皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
割と難産、ちょっとしたスランプだったかもしれない
「────【
一筋の斬撃に収束された爆熱が視線を真横に切り裂きながら奔る。膨れ上がる灼熱、大気を炙る爆炎の火片が空気を食んで立ち塞がる全てを灼き斬るが如く、その威力を極限まで高めていく。
ベートとの一戦で完全にものにしたベルの奥義にして、彼の最強の一撃。
その威力は、中層や下層どころか深層に出現するモンスターすら両断しうる英雄の一撃と言うに相応しいまさに一撃必殺。
Lv.4へとランクアップしたことでより一層の鋭さと威力を得るに至った一閃、それが。
「【
真っ向から同質の焔斬に斬り伏せられる。炎を纏う斬撃が激突の余波で巻き起こる熱風と衝撃をも絶ち切って、ベルの放った一撃は跡形もなく消え去った。
その唖然とした光景に瞠目する暇もなく、硬直したベルへと次の『英斬』が襲い掛かる。
「【
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」
寸時のチャージに瞬時の解放。先の一撃程の圧は無い代わりに通常の斬撃と遜色ないタメと速度で放たれる射程を殺す飛ぶ雷刃。
先の一撃で硬直した体では回避も防御もままならない。雷を纏い飛来する斬撃がベルの全身へと吸い寄せられるように飛来し────寸前、割り込む影が一つ。
その人影、命はベルと斬撃の間に滑り込み、手にした得物を振り抜いた。
「絶華!!」
居合の要領で放たれた横一閃。その一閃はベルに直撃するはずだった雷を纏いし飛ぶ斬撃を、真っ向から打ち払う。
加減に加減を重ねられた一撃ではあるがLv.2の身でありながら遥かに格上の一撃を正面から防ぐという離れ業に衝撃が爆ぜる。雷の斬撃と居合切りが衝突し、かろうじて相殺には成功したが千切れた雷の余波がベルと命を吹き飛ばす。
「【サンダーボルト】」
「ベル殿─────くっ」
砂塵を巻き上げる爆風に煽られながらも命は未だ渾身の一撃の余韻に動けずにいるベルの腕を掴んで転がるように雷撃から逃れると、即座に追撃を警戒しながら後退する。
直撃を凌いでも撒き散らされる雷霆から逃げ切れずに全身を痛めつけられる。 無論、それらの魔法攻撃は致命傷からは程遠い手加減に手加減を重ねられたものだが、ダメージがなくとも痛いものは痛い。
攻撃速度こそベル達が死力を尽くせばギリギリ躱せる、ぐらいに抑えられているが発動速度はヴェルフのアンチ・マジック・ファイアが周回遅れになるレベルである。
ベルの好敵手であるアステリオスは一切威力を減退させていないものをガトリング砲の如く打ち込まれているのだからまだマシだろう。
戦慄、痛痒、畏怖。それらに彩られた感情を押し殺し、このままでは防戦一方だと戦況を打開する手を探す。
思考は回る、だが何手先まで読もうとも眼前の『化物』には及ばないと命の本能が訴える。
近距離戦では『技と駆け引き』で良いようにあしらわれ、遠距離戦では魔法や魔剣の一撃を真っ向から斬り伏せられて速攻魔法での反撃を受ける。
かといって中距離ではさっきのように距離射程無視の『英斬』がぽんぽん飛んでくる。遠中近の全てに対応できるオールラウンダーといえば聞こえは良いが命に言わせればただの怪物であり『化物』である。
「うおおおおおおおおっ!!」
「シッ──────」
高速戦闘の中で各自が各々の役割と判断を瞬時に行いながら立ち回り、戦える鍛冶師を自称するヴェルフの大太刀と短剣を逆に構えるベルの斬撃が十字に放たれるが、それも剣閃を滑らせるように受け流される。
流麗な型ではない、力と勢いに身を任せた二人の斬撃はそれでも並の冒険者なら反応できない鋭さを誇り、決まった型がないからこそ対応が難しいのだが当然のように見切られる。
移動系の魔法と見紛う歩法、そして先の先、後の先をとる間合いの把握、その二つを合わせた『技と駆け引き』が三人を追い詰める。
「【ファイアボルト】!!」
本来、対人では使うことのない魔法の使用に躊躇っていれば影すら踏めないと一切の躊躇いなく踏み切り、炎雷が幾条の螺旋を描きながら突き進む。
