皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
『相手が神だろうが精霊だろうが俺だろうが他人に考えを委ねるな』
『自分で『答え』を出せるまで悩み続けろ、どうするかはお前が見定めてお前が決めろ』
『お前が悩んだ末に出した答えなら俺はそれを尊重しよう』
まだ、明確な答えはでない。未だ悩みと葛藤の中に自分はいる。だが、もう、俯くことはしたくない。
私は前を向く、アルがそうしているように。アルの『熱』が私の心にわだかまっていたものを燃やし尽くしてくれた。
冷たく燻っていたものが無くなり、視界と思考がクリアになっていったのを感じる。アルは迷わない、これと決めた道をまっすぐに進んでいる。
なら、私もアルのように自分の道を迷わずに進んでいきたい。どんな答えが出るかはわからないけれど、それでもその一歩を自分で踏み出すことができるならきっとそれが正しい道なんだろうから。
迷いが晴れていくにつれて強くなるのは今までにないほど燃え滾る闘志。
未だ定まらない覚悟に対してか、それともアルに対する僅かな対抗心のようなものなのか、あるいはそのどちらともなのかは定かではないけど私は確かに燃えていた。
胸の奥にある燻っていたものが消えて、代わりに今ここにある確かな熱を持って自分が何をしたいかをはっきりと自覚する。
「(私も頑張って強くならなくちゃ)」
ホームを出て向かうのはダンジョンではなく、ホームとは対極の南の『戦場』。
もう一人の『最強』のいる場所に。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アイズが新たな決意を胸にたどり着いたのは他を拒む城壁を思わせる巨大な門扉。
攻撃魔法をぶつけてもこゆるぎもしなそうなその威容は門でありながら何者も受け入れることはないと言っているかのような拒絶を感じさせ、【ロキ・ファミリア】の黄昏の館にも勝るとも劣らない巨大な館にはまさにふさわしい。
その門に堂々と掲げられたエンブレムは女神の横顔。
繁華街の中央にありながら下卑た喧騒とは無縁に思えるほど静かで、それでいて荘厳な空気を漂わせる。
門の前で立ち止まったアイズは、その館をしばし見上げた。
そして意を決したように一歩を踏み出し、門扉をノックでもするかのようにどんどん、と叩く。
「······················たのもーー!!」
ロキから道場破り───もとい、他人の家の扉を叩く時はこうするんやで、と教えられたとおりに天然が門扉を叩いているとズズッと重々しい音を立てて門がひとりでに開く。
他者を拒む無機質な扉が開いた先には純白の花びらが散る美しい庭園が広がっていた。手入れの行き届いた美しい花や木々は館と調和するように彩られ、白い石で組まれた噴水が女神像の台座から水を噴出していた。
門が開かれたことに驚いたように周囲を飛び交っていた小鳥たちは一斉にその羽ばたきを激しくする。
自身のホームとはまた違った雰囲気におお、と感銘を受ける
が、すぐにここに来た目的を思い出し最奥の館へ歩を向けようとしたところでアイズは包囲された。
刹那、場に張り詰める殺気と剣気にアイズは咄嗟に腰の剣に手を伸ばしかけるが、すぐにそれをやめる。
四方を囲み、油断なく多種多様な武器の鋒をこちらに向けてくる彼ら彼女らの所作はいずれも達人のそれであり、アイズをして油断ならないと思わせる。
「────単身で乗り込んで来るとは、あのイカれ野郎の真似事か?」
その中でも一際、存在感を放つ黒髪の猫人の青年がその鋭くも美しい顔を不快げに歪めながら銀槍の穂先を向けてくる。
Lv.6であるアイズに匹敵、あるいは凌駕するであろうその実力の丈を思わせる殺気の濃さは一つでもアイズが返答を間違えれば容赦なく襲いかかってくるであろうことがありありとうかがえた。
ベート以上の獰猛さと鬼気を放つその猫人の青年こそ、押しも押されぬ第一級冒険者、『女神の戦車』アレン・フローメル。
そう、ここは『戦いの野』、【
「(·············おかしい、ロキに教えれたとおりにちゃんとたのもーって言ったのに何で殺し合い一歩手前の雰囲気に??)」
『ヒトんち叩く時は『たのもー』っていうんやでー』
