皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
リヴァイアサンのドロップアイテム製の武器あんのかー。
本編でベヒーモスとか黒竜の鱗製のが出てきたらどうしよう。
あとバルムンク安すぎたわ、しれっと上げていいかな。
「────僕は、例の喋るモンスター············いや、『異端児』達と手を組む事を選んだ」
「「「「「──────────ッ!!」」」」」
ダイダロス通りを発端にして始まった地上におけるモンスターの出現騒ぎの終息から数日。
民衆にとってまだまだ記憶には新しく、モンスターへの恐怖も『剣聖』への不信感もぬぐえてはおらず様々な憶測が飛び交う中で渦中の人物である『剣聖』が所属する【ロキ・ファミリア】のホームではその団員たちが一堂に会していた。
しかし、その場の空気は張り詰めた緊張感で満たされている。一触即発とまではいかないが、いつ誰が爆発してもおかしくはない。
その空気を作り出している要因は二つ。
一つはこれから交わされる議題が一歩間違えばファミリアの解散どころか都市の運営そのものにも影響が出る特大の『地雷』であること。
そしてもう一つが、この場にいるほぼ全員の視線を集める人物にある。
その青年こそ、つい先日まで都市を騒がせていたモンスター騒動の中心人物であり、現在はオラリオでもっとも民衆からのヘイトとアマゾネスと一部のエルフから謎のギャップ萌えを集めている男、アル・クラネルである。
曲がりなりにも数十を超える上級冒険者の強い感情のこもった視線にさしたる反応を示さず、どこ吹く風といった様子で黙して座っている。
そんな行き場のない複雑な感情を抱く団員達の空気を小人族の団長の一言が切り裂いた。
【ロキ・ファミリア】ホーム、 『黄昏の館』の大食堂。
その長い部屋の最奥、上座に立つ
フィンのその口調は普段と変わらず、淡々としたものだった。
だが、その内容はその場にいる全ての団員に衝撃を与えるに足る。
誰もがその言葉を受け入れられず、放心するように固まっていた。しかしそれも無理はない。なにせその言葉は常軌を逸した内容であり、決して許されるものではなかったからだ。
一瞬の静寂の後、動揺がどよめきとなって広がっていく。口々に飛び交うのは、否定の言葉と疑問の嵐。
ファミリアを象徴する道化師のエンブレムの両隣に立つリヴェリアとガレス、そのほど近くの席に黙して座るアル。
ファミリア首脳陣とファミリア最強戦力の姿にこの発言はフィンの独断ではなく、既にファミリア幹部の総意であることを示している。
既に事情を知る妖精部隊とアル、そして意外にも平静なベート以外の若手幹部及び幹部候補のアマゾネス姉妹やアキ達も激しい動揺を顕にし、そのざわめきが収まる気配はない。
そんな彼らの反応は当然といえば当然だった。
オラリオ───否、世界にとってモンスターは古代より変わることのない人類の大敵であり、数多の悲劇を作り出してきた。
この場に集まる者の中に家族や恋人、友人を目の前でモンスターに殺された経験を持たない者は少なく、大穴がオラリオという蓋に塞がれて千年経った今も残る悲哀と憎悪は計り知れない。
故にそんなモンスターと手を組むというフィンの言葉はオラリオの冒険者にかかる責務の重さを知る古参の団員ほど強い否定の意思がこもる。
無論、数日前ダイダロス通りでアルが語った通り『異端児』が通常のモンスターと違うのは心情はともかく頭では理解している。
しかしそれとこれとは話が別だ。
彼らはモンスターを憎んでいる。それが家族を奪ったものであるならばなおさらである。モンスターと手を組むなど、そんな意見を受け入れられるはずもなかった。
そんな彼らの心情を察しつつもフィンは
なおも言葉を重ねた。先ほどと同じく淡々とした口調は努めてそうしているのではなく、この内容に感情を交えない方が上手く伝わると理解しているからだろう。
団員達が挙げる糾弾にも近い詰問を一つ一つ受け止めながら、その一つ一つに弁明もなく正面から答えていく。
『正論』や『詭弁』に逃げず、オラリオに生きる冒険者として、一人の人間としてのフィン・ディムナの想うところを。
主神至上主義の美神派閥と違い、『勇者』という絶対の旗印のもと都市随一の結束と規模を誇る【ロキ・ファミリア】にとってはこれまでになかった叛意にも近い団員達の強い反発。
討論や話し合いではなく意思の共有と統合を目的とした『儀式』。全ての団員達の顔をしっかりと見据えながら誠実に話をする。
そして、フィンが語り始めてからおよそ半刻。長い長い論の末、ようやくその全てを吐き出した団員達は沈黙する。
その静寂の間を縫うようにフィンは口を開く。
「────あの魔窟にひそむ闇の住人達に打ち勝ち、オラリオに平和を取り戻す。その為であれば僕は『罪人』にも望んで堕ちよう」
毅然。意志と覚悟を言葉の一つ一つに乗せ、宣言する。
