皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
ちょっと短いよ
アイズがそうであったように私もアルと向き合う事を避けていた。
アルと『静寂』のアルフィアの関係を知ってしまってから私を苛んでいたのは罪悪感や後悔、あるいは無力感と言い換えても良い昏い感情だった。
アルの過去を、その傷を知る事で私はアルにどう接して良いのかが解らなくなった。
それは、私の弱さだ。
これまでアルの強くならんとする目的が分からず、明確な理由があるアイズとはまた違った意味で危ういと思っていた。
我が身を省みることなくひたすらに剣を振るい続け、自らの限界を見極めてその寸前に常に身を置こうとする在り方は、まるで死に場所を探しているようだと。
無駄を切り詰めて己を苛め抜き、限界を超えるような過酷な訓練、貪欲なまでの知識の吸収。モンスターの弱点部位からドロップアイテム、階層ごとの出現モンスターの特長。魔石の効率的な回収方法、武器や防具の手入れ方法、ポーション等のアイテムの適切な使用法。
そのどれもが冒険者としては当然の事であり、しかしアルはそれを徹底していた。
普通の冒険者が一ヶ月かけて学び、体験して身に着けるであろう事を一日で自らに刻み込まんとするその在り様は、まるで何かに追い立てられているかのように私には見えた。
他を圧倒する才能に常軌を逸した不断の努力。他者とは生きる時間の密度が違いすぎる、近く自らに降りかかる死を前提にしているかのような在り方。
私はそんなアルの在り方を危ういと思っていたのだ。
だが、それは違った。
アルは死に急いでいるわけでも、死に場所を探していたわけではなかった。
死と隣り合わせの生き方をする中で、自らに降りかかる死よりも尚恐ろしいものに立ち向かう為の覚悟を固めていただけだった。
アルは、生き急いでいるわけでも死に場所を探していたのではなく、世界そのものの死を覆すための活路を常に探し続けていたのだ。
そして、それは今この瞬間にも続いている。
常軌を逸した探求の果てに辿り着いた頂も、まるでこの世の摂理から外れているかの如き力も、あくまでアルにとっては通過点に過ぎないのだ。
アルのあの苛烈なまでの在り様。まるで身を削るかのようにモンスターを狩り続けたあの戦いの日々も、全てはこの世の存続と黒き終焉の打破という大願を果たすためのもの。
あの苛烈にすぎる渇望は、挺身は、全てはただ一つの『悲願』のため。
四半世紀も生きてない少年が背負うにはあまりにも重すぎる宿業。
この世の存続を願うが故に、自らに死が降りかかる事すら厭わずに歩み続けるその在り方。
それは確かに『英雄』と呼べるものかもしれない。
私はそんなアルにどう接していいのかが解らなくなった。
だが、その迷いも今日で終わりだ。
アイズに語ったように私はアルとちゃんと話さなくてはいけない。
私はそう決意してアルの部屋のドアを叩いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「··················アル」
「ん?なんだリヴェリア」
珍しくダンジョンにも潜らず自室で本を読んでいたアルに私は声をかけた。アルは読んでいた本を閉じ、私の呼びかけに答える。
私は意を決して話し始める。
··········だが、やはり少し気後れしてしまったのか、言葉が上手く出てこない。らしくないとは思いながら、私はなんとか話を続ける。
「少し話をしたい。今、いいだろうか」
「ん、構わない。なんだ?」
アルはそう言って椅子を勧めてくれる。私はそれに座りながら、どうにか話を切り出す。
「お前は私たちを憎んでいるかもしれない」
「·············」
「だが、それでも敢えて頼む。お前からすれば頼りないかもしれない、だが私たちを···········頼って欲しい」
口に出しながらそれは難しい事だろうとも思う。
アルは強い、強くなってしまった。それは力だけでなく精神面もそうだ。なににも寄りかからずに一人で立ててしまうが故の孤高。
