皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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一回ペース落とすと全然かけなくなるのわかってるから頑張る

溜め回です。


156話 次回「白髪馬鹿死す」デュエルスタンバイ!

 

 

「義兄様、深層ってどんなところなんですか?」

 

「·········んー、ダンジョンがそろそろ本気出してくる場所ってとこだな」

 

 ダンジョン上層の未開拓領域。

 

現代の冒険者たちは人類の未到達階層である72階層以降ならいざ知らず、それ以前の階層の探索には先達たちが書き遺した地図や情報による事前知識を持った上で挑むことができている。

 

だが、広大にして遠大にすぎるダンジョンの構造のすべてを把握しているわけではなく、未だ誰も踏み入ったことのない場所も数多い。

 

古代の時代より今の今まで誰一人として見つけることのできなかった未到達の領域も存在しており、冒険者達の間ではそういった未知の場所のことを『未開拓領域』と呼ぶ。

 

ダンジョンに点在するそんな領域の一つ、だいぶ前にアルによって発掘され、秘密裏に開拓されたルームにアルとリリルカはいた。

 

ダンジョンのなかとは思えない瀟洒な家具や調度品が並ぶリビング、その一角にあるテーブルの上にリリルカが広げたのは少し年季の入った装丁の紙の束であった。

 

それはアルがこの四年間で開拓し、【ロキ・ファミリア】やギルドにも報告していない各層域の未開拓領域やレアモンスターの出現傾向、鉱石や薬草などダンジョンでの資源分布が事細かに記された資料の束だ。

 

未知の探索に於いてはこれ以上ない力になる【幸運】と【直感】の発展アビリティに世界からの支援ともいえる特上の精霊誘引体質、そしてなによりその頭抜けた強さから重ねられた無茶による経験と実績によって積み重ねられたデータ。

 

流石に60階層以降の層域のものはないらしいし、そもそもが不要とリリルカが見せられたのは40階層までのもので千年間の歴史の積み重ねであるギルドの資料に比べれば当然薄くかなり偏った主観的なものだ。

 

しかしそれでも探索系ファミリアなら喉から手が出るほど欲しがるであろう資料の数々に、リリルカは浅く嘆息する。

 

ギルドの資料にはないレアモンスターの魔石の位置と解体の仕方、普通に探索していては行くことのない岐路の先にある鉱石や薬草の分布に採掘ポイント。

 

まぁ、アンフィス・バエナにブレス吐かせる前に一撃でリスキルするのに丁度いい立ち位置とかホワイトパレスの閾値とか広域殲滅魔法の試し撃ちポイントとか全くもって役に立たない情報も交ざってはいるが。

 

潜れるファミリアの限られた一部の階層に限っていえば下手をすればギルドの資料以上の情報量だろうそれにリリルカは呆れと感心を覚えつつ、改めて自分がとんでもない男の懐に入り込んだことを自覚する。

 

最新の地図を元にして書き起こされたアルの手書きの文字も併せれば、未開拓領域の資源活用だけでも一財産を築くことができるだろう。

 

その価値を本当に分かっているのだろうかと、リリルカは目の前で平然と紅茶を傾ける青年を見るが、彼は気にした素振りもなく焼き菓子を摘まんでいる。

 

てか、ダンジョンで優雅にティータイムするんじゃねーよ。

 

アルも全ての知識を渡すのは逆にリリルカのファミリアのブレーンとしての成長を妨げると意図して情報を絞っているがそれでも今後の中層後半、下層の探索においては知っておいて損のない情報だ。

 

そんな情報の中には深層の情報も少し交ざっている。【ヘスティア・ファミリア】からすればまだまだ先になるだろう情報。

 

タイマンになってしばらく活かさず殺さず遊んでいると剣を持って必殺技撃ってくる推奨Lv.6の階層主とか第二級相当のモンスターが無限湧きする闘技場とか地獄みたいな情報だ。

 

それを見て軽い気持ちでアルに尋ねてみた。

 