無論、このロキの言葉はアイズをからかう冗談である。
それでも、やったのが都市最強剣士候補筆頭であるアイズであればどこでやっても笑って許される冗談であった。
ここ、【
いやいや、流石の
────アイズは
「用件があるなら二秒以内に答えろ。自殺志願なら、そのまま口を閉ざして突っ立てろ」
混乱の極致にあるアイズの内心なぞ知ったことかと、欠片も容赦のない最終勧告を殺気と共にアレンが突きつける。
アレンだけではない、アイズを囲む第二級冒険者の団員達もいずれもが猛々しい殺気を放ち、アイズの返答次第では即座にその武器を振るうだろう。
敵対派閥の第一級冒険者がアポもなくやってきたのだから当然の反応である。
まあ、これは2年ほど前、当時Lv.5であったアルがフレイヤの
最大派閥のホームを雷と業火で火の海にするという悪童時代の『ナイト・オブ・ナイト』でもそうしないであろう暴挙。
最終的にはアルにゲロ甘いフレイヤが笑って許したことによって抗争には発展しなかったが、自分達の本拠地でいいように暴れられたその事件は【フレイヤ・ファミリア】にとって払拭できぬ屈辱であった。
きっちり二秒後。
「よし、死ね」
無表情を崩さずに内心慌てふためいている
剣も抜いていないアイズでは到底反応できない神速。無抵抗のアイズの胸を銀槍が貫く、その寸前。
「────何をやっているの?」
その場に満ちる殺気を霧散させる鈴の音のような声がアレンの背後から響いた。
屋敷から巌のような従者を侍らせながら現れた美の女神、フレイヤ。
男神達の寵愛と敬愛を一身に受けるその美貌は見る者を例外なく虜にするが、今はその貌に僅かな興味の色が浮かんでいる。
アレンは槍を引くと恭しく頭を垂れた。他の団員達もそれに倣う中、一人アイズだけはどうしていいかわからずに棒立ちする。
「何か騒がしいと思って来てみれば·············ふふっ、こんな珍しい客人が来たのなら納得ね」
「目汚しを晒し申し訳ありません、フレイヤ様。すぐに片付けます」
同性であり、醜美に疎いアイズですら気を抜けば見惚れて惚けてしまいかねないほど美。
他を圧倒するなんて言葉では生ぬるい、絶対的な美という概念の具現。ありとあらゆる知性ある者の理想と羨望を一身に背負い、それを優に超える美貌。
フレイヤは己を見上げる薄黄金色の双眸にくすりと笑みを零した。
「それで、何か用かしら? 『剣姫』」
「··················頼み事があって」
「貴方が頼み事? しかも、私達に? ふふっ、おかしい。一体それは何なのかしら?」
アイズの言葉に童女のような愛らしさを滲ませてフレイヤがころころと笑う。
アイズの視線の先にいるのはフレイヤの後ろに忠実な従者の如く控えている巌の男────都市最強の冒険者の片割れであり、世界最強の眷属ともいえる頂天、『猛者』オッタル。
黙して緋色の双眸を向けてくる猪人にペコリと頭を下げてアイズは本題を切り出す。
「私と、訓練をしてください」
都市最大派閥の主神とその主神に心酔する第一級冒険者の目の前で他派閥の幹部が自分を鍛えてくれと頼み込んだのだ、当然の反応である。
第二級冒険者の団員たちも例外なく愕然、または呆然といった表情を浮かべた。
「ふっ···········うふふふふふっ、あははははっ!!」
しかし、そんな団員達の反応とは真逆にフレイヤは堪えきれないとばかりに咲くような笑みを零す。
オッタルは微動だにせず、アレンは不快げに顔を歪めた。自身を刺すようなアレンの殺気を当然のものだと受け止めながらもその意思を曲げるつもりはないとアイズは真っ直ぐにフレイヤを見つめる。
厚顔無恥な願いだとは分かっているがアルの良識を捨てて好きにやれという教えを胸にアイズはここまで来た。
良識や道理に縛られたままでは『英雄』には届かない、より高みを目指すためには常識に捕らわれてはいけない。
アイズの最も身近な『英雄』がそうであるように。
「(私は強くならなくちゃいけない)」
原初の誓いに立ち返ったアイズの想いが伝わったのか、殺気立つ団員達の中でオッタルだけはアイズの願いに理解を示すかのように凪いだ瞳を向けていた。
「ふふ、いいわ。許しましょう」
「ッ、フレイヤ様」
笑声と共にフレイヤが頷く。オッタルは無言だが、アレンやその他の団員たちからは不満げな苛立ちの感情が溢れていた。
