皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
学区編書きてぇ·······
アイズはその日、あてもなくフラフラと街を彷徨っていた。
何も考えられない、何も考えたくない。
ただ、街を彷徨う。
地上に現れたモンスターへの恐怖に未だ震える民衆、結局振るわれることもなかった武器にため息を落とす冒険者たち、騒動が終わってしまったとがっかりと肩を落とすふりをする神々。
誰も、何も、かもが煩わしく、目に映るもの全てから逃げ出したかった。
そしてそんな気力すらないままに、ただ、彷徨い続けた。
ただぼやぼやとした意識のまま、どこを歩いているかもわからぬままに。
聞いた。聞いてしまったアルと『静寂』のアルフィアとの関係。
確かに言われて見れば似ていなくはないだろう。七年前のことでそこまで 事細かく覚えているわけではないけれどその鮮烈なまでの強さ、 そして何よりその目。
アルの目とそっくりな、全てを諦めたような、それでいて熱いまでの力強さを宿す昏い目。
絶望と失望を識る者の目。自分に似て、それでいて決定的に違うその視線が恐ろしかったことだけは強く覚えている。
彼女が、人類の英雄たる【ヘラ・ファミリア】の生き残りがオラリオの冒険者に対して牙を剥いた理由は識っている。
──────『隻眼の黒竜』を討つ英雄を見出すためだ。
神の眷属の到達点とまで言われた【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】。
フィン達が言うには今の【ロキ・ファミリア】でも到底及ばない最強の派閥、それがたった一匹の黒竜になす術なく蹂躙された。
それに絶望と怒りを覚えた神の眷属の生き残りたる彼女は、その黒竜を倒せる英雄を求めた。
彼女はいつか来る黒き終焉にオラリオが、ひいては人類が絶望して折れると識っていた。
だからそれを覆せるだけの存在を探していた。
そのために全てを捨てたのだ。
全てを捨て去り、世界に二者択一を迫った。
自分たちに負けて地上にモンスターが席巻する古代へと回帰するか、自分たちに勝って自分たちをも超える英雄となるか。
─────私たちは勝った。
【ゼウス・ファミリア】の『暴喰』────『陸の王者』ベヒーモス討伐の立役者であると同時にその毒によって余命幾ばくもなかった男は『猛者』によって沈んだ。
【ヘラ・ファミリア】の『静寂』────『海の覇者』リヴァイアサンを討ち取った張本人であるもののその時使った魔法の反動によって自ら抱えていた病魔に死の寸前まで蝕まれていた女は火に巻かれて消えた。
だが。
まだ、彼ら彼女らを超える英雄は産まれていない。
『猛者』くらいだろう、その領域に届いたのは。
そして、もう一人。
「··································································································································································································································································································································································································································································アル」
たった四年で彼女を、『静寂』を越えた当代最強の冒険者。アイズが憧れた憧憬の英雄。
私と同じ『昏い目』をした、私よりも強い熱を秘めた少年。その目のまま、その熱を冷ますことなく走り続けてきた青年。
その背中に嫉妬して、憧れた。
だから追いかけた。いつか追いつきたかったから、いつかまたその隣で戦いたかったから。
「·····················」
私は深層で例の新種と女体型に初めて遭遇した遠征の帰りにベルをミノタウロスから助けたあとの【豊穣の女主人】で行われた遠征帰りの宴までアルに弟がいることを知らなかった。
もとより、自分のことを話すタイプではないし私自身も自分の過去から他人へ踏み入った話を聞くのは躊躇していたのもある。
唯一、アルの家族のことで知るのは両親が──私と同じように──既になくなっていることだけであり、そこにある種の親近感を持っていた。
だから、自分と同じ天涯孤独だと思っていたアルに家族がいた事に嫉妬や裏切られたという昏い感情がなかったといえば嘘になる。
だが、それ以上に喜びの方が強かった。そして、嬉しかった。
アルが私と同じ、天涯孤独の身の上ではなかったことに、その弟と仲良くやっていたことに。
あぁ、でも。
『母親』
『──────に、なるかもしれなかった女性、と言ったところか』
『··············まぁ、今となっては死んだ母親の姉ってだけだよ』
『言葉を交わしたのも共にいたのも彼女が死ぬ··········死にに行く前のほんの少しの間だけだったしな』