【英雄願望】の発動──寸秒のチャージを最後の一発のみに残し、それを悟らせないための火雷の乱発。
次々と火華を咲かせ、爆ぜては散る鮮やかなる光景とは裏腹にベルの内心は焦燥に燃えていた。
「【サンダーボルト】」
同じ種別、同じ性質の魔法、属性にこそ差異はあれどほとんど同じ魔法が正面からぶつかり合う。
後の先をとる雷撃がベルの魔法を真っ向から打ち破るが、それ自体はベルの予想通り。魔法を放つと同時に駆け出していたベルが、魔法を放った後の無防備な『化物』のその身に必殺の意気を宿して肉薄する。
最後の火雷が一際大きな爆炎を撒き散らして『化物』の視界を白に染め、その炎と煙を突っ切って、ベルがLv.4としてのステイタスを遺憾無く発揮し、その速度を更に上昇させる。
音速の壁すら突破する神速の一撃。
だが、それでも。
その程度は、見切れるとでも言いたげにベルの斬撃を容易く受け流し────直後、『化物』は己の失策に気付く。
ベルが手にしているのは神血のナイフではなく冷気を帯びた蒼い刃。今彼が手にしている得物はヴェルフが自壊しない魔剣を目標に『化物』から大量に横流しされた材料を元に試作した魔剣である。
爆炎に『化物』の視界が覆われた一瞬に持ち替えていた魔剣が光り輝き、その光がベルの魔力を汲み上げる。
蒼い魔力の激流が氾濫し、爆発的に膨れ上がる。それはヴェルフが魔剣に組み込んだ機構の一つ、使用者の魔力を加算して一撃を放つ始高ならぬ試高の魔剣。
「氷鳳!!」
至近距離で爆裂する氷華の一撃。下層どころか深層種すら一撃で屠り得る猛吹雪が爆炎の残滓ごと全てを飲み込み────。
「今のは、よかったな」
【レァ・ポイニクス】、と砕け散る氷柱から賞賛の声と共に損傷治癒と体力精神力供給の火衣がベル達へと届いた。
「兄さん、このあとどうするの?」
「ん、俺はそろそろ『お風呂の神様ケヒトの湯』のリニューアルオープンの打ち合わせあるから帰るわ」
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───────ガレイル・アラン
「大樹の迷宮」探索中、モンスターの大量発生に遭遇。からくもパーティは離脱するも、ガレイルは行方不明に。捜索求む。
───────マリッサ・スゥ
単独で探索をこなすLv.3の第二級冒険者。「20階層へ行く」と 主神に伝言を残し、その日の内に消息を断つ。行方を知りたい。
───────ヤサカ 左近
主にリヴィラで活動する上級冒険者。相場が高騰したドロップアイテムを探す中、失踪。目撃情報を求む。
「これが上級冒険者、『連続失踪事件』の資料か?」
【ロキ・ファミリア】の本拠である黄昏の館。
ほとんどの団員がクノッソス侵攻を前にポーションを始めとした物品の調達や他派閥への協力の打診などで出払っており、普段に比べればいくらか静かな館の中。
その執務室でフィン達首脳陣とロキはギルドから渡された資料に目を通していた。リヴェリアは資料に軽く目を通してから、フィンに手渡す。
「ああ。 資料といっても、各派閥からギルドに提出されている捜索願とギルドが把握している情報をまとめただけの簡単なものだけどね」
ここ数週間、最も死者や行方不明者の多い傾向にある上層ではなく ある程度の実力と経験を積んだ上級冒険者しか潜らない中層での行方不明が立て続いており、その調査と解決のためにギルドは【ロキ・ファミリア】に協力を要請したのだ。
「わからんな················こう言ってはなんだが、ダンジョンで死者や行方不明者が出るのは日常茶飯事だろう。なぜ、ギルドはそこまで敏感になっている?」
冒険者としてダンジョンに潜る生活を送っていて五体満足でその冒険者人生を終えられるものはそう多くはない。
ほんの一部の例外を除いて殺意を持ってこちらに襲いかかってくる多種多様なモンスター、同業者からの怪物進呈にアウトローからの闇討ち。
そんな物理的なもの以外にも時としてダンジョンという環境そのものが冒険者の命を奪おうと、その牙を剥いてくる。
