路の先に建つ喫茶店、『ウィーシェ』。
エルフ御用達の瀟洒な喫茶店。その雰囲気と紅茶の香りに少し落ち着きを取り戻してベル様たちには話せない悩みを告げる。
ベル様のサポーターとしてこれまで通り力になりたいこと、しかし下層には潜った経験も使える知識がないこと、遠征に自分がいても役に立たないだろうこと。
目の前の義兄は真剣に聞いてくれた。
目上の男性にこうも簡単に悩みを打ち明けられるなんて、本当にベル様たちと知り合ってから私を取り巻く環境は変わってしまったと思う。
私が全てを話し終えると目の前の義兄様は少し考え込み込んだ後、口を開いた。
その口調はいつもの気さくなものではなく、どこか重々しかった。
「························まあ、自覚してるなら、はっきり言ってやろう」
「─────リリルカ・アーデ、お前に冒険者としての才はない」
「っ」
当代最強、Lv.1の自分では足元どころか影すらも見えない人界の怪物たる第一級冒険者の頂に君臨する世界最強の眷属。
間違いなく歴史に不世出の英雄としてその名を残すであろう最高の冒険者に改めて突きつけられた無慈悲な事実にわかっていても身を固くしてしまう。
いや、そうなのだ、ベル様たちと知り合うずっと前からわかっていたことなのだ。
私はベル様や目前の英雄と違って
才能はからっきしで、勇気も気概もなければ根性もない。もはや悔しさすらも忘れてしまった。
私はベル様やヴェルフ様、命様のような『冒険者』にはなれないのだ。
ただ、もう、ベル様たちとともに戦えないということを自覚してしまうと······························。
「だから開き直れ」
「開き、直る?」
義兄様の言葉に私は思わず聞き返す。激励でも嘲りでもなく、義兄はただごく当たり前のことを告げるかのように言葉を続けた。
「ああ────お前ははなから戦わずに、アイツらを『勝たせろ』」
ベル様たちを勝たせる? それはどういう·················?
「戦うものとしての才は絶無だが、見るもの·························お前の『指揮官』としての才はフィン並みだ、それを活かせ」
「指揮官·························」
たしかに、前に出て戦えない私は結果的に指揮官のような役割となっているフシがあるが、それは成り行きでそうなっただけで··············。
個としての武においても第一級冒険者でも間違いなく最上に立つ一族の英雄、七年前の大抗争での指揮でも知られる『勇者』と比べられるなど笑い話にもならない。
「向こう見ずに戦って戦果を出せるのは極一部だ。的確な指示はパーティの生存率をあげる」
「お前が望むなら俺がお前に『指揮官』としてのイロハを叩き込んでやる」
「義兄様が──?」
『義兄様に指揮官としての能力はあるのか』、そんな失礼な考えが浮かんでしまう。
義兄様─────『剣聖』アル・クラネルがオラリオ最高の冒険者だというのは紛れもない事実だ。
しかし、その名声と実績はその異次元の強さを由来とするのものであり間違っても指揮官としての能力にまつわる逸話があるわけでもない。
無論、都市最大派閥である【ロキ・ファミリア】の幹部なのだから、指揮能力も人並み以上に高いだろうことは想像に難くないが義兄様の指揮能力に係る逸話など私は聞いたことも見たこともない。
そんな私の内心を見透かしたように義兄様は不敵に笑った。
「安心しろ、フィンほどじゃないが冒険者としての基本的な技能は大抵修めている、お前を『それなり』にするくらいはわけないさ」
「流石に初見の相手ヘの即興の指揮なんかはまだ早い、やるなら当分はアイツらの『専属』としてがんばんな。················で、どうする? やるなら付き合うぞ」
「〜〜〜〜っ、はい、お願いします!!」
『専属』、そんな何気ない言葉がどれだけ私の背中を押してくれたかこの人はわかっているのだろうか。
ベル様が憧れ、目標とするのもわかる。この人の、当代最高の冒険者の時間を貰うのだ。
弱音なんてもう、吐けない。
ベル様に、この人に報いるためにも私は─────
「ところで、義兄様呼びやめてくれない?」
「嫌です」
「いや、でも」
「ヤです」
「あっ、はい」
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・リリルカ
十二分に安全マージンとった上で怪我一つ負わせずに地獄を見せられた。19〜50階層はレフィーヤ共々白髪バカに担がれて高速で降りていったためよく見てない。てっきり座学だと思ってたら想定以上にめちゃくちゃだった。
・レフィーヤ
フィルヴィスと白髪バカのせいでメンタルがかなり固くなってきてる。
・【ロキ・ファミリア】
異端児うんぬんに関しての意思統一はまだこれから。
・ベル
使い勝手クソ悪オリジナルスキルはギリギリまで超悩んだ上で発現。
・白髪バカ
天から百物くらい掠め取った代わりに一番大事な才能とられた敗北者。
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