手が震えた。
あれからどうやってホームに戻ったか覚えてすらいない。
モンスターへの怒りも『異端児』への嫉妬も全てが掻き消え、ただただどうしようもないくらいの昏いモノが胸中を支配した。
ホームに戻ったレフィーヤやティオナが何かを言っていた気がするけれど何も覚えていない。
気づいたら、自分の部屋でぼんやりと天井を見つめていた。
涙すらでなかった、涙を流す資格もなかった。
寒かった。
ただただ寒かった。
いつものホームの部屋が凍えるほどに寒かった。
声も上げずに涙も流さずにただただ震えて、震えて。
そして私は、逃げた。
アルと顔を合わせるのが怖くてホームから逃げた。
「··························································································································おかあさん」
奪われた者の、届かなかった者の熱を秘めた『昏い目』。
私がアルに親近感を覚えたその根源はそれだった。昏いながらも全てを焼き尽くすような強い意志をも秘めた紅い瞳。
あの目で見られるのが怖かった。
あの目で見つめられるのが怖かった。
─────私と同じ復讐者の瞳をなにより恐れた。
私はモンスターに憎しみを持つはずのアルが『隻眼の黒竜』を討つためとはいえ紛れもないモンスターである『異端児』と手を組んだことに対して理解できないと、間違っていると思っていた。
なんてことはない。
アルにとってそれはもう、
世界を救うために私たちに殺された肉親とその肉親を殺したにも関わらず未だその域に達さない私たち。
モンスターを憎んで『剣』を執った私。
モンスターと手を組んででも世界を救うしかないアル。
その絶望と憎悪は、私よりも深くて昏くて、理解の外だ。
だから私は逃げたのだ。
アルのあの目を正面から見てしまえばきっともう私は折れてしまう。
ぐるぐると、纏まらない考えが頭の中で巡る。
「どんな、気持ちだったの··················?」
あの時からずっと思っていた疑問が口から溢れる。
四年間。四年間もの間、アルは【ロキ・ファミリア】の一員として私たちと一緒に戦ってきた。
苦楽を共にし、背中を預け合い、時には諍いもして、それでも一緒に戦ってきた。
その時間の中でアルは何を思って私たちと過ごしてきたのだろう。
──────私なら無理だ。
おかあさんとおとうさんを救うために、二人を奪ったモンスターに復讐するために『剣』を執った私なら。
その怒り故に、剣から手を離すことができない私なら、きっと耐えられない。
憎悪を隠せない、怒りを鎮められない。
私とリヴェリアとガレス。
自分の肉親の最期に立ち会った私達をたったの三年足らずで追い越してしまったアルは、何を思って私たちと過ごしてきたのだろう。
その才能と力に嫉妬する私を心の中でどんな目で見ていたのだろう。
アルのことが私にはわからない。
その昏い瞳に何を映していたのかもわからない。
『隻眼の黒竜』に両親を奪われてモンスターを憎む私。
【ロキ・ファミリア】に母親になるかもしれなかった肉親を奪われてなお、『隻眼の黒竜』を討つ為にその憎しみを飲み込んできたアル。
その四年間を想像して私はどうしようもなく怖くなった。
これまでの四年間は嘘だったのか、なんて言葉は口が裂けても吐けない。
私たちと過ごしたあの時間は噓ではない、そんなことはわかっているのにアルの昏い目がどうしようもなく怖い。
これまでモンスターに対してのみ向けられていると思っていたあの紅い瞳が、私たちにも向けられていたのかもしれない。
そう考えただけで今も体が震えてしまう。
アルは憎しみの精算よりも実利を、『隻眼の黒竜』を討つことを、世界を救うことを優先した。
私は何も知らなかった。
知ろうともしなかった。
ただ、憧れて追いかけていただけだったのだから当然と言えば当然だけれど。
一年足らずでその背中しか見ることのできなくなったアル。
その背中を追い続けた私。
そして、その背中すら見えなくなりつつある私。
私は、何なんだろうか。
憧れたはずの背中に追いつけず、それでも追いかけ続けることしかできない私は一体何なんだろうか。
わからない。何もわからない。ただ、怖い。
アルが何を考えているのかも、何を思っているのかもわからなくてただただ怖い。
少し前の会話を想起する。
あれは確か59階層で精霊の分身や赤髪の怪人と戦う遠征に向かう前の前の会話だっただろうか。
『なんで、アルは剣をとったの?』
24階層での戦いに【ヘルメス・ファミリア】に同行する形で参加して負傷した覆面のエルフが店員として働いている酒場でその穴埋めのためにアルが働かされていたその日の夜。
日もとっくに落ちた肌寒い街のベンチに二人で腰掛けながら私はアルにそう聞いた。
『私が、剣をとったのは────モンスターに奪われたおとうさんとおかあさんを取り返したかったから』
私にとって強くなりたいなんて思いはその理由に付随したものでしかない。
それを自分の他に知るのはリヴェリアやフィン達だけだろう。私の両親はモンスターによって奪われてしまった。
だからこそ、私は強くならなければならない。いつか必ず両親の仇を討つために、いつか必ず両親を取り返すために。
なら、アルは、私以上に強さを求めてきたであろうアルは一体なぜ?