ダンジョンでは常に死と隣合わせであり、人肉を食むモンスターと戦う以上ダンジョンで死体も残らずに死ぬのは珍しくもなんともない。
それなのになぜ今回に限ってギルドは敏感になっているのか? それがリヴェリアには不思議だった。
「君の言う通りだ、リヴェリア。だからこそギルド───いや、ロイマンも事件性及び関連性にすぐに気付くことができなかった。ここにある依頼の共通点············それは行方不明者が『全員生きている』ということだ」
「なるほど、主神による恩恵の反応感知か。·············迷宮で消えた行方不明者が今も生存し、更に類似した報告が十件以上も重なればそれは異常事態ということか」
途端にきな臭さが増したな、とリヴェリアは独り言ちる。冒険者に危険がつきまとうのはなにもダンジョンだけが原因ではない。
闇派閥がその良い例だが同業者を闇討ちする、あるいはダンジョン内でモンスターに殺されたように見せかけて殺害し、その装備やアイテムを強奪するなどの悪事に手を染めるものは特定されないだけで相当数いるだろう。
モンスターが相手であれば負けた時点でまず殺されるが人間が相手であればその目的次第では生かされることもあり得よう。
「ああ、故に『連続失踪事件』。ロイマンは嫌な予感を覚えたらしくてね、極秘裏に僕達【ロキ・ファミリア】へ依頼を出した」
面倒事は重なるものだな、と顔を見合わせた。
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黄昏時、ダンジョンから帰ってくる冒険者たちで賑わい始める都市を後目にいつにもなく静かなホーム。
作戦会議中のフィンたち以外はほとんどが他派閥への協力願いや魔剣などの消費アイテムの補充など次なる戦いへの準備にホームを出ていて私の他にはほぼほぼ誰もいない。
「···················すぅ」
すーはー、と扉の前で何度目かの深呼吸。意気込んで来たけどいざ、となると緊張か恐怖で足は震えそうになるし心臓の鼓動がうるさい。
珍しく、ダンジョンにもこもらず【ディアンケヒト・ファミリア】から戻ってからは自室で休んでいるアルに今しかないと部屋のドアをノックしようとするも中々踏ん切りがつかなくてかれこれ5分は経っている。
決心がつかない。リヴェリアに言われて気合を入れてきたけどいざ直前となると怖じ気づいてしまう。
でもいつまでもこうしている訳にもいかない。この機会を逃せば忙しいアルとまともに会話する時間は当分とれなさそうだし、今日こそは。
それに、これは私の勘でしかないけど、きっと今を逃したら私は一生後悔する。
そう確信し、意を決してノックしようと手を上げた瞬間、ガチャリと音を立てて目の前の扉が開いた。
「?!?!」
「お前、さっきから人の部屋の前に突っ立ってなにしてんの?」
心の中の小さな私が「ごめんなさーい!」と謝りながら逃げ出す。私も逃げ出したい、けどそういうわけにも行かない。
折角会えたのにここで逃げてしまったら、きっと後悔するから。決意を胸にアルを見上げれば、いつもと同じ気怠げでありながら昏く力強い眼差しとかち合う。
恐怖と緊張でバクバクする心臓の音がどうか彼に聞こえてませんようになんて都合のいい願いを込めながら震えそうになる身体を必死に叱咤して絞り出した声は自分が想像してた以上にか細くて頼りないものだった。
「ちょっと、今、お話しても良いでしょうか·················」
「いいけどなぜ敬語なんだ··················?」
明らかに訝しみながらも中に入れてくれるラフな格好をしたアルにほっとしながらも中に入れば物の少ないシンプルな部屋に通される。
「で、どうした?」
アルが自作した魔石製品のポットからお茶を淹れてくれ、焼き菓子を出してくれた、おいしい。
少しして落ち着いてからアルが『怪物』を庇ってからずっと抱えていた悩みを吐露する。
「アルは─────」