リリルカからすれば完全に未知な層域のことを聞いてみたくなってしまったというそれだけの問い。

 

51階層?そんなモンは知らねーな。

 

「ダンジョンが本気···········?」

 

「『ダンジョンは生きている』········18階層の一件がいい例だがダンジョンは時として明確に冒険者を殺しに来る」

 

 18階層の一件と聞いて血の気が引くような感覚がリリルカの全身に走った。【タケミカヅチ・ファミリア】からの怪物進呈から始まったあの地獄のような戦いはまだ記憶に新しい。

 

推定Lv.7以上の漆黒の異端児によって冒険者たちの戦力が限界まで削られたタイミングを狙ったかのように連続して出現した漆黒のゴライアスとその後に出てきた怪獣の骨のようなモンスター。

 

あれは確かに何か故意的なものを感じてしまうほどの完璧なタイミングでの畳み掛けだった。

  

二大派閥の第一級冒険者二人と眼前の義兄様がいなければ【ヘスティア・ファミリア】は軽く十回は死んでいただろう。

 

「あそこまで極端なことはそうそう起きないが深層はああいった事の頻度が多い」

 

 それが本当だとすれば絶対に深層には行きたくない。命が何十個あっても足りない。

 

「というか俺が単独で潜ると五回に一回は起きる」

 

 ダンジョンが生きていて意思を持っているのならばこの義兄様の事は絶対に嫌うだろう。自分がダンジョンなら絶対に潜ってきて欲しくない。

 

「···········それは深層どうこうというよりも義兄様がダンジョンに嫌われているだけでは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、ベルさん、もしかしてお暇ってことですか?」

 

 リリルカは加減というものをどこかに放り投げた生物学上の兄に連れられて一緒にダンジョンへ。

 

命は千草達と一緒に武神タケミカヅチのもとで鍛錬。春姫はアイシャ監督のもと新しく習得した魔法の修練。ヴェルフは工房にこもって新しい武具の作製に勤しんでいる。

 

団長であるベルだけ、何もやる事がない。

 

いや、ないわけではない。ダンジョンに潜ってモンスターを狩ることはできる。けれどもここ最近連日の死闘に次ぐ死闘にヘスティアからダンジョンに潜らずに何日か休むように厳命されていた。

 

ベルとしては体を動かさないのは落ち着かないのだが、最近心配をかけていたヘスティアにこれ以上心労を負わせるわけにもいかないとダンジョンに潜るのは自重している。

 

だから今日は一日、暇を持て余していた。そこでここ最近行ってなかったからと久しぶりに【豊穣の女主人】に顔を出してみた。

 

入店したベルにいつも通りの明るい笑顔を向けて話しかけてきたシルと久しぶりにしゃべっているとシルがベルにこんなことを言ってきた。

 

「暇、ってわけじゃないですけど確かに今すぐやるべき事ってのもないです」

 

「そうですか!!」

 

 にっこー、と満面の笑みを浮かべるシルにあれなんか迂闊なこと言ったかなとベルは頬をかく。

 

「不躾なお願いなんですけど·······お祭りが近いこともあってしばらく人手不足でしてお店の方ちょっと手伝ってもらうわけにはいきませんか?」

 

 申し訳無さそうにベルにそんなお願いをしてくるシル。あざとい上目遣いに一瞬鼓動を跳ねさせたベルだったが、いやいやと頭を振る。

 

「そうは言っても僕、お店で働いたことなんてないですよ」

 

「大丈夫ですよ、ちょっとお客様とお話ししたり、料理運ぶの手伝ってもらえればいいんです。分からないことがあったら私が教えますし、それにベルさんは冒険者様に人気ですからぴったりだと思うんです!!」

 

「うーん、でもなぁ」

 

 息抜きにもなるかも知れませんよ、とシルがベルに畳み掛けるように説得してくる。確かに息抜きにちょうどいいかもしれないが、しかしそれでもシル達の働く店は女性陣だらけの酒場。そんなところで働いてしまっては場違い感が半端ない。

 