それが知りたかった。
『理由、か。どうしても見たいものがあった。それを見るためには強くならなくてはいけなかった、ただそれだけだ』
いつもと変わらない無表情でつまらなそうに言う姿は、私にはどこか寂しげに見えていた。
その寂しげな横顔を見ていられなくなって思わず肩を寄せたのを覚えている。
そして、私は聞いたのだ。
『······その、見たいものが見えたあとでいいから』
あの時、脳裏に浮かんでいたのは父と母の姿。何年も秘めてきた思いを打ち明けたあの時。
『アルは、私の英雄になってくれる?』
私にとって英雄とは、物語の中にしかいない存在だ。現実には助けてくれる英雄なんているわけがない。
それをわかっていたからこそ、私は自分の手で剣を取ることを決めたのだ。
だが、今は違う。アルは、確かに自分を助けてくれた。そして今もなお、こうして隣り合って座っている。
そう、思っていたから願った。
『いつか、お前だけの英雄に巡り会えるといいな』
おとうさんが言ったそんな言葉を思い出した。
それはきっとこの事だったんだ、と私はやっと本当の意味で英雄に出会えた気がしていた。
『親代わりの爺は俺に英雄になれと常日頃言っていたが、俺は多くのために戦う英雄なんてものにはなれないし、なりたくもない』
『─────ただ、そうだな。お前一人くらいの英雄なら考えてやる』
そう私に笑いかけてくれたアルはあの時どんな気持ちだったのだろうか。
『英雄』はいつまでたっても現れない。だから私は自分で剣を執って戦い続けた、そしてそんな私の前に現れた『英雄』がアルだった。
──────アルを救う『英雄』はまだ現れない。
私の中から何かがこみ上げてきて、視界が滲んだ。
「···················································································································································································································································································································································································································································································································································ごめんなさい」
何に対しての謝罪かは私でもわからない。
ふらふら、と。
私はホームを飛び出した時のようにまた当てもなく彷徨うかのように歩き出した。
西日が差し込む黄昏の大通り。
まだ、『異端児』と【ロキ・ファミリア】による戦闘の跡が色濃く残った迷宮街ダイダロス通りが存在する区画。
その区画の一角にある墓地、『第一墓地』。
冒険者墓地とも言われるそこにたどり着いたのは偶然かそれとも無意識にか。
私はその墓地に足を踏み入れた。
ダンジョンや 派閥同士での抗争の中で命を落とした者達の埋葬地。
七年前の大抗争で命落とした冒険者の大半もこの墓地に埋葬されている。
「あ·······································」
七年前に死んだ【ロキ・ファミリア】の団員の墓標の前でうずくまっていると先客がやってきた。
濡れたような艶のある黒髪に、病的なまでに白い肌。
そして何よりアルと同じ赤色の瞳を持ったエルフの少女。
「お前は·············『剣姫』」
「フィルヴィス、さん··············」
アルの元相棒であり最近はレフィーヤと仲がいいらしいエルフの魔法剣士、フィルヴィス・シャリアは私の顔を見ると一瞬驚いたような表情を浮かべたあと、すぐに澄ました貌に戻った。
「··························こうしてお前と二人きりで会うのは、初めてだな」
「はい··························」
正直に言って今私は人と話せる気分ではなかった。場合によっては 話しかけられたとしても無視していたかもしれない。
けど、なぜか彼女だけは無視できなかった。話したことなど殆どないというのに。
無意識のうちに、私とどこか似た何かを感じたのかもしれない。
そしてやはり、彼女の瞳にも昏い感情が宿っているように思えた。
だが私と違ってその色はより黒く見えた気がした。まるで深く煮詰めたような底の見えない黒だ。
「花を手向けに来たのか?」
「いえ·············私は、違います。貴方は?」
どこか鏡を見ているような、そんな気分になった。だからだろうか。私は彼女にそう問いかけていた。
彼女は私の問いかけに少し逡巡した様子を見せたが、やがて口を開いた。
「私も違う·············私が来た理由は『謝罪』だ」
昏い、昏い瞳だ。
その目は私を見ているようで、見ていない。まるで、ここにはいない誰かを想っているかのような目だった。
私は彼女の瞳に見覚えがあった。それはアルが時折見せるものと同じ色をしていたから。
そして彼女は言ったのだ。
謝罪に来た、と。
誰に対してかなんて考えるまでもないだろう。この墓地に眠る、彼女が救えなかった仲間に対しての謝罪だ。