一族の未来を想い、一族の今に対する強い反骨精神を抱く小人族の英雄が、誰よりも『栄光』を求めているはずの『勇者』が世界からの糾弾を恐れずに。
そのフィンの真摯な言葉は団員達の心に確かに響いた。今もなおオラリオに蔓延る闇に潜むモノたちの悪意から都市を護る、そのためにはどんな手段も厭わないという覚悟と意志がそこに確かに存在していた。
仮に『異端児』との繋がりが露呈すればアルと同じように、いやそれ以上の敵意と悪意で以てこれまでの名声を剥ぎ取らんばかりの糾弾が待っている。
フィンの『野望』を知っている団員達だからこそ、その団員達の硬い拒絶を揺らがせるその覚悟と意志に言葉を失う。
だが、それでもなお拭いきれない忌避感はある。
恋人の遺した指輪を静かに握りしめる只人、友の亡骸をその家族に届けた時の慟哭がまだ耳に残っている獣人、地図から消えた故郷に心を砕かれたエルフ。
モンスターによって奪われた、失った彼らには認められない。受け入れられるものではない。
「団長」
そんな彼らの心の機微を感じとったアキの腕が真っ直ぐ伸ばされる。団員達が抱く感情の淀みを断ち切るかのように。
そのアキの呼びかけに、フィンは頷きで応える。
「体裁や建前でもなく、団長ご自身は『異端児』のことをどうお思いになられているのですか?」
フィンの瞳を正面から見据えてその心の内に秘める想いに問いかける。そのアキの問いに対するフィンの答えは簡潔だった。
「利用、と言いたいが··············あえて『信用』と言おう。僕はあのモンスター達が信じるに値する存在だと、そう捉えている」
ここにきて『感情』を隠そうともせず、フィンはそうはっきりと言い切る。
「私達の中にはモンスターに仲間や家族、恋人を殺された者もいます。それを踏まえた上で『異端児』を信用できると······················?」
「そうだ」
フィンはアキの疑問を肯定する。団員達が、都市が、世界が抱えるモンスターへの憎悪と恐怖を理解した上で。
そのフィンの碧眼をアキはじっと見つめる。値踏みするかのような、何かを推し量ろうとするようなその瞳をフィンは正面から受け止める。
下の者が上の者に向けるその視線は組織に所属する者として当然の権利であり、団長としてフィンにはそれを受け入れる義務がある。
「··················わかりました。なら私は、これ以上なにも言いません」
髪と同じ黒色の瞳を閉じ、アキはそう静かに答える。恭順とまではいかないが、それでもフィンのその意思に一定の理解を示して黙した。
そんなアキの言葉を皮切りに団員達も一人また一人とその顔に納得の色を見せ始める。
数いる第二級冒険者でも限りなく最上級、【ロキ・ファミリア】二軍のまとめ役である彼女にはフィンやアルが向けられているものとはまた別の信頼がある。
そのアキが認めるというのなら、と団員達の感情は落ち着きを見せ始める。こればかりは幹部の誰もできない、一般団員よりのアキだからこそできる役割だ。
落ち着きを見せた空気に、黙していたアルがここで初めて口を開く。
「今回の件に関して、まずは謝罪しよう。今回、ここまで話が拗れたのは俺が独断専行で動いたことに起因する。すまなかった」
【ロキ・ファミリア】最強の男の謝罪に団員たちもたじろぐ。誰に言われることもなく幹部最年少のアルは都市の英雄であることも捨てて『異端児』の手を取った。
それに対して複雑な感情を持たない団員はいなかった。中には裏切られたと感じていた者さえいただろう。
そのアルが謝罪する姿に、団員達の心が揺れる。
認められないという感情と同じ程には強い寄る辺のない『異端児』へ手を差し伸べた憐憫や『黒竜』を討たんとする覚悟への理解が彼らの心を揺らす。
「『異端児』はその知性の高さと一部の見目から闇派閥残党と密通していた【イケロス・ファミリア】に何度も仲間を狩られていた。冒険者と『異端児』にとって闇派閥·········ひいてはこの都市の脅威は共通の敵だ」
フィンの言葉を補足するようにあくまでも感情ではなく理論でアルは己の想いを吐き出す。
「俺も何も無理に『異端児』に歩み寄れ、と言ってるわけじゃない。『異端児』がモンスターであることに変わりはないからな」
「ただ、そうだな·············
おそらくはこの場で最も冒険者というモノに求められる責務に近いものを抱いているアルは、そうはっきりと団員達に宣言した。
その────この場にいる団員の大半よりも若いアルの言葉に少なくとも表立っては反発の言葉は出なかった。
「─────この場はここで切り上げる。叶うなら、よく考え、よく話し合ってもらいたい」
「脱退の志願者がいるなら決して止めはしない、執務室まで来るように」と締めくくるようにそう言うとフィンはアル達と共に退室した。
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話が長いわ。
いつまで『異端児』の話してんだよ、嫌味か?