「もちろんただでなんて言いません!もし引き受けてくれるならお礼も弾みますよ!!」

 

「い、いや、でも」

 

 ──────なんて、やりとりがあってベルがシルの口先に丸め込まれないはずもなく、シルがミアに話を通すとあれよあれよという間にベルは昔、アル用に用意されたギャルソンエプロンを着せられて接客をやらされることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキのおかげもあって『異端児』関連のことでフィン達首脳陣と一般団員たちの間に生まれた僅かなわだかまりが解消されてようやく次に向けて腰を据えて取り組めると団結に向かっていく中、ロイマンからダンジョン内で十名以上の上級冒険者が死なずに行方不明となった緊急事態に対する調査を願う手紙が届いてきたというわけである。

 

黄昏の館の執務室でギルドから渡された資料を読んでいたフィン達は、その資料に記されている被害状況を改めて見返す。

 

オラリオが誇る上級冒険者から十名以上の行方不明、そしてその中にはファミリアランクB以上のファミリア団員も含まれてもいる。

 

危険と未知に満ちているダンジョンを探索する冒険者にはよくある行方不明者ではあるがだからこそ今の十名以上という目算自体間違っていて実際の被害はその数を大幅に上回る可能性も十分にあり得る。

 

「まあ、事態が事態だ。クエストというよりはミッションに近い。ロイマンもこっちの事情はわかっているから急かさないが·········僕はどうにもこの事件が『闇派閥』と無関係とは思えない」

 

 個人的な予想でしかないが、この事件の裏で糸を引いているのはかなりの確率で闇派閥であると。

 

ダンジョンと地上をつなぐクノッソスの存在や都市の闇で策謀する怪人の存在を知る今となっては上級冒険者の行方不明というのも闇派閥が事件に関わっていると見てしまうのも仕方のないことだろう。

 

決め込むのもそれはそれで危険であるが、そうでなかったとしてもそれを前提に調査はしておいた方がよい。

 

だからクノッソス攻略の下準備と並行してこの事件の調査も行おうとフィンは語る。

 

その視線の先にはギルドからの資料の他にもクノッソス侵攻の下準備の作戦書が広げられており、そこには様々な様式の地図も広げられている。

 

先日のフィンとアルからの『異端児』と【ロキ・ファミリア】の同盟についての話を聞いてなお、ファミリアからの脱退者はゼロ。

 

皆、個々に思うところはあれど毒を飲み、オラリオの闇に巣食う闇派閥との闘争に身を委ねる覚悟はできている。

 

「先日の奇襲でラクタが一部とはいえ人造迷宮内の地図を作成できたのは大きい。お陰で最奥への侵攻ルートがだいぶ絞られてきた」

 

「とはいえ、それだけでは足らんやろ」

 

「ああ、だからこそ今回の作戦は二段階に分ける必要がある」

 

 第一進攻では可能な限りの協力できるファミリアに声をかけて人海戦術で人造迷宮の構造を割り出し、マッピングする。

 

そして第二進攻ではそのマッピングした地図をもとに本命の戦力で人造迷宮の最奥にいるであろう闇派閥残党の幹部と『精霊の分身』を討つ。

 

「よって、できるだけ『ギルド』を介して戦力を募る。正直、僕の予想が正しければ第二進攻組は少数精鋭の方が良いかもしれないけどね」

 

「事情を知った上で、協力してくれるのはファイたんとことガネーシャ、へルメスんとこやなぁ。ディアンケヒトとカーリーんとこはアルいるし、あっちからくるやろ」

 

 Lv.5の第一級冒険者を抱える 【ヘファイストス・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】はもちろんのこと、『万能者』をはじめとしたかゆいところに手の届くファミリア構成をしている【ヘルメス・ファミリア】は協力を取り付けない選択肢はない。

 

こちらの指示に従うか微妙な【カーリー・ファミリア】もLv.6の両団長と第二級冒険者相当のアマゾネス達の戦力は喉から手が出るほど欲しい。

 