「剣姫? 確認するけれど、貴方の目的はクノッソスを攻略するためで合っている?」
「···············はい」
アレンたちの苛立ちを意に介さず、フレイヤは確認するようにアイズに問う。
【ロキ・ファミリア】にとって何をおいても攻略すべき魔窟の名がフレイヤの口から出たことに小さくない驚きがアイズに走った。
フレイヤはそんなアイズの反応を気にすることなく話を続ける。
「アルにも、協力をお願いされていてね。まぁ、その一環と考えれば構わないわ」
「オッタル、貴方もいいわね?」
「フレイヤ様がお許しになられるのなら···············一介の冒険者として引き受けるのも、やぶさかではない、そう思っております」
黙していたオッタルが厳かな口調で頷く。あっなんだかどうにかなりそう、とアイズが安堵しかけたのも束の間。
「でも、ただじゃあ、できないわ。アレン達の言い分はもっともだもの。だから、それなりの代償がないと」
「────契約よ、剣姫」
「けいやく··········?」
「そう、貴方にオッタルを貸してあげる。その代わり、貴方は私達に『借り』を一つ、負ってもらう」
警戒しなくても無茶な要求をするつもりはないわ、とフレイヤは微笑む。ファミリアの幹部としては頷くことのできない言葉ではあるがこれからしてもらうことを考えれば当然の要求であるとアイズは黙する。
「ファミリアじゃなくて··················私だけの『借り』にしてください····················」
沈黙の末、絞り出すかのようなその言葉にフレイヤは笑みを以って承諾の意を示した。
「··············『剣姫』、お前の申し出通り剣を交わしてやる。準備はできているな?」
「はい」
「それにしても···········よく、フィン達が許したな」
「えっ?」
「ん?」
「「·····················」」
─────────どうしよう、何も言ってない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「···············ここにはよう来るんか?」
「あぁ、この想いを忘れないように時間があるときには来るようにしている」
まだ、『異端児』と【ロキ・ファミリア】による戦闘の跡が色濃く残った迷宮街ダイダロス通りが存在する区画。
その区画の一角にある墓地、『第一墓地』。
冒険者墓地とも言われるダンジョンや派閥同士での抗争の中で命を落とした者達の埋葬地に二柱の神と二人の眷属が訪れていた。
片方は、ロキ。
もう片方は、対闇派閥残党において【ロキ・ファミリア】と同盟を組んでいる【ディオニュソス・ファミリア】の主神ディオニュソスだ。
そして、その二柱に連れ添うのは互いのファミリア最強の二人の眷属。『剣聖』アル・クラネルと『白巫女』フィルヴィス・シャリアだ。
「子供達に何を言っとったんや?」
「謝罪さ、それ以外にあるはずもない」
しゃがみ込むディオニュソスの目の前にあるのは彼の眷属であり、闇派閥残党の知ってはいけないことを知ってしまったばかりに口封じのために殺されてしまったと思われる数人の冒険者の墓石。
その墓石に花束を手向けたディオニュソスがロキの質問に答える。
闇派閥残党の手によって殺された眷属達の仇討ち、それがディオニュソスが【ロキ・ファミリア】に力を貸す理由である。
しかし、それだけでは納得のいかない点がロキにはある。
ディオニュソスは所々で間がよすぎる。
『万能者』の魔道具や事前の読みで事態を先回りするヘルメスとは全く違い、まるで事の裏側が見えているかのような、そんな違和感。
偶然、眷属の仇である闇派閥残党の使役する極彩色のモンスターの魔石を手にし。偶然、怪物祭で出現した食人化の出現ルートを探っていたロキとベートの前に現れ。偶然、ダイダロス通りでダンジョンの入口を探していた【ロキ・ファミリア】にピンポイントで自らの眷属を派遣する。
すでに識っている答えが、まるで予め用意されていたかのような、そんな違和感。
その違和感がどうしても拭いきれない。
だからこそ、ディオニュソスこそが正体不明の『
だが。
「────私は必ず眷属達の仇をとる。全てを仕組んだ神に報いを受けさせる」