「··························『剣姫』、お前は恐怖を抱いたことがあるか?」
「恐怖······················?」
フィルヴィス・シャリアはどこか遠くを見るような目で私にそう言った。
恐怖、それは冒険者がダンジョンに挑む上で必ず付き纏うもの。モンスターと相対する時、ダンジョンの悪意に遭遇する時、階層主と戦う時。
そのどれもが恐怖だと言えるだろう。
だが、彼女どういうそれはそういった意味ではないのだろう。
この質問の真意を計りかねていると彼女は続けた。
「自分という存在が取り返しのつかない過ちを犯してしまうかもしれないという恐怖だ」
「········································································································」
心の内を見透かされたかのような言葉に思わず押し黙ってしまった。
そんなもの常に感じている。抱いていないはずがない。
「自分は何も救えず、あまつさえ大切なものを巻き込んでしまう··························そんな『恐怖』を抱いてしまった時お前はどうする?」
私と同じ奪われた者の瞳。そして、同じ恐怖を抱く者の瞳。その二つの視線が私を射抜く。
私は何も答えられなかった。
ただ、彼女の昏い瞳に吸い込まれるように見つめ返すことしかできなかった。
「···························································································おかしなことを聞いたな、すまなかった」
「··············································································いえ」
彼女はそう言って、私に背を向けて歩き出した。まるで自問自答のようなその問いの答えを探すように。
私は、彼女の背中が見えなくなるまでただ見つめ続けた。
そして、一人になった墓地で私はまた膝を抱えた。
彼女は私と同じだ。
彼女もまた自分の中の恐怖と戦っている。そして、その答えが出せていない。
アルは私たちとは違う。
彼はきっともうすでに自分の中の恐怖を克服したのだろう。
「···································私は、弱い」
アルは強い。私よりもずっとずっと強い。その強さが羨ましかった。妬ましかった。
だから私は彼に追いつきたくて、彼の隣に立ちたくて剣を振るい続けた。
でも、彼は私の遥か先を歩いていた。
もうとっくに見えなくなっていたのだ。
「·······っ」
また視界が滲んできたのを感じて慌てて目を擦るもそれは止まることなく溢れ出すばかりで、やがて堪えきれずに嗚咽となって口から漏れた。
「うっ···うぁ···っ」
私は、アルに追いつけなかった。それどころかどんどん離されていっている。
私に、アルを救うことはできない
「あ···るぅ······」
彼はもう私なんかの手の届かない場所にいる。そんな当たり前の事実が私の心を蝕んでいく。
アルは私たちを見限った。
アルは私たちとでは『隻眼の黒竜』を討てないと、そう判断した。
その事実が私の心を砕き、抉り取っていく。
痛い。苦しい。辛い。悲しい。寂しい。
そんな感情がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
寒い。怖い。一人は嫌だ。
冬の記憶が脳裏をよぎる。
あの、全てが終わった後の荒野で独りぼっちだったあの時を。
もう二度とあんな思いはしたくないと、私は必死に自分を抱きしめて震えを抑える。
それでも体の震えが止まらない。歯の根が合わない。体が震える。
夜の帳が下りて、黄昏の空から光が失われて暗闇だけが世界を覆う。
世界に一人取り残されたかのような孤独感が私の心を蝕んでいく。
静謐の月を見上げながら、私はただ泣いた。
「····························································································································································誰か、私を助けて」
こんな時にも自分が救われることを求める私自身に心底嫌気がさした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なぁ、助けてほしいんだけど聞いてもらっていいか」
「····································ぶん殴りますよ」
医療系最大手【ディアンケヒト・ファミリア】のホーム。
治療院としての側面も持つそのホームにほぼ顔パスで当然のように入ってきて開口一番そんなことを宣う自分勝手の化身に『万能者』を彷彿とさせる疲れた表情を浮かべたアミッドはその疲れを吐き出すようなため息を吐いた。
こちとらお前のいつ来るかもわからないモンスターを治療してほしいという頼みを果たすための待機時間、つまるところアミッドがホームを離れていた間の埋め合わせをするためにどれだけ苦労したか。
ようやくそれも一段落して、そろそろ一眠りするかと自室に戻ったのに、この馬鹿は。
アミッドはアルに向き直る。
その眼には怒りと呆れと、少しの困惑が宿っていた。
それはそうだ、この少年に振り回されるのはここ最近で四度目だ。