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いや、悪いけど俺そこまで考えてないよ? 前世、日本人の俺からすれば獣人やドワーフとレイやらウィーネやらの違いがあんまりないっていうか、ぶっちゃけどうでもいいわ。
というか、ほんとにいつまで同じ話してんだよ。俺としちゃ、そろそろまたリリルカ・アーデとついでに【ヘスティア・ファミリア】の連中鍛えに行きたいんだけど。
『私は、弱くて·············まだ、【ゼウス・ファミリア】や【ヘラ・ファミリア】の人たちほど強くなれてない』
『····························それでも、頑張るから私も一緒に戦わせて』
お、おう、別にいいけどどうした。クソジジイと高周波バ──お姉様どこから出てきやがった。
というか、フィンもお前もゼウスやらヘラやら言ってるけど二、三十年かそこらで千年間、孵化厳選とレベリングやってたゼウスとヘラを追い越せる方が怖ぇよ。
ベル? ベルは···········まあ、過去の数世紀より主人公の一年のが強いのは当然だろ。
アイツ会う度に1.2倍ぐらい強くなってるし、あと3ヶ月ぐらいで俺超えるんじゃないかな。
『『黒竜』を討つのは、みんなの願いだから。アルだけに背負わせたくない』
黒竜を討つ? え、そんな話、俺したっけ?
よく覚えてねえけど俺の言ってることいちいち真に受けてたら身が持たねーぞ。
『私は、アルに置いて行かれたくない』
置いてくも何もそもそも同じ方向に向かって歩いてるわけではないし············。
『どう、すればいいのかな』
わかるか、んなもん。タケミカヅチやらハトホルやら真面目っぽい神捕まえて聞いた方が俺に人生相談するよりよっぽどためになるぞ。
そんなウジウジ悩まれてもなあ、そういうのは求めてないんよ。俺が見たいのはもっと劇的な曇もりであってそんなぱっとしない感じで悩まれても困るわ。
こないだベルに言ったことをなんかそれっぽくちょっと変えて言っておかえりいただくか。
『俺に置いて行かれたくない、か。······················考えを正そう、アイズ・ヴァレンシュタイン』
『今、お前が怒りを向けるべきは自分ではなく俺だ』
『何で自分は追いつけない、と悲嘆するのではなく自分の前を走ってるんじゃねぇ目障りだから消えろ、と激せ』
『俺ならそう考えるし、そうしてきた』
『俺に追いつくなんざ端から考えるな、俺も自分がこれから踏破していく通過点の一つだと捉えろ』
『そして、俺からお前にやれる答えはない。人から齎された答えなんざ、たかが知れてる』
『相手が神だろうが精霊だろうが俺だろうが他人に考えを委ねるな。何が正しいかなんかを求めて他人の指図でこれからの道を決めるくらいならそんな良識、ドブに捨ててしまえ』
『自分で『答え』を出せるまで悩み続けろ、どうするかはお前が見定めてお前が決めろ』
『お前が悩んだ末に出した答えなら俺はそれを尊重しよう』
『···············最後に一つだけ聞いてもいい?』
あんだよ。
『アルにとって、『英雄』ってなに?』
『·············誰もが伸ばすまでもなく諦める届かぬはずの星空に手を伸ばして星を掴む者』
無駄に変な言い方してるけどつまりはベルだよ。
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意訳「知るか、自分で考えろ」
アイズ視点は次、アルのメンタルブレイクはもうちょっと後。
【黒竜剣バルムンク】
大剣。専用武器。椿・コルブランド作。素材はゼウスがヘルメス経由で渡してきた『隻眼の黒竜』の鱗でアルの精霊誘引体質の影響から作成過程に精霊の加護がかかりまくっている。鞘から抜くだけで弱いモンスターを怯ませる副次効果と竜種及び黒のモンスターに対して特効を持つ。
元はオッタルの覇黒の剣より安かったが原作のとある武器がクソ高かったため値上げした。
まぁ、趣味が(遺産行きの)貯金でそのためにウラノスからの極秘任務とか積極的に受けてるやつだから払える払える。
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