ただでさえフィンといるといつもとは違う意味で死にたくなるのに················。
次からは俺のいないところで頼むわ。
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窓から射す月明かりだけが静かに照らす部屋。物音一つしない静寂が支配するその空間でアイズは一人、寝台で膝を抱きかかえていた。
遠く離れた大食堂から聞こえる喧騒をどこか遠い世界の出来事のように感じながら、アイズは物思いに耽っていた。
部屋着のワンピースから覗く、その白い腕の素肌にはいくつもの赤い線が走っている。爪を強く食い込ませたその跡だ。
第一墓場でのフィルヴィスとの短い会話の後、ホームに帰ったアイズはティオナやレフィーヤ達に心配されたが、何でもないとだけ言って部屋に戻ってきた。
そして今に至るまでずっとこうして自分の考えに浸っていた。
自分の弱さ、不甲斐なさへの怒りと、アルへの恐怖に近い昏い感情に支配されながら。
睫毛を伏せ、ため息を一つ吐いてアイズは顔を起こす。
その時だった。
「入るぞ、アイズ」
コンコン、と静寂の中でやけに大きく響いたノックの音にアイズは驚いたように肩を震わせた。
そして、声の主に思い至ったアイズは返答もせずに顔を伏して、そのまま扉に背を向けた。
その反応は拒絶の表れだ。しかし、そんなアイズの態度などお構いなしとばかりに声の主であるアイズの母代わりのリヴェリアは扉を開けて部屋に入ってくる。
入ってきたリヴェリアにアイズは小さく、何の用だという意味合いを込めながら睨むような視線を向ける。
しかし、リヴェリアはアイズのそんな視線を意に介さずそのまま、寝台の上で膝を抱えたままのアイズの隣に腰を下ろした。二人分の体重をかけられたことでギシリと寝台が軋みを上げる音が静寂の中に響く。
そして、沈黙。
リヴェリアもアイズも何も話さない。ただ静寂だけが部屋を満たす中、先に口を開いたのはリヴェリアの方だった。
だがそれはいつもの小言や諭すような口調ではなく、どこか申し訳なさそうな声色だった。
「···················アイズ、迷っているのか」
だからだろう。いつものような小言やお説教が飛んでくると思っていたアイズは虚を突かれたかのように体を固くした。
それはまるで独り言のように、自分自身に言い聞かせているかのように、そして何より誰かに許しを乞うかのように弱々しげに紡がれた言葉だった。
だがその言葉を向けられた張本人であるはずのアイズはその意味が理解できず困惑する。
リヴェリアのその言葉の意味を、そして自分の心の中にある感情を探ろうとアイズは思考を巡らせる。
迷っている、迷い。
··············確かに、今のアイズの心の中はぐちゃぐちゃで、自分でもよくわかっていない。
アルが自分たちを見限って、もう手の届かない場所まで行ってしまったことへの怒りと悲しみ。そして何よりアルへの恐怖を
そしてそんな感情を抱いてしまう自分に対する自己嫌悪。そんな様々な感情が混ざり合って、その全てが負の感情となってアイズを苛んでいるのだ。
もはや、フィンの決定に異を唱えるつもりもなければ、ましてやアルの考えを否定することなぞできない。
だが、これからの【ロキ・ファミリア】で、これから『異端児』と行動を共にするであろう皆の中で『剣』を持たねばいけないのだ。
迷わないはずがない。
蹲り、ただ泣いていることしかできない。自分がそんな弱い人間であることを思い知らされた気分だった。
「·······················聞いていたのか?」
「───────ッ、!!」
なにを、とは聞かない。言うまでもない。
あの時、路地裏で【ヘラ・ファミリア】の『静寂』との関係についてアルにリヴェリアが聞いていたのをわざとではないにしろ盗み聞きしていたことを言っているのだろう。
なぜ気づかれたのかは知らないがリヴェリアに隠し事ができる気はしていなかったし、する気もなかった。
だからリヴェリアの問にアイズは無言で頷くことで肯定の意を示した。