昔に比べれば頻度はだいぶマシになったがもうそろそろいい加減にしてほしい。
そんなアミッドの心情など知ったことかと言わんばかりにアルは話を続ける。
「ウチのヒーラー連中··························つっても一人だがそいつを鍛えて欲しくてな」
「···········································無理を言わないでください。私に【ロキ・ファミリア】以上に何ができると?」
前衛とは比べるものにならないほど後衛の師弟は少ない。鍛えると簡単に言っても神の恩恵の性質上、全く同じステイタスを持った人間は存在しない。
同じ血統で似た環境にいたとしてもほんの少しの差異が、大きな隔たりになる。
魔法やスキルの効果が違う以上、同じ後衛でも互いの魔法に対する感覚と認識が全く違うことも珍しくはない。
アミッドもまた、都市最高のヒーラーとして少なくない数のヒーラーの手ほどきをしたことはあるが師匠と言われるほどのことはしたことがない。
何より同じ派閥の者ならいざ知らず、他派閥のそれも都市最大派閥の団員を鍛えろというのは無茶が過ぎる。
魔法やスキルなどの個人の特異性から外れた普遍的な技術。詠唱速度の向上や並行詠唱、魔力暴発の抑制や集団戦での立ち回りなど。
アミッドが知る限りの技術は教えることができるがそんなものは都市最大派閥であり、都市最強の魔導士を擁する【ロキ・ファミリア】の組織的な教育にはどう考えても及ばない。
「あぁいや、そういうのは別にいいんだが、例の呪いを解呪できるやつが俺たち以外にも必要だなと思ってな」
「·········································それはそうですがそれこそ鍛えたからと言ってどうにかなるものではありませんよ」
クノッソスでの戦いから何度も検証したが自身の魔法であの呪いを解呪できるのはアミッドの他には目前の馬鹿しかいない。
他人を鍛えてどうにかなるならアミッドはとっくにやっている。
「呪いへの抗体」
ぴくり、とその単語にアミッドの眉が動く。
「俺がそうであるように一度あの呪いに晒されたものは少なからず抗体があるんじゃないかと思ってな、少し試した」
アルは懐から小さな小瓶を取り出し、アミッドに手渡す。その小瓶の中身が何であるかを察し、アミッドは顔を引きつらせた。
いや、まあ、アミッドやアルも自分でやっている血から作ったポーションなのだろうが。
「あいつ···········リーネもベートの影響ってわけでもねえが強くなることを望んでるわけだし、そこら辺のカバーはさすがに俺じゃできねえからな」
ベルやアステリオスのように理不尽の経験と不条理の場数を踏ませるためにひたすら血反吐を吐かせてどうにかなるならそれは別だが、とアルは付け加える。
レフィーヤやリリルカのように絶え間なく驚愕と戦慄で常識をボロボロに壊して無理やりにその器を開けさせていろんなものを叩き込むのも耐えられないだろうとも付け加える。
確かに、今後の戦いを考えればほんの少しでもあの呪いに抗う可能性があるのならば試す価値は十二分にある。
「ふーーー·········· なるほど、一理ありますね」
「だろ? だからお前が見といてやってくれ、俺はちょっと用事があるから帰るわ。リーネには明日あたりここに来るように言っとく」
「·····························································は?」
「じゃあの」
アミッドの返事を待たずにアルは立ち上がり、そのままアミッドの自室を出ていく。
その背中を呆然と見送ったアミッドは手の中の小瓶を見て大きくため息を吐いた。
「本当にいつも自分勝手ですね·····································」
そうぼやきつつもその口元が緩んでいることに彼女はまだ気づいていなかった。
「あっ、そういや忘れてたけど近いうちにベルが大怪我してここに担ぎ込まれてくるかもしれないからその時はよろしく」
「················································································································································································はぁ」
「あっ、あと俺が今作ってる魔道具の素材に使いたいから血と髪の毛、ちょっとちょうだい」
「···············································································································································································」
ぱんちした。きっくもした。
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▼アミッドの聖女ぱんち!!
▼こうかはばつぐんだ!!
▼アルは倒れた
・アイズ
情緒ぐちゃぐちゃになってるけど今回の件に関しては割と傷浅いまま終われそう。
・フィルヴィス
片割れは今も魔石食ってる。
・アミッド
作中最大級のアルの被害者。
・アル
嫌われるより好かれる方が色々めんどくさいヒモ。
曇らせスルー二度目にまだ気がついていない。
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