アルは孤高で在り続ける事を望んでいる節がある。誰かに縋ることを良しとしない性格だというのは解っている。だが、それでも私はアルに寄り添いたい。
そうしなければきっと、アルはいずれ······いや、もう既に······· だからこそ私は願う。アルを一人にはしたくないと。
アルは私たちを憎んでいるかもしれない。当然だ、肉親を殺されているのだから。
七年前の戦いに無論、後悔はない。あの時に喪われた命を考えればあの勝利に罪悪感なぞ持って良いはずはない。
大義、なんてものではないがあれが巨悪であったことも、こちらが秩序だったことも否定しない。
だが、理論と感情は違う。
アルはより大きな目的の為にそれを呑むことができてしまうが故に、私たちを憎んでいてもなお歩みを止めるはない。
全てを背負うと決めたが故に立ち止まることなど許されず、自らに課した責任と誓いを果たそうとするあまり自らを苛む在り方を変えられないままだ。
それは、あまりにも悲しい。
アルの歩む道は決して平坦ではないだろう。それはきっと常人であれば心が砕けるような苦難だ。
誰よりも速く走ることができてしまうが故に誰も隣を走れず、共に歩もうとしてくれる者もおらず、その背に負った荷を分かち合う者もいない。
それはきっと孤独な旅路だ。だが、それでもアルは歩みを止めないだろうからせめてその傍らに寄り添いたい。
それがエゴである事は分かっているし、アルはそんなものを望まないかもしれない。
しかし私はそれでもそうありたい。
アルはそんな私の言葉を黙って聞いていた。そして、しばしの沈黙の後口を開いた。
「·················アイズといい、お前といい、そういうの流行ってるのか?」
呆れを多分に含んだその言葉に私は思わずぽかんとしてしまう。肘をつきながらこちらに目を向けるアルに私は言葉を失う。
「嫌うだの憎むだの、なにを勘違いしてるか知らねぇけど別にお前らの事は嫌っちゃいないし、憎んでもいねぇよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『嫌うだの憎むだの、なにを勘違いしてるか知らねぇけど別にお前らの事は嫌っちゃいないし、憎んでもいねぇよ』
なんというか、フィンとか『勇者』とか中年ショタとかのせいでもうそういうフェーズじゃねえのよ。
『異端児』関連の曇らせはあいつが【ロキ・ファミリア】の方針決めちゃった時点でもう無理無理。俺やアイズが暴れてもどうにもならん。
団員共がやる気出してる時のフィンの言葉聞いた時点であとはもう出来レースみたいなもんだし、覆らんわ。
あいつにもう少しカリスマと器なければ色々もうちょっとやりやすくなるんだけどなぁ。
つーか、アイズといい、お前といい俺がお前らのこと嫌いだの憎んでるだのうじうじ言ってんだ?
『異端児』と手を組んだのって別にお前らとそんなに関係ねえだろ。
『················っ、アルフィアの事を気にしていないとでも言うのか?』
またアルフィアかよ。
伯母さん、別に今回のことには全然関係ねえだろ。
てか、気にしてないってなんだ、人生で一回しか会ったことない身内について何を気にすればいいんだよ。
『お前はっ、またそうやって、私達の前でも···········教会の時と同じように『英雄』であり続けようとするのか』
最近、英雄と黒竜、ゼウス&ヘラの三単語出過ぎじゃない?
なに?なんなん、最近のブームなん? てか、別に俺最近、英雄英雄言われるけどダンジョン潜るかアミッドのとこに遊びに行くくらいしかしてねえぞ。
こないだアイズが盗み聞きしてた路地裏での話の時もなんか、俺とアルフィアの関係聞いてきたけど言うほどそんなに···············。
·············ん?
·····················教会の時と同じ?
·························んん?
·······························ぁ
あれ、もしかしてだけど俺、またやっちまったのか?