「そうか············いや、あの後ホームに戻ったらレフィーヤ達がお前の様子が変だと言っていてな」
「··················」
「タイミング的にも、それを聞いたアルの反応的にもそうなのではないかと予想はしていたが·············まさか本当にそうだったとは」
「気づいていてなにも言わないアルもアルだな」と苦笑を零すリヴェリアにアイズは何も言えなかった。
自分が迷っていることも、アルに対する感情も全て見透かされているような気がし、気まずさを感じたアイズは顔を俯かせた。
リヴェリアもそれ以上は何も言うことなく、再び沈黙が部屋を支配する。
その静寂を破ったのはやはりと言うべきかリヴェリアだった。
「すまない、責めているわけではないんだ。ただ、お前が何に迷っているのか気になっただけだ」
「················私は」
そして、リヴェリアのその問にアイズはぽつりぽつりと語り出した。自分の弱さへの恐怖。アルへの恐れ。そして何より、そんな感情を抱いてしまう自分に対する自己嫌悪を吐露した。
ぐるぐると、胸の中で渦巻く様々な感情に翻弄されて自分自身が何をしたいのかがわからなくなってしまったこと。
誰にも吐けなかった弱音だったがリヴェリアには何故か自然と話すことができた。
そしてそんなアイズの言葉を聞き終えたリヴェリアはどこか悲しげな表情で言った。
「そうか···············そうだな」
静謐の月の光が窓から差し込む部屋でリヴェリアは静かに目を伏せる。そして、その双眸をゆっくりと開きアイズを見た。その瞳は慈しむような優しさと悲しさに満ちていた。
それはまるで子を見守る母のような眼差しであり、同時に同じ痛みを分かち合う同胞を労るような眼差しでもあった。
「リヴェリアは、平気なの?」
ぽつり、と。まるで独り言のようにアイズはリヴェリアにそう聞いた。
それは、自分の弱さへの恐れを吐露したのと同時に、リヴェリアもまた思うところがあるのではないかと疑問に思ったからだった。
いや、ないはずがないとアイズは確信めいたものを感じていた。リヴェリアもまたアルに対して、そして自分と同じようなものを抱えているはずだと。
なぜなら、アルにファミリアで最も近かったのは自分でもフィンでもなくリヴェリアなのだから。
そしてリヴェリアもまたそのアイズの確信めいた問いに痛みのような何かに耐えるようにして唇を引き結び、数秒の間の後にゆっくりと口を開いた。
「···················いや、平気ではない、な」
「···················そう、だよね」
当たり前だと、言うかのようにリヴェリアは応える。しかしその言葉にアイズは安堵していた。やはりリヴェリアも自分と同じなのだと。
傷のなめ合いですらないが同じ痛みと恐怖を抱える者が自分以外にいるのはどこか救いだった。
「·················だから」
「?」
「だからこそ、ちゃんと話さなくてはならない」
痛ましげな、それでいてどこか決意を秘めた眼差し。リヴェリアはアイズの目を真っ直ぐに見据えながらそう言った。
その言葉の意味がわからず困惑するアイズに構わず、リヴェリアは言葉を続ける。
「正直に言おう、私もアルと顔を合わせるのは怖い」
リヴェリアもまたアルとの対話を恐れる一人であった。だが、それはアイズのものとは異なる感情だ。
怖いとは言うもののリヴェリアが抱く感情は正しくは恐怖ではなく、後悔と罪悪感だった。
無力感と言い換えてもよかった。
かつての『覇者』を知るが故の己への怒りにも近い感情。リヴェリアもあの時代に於いてはオッタルやレオン、フィンほどではないにしろ敗北の泥と屈辱の苦渋をその身に刻んでいる。
そして、だからこそあの『覇者』達が敗北した『黒竜』への世界の絶望とその『覇者』達の代わりとなることを世界に求められている重さを痛いほどに理解していた。
その『覇者』の筆頭であり、
いや、アルがあの才禍の関係者であることは薄々ながら感づいてはいた。
瞬時の単発魔法に反則とも言える付与魔法、埒外の階層破壊級の極大殲滅魔法。