頬を伝う涙。喪った眷属への嘘のない想いを吐露するディオニュソスのその横顔をロキは演技だとはとても思えない。
その涙に嘘はなく、その瞳には悲痛でありながらも真摯な光がある。下界の子供の嘘を見抜くことのできる神でも同じ神の嘘を見抜く事はできない。
それでも、天界きってのトリックスターであったロキを騙せる神なぞそうはいるものではない。
「ロキ、貴方の考えているように殆どがLv.1の私のファミリアは戦力不足だ。だが、その上で言おう───私達もクノッソス侵攻に協力させてくれ」
立ち上がり、こちらと目を合わせるディオニュソスの瞳の中にあるのは自らへの怒りにも似た感情と何より強い決意。
これから自分達がすべき事を、その手段を既に見据えている。
「信用がないのもわかっている」
ロキには、その瞳から嘘を感じ取ることがどうしてもできない。
「だが、これは怪人や精霊の分身を倒すだけの話ではない。全ての糸を引いている邪神、『
「下界の子に神は殺せない、神を下すにはこちらも神が出る必要がある」
その為には全知零能の身で前線に出る覚悟を持っていると言外に伝え、頭を下げるディオニュソス。
その言葉は正しい。
下界の子供達にとって神々を殺めることは最大の禁忌。理論ではなく、本能がそれを忌避してどんな人格破綻者でも神を殺す事だけはできない。
神を殺めることが出来るのは同じ神か、二柱の会話を黙して聞いている神殺しの魔法を発現させるようなイカれた精神性のロキ最強の眷属だけだ。
とは言え今更神殺しになんの躊躇も憂慮も持ってはいないだろうがアルに神殺しに手を汚させるのは最後の手段だ。
仕方のないことだったとしても下界の子供が神を殺せる、というのは神々からしても恐ろしい。
下手をすれば『異端児』絡みでの排斥以上の、神々からの敵意がアルを襲うかもしれない。
それを考えれば最低、タナトスと『
「全ての黒幕を暴き、討たなくては私の贖罪は果たされない」
「だから、頼む」
もし、この『誓い』が嘘なら逆立ちしても敵わない。騙されても仕方ない、とロキに思わせるほどの真摯な瞳。その真偽をロキには見抜けない。
「················わかったわ」
「『剣聖』········いや、アル。フィルヴィスやアウラ達を、私の子供達の事を頼む」
「············あぁ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「········いや、アル(キリッ)」じゃねぇよ。馴れ馴れしい呼び方すんな、メーテリアとアルフィアに謝れ。
酒くせぇし喋り方も一々クサイんだよ。
俺の前で俺より悪巧み巧くやりやがって、アル中が。
分かってんのか、俺の前で俺より巧いこと悪巧みするってことは俺への宣戦布告と同義だからな。
リーヴでユグドラれないだけありがたいと思えよ?
ここぞという時に俺がフィンにやられたみたいに根こそぎ折ってやるから覚悟しろよ。
『················クラネル、少しいいか?』
『なんだ、フィルヴィス。別に構わんが』
フィルヴィスーーーーーーー!!
まだ俺何もしてねぇのに曇らせエネルギー120%の顔をしてくれてありがとう!!
お前に会えなかったら【フレイヤ・ファミリア】にカチコミ入れてアーニャを出汁にアレンにだる絡みするところだったわ。
どしたん、話聞こか?
『····················なんで、なんでお前は平気なんだ?』
·············ごめん、なにが?
適当にそれっぽいこと言ったらなんかまた自分の首締めることになりそうだし、割とマジでちゃんと話聞いてやるから詳しく事情説明してくんない?
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敗北者「来いよ、
辛辣なのはディオニュソスが嫌いなわけじゃなくて自分以上にうまくやってる奴への八つ当たりです。
敗北者「良識?常識?いらないいらない」
アイズ「はえー」
フィン「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい」
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