かの呪詛にアルを除いて唯一対抗可能なアミッドを擁する【ディアンケヒト・ファミリア】の協力は言うまでもなく必要不可欠だ。

 

「【フレイヤ・ファミリア】は期待するだけ無駄か」

 

「んー、どうかな。どうやらアルが神フレイヤとちょっと交渉しているみたいだからうまくいけば、ってところかな」

 

「アルが? 神フレイヤと?」

 

「ああ。どうやら神フレイヤの趣向に合う『娯楽』を餌にして神フレイヤの興味を引けたみたいでね。うまくいけば協力してくれるかもしれないってさ」

 

 フィンの言葉にリヴェリアが驚きに目を見開いた。あのアルが神フレイヤと直接交渉をしてまでも戦力を借り出そうとしているとは、と。

 

七年前以来の総力戦、そんな言葉が脳裏に浮かんだのはリヴェリアだけではないだろう。

 

そんなこんなで侃侃諤諤の議論と作戦立案が一旦の落ち着きをみせた頃、リヴェリアが最大とも言える懸念事項を口に出す。

 

「例の仮面の怪人は、どうする?」

 

 仮面の怪人エインである。

 

推定レベルは冒険者で言うところのLv.9以上。その強さはかつての最強派閥【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の両団長、『英傑』と『女帝』に匹敵、或いは上回るとフィンは見ており、それは間違っていないだろう。

 

赤髪の怪人レヴィスの魔石を食らう前でありながら対怪物種においては───不条理の塊である化け物を除いて───【ロキ・ファミリア】最強であるアイズを、【復讐姫】のスキルも物ともせずに一方的に叩きのめしている。

 

レヴィスの魔石を食らった後はLv.6の幹部陣では相手にもならず、アル以外の者たちは歯牙にもかけられなかったまさに『最強の怪物』。

 

究極の個であり、あれと相対して戦いを演じることができるのはアル以外にはオッタルぐらいのものだろう。 

 

人造迷宮のマッピングを主たる目的とする第一侵攻ではその滞在時間もかなりのものになると思われ、その間にかの怪人と接敵した隊は間違いなく全滅する。

 

仮にアルが真っ先に相対したとしてもあの怪人をアルが仕留めきれるかは、はっきり言って未知数だ。

 

アミッドの支援を受けた上でオッタルあたりと共闘すればあるいは、といったところか。

 

だがどちらの侵攻においてもそんなに戦力を固めるわけには当然いかない。

 

「··················犠牲を覚悟の上で、作戦を完遂するつもりか?」

 

「切り捨てるつもりはない。失うことを前提にした作戦展開はなしだ。あの怪人に········あの魔窟にくれてやる犠牲はない」

 

 リヴェリアの静かな問に凛然と答えるフィン。犠牲を許容しない、そんな甘っちょろいことを言うつもりはないが、それでも切り捨てることはしない。

 

それがどれだけ困難なことかはわかっている。何も切り捨てることなく一を手にすることは一を切り捨てて十を手にするよりも難しい。

 

それでも、とフィンは覚悟を瞳に宿して言う。

 

「アルに倣うわけじゃないけど、犠牲を前提にした勝利なんて僕はごめん被る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルと言えばだが、どうやらアイズと一悶着あったらしいね」

 

「一悶着というよりはアイズたんがアルと話してやる気いっぱいになって最近との温度差に周りのレフィーヤたちがビビってるだけやけどな」

 

「······················私も、そろそろアルと話さなくてはな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『··················アル』

 

『ん?なんだリヴェリア』

 

『少し話をしたい。今、いいだろうか』

 

 またかよ。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

お願い、死なないで白髪馬鹿!

 

あんたが今ここで倒れたら、エレボスやエニュオとの約束はどうなっちゃうの?

 

曇らせチャンスはまだ残ってる。ここを耐えれば、アミッドに勝てるんだから!

 

次回「白髪馬鹿死す」デュエルスタンバイ!

 

まぁ、(精神的に)死ぬのは次々回かもしれない。

 

 

 

 








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