そしてなにより、一度見た技は模倣できるなんて抜かして実際にやって見せる意味不明な才。
逆に全くの無関係だったらヒューマンという種族の可能性に戦慄していたところだ。
しかし、それでも母親になり得たと言うほどの近縁───伯母と甥の関係であるなんて予想できるはずもなかった。
ロキにファミリアのママなんて揶揄られているからというわけではないが、足元から崩れ落ちかねないほどの衝撃を受けた。
そんなアルの肉親が最期を迎えた場に敵として立ち会ったのが自分である。
それを知ってか知らずかアルの、アルフィアとの関係を吐露した時の底冷えするかのような冷たい瞳と視線に射抜かれてリヴェリアは動くことができなかった。
そして、なによりも。
『─────ただ、そうだな』
『彼女の為にも、ってわけじゃないが
『っ、なにを?』
『────────世界を救う『英雄』を』
その重すぎる覚悟と決意に気圧されて、言葉が出なかった。
いつもとは違う一人称はアルの素なのかそれともその覚悟を抱いた時のものなのか。
四半世紀も生きてない少年が背負うにはあまりにも重すぎるそれにリヴェリアは息を呑むしかなかった。
そして、アルが去った後にリヴェリアはその重圧の丈を想い、静かに歯を食いしばった。
これまでリヴェリアはアルの強くならんとする目的が分からず、明確な理由があるアイズとはまた違った意味で危ういと思っていた。
その強さへの渇望も、自身への執着の無さも、そして何よりあの瞳の奥にある昏い感情が。
だが、違ったのだ。あれはただ強くなろうとしていたのではない。
あの苛烈にすぎる渇望は、挺身は、全てはただ一つの『悲願』のため。
なんのことはない。先日、ギルドの私兵の魔術師に「あいつはまだ、16の子供だぞ」と言ってアルを英雄視することへの不快感を露わにした自分、自分達こそがアルに『英雄』という重責を背負わせていたのだ。
何が、まだ子供だぞ、だ。
どの口でそんな戯れ言をほざいた、他でもない自分達こそがその立場に立たせておきながら。
リヴェリアは己の浅慮に、そして何よりこの七年でアルをその重責から救うことができなかった不甲斐なさに歯噛みする。
だが、それでも。いやだからこそ、今ここで自分が伏せるわけにはいかないのだ。
アイズの目を真っ直ぐに見据える。
それは覚悟だ。これから自分は自分の弱さと向き合い、そしてそれを乗り越えていかねばならないという覚悟。
だからリヴェリアもアイズと同じ痛みと恐怖を抱える者として彼女に向き合わなくてはならない。
リヴェリアはアイズの手を取った。その手は冷たく、そして震えていた。
だがそれはきっと自分も同じだとリヴェリアは浅く自嘲する。
もしアルに拒絶されたら?
もしアルに軽蔑の目を向けられたら?
そんな恐怖をリヴェリアも抱いている。だからその震えは決して気のせいではないし、それを否定するつもりもない。
でも、それでも。
「────だが、私もお前もアルとわだかまりがなくなるまで話さなくてはならない」
私達はファミリアなのだから、と噛み締めるように付け加えた。
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【それっぽいこと発言意訳】
・「俺に、世界は救えない」
意訳「だってその戦いの前に死ぬもん」
・「だがな···········俺じゃ駄目なんだよ」
意訳「最後の英雄=ベルとその愉快な仲間たちだもん」
・「お前達が英雄と呼ぶ俺に役割があるとすればそれはそんな選ばれなかった彼ら彼女らの一人一人を、この地上全てを『最後の英雄』へと押し上げることだ」
・「彼女の為にも、ってわけじゃないが僕は彼女の代わりに見出さなくてはいけない────────世界を救う『英雄』を」
意訳「いつ死んでもいいようにベルとかアステリオスとか強くしとかなきゃ」
【アルの外部から見た怒りや冷たい視線について】
時と場合によるがだいたい曇らせ失敗への感情の暴走。他者に対して怒ってる時は態度ではなく言葉か拳か剣で表現する。
多分、11章あたりでキレて剣で己を表現するアルが見れるかもしれない。