─────────もしかしなくても、アルフィアとの肉親関係と黒竜の組み合わせってとんでもない曇らせチャンスだったりしたのか?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「················っ、アルフィアの事を気にしていないとでも言うのか?」
言ってしまった、感情のまま口から出てきてしまったその言葉はアルの傷口を抉るようなものだというのに。
アルはその言葉を聞いても少し意外そうに目を見開くだけでその超然した態度を崩さない。
「お前はっ、またそうやって、私達の前でも···········教会の時と同じように『英雄』であり続けようとするのか」
無辜の多数に求められる『英雄』である為に自らを磨り減らす、そんなある意味でフィンとは正反対な在り方。
その他大勢を、選ばれなかったものを率いて英雄にまで引き上げる『船頭の英雄』としての在り方を世界に求められ、それに応える為にアルは自らの個としての自儘を排した。
まるでそこに一切の疑問を差し挟む事無く、それが英雄の有り様であるとでも言わんばかりに。
正しくはあるのかもしれない、だがアルの在り方を肯定してしまえば、それはきっとアルという人間を殺してしまう。
私はそれが怖かった。だから思わず口走ってしまったが········しかし、そんな私の言葉に返ってきたのは極冷の覇気を孕んだ重圧だった。
「──────────ッ」
表情は変わらない、だがその身から滲み出る圧倒的なまでの鬼気に曲がりなりにもLv.6である私ですら恐怖に近い感情に縛り付けられる。
ヒューマンとしては長身でも冒険者としてそこまで並外れたわけでもなく、大型級モンスターに比べれば当然のように小さいアルの身体が膨れ上がるかのような錯覚。
かつての『覇者』たちが放っていたものと何ら遜色ない、肌を焼くような鬼気と剣気の奔流に私は思わず身震いする。
寒い、凍てつくように、氷のように。アルは微動だにせず座ったままだというのにまるで極寒の吹雪の中に放り込まれたかのようだ。
呼吸すらままならないような絶対的存在感と圧迫感を前に思考すらも封じられそうになる。
『英雄のオーラ』。アルから横溢するその鬼気はまさにそれだった。
だが、それは決して輝かしいものではない。むしろその逆、昏く澱んだような底無し沼のような闇を孕むモノ。
まるで全てを吞み込む虚無の穴のように、あるいは全てを凍てつかせて停止させてしまう氷河のように。
ただそこにあるだけで人々の魂を凍えさせる圧倒的な魂の質量。
私の苦慮や困惑に満ちていた心が凍りつかされる。私の罪悪感や躊躇いなどうでもいいと言わんばかりに粉々に砕かれる。
ほんの一瞬の感情の発露、それだけで私は本能的に理解させられた。
「(アル、お前はここまで················)」
そして、その鬼気が唐突に夢だったかのように霧散する。
まるで最初からそんなものは無かったかのように消え失せる重圧だが、荒い私の息と早鐘のように鳴る心臓の鼓動がそれが決して夢などではない事を示していた。
アルはそんな私の様子を見て、少しバツの悪そうな表情を浮かべた後口を開く。
「─────、─────気を使わせたな、悪かった」
絞り出すかのような、しかしどこか申し訳なさそうな響きの声。それは私の知るいつものアルの声だ。
だが、脆い。大きな過ちを、取り返しのつかない何かをしでかしたかのようなその儚い響きに私は胸が締め付けられる。
硬く、深くに封じ込めていたその想いを不躾に暴いて、あまつさえそれを無遠慮に踏み躙ってしまった。
先程まで感じていた鬼気などまるで無かったかのように、今のアルは『英雄』なんて言葉とはほど遠い、年相応の少年のように見える。
そんな事を考えさせるほどに、今目の前にいるアルの姿は脆く見えた。
「·············俺がお前たちを憎んでいるんじゃないかというのはそういうことか」
「確かに思うところがないと言えば嘘になる」
「だが、気にしなくていい。巨悪を以って億の犠牲の中から次の『一』を見い出そうとしたアルフィア達の覚悟を否定しないが少なくとも擁護をするつもりはない」
「『悪』が『正義』に討たれた、それを恨むのは巨悪たらんとしたあいつらへの侮辱にしかならんだろうよ」
「···········『英雄』の終わりはそんなもんだろう」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ─────!!
くそっ、クソがぁ!!
何やってんだ俺はっ、せっかくのっ、くそっ·········。
ってことはよ、アイズの進路相談もつまりはそういうことだったわけだよなぁ?!
─────曇ってるやつに激励してどうすんだよ!?
馬鹿野郎ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお─────ッ!!
あー、もう、知らねー。
フィルヴィスに癒されに行こ。
見つからなかったらアミッドのとこに遊びに行くかアレンにだる絡みしよ。
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バカ「あっ、これもうピーク過ぎてるわ」
バカ「くそっ、少しでも禍根を残さないと!!」
→「確かに思うところがないと言えば嘘になる」
バカ「それっぽいこと言っとこ」
→太陽属性の英雄オーラ発動
バカ「あっ、やべえやっちまった」
→吹雪属性の英雄オーラ発動
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